アットウィキロゴ
 それは未熟な若人の視点から語られる物語。
 ただ一人、スコープから見続けた若者が語る物語。

 その始まりはやはり闘争からだった。



【Unrimited EndLine】

 AnotherRecord/MissingStart_1

   別れを告げろ、バイバイってな。





 空は晴れていた。
 太陽は昇り、風は爽やかな香りと共に舞い踊り、注がれる光は等しく万人を照らし出す。
 明るい、良い天気。
 爽やかな一日。
 けれど、世界は平和なんかじゃなかった。
 平和だったら――この鋼の銃口なんて必要ないんだから。

(ヘイ。ルーキー、そっちの様子はどうだ?)

 明るい声が脳裏に響く。
 何時もの同僚の念話。そして、その姿は覗き込む彼のスコープの中にも見えていた。

「真面目にやってくださいよ」

 彼はため息を付いて、無線で返事を返す。
 実力はあるけれど、遊び癖のある同僚。
 立場的には先輩に当たる同僚。何かと似た境遇のため気が合うのだが、仕事中に無駄口を叩く癖はどうにかして欲しかった。

(いや、本隊が乗り込むまで暇でな。暇潰しだ)

「切りますよ?」

(ジョークだ。こっちはポイントに着いた、伏兵の様子はないか?)

 少し真面目な口調で念話が帰ってくる。
 それに応じて、彼は狙撃銃――型のデバイスのスコープから目を外し、懐から出した光学式スコープで周囲を観察する。

「問題ないです。人の気配もなし、気付かれてませんよ」

(了解。じゃ、本隊にOKだと連絡してくれ)

「ラジャー」

 そう告げて、彼は胸の辺りに見に付けた機器のスイッチを押し、それが点灯されたのを確認してから、デバイスを持ち直す。
 肘の骨で銃身を支え、スコープを覗き込み、不自然な体勢で一時溶接。それは撃ち抜く為だけの姿勢。
 彼の目に見えるのは小さなスコープの中の世界。
 切り取られ、拡大された世界。
 そこに見えるのは灰色に塗色された壁、鋼鉄の扉、その横に立つ同僚。その両手に掲げられた二挺のデバイス。
 それらを構えながら、同僚は待っている。時間を。その時を。
 自分もまた埋没する、照準を手動で調整し、息を飲む。
 呼吸は邪魔だ。震動になるから。
 瞬きも邪魔だ。視界を閉ざすから。
 思考も邪魔だ。引き金を引く速度が落ちるから。

「」

 息を細く、細く、吸う。
 スコープを覗いていない片目から意識を外し、覗き込む目に全てを集中させる。
 片目は瞑らない。それだけ意識が阻害されるから。
 合図を待つ。

「!」

「――!!」

 無線から響く無数の声を無視し、狙撃に集中する。
 予定は変わらないのだ。
 聴く必要はない。
 ただスコープの片隅で笑う同僚を、開かれるであろう扉を見ればいい。
 待つ。
 待つ。
 待つ。

 そして、それは数秒も経たぬ時間経過。

 唐突に、そう突然。
 斬ッ、と“建物が切り裂かれた”。
 見えぬ建物の向こう側から鋭い轟音と紅の一線が建物を鋭くなぞったように思えて。

『突入っ!』

 無線から、“聞きなれた咆哮が聞こえた。”
 上がる悲鳴。
 上がる歓声。
 まったくもって逆ベクトルの声と声の大合唱。
 ビリビリとコンクリートで作り上げられた建物が響き揺れ――それでも彼は動かない。
 スコープの中の同僚が笑っているのを目撃しながらも、動かない。
 そして、そして、そろそろ出番かと思考の片隅でスイッチを入れて。

 彼は――呼吸を止めた。


 無音、無動になり、固まる。

 響く響く、動乱の音。
 騒ぐ騒ぐ、狂乱の響き。
 踊る踊る、騒乱の破砕。

 時は来た。

 彼はまるでスローモーションのように、加速された意識の中で見る。
 何の脈絡もなく、蹴り空けられた鋼鉄の扉。
 そして、そこから飛び出してくる無様な表情で逃げ出そうとする見知らぬ誰か。
 それを――撃つ。
 反射的に、そう反射的に、けれども幾度も繰り返した訓練通りに正確に彼は銃口の角度を合わせ、引き金を引いていた。
 純粋魔力弾。
 微細な衝撃を伴い、魔導師ならリンカーコアにダメージを、魔導師でなければ異物な魔力による侵食で電撃を浴びせられたかのように仰け反る弾丸。
 それが逃げ出す無様な男の胸に叩きつけられ、遥か後方の彼には聞こえないが、無線から僅かに聞こえる無様な悲鳴。
 一応魔導師だったのか、地面に転がり、醜い痙攣をしながら突然の状況に混乱したかのように、立ち上がろうとして。

『じゃなっ』

 無線から聞こえた同僚の声と共にその後頭部に、純粋魔力弾が叩き込まれる姿が見えた。
 それは言うなれば平手で思いっきり叩かれたかのような衝撃だったろう。男の顔面が硬い床に叩きつけられ、ビクビクと痙攣している。

『扉まで来た。迎撃する、援護ヨロシクッ!』

「ラジャー」

 無線からの同僚の声に、こちらも無線で返す。
 そして、同僚は踊るような手つきでデバイスを握り締め、内部から魔力弾が吹き荒れる扉の中へと突入していった。

 彼はそれを見つめ――響く轟音に、息を吐く。

「逃がさないって、難しいんだよな」

 壁を突き破り、檻を食い破らんとする者。
 それら目掛けて、彼は銃口を向け、スコープの世界に取り込んだ。




 吹き荒れる魔力弾。
 それらは突入した侵入者を狙ったものでもあるし、或いは単なる流れ弾でもあった。

「危ねえなっ」

 眼前を通り過ぎた魔力弾。焦げ付く大気の香り。物理影響を持った魔力弾による発熱。
 それらに二つのデバイスを握り、武装隊のバリアジャケットを纏った赤毛の青年は不敵な笑みを浮かべ、疾走する。
 奥へ、奥へと走る青年。

「こっちからも敵だ!」

「撃て、撃て、撃てぇえええええ!!」

 そんな彼の姿を捉えた者の咆哮が響き渡った。
 そして、扉から繋がる廊下の奥、そこに杖型のデバイスを一列に構えた魔導師の姿。
 砲撃魔導師はいないらしく、単純な誘導弾であり、直進弾。
 それらを障壁である程度はいなすのは容易いが、防ぎ切るほど強固な障壁は彼は張れない。
 故に。

「ニッ」

 彼は笑って――“直進する”。
 むしろ力強く床を踏み締めて、姿勢を低く、“音も無く床を蹴り飛ばした”。
 砲弾のように飛び込む青年、

「正気か?!」

 その光景に、うろたえる声。

「殺せぇえええ!」

 そして、降り注ぐ無数の魔力弾。
 それぞれ異なる魔力光の奔流はプリズムのように美しく、同時に無作為なマーブル模様となって視界を毒々しく汚す。
 毒々しい光は牙を向き、床を、壁を、大気を食い散らかしながら、その凶暴な牙を走りこむ青年へと突きたてようとして――

 “すり抜けた”

 魔力の奔流が、青年の体を“通過”する。
 まるで霧でも貫いたかのように。


「なっ!」

 驚愕の表情。
 一瞬手が止まり、事態を理解しようと魔導師たちの思考が目まぐるしく動き出し――数瞬の空白が生まれた。

「はい、ご苦労」

 それで十分だった。
 “床ではなく、天井を逆さに走る青年にとっては十分すぎる時間”。

 ――マズルフラッシュ。

 火薬の炸裂による噴出炎ではなく、魔力弾による発砲の煌きが無数に瞬く。
 上空から大量とも言える黄色い、銃撃の雨が思考で凍りついた魔導師たちのバリアジャケットを貫通し、吹き飛ばす。
 純粋魔力弾と物理影響弾、それらを交互に混ぜた弾丸は魔導師たちの肉を吹き散らし、衝撃を走らせ、彼らの意識と肉体にダメージを負わせた。
 同時に床を走っていた青年の姿が掻き消え、天井で笑いながら二挺のデバイスを振り翳す青年の姿だけが残る。

「幻術、だと?!」

 唯一障壁を張り、難を逃れたまとめ役の魔導師が叫んだ。
 幻術。
 ミッドチルダの魔法で現存する魔法としては使い手の少ない魔法である。
 その効果は単純に視覚を騙すこと。擬似的な映像を他の空間に投射したり、或いは風景と同じ映像を自身に投射し透明化したり、
様々なことに応用が聞く魔法である。
 しかし、その大幅なメリットに反して使い手が少ない理由はただ一つ――“制御の難しさと膨大な処理リソース”である。
 たかが映像であっても、それらをリアルタイムに投射し、同時に周囲の雰囲気とは違和感のないように分析し続け、映像を構成する。
 それだけで通常のストレージデバイスならば処理リソースの大半が喰われるほど、大幅な演算が必要となる魔法なのだ。
 さらには一旦構成すればいいだけの障壁や魔力弾などとは違って常時展開し続けなければならないため、瞬間的な消費魔力量は対した事無くとも、持続し続けることによる消費量は馬鹿にならない。
 故に使い手は少なく、使うとなればただそれだけの専門職となるのが大半なのだが。

「おお当たりー」

 “彼はその例外だった”

「景品は」

 処理を続ける“左手のデバイス”を放置し、彼は右手の【Less】と彫り込まれたハンドガン型のデバイスを向けて。

「これでくれてやるよ!」

 発砲。
 ただ一つの銃身を持って“三発の弾丸”が打ち出され、障壁へと直撃する。

「なっ!」

 一発目が障壁と激突し――四散。
 二発目がそこに激突し、四散した魔力と結合しながらさらに障壁へと食い込んで――三発目の弾丸がそれを叩き込んだ。


 そして、その結果は貫通されたシールドとその軌道上にあった左肩の肉が爆ぜる音。

「が、ぁあああああああああ!!」

 血が吹き出る。
 痛みにもがく。
 左肩を押さえ、魔導師の男が呻き声を洩らしながらも、さらに怨嗟の声を上げようとして。

 カチリ。

 額の前に突きつけられた銃口の冷たさに、声を閉ざした。

「これでこっち側は大体全員か?」

 噴き出す脂汗の男。
 それに構わず青年は尋ねる。冷たく、先ほどまで浮かべていた皮肉げな笑みを消して。
 冷たい表情が、男の目を射抜いた。

「あ、ぁあ」

 頷くことも許されない。
 下手に動けば撃たれる。
 それを理解し、彼は呻き声で返答し。

「そうか。じゃ、これで終いだな」

 青年は引き金に力を篭めていく。
 それを見て、男は叫んだ。

「なっ! や、やめろ!!」

「なんでだ?」

「と、投降する!! もう抵抗はしない! 管理局に従うから!!」

 武装隊特有のバリアジャケット。
 それを見て、男は青年を管理局の武装隊だと判断し――

「で?」


「は?」

「それで、お前は優雅にムショ暮らしか? 最低だな」

 青年は笑う。
 侮蔑しきった顔で、僅かな私怨を持って、彼は告げた。

「お前らのせいで、何人の中毒者が出てると思ってやがる」

 額にデバイスを突きつけられた魔導師。
 それが所属する組織は中毒性の高い麻薬を売りさばき、幾人もの中毒者を出していた麻薬組織。

「な、やめ」

「じゃあな」

 左手のデバイス【B】
 右手のデバイス【Less】

「別れを告げろ」

 それで額と胸部――リンカーコアに銃口を向けながら彼は告げる。
 冷酷な笑みを。
 冷たい言葉を吐き捨てて。

「バイバイってな」

 さようならと。

 引き金を引いて――閃光が火花のように散った。






「終わったのか?」

 倒れ付した男の前で青年が佇んでいると、奥から鮮やかな衣装を纏った人影が姿を見せた。
 騎士服――ミッド魔導師でいうところのバリアジャケットを纏い、その手に肉厚な騎士剣を佩いた女性。

「シグナムか。終わったぞ」

 薄い紅色の髪を一本に結い上げ、ポニーテールの髪型としてなびかせたシグナムと呼ばれた女性は、軽く周りを見渡し、
そして最後に青年の足元に転がる男を見て呟いた。

「ん、“死人は出てないな”」

「ああ」

 純粋魔力弾。
 それをゼロ距離で、しかも額とリンカーコアに叩き込まれた男は泡を吹きながら倒れ付していた。

「無事鎮圧できたようだな」

「ああ、お前が退路を潰してくれたおかげだ――“ティーダ”」

 ティーダと呼ばれた青年――ティーダ・ランスターは照れたように笑みを浮かべ。
 耳元に付けた無線に手を当てた。

「そっちは無事終わったか、“ヴァイス”」

『五人仕留めた。今確認したが、もういない』

「了解」

 ティーダは嬉しそうに笑い、最後にこの一言で締めくくった。

「ミッション・コンプリートってか」


 こうして彼らの戦いはまた終わる。
 何度の何度も繰り返される戦いの日々。

 けれど、それは充実した日々だった。

 不敵な実力者にして、空戦魔導師 ティーダ・ランスター。

 確かな実力を持つ古参的な武装隊ベルカ騎士 シグナム。

 そして、まだまだ未熟な狙撃専用陸戦魔導師 ヴァイス・グランセニック。


 彼らが生きていた時代。

 共に駆け抜けていた時代。


 それはかの悲劇が起きる二ヶ月前にして、今の年月より六年以上昔のことである。

[[目次へ>リリカル! 夢境学園氏]] [[次へ>ミッシングスタート2話]]

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年04月27日 21:45