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 とある辺境次元世界。
漆黒の闇が辺りを覆い、この惑星の衛星である半月が姿を現す頃。
血風が、ふいた。
人間の身体が、半ば以上身体の断面から臓腑を見せつけながら、空中から上体と下半身が別々に落下。
さあああ、とふく朝霧のような動脈から吹き出る鮮血を浴びながら、桃色の髪をした女性が笑う。
其の長い髪は、頭の後ろでポニーテールに纏められ、風になびき、揺れた。
女性は、空を飛んでいた。周りには、杖を持った人間――魔導師と呼ばれる魔導技術の使い手たち。
その顔は、皆、驚愕と嫌悪に歪んでいる。
男達の一人が、吐き捨てるように言った――拒否感を精一杯にじませて。

「化け物め……そんなに人殺しが楽しいか?」
ふん、と一笑に付し、女性が口の端をつり上げた。
実に単純な挑発。

「そういう貴公らこそ、何を躊躇う? 残るヴォルケンリッターは私一人。全員で掛かれば容易く落とせるものを――兵法を知らぬと見える」
男が激昂して叫んだ。
「ふざけるな! 我々は時空管理局の――ブリタニア皇帝陛下の威信を背負っているのだ。貴様風情に集団戦術など――」

「面白い。ならば、我が剣を折ってみせよ!」

刹那、女性の桃色の髪が空気抵抗に揺れ、突進。鋭い長剣の切っ先が男の杖を両断、喉笛をかき切っていた。
げえ、と鈍い呻き――ゴポゴポという喉から漏れる音。
バリアーを張る暇も無い、早業であった。

魔導の技による、飛翔能力を失った男の遺体が、空中をゆるゆると落下していき――男の腕に、受け止められた。
憂えた顔で、眼鏡をかけた銀髪の男が、遺体を見つめ、溜息をついた。まだ歳若い――二十歳になるかならないか、といった感じの青年だ。
魔導師たちが一斉に驚きの声をあげる。

「隊長?! どうしてここにッ!」
「隊長は後方待機では?!」
男――不機嫌に返答。心底面倒くさそうな対応。
「君達が不甲斐無いからだよぉ~。あーもう、僕は技官で、前線向きじゃないのにぃ。研修終わったばっかりなんだよぉぉぉ?
全員、戦闘準備ぃ!目標、ヴォルケンリッター<シグナム>」

『イエス、マイロードッッ!!』

男――ロイド・アスプルンドは眼鏡を指で弄くりながら命令を下し、ふう、と溜息をついた。
ヴォルケンリッター最後の将は、表情を引き締め、目の前の男に問うた。

「貴様……何をした?」
ロイド―――余裕の返答。
「うん? あはぁ、それはねぇ。封時結界を張ったんだよぉ、逃げられちゃ困るしねぇぇ、シグナムさん?」
「愚かしい……私は逃げも隠れもしない――全員切り倒すまでッ!!」

女――烈火の将、シグナムは、雄叫びを上げると切っ先を大上段に構え、魔力の足場を蹴り、跳躍。
さながら雌豹の如き動き――振り下ろされる肉厚の刃。
武装局員――防御術式。
分厚い障壁が刃を遮り、一瞬シグナムの動きを止める。男が叫んだ。

「今だ、討て!!」
身を挺しての足止め―――仲間達の射撃魔法詠唱。恐るべき早さの、戦況判断だった。
だが。
古代ベルカの騎士を足止めするには、あまりに稚拙な戦法だった。
落下。
その姿が一瞬魔導師たちの視界から掻き消え―――シグナムが笑った。
「温いな……未熟!!」
『シュランゲフォルム』
カートリッジリロード。最後の一発。
魔力の詰まった薬莢が、蒸気と共に廃莢された刹那、長剣型アームドデバイス――レヴァンティンの刃が、蛇腹状になり、伸びた。
鎌首をもたげた蛇の様な動き―――鞭状連結刃の煌き。
使い手の意思に、柄を通じて忠実に反応する毒蛇の如き刃が、きらり、と魔導師達の死角に回り込み―――その腹を、存分に抉った。
鮮血。
意識を失った二人――包囲網に穴が開く。蛇腹剣が瞬時に長剣に生まれ変わる――変形機構。
包囲網の開いた先――ロイドのいる場所。シグナムが、恐るべき加速で飛び込みながら笑った。

「もらったぁッッ!!」

ロイド―――焦りの見えない顔。
「地味にピンチだねぇ~。でも―――」
白い防護服――技官の制服を模したそれを風に揺らしながら、ロイドが笑う。

「僕の勝ちだねぇぇー」
(グランセニックくぅん――今だよぉぉぉ)
返答―――念話。
(アイコピーッ!!)

シグナム―――本能的に殺気を感知――防御術式を張る。
だが――、魔導の狙撃手の必殺『スナイプショット』の前には無意味――術式が中和され、バリアーを貫通した魔力弾頭が、甲冑を、シグナムの擬似心臓を貫いた。
待ち伏せ射撃――恐るべき手だれの狙撃だった。
げぽぉ、と擬似血液――吐いた先から分解される――を吐血しながら、シグナムが言った。
顔に浮かぶ賞賛。

「見事……!!」

(いい狙撃だったよぉぉぉ、グランセニック君)
(ありがとうございます、伯爵。息子に自慢できそうです)

落下し、消え逝くヴォルケンリッター最後の生き残りの身体――魔力結合によるプログラム体の限界。
レヴァンティンを握り締め――目を凝らす。鷹のような目――戦闘用プログラムならではの能力。

―――見つけた。

遠く、茂みに隠れた迷彩魔法を使う、ライフル銃型のデバイスを保持した男―――狙撃手。
茶髪の髪。ブリタニア正規軍の紋章。壮年男性――。

体に残った全魔力を長剣――レヴァンティンに注ぎ込み、歯を剥いて笑う。
ロイドがその笑みに危険なものを嗅ぎ付け、叫んだ。

「不味いッ! 逃げろ、騎士グランセニック!!」
「――もう遅い」
投擲――音速を超える速さで投げられたレヴァンティン―――その切っ先が、グランセニックの胸を、貫通した。
どちゃり、と倒れこみ――真っ赤な血が、茂みを濡らした。

「獲った、ぞ……」
シグナムの身体は今度こそ、身体維持の為の魔力を使い切り、霧散。
消滅した。
ここに、幾多の転生を繰り返したヴォルケンリッターは壊滅し、再び眠りについた。

―――目覚めのときは、10年後、地球―――。

だが、遺族は――残された者はそうはいかない――人であるがゆえに。
次元世界ブリタニア、首都クラナガン郊外。
墓地―――黒衣の人々―――並ぶ軍服姿の男達。
泣く婦人―――殉職した騎士グランセニックの妻だ。その脇には、まだ幼い男の子と女の子――兄妹。
父と同じ、茶髪の髪を持つ少年が、妹の手を握りながら、涙をこらえた。
父は、殺されたのだという――次元犯罪者に、悪い奴に。
何故、何故だ。
父は何時もやさしくて、でも時々厳しくて――笑顔の絶えない人だった―――。
本当に、大好きだった。

3名の殉職者を出しながらも、ヴォルケンリッターを殲滅、闇の書を回収することにも成功した。
だが、作戦は失敗だった。
確保し、移送中だった闇の書は暴走。
L級戦闘艦<エスティア>を犠牲にし、なんとか艦隊は生き残ったのだ。
これにより、クライド・ハラオウン提督は殉職。
軍の礼装に身をつつんだ、当時の現場部隊の指揮官―――ロイド・アスプルンド伯爵が、沈痛な顔でグランセニック婦人に近づき、頭を下げた。
張り飛ばされる――踏みとどまるロイド。眼鏡がずれ、頬が腫れ上がった。
頭を下げ続け―――不意に、その眼が、少年と少女に留まった。
ロイドは、ゆっくりと近づき、声をかける。

「ねえぇ、君達―――」
父の遺体は埋葬され、もう顔も見えない―――見えない死者の群れに父が加わるヴィジョン。
ゆっくりと、口を開く。

「父は――誰に殺されたんですか? 教えてください、アスプルンド伯爵」

ヴァイス・グランセニック六歳の頃の話であった。

 そして、月日は流れ、三年後。
西暦2010年八月十日。
第97管理外世界<地球>。
世界有数のレアメタル「サクラダイト」貯蔵地であった日本に対し、とある組織から宣戦布告が為された。
以前から、極秘裏に<地球>に接触と干渉を繰り返してきた組織。
組織の名は、『時空管理局』。
魔導技術の管理と開発、観測された多数ある次元世界――居住可能惑星を中心とした人類文化圏の秩序の維持を目的とした巨大組織である。
魔導技術とは、『魔力素』と言われる物質を媒体に物理現象を操作、様々な効果を生み出す技術体系であり、科学の一種だった。
この技術を保有する世界群を傘下に治め、拡大する超巨大軍事組織。
それが時空管理局である。
無論、日本はこれに対し自衛権の行使を選択。
在日米軍もこの戦闘に参加。21世紀始まって以来の、大戦争になるかと思われた。
だが。
結果から言えば、この戦争は一方的な敗北に終わった。

―――蒼穹を飛ぶ巨大な艦艇。純白の船体。

―――現行兵器を無力化する不可視の盾。

―――ただの一撃で全てを消し飛ばす魔導砲――未知のエネルギー兵器。

―――戦略兵器、アルカンシェル。

―――そして、天駆ける人、魔導師。放たれる魔力砲の嵐。撃墜される航空機群。

まったく未知の技術体系の前に、日米の軍は惨敗した。一時は、アメリカ大統領に核の使用を決断させかけるほどに。
最悪の事態――核による土壌汚染は回避されたものの、日本は次元世界ブリタニアを盟主とする次元世界管理機構の統治下に置かれることとなり、戦争は終結した。
レアメタル「サクラダイト」は盟主国ブリタニアが独占的に採掘と供給を支配、日本人は名前と伝統、誇りを奪われた。
新たな国名は、「エリア11」。支配と隷属の、証であった。

日本侵攻から七年――父殺しの罪を背負う少年、スザクと、父の仇を狙う少年、ヴァイス。
ばら撒かれた危険指定遺失技術――ロストロギア「ジュエルシード」。それを追い、地球に現れた管理世界の住人、ユーノ。
ジュエルシードを狙う少女、フェイトと、謎の力「ギアス」を他者に与える黒い仮面の怪人、ゼロ。
彼らの運命が交わるとき、物語は動き始める。

―――「コードギアス 不屈のスザク」―――始まります。

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最終更新:2008年05月02日 20:18