「あらゆる武術の基本は、パンチだ。鉄拳だ。正拳突きだ。パンチの基本、その一、抉る様に撃つべし!」
「いい事?指揮官と言うのは、あらゆる状況を俯瞰し……」
「そもそも守るという事はだね……」
「支援するって、口で言うのは簡単だけど、そう容易い事じゃ無いんだよ……」
ホテル・アグスタ以来、大悟たち四人は折を見て六課に現れ、新人達に稽古を付けたり、様々な講義を行ったりしている。
大悟とギヨームは嘱託魔導師の資格を持ってはいるが正式に契約して参加しているわけではなく、クリスやフィンも技術局や無限図書館から出向してきたわけでは無い。
なので、保有制限には引っかからないがおいそれと直接戦闘に参加する訳にも行かないと言う、ちょっと微妙な立場。
ガジェットの大群が押し寄せ、はやてが限定を解除した時も、六課に居合わせたクリスがユーノと指揮管制を手伝ったくらい。
本当は、過労気味のユーノに休養を取らせる口実だったのだが……結局、働いてしまったと。
因みに、ヴィヴィオが六課に来た時、彼女を隊舎の屋根程も高い高いした大悟が頭を冷やされたのは、ご愛嬌。
「こう、こう打って……(ばぁん、と、サンドバッグが破れて砂まみれ)」
「……で、予想しない事態に出会っても、不適に笑ってこう言うの、『ふ、それもまた我が策の内』と」
「つまりだ、この『プロテクション・フロム・痛いの』は……」
「じゃあ、フリード用にパワードスーツでも作ろうか?」
ご愛嬌。
『ダブルクロス・リリカル・トワイライト 天からの快男児』
第2話 強襲!地上本部 ~法の塔が墜ちた日~
「さて、今日は『努利封(ドリフ)』の話をしようか」
何時もの訓練エリアで、大悟は何時もと違う話をスバルに始めた。
「努利封、『努めて利器(刃物)を封じる』と言うこの流派の事を知るのは、お前にとってもプラスになる筈だ……」
一方その頃、ギヨームは六課の食堂内で、『真・レ・サンテュリ』を開いていた。と言っても、今の彼には読めないのだが……
「なんやその白紙の本は」
「あ、例の預言書ですね」
「僕には読めないどころか白紙にしか見えませんが」
「アレか?好き勝手に書き込んだら成就するって奴か?」
「何か、いっぱい書いてるね」
「そうかな……って、えっ!?」
一同の視線が、ヴィヴィオに集まる。彼女だけが、書かれた文字を(読めないまでも)視認出来るのだ……
それから更に数日、結局謎や伏線をブン投げたまま、ミッドチルダ地上本部での公開陳述会。
そこに、出席する者、警備する者。そもそも参加しない者、そして……
轟く爆音、沸き立つ粉塵。
スカリエッティ一味による、襲撃である。
絶賛開発中の新兵器、アインヘリアルは無残に撃破され、高濃度に展開されたAMFによって無力化された武装隊員達は追い散らされ逃げ惑う。
かろうじて戦力となるのは、フィンの操るパトドローン。それも多勢に無勢。
陳述会に出席していた六課メンバーは、預けたデバイスを受け取る為に、走る。
スバルもまた、預かったデバイスを届ける為に、走る。
そして、地下区画に侵入した敵を迎撃する為に走ったギンガ・ナカジマが見たのは……
「タイプゼロ・ファーストか……」
「スカリエッティの戦闘機人……!?」
その、右目を眼帯で覆った少女を、そしてその左胸のバラの花を見た瞬間、ギンガの中で何かが目覚めた。
思い起こすはあの、空港火災の日の事……
「少女よ、貴女の、名前は?」
「わ、私は……ギンガ・ナカジマ……」
「そぉ。ギンガ……貴女は今より、ギンガであってギンガでない。
貴女は貴女であり、そして私でもある」
「私は……あなた……」
「そぉ。私の、そしてこれよりの貴女の名は……」
「あなたの名、私の名は……」
両手にナイフを構えたチンクの、その機先を制するかの如く目の前に立つギンガ。
慈しむ様に隻眼を覗き込む、その瞳の色にチンクは思い当たる。
「……待たせたわねぇ、チンク。ずっと、このバラを持っていてくれたんだ……嬉しいわぁ」
「まさか、あなたは……」
「そぉ、私は……」
今、遠き落日に消えた筈の名が、蘇る。その名は……
「「クレオパトラ・ダンディ」」
古代ベルカの快男児にして次元世界に気高く咲いた一輪の薔薇、復活の瞬間であった。
「ギン姉っ!」
スバルがそこに駆け込んだ時、姉は敵である筈の隻眼の少女を優しく抱きしめていた。
振り向いたその表情は、よく知る姉であって姉ではない。
「スバル……ナカジマ、か」
「……ちょ、どうしちゃったの、ギン姉!何で……そんな……」
「ふむぅ、クレオパトラのダンディズムと英国紳士の美貌を兼ね備える私としては、敵は倒さねばならないが……」
「て、敵って!ギン姉どうしたの!?」
思いがけない発言に驚愕するスバル。一方ギンガは、いやさダンディは動かない、いや、動けない。主の急変に戸惑うブリッツキャリバーが、動作を拒否しているのだ。
「ダンディ、どうし……ああ、分かった。
良い所に来たなウェンディ、彼女をアジトまで送ってくれ。タイプゼロ・セカンドは私が」
「…………え、ええと!?
タイプゼロ・ファーストを!?何が起きたんだか分からないッス!?それに一人で大丈夫ッスか?」
この現場に今着たばかりで、予想をはるかに超えた事態に戸惑うウェンディ。
「安心しろ、彼女は私たちの味方だ。それに、姉なら触れずに戦える。
何しろ……」
言いつつチンクが右目の眼帯を少しだけずらした、その下から放たれた電撃が、スバルを打ち据える。
「……姉の瞳は百万ボルトだからな」
一方その頃、六課隊舎。
ここもまた、ガジェットの大群による襲撃を受けていた。
護るは二枚の盾、守護騎士ザフィーラと怪盗紳士ギヨーム。
そんな彼らの前に現れた三人の戦士を、二人は知っていた。
「古代ベルカの完璧戦闘機人(マシーネン・ゾルダート)、か。久しいな」
「有無、つい数年前にも現れてな、私達で倒した。よもや量産型だとは知らなかったが」
「ならば分かるか。“完璧”といっても機械部分が多いからと言うだけだ」
「分かっている。我々はアレを、1対1で倒したから」
「なら、もう言う事は無い」
「行くぞ」
「そうは問屋が卸しません。目的が達成されるまでは、あなた方を何としても足止めさせて貰います」
更に現れたのは、単眼六腕、巨大筆ペンや流麗な細剣(エペ)、何やら紋様の書かれた盾を構えた2m級の和風の意匠をしたロボット。
「ええと、諸般の事情により10's TERRAから寄せ手に加わった、“マジカル金剛機”龍飛と申します。
さぁ、山の精霊達よ、あの二人を……!」
そして隊舎内。紫の髪の少女、ルーテシアは、通路を塞ぐ様に立ちはだかる隊員を見て歩みを止める。
「ここここここを通すわけにはいかないでゴザる……」
「ガリュー、どかして」
スバルの瞳が、金色に光る。その拳が、怒りに燃える。
戦闘機人である彼女の先天技能、“振動破砕”が炸裂する。
ティアナ達が駆けつけた時には、そこに残されていたのは傷付いたスバルと、待機状態に戻されたブリッツキャリバーと……
満身創痍のギヨームが、右手には傷付き半ば凍りついたザフィーラを担ぎ、左手は上半身だけになったマジカル金剛機にしがみ付かれたままそこに来ると、
壁には、幾つもの人を叩きつけたような穴や亀裂が走り、そして先ほどの隊員が、デバイス片手に仁王立ちしている。
「確か、彼は小太刀右京ノ介とかいったな……立ったまま気絶している……」
「有無、頑丈なのだけが取り柄だ、とは常から言っていたが……ただのハッタリじゃあ無かったようだな」
つまり、彼はガリューによって幾度も壁に叩き付けられ、それでもなお立ち上がり、前進を食い止め続けていたのだ。たった今まで。
機能を一時的に停止していた“マジカル金剛機”龍飛が意識を取り戻した時、機動六課の誇るデバイスマイスター、シャリオ・ルフィーノは、丁度彼の頭脳に当たる部品、『明鏡』を取り出そうとしていた。
「あ、えーと、聞かれた全部話すからそこに手を出すのはやめてやめて!後その下の心珠にも触れないで!
ああ、だからそれをどうにかされたらあ、いや、そんな残念そうな顔をしないでー!!
アッ――――!!!」
この場面、映像化されてもシャーリーの表情は逆光或いは後ろ向きなので見えなくて幸い。
そして、六課の前庭、エグエグとべそをかくマジカル金剛機(の一部)とバラシ足りなくて残念なシャーリーの傍らで、戻ってきた三人娘や大悟達は、得られた情報の吟味を始めた。
「つまりこのカラクリ人形は、スカリエッティが管理外世界からレンタルしてきた、ちゅうわけか」
「でも、そこにどんな取引があったかまではこれは知らない、と」
「ええ、何しろ神宮社長のする事ですから。
あっしのような下っ端金剛機は、言われたままに赴いて戦うと言うか、金剛機的には戦うのではなく殺戮する、と言うのが存在意義のような……」
「もうちょっと頭冷やそうか?」
「ひ、冷やす頭があるだけマシだと思って下さい!
普通の金剛機は会話すらしない、破壊と殺戮と粉砕の為の機能しか持たないんだから!
こんな風にお喋りな金剛機は基本的に不良品かつ暴走の可能性があって危険なので処分、て扱いなんだから!」
「でも、スカリエッティのアジトの大まかな場所は分かったんだ」
「へぃ、あっしがミッドチルダに転送されてきた時の座標ですが、多分あのあたりにアジトがあると思われますよ。
後、何故かそこらへんの情報にプロテクトがかかって無くて……ええ、皆さんを誘っているのかと」
「そして、俺達は罠と知りつつ、そこに踏み込むしかない、か」
「でも、一緒に色々得体の知れないのが来てたんで、大変ですよ?例えば、モヒカンマッチョとか、あか○ん弁当とか、極悪中隊や人間の屑、陸サーファーにバカとか」
「あ、あ○りん弁当!?そんな……大惨事じゃないか!」
「屑とかバカってナニ!?」
「だって、(迷キンの)ルールブックにそう書いてあるし、田中天的にはバカも出しておこうか、って作者が」
うわははははは。
「だけど……ギンガさんはいったい……」
「ブリッツとマッハの記録を検索した結果、ギンガさんは“クレオパトラ・ダンディ”と名乗ったと……」
「何、ダンディだと!」
「知ってはるんか!大悟さん!」
「有無、古代ベルカが産み出したとされる、恐ろしき接触感染呪術型ロストロギアだ。
ウィルスのように感染した人間の精神構造を、そして肉体すらも書き換え、支配する……
あの空港火災の時、その最後の一人を追い詰め……倒した筈だが」
「そっか……ギンガさんに感染して生き延びたのか……くそっ!」
その時の事を思い出し、恐怖に震えるギヨームと、地団駄を踏むフィン。一方大悟は、その時の激戦に想いを馳せる……
「しかし……我々の戦力はかなり減ったな……」
「ヘリが失われ、ザフィーラとシャマル、ヴァイスが重傷、交代部隊もほぼ全滅……」
「……あの、そういえばフェイトさんの車は……」
「「「「あ」」」」
「ええと、ご愁傷様で……」
「いいのよ、死人が出なかっただけ幸いだから……
……バラバラにしてアルフとザフィーラの餌にしてやる(ボソ)」
「とにかく、まずせにゃならんのは、屋根のある場所の確保や。
宿舎も壊れたし、怪我人の手当てとか何とか……」
「……はやてちゃん、ちょ、ちょっとアレ……」
「……なんやなのはちゃん、ナニを……って、アレ、廃艦になった筈のアースラとちゃうか……?」
彼女らが見上げると、そこには一隻の次元航行艦が飛来していた。
皆が知るその艦の名はアースラ、だが、そこから聞こえてきた名乗りは……
『諸君!この“マジカル船長”グラーフ・シュペーと虚無の翼号が来たからには!』
一方その頃。
《ふむ、概ね予定通り……とは、行かないな》
《それもこれも、あの天花寺とか言う一党が関わってからだ。あれの存在が我々の正義の妨げになる》
《せっかく、組織運営の下手な八神はやてが立身出世する糸口を与え、効率的な組織運営という質量兵器復活の目を潰せる筈だったのに……》
時空管理局某所、三つの水槽に浮かんだ三つの脳髄。
極僅かの限られた者のみが知る、管理局真の支配者。
彼らの目論見とはすなわち、『質量兵器=効率的な組織運営の産物であり、そうならない為の道筋をつける』事である。
その為に、失われしアルハザードの遺産を用いてジェイル・スカリエッティを生み出し、非効率的な組織運営を為し得るであろう将来の指導者の踏み台とする。
更にはその過程で生み出されたテクノロジーを用いて、時空管理局による更なる魔法文明の発達と質量兵器規制を成し遂げる……
そして、『歪んだ組織構造』と言う、世界に魔力を充たし続ける為の壮大な儀式呪術を継続させる……
《更に、あのレジアスの小僧が企んだアインソフ何とかの無力さを見せ付け、魔導師優位を演出し……》
《そして本局の優位を維持し……》
「……お話中のところ申し訳ありませんが、メンテナンスのお時間です」
《おお、もうそんな時間か……》
がしゃーん、ぱりーん。
最終更新:2008年05月04日 18:46