クラナガンのビル街の一角にあるマンション。
その中にある部屋のひとつから出てきた恰幅のいい男――レスト・アンリは上機嫌だった。
時空管理局高官と深い繋がりがあるこの男は、簡単に言うと強姦魔である。
基本的な手口は一つ、魔力が無く社会的身分の低い20歳以下の女に目をつける。
権力をつかい住所を特定、その後その女の家に魔法を応用して押し入り襲う。
その情景を自作デバイスに録画し再度会うことを誓わせる。
もし、相手が勇気を出して訴えた所で権力で握りつぶせる。
問題はまったく無い、とレストは思っていた。
なんといってもミッドチルダでは魔力を持っている人間は優遇されやすい。
さらにレストはAA+の元武装局員、これでは――
「何言ったって無駄だ…クック」
思わず呟くとレストの思わず笑った。
さっきまで自分がいた部屋には女が一人何もできずに泣いているだろう。
だが彼女にはどうしようもない。
例外として一人自殺することで、地獄から逃れた女がいるが、レストのにはなんの影響もなかった
「俺はパーフェクトだ…パーフェクトなんだぁ!はっはっは…!!」
レストがその顔を醜悪に歪ませながら笑っている。
実に不愉快な笑い声だった。
レストは上機嫌のまま念話で友人に迎えに来るように伝えると、そのままマンションの入り口まで出てきた。
「…ん?」
すると妙な視線を感じた。
「何だ?」
視線の方向に振る向くがだれもいない、そこには小さな路地があるだけだ。
気のせいだ、とは思いつつも気になる。
「……ふむ」
時間をチェックする。まだ友人が到着するには余裕がある、そう判断するとレストは路地を歩き始めた
路地はたいした広さもなくただ淡々と道が続いているだけだった。
周りは静かだ
「気のせいか……」
特に深追いをする必要も無い。そう思い道を引き返し始めた。
その時。
シュピン!
まるで刃が空を切るような音がした直後。
「が……ご…!」
レストの首に緑の光を放つ縄のようなもの――バインドが巻きついていた。
否、首だけではない、両手両足すべてを拘束するようにそれはあった。
「グ…」
レストはいきなりの襲撃に驚きと恐怖を感じながらも、バインドブレイクで脱出を試みるが失敗した。
どうやらこのバインドは、彼の知るバインドのどれとも違うものらしい。
「ぐぞ…」
魔法の行使をあきらめたレストは、バインドにチェーンのようなものが連なっていることに気づいた。
そして敵の姿を、自分の首から術者に続いているはずのそのチェーンを通して確認しようとする。
簡単に混乱しないあたりは腐っても元武装局員、といったところである。
だが……彼の目には映っていたものは――
「こんにちは、レスト・アンリさん……ああすいません、今の時間はこんばんは、でしたね」
――時空管理局本局、無限書庫司書長、ユーノ・スクライア。
その男がここにいた。
「さてと――それじゃあ殺しますね」
なんと前触れもなく殺人宣言をする彼にレストは焦った。
両手両足を拘束され抵抗手段は皆無、
とにかく時間を稼ごう、もしかしたらいない事を怪訝に思った友人が助けてくれるかもしれない
「ま…まっでぐで……」
喉の強烈な圧迫感に耐えながら必死に言葉を発する。
それを聞くとユーノは何を思ったか首の部分のバインドの拘束をゆるくした。
「げっほげっほ……くそ……」
「まあ、ボクも鬼じゃないですからね…最後の言葉くらいは聞いてあげますよ、ちなみに叫んだりしても防音結界があるので無駄ですよ」
まるで何かの仕事をこなすようなユーノの言葉を聞きながら、先程は湧かなかった疑問が頭に浮かんだ。
「な…なんで、あんたが俺を…」
「ああ、その事ですか――ボクはね、殺し屋です、あなたを殺すように依頼されたんですよ」
「こ……殺し屋?」
裏社会には詳しいつもりでいたが、まったく聞いたことがなかった。
「ええ、あなたの犯した女性の一人が自殺したの知ってますか?その人の恋人から依頼が着たんですよ、無残にぶっ殺してくれって」
「ちなみに報酬はこれです…」
そう思い出したように言うと、ユーノはポケットから小さなハンカチが入った箱を出した。
「ハン…カチ?」
「はい、ヴィヴィオがどうしても欲しいっていうものですから、つい♪」
先程まで無感情だったユーノの声に、喜びの感情が混ざる。
「本当はもっと高く買うこともできたんですけど…まあ良いですよね?」
ヴィヴィオという単語に聞き覚えはなかったがそこまで頭が回るほどには冷静ではなかった。
むしろ、自分の命がたったハンカチ一つ分で買われたことをさぞ楽しげに話すユーノに怒りを覚えた。
「てめぇ、俺を殺したらてめぇもただじゃすまねえぞ、俺はな管理局の――」
「この人でしょ?あなたのお友達は」
レストが言い終える前にユーノは胸ポケットから写真を出した。
その写真には、レストの罪を何度ももみ消してくれた男が写っていた。
「この人はもうボクの仲間が殺しているはずですから、安心して死んで良いですよ」
「な…こんな…」
「はあ…あなたさ、往生際が悪いですよ、あなたは人を死なせてるんですよ、それも愛してくれる人がいる女性を……悪いこと極まりないじゃないですか」
「…へ?」
「愛する人が殺されるっていうのはきっと辛いんですよ、もしその人が死んで原因が生きているていうなら、……ボクは愛のために殺します、人でもなんでも」
ため息をつきながらまるで説教するようにユーノが言う。
こうしている間結構な時間が過ぎたはずだったが誰も来る気配がない。
――死
この言葉が頭をよぎる、今まで何人も殺してきたが自分が殺されるなど考えたこともなかった。
「まって…金は払う…ゴガ!!」
命乞いを言い切る前に首が異常な力で締められる、先程とは比べ物にならない――このままでは首がもげてしまうほどの。
「さてと仕上げです、ボクのこの特性バインドは魔力を上乗せすることで締める力をあげることができるんですよ」
「あ……が…!」
「これを作るのには苦労しましたよ、無限書庫の資料を何度漁ったことか…ボクはなのはじゃないですからそう簡単にはいかないんですよね」
まるで講義のようなのんきなユーノ声も、もはやレストには聞こえなかった。
「もう聞こえませんか、さて、じゃあさっき言ったように……殺しますね♪」
「あ……あ…」
ユーノが自らのバインドに魔力を込め始める。
みちみちという耳をふさぎたくなるような音が耳を嬲っていく。
「人の恋路を邪魔するやつは、首をもがれて地獄に落ちろ♪」
そのユーノの声と肉が潰れるような音と同時に、レストの意識は永遠に消えた。
ユーノは自宅に帰ると誰かと携帯電話のような特殊デバイスを自分のパソコンに繋いでいる。
その姿はとてもついさっき人を殺したようには見えない。
「ええっとデータ転送…これでよしっと」
ユーノが殺しに成功したことを示す写真データをパソコンを通してあるサイトに転送した。
「ふう、やっぱり悪人を殺すっていうのはたまらない…それも他人の愛のためなんて言うんだからまったくボクは――」
――なんて卑しいんだ。
最終更新:2008年05月21日 19:04