まるで瀑布のように降り注ぐ気弾はその荘厳さとは裏腹に、一つ一つが人一人を殺傷せ
しめるには十分以上の威力を秘めていた。修行を重ねた悟飯の体ですら容赦なく打ち抜き、
肉をこそぎ落としていく。
「う、がぁぁぁああああああ!!」
全身を針で貫かれるような痛みに耐えかね悟飯の口から悲鳴が迸る。それでも空にいる
17号と18号の顔色は一つも変わらない。作業のように両手から光弾を打ち出していた。そ
の数は百を超え、千を超え、万にも至ろう。
ことここに至り、彼らからは油断の一文字は一切失われていた。どれだけ打ち倒そうと
死なず、力を伸ばし、その末に片腕になろうともあきらめない。一瞬ではあるが、二人が
かりの彼らに悟飯は抗しえたのだ。その先が敗北でないと誰が保証できよう。
間違いなく、敵だ。玩具ではない。壊すのではなく、殺す。感情を交えぬ冷たい殺意を
胸に、人造人間たちは悟飯を殺しつくそうとしていた。
もはや悟飯には対抗はおろか、逃げる術すら残されていない。痛みの中、必死で意識を
繋いではいるが、それは板面に苦しみを伸ばすだけだ。それがわかっていてなお、悟飯は
耐えようとしていた。
後悔は、なかった。死を覚悟し、その上でトランクスをあえて残したのだ。あるいは、
初めからこの結果を予想していたとも言える。ならなぜ。なぜあえて苦しみを長引かせて
いるのだろうか。
希望はあるはずだ。悟飯自身が残した希望が。そして彼はよくやった。命すらかけて、
人造人間たちに立ち向かったのだ。自身の命すらかけて。遣り残したことなどない。
――ふざけるな。痛みではなく怒りの咆哮を上げながら悟飯は拳を握る。
ふざけるなよ、孫悟飯。何が希望か、何がよくやっただ。遣り残したことがない。そん
なはずはないはずだ。俺は今、トランクスに重荷を背負わそうとしているだけじゃないか。
戦って、戦って、戦って。父を失くし、師を失くし、仲間を失くし、それでも、悟飯の
心の奥には扉があった。
決して開かれることのない小さな、それでいてどこまでも固い扉が。
拳は、まだ動く。余力があるのだ。命すらも燃やし尽くし負けるならまだいい。だが、
まだ俺にはやれることがあるはずだ!!
まるで突き詰めれば重力が光すら吸い込むように、悟飯の気の全てがある一点に流れて
いく。それは怒り、それは決意。
限界の遥か先にある命の輝きに気という気の全てが注ぎ込まれる。誰が知ろう。それは
別の未来でべジータが我が子を救うために選んだ選択と同じものだったということを。
穏やかな心を持ちながら激しい怒りに目覚めることがスーパーサイヤ人に目覚める条件
ならば、今の悟飯の心はさらに未来への希望すら加われていた。
トランクスを守るという尊い決意が悟飯の限界を遥かに超えさせる。
例えベジータと同じ手段をとろうと、悟飯とではその潜在能力は比較にならない。必然、
引き出される威力も大きく異なる。
「うわぁぁあああああああああああああ!!」
咆哮とともに膨れ上がった光はどこまでも尊く、そしてどこまでも純粋だった。しかし
それがもたらすのは悲しいかな破壊に他ならない。
それでも、薄れ行く意識の中悟飯は満足していた。あせりの表情を浮かべたまま全力で
気孔を撃つ人造人間たち。しかしそんなものを意に返さず、光は一瞬で彼らを打ち消して
いたのだ。
トランクスを、地球の未来を守ったのだ。
そうして、辺り一面を破壊しつくしてその光は収縮した。後には何も残らない。
そう、孫悟飯の死体さえも。
――べジータが決死の自爆を敢行した同じ未来。遥かな力は次元すら歪めると証明され
ていた。その力に、悟飯と人造人間たちが放った力の衝突は匹敵していたのだ。
「次元震動!? まさか、こんなところで!!」
時空空間を潜行していたアースラの中がにわかに慌しくなる。あるいは平行世界に危機
が訪れるかもしれないのだ。
可及的速やかにその原因を突き止めなければならない。可能ならば排除も。
しかし、その備えは結果として杞憂に終わった。
次元の乱れは一瞬で収まり、そして計測を終えた次の瞬間、アースラのモニタには一つ
の映像が映し出されていた。
「次元……漂流者か?」
その身を山吹色の道義に包んだその青年の名は、もはや言うまでもなかった。
/To Be Continued?
最終更新:2008年05月30日 16:38