(もしも容疑者が、絞られている四人の内誰か一人としたら……どうしてアリバイ工作もしなかった?)


L change the world after story

第4話「初事件・解決編」


Lは、この事がずっと気がかりでならなかった。
ここまで念入りな犯行をするなら、何故アリバイの方にも手を回さなかったのか。
まずこの犯行そのものが、突発的なものとは思えない。
それなりに計画を立てた上での犯行なのは明確……それなら、アリバイに気を回さないのはおかしい。

(今挙げられている四人は全員白で、ちゃんとしたアリバイがある者が逆に犯人か……
 いや、とにかくこの四人に関してまずは調べてみるべきだ。
 家宅捜索をしてみて、決定的な証拠そのものは出てこなかったとしても、証拠を処分した痕跡が出てくるかもしれない。
 もしも出てこなかったならば振り出しだが、出てきたならその人物に絞って推理は可能だ)

何はともあれ、やはり家宅捜査に出るしかない。
令状を発行出来次第、容疑者四人の自宅に乗り込んだ方がいいだろう。
Lは板チョコを全て食べ終わり、口周りを軽く拭いて綺麗にする。
とりあえず今は、この四人のうち誰かと仮定して推理を進めるとしよう。

(仮に、アリバイ工作が出来なかった理由が犯人にあるとすると……いや。
もしかして、出来なかったのではなく敢えてしなかった?)

犯人には、アリバイを作れなかった原因があったのではなく、敢えてしなかったのではなかろうか。
ふと、そんな考えが過ぎったが、それにはデメリットだけで一切メリットが無い。
まずありえないだろう、そう考えてここで一度この事を考えるの打ち切る。
今は、別の事柄に注目して推理を進めた方がいいと判断しての結果である。

この四人の中で、そんな時間に呼び出しが可能な人物は1人……被害者の恋人しかいない)

Lが注目したのは、深夜の三時頃という死亡推定時刻。
考えてみれば、四人の中でこんな時間に被害者を呼び出せそうなのは恋人ぐらいなものである。
例え親しい仲であるとは言え、職場仲間や恋人の妹から呼び出されたとして、果たして被害者が応じるだろうか。
絶対にないとまでは言い切れないものの……恋人に比べれば、可能性はかなり低い。

(恋人が殺害したというのなら、さよならというあのメッセージの意味も一応分かるは分かる。
そして、もしあのメッセージに他に意味が、それも私の思っている通りのものがあるとしたら……そうだ。
それなら、アリバイも解決できる)

ここでLは、先程デメリットしかないと考えた己の考えを打ち消した。
ほんの僅かではあるが、状況次第ではアリバイが無い事が逆にメリットとなる可能性があるのだ。
そしてそれは、見事なまでにこの状況と一致している。

(ここは、クロノさん達に、家宅捜索に出てもらいましょう。
それでもしも何かが出てきたら、黒と見ていい……もうこれは、徹底的に調べ上げるしかない)

Lは給湯室から出て、再び無限書庫に向かっていく。
現時点で一番怪しいのは被害者の恋人……ここは賭けに出て、彼女に狙いを絞ってみよう。
そして少しでも疑わしい要素が発見でき次第、徹底的に調べ上げる。
かつて、夜神月がキラであると断定した時の様に……僅かでも何かを感じさせられる相手には、積極的に挑むのが一番である。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「すみません、今戻りました」
「あ、Lさん」

Lは無限書庫のドアを開き、中に足を踏み入れる。
すると……そこには、新たに一人の来訪者がいた。
先程、書類を提出しに出て行っていたなのはが戻ってきていたのだ。
「どうも、なのはさん……その様子だと、お話はユーノさん達から聞いたようですね」
「はい……何だか、大変な事になっちゃってますね」
「ええ、結構大変です。
 今も、どうするべきか考え中です……クロノさん、そちらの方で何か進展はありましたか?」

Lはすぐにユーノの側まで浮き上がって、モニターを覗き込む。
すると……そんな彼に対して、二人はある吉報を告げた。
たった今、丁度事態に進展があったのだ。

『それなんだが、被害者の自宅を調べていた局員から連絡があったんだ。
 どうやら、妙な写真があったらしい』
「写真……それ、今すぐ見られますか?」
『そう言うと思って、もう準備は出来てるよ』

エイミィはすぐさま、被害者の自宅から見つかった一枚の写真をモニターに映し出す。
そこに写っているのは、手を繋ぎながら互いに微笑みあっている一組の男女。
そして男性の方は、他でもない被害者である。
だがこれはどこからどう見ても、仲が良いカップルの写真にしか見えない。
一見、妙な点など何も無さそうだが……しかし。

「この写真、一緒に写っているのは、恋人さんじゃないですね?」
『ああ、そうなんだ』

すぐにL達は、その妙な点に気が付いた。
被害者と一緒に写っているのは、被害者の恋人ではない別の誰かだったのだ。
局員達も、聞き込みの時点で恋人の顔を確認しているので間違いない。

「二股、浮気。
 そういうことですね」
「でも、元恋人って可能性もあるんじゃないんですか?
 昔付き合っていたけど、今は違うとか……」
『いや、それは考えにくい。
 写真の裏にバックナンバーが入っていたんだが、それは丁度一週間前のものなんだ』

クロノがそう言うと同時に、エイミィが写真の裏側を映し出す。
そこには確かに彼が言ったとおりに、丁度一週間前のバックナンバーが入っていた。
つまり、この写真は一週間前のものであると同時に、被害者とその女性との関係を証明している。
「被害者と恋人さんとは、半年前からの付き合い。
 しかしこの女性は、被害者と少なくとも一週間前には関係があった。
 これで被害者の恋人が、尚更怪しくなりましたね」
「メッセージと、犯行時刻の事とでですか?」
「ええ、ユーノさんもお気づきでしたか」

ユーノもどうやら、Lと同様の理由で恋人が怪しいと考えていたらしい。
そして、ここにきて被害者の浮気が発覚するという事態。
動機としては十分であり、さよならのメッセージもこれで筋が通った。
もうここまできたら、他の者達は横に置き、彼女一人に狙いを絞るのみであるが……
もしも本当に、動機が浮気だったとしたら、一つだけ確認すべき事がある。
Lはモニターに目を向けたままの状態で、なのはへと尋ねてみた。

「なのはさん、一つ質問します」
「はい、何ですか?」
「もしもあなたが仮に、ユーノさんと付き合っているとして。
 そのユーノさんが他の女性と親しくしている所を目撃したら、どう感じます?
 無論、友人としてではなく異性としてで」
「ふぇっ!?」
「ちょ、ちょっとLさん!?」

いきなりの発言に、なのはとユーノは顔を赤くして驚いた。
一体、こんな時に何を言い出すのか。
二人とも、そう反論しようとするが、対するLの表情はかなり真剣なものであった。
しかしなのはにとって、これはそう簡単に答えられる質問ではない。

(ユ、ユーノ君と私と……確かにユーノ君とは、昔からずっと一緒だったし。
よく皆からも、付き合ってるんじゃって言われるけど……)

自分に最も近しい異性であるユーノ。
そんな彼に対し、好意を抱いているか否か。
Lの質問には、この様な意が含まれている。
確かに、ユーノに対して他の男性とは違う感情を少なからず抱いているのは事実であるが……そんな事、すぐにここで言えるわけがない。
それは告白も同然の行為である。

(なのはが、僕の事をどう思ってくれてるか……
もしも、僕となのはの気持ちが同じだったとしたら……)

そしてそれは、ユーノの方も同様であった。
彼もまた、なのは同様に顔を赤くして、完全に言葉を失っていた。
そんな二人の様子を見て、周囲の司書達はニヤニヤと笑っている。
予てから様々な噂があったこの二人だが、果たしてここで何か進展があるのか。
誰もがそれを期待していたが、残念ながら今はそれどころではない。

『やれやれ……Lさん、もっと普通に言ったら?』
「ええ、どうやらそうした方が良かったみたいです。
 一応、一般的な女性の意見もと思ったのですが」

ここで、エイミィが二人に対し助け舟を出した。
正直な話、彼女もこのままどういう反応を二人が見せるのかというのは、興味があった。
だが残念ながら、今は事件の方を解決させるのが優先である。

『お前らしくもないな、ユーノ。
 Lが何を言いたいのか、少し考えれば分かるだろ?』
(じゃあクロノは、あんな質問されて冷静でいられるのか?)

内心、ユーノはクロノに毒づいた。
ここでそれを口に出さなかったのは、なのはの事も考えてであった。
しかし、そんなクロノもこの様子では、どうやらLの言葉の意味には気づけたらしい。
すぐにユーノは冷静さを取り戻し、Lが何故あの様な質問をしたかということについて考えた。
そしてその答えを出すのには、然程時間はかからなかった。

「被害者の恋人が犯人で、且つ、動機が浮気だったとしたら、普通は浮気相手に対しても殺意を抱く筈だって事ですか?」
「ええ、そうです。
 大概この手の事件というのは、浮気をした恋人とその浮気相手と、両方に対して犯行を行うものです。
 しかしながら、今この時点における殺人事件についての報告は、この事件に関して以外管理局には入っていないと」
「それってまさか……?」
『近々、浮気相手の方も殺害する計画を立てているということだな』

犯人は更に罪を重ねる危険性がある。
Lが言いたかったのはこの事であり、同時にこの最悪の事態を危惧してもいた。

「昨日の今日ですから、流石にすぐ犯行には及ばないでしょう、ですが。
 逆に言えばそれは、時間が経てば危険だという事です。
 恋人さんが犯人でさえなければ、そもそもありえはしないでしょうが、現状犯人である可能性が一番高いだけに警戒すべきです」
『じゃあ、そろそろ家宅捜索に入って事実を確認してみるか?』

ここでクロノは、そろそろ家宅捜索に入るべきかどうかを尋ねてみる。
現在の状況を考えれば、動き出すには十分すぎる理由がある。
状況証拠的に、被害者の恋人を最重要参考人として扱うことは大いに可能。
そうなれば、家宅捜索には容易に踏み切れる。
事実Lも、先程まではそう考えていた……だが。

「いえ、もう少しだけ待ってもらえませんか?
 今出てきた事実ですが、もしかすると私の引っかかりと繋がる可能性があります。
 行動に出るのは、それをはっきりさせてからにしたいです」

しかし今は、先程までとは少し状況が変わった。
先程は、それ以上の推理材料が全くなかったからそう考えていた。
だが今は、新たな推理材料が出てきてくれた。
これが、己の中で引っかかっていたことに見事に結びついてくれたのだ。

『引っ掛かり?』
「ええ、今のを聞いて完全に分かりました。
 犯人が何故アリバイを用意しなかったのですが、する必要がなかったからです。
 考えてみてください、犯人がこれで連続殺人を犯したとして、その片方の犯行時刻にアリバイがあったとしたらどうします?」
「あ!!」

Lの言わんとしている事を察し、なのははやや大きめの声を出して驚いた。
彼の言うとおり、犯人が新たな犯行を計画しているとする。
そして、そちらにはちゃんとしたアリバイ工作を考えているとしたら、犯人を挙げるのは極めて難しくなってしまう。

『あのメッセージを次の犯行時にも現場に残せば、完全な連続殺人ということになる。
 外部には一切公表して無い以上、便乗した者の犯行という線は完全に消えてしまう。
 そうなれば、局員が犯人ででも無い限りは流石に同一犯による犯行として処理されざるをえない。
 そして、その時にもしもアリバイがあってしまえば、例え前の犯行時にアリバイが無かったとしても無意味になる。
 これが犯人の狙いか……!!』
「両方共にアリバイを用意しなかったのは、それが不可能だったから。
 もしくは、自分を特別視されないように仕向ける為でしょう。
 それぞれにアリバイが有るのと無いのとでは、逆に完全に無いのよりも、怪しまれる可能性は少なくなります」

犯人は敢えて一回目の犯行のアリバイを用意しないで、二回目の犯行で己の無実を証明するつもりでいる。
これは、かつてのキラ事件において、己が監視されている事に気付いた月と同様の行動である。
完璧すぎては逆に怪しまれるかもしれないと判断し、そうならない様にアリバイを有る場合と無い場合と、二つ用意してきたのだ。
だとすると、このままではまずい。
「当たり前の事ではありますが、二度目の犯行はこれで尚更防がなければならなくなりました。
 しかし、現時点での逮捕は難しい。
 同行してもらったとしても、長期の行動制限は状況的に少々厳しい、はっきり言って最悪です」
『だったら、その浮気相手の方に常時監視をつけといて、犯行の現場を押さえるとか?
 それなら殺人未遂の現行犯で逮捕できるしさ。
 何も起こらなかったら、まあそれはそれで何も無くて良かったってことで』
「それが妥当な判断ではあるでしょう、ですが。
 厄介な事にそれだと、一度目の犯行に関しては裁く事が出来ません」
『だが、それでも新たな犯罪を防ぐ事は出来る』
「しかしそれでは、私の気が治まりません。
 こんな形で犯人を逮捕するのは、はっきり言って嫌です」
『なっ!?』

Lのこの発言には、誰もが驚き呆れさせられた。
あろう事か彼は、自分が嫌だからという理由で犯人逮捕に踏み込まない気でいるのだ。
これは以前にも月達から指摘されたが、Lは完全な勝利を目指そうとする傾向がある。
その悪い所が、今ここで露出してしまったのだ。

『ふざけるな!!
 人命がかかっているのに、何を言い出すんだ!!』
「そうですよ、Lさん!!
 確かに、気持ちは全く分からない訳でもないですけど、そんな事を言ってる場合でもないじゃないですか!!」

当然ながら、これにはなのはやクロノ達が猛反論する。
ユーノとエイミィも、二人ほどではないにしても勿論Lに対して不満を告げた。
Lとしては、当然ながら不満な展開である。
しかしながら、それでも人命が第一というのは分かっている。

「……そうですね、人命は大切です。
 分かりました、何としてでも一回目の犯行を立証する方法を考えますが、一応お願いします。
 浮気相手の方が何者なのかを早急に調査して、所在が分かり次第気付かれないよう監視を」
『……一応、か』
「ええ、一応です」
Lの言い方に対し、クロノは少々苛立つ。
先程はマイペースだと言ったが、ここまでくると流石に度が過ぎている。
一気に場の空気は一変し、険悪なものへと変化した。
このままでは流石にまずい。
そう判断し、とっさにエイミィが口を挟む。

『え、えっとさ。
 家宅捜索の方は結局どうするのかな?』
「勿論お願いします。
 これで証拠を始末した痕跡すら見当たらなければ、今までの議論は無駄になりますが。
 それを確かめる為にも、実行しませんとね。
 一応任意でですから、断られる場合を想定して、令状等の準備も。
 まあ犯人の考えがこちらの予想通りでしたら、寧ろ断らずに受け入れてくれるとは思いますが」
「案外、動かぬ証拠とか見つかるといいんですけどね。
 こう、見落としていた何かとか」

ユーノもとっさのフォローを入れる。
実際に、何か意外な証拠が見つかるという可能性はゼロではない、だから気を落とすなと。
そしてそこへ、なのはも続けて口を開いた。
彼女もまた、何気ないフォローのつもりであった……しかし。

「それにもしかしたら、焦った犯人が口を滑らせるかもしれませんよ?」

その一言は、Lに行動へと移させる引き金となった。

「……そうですね。
 それでいってみましょうか」
「ふぇ?」

なのはの言葉を聞いたと同時に、Lの中で考えが纏まった。
犯人をどう逮捕するか、完全に策が出来上がったのだ。
やや強行的な手段であるが、同時に効果的でもある方法が。
出来るならば、もう少しだけ物的証拠を出して追い詰めたかったが、仕方がない。
「Lさん、もしかして?」
「ええ、上手くいけば犯人を逮捕出来ると思います。
 クロノさん、少し家宅捜索の前に準備をしてもらってもいいですか?」
『準備だと?』
「はい、ここからは魔法の出番です」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「家宅捜索ですか?」
「ええ、犯人の疑いがある方には全員一斉に検査を行っています。
 けどまあ、安心してください。
 逆に言えば、これで何も見つからなければ、あなたは犯人ではないということですから。
 それにこれは任意ですから、無理ならば断ってくれても構いませんよ」

それから数十分後。
クロノは数人の局員を引き連れ、容疑者―――被害者の恋人の自宅へとやってきていた。
Lの指示通り、家宅捜索に入ることにしたのだ。
ちなみにここで、全ての容疑者宅を一斉に検査をし始めたといったのは真っ赤な嘘である。
行うのは彼女一人に対してだけであり、彼女の警戒心を抑える為にワザとこの様に言ったのだ。

『口が巧いなぁ、ハラオウン提督』
『流石っていうか、何と言うか。
 でもよ、何で提督が自分から動き出したんだ?
 Lさんから聞いた策は、別にそんなに難しいことじゃないってのに』
『確かにそうだよなぁ……』

局員達は、クロノの口の巧さに感心する一方、何故彼がこうして動いているのかが気になっていた。
非番の所を付き合ってもらっているとはいえ、彼は提督である。
この様に自ら動くというのは、地位を考えればどうにも考えにくかったのだ。
一体どうして、クロノはこうしているのか……それは言うまでもなく、Lが原因である。

(L……お前の策が本当に上手くいくかどうか、目の前で見せてもらおうじゃないか)

クロノは先程のLの発言により、一気に彼に対しての不快感と敵対心を覚えた。
しかしながら、彼の実力を認めていることもまた事実であった。
ここまで状況を整理できたその推理力は大したものであり、世界一の探偵というのも頷ける。
憎めない奴、というのは少々妙な言い方ではあるが、何とも言えない気持ちを覚えたのは確かであった。
だからだろうか、こうして目の前で彼の策を見たくなったのである。

「そうですか……分かりました。
 それじゃあ、その間私は外の方にいればいいでしょうか?」
「いえ、大丈夫ですよ。
 寧ろ中にいてもらった方が、質問等がある時に楽ですから」
「分かりました。
 それでは、中へどうぞ」
相手は家宅捜索に素直に応じてきた。
この反応に、少々ではあるがクロノは眉を細める。
普通、あなたには容疑がかかっている、だから家宅捜索をさせてほしいと言われ、こうもすんなり受け入れるだろうか。
例え犯人で無かったとしても、自宅に踏み入られるとあれば堪ったものではない。
何かしらの戸惑いや、もしくは拒絶反応を確実に見せるはずである。
そうなれば仕方が無い、令状を発行するなり、それなりの手続きを取らなければならない。
いや、寧ろそうしなければ普通はこんな真似などできない。
はっきり言って、相手も完全に同意してくれる場合というのは極めて稀なのだ。
だからクロノは、この段階では捜索を断られるのを覚悟していた。
しかし彼女は、至って冷静に、驚く様子も無く自分達を受けいれてきたのだ。
これではまるで、自宅を捜索されるのが分かりきっていたかのようである。
自分が怪しまれるというのを、見越していたとしか思えない。

(やはり、か)

これでより一層、この女性が怪しくなった。
クロノはすぐさま、他の局員達へと念話でその旨を伝える。
その後、彼等は彼女に案内され、家屋へと足を踏み入れようとする……が。

「……」
「おい、どうした?」
「あ、ああいや、その……少し緊張しちゃいまして」

一人、やけに緊張している者がいた。
オレンジ色の髪の毛をツインテールにした、若い女性である。
クロノはそんな彼女を見て、優しく微笑みかけた。

「大丈夫、肩の力を抜いて。
 気持ちは分かるが、落ち着いてやれば大丈夫だ」
「は、はい……ありがとうございます」

クロノの言葉を聞き、彼女は一度大きく深呼吸する。
そして、ホンの少しだけ天を仰いだ後、気を引き締めて中へと入っていった。
これで、被害者の自宅に入るという第一関門は突破。
後は証拠を始末した痕跡をどうにかして見つけ出し、策を実行すればいい。
すぐに局員達が一斉に動き出し、家の中を隅々まで捜索し始める。
Lの言うとおりならば、確実にある筈だというある物を探して。

『これは……提督、ありました!!』
『本当か!!』

そして数分後に、一人の局員がそれを発見した。
庭先に置かれていた、恐らくは次のゴミの回収日に捨てる予定であろうゴミ袋。
その中には、Lが言ったとおりの物―――大量の灰があったのだ。
この念話を受け、クロノは即座に全局員へと同じく念話で指示を出す。
準備は完全に整った、後は策を実行するのみである。
早速クロノは、容疑者の女性と共にその場へと向かっていく。

「すみません……この灰は?
何か、それなりの量の物を燃やしたみたいですが」

クロノは部下からゴミ袋を受け取り、その中にある灰を手に取った。
紛れも無く何かを燃やしたという証拠であり、そして推理通りならば燃やした物は犯行当時の衣類。
上着、ズボン、手袋、靴下、靴。
返り血が付着してしまったであろうもの全てである。

「ああ、これは昨日間違えて燃やしてしまったんです。
 洗濯物を干していたんですけど、ストーブの火の不始末で……ほら、奥の部屋も、畳とかが駄目になってません?」
「そうですか……それは災難でしたね」
『やはり、素直に認めるわけが無いか……部屋はどうだ?』
『言うとおり、黒く焼け焦げた痕跡があります。
 本当に不始末では無いのなら、恐らくは自分の手でやったものだと思われますね』

女性の言うとおり、奥の部屋には畳が焼け焦げた後があった。
どうやら、これはかなりの念の入れようである。
御蔭でこの問題は、これ以上追及するのは難しいだろう……ただし。
それはあくまで、普通の場合である。
Lの考えた策は、この普通を覆すとんでもない代物なのだ。
そしてクロノは終に、その策の実行へと踏み切る。

「それじゃあ、いきなり家宅捜索に出てしまった御詫びも兼ねまして、我々の方で修復しましょうか?」
「え……?」

修復。
クロノの口から出たその一言を聞き、被害者の顔が一気に凍りついた。
まさか、そんな馬鹿な。
彼女は、まさにそう言わんばかりの表情を露にしていた。
そしてクロノはそんな状態の彼女へと、容赦無しの追い討ちをかける。

「ええ、修復魔法ですよ。
 この程度の量の灰でしたら、何とか燃える前の衣類に戻す事が出来ますしね」
「そ、そんな魔法があるんですか?」
「はい、結構皆さん驚かれるんですよ。
 まあ、信じ難い魔法でしょうから無理は無いですがね」

女性の悪い予感は、完全に的中してしまった。
灰を元通りにするなどという魔法があるなんて、思いもよらなかった。
このままでは確実にばれてしまう。

(そんな……でも、断れない。
断ったら、それは私が犯人だって言うようなものじゃないの……!!)

自分の不始末で失ったものが元通りになると言われ、それを嫌がる者などまずいない。
ましてやこの状況では、別に修復などしなくていいと言えば完全に怪しまれる。
自分は証拠を燃やして処分しましたと、そう言ったも同然なのだから。
しかし、それをせずともこのままでは証拠が出てしまう。
最早……逃げ道は無かった。

「それじゃあ、はじめますよ」

クロノはゴミ袋へと掌を向け、そっと目を閉じる。
すると、その直後。
ゴミ袋は一瞬眩く光り……そしてその光が収まった時。
その中には灰は一粒も無く、代わりに彼女が最も恐れている代物―――血塗れの衣類があった。

「そんな……」

女性はその表情に絶望を露にし、膝から床に崩れ落ちた。
己が罪を犯してしまったという事実が、完全に発覚してしまった。
ここからの言い逃れは、もはやどう足掻いても出来ない。

「どうやら、決定的な証拠が出てきてしまったな」

クロノはそんな彼女へと、無表情で言葉をかける。
それと同時にバインド魔法を発動させ、手錠代わりとしてその両腕を即座に拘束した。
女性はこれに対し、全くの抵抗を見せない。
己の罪を、完全に認めていた。

「完璧だと……思ったのにね。
 対して驚いてるようには見えないけど、やっぱり最初から私に狙いをつけてたのね?」
「ああ、そちらの考えが全て分かったからな。
 あのメッセージも、今後の事を考えてやったもので間違いはないんだろう?」
「ええ、そうよ。
 次にあの女を殺す時、私には完璧なアリバイがある様に考えてたわ。
 連続殺人なんだから、これで私は容疑者から外れる。
 晴れて白って思ったんだけど……残念ね」
「一応、メッセージの意味も聞いて構わないか?」
「そのまま、さよならって意味よ。
 あれでも一応、好きだった相手だったものね」

己の目的と、そしてメッセージの意味。
女性はクロノの問いに対し、素直に答えていく。
全てがばれた以上、隠し事などしていても無駄だと悟ったからだ。

だが……彼女はこの時、己が墓穴を掘った事に気付いていなかった。
そしてその事実を認識するのは、このすぐ直後である。

「まさか、こんなに巧くいくとはな」
「え?」
「あれをよく見てみろ」

クロノは女性に対し、ゴミ袋を指差しながら呟いた。
女性はすぐにそれを見て……そして、驚き声を失った。
それも当然である。
何故ならそのゴミ袋には、血塗れの衣類など入っていないのだから。
先程と同じく、大量の灰が入っていた状態なのだから。
「え……え!?
 ど、どういう事?」
「修復魔法なんて、そんな便利なものは最初から無かったという事だ。
 そういう風に見せかけてた……幻術を使ってな」
「幻術!?」

先程の光景は全て、幻術で見せかけた偽物である。
女性はそんなクロノの答えに、大いに驚愕した。
これこそが、Lの考えた策。
犯人に対して幻術を用い、その自白を促すという強行手段である。
効果は見ての通り絶大……しかし。

「で、でも自白じゃ完璧な立証にはならないわよ!!
 それにこれなら、強要されたって取る事も……!!」

自白だけでは、逮捕に踏み切るのは不可能。
ましてや状況的には、そう言う様に強要されたとも取れる。
これを武器に、言い逃れる事は出来る。
そう思い、彼女は開き直ったのだ。
だが……それも無駄な足掻きに終わる。

「いや、残念ながらあなたの有罪は確定だ。
 犯人であるという決定的な証言が出てきてしまったんだからな」
「証言って、何を根拠に……あっ!?」

ここで女性は、己がとりかえしのつかないミスを犯した事に気付いた。
先程のクロノの問いに対し、つい素直に答えてしまったのだ。
自分が犯人でなければ知りえない情報……犯行現場に残されていたメッセージについてを。
まんまと乗せられてしまった。
見事なまでに、嵌められてしまったのだ。

「現地の捜査に当たっている局員以外にあの情報は開示していない。
 唯一例外としてあれを知っているのは、書き残した犯人だけだ。
 そして君は、それの意味についてまでも完璧に答えてしまった。
 こうなっては最早、言い逃れは出来ないぞ?」

立証は出来た。
これで、全て終わったのだ。
女性の顔に再度絶望の色が浮かび、そして地面に両手をついて崩れ落ちた。
「……結構えげつないわね、管理局のやり方って」
「だそうだぞ、L」

クロノは軽く溜息をつき、通信機器のモニタースイッチを入れる。
ここまでのやり取りは、実は全て無限書庫にも筒抜けであったのだ。
ただし、犯人に余計な警戒心を覚えさせぬ様、モニターの電源は切って音声のみにしてである。
そして今、ようやくモニターが入ったわけなのだが……

『お疲れ様です、クロノさん』
「……おい、何だこれは?」
『モニターの電源をお切りになられている間に、ユーノさんに用意してもらいました。
 一応、人前に姿を現す時は、こうするのが私のスタイルでして』

モニターに映し出されたのは、無限書庫の風景などでは無かった。
それに代わって、真っ白な背景に特殊な字体で『L』の一言が唯一書かれているだけの、一枚絵が映し出されていたのだ。
聞こえてくる音声も、肉声ではなく機会音声になっている。
これは、Lがこれまでの活動で己の顔を隠す為に使い続けてきたものである。
彼はクロノがモニターを切っている間に、これをユーノに用意してもらっていた。
こうして被害者の前に顔を出す際、万が一の事があっては困るからという配慮である。

『今回の一番の功労者はあなたです。
 ありがとうございました、ティアナさん』
「いえ、そんな……私こそ、お役に立てて光栄でした。
 ありがとうございます!!」

Lはこの逮捕劇における最大の功労者―――ティアナ=ランスターへと礼をした。
先程、やけに緊張をしていたあの少女である。
彼女は実は言うと、捜査に当たっていた局員ではない。
いや、それ以前に局員ですらない民間人なのだ。
そんな彼女が何故、この場にいるのか。
その話は、つい十数分程前に遡る。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「クロノさん、そちらで幻術魔法を使える方はいませんか?」
『幻術だと?』
「ええ、犯人を追い詰めるにはこれが必要不可欠なんです」

Lは己の策を実行するに当たって、幻術魔法が必要不可欠であるとクロノに告げた。
一体、幻術を使って何をするつもりでいるのか。
先程のなのはの発言を聞き、何かを思いついたようではあるが……ここでクロノが、ある最悪の可能性に気付く。

『まさかお前、被害者に幻を見せて脅すつもりか?』
「脅迫はしませんが、その考えで正解です。
 まず今の状況を整理しますが、犯人は十中八九被害者の恋人と見て構いません。
 しかし犯人は、殺人の証拠を一切残していないと思われます。
 だが……証拠を処分したという証拠は確実に有ります、それこそが犯人の最大の弱点です」
『それって、どういう事?』
「この証拠が殺人の証拠であると犯人に見せ付けられれば、言い逃れは出来ないということです。
 しかし残念ながら、私が先程までこの書庫内で見た資料の中には、それが可能そうな魔法はありませんでした。
 ですから、ここはそれがある様に見せかけます」
「……もしかして、Lさん!?」

Lが何を言わんとしているのか、真っ先にユーノが気付いた。
それは、脅迫等よりも遥かに性質が悪い代物。
正真正銘の問題行為……幻術による証拠の捏造である。
少しばかり遅れて、クロノ達もそれに気付いた。
無論、賛成など出来はしない。

『一体何を考えているんだ!!
 そんな方法、例え犯人を逮捕できたとしても……』
「いえ、これで逮捕するつもりは毛頭無いですよ」
『何?』

しかし、Lはそんなクロノ達の言葉をあっさりと流した。
彼とて、己の為そうとしている事が問題行為である事ぐらい分かっている。
これで犯人を逮捕すれば、逆に自分達が糾弾される事になるであろう事ぐらい予想できている。
だが……これが決定打で無いのならば、話はまた別である。
「幻術で証拠を捏造する目的は、逮捕ではなくあくまで自白です。
 自分が犯行を行ったと、そう発言させられさえ出来ればいいんです」
「一体、どういう事なんですか?」
「犯人の逮捕に必要なのは、何も証拠だけではありません。
 なのはさんが先程言ったように、捜査上我々と犯人しか知らない証言があれば、それでもOKです。
 そして現在、それに最も適しているものが一つあります」
『適している……そうか、犯行現場のメッセージ!!』
「ええ、犯人があれの存在を口にするように誘導させられれば、それでチェックメイトです。
 おまけに犯人は、こちらがメッセージの筆跡を頼りに迫ってくるのではと思っている可能性が高い、逆にそこを突きます。
 犯人が自白するまで一切メッセージの存在は口にせず、ギリギリの所でさりげなくその意を尋ねる。
 これ以上ない、理想的な攻撃です」

証拠を捏造する真の目的は、犯人を自白させた上で、更に決定的な証言を得る事であった。
そしてその証言は、捜査に当たっている局員と犯人以外に知る者がいない、あのメッセージについてである。
己が完全に敗北したと思いこんでいる相手から、それを聞き出すのは容易い。
皆がこの方法に納得し、そして最善であるとも思った。
だが……現状、これを実行するのには問題が一つある。

『駄目だ、L。
 確かに効果的な作品だとは思うんだが……これを実行に移すのは不可能だ』
「まさか、いないのですか?」
『ああ。
 残念だが、捜査に当たっている局員には一人も、幻術を使える者がいないんだ』

今この場には、幻術魔法を使える魔道士が一人も居ないのだ。
これでは、幾ら策を実行に移したくとも不可能である。
尤も、Lとてこの状況を全く想定していなかったというわけではない。
使える者がいないならば、すぐに探すまでである。

「なら近隣の担当に連絡して使える方を、いえ、いっそこの野次馬の中にいるかどうか聞いてください。
 この程度の事でしたら、民間人がご協力しても問題は無いはずですよね?」
『お前……さりげなく、とんでもない事を言ってくれるな』
「駄目ですか?
 なのはさんやユーノさん達も、元々は民間の立場でありながらも管理局に協力し、その後管理局入りしたと聞いてますが」

行動を移すならば早い方が断然いい。
Lはインターネットで仕入れた情報を武器にし、クロノと交渉をする。
ユーノ達の様な前例があり、更に彼等の時と違って格段に危険度は低い。
断られる理由は無い。
無論、これで使い手が居なければ素直に局の方へと要請はする。
『だが、もし相手が犯人でなかったら責任問題だぞ?』
「ですから、犯人であると100%確信出来た状況で使いますよ。
 まあ、それでも万が一という可能性も一応考えて、失敗した時には報告書にこう書いてください。
 無限書庫司書長が人質に取られ、無理矢理やらされた、と」
「ちょっと、何言ってるんですか!?」
『……自分がどうなるか、分かって言ってるのか?』
「ええ、私の推理が正しいと確信して言っています」

Lは己の推理が正しいと確信しているからこそ、この様な無茶な発言をさらりと言う事が出来た。
もはやこれには、ユーノ達も溜息しか出ない。
こうなれば、どう言っても彼は己の意見を曲げないだろう。
尤も、彼の推理が正しいであろう事は皆分かっている。
ならばここは、やるしかないだろう。

『……こちらで無茶と判断出来次第、作戦は中断する。
 この条件でいいな?』
「ええ、ありがとうございます。
 それでは早速、お願いできますか?」
『ああ、分かった。
 エイミィ、いなかった場合に備えて近隣の部隊にも連絡を頼む』
『はいはーい、もうやってますよっと』
「仕事が早くて助かります、エイミィさん」
『ま、クロノ君の考えは御見通しだもんね』

エイミィの手際の良さに感心をしつつ、クロノ達は局員に指示を出す。
もしもこの野次馬の中に幻術の使い手がいてくれれば、それ程都合のいい事は無い。
そうなってくれる事を願いつつ、Lは報告を待つ事にした。
しかし、待っている間に何もしないというわけではない。

「ユーノさん、今のうちに少しお願いしたい事があります」
「何ですか?」
「私の声を機会音声に変更する手段を、すぐに用意してもらえますか?
 それと、少しペイントソフトを使わせてください」
「機会音声にペイントソフトですか?
 一体、何を……もしかして顔を隠す為ですか?」
「ええ、ここからは一般の方と、そして犯人を相手に姿を見せる可能性が高くなります。
 それに備えまして……」
『L、見つかったぞ。
 幻術魔法を使える者が一人いた』

Lが己の考えを告げようとした、その瞬間であった。
クロノから、幻術魔法の使い手が見つかったという報告が入ったのだ。
それを聞くと同時に、Lは素早くポケットへと手を伸ばし、先程食べていた板チョコの包み紙を取り出す。
そしてそれに指で覗き穴を空け、簡単な仮面を作ったのだ。
まさかこんなに早く見つかるとは思っていなかったので、この場はこれで代用しようというわけである。
傍からすれば、異様な事この上無い訳ではあるが。

『……何の真似だ、L?』
「いえ、気にしないで下さい。
 それよりも今は、事件の方をどうにかするのが先です。
 それで、後ろの方がそうですね」
『ああ。
 すまないが、自己紹介を頼めるかな?』

クロノは、後ろに立つ一人の少女へと声をかけた。
彼女が先程見つかった、幻術を使える一般人。
Lが求めていた人材である。

『はい、初めまして。
 私はティアナ=ランスターといいます』

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

『それじゃあ、僕達は現場の後始末に入る。
 ユーノ、L、色々と助かった』

そして話は現在に戻る。
犯人の女性は局員に連行され、事件は無事に解決した。
残るは事後処理だけであり、ここでL達の役目は終了する。
ティアナに関しては、後日に感謝状が贈与される事となり、彼女も大変嬉しく感じていた様であった。
ちなみに、これは同様の立場であるLにも当てはまる事ではあるのだが、これはL自身が断った。
尤も、その代わりとしてちょっとした要求をしたわけなのだが。

「それではクロノさん、エイミィさん、お願いしますね」
『……あまり期待はするなよ。
 幾ら犯人逮捕に協力してくれたとはいえ、無茶な要求なんだからな』
『こっちはまあ、問題無さそうだよ。
 使い古しのなら、それなりに良いのがありそうだしね』

クロノには、ここ数十年の間にミッドチルダ内で起きた事件に関する資料を。
エイミィには、使い古しのもので構わないので、パソコンを要求を。
それぞれ、報酬としてLは要求したわけである。
最初は、それはどうかと思ったが、Lがいなければ犯人は捕まえられなかった。
その為、出来る限りの事はしようと二人はLへと告げたわけである。

(それにしても、ティアナさんのあの喜びよう。
気持ちは、分からないでもないですが……)

Lはここで、ふと事件解決時の事を思い出す。
あの時のティアナは、かなりの様で喜んでいた。
あれは、感謝状を貰える事に対してというよりも、自分自身の力が役に立ったという事を嬉しく思っていた様に見えた。
思い返してみれば、野次馬の中から彼女が見つかったのもやけに早かった。
彼女は局員達の問いかけに対し、何の抵抗も示さず、素早く立候補したのではと考えられる。

(今この場で言うべきことではない、が。
ティアナ=ランスターさん、少し引っかかりますね)

気にしすぎかもしれないが、Lにはどうも彼女の事が引っかかっていた。
ティアナという名前、いや、ランスターという性に関して、後でユーノに調べてもらうのがいいかもしれない。
何も無ければそれに越した事は無いのだが、もしもという可能性があるからだ。

(ユーノさんも、何か感じたのでしょうか?)

ふと、Lはユーノの表情を伺う。
彼ももしかしたら、自分と同じ様に考えているのかもしれないと思ったのだ。
しかし、残念ながらユーノは何かを考えているといった様子ではない。
単に彼女から何も感じなかったのか、それとも感じてはいたが気のせいであると考えたのか。
どちらにせよ、後々この事は話すつもりではあるが……

(ん……なのはさん?)

ここでLは、なのはが何かを考えているらしい様子であったのに気が付いた。
ユーノではなく、彼女の方が自分と同じ事を感じたのか。
しばし、彼はその表情をうかがってみる。
だが……どうも彼女は、自分とは違う事を考えているらしい事にすぐ気付く。

(ティアナちゃんかぁ。
幻術は十分な腕前だったみたいだけど……)
「なのはさん?」
「あ……すみません、何ですかLさん?」
「いえ、何か考え事をしていたように見えましたので。
 ティアナさんの事、ですか?」
「ええ、ちょっと。
 幻術以外にも、何か魔法が使えるのかなって思って」

なのはが気にしていたのは、ティアナの使える魔法についてであった。
状況の把握こそ音声だけでしか出来なかったものの、彼女の幻術が高いレベルである事は十分認識できた。
それ程の腕前の持ち主なら、他にもそれなりに魔法が使えるのではとふと考えたのだ。
そしてLは、そう考えたその理由を即座に見抜く。

「なのはさんは、ティアナさんが将来管理局入りするのではと思ったわけですね」
「……凄いですね、Lさん」
「まあ、今のは直感みたいなものです」

Lは驚くなのはへと、大した事ではないという風に答える。
しかし、実際のところは直感ではなく、ちゃんと考えてこの答えは出してある。
彼女の先程の喜び様は、将来管理局に入りたいと思っており、その管理局に協力できたからではと、そう考えたのだ。
それならば、一応分からなくは無い。
「しかし、どうしてその様にお考えを?」
「大した理由は無いですよ。
 ただ、いい魔道士になれるんじゃないかなって思ったから」

なのはは微笑を浮かべてLに答える。
ティアナは将来、優れた魔道士になれるのではと直感した。
それは紛れも無い事実である……が。
実はこの時なのはは、昨日告げられた親友のある一言についても、同時に考えてもいたのだ。


―――私、自分の部隊を持ちたいんよ


(自分の部隊かぁ……もしはやてちゃんがここにいたら、今から狙いをつけてたりしたかもね)

彼女ならやりかねない。
そう思って、なのはは思わず苦笑してしまった。
勿論、そんな彼女の夢には喜んで賛成している訳ではあるのだが。

(でも……強ち、笑い話でもないか)

なのはは、静かにLへと視線を向ける。
昨日の空港火災に続き、今し方見せた見事な推理力。
彼程の能力を持つ者など、そうはいない。
もしも同じ部隊で共に戦う事となれば、相当の力になってくれるだろう。
恐らくは、はやてもそう考えている筈である。

(はやてちゃんはきっと、Lさんを自分の部隊に入れたいって思ってるだろうね)

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最終更新:2008年06月17日 20:28