白い月の照らす中、私は一人、巨木の元で瞑想をしていた。
 ……いや、瞑想というには、心が熱くなりすぎる。少しも平静でいられない自分に、今更ながら苦笑が漏れる。
 仕方がないのかもしれない。今日こそは彼女に逢える。そんな予感がする。そんな時に、「平静で居ろ」と言う方が無理だろう。
 とは言え、別段約束があるわけでもない。いや、そもそも、「彼女」が何者なのか、何処に居るのか、それどころか名前さえも知らない。
 だからこそ「予感」。そして、それは何度も裏切ってきたものでもある。
 今までにもあった事だ。こんな予感があり、ただ一人待ち続け、夜が明けて落胆とともに帰る。それは、何度も繰り返した儀式。
 だが、それでも構わない。ただ、彼女に逢えればいい。それだけでいいのだ。
 だからこそ、ここで待つ。約束も何もない彼女を待ち続ける。
 ここ――世界樹の下で。

 故郷を離れた私は、「武者修行」という名目で旅を続けていた。
 かつては「無双の剣士」と言われ、道場では右に出る者はおらず、外に出ても、数合の内に相手を叩き伏せていた。
 そんな私が旅に出たのも、「強い者と戦いたい」という内なる欲求からであった。
 「自分が何処まで通用するのか試してみたい」という想いからなのだが、改めて振り返れば、「戦闘狂」と呼ばれても仕方がない理由だ。我ながらあきれる。
 そう言った故か、自らを困難におくことを常とし、平穏を歩まぬよう心がけた。
 先立つものが足りないといって、護衛の仕事を買って出た事もあった。遺跡や未踏の洞窟があれば挑み、賞金首が居ればそれと戦った。あえて街道筋を離れ、盗賊団を叩きのめした事など一度や二度ではない。
 すべてが困難というわけではない。しかしながら、戦場に身を置き続けることこそ、自分の欲求にかなうものだ、と思っていた。
 だからこそ、その日も街道から外れ、深き森の中へと分け入った。そこで、あのような出逢いがあるとも知らずに……

 始まりは、何かを叩きつけるような音だった。そして、倒れる音とくぐもった悲鳴。
「……つまらんな。その程度か」
 ……近いな。
 どうやら、何者かが戦っているようだ。ややもすれば、一手願えるかもしれない。己を鍛える絶好の機会。見逃すのも惜しかろう。
 そう思い音のしたほうへ足を向けると、まさしく、二人の女が対峙していた。
 いや、「対峙していた」というのは適切ではない。一人はすでに、地に背を預けているのだから。
 倒れているのは、ぼろぼろになった紫のローブを纏った、ウサギのぬいぐるみを掻き抱いた少女。己を縛る鈴のついた鎖が、彼女がカースメーカーであることを表している。
 それに対するは、桃色の髪をポニーテールにした剣士。鞘に入ったままの剣を突きつけ、凛としたたたずまいではあるが、どこか悲しげな瞳で睨みつけている。
「くっ……」
 少女の弱々しい呟きと共に、鈴の音が響き渡る。涼やかなるその音色は、透明感とは裏腹に、四肢を縛り付ける力と成る。だが……
「無駄だ」
 その一言と共に剣士の振るった剣は、少女が差し伸べた腕を、差し出した鈴ごと払い飛ばす。
 少女のくぐもった声。剣士の怪訝そうな顔。あたかも、強いと思った敵が弱かったかのような。
 太刀筋から察するに、あの女剣士は強い。それに対し、少女は、カースメーカーとしては優秀かもしれないが、「闘う」という事については、術者の常か、たいした事はないのだ。
 ましてや、アルケミストのように事象を操るのではなく、直接脳を揺さぶるのが彼女たちの術。意思で押さえ込んでしまえば、ただ鈴を鳴らしているだけにしか見えない。
 あの剣士、少女が強いと聞き及んで襲い掛かったのであろうが、予想外に抵抗がないせいか、少々戸惑っているようだ。カースメーカーの術を知らなければ、これも仕方がないだろう。
「何をしようとしているのかは知らんが、その程度では、私には通用せん」
 やはり、カースメーカーの事は知らないらしい。しかし、術をかけている事にすら気付かないとなると、よほど意思が強いのであろうか。
「では、賭けたものを渡してもらおうか」
 その言葉に耳を疑う。
 あれほどの剣士が、追いはぎの真似事? それも、あんな少女をいたぶってまで?
 ……何やら込み入った事情がありそうではあるが、はてさて、どうしたものか……
「まだ……」
 なおも鈴を構え、術を使おうとする少女。しかし、痛みのためか、その手が震えているのが見て取れる。それを見た剣士の顔に、呆れと罪悪感が浮かぶ。
「そうか……ならば」
 しかしその顔は、次の瞬間には決意と敬意に変わる。
 ゆっくりと、鞘に入ったままの剣を振りかざす。
「容赦はせん」
 振り下ろす。向かう先は一人の少女。ゆえに……
 硬い物がぶつかる、鈍い音がした。

「もう、それくらいにしておいたらどうかな、剣士殿?」
 なぜこんな場所に居て、こんな事をしているのか。私は自問した。
 目の前には、驚愕に目を見開く女剣士。視界を移せば、同じような表情を浮かべた少女。
 そして、鞘に納まったままかみ合う、剣と刀。
 そう。彼女の剣を止めた。少女をかばうために。
 だからこそ気付いた。目の前に居る剣士の強さに。
 背筋を走る寒気と、わずかばかりの後悔が、私を包み込む。割り込みはしたが、少女を守りきれるだろうか?
 しかし、こうなってしまっては、一戦交えることになるだろう。その覚悟は、すでにできている。
「……仲間か」
 剣士がつぶやく。確かに、このような事をしては、そう思われても仕方がない。
「いいや。ただの通りすがりだ。
しかし……」
ちらりと、震える少女を見る。
「いかなる故かは知らぬが、此度は貴女に非があるように思えてな。
 理由如何によっては剣を引くが、教えてはもらえんか?」
「……見ず知らずの、しかも、私の邪魔をするものに語る道理はない」
 強い意思のこもった声。
「そうか……ならば」
 果たして、剣を引いたのはどちらが先か。
「貴女は、この者から何かを奪いたい。私は、この者を守りたい」
膨れ上がる剣気は、どちらが先か。
「互いの主張が相対する以上、闘るしかなさそうだな」
 そして、構えたのはどちらが先か。もはや、どうでもいいことだった。

「とりあえず、名前を聞いておこうか」
 それは、戦いの礼儀。しかし、
「お前の名前に興味はない。ゆえに、私も名乗る気はない」 返ってきたのはそっけない返事。
「ならば」
 抜き放たれた剣と刀。言葉で語り合えぬ不器用者同士の、数少ない会話の道具。
「参るっ!」
 駆けたのは同時。しかし、振るわれた刃は、わずかとは言えこちらが速いっ!
「ふっ!」
「はあぁぁっ!」
 鋭い呼気と共に繰り出した胴を薙ぐ一撃はしかし、裂帛の気合と共に跳ね上げられた剣によってはじかれる。そして、その刃はそのまま振り下ろされ、
「ちぃっ!」
 体捌きで鎧の肩に当て、そのまま滑らせる。
「ほぉ。なかなかやるな」
 見れば、剣士の左肩にわずかに血が滲んでいる。はじききれなかったがゆえに、切っ先が掠った痕。しかし……
「そちらこそ」
 強気に笑って見せたが、左腕に残る痺れ。それを悟られぬよう刀を握るが、やはり、左の握りは甘い。
 初撃は、向こうに軍配が上がったか。しかし、剣速はこちらが上。ならば、そこに活路を見出すのみ。
 相手の技量からすれば、こちらも数撃入れられるであろうが、もとより、「肉を切らせて骨を絶つ」ことこそ、われらブシドーの闘い方。多少の攻撃を受けたとしても、倒れる前に倒せばよいだけのこと。
 なればこそ……再び疾しる! 狙うは袈裟懸けの一撃!
「ちぃぇいっ!」
「おぉぉっ!」
 双方鋭い踏み込み。狙う左肩と、狙われる右脇腹。共に無防備とも言える捨て身の打ち込み。しかし剣速はやはり、私のほうが上。先に殺るっ!
キィィッ
 打ち込んだ刀はしかし、耳障りな音と共に、桃色の光を放つ半透明の壁に止められる。これが故の捨て身かっ!
――ふざっ!
「っけるなっ!」
「なにっ?!」
 四肢に力を込め、強引に斬り裂く。剣戟を受け、吹き飛ばされる。肉を斬り、骨を砕かれる。衝撃。
「かはっ!」
 木にぶつかったと気付くより早く、肺から空気が吐き出される。地面に広がる赤。納刀。顔を上げる。睨む、ただ鋭く。迫る敵。跳ね上がる刃。
「おおぉぉっ!」
「くっ!」
 躱す。僥倖。僅かに足らず。爆ぜる鉢金。しぶく血。翻る刃。追撃。反撃。抜刀。牽制。されど、必殺!
「ぬっ?!」
 首を狙った一撃はしかし、痛みのためか、僅かにそれる。辛うじて腕に当たるが、斬るには弱く、ただ弾くのみにとどまる。それでも、狙いをそらす役には立った。禍福は糾える縄の如し、とはこのことか。
 三度の追撃を警戒し、納刀と共に後ろへ下がる。それと同時に、腹を掠める風一陣。やはりと言うか、三撃目があったか。
「かはぁっ!」
 息吹を一つ。身体に残る激痛が、ほんの少しとは言え和らぐ。まだ闘れる。
 間合いが離れたことにより、互いの動きが止まる。しかし、向き合ったまま弓を引くがごとき緊張感。
「……なぜ、そこまでする?」
 不意に、剣士が問いかけた。
「その者は、お前とは無関係のはずだ。そこまでして助ける理由が、何処にある?」
「……確かに、な」
 そうだ。見ず知らずの者だ。「一手願えれば」と思って見に来たに過ぎないし、ここまでぼろぼろになってまで対峙する必要などないかもしれない。だが……
「だからと言って、ここで引けば後悔するだけだろう。守ろうとした者を見捨てて逃げた、とな。
 逆に、ここで引かねばならん理由の方が思いつかん。私はまだ、立っているのだからな」
 そう。私はまだ立っているのだ。そして、後ろには守るべき者がいる。前には、倒すべき敵がいる。手の中には、振るうべき牙がある。
何故に引かねばならんのか。
「……そうか」
 剣士が剣を下ろす。しかし、剣気は衰えず。むしろ、膨れ上がる。
「だが、こちらも時間をかける訳にはいかんのでな。
 ……この一撃で終わらせてもらう」
 ガコォンッ!
 何かが爆ぜる音。それが剣から発せられたのだと気付いたのは、筒状の何かがはじき出されたときだった。
 剣が、炎に包まれた。
「な……」
 思わず、声が漏れた。
 同じような技を持つブシドーはいる。しかし、剣士がそれを使うというのは、初めて見る。
 だが、こちらも呆けている場合ではない。首討ちが不発に終わった今、必殺の技を放とうとする相手に同じ技を再び、と言うのは危険すぎる。そもそも、納刀してまで蓄えた力は、鞘をつかむ手にその片鱗を見せている。
 鋭く研ぎ澄まされた冷気が、今まさに弾けんとしている。
 炎を纏った剣を、八双に構える。冷気を纏った刀を構えたまま、僅かに身を沈める。
 すでに、互いに間合いの内。一度振るえば、互いを殺傷せしむる距離。そして……
「紫電……」
「すぅ……」
 剣士が呟き。私が息を吸い。そして……
「一閃っ!」
「せぃやぁっ!」
 銀光が走る。

 目を開けたとき、最初に飛び込んできたのは、心配そうな少女の顔だった。
 その後ろにある空の蒼が優しく、背中にある草の感触が暖かく、頬を撫でる風が心地よく……
――負けたのか……
 あの抜刀の一撃は、全てを凍てつかす氷の刃は、「抜刀氷雪」と名付けられたあの技は、私にとって首討ちに並ぶ――そして、より確実性のある――必殺の一撃だった。
 だが、それをもってしても届かなかった。並ぶ事すら出来なかった。
 あの剣士の技――「紫電一閃」と言ったか――は、骨を断ちに行った私に対し、髄を斬ったのだ。手に残る感触と、肩に残る熱さが、結果を物語っている。
――負けた――
 悔しさと惨めさに蹂躙されながらも、その事実だけは、なぜかすんなりと受け入れられた。だが……
「大丈夫?」
 目の前にいる少女が、その感情を隠させた。これ以上の醜態をさらしたくない、という気持ちが、何よりも勝った。
「……酷い事をされなかったか?」
 少女の青白さと、己の感情を押し隠すために、尋ねずにはいられなかった。だが、少女はふるふると首を振り、ただ一言答えただけだった。
「大丈夫だった」
――嘘だ。
 傍目から見ても辛そうにしている事が判る。だが、それでも本人はそれを隠そうとしている。
――守れなかった――
 静かに身を起こす。何事もなかったかのように。何事もないかのように。
「そうか。それは良かった」
 顔を上げ、少女と目を合わせる。安心したかのように、微笑みかけるために。
 それでもなお、視界が滲むのを止める事は出来なかった。
 少女の顔色が。弱々しい微笑が。心配させまいと振舞う心が。その全てが、私の心を砕いていった。
 彼女は耐えていると言うのに。気丈に振舞っているというのに。心配かけさせまいとしているのに。そして、私を心配していると言うのに。
「うぅ……」
 視界が滲むのを、顔が歪むのを、嗚咽が漏れるのを、止める事が出来なかった。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 情けなくて、悔しくて、惨めで、許せなくて。
「何が『無双の剣士』だっ! 何が『最強』だっ!
 守ると決めたもの一人守れずっ! 相手の実力も測れずっ! 易々と倒れておきながらっ! どの口が戯けた事をほざくっ!
 何のための強さだっ! 己の約すら守れぬものがっ! どれ程の者だと言うのだっ!」
 これほど感情を発露させたのは、いつ以来だっただろうか。ただ子供のように、何もかもをぶちまけながら泣くなど、人前でする事ではないと思っていた。
 それでも、止められなかった。だからこそ、気付かなかった。
 感情のままに、支離滅裂に喚き散らす私を、少女はただ、優しく抱きしめてくれていた事に。

「でも、倒れなかった」
 少女がささやいた。
「ぼろぼろになっても、倒れなかった。だから、私は大丈夫だった」
 その暖かさに包まれ、ただ泣き続けた私は、どれだけ幸せだったのだろうか。
「あなたは私を助けてくれた。見ず知らずの私を。だから……」
 大きな声ではない。力強くもない。それでも、不思議と心に沁み込む声。
「今度は私の番。私があなたを助ける。
 今は弱いから、無理かもしれないけど……」
 そして、決意に満ちた声。
「必ず、あなたを助けられるようになるから」
 顔を上げる。そして、目に飛び込んでくる少女の顔。何処までも澄んで、力強くて、眩しくて。
 だから、その胸にもう一度顔を埋める。その温もりを確かめるように。
「強く……なりたいな」
「うん」
 彼女は許してくれた。助けられなかった私を。
「なれる……かな?」
「なれるよ。絶対」
 そして、認めてくれた。こんな、未熟な私を。だから……
 ゆらりと立ち上がり、涙をぬぐう。いつまでもこんな顔をしているわけにはいかない。
「……一緒に……来てくれるか?」
「うん」
 守るべき者がいるのだから。守ってくれる者がいるのだから。
 差し出した手を、少女は掴んだ。それは、一人旅の終わりであり、二人旅の始まりだった。

 それからと言うもの、二人は常に一緒だった。町で。遺跡で。街道で。さまざまな者たちと闘い、互いが互いを守りあい、補い合うことが当然の事になっていた。
 そしてたどり着いた街、エトリア。
 世界樹の迷宮によって栄えるこの街で、長が抱いていた懸念。それは「迷宮を踏破されることで、この街は寂れるのではないか」と言うもの。それ故に、私達にまわされた依頼。それが「冒険者たちの妨害」。
 長の懸念を理解できたが故に、私はこの依頼を受けることにした。連れ合いは乗り気ではなかったが、共にこなしてくれた。
 だが、それも長く続かず、ある冒険者たちによって私たちは倒された。そして、その冒険者たちによって、迷宮は踏破された。私の未熟さを、再び痛感させられた。
 うれしい誤算はいくつかあった。その一つは、長の懸念が外れたことだ。踏破された迷宮ではあるが、そこに挑むものは後を断たなかったのだ。一時期ほどではないとは言え、それでも、この活気を失うのはまだまだ先になりそうだ。
 それと、私たちの処遇だ。あれだけの事をしたのだから、私たちを糾弾する事は出来ただろう。だが彼らは、それを語る事はなかった。そして、語る事のないまま、北の果てに新たに見つかった世界樹の迷宮へと旅立った。
 そして私たちは、一介の冒険者として、このエトリアに残っている。北へ行く事を勧められたが、なぜかその気にならなかった。
 そのときから想っていたのかもしれない。再び逢えるのではないかと。互いの名前すら知らない、桃色の髪をした剣士に……

 白い月の照らす中、私は一人、巨木の元で瞑想をしていた。
 幾度となく繰り返した過去への旅路。それを破ったのは、聞き慣れない――それでいて待ち望んでいた――足音だった。ゆるりと顔を上げたその先に……
「このような場所にいたとはな」
 彼女はいた。あの時と同じ姿で。あの時より険の取れた顔で。
 自然と笑みがこぼれる。
「壮健そうで何よりだ」
 立ち上がりながら、彼女に応える。
「いろいろとあったがな。それでも、何とかやっている」
「それはお互い様だ。
 それで? 何の用かな?」
 言わずもがなの問いかけ。互いの出で立ちが、これから起こる事を如実に表している。
 それでもなお、口にしてほしかったのだ。我々が望む、この一時を。
「なに。近くを通りかかったときに思い出してな。
 ……あの時、そなたを見くびっていた事を、な」
 笑みを浮かべながら、彼女は答えた。しかしその瞳には、剣呑な光が宿る。
「ほぉぅ。ならば、なんと詫びる気だ?」
 全身を弛緩させる。だがそれは、いつでも動ける証になる。
「生憎と、口でどうこう言うのは苦手でな。このようなやり方しか思いつかん」
 スラリッ、と剣を抜き放つ。
「互いに不器用、と言うことか」
 体を沈め、柄に手をかける。
「……今宵の月は贅沢だな」
 思わず呟く。
「ほぅ、何故だ?」
 面白そうに剣士が尋ねる。
「これほどの剣舞を独り占めできるのだぞ? これを贅沢と言わずして、なんと言うのだ」
 あの剣士の腕は判っている。だが、私とて無駄に過ごしてきた訳ではない。あちらはともかく、私とて一流という自覚はあるのだ。
「確かにな。……なかなか風流な事を言う」
 剣士が笑う。そして……
 互いの剣気が膨れ上がる。
 この時をどれほど待ち望んだか。この張り詰めた緊張感が、あまりに澄んだ闘気が、実に心地よい。
「そういえば、まだ名乗ってなかったな」
 頭の高さまで持っていった剣を水平に構え、剣士は告げる。
「私は烈火の騎士、ヴォルケンリッターが将、シグナム。そして我が剣、レヴァンティン」
「いまだ無銘を振るう身だが……私の名は」
 軽く息を吸い、はっきりと告げる。
「氷の剣士、レン」
 そして、銀光が舞う。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2008年06月22日 21:42