俺がシグナム達の真意を知ったあの夜から、一週間が過ぎた。
いつも寝た振りをして感づかれないようにやり過ごしてはいるが、近頃あの四人のうち何名かが、時には全員が夜に(主にはやてが寝入った後に)家を出て行き、明け方頃に帰ってきていることも知っている。おそらく例の蒐集とやらを行っているのだろう。
そして俺はその気配を感じる度、自身の不甲斐なさ、無力さに打ちのめされている。
悔しい・・・
それはあの日から幾度と無く心に浮かんでは消える言葉。
だが浮かんだ所で何が出来る訳でもなく、苛立ちだけが募ってゆく。
守るべき少女が苦しみ、共に生きる家族が戦っている中、自分に出来る事が無いもどかしさ。
・・・力が、欲しい。あいつらと共に戦える力が。このふざけた運命に突き立て、切り裂き、なぎ払うだけの力が。
第四話「戦鬼再臨」
「みんな遅いな〜。こんな時間までかかるなんてどないしたんやろ」
キッチンで夕食の準備をしたはやてが時計の針を見つつ言う。
ヴィータとザフィーラは散歩に、シグナムは剣道場のコーチに行ったきり戻ってこない。
三人が蒐集を行っているだろうことは考えなくても分かることだが。
「だ、大丈夫じゃないですか?きっとたまたま遅れてるだけですよ」
どこかどもりながらフォローを入れるシャマル。だが内心はきっと心臓バクバクだろう。
「だとええんやけど・・・ゴウ、悪いんやけど、みんなの事迎えに行ってくれへんか?」
「構わんが、携帯電話はどうした?全員に持たせてあるだろう」
「それがな、さっき皆にかけてみたんやけど、誰にもつながらへんのや。…それに、ちょう不安に思うこともあるんよ」
「不安?」
ゴウと、シャマルも気を引かれたように振り向く。
「うん。最近いつにも増して皆の帰りが遅いやろ?それで、シャマルたちには悪いんやけど、もしかしたら、何か危ないことでもしてるんやないかと思ってしもたんや」
気付けば、微かにだがはやての体は小刻みに震えていた。
「うちは欲張るようなことは何もいわへん。この家で皆といつまでも暮らせて行けばそれで満足や。…でも、せっかくできた家族がいなくなって、また一人になるのは…それだけは嫌なんや…」
「はやてちゃん…」
- はやては悲しそうに、そう呟いた。
シャマルは何も言えずに俯く。
俺ははやてには、四人が行っている事を伝えていない。
常に主第一で動いているような連中が、その主に隠れてまで行っている事だ。
簡単にばらすなどできよう筈がないし、はやての性格上、もしばれたら即刻止められるのは目に見えている。それに現状ではやての命を救えるのはそれだけだと分かっている以上、心苦しくとも嘘を貫くほかなかったのだ。
だが、いくら命を救う為とはいえ、はやて本人を不安がらせてないがしろにしていては、それこそ本末転倒だ。
だから俺は、手を握ってやることにした。いつだったかはやてが望んだように、不安を拭い去ってやるため、俺は屈んで震えるその小さな手を握った。
「ゴウ?」
「大丈夫だはやて、何も心配はいらない。前にも言ったろう?お前が望むことを俺は叶えると。それはあいつらも一緒だ。お前の元からいなくなったりは絶対にしない。
だから、そんな顔をするな。俺達も、お前の悲しむ顔は見たくない」
我ながら白々しいとは思う。シグナム達は禁じられた蒐集行為を独断で行い、俺はそれを見て見ぬ振りだ。本人の前ではいい顔をし、陰では知られてはまずいことを(平然とまでは言わないが)行っている。おこがましいと言うほか無い。
だが言ったことは本心からだった。図々しいと理解しているからこそ、俺はこの娘を幸福にしてやりたいという本心からの言葉をぶつけた。
そしてそんな俺の言葉を聞き、はやては微笑みを浮かべた。
「…そうやね。家族を大切に思うんやったら、まず家族のことを信じなあかんな。ごめんなシャマル、変な事言うてもうて」
「いえ、そんなことないですよ」
先程とは打って変わり、明るい笑顔で言うはやて。シャマルもまた眉間の皺が取れたようだった。
「そういうことだ。よし、それじゃあ俺はあいつらを探しに行くが、戸締りはしっかりな」
「うん、そっちは大丈夫や。それじゃあお願いな」
「気をつけて下さいね」
片手を挙げて二人に答えるゴウ。振り返ることはしなかった。
- ゴウは自室へ入っていき、ハンガーにかけてあった上着を取る。
それに袖を通してドアノブに手をかけたところで、ふと違和感を感じた。
違和感、と言うよりも、誰かが自分を呼んでいるかのような感じだ。その感覚の元はというと、忍道具一式をしまってある戸棚から漂ってくる。
「・・・?」
不信感を抱きつつも、扉を開けて中を調べてみるゴウ。
そしてその感覚は、この時代へ来た時に所持していた封印刀の変化した、あの黒い金属の羽から発せられていた。
半ば無意識のうちに、ゴウはその羽を手に取っていた。
そしてそれを手にした瞬間、ゴウの頭の中に膨大な量の“情報”がダイレクトに送られてきた。
「くうっ!?」
──地球から少し離れた次元世界
「おおおらぁぁっ!!」
「ごほおっ!?」
ヴィータの放ったグラーフアイゼンの一撃が、武装局員のガードを抜いて胴体に命中、局員は勢いのまま弾き飛ばされる。
が、すぐさま別の局員が自分に向かって肉薄、咄嗟に身を逸らしてその一撃を回避するヴィータ。
「ちっきしょう、こいつら数が多すぎんだよ!!」
ヴィータは肩で息をしながら、先ほどから絶え間なく続く攻撃の嵐に、思わず悪態をつく。
「まさか管理局の武装隊、それも一個小隊に見つかってしまうとはな。我々も運が無いな」
「他人事みてーに言ってる場合かよ!」
「シャマルがいなかったのが裏目に出たな。接近に気付けなかったか・・・」
余裕ありげに話すシグナムに噛み付くヴィータ。ザフィーラはジリジリと迫る局員達を睨みつけている。
何故この様な修羅場になっているかというと、この世界での蒐集活動を終了させた後、元の世界─97管理外世界へ帰還しようとしたところ、ロストロギアの反応を追って調査に来た管理局の調査部隊と遭遇。そのまま否応なしに戦闘に入る事になってしまったのだ。
当然一方的に攻撃を受けるばかりではなく、互いが互いを庇い合いながら各個撃破に努めてはいるが、如何せんその戦力比は3対30以上。撃墜した分を差し引いても20人弱は残っている。“一対一なら負けは無い”と謳われたベルカの騎士でも、手に余る戦力差だった。
今は仲間同士背中を互いに向け合いながら膠着状態に入っている。
- 「捕縛結界はまだ張られてねーし、シャマルに連絡して強制転移かけてもらおうぜ」
「無理だな。例え我々の座標が捕捉出来ても、相手がこの人数だ。完全に転移するヒマなど与えてくれんだろうよ」
「それに突然シャマルがいなくなれば、主たちに怪しまれる。今バレる訳にはゆかん」
「チッ、めんどいったらねーぜ……って、うおっ!」
会話している最中、一発の魔力弾が放たれ迫る。それは命中しはしなかったが、ヴィータのバリアジャケットの帽子を掠めて吹き飛ばした。
それは他人にとってはただの帽子でも、ヴィータにとってははやてからもらった大切なもの。はやてを心から慕うヴィータにとって、それは許せざる行為だった。
「テメェェェェェ!!!」
激昂し、叫ぶと同時にグラーフアイゼンを構え、猛然と突っ込んでいくヴィータ。
「馬鹿!うかつに離れるな!」
慌ててシグナムが引きとめようとするが、時既に遅し。陣形が崩れた部分から局員がなだれ込んで来て、それの対応でヴィータの後を追えない。
「シュワルべフリーゲン!!」
打ち出した鉄球を誘導弾として操る魔法を放ち、なかなか距離を詰めてこない局員に叩き込むヴィータ。
だが敵も生半可な実力ではなく、防壁や魔力弾でそれらを撃ち落し、断続的に射撃魔法攻撃を敢行してくる。
対してヴィータは防御魔法パンツァーシルトを展開、それを前面に押し出しつつ再度突撃していく。
──が、突如ヴィータの背中を、強い衝撃が襲った。
「ごっ…はあっ…」
掠れて殆ど聞こえない声をあげながら、ヴィータは地面に向けてゆっくりと落下していく。
何が起こったかは単純明快。局員の一人が、仲間が集中砲火を浴びせて敵の意識をそちらに向けている隙に、背後に回りこんで狙撃する。ただそれだけのことだ。
普段なら当たる直前で気付いたかもしれない一撃。しかし、熱くなって冷静さを欠いた今のヴィータにそれは不可能なことだった。
「ゴホッ…痛ーな、ちきしょう……」
バリアジャケットがダメージを軽減させたのと、高度がそれほど高くなかったこともあり、落下後もヴィータは意識を失うことはなかったが、負ったダメージは軽いものではなく、なかなか立ち上がることができない。
自身の迂闊さを呪うヴィータ。だが立ち直る隙さえも相手は与えてはくれなかった。
「避けろヴィータ!!砲撃が狙っているぞ!!」
未だ援護に向かえないザフィーラが危険を察知し、倒れ伏したヴィータに警告を呼びかける。声に反応して周囲を見渡すと、さっき自分を狙撃した局員が杖の先に魔力を収束しているのが見える。碌に身動き出来ない今の状態であれをくらったら確実にやられる。
- (冗談じゃねーぞ。アタシは絶対にはやてを助けて、あの家で皆と一緒に楽しく暮らすんだ!なのにこんなトコで・・・)
だがいくらもがいても体は言うことを聞いてくれない。そうこうしている内に砲撃のチャージが完了し、美しい色合いの、しかし凶悪な光の奔流が放たれた。
シグナムが血相を変えて包囲網から無理やり抜け出すが、あの位置からでは既に追いつけないだろう。
(はやて!!)
もう間に合わないと覚悟を決め、ギュッと目を瞑るヴィータ。
一秒…二秒…三秒が過ぎたあたりで違和感を覚え、静かに目を開けた。その目に映ったのは、自分へ向けて撃たれたはずの砲撃を受け止める暗い色をした魔法障壁と、それと同色の衣を纏った、大きな男の背中だった。
「ふむ、盾なんぞ初めて使ったが、存外使い勝手は悪くないな」
抑揚の無い声で男は呟き、砲撃を完全に防ぎきる。ふと空を見てみると、シグナム達がその男を見て驚愕の表情を浮かべている。それもそのはず、本来その男がこの世界にいる事などありえないのだから。
そしてヴィータも目の前の男の後ろ姿には見覚えがあった。
「ゴウ……?」
ヴィータの呟きに反応し、男がゆっくりと振り返る。
「大丈夫だったかヴィータ?何とか間に合ったようだな」
口元は布で覆われていたのではっきりとは分からなかったが、見慣れたその切れ長の目元は見間違えようがなかった。
「どうして、ここに…?」
「話は後だ。今はこいつらを倒すのが先決だろう。コイツを飲んだら早くシグナム達と合流しろ」
ゴウは懐から小さい薬壜を出してヴィータに手渡す。
「これは?」
「回復薬だ。即効性だから立つことくらいは出来る筈だ。それより早く行け、此処は俺が引き受ける」
「う、うん。分かった」
壜の中身を一気に煽った後、何とか体を奮い立たせ、飛行魔法を発動させ飛び上がるヴィータ。慌てて後を追おうとする局員もいたが、ゴウは手のひらに一瞬で手裏剣型の魔力弾を形成し、それを投擲して動きを妨害する。
「貴様らは俺が相手をすると言ったはずだ。行きたければここを片付けてからにしろ」
「…お前を管理局に対する敵対者と認定し、公務執行妨害で逮捕、拘束する!」
ゴウの言動から間違いなく敵だと判断したのか、局員達は杖を構えて一斉に攻撃をしかける。だがそれを見てもゴウは顔色一つ変えない。
- 飛ぶ様子を見せないゴウに陸士隊が真っ先に迫ってくるが、上段から振り下ろされたポールスピア型のデバイスを、腰から瞬時に引き抜いた漆黒の刀剣でゴウは難なく受け止めた。
そして逆にその僅かな硬直時間の間に斬撃を叩き込んで反撃する。
脇から別の陸士が穂先を突き刺さんと襲い掛かるも、銃弾の軌跡すら見切る動体視力と反射神経でそれをかわし、返す刃をがら空きの胴に打ち込み切り伏せる。
瞬く間に二人も戦闘不能にした男を見た隊員達は慄くが、部隊長らしき男が一喝して彼らを奮い立たせる。
「落ち着け!相手は一人だ、一度に数名で同時にかかれ!!後衛組は砲撃の準備をしろ!」
指示を聞き、三人の陸士がゴウの周りを囲む。近距離では敵わないと判断し、先ほど同様射撃魔法での遠距離戦に持ち込むつもりらしい。 だがそれを許すほど鈍いゴウではない。
標的を右前方の一人に定め、そいつに向かって左腕を向ける。
左腕の手甲は妙に大きな作りになっており、ただの装甲にしては不自然に見えた。
──と、突然手甲の一部が開き、そこから魔力で結われたワイヤーが発射され、陸士の体に絡みついた。陸士は懸命に身を捩るが全く外れない。
そしてゴウはさながら荷物でも引き寄せるかのように思い切りそれを引っ張り、その隊員との距離を詰めた。いや、詰めさせたというべきか。
ブゥン、と、ゴウの握った刀の柄頭から魔力で出来た刃が伸びる。それを自分へ向けて飛んできた相手に対し、
ドシュッ
そのどてっぱらへと刀身を深く沈めた。
相手の人体の急所を斬り、又は刺し、一撃で相手を絶命させる飛鳥流忍術の奥義、血祀殺法である。
敵が倒れるのを最後まで見届けることなく、刃を引き抜いたゴウは次の奴の元に早駆けで迫る。相手が反応を起こす前に延髄切りで意識を刈り取り、これで二人目。
完全に萎縮してしまっている三人目には手裏剣を連続投射し、逃げることもままならなかった男はハリネズミになってゆっくりと背後に崩れ落ちた。
鬼神の如きゴウの圧倒的な戦い振りに、部隊長は「バケモノめ!」と毒づく。
「だがもう遅い!砲撃隊、撃てェー!!」
倒れた三人が転送魔法で収容されたのを確認し、チャージさせておいた砲撃隊に一斉射撃を命じる部隊長。だが何故かゴウは防御どころか、避ける様子すら全然見せない。そしてさっきの倍以上の光の帯が放たれ、その場から動かないゴウを飲み込んだ。
残った隊員達は警戒を解かず、土煙が晴れるのを静かに待つ。やがて粉塵が風に飛ばされ、そこに倒れているゴウが視界に入ってきた瞬間、隊員達は歓声を上げた。
「やったぞ!」
「してやったぜ、ざまあ見やがれ!」
「浮かれるな!誰か近寄って容態を確認、手の空いてる者は本部に護送する準備をしておけ!」
部隊長の怒鳴り声で正気に戻った隊員達は慌てて指示に従う。部隊長はキビキビと僅かながら残った隊員に指示を下す。だがそんな彼の胸中にふとある疑念が生まれる。
- (待てよ…何故奴は最後のあの砲撃を避けなかった?あれほどの機動が出来る者が動きもしないとは……ん?動かない?)
考えがそこまで至ったとき、無意識に彼の視線は倒れているゴウと、そこに近づく隊員達に向けられた。瞬間、彼が長年培ってきた陸士としての“カン”が警鐘を鳴らす。
「全員、そこから離れろぉぉぉぉ!!!」
声を嗄らしつくさんばかりの怒声を上げる部隊長。そして何事かと振り返る隊員達の足元で異変は起きた。
地に倒れ伏していたゴウの肉体が、まるで空気に溶けるかのように薄くなり始めたのだ。
隊員達が驚く間もなく、十秒もかからぬ内にそれは完全に消えうせる。
「魔力で作ったニセモノだ!本体はまだどこかn……」
カチッ
周囲を警戒するために踏み出した足元で、聞きなれない音がしたと思った瞬間、彼らの意識はそこで途絶えた。
鼓膜をブチ破るような轟音と、辺り一帯を吹き飛ばすほどの爆風が全てを包み込んだからだ。
「トラップか!畜生!」
みえみえの手に引っ掛かった自分に腹が立つが、今は状況の整理と対策が最優先だ。部隊長は背後で魔方陣の準備を行っていた隊員に指示を出すために振り返り──
「ごふっ…あぁ……」
─その隊員の胸から光刃が生えているのを直視することになった。
光刃が抜き取られ、隊員が倒れるのと同時に何も無い筈の空間がゆがみ、静かにゴウの姿が顕わになった。
周りを見渡し、残っているのがさっきの指揮官のみだと判明すると、そのまま無言で相対する。
部隊長の方も覚悟を決めたのか、手にした大剣型のデバイスを正面に構える。静寂は一瞬、直後に剣戟の甲高い金属音が鳴り響いた。
右、左、回し蹴りの三段連撃をゴウは放つが、部隊長は刀身と片腕でそれを防御し、蹴りを出した際の隙を狙い反撃してくる。ゴウはバックステッップで回避し、着地と同時に手裏剣を乱射するが、またしても全弾撃ち落され、再度接近戦を挑まれる。
大型の剣が紡ぎだす一撃は重く、受け止める度に手に痺れが走った。このまま続ければ刀を弾き飛ばされるのがオチだ。
だがこの時、部隊長には大きな誤解と知らない事実があった。それはゴウがただの戦士ではなく、「忍」であったこと。
そして、忍の戦いの本領は真っ向勝負ではなく、左右や後ろからの“小狡い手”にあるということだった。
- ガキィン、と一際大きくぶつかり合った後、ゴウはとんぼ返りをうって空中から何かを投げつけた。
「無駄だぁっ!」
例によってまた魔力弾か何かだと判断した部隊長は手にした剣で同じ用に叩き落そうとする。が、そんな時ゴウが小さく呟く。
「やはりな。さっきからのお前の戦い方から、“避ける”事は無いと思っていたよ」
その発言に危機感を覚えるも、ついた勢いはすでにとまらない。そして剣の刃がソレを切り裂いたとき、中から煙が勢いよく噴出した。
そしてその煙を空気と共に肺に達した瞬間、部隊長は足に力が入らなくなり、思わず片膝をついた。
「グッ!き、貴様何を…!」
「お前が吸い込んだのは『気絶玉』の煙だ。本来なら簡単に意識を奪える筈なんだがな。まぁどの道そのざまでは満足に動けんか」
あくまで淡々とした口調で話しながら徐々に近づいていくゴウ。今ので堕ちなかった為に、魔力刃による攻撃で仕留めるつもりのようだ。
「ぐぅぅぅ……管理局の…陸士部隊を…なめるなぁっ!!!」
最後の力で立ち上がり、間合いに入ったゴウに向けて部隊長は横なぎに剣を振るった。
しかしゴウはある程度予想していたのか、グッと一気に体を沈めて寸前で避けきり、髪の毛が少々持っていかれただけで済んだ。
次の瞬間、縮んだバネがもとに戻るかのように、全身の筋肉に溜め込んだ力を一気に解放し、その切っ先をあいての喉元に深く突き刺し、刺し貫いた。
「戒めろ。おまえの全てを」
「ゴハッ…ひ、卑怯者…が……」
かすれた声で喋る男の言い分を意に介さず、刀から出る魔力刃を消すと部隊長はドサッという音と共に倒れ、他の隊員同様転移魔法により光に包まれて消えていった。
ゴウが刀を腰の鞘に戻したところで、こちらも一通り片付けたのだろうヴォルケンリッターが降りてきた。
「ゴウ!」
「ん、シグナム、そっちも終わったのか」
「ああ、一通りは片付けた。にしても、何故お前がここにいる?そのデバイスは何なんだ?どこで魔法を?」
思いつく疑問を次々にぶつけてくるシグナム。
そりゃあ今の今までただの人間だと思っていた男が、突然デバイスと魔法の力を携えて自分達のピンチを救ったのだ。驚くなと言うほうが無理だ。ザフィーラとヴィータもそこは同様らしく、興味津々という顔をしている。
- 「あー、うむ。その件は一応説明するが、今はこの場所から撤退するべきだろう。追っ手が掛かる可能性が高いし、それに迎えも来たようだ」
そう言ったゴウが指差した先では、バリアジャケットに身を包んだ湖の騎士が今この場に降り立つところだった。
「みんな、大丈夫だった!?」
「シャマル」
「良かった、無事だったの……ってゴウさん!?やっぱりあれはゴウさんだったの?」
「待てシャマル、それはどういう意味だ」
「それが……」
「話は後にしろといってるだろ。シャマル、全員の転送を頼む」
「あっ、は、はい」
意味ありげな発言を聞きとがめるシグナムだったが、ゴウに止められおとなしく引っ込む。そして疲弊した皆の代わりにシャマルが転移魔法を発動させ、五人はその世界から姿を消した。