新暦79年――――聖王のゆりかご落着から3年後


「着装ーー! 面体着装ーー!!」
「面体着装良し!!」
「くっそう!! 火が弱まらねぇっ!!」「もっと水ぶっ掛けろ!! ありったけだッ!!」

火の粉の降りかかる中、白い耐火服に身を包んだ隊員たちが業火の轟音に己の声を掻き消されぬよう
怒号の如く声を張り上げ燃え盛る建物の中に飛び込み、或いは魔法で消火し、或いは放水で道を切り開く

首都クラナガン「ホテル・アグスタ」……。

周囲を森林に囲まれ美しい自然との共存を売りにした其処は
ホテルのどの一室からも自然に囲まれた雄大な森林を見渡す事ができる
各地からの観光で休日にはどの部屋も予約で一杯になるという大きなホテルである
劇場では毎日催し物が開かれ、吹き抜けのある大玄関ではゆったりとしたクラッシックが流れる
ビッフェからは湖と森林が一望でき、風に揺れる木のささやきを聞きながら優雅に食事を楽しむ事が出来る
だがかつてロストロギアオークションが行われた大きな劇場も、ガラス張りのビッフェも過去のもの

――ホテルは炎に包まれていた

ホテルの周りには多数の消防車両や消防機が駆けつけ放水を行っている
それをつい一時間前まではゆったりとした休暇を、観光を、安らぎを求めてやってきた客たちが
呆然と燃え盛るホテルを仰ぎ見ていた。 まるで目の前の事が現実ではなく夢のように……。
だがむせ返るような熱気と目の前に広がる炎、燃える森林は紛れも無く現実である事を突きつける

ホテル内部、炎に包まれた通路を数人の消防官がIFEXで内部から消火活動に及んでいた
IFEXとは水や消化薬剤、カートリッジに詰められた冷凍魔法弾を打ち込む事で消化を行う多用途消化弾発射機である
コレを用いて内部に侵入し、ホテルの置くに取り残された観光客を救出する手筈だったのだが
救出された救助者の証言によって奥深くに女の子が一人取り残されている事が判明

コレを救出すべく消防隊員が突入を試みるが―――
炎の壁となった通路は入る物を拒むかのように立ち塞がり
放水重片手に飛び込んだ消防隊員もなす術なく後退を余儀なくされた

部屋からから炎にに包まれた耐火服を纏った消防隊員が転がり出てきた
隊員達は慌ててそれに放水を浴びせ、隊長が鎮火して倒れる部下を抱き起こす…

「どうだ、……行けるか!?」

隊員は力なく首を振り

「――ダメです、これ以上前進は無理です! それにこのままだと他の隊員たちを危険に晒してしまいます!」
「だがまだ劇場には子供が取り残されているんだ、何か方法はないのか!?」

既にホテル全体を覆った火は轟々と燃え盛り、それはまるで何もできぬ人間達をあざ笑っているかのよう
人員は飛び火を防ぐ為の森林伐採に手を追われ、要救助者を救出に行こうにも炎の壁で遮られて突入を阻まれる
IFEXで対応できるものではないし冷凍弾は等の昔に使い切っている。
ホースもこの奥地までには届かず、これ以上の進行は無理だと言う結論に達っした

「あと一人だと言うのにあと一息だというのに……クソッ! なんとか、ならないのか!?」
消防突入部隊を指揮する隊長は隊長である以前に、消防員として助けに行きたい、なのに助けにいけない。
何も出来ない苛立ちを地面にぶつけた。 だがこれ以上ここに留まる事は隊員たちを危険に晒すだろう
燃え盛る炎は目の前どころか退路も遮断しようと囂々と燃え盛る

「隊長……」
「――これ以上の救出活動は無理と判断……残念だが、我が部隊は撤収する!」
「しかし……!」
「恨まれるのは俺だけで良い、行くぞ……全員撤収準備」

断腸の思いでの決断、要救助者よりも部隊の仲間を取った
子の親からは確実に恨まれるだろうが部下の命を預かっている身として部下の命を考えなければならない
非情の選択だった

――――その時

「た、隊長! 特救です! 特救が到着しました!!」
「――っ! 特救!? 湾岸特別救助隊か!!」

その報告を受けたとき隊員らは此処が火災現場の真っ只中であると言うのにその報告色めきたった
湾岸特別救助隊とは災害担当局員憧れの銀色の制服を纏い、どんな災害現場でも臆することなく突入し
取り残された人々を助け出していくと言う一騎当千の部隊員
その一人一人の技量や魔力ランクも相当のもので、教導団にも匹敵するほどの実力の持ち主がごろごろと存在する救出専門部隊だ
報告を聞いた隊員達が色めき立つ

「そうか……よし、ならばこれより我が隊は出来うる限りこの場に留まり特救を支援する!
 ここで出来るだけ火勢を押さえておけば向こうも低リスクで突入する事ができるはずだ!」

「「「了解!!」」」

この士気なら暫くはここで踏みとどまる事が出来るだろう

「俺達消防隊も伊達じゃないという事を見せ付けてやれ!」

「……誰かぁ! 誰か娘を!? 娘を助けてぇ!」


逃げ遅れた子供の母親の悲痛な叫びが響いた
だが誰もが呆然と見上げるしかない
懸命な消火活動も実を結ぶことなく火は轟々と燃え続ける
ホテルを焼き尽くし、溶けた硝子が炸裂し、黙々と黒煙が吐き出される
誰もが子供の生存を絶望視した、誰もが子供の死を想像した

「大丈夫です、必ず助け出しますから」

肩にかかる手、暖かさを感じ、母親が泣きはらした顔で見上げた
銀色の制服に身を纏い、肩までに短く切りそろえられた青い髪の女性は
目の前に燃え盛るホテルをじっと見据えている

その先ではまるで炎が壁のように立ち塞がって誰も立ち寄らす事を許そうとしないように轟々と燃えている。だが―――
翡翠色に輝く彼女の眼はその炎の壁の向こうで助けを求める子供を射抜いているようにも見える
強烈な意思が宿るその目を見て母親は言葉を失った、もしかしたら……助かるかもしれない、助けてくれるかもしれない。
いや、絶対に助けてくれると……思ってしまった
それが確かな物ではない己の希望的観測なものではなく、ただただそう感じたのだ。運命のような物を。

管理局員は炎に向かって歩き出す
彼女は振り向かぬままこう言った

「私が絶対に助け出しますから」
「え?」
「往くよ、マッハキャリバー」
『Standby Get Ready』

呼ぶは相棒の名、成るは魔導師、思いは此処に
炎の壁すら飛び越えて、立ち塞がる全てを打ち倒し
助けを求める手を掴み、絶対に助け出す! 助けてみせる!

「セットアップ!!」

閃光と共に女性の身を包む服が変化する
長ズボンと分厚いジャケットを身に纏い
長く白いリボンで括ったショートポニーを風に揺らし、白に青ではなく、銀色に青の耐火特化型バリアジャケットに身を包む
青いローラーブーツ型インテリジェンスデバイス「マッハキャリバー」が土煙を上げ
右腕のカートリッジ式アームドデバイス「リボルバーナックル」が火花を散らす


―――燃え盛る炎の中 助けを求める人々の手を握り

炎に包まれる劇場の中で子供が一人舞台の中央で蹲っていた
客席は既に炎に撒かれ、出入り口は瓦礫で封鎖されている
ハンカチを口にあてて出来るだけ身を低くし其処にある空気を吸って這いながら進むと言うのが常識なのだが
まだ10才にも満たない子供が知っていてもそんな事を子の緊急時に出来るはずも無く、煙を吸い込んでしまい
炎の熱気と息苦しさで朦朧としたまま蹲っていた。 おかあさんと助けを求めながら。

手には誕生日に買ってもらった人形をぎゅっと握ったまま蹲っていた

「(きっと悪い事をしたばつが当たったんだ、ぼくがおかあさんをこまらせるようなことをしたから・・・ばつがあたったんだ)」

誰しも経験したであろう冒険心
未だ見ぬ何かに興味を持ち、制止を振り切り探検をして
その後に怒られるといった経験は無いだろうか
丁度この子もこの広いホテルに着き部屋に着いた後
この先に何があるのだろうかと、親の目を盗んで手に持った人形と共に冒険に出かけた

―――気が付けば、何時の間にか業火に包まれた劇場

こわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわい
こわいこわいこわいこわいこわい
このままどうしちゃうのだろうか
もうおかあさんにあうことができないのだろうか

「おかあさん……ふぇ、ううう……おかあさーん!!!」

返事は返ってこない、顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃに濡らし助けを求める子の運命は儚い
それでも必死に声を上げて助けを求め続けた

ふと視界に布の切れ端が落ちてくるのを見て疑問と言い知れぬ恐怖が襲う
ばちんばちん、と何かが切れるような音がした
恐る恐る舞台の上を見上げると、真っ赤に燃えた緞帳が……その炎に照らされる照明機材がギイギイと音を立てて揺れていた

「あ――――――?」

ここにいてはあぶないここにいてはきけんだ
恐怖が体を刺し、必死に体を動かそうとしても声を上げすぎて恐怖に怯えた子供の体は麻痺したかのように動こうとしない
這ってでも必死に逃げようとする子の上で重さ100キロを超える大きな照明機材がグラグラと揺れ
弾ける様に機材を支えるワイヤーがブチ切れ、子供めがけて落下する!


―――絶望も希望も彼果てた人々の真たる希望となり

こんな筈ではと反芻してそれを思う事はない、何故こうなったのかと後悔する事もまだわからない
恐怖、純然たる知らない物への恐怖。だが朧気ながらもこれから自分がとても痛い目にあうという事は自覚できた
死と言う概念を知らない故の恐怖、少なくとも無事ではすまない事を本能が警告している
思わず目を逸らして体を丸めた
当たったら痛いのだろうか、どれだけ痛いのだろうか、ぎゅっと目を瞑り迫り来る死。

照明機材は万有引力の法則の元、盛大な音を立てながら鉄塊の巨躯を舞台の上に叩き付けた
爆弾が破裂したかのような轟音が劇中に鳴り響き、少年はビクッと体を竦ませた、……だが


――――――痛く、ない?
落ちてきた照明は確実に子供を押しつぶす筈だった
だが痛みは無い、来るかも知れない痛みが来ない

「君が……シェルビ、ちゃんだね? だ、だ、いじょう、ぶ?」

声をかけられた、ふと見上げてみると女の人が燃える照明機材を受け止めていた
銀色の服に白いリボン、手甲を付けた女の人
明らかにその質量の倍近くあるそれを持ち上げるその人を見た
踝まで床に埋まり、ギチギチと体が軋むような音が聞こえる
女の人は体制を低くして両腕に力を込め

「――づう、ぅおおおおおおおおおおおっっ!!!」

重さ数百キロもある照明機材を放り投げた
照明機材は客席に向かって放物線を描きながら吹き飛び、観客席に落着した

女の人は床に埋まった足を引き抜き子供に面帯を付けさせ震える体を抱き起こす
すると先ほどのような真剣な顔ではなく、見惚れるような満面の笑みで…

「よ~し間に合った、よく頑張ったね……もう大丈夫だよ、君ガッツあるよ」

「……あ」

震える左手で女の人の顔に触れた
ヒーローが助けに来てくれたのだと彼女は思った
目の前の人はヒーローとは違うけどヒーローのように私を助けに来てくれた

それに安心したのか急に目の前が暗くなっていく
日の入りを加速させたように視界が暗くなっていく様子は恐ろしかったが、不思議と怖くなかった
私の手に触れる「炎の痛みのある熱」とはまた違う「柔らかな温かみ」が、心を包むような感覚が体に広がった
それはまるでおかあさんに抱かれているような感覚……

心の暖かさを感じて安心したのか
強烈な眠気と倦怠感で意識が閉じ、子供は気を失った

―――人々が助けを求める限り、身を粉にして往く者達。

ポツリと小声で詠唱、すると彼を中心に半円形の緑色のシェルバリアが展開され、子供をしゅるりと覆った。
シェルバリアは熱や衝撃から内部の対象を保護する魔法で魔力消費が大きいが、発動後は効果が一定時間維持される
湾岸特別救助隊所属職務員なら誰でも習得している魔法で、これ以上に災害の中で頻繁に使われる魔法はそうは無いだろう
シェルバリアの中に包まれた子供安全を確認したスバルは前を見据えて集中し始めた

「上空確保確認……行くよマッハキャリバー、リボルバーナックル!」

『Shitt to Divine Buster Canon Mode……All Magic lines Connected』

両手を前にかざして巻き込むように回し、魔力スフィアを展開。
青色に輝く魔力スフィアは近代ベルカ式のスタンダードな物
両手で練り上げた魔力で前方に魔力スフィアを形成し「マッハキャリバーがスフィアを保持する」
左手を右手にスライドさせるように添えて『コッキング』 右手を弓を引くように引き絞る構えを見せる
同時にリボルバーナックルのスライドがガシンガシンとカートリッジを装填、2つの薬莢がキンキンと小気味良い音を立てて落ちる
スバルの足元に近代ベルカ式の環状魔方陣が足元に展開されて魔力の収束制御を行なわれ始めた
これから行使される魔力が半端な物ではないとその広がり方から知識あるものは容易にそれが想像できるだろう

周りの炎がひときわ大きく燃え上がった
バリアジャケット越しでも伝わる熱を無視しつつ集中
体全体に伝わる魔力の流れを右腕に集中させたと同時に
左手をスフィアに沿え、マッハキャリバーからの保持プログラムを受け取って前方に左腕を突き出す

『Landing anchor and climbing rons locked……inner Knuckle chamber pressure nsing normally』

マッハキャリバーの車輪が格納され、踵に付いたアイゼンアンカーが大地を噛んで衝撃に備える
同時に右腕に収束された魔力が六つの光となってナックルスピナーの部分からボウッと浮かび上がった

『Life-ring has started revolving』

六つの青い光球がナックルの周りを回転し始める
回転するスピナーに紫電が迸り、六つの魔力光が右腕を覆うように一つのリングを形成する
その魔力リング――『ライフ・リング』がスピナーを離れ、目の前にスフィアに重なり合うように展開
そのまま引き絞り<<激鉄を>>握り締めた右腕を……全魔力を込めた拳をリング中央に―――

『Ready to Fire』

――<<落とす>>叩き付ける!

「ディバインバスターキャノン!!! シューートッ!!」

拳が魔方陣に叩き込まれた瞬間、高濃度で圧縮された魔力が開放された
撃ち出されたそれはまるで光の槍、螺旋を描き、目の前に立ち塞がる全ての障害を貫く光槍
燃え盛る炎を掻き消し、幾重にも連なる天井に大穴を開け、ただただ只管まっすぐに飛び続け
やがてそれは空の彼方に消えていった

ディバインバスターキャノン
短距離直射方砲撃魔法であるアレンジ型ディバインバスターの貫通力と威力はそのままに
新たにスピナーから形成される『ライフ・リング』をスフィアと重ね合わせる事によって
より射程を延ばす事に成功したディバインバスターの強化発展型魔法である

―――残心
マッハキャリバーとリボルバーナックルの各所から一斉に排気が行われた
轟音と共に光の柱がホテルより噴き出し、何事かと空を仰ぎ見た。
すると、燃え盛るホテルから飛び出た直射方砲撃魔法が雲を貫通して消えていく
その光の柱の発信源をみやると子供を抱えた魔導師が飛び出てくるのが見て取れる。
胸元に抱える要救助者を見て救急隊員がストレッチャーを慌てて運んで駆け寄った

母親と思われる人物が我がこの安否を確認した途端号泣しながら崩れ落ち
スバルの手を握り何度も何度も「ありがとうございます、ありがとうございます……」と感謝する
それを見て、―――ああ、また助ける事が出来たんだな と、母親の手を握り

「それでは我々は引き続き救助に戻ります、貴女はしっかりとお子さんの隣についてあげてください」
そうしで母親を安心させ、その場を離れようとすると救急車に載せられた子供が目を覚ます
途端、跳ね上がるように上半身を起こした彼女はじぃっとスバルを見つめた

「―――っっ!!!!!?」

青い短髪、青い目をした女の子
いつもいつも危険なものを指差し教えてくれる女の子
幻のように現れては消える幼かったスバルそのもの―――ただ、決して笑う事は無い



  この世に彼らが居る限り、絶望は希望へと昇華する

  魔法少女め組のスバル  はじまり―――ません


『リンカーコア、及び魂の吸収開始』

 「喜べよぉ? コレでお前とお前の魂とお前の魔力はずぅっといしょにいしょに一緒に隣にあり続けるんだ」

                                                              クロス、他数

未完    「コレにて闘争を開始する」

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最終更新:2008年07月07日 13:38