0071年、4月29日
ミッドチルダ臨海第8空港
その日、この空港で大火災が起きた。
周囲はまさに火の海で、救助が難航していた。
しかし、
少女は泣きながら燃え盛る室内をただ歩き続けている。
周囲は炎と瓦礫で道は無い状態。
「お父さん……お姉ちゃん………」
少女は父と姉を呼ぶが誰も来ない。
かわりに小さな爆発に襲われた。
「きゃあっ!」
吹き飛ばされる少女。
地面に打ち付けられる体。
「……う………」
立ち上がるが体力は限界。
脳裏には絶望だけ。
「痛いよ……熱いよ………」
蚊の鳴くような声で助けを呼ぶ。
しかしその悲痛な声も、メラメラという炎の音に掻き消される。
「こんなのやだよ……帰りたいよ………」
だがその願いは、ガラガラという音に遮られ、
「…誰か……助けて………」
その声と同時に、背後にあった石像の足場が崩れた。
女神の像はその姿とは逆に、少女に絶望を与える。
「………っ!?」
少女は目を閉じた。
自分はこれに押し潰されるんだ、と。
しかし、いくら待っても倒れてこない。
不思議になり石像を見ると、そこには、
「…間に合ったか……」
男の人が石像を押し返そうとしていた。
「なのは、急げ!」
「了解!」
彼が叫ぶと今度は女の人が空から舞い降りてきた。
「よかった……助けに来たよ………」
少女の目の前に舞い降りた女の人は、「よく頑張ったね、偉いよ。」と言いながら肩を叩く。
少女は余程安心したのか、彼女を見ながら頷いた。
「もう大丈夫だからね……安全な場所まで一直線だから!!」
そういうと彼女は天井を見上げた。
「彼女は任せろ。」
「お願い、アムロさん。」
そういうと彼女は、天井に持っていたデバイスを構え、
「バリア展開。」
彼は薄い桃色のバリアを張った。
《上方の安全を確認》
彼女のデバイスがそういうと、彼女の足元に魔法陣が現れた。
《ファイアリングロック、解除します》
「一撃で地上まで抜くよ!」
《All Light、Load Cartridge》
そう言い合うと同時に、彼女のデバイスは二回リロード、さらに三つの翼が現れた。
「…………」
そのままデバイスを天井に向ける。
少女はその姿に見とれていた。
《Buster Set》
先端に魔法陣のようなものが現れ、魔力が収束される。
「ディバイン………バスターーッ!!」
収束された魔力は一直線に解放され、天井を貫いた。
「…少し強すぎは無いか?」
少女を抱き抱えている彼は彼女にいった。
「にはは……やっぱり?」
「また出力を適当に………」
そういいながら彼は通信をつなげる。
「こちら教導隊01並びにロンド・ベル01、エントランスホール内の救助者、少女一名を救助した。」
『……ありがとうございます。さすが航空魔導師のエース・オブ・エースと白い英雄ですね!』
「はは……そんなのは飾りだよ。」
「西側の救護隊に引き渡した後、すぐに救助活動を続行しますね。」
『お願いします!』
そういうと通信が切れた。
「行きましょう、アムロさん。」
「了解だ。」
そうして彼等は空を飛んでいった。
第02話
試験、スバルとティアナ
0075年、4月
ミッドチルダ臨海第8空港近隣廃棄都市街 廃ビル屋上
ビルの屋上に立つ少女。
青い髪に白いハチマキ。
ローラーブーツを履き、右手には特殊な篭手。
その場でシャドーボクシングをする彼女の近くにもう一人。
オレンジの髪にハンドガン。
静かに自分の銃をメンテナンスする少女。
スバル・ナカジマ
ティアナ・ランスター
この二人である。
「…スバル……あんまり暴れてると、試験中にそのオンボロローラーがいっちゃうわよ?」
「ティア~……やなこと言わないで~………」
そんなやり取りをしながら試験に備えていた。
あの事件から4年………
「…………」
あの時、なのはとアムロに助けられた少女、スバルは意気揚々としていた。
「……やけに上機嫌だけど……何かあったの………?」
「え?」
「さっきからニコニコしてるけど……大丈夫?」
「だだっ、大丈夫大丈夫!」
顔に出ていたようだ。
正直スバルは、なのはに近ずけることがとてもうれしいのだ。
そんな事をしていると、通信パネルが現れた。
そこには白い髪をした女性が写っていた。
『おはようございます!さて、魔導師試験受験者さん二名!揃ってますかー?』
少し抜けたようなゆるい喋り方で二人を確認する。
「「はい!」」
それに対して、元気よく返事を返す二人。
『確認しますね?時空管理局、陸士386部隊に所属のスバル・ナカジマ二等陸士と………』
「はい!」
『ティアナ・ランスター二等陸士!』
「はい!」
『所有している魔導師ランクは共にCランク。本日受験するのは陸戦魔導師Bランクの昇格試験です!間違いないですねー?』
「はい!」
「間違いありません。」
『はぁい!本日の試験官を勤めますのは、私、リィンフォースⅡ(ツヴァイ)空曹長です!よろしくですよー!』
そういってリィンフォースⅡは敬礼をした。
それに合わせて、二人は敬礼しながら「よろしくお願いします!」とこたえた。
同時刻
試験場上空
そのようなやり取りを上空のヘリから身を乗り出して眺める人影。
「おぉ?早速始まってるなぁ?リィンもちゃんと試験官してる。」
関西弁の女性、八神はやて二等陸佐に、
「そんなに身を乗り出すと危ないぞ?」
そういった男性、アムロ・レイ一等空尉。
「そうだよ、窓全開だと危ないよ。モニターでも見れるんだから。」
金髪の女性、フェイト・T・ハラオウン執務官の三人だ。
「はーい。」
はやては素直に答え、窓を閉め席についた。
同時にモニターが現れる。
「この二人がはやての見つけて来た子達だね?」
「うん。二人ともなかなか延び白がありそうなええ素材や。」
「確かに、いい感じがするな。」
「そうやろ?」
アムロの発言に満面の笑みで帰すはやて。
「今日の試験の様子を見て、行けそうなら正式に引き抜き?」
フェイトがそうはやてに聞いた。
「うーん……直接の判断はなのはちゃんやアムロはんにお任せしてるけどな。」
そう笑顔で返すハヤテ。
「そっか……」
「配属が決まれば………」
「……!?、聞いてないぞはやて!?」
と突然聞き返す。
「直接の判断はなのはだけだったはずだ。」
「そりゃそうよ?アムロはんは今決めたんもの?」
「そういうのは先に言ってくれといってるだろ!?」
「いやぁ……ニュータイプの勘で解るかなぁと思うたんよ。」
満面の笑みで返すはやてにアムロは頭を抱えた。
「はは………」
その姿を見てフェイトが笑う。
「まったく……昔から変わらないな君達は………」
アムロは返すが、
「それはアムロさんもでしょ?」
「確かになぁ。見た目も恰好も合ったときから全然変わっとらんし。」
さらに返された。
「……………」
やっぱり彼女達にはいつまでたっても勝てそうにないようだ………
同時刻
廃ビル内部
ピッ、ピッ、
モニターを触る音が誰もいないビルに響く。
《範囲内に生命反応、危険物の反応はありません》
彼女のデバイス、レイジングハートは情報を読み上げる。
《コースチェック、終了です。》
「うん、ありがとう、レイジングハート。」
そのまま監視用サーチャーと障害物を確認し、レイジングハートに語りかける。
「私たちは全体を見てようか。」
《Yes My Master》
試験の説明を終えたリィンは、
『…何か質問はあるですかー?』
と聞く。
その問いにスバルは悩むが、ティアナがスバルを見て、「ありません。」と答えた。
それを見たスバルも同様に「ありません!」と力強く答えた。
『では、スタートまで後少し!ゴール地点で会いましょう!』
リィンは最後に『ですよ。』といった。
同時にモニターがスタートのカウントダウンに変わった。
身構える二人。
表示されている物が、電子音と共に消え、何も無くなると同時に甲高い電子音とStartの表示に変わった。
試験の始まりである。
「おぉ、始まった始まった。」
「お手並み拝見……と………」
ヘリの中の二人はモニターを見るが、アムロだけは違った。
「アムロはんもモニター見ぃや。」
はやてが誘うも、
「いや、俺は現地の上空で見る。」
そう告げて三つのデバイスを持った。
一つ目は右手に持つベルカ式近距離格闘型デバイス。
二つ目は左手に持つミッド式中距離射撃型デバイス。
三つ目は下を向け背中に背負うミッド式遠距離射撃型デバイス。
ある事件から今まで使い続けてきた量産型デバイスだ。
「え……何でですか?」
フェイトが聞くがすぐに、
「ニュータイプの勘ってやつやろ?」
はやてが茶化す。
「いい加減茶化すのはやめないか。」
「はーい。」
そうはいったが、実際は勘である。
だが、これが後々助けになるのであったが………
「リボルバーシュート!!」
標的が潰れる。
「よし!」
スバルはあっという間にビル内の標的を全て叩き壊した。
スバルは、外に出たと同時にティアナと合流した。
「いいタイム!」
「突然!」
そのまま次の目標に向かった。
『うん、いいコンビだね。』
「そのようだ。」
上空のアムロは目で二人を追う。
『どうやろか?最速記録保持者はん?』
「だから茶化すな。」
確かにいい腕でいいタイムだとは思う。
しかし………
『……やっぱり、難関の大型オートスフィアが………』
「そうだな……やはりそれが問題か………」
『これが出て来ると受験者の半分以上が脱落する事になる最終関門。』
「あの二人にクリアできるかが問題だろう。」
ただしアムロは自分を囮に遠距離デバイスを遠隔射撃、後方から近距離で打ち込む戦法で物の15秒で撃破した。
『さすがは記録保持者はん。言うことが違いますわぁ~!』
「……通信切るぞ………」
『わぁぁ待って待って!』
上空で眺めている限りでは、相当いい戦いかたをしていた。
現に今、ティアナのアンカーガンを囮にする作戦はとてもいいものだった。
「…なかなかのものだな………」
動きには少なからず無駄があったが、予想以上に少ない。。
『確かに、延び白のありそうな二人だね。』
「ああ、だが………」
『最終関門だね………』
フェイトが先にいうが、それではない。
「いや、まだ撃ち漏らしがある。」
『え……?』
「オートスフィアがまだ一つ残っている。」
「スバル防御!」
ティアナはスバルに叫んだ。
「え?」
そう、残っていたオートスフィアがスバル目掛けて発砲してきたのだ。
「くっ………」
二人は素早く回避をする。
しかしティアナは反撃をしようと銃を構えた。
が、
「あぁっ!」
足元の段差に気がつかず、思いきり転んでしまった。
「ティア!」
だがティアナはそれだけでは動じず、咄嗟にその場を転がり敵の攻撃を回避。
さらに反撃してスフィアを撃ち落とした。
が、
突然モニターが消える。
「………?なんや?」
「サーチャーに流れ弾が当たったみたい……」
『アムロはんの勘が当たったみたいやな?』
「そのようだ。」
上空のアムロはそのままもう一人の監視役に通信をつなげた。
「…聞こえるか?」
『あ、アムロさん。トラブルか何かあったのかな?』
「わからないが、とりあえず君も上がってくれ。」
『了解。』
そういって通信を切った。
「…最終関門は抜けられない………」
「ティア………」
「私が離れた位置からサポートするわ、そしたら……あんた一人ならゴールできる………」
「ティア!」
「うっさい!」
先程まで、あんなに仲が良さそうだったのが一変、言い争っている。
「……はぁ………」
スバルの方は素直で優しい性格。
しかし、
「ティアナ・ランスターは…少々話し方に問題があるようだ………」
確かにスバルの為に自分をおいていけと言っている。
だが話し方はほぼ暴言に近い。
これについてはなのはに言っておくか………
等と考えているうちに、
「……ん?話がまとまったか。」
結果的には二人で行くことになったようだな。
「……はやての言っていた『ツンデレ』…という奴か………」
……………
いけない………
はやてに毒されているようだ………
残り時間は3分をきった。
「さあ……どう切り抜けるか………」
と言っていると、コース上にティアナが一人走っている。
しかし妙だ。
別に特別早いわけでもなく、まるで狙ってくれと言わんばかりに道のど真ん中を走っている。
と、そこに大型オートスフィアの射撃が着弾した。
『直撃!?』
はやてが声を上げるが、
「いや………」
さらによく確認する。
すると物影にティアナの姿。
「……なるほど」
『フェイクシルエットか………』
そう、ティアナは囮になっているのだ。
「ということは………」
近くにスバルがいるはずだ。
あの装備からして地上を走っているはず。
そう思い地上を眺めるが、その姿はない。
かわりに空に青い帯状の物体。
この時、アムロは知らなかった。
彼女の特殊魔法、『ウイングロード』の存在を。
その道を走る少女の存在を。
そして………
「ディバインバスタァァーッ!!」
彼女の一撃必討の技を。
数分後
ゴール地点
そこには一人の………
いや、一人の人と一人の妖精(?)が二人のゴールを待っていた。
「どうでしたー?アムロさん?」
「力量、戦術、行動力………全てが合格ラインだ。」
一足先にゴール地点で待っているアムロは、冷静に成績判断をしていた。
「後は時間だけですね~……」
「そういうことだ。」
等と話していると。
「……ん?」
「あ!来たですねー?」
そこにはティアナを背負ったスバルの姿。
「なるほど、これなら時間内に二人ともゴールできるな。」
等と判断していると、ティアナは最後のターゲットを撃ち壊す。
「はい!ターゲットオールクリアです!」
「だが時間が………」
見ると後10秒前後。
するとスバルはさらに速度をあげた。
だが、
「……あ、なんかチョイヤバです………」
「……はぁ…止まること考えてなかったな………」
等と頭を抱える。
「「うわあぁぁぁぁぁ!!!!」」
もう既に二人の悲鳴が聞こえる距離。
「リィン……下がれ………」
下がると同時に電子音が響く。
ゴールした。
が、
「「あぁあぁぁぁぁぁ!!!!」」
そのままゴール先の残骸に一直線。
「…ふぅ……アクティブガード、ホールディングネットもかな?」
《Active guard at Holding net》
激突、
衝撃、
その反動で約一名が宙をまう。
「うわぁぁぁぁ!?!!」
落ちる。
浮遊魔法も使えない彼女は落ちることを覚悟した。
が、
「……大丈夫か?ティアナ・ランスター?」
すぐさま助けに入った魔導師に助けられた。
「うぅ………」
逆さまになっているスバル。
そこに、
「んーもー!危険行為で減点です!」
小さな妖精。
もとい、
リィンフォースⅡ空曹長が声を張り上げた。
「頑張るのはいいですが怪我をしたらもともこもないんですよー!そんなんじゃ魔導師としてはダメダメです!」
小さ……と思ってると、
「そこまでだ。」
「にはは…まあまあ。」
「?」
スバルは体を戻し聞き覚えのある声のした方向に目をやった。
「ちょっとびっくりしたけど、無事でよかった。」
「まあ、何とかだがな。」
そこには、当時と同じ姿の二人。
さらには当時抱えられていた自分の場所にティアナが抱えられていた。
「リィン、彼女に怪我の治療を。」
「はいです!」
「すみません空尉………」
そういってティアナは治療を受け、
「とりあえず、試験は終了ね。お疲れ様。」
というとネットが消え、ゆっくりと地面に下ろされた。
「リィンもお疲れ様。ちゃんと試験官できてたよ。」
「わーい!ありがとうございますなのはさん!」
「よくやってくれたな。リィン。」
「アムロさんもありがとうございます!」
やり取りが終わると、二人はバリアジャケットから制服姿にかわった。
なのはは白と青の服。
アムロは青を基調とした服に。
「……なのはさん…アムロさん………」
不意に口から出た言葉。
「うん……?」
「あっいえ!その!高町教導官!あっ…一等空尉!」
素早く気を付けをして言い直す。
目の前にいるのは憧れの人。
「なのはさんでいいよ?みんなそう呼ぶから。」
そういいながら近づき、
「4年ぶりかな……背、延びたね、スバル………」
といった。
「あのっ…えっと…その………」
なぜか泣きじゃくるスバル。
「また会えてうれしいよ。」
そのスバルを撫でてやるなのは。
二人の再開の瞬間である。
「いいんですかー行かなくて?」
リィンがティアナを治療しながらアムロに問い掛ける。
「別に構わないさ。彼女の憧れは俺じゃなくなのはなんだからな………」
そういって軽く笑った。
最終更新:2008年08月10日 17:09