番外編「弁当とフラグ立て」

─某次元世界の森林地帯

「フゥゥゥ・・・・」

息をゆっくりと吐き出しながら、ゴウは左手に体内の魔力を集めて、それを球形に凝縮していく。
大きさが野球ボールくらいになった時、左手を後ろに引いて上半身をひねり、片足を一歩前に出す。
そして魔力の球を前方にある大木へ向け、思い切り放り投げた。

「シッッ!」

直後、爆発音と閃光が森の中に轟き、それに驚いた鳥達が慌てて飛び立っていく。
魔力球を投擲された木は、中ほどから先が見事に吹き飛んでいた。

「ずいぶんと形になってきたじゃあないか」
「いや、まだまだだ。相手を捕捉した瞬間に構築・放つくらいでないと、実戦では役に立たん」

一連の動作を見ていたシグナムが話しかけ、ゴウが応じる。
先日からこうして空き時間を利用して無人の次元世界に移動し、修練を積むのがゴウとヴォルケンズの日課だった。

魔法の力に目覚めたのはいいが、現在のゴウははっきり言ってデバイスである陰牙におんぶに抱っこの状態だ。
この前の陸士隊との戦闘でも使えることは使えたが、それは殆ど陰牙が判断・処理をしてくれたからだ。
野球の知識やルールを詳細に知っている人間でも、それだけではプロの選手にはなれる筈はない。
動きや感覚を身体になじませ、何度も練習し、それで初めて「正確な動作」が出来るようになるのだ。
そういう訳で、現在ゴウはヴォルケンズ直々の訓練によって魔導士として成長している真っ最中なのだった。

「まぁ確かにな。しかしお前には才能があるようだからな、このまま続ければそう遠くないうちに実力も付くだろう」
「だといいがな…」
「おまけに、お前の魔力を『爆発』させるという極めて珍しい魔力変換資質、あれは鍛えれば強力な武器になるぞ」
「そんなに珍しいものなのか?」
「少なくとも、私は見聞きしたことはないな。私の『炎』の変換資質の亜種かも知れないが、詳しい事はさっぱりだ」

ふぅと息を吐きながら言うシグナム。
そう、ゴウは世にも珍しい、爆発の魔力変換資質をその体に備えていたのだ。
先程大木を一発で破壊したのもこの力だった。
修練中に偶々見つけて以来鍛錬を行い続け、現在では以前は道具として使っていた「火薬玉」を模した魔法が完成しつつあるのだった。

「魔力変換を美味く扱えるかはは鍛錬次第だ。
上手くいけば、他の魔法との組み合わせなどで、戦術は無限に広がるぞ」
「そうか。まぁ、精々努力するさ」

二人がそこまで話していると、虚空に転送魔法陣とともにシャマルが現れゆっくりと降下してきた。

「二人ともお疲れ様。修行ははかどってる?」
「シャマルか。まぁボチボチだ。よし、そろそろ休憩にするか」

訓練の手を一旦止めたゴウたちは、近くの泉の傍に集まって座り込んだ。

「それにしても、魔法技が全く浸透していない世界の人間がこうまで才覚に恵まれているとはな」
「どういうことだ?」
「それがですね、必ずという訳じゃないんですけど、魔導士というのは普通、ミッドチルダやベルカといった魔法技術の進歩した世界に集中しているものなんです。
はやてちゃんもそうですけど、ゴウさんのようにあんな辺鄙な世界で才覚を持っている人間は稀なんですよ」
「…飛鳥忍者の祖先は、様々な術を扱う修験者達だったと聞いた事がある。ひょっとしたら、その血の影響やも知れんな」
「へ〜そうなんですか。まぁ話は後にして、ゴハンにしましょうか」

そう言ってシャマルは抱えていたバスケットを開き、中から弁当を取り出し始める。

「中々美味そうじゃないか」
「確かに。食欲をそそられ・・・ん?」

ふと、シグナムがあることに思い至った。

──────これは、誰が作った弁当だ?

たった今までこの場にいた自分とゴウはもちろん違う。
ヴィータとザフィーラは今日は蒐集担当なので別の世界にいる。二人も該当しない。
此処にきたのは主が寝付いてからだ。当然主もはじかれる。
消去法で一人ずつ除いていき、最後に残るのは・・・・・

「・・・をい、シャマル、この弁当を作ったのは・・・・・」
「え?私だけど?」

ピシャアアーーーーーン!!!

シグナムに、雷が落ちた。

「やっぱりぃーーー!!??」
「どうしたシグナム?そんなにうろたえて」
「そ、それが・・・シャマルの作る飯h」

シャッ パク ゴクン

「へぼあっ!!!」

シグナムが言い切る前に、シャマルが口の中に玉子焼きを突っ込み黙らせる。

「あらあらシグナムったら〜。おいしすぎるからって感激で倒れちゃったのね〜(棒読み)」

白々しさの余り呆れを通り越して感心するくらいに惚けっぷりだった。
一連の流れを傍観してたゴウが固まるほどに。

「さ、ゴウさんもどうぞ。じゃんじゃん食べて頂戴」

ゴクリ、と生唾を飲み込むゴウ。
忍びの本能が告げている。これだけはやめておけ、と。
だが逃げ出そうにもシャマルは自分から片時も目を離そうとはしない。
しかもその目は潤んでいるように見える。彼女なりに不安を覚えているようだ。

(食うしか・・・ないのか・・・)

腹を決めたゴウは、震えの止まらない手でおかずを掴みゆっくりと口に運んだ。


─約十分後

「ゼエッ・・ハァッ・・・」

途中何度も臨死体験をしながらも、ゴウはギリギリで完食していた。

「お粗末様。…それで、味はどうでしたか?」
「…この際はっきり言おうか。此処まで来ると、食材への冒涜だ。
食い物のレベルじゃない」
「が────ん!!…ひどいわ、そこまで言わなくてもいいじゃない……」

号泣寸前のシャマル。地面にのの字を書いていじけ始めた。めそめそという擬音がよく似合う。
流石に少し罪悪感を覚えたゴウは、フォローにまわった。

「あー…だが、気持ちは十分にこもっている。その点で言えば、これはいい飯だ。」
「え?」
「俺達のために作ってくれた飯なんだろう?それとも何か、嫌がらせのつもりで作ったのか、これは?」
「そ、そんな訳ないじゃない!!」
「ならいいんだ。飯を作る上で必要なのは、食わせる相手に対する心だと聞いた事がある。
後は本人の腕だ。美味いと言ってもらいたいなら、もっと腕を磨いて来い。…試食役くらいなら、なってやるから」
「・・・・・・」

言ってて恥ずかしくなったのか、ゴウはそっぽを向いて立ち上がった。

「向こうで訓練の続きをしてくる」

そしてそのまま森の奥に歩き去った。
残されたのは呆けているシャマルと未だに気絶中のシグナム。

「あんな風に言われたの、初めて……」
「う、ううっ…ハッ!あ、危ない所だった。もう少しで河を渡る所だった…」
「ねえ、シグナム」
「ん?」

臨死体験から蘇ったシグナムに、シャマルが話しかける。
「ゴウさんって、結構いい感じだと思わない?男性として」
「は?!」

突然何を言い出すんだこいつは、とシグナムが凝視する先にあるのは、頬を若干赤く染めてトロンとした眼差しをするシャマルの顔。

「シャマル?一体何があった?」
「歳も近そうだし、丁度いいと言えばいいわね。無愛想に見えるけど優しそうだし、貫禄もあって渋くていいわぁ、ああいう人」

聞いちゃあいない。完全に自分の世界に入り込んでいる。

(おそらくこれが、巷でうわさの“ふらぐ”というものか……)

うっとりとした表情で独り言を呟くシャマルを見て、シグナムはそう判断する。

(何があったかは知らんが…ゴウが今後苦労することになるのは確実だな。
……主に料理方面で)

シャマルの料理を延々と食わされ、そのたびに瀕死になるゴウの未来を想像し、シグナムは一人静かに合掌するのであった。

「ああんっ、ダメよゴウさん!まだ昼間なのに!あっ、そ、そんなトコまで…」


終われ

 

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最終更新:2008年08月19日 20:04