ぱたりと無くなった緊急出動。
相も変らぬ変わり映えのしない日々。
そんな日々にどっぷりと浸かりきっていたあるとき、ふと気になった。
調べてみようと思ったのは気まぐれか。
それともハンターとしての本能がなにかを感じたからか。
調べたそこにあったものは魔道士ランクSやAAなどという言葉で騙された歪な建物。
機動六課の建物には魔道士が常駐している。
突出した戦力は7機。
八神はやて、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ヴィータ、シグナム、シャマル、ザフィーラ。
それなりの戦力は4機。
スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、エリオ・モンディアル、キャロ・ル・ルシエ。
他の課員は無いよりマシ程度。
大半が事務屋か便利屋か非戦闘員か、11機に比べて余りにも見劣りする戦力の集まり。
もしかしたらヴァイスが使い物になるかどうか。圧倒的に数が足りない。
それなのに『迎撃システム』が一切存在しない建物。
それが機動六課。
使い物になる11機の大半が出ていったなら、襲わない賞金首がどこにいる?
魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。

第16話 不意打ち

9月11日 機動六課隊舎 PM19:14
「と、いうわけで、明日はいよいよ公開意見陳述会や。明日14時からの開会に備えて現場の警備はもう始まってる。
なのは隊長とヴィータ副隊長、リイン曹長とフォワード4名はこれから出発。ナイトシフトで警備開始。」
「皆、ちゃんと仮眠とった?」
「「「「はい!!」」」」

うん。ええ感じや。気合いものってるし、疲れた様子も無い。
入れ込みすぎてるわけでもないし、だらけてるわけでもない。
コンディションとしては最高といってええかもしれんな。
この子達にはテロが起こる『かも』しれないという次元でしか情報は伝えられない。
もっとも、テロが起こるとはっきり伝えたところで根拠に予言と言われれば信じるか危うい。 
レアスキルを毛嫌いしているレジアス中将は別にしても、
『予言だから』と言われ『はい、そうですか』と信じてたら、詐欺なんかにひっかかりそうでむしろ将来を心配したくなる。
その予言が騎士カリムのプロフェーテン・シュリフテンでなければ私も一笑に付したかもしれない。
悪質な冗談かと・・・・・・。
けれど、あまりにも高すぎる的中率を誇るその予言。
解釈によって外れることがあると言われても、間違えようの無いほど確実な部分が『地上本部が襲われる』ということ。
ただ、落とせるものなら落としてみろとも思う。
例えレジアス中将がレアスキル嫌いとかであろうとも地上本部の堅牢な構造は疑いようの無い事実。
そしてなにより私らSランク魔道士とヴォルケンリッターの皆、
なのはちゃんの指導した武装隊の人々、他にも仰山いる。
どれだけの数で攻め込んでこようとガジェットの100や200ぐらいぱぱっと片したる。
そう思ってしまうのは過信じゃないと思う。
万に一つ、こんな状況を落とせるのは・・・・・・あかん、該当者1名おった。
ま、まぁ、最近おちついとるし大丈夫やろ。
しかし、どうやって管理局システムの崩壊を導くんかなぁ。
仮に地上本部を跡形も無く破壊したとしても、管理局システムには何の影響もない。
少しだけ人事面で大変になるかなとは思うけど・・・・・・。
それだけが未だに分からない。
もっとも肝心だというのに・・・・・・。

「私とフェイト隊長、シグナム副隊長は明日の早朝に中央入りする。それまでの間、よろしくな。」
「「「「はい!!」」」」
「それと、はんたは留守頼むな。シャマル達と私らが帰ってくるまできっちり守っといてや。」
「了解しました。」

うん?なんでアルファが答えとるんや?
そういえばここしばらくはんたが喋った記憶が・・・・・・。
まぁ、ええか。気にすることやないやろ。
シャマルやザフィーラもいるし、はんたまでおれば守りは万全や。
さて、とっとと事務仕事片して中央入りするための準備を万端にしておかなな。 


========
9月12日 中央管理局 地上本部 AM02:35

一息ついて開いていたディスプレイを閉じる。
まったく、職業病ってやつは本当に治らねぇんだな。
警備の配置なんかを確認するつもりだったのに、気がつけば狙撃ポイントを探している。
あんなことがあってトリガーを引くときに手が震えるダメスナイパーなのにな・・・・・・。
しかし、本当にテロが起こるのかねぇ。
俺としちゃ半信半疑ってとこなんだが・・・・・・。
凄腕さんがいないのが酷く心細い。
不安と置き換えてもいい。
なのは隊長たちの実力は疑っちゃいない。
でも、最悪の最悪が起こったときに一番動き回れる人がいるとすれば間違いなく凄腕さんだ。
シグナム姐さんも動き回れるとは思うが、リミッターなんてもんがついちまってる。
部隊である以上、個人の判断で動く人間の存在は決していいものじゃない。
しかし、嵐のど真ん中に放り込まれたとき、部隊を取りまとめて動かすには八神部隊長には悪いが経験が足りない。
お役所仕事の管理局が緊急時にどこまで立ち回れるか・・・・・・。

まぁ、管理局に喧嘩売るやつなんてまともな神経してりゃいないはずなんだがな。
さて、喉が渇いちまったな。
コーヒーでも買って・・・・・・。
うん?ティアナ?

「おう、どうした?」
「警備部隊の方からお茶の差し入れをいただきましたんでお届けに。」
「いいねぇ。ありがとよ。」

ナイスタイミング。
気が利くねぇ。
ヘリの装甲にもたれかかりながら紙のカップを傾ける。
粉から挽いたもんなんて期待しちゃなかったが、
それでもコーヒー特有の芳香とカフェインに脳のどこかが緩むような感じを覚える。

「連中は?」
「警備の端っこのほうですし・・・・・・。交代でのんびりやってます。」

のんびりねぇ。
配置としちゃ無難というしかないのかね。
地上本部の面子の問題とかレジアス中将の私情まじりまくってる采配を考えれば・・・・・・。
ただ、テロ屋が来るとすれば確実にガジェットを持ち出すだろう。
少なくともテロ屋が俺だったら絶対に・・・・・・。
なんせ、管理局員の多くがAMF環境で戦いなれていない。
俺の古巣の武装隊の連中もヴァリアブルシュートで抜けるって気がつくのが先が、動揺している間にやられちまうのが先か。
地上本部の規模がでかすぎてこいつらも端から端まで走り回れそうにねぇし。
凄腕さんがいれば動揺なんてしないで機械みたいに淡々と処理していくんだろうがねぇ。
それこそ建物の崩落まで併用して、人間とガジェットの1対10トレードとかを当たり前と考えて淡々と・・・・・・。
しかし、どんな経験積めばあんなふうになれるんだか。
何回か試したが、構えた時点でターゲットとスコープに映るクロスヘアの中心が一致したためしなんてありゃしねぇ。
一流なんて評価されてた俺が本当にムシケラみたいなんて思っちまった。
そういえば、確か会議の最中はデバイスの持ち込み禁止とかいうわけのわからねぇ決まりもあったはず。
そのときだけは、なのはさん達も丸腰になっちまう。
叩くタイミングならそこなんだろうが、それでもここは地上本部。
簡単にどうにかできるわけじゃねぇ。

「ご一緒しても?」
「・・・・・・おぅ。」

思考の海に沈んでいた俺を引き上げたのはティアナの遠慮交じりの声だった。
まだいたのか。
珍しいな。ティアナが話しかけてくるなんて。
しかし、本当に変われば変わるもんだねぇ。
憑き物が落ちたっていうのかね。
印象が全然違う。
しかし、なんでこんな沈んだ顔してんだ?
近頃事件らしい事件もなかったし、こんな面するような話題なんかあったか?

「実は、失礼かと思ったんですが、ヴァイス陸曹のこと、ちょっと調べちゃいました。」
「あん?」
「数年前までエース級の魔道士だったって・・・・・・。」 

ああ、そういうことか。
なんで俺のことで沈むのかねぇ。
気にしなきゃいいのに。
しかし、エースか・・・・・・。

「なんだそりゃぁ。エースなもんかい。俺の魔力値なんざお前の半分以下だっつーの。」
「それでもアウトレンジショットの達人で優秀な狙撃手だったって・・・・・・。」
「昔はどうあれ、今の俺は六課のヘリパイロットだ。お前が聞いて参考になる話なんざねぇぞ。」

ふと、横を見れば俺をじっと見つめる強い視線がある。
それがまるで俺の内心を見透かしているみたいで・・・・・・。

「だいたいおめぇは余計なこと考えている場合か?ぼけっとしてるとまたミスショットで泣くぞ。このばかたれが。」
「すみませんでした。気をつけます。」
「分かれば良し。行け!!」

俺も小せぇ男だよな。
古傷に触れられたぐらいでやつあたりなんて・・・・・・。
妹の目玉を撃ち抜いてしまうなんて取り返しのつかないミスショットしちまって今でも後悔しっぱなしなんだから。
エースなんて呼ばれて粋がっていたバカに与えられた罰。
でも、昔のことなんだ。

「昔の話さ。そうだろ?ストームレイダー。」
「I think so.」

昔からの相棒たるストームレイダーの答えにいくらか落ち着きを取り戻した。
さてと、さっきの考えを掘り下げよう。
まじでどうやって地上本部を襲うのかねぇ。
分厚い結界を破っても、警備の連中がいる。
警備の連中をどうにかするために数で侵攻しても、管制がしっかりしてるから指揮はスムーズに取れるし本局から増援も来ちまう。
管制を潰したとしても動力系が生きているから中にいるなのはさん達Sランク魔道士が出撃してくる。
つまり、動力室と管制を同時に襲ってSランク魔道士を地上本部の中に閉じ込めて身動き取れなくした上で
圧倒的な数で侵攻し、なおかつ結界を破壊・・・・・・。
考えてみたけどこりゃ荒唐無稽だな。

なのはさんクラスの砲撃を外からぶちこめばあるいは・・・・・・ってところか。
凄腕さんならやっちまいそうで怖いんだが、留守番頼まれたらしいし。
うん?待てよ・・・・・・。
数はガジェットで代用可能。結界破りも同様。
あとは、動力室と管制さえどうにかできれば・・・・・・。
やっぱ無理だな。
手品師みたいに壁抜けとか瞬間移動でもやって、動力室と管制室のど真ん中に爆弾置いてこれるなら別だろうが。
心配のしすぎか。
ピリピリした空気に俺もあてられちまったみたいだな。
やれやれ。まるでひよっこみたいじゃないか。


========
「地上本部では陳述内容について注目が集まっています。」

手元の書類から目を離し、流れるニュースに視線を向ける。
今頃隊長達はあそこか。
何事も無く終わればいいけど・・・・・・。
そんなとき、こちらに駆けて来たのははんた君。
どうしたんだ?そんなに慌てて・・・・・・。

「グリフィス・ロウラン。機動六課の設計図面はこれで間違いがないのですか?」
「どうしたんだい?急に・・・・・・。」

デバイスのほうが喋っているのが気になったけど、どうしたんだ?
欠陥住宅ってわけじゃないし。
今更設計図を持ち出す意味なんてあるのか?

「これらのポイントには監視カメラがあるんですね?」
「そうだよ?そう書いてあるし、その様子だと見てきたんじゃないの?」
「他には?」
「え?」
「他にはなにもないのですか?」
「ああ、そういうことか。火災時のためのスプリンクラーとかはついてるよ。見落としたのかい?」
「鎮圧用の装備はないのですか?」
「あるわけないじゃないか。」
「なぜ?」
「なぜ?ってこれだけ魔道士が詰めているし、そんな物物しいものを配置できるわけ無いじゃないか。
非殺傷設定の問題もあるし、それに質量兵器は禁止だからね。」
「そう・・・・・・ですか。」

立ち去っていくはんた君。
いったいなんだったんだ?
なにかおかしいことでもあるのか?
でも死角が無いように監視カメラは配備してあるし。
火災対策にスプリンクラーも完璧。
遮断するための隔壁も用意してあるし・・・・・・。
これだけ魔導師がつめているんだから、今更なにを心配することがあるんだろう?


========
「間に合わないねえ。本体だったらぱぱっと作ってあげられるけど弾が揃わない。
弾だけはちまちましこしこ作らないといけないし、炸薬の材料が足りないからね。
魔力式にしても動力になるアルティメットフレンド組んでいたら日が暮れちゃうよ。」
「やはり・・・・・・。」
「だから、代わりにこのトモダチ戦車のフィギュアを展示してきてよ。」
「これは!?バトー博士・・・・・・。」
「ボクも1人暮らしが長かったから気がつかなかったんだよね。本当に天才らしからぬミスだよ。
ボクのアダナはボケ老人とでもするかい?」
「いえ、これならあるいは・・・・・・。」
「問題は侵攻ルートだね。無差別破壊ならこことここと・・・・・・・に配置して六課を崩して全滅させちゃうんだけど。」
「ヴィヴィオですね?」
「そうなんだよね。バカチンの引き取った泣き虫がひっかかるんだよね。」

私とバトー博士の懸念は同じ。
マスターもポチも同感。
それは、ヴィヴィオが破壊工作などを一切しなかったこと。
まるで普通の子供のような振舞いが懸念の種。
クローンを作るのなら何かしらのコンセプトがついてくる。
戦闘用や愛玩用のように・・・・・・。

しかし、ヴィヴィオは余りにも歪。
戦闘用でないことがおかしいくらい戦闘適正に恵まれている。
しかし、意識は戦闘用に不向き。
なにより幼子であるボディの年齢が不釣合い。
戦闘用でも愛玩用でも子供であることにメリットは存在しない。
膂力、持久力、リーチ、判断力、その他諸々の点においてデメリットしか存在しない。
暗殺用であれば若干のアドバンテージが期待できるが。
それこそ金持ちの道楽や異常性癖者、あるいは死んだ子供の代用品でも無い限り、子供という形で設計はしない・・・・・・。
ならば工作用かと思ったが、それもはずれ。
何1つおかしな行動をとっていない。
ならば本当にモルモットなのか?
そうだとすれば、今度はレリックと繋がらないことがおかしい。
モルモットにしては戦闘適正が高すぎる。
モルモットはモルモットらしく貧弱で脆弱で惰弱で数が揃えられるように作るものだから。

「まさか生体認証キーなんて旧式のシステムを動かすためなんてありえないだろうしね。
まぁ、なんでもいいや。前の改造でダッチワイフに遠隔操作用のコードは組み込んであるから状況を見て使ってよ。」
「了解。それとバトー博士・・・・・・。」
「スクラップになるのとスクラップにされるの、どっちが早いかって思ってたとこだから気にしないでいいよ。
そんなクソみたいなこと気にする暇があったらさっさとフィギュアをおいてきなよ。これでもボクは忙しいからね。」
「ありがとうございます。バトー博士。」
「礼を言う暇があったらさっさと行ってきなよこのウスノロダッチワイフ。時間がろくに無いって分かりきってるんだからさ。
アッパー系薬物キメたジャンキーよりもお気楽で危機管理の足りない六課の人間は手伝ってくれないだろうからね。
ゴキブリもせいぜい悪あがきしなよ。1秒でも長生きできるようにさ。」


========
ついに始まってしまった公開意見陳述回。
予言には『いつ』『どのように』の記載が無い。
だからこうやって警戒してるんだが・・・・・・。

「ひとまず・・・・・・なにも起こらなそうな気配ですが・・・・・・。」 

油断無く見回すエリオ。
その手元にはフェイトのバルディッシュが収まっている。
そうだ。中にいるはやてやなのは達は丸腰なんだ。
デバイスなしでも魔法は使える。
それでも、戦力は激減しちまうのは疑いようがねぇ。
なにか起こったときに、最低でもなのは達にデバイスが届くまで時間は稼がねぇとな。
しかしエリオのやつ、顔つきが少し変わったか?
訓練漬けの毎日と実戦の繰り返しで成長したんだろうが、たぶん伸び率は4人の中でトップと言っていいかもしれねぇ。
あたしやなのはの育て方が悪いとは思っちゃいねぇ。
もちろん、はやてやフェイトの育て方も間違っているとは思わねぇ。
でも、裁断機野郎の育て方が心構えを作るのに一番良かったのかもしれないなんて考えるあたしがいる。
技術も経験値も数こなせば補える。
それでも、疲れないように適度に気を抜きながらも張り詰めるなんて高度な真似は数をこなしても覚えられるもんじゃねぇ。
とにかく身体で理解するしかねぇのに、意識的にやろうとしてもそう簡単にはできねぇ。
たいていはガチガチに緊張しちまうか、気を抜きすぎてバカをやるかのどっちかになっちまう。
そんなあり方を物凄く自然にフォワード4人の中でエリオだけができているのが酷く気になった。

「油断すんなよ。しっかり警備してろ。」
「「はい!!」」

分かりきっていることを確認させるつもりでそう声をかけるとあたしは少し距離をとって、意識を念話に向けた。
予言についていろいろ考えてみたが、どれもしっくりこねぇ。
なのは達ならなにか分かったかもしれねぇ。
どっかで見落としがあるかもしれねぇしな。

『それにしてもだ。イマイチわからねぇ。予言どおりに事が起こるとして、内部のクーデターって線は薄いんだろ?』
『アコース査察官が調査してくれた範囲ではね。』
『そうすっと外部からのテロだ。だとしたら目的はなんだよ。』
『うーん。』
『犯人は例のレリックを集めている連中、スカリエッティ一味だっけか?』
『うん。』
『やつらだとしたらさらに目的が分からねぇ。局を襲ってなんの得がある?』
『兵器開発者なら自分の兵器の威力証明かな。管理局の本部を壊滅させられる兵器や戦力を用意できるって証明できれば欲しがる人はいくらでもいるだろうし。』
『威力証明なら他でも幾らでもできる場所はある。リスクが高すぎるだろ。』
「・・・・・・だよね。」
『どうにも読めねぇ。』
『まぁ、あんまり考えてもしょうがないよ。信頼できる上司が命令をくれる。あたし達はその通りに動こう。』
『そうだな。』

そうだ。ぐだぐだ考えたところでどうしようもねぇ。
襲ってくるやつを片っ端からぶっつぶしてやる。
今はそれだけで十分だ。
ふと、気になったのはこの場にいないあいつ。
なぜこちら側に立っているのか理解できない裁断機野郎。
あいつだったらなにを考えただろう。

『裁断機・・・・・・。』
『え?』
『裁断機野郎だったらなにを考えて壊すかな?』
『はんた君だったら・・・・・・気に入らないとか壊したいから壊すってところじゃないかな?』
『ははっ。言えてんな。それ。』

ムチャクチャ単純で利害も得も勝ち目もなにもかも取っ払っちまった獣じみた思考。
何故なんて問いかける大前提こそが間違ってる。
そこに何故は存在しないのだから。
鳥になんで飛ぶのかって聞くみてぇなもんだ。
そんな思考する人間なんていねぇだろうけどな。
しかし、本当に機械じみてんな。
まるでそうやって作られた機・・・・・・!!
ガジェットも戦闘機人もスカリエッティが作っている。
スカリエッティが命じたから戦う。
それならスカリエッティってやつは?
スカリエッティも実は戦闘機人で誰かに作られたなんてどうよ?
・・・・・・はっ。ありえるわけねぇな。
ばかみてぇな思考しちまったぜ。
口に出してたら皆に大笑いされちまってたところだ。
けど、なんで嫌な予感がおさまらねぇんだ。 


========
「連中の尻馬に乗っかるのはどうにも気がすすまねぇけど。」
「それでも貴重な機会ではある。今日、ここで全てが片付くならそれに越したことは無い。」

かつての古巣たる地上本部を眼下に見下ろし、
端末に映し出された公開意見陳述会を眺めながらアギトにそう告げた。
俺の目的はただ1つ。
そのためにはなんとしてもレジアスに会わねばならん。

「まぁねぇ。あたしはルールーも心配だ。大丈夫かなぁ。あの子・・・・・・。」
「心配ならルーテシアについてやればいい。」

心配なら行ってもいいんだと視線で告げる。
壊れかけの俺なんかより、未来があるルーテシアのほうがずっと大切なのだから。

「今回に関しちゃ旦那のことも心配なんだよ!!ルールーにはまだ蟲達やガリューがいるけど旦那は一人じゃないか。
旦那の目的はこのヒゲ親父だろ。そこまではあたしもついていく。旦那のこと、守ってあげるよ。」
「お前の自由だ。好きにしろ。」
「するともさ。旦那はあたしの恩人だからな。」

端末を消しながらそう告げると、どこか嬉しそうにアギトが声を上げる。
アギト。お前はルールーや俺が心配と言ったが、俺にはお前も心配だ。
古代ベルカの遺産、ユニゾンデバイス。
仕えるべきロードを失った孤独なデバイス。
俺の命が終わる前にルーテシアのことも、アギトのことも、レジアスのことも全て決着をつけなければ・・・・・・。


========
「ナンバー4。ナンバー3、トーレからナンバー12、ディードまで配置完了。時間通り。」
「お嬢とゼストも所定の位置につかれた。」
「攻撃準備は全て万全。あとはゴーサインを待つだけですぅ。」
「ええ。」 

私の作品たるナンバーズ達の会話にくくくっと笑いがこぼれる。
いや、笑いが止まらない。
大事に大事にしていたケーキのイチゴを横から掻っ攫うような、
頑張って作っていた砂の城を無残に踏み潰すような、
完成目前のパズルをひっくり返してやるような気分だ。
最高にいい気分だ。

「楽しそうですね。」
「ああ、楽しいさ。この手で世界の歴史を変える瞬間、技術者として心から沸き立つじゃないか。」

これほど楽しいことがあっただろうか。
私の声色にそれがはっきりと出ていたのだろう。
ウーノが嬉しそうな笑みを浮かべる。

「そうだろ。ウーノ。我々のスポンサー衆にとくと見せてやろう。我らの思いと研究と開発の成果を・・・・・・。」

アンリミテッドデザイアはアンリミテッドデザイアらしくやろうじゃないか。
なんせスポンサーが私をそうやって作ったのだ。
なにを躊躇う必要がある。

「さぁ。始めよう!!」

モニターの向こうで始められるナンバーズ達の地上本部侵攻と機動六課への侵攻。
慌てふためくばかりの管理局員。
塵芥のように吹き飛ばされる管理局員。
さぁ、どうする。時空管理局。法の番人様。
この絶望的なゲームをひっくり返せるものならひっくり返して見せるがいい。

「ところでドクター。試作の彼女を実戦投入してもよろしかったのですか?」

悦に入っていた私にウーノが問いかける。
ああ、なるほど。たしかにその懸念も分からないでもない。
だが、これは大切なことなのだよ、ウーノ。

「もちろんだよ。スポンサーも実にいいタイミングで面白いモノを流してくれたものだ。」
「確かに・・・・・・。しかし、ならばなぜ彼女の名はナンバーではないのですか?」
「語呂が悪いじゃないか。それに、彼女は君達とは根本的なコンセプトが違う。」
「どのようなコンセプトですか?」
「戦闘機人システムのメリットとデメリットは分かっているだろう?」
「はい。」
「インヒューレントスキルの記憶転写クローンを使ったところで元の基本性能差はどうにもならない。
ならば、元の個体性能が飛びぬけたものをベースにして製造した量産機。それが彼女のコンセプトだよ。
信じられるかね。並の人間の4倍強の性能が全てにおいて見られるのだよ。まったく手を加えていないのにも関わらずだ。
それをベースに戦闘機人を作る。ゾクゾクしないかね。
そうだ。次の研究テーマにでもしよう。どうして女性体のほうが強い個体が多いのか。
八神はやて然り、高町なのは然り、フェイト・テスタロッサ然り、
リンディ・ハラオウン然り、プレシア然り、そして彼女然りだ。」
「ではなぜロッソなんて名前を?」
「忘れられし都でそう呼ばれていたらしいからそのままつけただけさ。
それに、私は量産と言ったはずだよ。数字を当てていてはキリがなくなる。
さて、作戦は順調なようだ。ウーノ、お湯を取ってくれ。」
「・・・・・・ドクター。」

ポケットから取り出したそれを開封するととがめるような視線を向けてくるウーノ。
いいじゃないか。食事なんて最低限の栄養さえ補給できればいいが、最後に食事したのは5日前・・・・・・。
さすがに私も飲まず食わずで平気でいられるほど超人ではないのだよ。

「いいじゃないか。小腹がすいたんだ。第97管理外世界にあったこれが実に私の好みでね。
インスタントで機能性に優れていることといい実に素晴らしい。ウーノもどうかね。」
「・・・・・・いただきます。」

更にポケットから取り出すといそいそと近寄ってくるウーノに笑みがこぼれる。
素直に食べたいと言えばいいだろうに。

「どっちがいい?」
「では、赤いほうを。」
「しかし、なぜ緑だとたぬきなのだろうか。生物学的にはなにも関係ないのだがね。気にならないかね。」 

========
必然のように起こった機動六課への襲撃。
空を埋め尽くすガジェットドローン。
勝率は5%を割っている。
あまりにも積み重なった不利になる要素。
数の不利、AMF環境に不慣れな要員、迎撃設備を持たない建物、非戦闘員の存在・・・・・・。
あげ始めれば終わりが無い。
本来であれば有利になるはずの施設防衛という状況でさえ、
塹壕にも城砦にもならない脆弱な構造の建物によって不利に機能する。
なにより致命的なのはマスターのプロテクトが破れなかったこと。
マスターの戦闘スタイルは相手より先に襲い掛かり1秒でも早く撃滅すること。
攻撃が最大の防御をその身で体現するのがマスター。
しかし、相手を破壊できずに、どうやって相手を食い止める?
『破壊さえ』できればこちらの消耗よりも早く相手を全機撃破できるのに!!
例え10倍や20倍の戦力差があろうともだ。
ザフィーラとシャマルがどれだけ役に立つかさえ未知。
ただ、ホテル・アグスタの際に計測したデータからすれば望み薄といわざるを得ない。
ザフィーラは地形に隣接した場所からしか展開できないという鋼の軛の制約。
シャマルはサポートデバイスのクラールヴィントの制約。
なにか劇的な、それこそ時間を停止させたり、跡形も無く消し飛ばすアレのような攻撃手段があるのなら別なのだが・・・・・・。
対多数戦においてあまりにも不向きの2機。
よってマスターとポチの2人が実質的な戦力。
しかし・・・・・・。
目の前にいるのはいつぞやのレッドフォックスもどき。
容姿と装備の違いから後継機、あるいは先行機と推測。
装備から近接戦闘に偏りの可能性を考慮。
能力で言えばマスターのほうが遥かに勝ることに疑いはない。
しかし、これらを相手にしながら、ガジェットの群れを制圧しつつ、建物を守り、人を守り・・・・・・。
なにより八神はやてがマスターに頼んだ依頼がある。
「留守を頼む」と・・・・・・。
そのせいで逃げ出すことさえ許されない。
大破寸前のマスター、最悪の戦闘環境、ろくに揃わぬ防衛戦力、望み薄の援軍到着・・・・・・。
どうすればいい?
ありとあらゆる条件を検索していく。
しかし、不可能ばかりが導かれる。
勝利条件を増やすもの全てがイレギュラーの発生。
つまり、極小の確立でしか起こりえない事象ばかり。
唯一まともな可能性さえ私が戦うというもの。
ユニゾンによって改造し放題となったマスターを強制的にシステムダウンさせ、
私の単独行動に移行・・・・・・。
答えはNo。
論外。
私が単独行動を行使するにはマスターが行動不能になっていなければならない。
戦闘においてコンマ数秒でも行動できなくなるのは自殺行為。
ゆえにマスターに残された道は、たった1つ。
不具合だらけの肉体を稼動させ、マスターが駆け出す。
同時に牙を剥き出しにしたポチが敵に躍りかかった。
あの荒野を駆け抜けていた頃と同じように・・・・・・。 

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最終更新:2008年08月22日 06:37