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地上本部でクリサリモンとの戦闘が行われていた時と同時刻。機動六課所有の輸送ヘリは山岳地帯を走る貨物輸送列車を追うように飛行していた。
六課が追っているロストロギア、レリック。そのレリックらしき物が列車内部で発見されたのだ。
六課隊長、八神はやてはスターズ、ライトニング両小隊の出撃を命じ機動六課初の出撃となった。

『ガジェット反応、数多数。そちらに接近中です!』

案の定、レリックを追う謎の機械兵器ガジェットも出現しスターズ小隊隊長、高町なのはとライトニング隊長、フェイト・T・ハラオウンが迎撃に出撃。
これが初の実戦となる機動六課フォワード4名はヘリから直接貨物輸送列車へと飛び移り、内部に侵入していたガジェットとの交戦を開始。
空の隊長二名は順調にガジェットを撃墜していき、手が空き次第フォワードメンバーの応援に回ろうと考えていた矢先に――

『何これ……アンノウン出現! なのは隊長、フェイト隊長、気を付けてください!』

――その黒竜の群れは突然現れた。
全長は4メートル以上はあろう黒き体からボロボロの黒い翼を二枚生やした竜、は血のように赤い四つの目を、なのはとフェイトへ向ける。
五匹ほどの黒竜に囲まれた二人は背中合わせになり、いつでも動けるよう神経を黒竜に向けながら言葉を交わす。

「何なの……この竜達?」
「わからないけど……とりあえず、敵と考えていいんじゃないかな?」

両腕の鋭く尖った赤い爪を二人に向ける黒竜の群はどう見ても友好的ではない。
低い唸り声をあげ、今にも襲いかかりそうな雰囲気を漂わせる。

「ガジェットじゃない……召喚獣?」
「でも、これだけの数の竜を一度に召喚できる魔導士なんて……」
「ガジェット? 召喚獣? そんなのと一緒にして欲しくないわねぇ」
「「っ!?」」

不意に上空から投げかけられた声に反応し、二人は顔をあげる。
そこには黒いレザー系スーツを纏う灰色の肌をした異形の女性がいた。
顔半分を黒マスクで覆い素顔は見えないが、そこから除く赤い眼と左腕の異様に長く鋭い赤い爪が人外の存在である事を示している。

「それにしても、この世界の人間はホントに空が飛べるのねぇ……話半分だったんだけど」
「この世界の……? お前は一体?」
「答える必要は無いね……デビドラモン!」

黒い女性が指を鳴らし、デビドラモンと呼ばれた黒竜の群がなのはとフェイトへ襲いかかる。

「くっ! なのは!」
「分かってる!」

デビドラモンの爪が振り下ろされ、なのはとフェイトは弾かれるようにその場を離れる。
群の囲みを脱したなのはは外側から得意の砲撃を撃たんと自らの周囲に小型の魔力弾を十数発展開、狙いを定め一斉に放つ。

「アクセルシューター!」

自身の最も得意とする砲撃魔法の一つ、アクセルシューターがデビドラモンの群れへと襲いかかる。
一つ一つが意志を持つかのように自在な軌道を描く魔力弾がデビドラモンの巨体を捉え、その黒い皮膚へ直撃、爆発。
直撃を受けたデビドラモン達が痛みに悲鳴をあげるがすぐに体勢を立て直し、なのはの体を爪で引き裂こうと腕を伸ばす。

「遅い!」

デビドラモンの動きよりも速く、フェイトが高空よりプラズマランサーを発射。
なのはへと襲いかかろうとした三体のデビドラモンに容赦なく魔力砲撃の雨が降り注ぐ。
そのまま三体のデビドラモンは地上へと墜落していく。

「私もいるって事、忘れてないよねぇ!?」
「っ!」

横合いから仕掛けてきた黒い女性の打撃をレイジングハートで受け止めるなのは。
だが、力は女性の方が上なのか、そのまま押し切られる形でなのはは吹き飛ばされる。

「うぁっ!」
「なのは! くぅっ!」

フェイトが救援に向かおうとするよりも速く、デビドラモンが襲いかかる。
尾先についた爪を巧みに操って隙をつくり、両腕の爪でフェイトを引き裂かんと二体のデビドラモンがフェイトの前に立ちはだかる。

「フェイトちゃん!」
「お仲間の心配なんてする暇はないよ!」

黒い女性はなのはへ左腕の爪を振り下ろし、なのははその一撃を避け距離を取る。
接近戦では勝ち目が無い。なのははある程度の距離を取り自らの得意魔法の一つ、攻撃における主砲を放つ。

「ディバインバスター!」

対して黒い女性は両腕を振り上げ、自らの必殺たる攻撃を放つ。

「ダークネスウェーブッ!」

蝙蝠の群れを模した熱線と桃色の閃光が正面から激突し、爆発を引き起こす。
機動六課初の任務は、未知なる敵との戦闘という最悪のイレギュラーとなった。


レリック争奪戦 六課VS暗黒デジモン


「状況は!? どないなってんの!?」

六課司令室。
所用で出かけていたはやては入室するなり声を張り上げ、副官のグリフィスへと報告を求める。

「はい。空のガジェットを高町、ハラオウン両隊長が撃破した直後にアンノウンが出現……現在交戦中です」
「フォワード四名が突入した輸送列車にもアンノウン出現。フォワード四名交戦に入った模様です」
「索敵は何やっとったんや! 接近する時点で普通気付くやろ!」
「それが……急に出現したんです。転送魔法使用の反応もありませんでしたし……」
「何やて……?」

オペレーターのシャリオ・フィニーノの報告にはやては疑問の声をあげる。
転送魔法を使わずに突然現れたと言うアンノウン。モニターに映しだされるヘリからの映像を見る限り、生物のようだが、あんな生物は見たことも聞いたこともない。
なのはとフェイトは何とか戦えているが、初の実戦となるフォワードメンバーがどうなっているのか……。

「最悪やな……」

実戦ともなればどんなイレギュラーが起きても可笑しくはないと理解しているが、その中でも最悪。
よりにもよって初陣で未知の敵との戦闘。隊長二名はともかくとしてもフォワードメンバーが上手く立ち回れるとは思えない。
はやて自身もフォワードメンバーの実力を信じているが、まだまだヒヨッ子の彼女達に手加減する敵などいるはずもないのだから。


輸送列車、貨物車両内部。
スバル・ナカジマとティアナ・ランスターの両名は目の前に出現した異形と対峙していた。
赤い骨だけの体と黒い頭蓋骨。背中に生える黒い翼と宝石のついた骨の杖を担ぐ姿は悪魔と言う表現が適切だろう。
その異形、スカルサタモンは頭蓋骨の奥に覗く目を細め、スバルとティアナを見やっていた。

(何なのよ……コイツ)
(ガジェット……じゃないよね?)
(でしょうね。明らかに機械じゃなくて、骨の化け物だし)

素人でも分かる程に殺気を放っているスカルサタモンへと身構え、二人は念話を行う。
目標のロストロギア、レリックの収められたケースはティアナの丁度真後ろにある。
目的は分からないがもしも戦闘となった場合、レリックだけは何としてでも守り抜かねばならない。

「レリックってぇのは……その中かぁ?」
「えっ……?」

怠そうに左手の人差し指でティアナの真後ろにあるケースを指さすスカルサタモン。
骨だけの不気味な外見からは感じさせないが、人語を介せるだけの知能を持つ事に二人は驚きながらも対応する。

「さぁ……? それがどうしたの?」

レリック狙いの怪物だと言うのなら厄介な事になるかもしれない。
見かけに反して心優しい正義の使者ならばまだマシだろうが、とてもそうは思えない。

「ソイツを貰おうと思って……なぁっ!」

怠そうな動きから一変し、スカルサタモンは杖を構え床を蹴る。
咄嗟にスバルが走り、右腕のリボルバーナックルへと魔力を込める。

「だぁっ!」
「どぉらっ!」

振り下ろされた杖と突き出されたリボルバーナックルが激突する。
重い激突音の後、体格差に押されたスバルがティアナの側へと転がるように飛ばされ、スカルサタモンも激突の衝撃で尻餅をつく。

「スバル!?」
「大丈夫、平気! それよりも……アイツ、結構強いかも」
「人間が俺の一撃を受け止めた挙げ句に尻餅をつかせるだとぉ? やるじゃねぇかよぉ」

杖を支えにして起きあがり、スカルサタモンはスバルを睨み付ける。
まさか人間相手に尻餅をつく羽目になるとは……面白いじゃないかと、スカルサタモンは笑みを浮かべる。
正直な所、相手が人間というのは物足りず不満だったがこれは嬉しい誤算だ。

「レリック貰う前にテメェ等二人潰すのに決めた! ヒャハハハハハッ!」

高笑いをあげ、スカルサタモンは杖の先端を二人へ向ける。
己の中の闘争本能に従い、床を蹴ってスカルサタモンは二人の少女へと襲いかかる。
振り下ろされた杖を避けるスバルとティアナ。一撃で床を陥没させた杖の威力に背筋を冷やしながらもティアナはレリック入りのケースを確保。
スバルはリボルバーナックルのカードリッジを一発消費、その拳から放たれる射撃魔法をスカルサタモンの顔面へ叩き込む。

「リボルバーシュート!」
「ぐおっ!?」

顔面で爆発する魔力弾。
スカルサタモンが悲鳴をあげ、怯んだ隙を逃さずスバルは追い打ちを仕掛ける。
リボルバーナックルのタービンを回転させ、魔力で威力を底上げした拳を打ち込み両足のマッハキャリバーのローラーで骨しかないスカルサタモンの腰を蹴り飛ばす。

「スバル!」
「うん!」

ティアナがクロスミラージュによる銃撃でスカルサタモンへ更なる追い打ちを仕掛け、スバルはその隙にティアナの元へと走る。
スバルが自分の横を抜けて貨物車両を出たのを確認し、ティアナも貨物車両を後にする。
あんな化け物と戦うには貨物車両は狭すぎる……レリックの確保を優先した上での行動だった。

「ティア、これからどうするの!?」
「とりあえず、別行動中のチビ達と合流! 私達だけじゃ結構厳しいかもしれないし……」

訓練で何度も戦ってきたガジェット相手ならばともかく、あんな見た事も聞いた事もない化け物相手に二人だけで戦いを挑むのは無謀。
交戦自体出来れば避けたい所だがこの列車に乗っている間、ずっと隠れて逃げおおせられる相手とも思えない。
この列車の最後尾から突入した同僚、エリオ、キャロと合流すればまだ戦いようはあるかもしれないが。

「テメェ等ぁっ! あんな温い攻撃で俺を倒せると思ってんのかぁ!?」

背後からスカルサタモンの怒声と足音が聞こえてくる……さっきの攻撃で怒らせてしまったのか、かなりご立腹のようだ。
ティアナは思っていたよりも早くスカルサタモンが追ってきた事に焦りを覚えながらも、次なる手を思考する。
体格差が軽く倍はあるとはいえ、力自慢のスバルが押された相手だ。自分達二人だけで、オマケにレリックを抱えた状態で戦える相手ではない。
背後から迫ってくる足音がどんどん近づいてくる。エリオとキャロに合流する前に追いつかれるかもしれない。
ティアナは隣を走るスバルに目をやる。本来ならもっと出せるはずのスピードを落として自分の隣に付いているのはいかにも彼女らしいが、このままでは追いつかれる。

「スバル、これ持って先に行きなさい」
「ティア?」

ティアナは抱えていたレリック入りのケースをスバルに押しつける形で手渡す。

「私はアイツを足止めするから、アンタはレリック持ってエリオとキャロに合流しなさい」
「えっ……ちょっと待ってよ! ティア一人でアイツの相手なんて!」
「私ならアイツの杖の間合いに入らずに戦えるし、第一、このままじゃ二人とも追いつかれるわ」
「でも! ティアが残るんなら私も……っ!」
「それで二人ともやられて、レリック持ってかれたら洒落になんないの。分かる? 大丈夫、アンタがさっさとチビ達つれてくればいいんだから」

ティアナの諭すような口調にスバルは押し黙る。
足止めに徹するなら遠距離攻撃タイプで、幻術も使えるティアナが自分よりは確かに適しているかもしれない。
だが、万が一にでもティアナがやられたらと思うと不安でたまらない。

「私がそう簡単に倒されるとでも思ってるわけ?」
「そうじゃないけど……」
「だったら少しは信用しなさいっての」

軽く笑みを浮かべて言う親友の顔は自信に満ちている。
足止めに徹するなら自分一人で十分だと、そして、スバルがエリオとキャロを連れてすぐに戻ってくると信じているが故の表情。
それを見てスバルもようやく意を決し、レリックのケースを抱きかかえる。

「……分かった。先に行って、エリオとキャロを連れて戻ってくる!」
「頼むわよ。足止め出来る自信はあるけど、あまり長く持たせられないと思うから」
「OK! 無茶しちゃ駄目だよ!」
「アンタに言われたくないわよ!」

ティアナに合わせていた速度をあげ、スバルは一気に加速し車両の奥へと消えていく。
それを見届け、ティアナは背後を振り向きクロスミラージュの銃口を向ける。
一つ向こうの車両から聞こえてくるスカルサタモンの足音。あと一分もしない内に自分の視界へとあの骨の悪魔が姿を現すだろう。
周囲に魔力弾を展開し、クロスミラージュの銃口にも魔力をチャージ。この場から動かずの連続射撃で動きを止める。

『敵、距離15メートル前方まで接近しました』

クロスミラージュの索敵がスカルサタモンの位置を伝える。
スバルにあれだけの大見得を切ったのだ。足止めをやりきって見せねば格好が付かない。
足音が次第に大きくなり、車両同士を繋ぐ出入り口からスカルサタモンが姿を現す。
その瞬間、ティアナはクロスミラージュの引き金を引き魔力弾を一斉に放つ。

「クロスファイアシュート!」
「またかよ!?」

ウンザリしたような声をあげたスカルサタモンの体へ、魔力弾が直撃する。
生成した魔力弾を撃ち尽くすと同時にカードリッジを入れ替え、後退しつつクロスミラージュの引き金を引き続ける。
ただでさえ魔力保有量がそれ程多くない自分の弾切れが早いか、スバルが応援を連れて戻ってくるのが早いか……いや、スバルが戻ってくるまで持たせなければならない。
クロスミラージュのカートリッジを交換し、ティアナはたった一人の持久戦を開始した。


機動六課フォワード4名の残り二人、エリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエの二名は輸送列車の屋根の上にいた。
ヘリから降下し、屋根の上に展開していた数体のガジェットを連携で撃破。今から列車内へ突入しようかという所で二人は異変に気付く。
空の上で隊長達が戦っている竜の群れと黒ずくめ女性。ガジェットとは明らかに違う怪物と異形の存在。

「あれは……キャロ!」
「分からない……あんな竜、見た事も無いし」

フェイトと空中戦を繰り広げる黒竜……デビドラモンは、竜召喚士であり、それなりに知識はあるキャロも知らぬ存在。
ミッドは勿論、キャロの出身世界である第六管理世界にすら存在しない生物故にそれは当然の事だろう。
ただ、デビドラモンの凶暴さは見ただけで感じ取れる。闘争本能と主に従うだけの凶悪な生物だと。
流石にフェイトも一人で二体相手は厳しいのか、押されてはいないが思うように攻められない様子を見せている。
なのはも対峙している女性に思いの外苦戦しているように見える。

「フェイトさん達を助けないと!」
「でも、僕達空飛べないし……」

保有戦力制限というルールに従いリミッターをかけて力を落としているとはいえ、隊長二人が苦戦を強いられている。
それは二人にとって衝撃的な光景であり、焦りを生み出させるに十分な効果を与えていた。
今すぐにでも助けに行きたいが、エリオの言うように空を飛ぶ術がない自分達に一体何が出来よう。

(……助けには、行けるかもしれない。でも……)

空を飛ぶ術……キャロには一応、それがあった。
自らが使役する子竜、フリードリヒ本来の力を解き放てば空へと舞い上がる事は可能。
しかし、キャロの中にそれを使うという選択肢は存在しない。

(竜召喚は危険な力……誰かを傷つけるだけの)

幼くして類い希なる竜召喚の力を持っていたが故に故郷を追放された。
それ以来、力を使おうにも制御できずに暴走するばかりでまともに使えた試しが無い事も手伝ってか、キャロはその力を使わない。
否、使えない。例え使っても誰かを傷つけてしまうだけだ……誰かを助けるなど出来る筈もない。

「キュクル?」

主の不安げな表情を心配してか、フリードがキャロの顔を覗き込む。

「フリード……大丈夫。何でも、無いから……」

浮かない顔でそういう主に、フリードは困ったような表情を浮かべる。
大丈夫と暗い表情で言われても納得する出来るはずも無いのは当然。
エリオもキャロに何か声を掛けようとするが……それよりも早く足下、車両の屋根が内側から何かに吹き飛ばされる。

「うわっ……キャロッ!」
「きゃあっ!?」

咄嗟にエリオは落下寸前のキャロを押しのけ、彼女が車両へと落下するのを防ぎ自分は落下。

「痛ぁ……っ!」

車両の床に背中から叩きつけられる形となったエリオは痛みに顔を歪めながらも、槍型デバイス、ストラーダを支えに立ち上がる。
屋根を吹き飛ばし、自分とキャロを襲った犯人であろう大型のガジェットが車両中央、無機質なカメラアイを自分に向けて鎮座している。
球状のボディ上部からはベルトアーム、下部からはコードを触手のように伸ばしたそれは訓練や記録映像で見た物のどれとも違う。

「新型……っ!?」

ガジェットがベルトアームを伸ばし、エリオに襲いかかる。
エリオは後方へ飛び退きながら術式を展開。ストラーダを振りあげ、魔力で圧縮した空気刃を飛ばす。

「ルフトメッサー!」

エリオが放ったそれはガジェットの展開した魔力の結合・効果発生を無効にするフィールド、AMFにより直撃する事なく消滅。
訓練で何度も経験したが、魔力結合・魔力効果発生を無効にするこれは魔導士にとって最も厄介な物の一つ。
このガジェットは大型なだけにAMFの効果範囲も広いのか、すぐ近くにいるエリオどころか距離が離れたキャロの魔法使用まで妨害される。
オマケにかなりの高濃度。高ランクの魔導士ならフィールド内でも対処は出来るそうだが、それは自分達には無理な話だ。

「こんな遠くまでAMFが……」
「これじゃ、フェイトさん達を助けに行く所じゃない……クソっ!」

憎たらしいAMFとガジェットに悪態を付き、エリオはストラーダの切っ先を向ける。
ガジェットを相手にする時点で魔法使用不可状況での戦闘になる事は覚悟していたのだ。
この程度の状況を切り抜けられなければ、この先六課の仲間と共に戦っていくなど無理……まして、騎士を名乗るなど夢のまた夢。
ストラーダの切っ先をガジェットへと向ける。魔法が使えないのなら己の身体能力で勝負、ただそれだけだ。

「いくぞぉぉぉっ!」

僅かに残る不安を自らの叫びと共に吐き出し、エリオはガジェット目掛け突撃した。


「ダークネスウェーブッ!」
「うぁ……っ!」

女性の放つ熱線を防御フィールドで受け止めるがすぐに突き破られ、なのはは短い悲鳴をあげながら衝撃で吹き飛ばされる。
咄嗟に回避運動を取り直撃は免れたが、バリアジャケットのスカートが僅かに焼かれ、白い布が黒い墨となって千切れ飛ぶ。
それなりに自信があった防御をあっさりと破られた事に軽くショックを覚えながら、なのははすぐに次の手を打つ。

「ディバインシューター!」

複数の魔力弾を放ち、一つ一つが全く違う軌道を描きながら女性へと襲いかかる。
女性はそれを鼻で笑い、左腕を槍状へと変化させ接近してきた魔力弾から片っ端から叩き落とす。
その隙をつき、なのはは最小チャージでバスターを放つが、直撃は叶わずギリギリの所で回避される。

(パワーじゃあっちが上……こっちは手数で攻めるしかない!)

なのはは絶えず動き回り、最小チャージのバスターを放つ事で女性の動きをある程度封じていく。
正面切っての力勝負では圧倒的に不利。ディバインバスターですら女性の放つ熱線と相殺がやっとだ。
そのディバインバスターも、最強の切り札であるスターライトブレイカーもチャージする暇を女性は与えてくれない。
故に威力は心許ないがチャージに時間のかからない砲撃を連射し、手数で勝負する手段を選ぶ。

「チッ……鬱陶しい小娘だねぇ」

女性、レディーデビモンと呼ばれるデジモンはなのはの砲撃を回避し、叩き落としながら舌打ちする。
パワーで負けていると悟ったからか、弱い攻撃を連射するという姑息な方法を採り始めた。
この程度の攻撃なら蚊ほどにも感じないが避け続け、防ぎ続けると言うのもいささか面倒くさい物だ。
何よりも、人間相手にこれほど時間を掛ける事はプライドが許さない……そろそろ実力差を思い知らせてやろう。

「たかが人間が、調子に乗るんじゃないよ!」

直撃コースだった砲撃を防ぎ、レディーデビモンは一気になのはとの距離を詰める。
なのははすぐに移動を開始するが僅かにレディーデビモンが速く、槍と化した左腕を突き出す。

「ダークネススピアーッ!」
「っ!?」

レディーデビモンの黒い槍が、なのはの左肩を捉えた。
容赦のない強烈な突きが白いバリアジャケットを突き破り、赤い血の色に染めていく。

「あ……っ?」

一瞬、何が起こったのか理解できなかった。
なのはは呆然と貫かれた左肩を見やり、赤く染まったバリアジャケットとレディーデビモンの槍を視界に認め、状況を理解。
彼女の脳がそれを認めた瞬間、左肩が熱くなり堪え切れぬ激痛が神経を伝って全身に襲いかかる。

「あっ……うあああああああっ!」

張り裂けんばかりの悲鳴が、山岳地帯へと響き渡った。


「なのは!?」

響き渡った悲鳴に、デビドラモンと交戦中だったフェイトは動きを止め、悲鳴が聞こえてきた方向へと顔を向ける。
自分のほぼ真下……距離にして十数メートル程の位置に、左肩を貫かれたなのはの姿があった。
完全に肩を貫通したレディーデビモンの槍と白いジャケットが赤く血で染まり、なのはの表情は普段滅多に見せない苦悶のそれへと変わっている。



その光景の意味を理解した瞬間、フェイト・T・ハラオウンの中の何かが音を立てて切れた。



「「グオオオオッッ!」」

動きを止めたフェイトへ2体のデビドラモンが襲いかかる。
戦いの最中に動かなくなった敵など的意外の何者でもなく、凶暴な性質のデビドラモンは容赦なく必殺の一撃たる爪をフェイトに向け振り下ろす。
真紅の爪がフェイトの頭部を捉え、切り裂くように叩き潰さんとする直前……デビドラモン達は爪の動きを止めた。否……止めざるを得なかった。
デジモンとしての、生物としての本能が目の前の女性への攻撃は危険だと訴えたのだ。しかし、その事を知るには若干遅すぎた。

「……邪魔だ」

冷徹な声で静かに呟くと、フェイトはバルディッシュを軽く振るってからレディーデビモン目掛け降下する。
動きを止めた2体のデビドラモンはそれを追おうとはせず、その場で動きを止めたまま……頭部から尻尾の先まで綺麗に両断される。
体を構成するデータが消滅し、黒いタマゴの形となって重力に従い落下していくそれを気にも止めず、フェイトはバルディッシュをレディーデビモンへと振り下ろした。

「はああああああっ!」
「なっ!?」

レディーデビモンがフェイトの接近に気付いた時には遅すぎた。
非殺傷設定を解除したバルディッシュの刃がその首目掛け振り下ろされ、一瞬の間の後……レディーデビモンの首と胴体が離れ、消滅。
粒子状となったレディーデビモンの体は黒いタマゴとなり、そのまま地上へと落下していく。

「っ……ぁ」
「なのは!?」

解放され、落下しそうになるなのはをフェイトが抱き止める。
貫かれた左肩からは血が流れ、白のバリアジャケットは赤く染まり、フェイトの黒いジャケットにも血が付着。
フェイトの腕の中で荒く息を吐きながら、なのはは右手で左肩の傷口を押さえ治癒魔法での応急処置を開始する。

「なのは、大丈夫?」
「うん……なんとか……私は平気だから、フェイトちゃんはスバル達の方をお願い。多分、あっちにもアンノウンがいると思うから」
「……解った。ヴァイスには連絡しておいたから無理せず後方に下がって」

それだけ告げ、フェイトは線路を走る貨物列車へと向かう。
一人残ったなのはは魔法による治癒を行いながら、貨物列車にいる筈の新人達へ念話通信を送る。

『皆……誰か聞こえる?』
『なのはさん、スバルです!』
『スバル、そっちの状況は?』
『なんか変な骸骨がレリック狙って現れて……今、ティアが足止めしてます』

やはりと言うべきか、列車内にもアンノウンが出現していた。
しかし、そちらよりもなのははスバルの言った事に衝撃を覚える。

『ティアナが足止めって……一人で?』
『えっ……はい。私はレリック持ってエリオ達と合流しろって……』
『なんて無茶を……っ! スバル、エリオ達の方はいいからティアナの所まで急いで戻って、私も行くから!』

念話と魔法による左肩の治療を中断し、なのはもすぐに貨物列車へと向かう。
レディーデビモンと同等、またはそれ以上の敵が列車内にいる可能性だってある……そんな敵をティアナ一人で足止めなど不可能だ。
左肩の傷は完全に塞がっておらず、動かすたびに痛みが走るが、無茶をしている教え子を助けなければいけないこの状況でいちいち気にしている暇など無い。
こんな事態になるのなら新人達は待機させ、自分とフェイトだけで出撃するべきだったと後悔すら覚える。

(無茶して潰れたら意味無いのに……っ!)

ティアナに若干苛立ちを覚えながら、なのはは先頭車両の屋根に空いていた穴へと飛び込んだ。


エリオが床を蹴るのと同時に、ガジェットがベルトアームを伸ばす。
不安げな表情を浮かべるキャロが見守る中、エリオは槍へ魔力の代わりに己の闘志を込めガジェットへと振り下ろした。
槍とベルトアームがぶつかり合う甲高い金属音が車両内に響く。体格差を利用し、ガジェットの懐へ潜り込もうとするエリオと、アーム、触手を巧みに用いてそれを妨害するガジェット。
エリオは自慢の足の速さで攪乱しようとするが場所が狭く活かしきれない上に、ガジェットのベルトアームが自意識を持つかのような動きでこちらに付いてくる。
正面から迫るアームの一撃をストラーダで受け流し、お返しとばかりにアームに一撃を加え、その反動を利用しガジェットの背後まで飛び着地。

(全然効いてない……)

すぐに顔をあげ、自分が撃ち込んだアームを確認するが傷一つ付いていない。
やはり魔力による攻撃力補助無しでは厳しい。男とはいえ、成長過程の最中である10歳の少年の腕力には丈夫なアームを傷つけるだけの力がない。
ならばと、エリオは狙いをアームと本体を繋げる接続部分に狙いを定め、ストラーダを構え直し突撃。
渾身の力を込めた槍の一突きは、それよりも早く動いた触手にストラーダを絡め取られ、不発に終わる。

「なっ!?」

驚愕し、エリオの動きは一瞬だけ止まる。それは致命的な隙だった。
豪速で繰り出されたベルトアームによる打撃がエリオの腹にめり込み、その小さな体を車両の壁に叩き付ける。

「うぁ! ぐ……ぅぁ……」

これで攻撃が終わるはずも無く、ガジェットはプログラムされた行動の通り、エリオの排除へかかる。
先の攻撃で気を失ったのか、エリオは壁に倒れ込んだままピクリとも動かない。
ガジェットはアームで器用にエリオの体を掴み上げ、無造作に屋根の穴へ……車外へと放り投げた。

「エリオ君!?」

放り投げられ、崖下へと落下するエリオ。
キャロはその光景を、目の前で今まさに死を迎えようとする少年の姿を恐怖の表情で見るしか出来ない。
今ならまだ力を使えば彼を助けられるかもしれない。しかし、この強力なAMFの中では魔法は使えない上……力を使う事への恐怖が幼い少女の心を支配する。
使えない、使っても助けられない、使っても……逆に彼を死なせるだけかもしれない。

「……あ……あぁ……っ」

屋根の上でガクガクと震える少女を、ガジェットは冷たいカメラアイで見上げベルトアームを伸ばす。
次は屋根の上の邪魔者を消す。命令を実行する為だけに働く思考が下した判断に従い動く。
巧みにアームを用いて屋根の上に姿を現したガジェットを見上げ、キャロは完全に腰を抜かし、その場に座り込む。

「キュクルゥッ!」

恐怖に支配され、動けない主を守ろうとフリードはガジェットへ向け炎を放つ。
しかし、ガジェットの動きを止めるには至らず逆にそのアームによって捕らえられる。

「フリード!? ……ひっ!?」

フリードの心配をする間もなく、ガジェットがキャロへとカメラアイを向ける。
もう片方のベルトアームで車両から叩き落とそうと狙いを定め、アームを振り上げた所で……二本のアームは切り裂かれた。
何事かとガジェットが反応するよりも早く、その球状のボディを魔力刃が背後から貫き、機能を停止させる。
そのまま横薙ぎに振るわれた刃によって破壊され、爆散したガジェットの向こう側にバルディッシュを構えたフェイトの姿があった。

「フェイト……さん?」
「キャロ、大丈夫?」

左腕に気絶したエリオを抱きかかえたフェイトは心配そうな、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
アームから解放されたフリードもキャロの傍らへと降り立ち主の顔を覗き込む。
最も心を許せる人が助けに来てくれた……その安心感と恐怖からの解放感から、キャロはその場で気を失った。


「うぁっ! ……ぁ……ぁ」

壁に叩き付けられ、ティアナの口から苦悶の声が漏れる。
足止めに徹すれば一人だけで十分、距離を取って戦えばどうと言う事はない……それは自惚れだった。
膝をつき、そのまま俯せに倒れたティアナの頭をスカルサタモンの足が踏みつける。

「ぐぁ!」
「オイオイ、もうお眠りか? つまんねぇなぁ」
「あっ……があぁっ!」

このまま頭を踏み砕こうとでも言うのか、スカルサタモンは体重を足に掛けてくる。
目を見開き、苦痛に悲鳴をあげるティアナをつまらなそうに見やり、わざとらしいため息を吐く。
たった一人で自分を相手にしようとした事からそれなりの手練れだと思ったが、そうでも無かった。

「ったくテメェのせいで時間の無駄だ。さっさとレリック持って逃げてったお仲間呼び戻しやがれ」
「あっ……ぐぁ……お……断りよ……あがぁっ!?」
「自分の立場っての解ってねぇのか? 雑魚の分際でよぉ?」

体重を更に掛け、強く頭を踏みつける。
敵に足蹴にされ、手も足も出せず一方的に嬲られる屈辱。
雑魚と嘲笑われる屈辱は、ティアナのプライドに大きく亀裂を走らせる。

「さっさとお仲間呼んで惨めに助けてもらうのが三下にはお似合いなん……ぐへぇっ!?」

スカルサタモンの愚別の言葉は、その顔面に叩き付けられた拳により遮られた。
拳の主、スバルは感情の赴くままにリボルバーナックルへ魔力を込める。

「ティアから……どけぇ!」

力と怒り任せに殴り抜いた拳が、スカルサタモンの体を宙に浮かせ壁に叩き付ける。
壁に叩き付けられ、スカルサタモンが悲鳴をあげるよりも早く、スバルは追撃を仕掛け、拳を叩き込む。

「おりゃあぁっ!」
「ぐぎゃはぁっ!?」

壁をぶち抜き、車外へと放り出されたスカルサタモンはそのまま崖下へと落下する。
スバルはそれを確認し、すぐさま床に倒れたままのティアナへと駆け寄り、抱き起こす。

「ティア!」
「スバル……アンタ、一人……?」
「うん。ティア一人じゃやっぱり心配だったし、それになのはさんも……」
「スバル! ティアナ!」

スバルが名前を出すのと同じタイミングで、なのはが姿を現す。
二人の姿を確認し、案の定ボロボロになっているティアナを見てなのはの表情が僅かに強張る。
無茶をしたティアナへの怒りと不甲斐ない自分への怒り、そして情けなさでどうにかなりそうだった。

「ティアナ、全く無茶して……初陣だからってちょっと浮かれてたんじゃない?」
「えっ……その……」
「スバルも、ティアナを一人にしたのは問題だよ。下手したら死んじゃってたかもしれないんだから」
「あっ……すいません、でした」

あまり見せる事の無いなのはの厳しい表情と口調に、二人は思わず顔を俯かせる。
なのははため息をつき、自分を落ち着かせてから小さく笑みを浮かべ、二人の教え子を軽く抱き寄せた。
二人が無事だった事で気がゆるみ、左肩の激痛がぶり返して意識が少し遠のく。

「でも、無事で良かった……ちょっと、安心した……かな……」
「なのはさん……?」

そうして、なのははスバルとティアナに体を預けたまま意識を手放した。


『ドクター、貨物車両のレリック……管理局の手に渡ったようです』
「そうか……まぁ、仕方ないね」

モニターに映る秘書たる女性、ウーノの言葉を聞きながらドクターと呼ばれた男は手元のパネルを操作する。
男、ジェイル・スカリエッティは正面の大型モニターに話題にあがった貨物列車の様子を映しだす。
管理局のヘリが数台到着しており、中には救護班のヘリすら見える。

「おや……負傷者でも出たのか?」
『高町なのはが重傷と聞いています。どうやら、デジモンが出たようで……』
「デジモンが……? 全く、彼には困った物だね」

表情をあまり変える事がないスカリエッティだが、流石に不機嫌そうな声と表情を浮かべる。
協力者である彼が存在を教え、何体か協力者という立場で手元にいるデジモンだが……ここまで勝手をされるのは問題だ。
本来、貨物列車のレリック強奪はガジェットのみで行う筈だったのを突然乱入してきた挙げ句に大事な研究対象の一人を傷つけられてしまった。

「少しばかり自重するように言ってくれないか? 聞けば地上本部にも出たそうじゃないか」

顔を向ける事なく、背後にいた彼へと声をかける。
声を掛けられた男は苦笑し、悪びれた様子もなく謝罪の言葉を口にする。

「いや、すいませんねぇ。今回はどちらもあいつ等が勝手にやった事で……私の不手際です」
「解ってくれればそれでいい。君には色々と助けて貰った事だし、あまり険悪な仲にはなりたくないんだ」
「それはこちらも同じですジェイル博士。私も貴方の作品を数人お借りしていますしねぇ」
「君のお陰で完成が早まったお礼さ。ただ、あまり無茶はさせないでくれよ」

スカリエッティは背後に立つ彼の方へと顔を向ける。
5年前に姿を現し、協力を買って出た異世界の科学者へと。

「ドクター倉田」



登場デジモン解説

デビドラモン 成熟期 邪竜型 ウィルス種
複眼の悪魔の異名を持ち、闇の中を飛び回っているとされる邪竜。
石像の状態で発見される事も度々あり、高位の暗黒系デジモンの居城などで時折見かけられる。
必殺技は両腕の赤い爪で敵を切り裂く「クリムゾンネイル」

レディーデビモン 完全体 堕天使型 ウィルス種
闇の貴婦人と呼ばれる女性型堕天使デジモン。
高純度の暗黒エネルギーを持ち、数ある完全体の中でも強力な部類に分けられる。
蝙蝠の群れを連想させる熱線「ダークネスウェーブ」、左腕を槍に変化させ敵を貫く「ダークネススピア」など多彩な技を持つ。
なお、外見や思考などから人間の女性を連想させるが、デジモンには性別が存在しない為、あくまで女性“型”である。

スカルサタモン 完全体 アンデット型 ウィルス種
強さを追い求めた堕天使型デジモンの成れの果てとされるアンデットデジモン。
しかし、より悪として洗練されており、その力には計り知れない物がある。
必殺技は手に持った杖から暗黒の力を凝縮した光を放ち、敵の構成データを滅茶苦茶に破壊する「ネイルボーン」

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最終更新:2008年10月14日 22:28