「~白金騎士~因果の章」

轟――ごう――業!
炎の瞬く音、焼け落ちる瓦礫の山の崩落音、砕け散る人体の音、人々の悲鳴――!!
男はその中を走り抜ける――大地を、壁を、天井を足場に駆け抜け、一人でも多くの民を救うために。
地上本部の中央タワー、その高層建築は炎に呑まれ、崩れ落ちる寸前であった。
その場所にいる男の命運は尽きたかに見えたが――。
だん。
健脚――ガラス窓を突き破り、男は眼下の地上まで落下する。
常人であればミンチになって死ぬことは確実。
であれば、男――騎士は高層建築の壁の凹み、それを利用して減速していく。
とんでもない速度で繰り出される指先は、確実に加速を弱めていき――着地。
同時に白銀色のロングコートが翻った、と見えた刹那。
凄まじい剣速――僅かに身体を捻った騎士は、左腰に佩いた直剣を抜き放ち、一刀の下に三匹の悪魔を斬り捨てた。
ぎょええええええ、と悲鳴を上げて霧散するは、闇の魔獣“ホラー”。
遥か古より、光あるところに影あるように存在した人類の天敵であり、ゲートの彼方“魔界”より飛来する人を喰らう異形。
宗教書に散見される
醜悪な悪魔そのものの奴らは、突如としてクラナガン上空に開いた“門”から現れ、人々を喰らい始め――、
“門”の発生から僅か二時間で地上本部は崩壊の危機に瀕し、燃え盛る紅蓮の炎、それらが全てを舐めとらんとした刻。


ホラーを狩る戦士“魔戒騎士”は舞い降りた。


純粋魔力砲撃で漸く仕留められる魔獣を一刀で斬り捨てた男を見て、機動六課隊長『高町なのは』は驚いていた。
愛用のデバイスを握り締め、驚愕に目を見開いて呻いた。白いバリアジャケットに熱風が吹き荒び熱いが、
そんなことは些細なことに思えるくらいに、その人物の登場は意外だった。
白銀色の厚手のロングコート、その真ん中から垣間見える黒のボディスーツは、その人物の肥えた身体を引き締めて見せていて、
脂肪の下に頑強な筋肉があることを知らせてくれている。腰には朱塗りの鞘が佩かれ、抜き身の刃がその右手に握られている。
首から提げられた、白銀の髑髏が彫刻された懐中時計がカタカタと鳴り、幼い少女の声がした。

『ねえ、レジィー。とても強い闇の波動を感じるよ――多分、あいつ』

その声にはっとして、なのははその人物に声をかけた。

「レジアス……中将? その格好は――」

「高町教導官か――ここは危険だ、逃げろ」

白銀色のコートを纏った肥満体型の壮年男は、やはりレジアス・ゲイズであり、地上本部のトップである男だった。
鈍く輝く魔戒剣の輝きを目に焼き付けつつ、なのはは反論しようとした。
それはそうだ、ここは部隊長八神はやてから死守することを命ぜられた場所なのだから。
既にほとんどの魔導師は現場放棄し、異形の怪物達から逃げ惑っていたが――責任感の強い彼女にしてみれば、逃げることなど出来なかった。
他の場所では、親友や教え子達が必死に戦っているのだ。
彼女一人だけが逃げるなど、出来るわけがなかった。
そういったことを言おうとした瞬間、髑髏の懐中時計が可愛らしい声でさらりと恐ろしいことを言った。
残酷な口調である。

『レジィ、あいつが来る――もう、逃げられない』

「巻き込みたくは無かったのだが……わしの後ろに隠れていろ」

哄笑が響いた。
地獄の底から響くような音。
遥か上空から急降下、こちらへ向けて接近する悪意。
ボロボロの茶のコートを羽織った騎士が、槍を右手に、幼い赤き少女を左手に現れ、笑っていた。
茶色の髪の毛、白銀色のガントレット、長く螺旋くれた矛先――邪悪の象徴のような武具。
皺の刻まれた顔は奇妙な生気に満ち溢れ、男が現世のモノでないと知らせていた。

「久しいな、レジアス。お前の正義とやらを聴きに来た」

赤き少女を見たなのはが悲鳴を上げた。

「ヴィータちゃん! 貴方が――」

「そうだ、俺が殺った――まだ生きているがな」

ゴミのようにヴィータを投げ捨てると、愉しそうに男は笑みを浮かべた。
獅子が獲物を八つ裂きにする寸前に浮かべる狂笑であり、戦闘準備と云う行為。
“ソウルメタル”――魔界の悪魔を練りこんだ超金属――が、暗黒に落ちた騎士によって変異した黒い“デスメタル”。
それで造られた槍が構えられ、どす黒い闘気が放たれる――エースオブエースと讃えられたなのはが震撼するほどの邪気。
レジアス・ゲイズは、変質した友の姿を見て目を細めると、刃渡り九十センチほどのソウルメタル製“魔戒剣”を構えた。
本来、闇の魔獣ホラーを狩る為だけに用いられるそれを、人に向けるということは――相手を魔獣以上に闇に染まったモノと認識したからに他ならぬ。
片手で構えられた剣先は、あくまでその男の首筋目掛けて繰り出されんと溜めこまれ、力の解放を待ち望む。
どちらからともなく口が開かれるのを、恐怖で動けないなのはは黙って聞いていた。

「何故、闇に魂を売った! ゼスト・グランガイツ!!」

「――力を望んだからだ。今の俺は、伝説の『黄金騎士“牙狼”』すら超える力を持った!
数百のホラーを喰らった俺は、もはや人間を超越したも同然っっ!!」

「ぬぉおおおお!」

やり切れぬ、と歯を剥き出しにしてレジアスは吼える。
精神感応金属であるソウルメタルが、キィィィイイイン、と鳴った。
同時にレジアスが右脚を繰り出し、一歩踏み込んだ。
たかが、一歩。
されど、現実には十五メートルもの距離を瞬間的に詰めている。

「その為に何百人を犠牲にした、『暗黒騎士』!!」

剣閃――恐るべき速さの切っ先は、レジアスの意思に応じて切れ味を最大にしながら振り下ろされる。
大きく傾いだゼストの槍が跳ね上がり、漆黒の刃が血を吸おうと啼いた。
激突/刺突/斬撃――コンマ一秒の間に繰り広げられた攻防は、間合いと膂力に勝る槍騎士の勝利。
浅く剣士の脇腹が抉られ、白銀のコートが血に染まっていく。
飛び退ったレジアスを追わずに、ゼストは勝ち誇った笑顔で告げた。

「犠牲! 生贄――甘美な言葉だ――我が力はレジアス、貴様を超えた!」

「抜かせ! 高町一尉、今のうちに逃げろ――上官命令だ!」

「でも、中将は!」

己の非力を、人外の決闘に自覚せずにいれらなかったが――。
それでも、“高町”なのはとして引くわけにはいかなかった。
それを、レジアス・ゲイズは一言で切り捨てる。

「――足手纏いだと言っている!」

『レジィ、鎧の召喚を!』

魔人と化した友を見据えると、魔戒剣をすらり、と頭上で廻す。
光の尾が引かれていき、黄金色に光り輝く円状召喚陣が展開され――宵闇が灼熱に犯された。
白金色の甲冑が異界から呼び出されて、眩い輝きが壮年男の肥満体型を覆い隠していく。

「――召喚――」

脂肪を押さえつけるように装着されたソウルメタルの胴鎧によって、
スリムな戦士のものへ変わっていくのを、高町なのはは呆然と見つめた。
レジアスの四角い異相は、狼を模した獣の牙が並ぶ仮面と兜によってすっぽりと飲み込まれる。
いや、それどころかレジアス・ゲイズと云う男全体が、異界の戦士と置換されたように鎧によって護られていた。
ゼストが――暗黒に堕ちた邪悪が嗤った。

「来るか――『白金騎士』!!」

鎧召喚――闇に蠢く悪鬼の装束が、ゼスト・グランガイツを闇に祝福されし異形に変え――




――激突必至!!!




次元世界ミッドチルダ――彼の地にて、人々を闇から護り、邪悪を狩る者達がいた。



その者達の名を“魔戒騎士”という。



魔戒騎士列伝~異界の章~ 始まり……ますよ?(疑問系

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最終更新:2008年10月17日 20:31