「なのはさんとフェイトさんの最大攻撃魔法による奇襲、狙撃、ですか?」
リンディはカレンの提案を繰り返し尋ねた
「はい。なのはさん、フェイトさん、アルフさんをアヴァロンの
”緊急転移射出発進用ランチャー”に移送し、ランチャー内部で攻撃魔法を詠唱、
発動可能状態になり次第、対象の両端になのはさん、フェイトさんを
時間差で転移させ、その後片一方に魔法を発動させ対象を足止めし、
もう片方の攻撃で対象を殲滅します。」
「ですが、それは・・・」
カレンの提案をリンディは承認出来ずにいたが、カレンは説得を続ける
「・・・分かっています。正直言ってかなり汚い作戦ではありますし、
それに必ず成功するという保証も有りません・・・ですが、このまま奴等を見逃し
あの悲劇を再び起こさせるわけにはいかないんです・・・
この作戦の成否如何に関わらず三人には狙撃終了後離脱を優先させますし、
それに”緊急転移射出発進用ランチャー”は通常の転移とは違い
空間歪曲による転移先との直接的な接続方式を採用していて
転移による魔力反応は事実上存在しません。実際先程の戦闘でも私達は
対象に気付かれずに転移、そして包囲に成功しています・・・
御願いします。一度試してみてもらえないでしょうか・・・」
リンディは沈黙し、考え込む・・・
そして意を決しなのは達の前に屈みこみ尋ねる
「・・・こんな事を頼むのは本当に心苦しいのだけれど・・・御願い、出来るかしら・・・?」
リンディの謝罪の様な問いにフェイトが答える
「・・・私は構わないのですが、なのはは・・・」
そう言ってフェイトは不安そうになのはを見つめる。
「・・・大丈夫だよ。フェイトちゃん」
フェイトの心中を察したなのはが意外な程冷静に彼女を嗜める
「でも・・・」
「大丈夫。あの人は朱雀さんじゃ無いって、それは分かってるから・・・
信じて、フェイトちゃん・・・」
「うん・・・」
二人の意味不明な会話が少し気掛かりではあったが、
リンディはそれを振り払い先程の問いの返答を促す
「本当に、いいの?もし嫌なら無理にとは・・・」
「いえ、大丈夫です。やらせてください。リンディさん」
なのははリンディの言葉を振り切り作戦参加の意思を示した
それと共にフェイト、アルフも作戦参加を了承し、遂に・・・
「・・・分かりました。カレンさん、貴方の提案を了承します。
なのはさん、フェイトさん、アルフさん。貴方たちはここの転移ゲートから
アヴァロンの緊急転移射出発進用ランチャーに移乗してください。
以後の指示はそちらで出します。いいですね?」
『はい!!』
三人がリンディの言葉を承服し、応答する
「本当にごめんなさい・・・こんな役目を押し付けてしまって・・・どうか気をつけて・・・」
カレンがモニター越しに三人に謝罪する・・・
それを見た三人は微笑みながら頷き、ブリッジを後にした
そして一方・・・
朱雀達は前もって作成しておいた帰還用の転移ゲートに向かっていた
そして転移ゲートにあと約3km程まで近づいたその時
突然自身の名を呼ぶ声に気付き、立ち止まる
「お~い!朱雀~!!シグナム~!!」
掛け声と共にヴィータが朱雀達の目の前に現れたのである
だが、そのヴィータをシグナムが出逢うなり怒鳴りつけた
「ヴィータ!!何故来た!?お前ははやて様をお守りするという使命が・・・」
「違うんだ!!はやてが、はやてがぁっ・・・!!」
今にも泣きそうな表情でシグナムの叱咤を遮るヴィータ
それを聞いた二人ははやての容態の異常に気付き、青ざめるのだった・・・
同じ頃、アヴァロンの緊急転移射出発進用ランチャー内部にて
なのはとフェイトが広域攻撃魔法の発動準備に入っていた
「私達が目標地点まで皆さんを送り出します。なのはさん、フェイトさんは対象の捕捉と狙撃、
只それ一点のみに集中してください」
シャーリーがなのは達に作戦内容を説明する
「はい!いくよ。レイジングハート」
(All right.Starlight Breaker.)
「御願い、バルディッシュ」
(Yes sir.Thunder Rage,get set)
二人の魔法詠唱と共に膨大な魔力が彼女達の許に集束し
ランチャー内部が激しく振動する
「おっ、おい!保つのか!?」
アヴァロンの管制員が叫び、狼狽する
「うわっ、これは不味いねぇー。仕様が無い。はいっと!」
なのはとフェイトの傍で発進を待っていたアルフが状況を見兼ねて
二人の周囲に障壁を張りランチャー内部の振動を弱めた
「これで大丈夫なはずだよ。アンタ達はアタシ等を送り出す事に専念して。」
「済みません、助かります」
シャーリーがアルフに礼を言う
「いいってことさ。それよりも、しっかり頼むよ!」
アルフがシャーリーを激励し、彼女はそれに笑顔で答え、気持ちを切り替える
「発進シークエンスを開始します。ハッチ開放」
なのは達の前方に有る壁が下り、プリズムの空間の歪みが現れる
「転移先の空間座標軸測定、並びに環境監査を開始します・・・
ドルイド・システム起動。監査開始」
ドルイド・システムによって転移先の環境が測定され、転移に問題無しと判断される
「ランチャー内部、及び転移先との空間を接続、固定。続いて射出発進用魔力奔流噴出」
前方の空間の歪みが青空・・・つまり転移先の情景に変化し、
更にランチャー内部に金色の魔力の奔流が噴出され、ランチャー内部がそれに満たされていく
「転移先の情報を転移者のデバイスに伝達、並びに射出用の防護膜を形成」
なのは達の後ろに射出用の防護膜が形成され、更に転移先の情報がデバイスを通じ
彼女達の頭に叩き込まれる
「朱雀さん・・・」
なのは達の頭の中に転移先の情景が浮かび上がる・・・
青空の中で朱雀・・・に良く似た人物が闇の書の守護騎士達と何か話をしている・・・そんな情景だった
「なのは・・・あれは・・・」
「・・・ごめん、フェイトちゃん。あれは”違う”って、分かってるから。信じて・・・」
「・・・うん・・・」
フェイトがなのはに忠告し、なのはもまたそれに応えた
「発進シークエンスの全プロセス終了を確認。進路クリア。
フェイトさん、アルフさん。発進、どうぞ!」
発進準備が完了しシャーリーが二人に発進の合図を促す
「・・・先に行くね、なのは。フェイト・テスサロッサ、行きます!!」
「同じくアルフ、出るよ!!」
金色の魔力奔流が二人を包み込み宙に浮かせ、直後に後方の防護膜ごと
二人を前方に一気に押し出し転移先に送り出す
「両名の転移射出発進を確認。続いて転移座標の再設定を開始・・・設定完了。
転移先の空間接続。魔力奔流再充填。防護膜形成。プロセス終了。なのはさん!発進、どうぞ!!」
「はい!!高町なのは、行きます!!」
先程の二人と同じくなのはも金色の魔力奔流によって前方に押し出され、転移する
「・・・転移射出発進完了。みんな、気をつけて・・・」
三人を送り出しながら、シャーリーは皆の無事の帰還を祈っていた・・・
その頃朱雀はヴィータからはやての窮状を聞き出していた
「・・・一時間位前にはやてが急に苦しみだして・・・今シャマルがはやてを看てるんだけど
シャマルもどうしたら良いか分かんないって・・・
はやてが呼んでるんだ・・・朱雀の事・・・だから・・・だから・・・!」
ヴィータは朱雀の胸の中で泣きじゃくっていた。朱雀はそんな彼女を抱きとめ、宥めていたが、
彼の心の中は不安と焦燥が渦巻いていた・・・
「戻りましょう、シグナムさん。今、直ぐに」
「分かっています。急ぎましょう」
二人がヴィータを抱きかかえながら転移ゲートに向かおうと飛び立とうとする・・・
正にその時だった・・・
「・・・ダー・レイジッ!!」
突如現れたフェイトが広範囲雷撃魔法を朱雀達に向けて放つ!
「なっ・・・!?ランスロットぉっ・・・!!」
(Yes,My lord. MG shell,set up)
突然の攻撃に朱雀は咄嗟にシールドを展開し、シグナム達を庇う
「くっ、そおっ・・・!!さっきの攻撃程じゃないけど、これも・・・!!」
朱雀はシールドに魔力を集中させ、雷撃を受け切っていた
「朱雀様っ!!」
「朱雀っ!!」
シグナム、ヴィータも朱雀を助けようとシールドを展開しようとした、その時・・・
「・・・ライト・ブレイカー!!」
フェイトの放った雷撃の進行方向の反対側・・・
つまり朱雀達の真後ろから突如桜色の巨大な閃光が降りかかる!!
(・・・まずいっ!!)
朱雀がそう考える間もなく、桜色の閃光が彼等を捉え、呑み込んでいく・・・
星と雷・・・
その二つの魔力波動がぶつかり合い互いに干渉し、やがてその衝突地点から
眩いばかりの閃光と、全てを薙ぎ払う程の強烈な魔力波動と爆風を周囲に撒き散らす
朱雀達はその強大な魔力干渉に巻き込まれ、押しつぶされた・・・
そう、思われたが・・・
「うっ、くっ・・・」
シグナムが目を覚ますと、彼女の直ぐ傍にヴィータが横たわっていて
更にそのすぐ後ろに闇の書と帰還用の転移ゲートがあった
「ヴィータ!おい、起きろ!」
シグナムがヴィータの身体を揺さぶり彼女を強引に起こす
「う~ん、何だシグナム・・・?」
記憶が混乱し、状況が上手く呑み込めないヴィータだったが、
やがて先程の攻撃の事を思い出し、動揺する
「そうだ、俺らさっきの攻撃で・・・!?朱雀は!?どこだ!?」
ヴィータの言葉にシグナムもハッと気付き、二人は慌てて周囲を見回す
だが・・・周囲に朱雀の姿は無く、彼女達の遥か後方に巨大な噴煙が
上がっているのが見えるのみだった
「まさか・・・朱雀様・・・?」
「そんな・・・冗談だろ・・・?」
二人の後方にある巨大な噴煙・・・
二人は最悪の事態を想定し、戦慄する・・・
「・・・行くぞヴィータ!!まだそうだと決まった訳ではない!!」
「・・・ああ、わかってる!!」
矢も立ても溜まらず、二人はその噴煙の許に全速で飛び立つ
「・・・でも何で俺らだけ無傷なんだ・・・!!何で朱雀だけ・・・!!」
飛行している最中にヴィータがそう吐き捨てる。
「・・・恐らくは朱雀様があの砲撃が命中する直前に我等をヴァリスで吹き飛ばし
逃がしてくださったのだ・・・。そして・・・」
「馬鹿野郎・・・!!何であいつはいつも他人の事ばっかり・・・!!」
二人は己の無力さを痛感し、自責の念に苛まれていた・・・
二人が先程の攻撃を受けた地点まで辿りつくと
その余りの光景に二人は絶句した・・・
攻撃地点の周囲に100m以上はあろうかという巨大なクレーターが存在し、
その付近で、カレン、クロノ、なのは、フェイト、アルフ他計30人以上の魔導師達が
一人の人物を包囲、拘束していた・・・
「朱雀様・・・」
二人は直ぐに悟った。その人物こそ朱雀であると・・・
「・・・行くぞヴィータ!!朱雀様をっ・・・!!」
「・・・ああ、待ってろ朱雀っ!!今助けに・・・!!」
二人がレヴァンティンとグラーフアイゼンを展開し、朱雀の許に向かい突撃していく、
その時だった・・・
『来るなぁっ・・・!!』
突然の咆哮に思わず立ち止まる二人。
シグナムが何事かと前方を見据えると、そこには全身のダメージで憔悴していた朱雀が
鬼の様な形相で彼女を睨みつけている姿があった・・・
それを見たシグナムの脳裏に、かつて朱雀に言われたある言葉が過ぎった
(僕と妹、どちらかを護らなければならないとしたら、先ずは妹の方を・・・)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!」
シグナムの心の中に葛藤が生まれる
唇に血を流す程の痛みを自ら生み出しながらもそれに気付かぬ程に悩み、苦しむ。
散々迷い考えた挙句、遂に彼女は意を決し・・・!
「行くぞシグナム・・・っておい!何すんだよ離せっ!!」
何とシグナムはヴィータを抱え朱雀の居る場所とは逆の方向へと飛び去ったのだ!
「離せ馬鹿野郎!朱雀がっ!朱雀がぁっ!!」
ヴィータがシグナムの腕の中で暴れまわると逆にシグナムがヴィータを叱咤する
「黙れヴィータ!主の・・・”朱雀様の命”だ!!黙って従えっ!!」
「ふざけんなっ!!何が朱雀の命だっ!?はな・・・!?シグ・・・な・・・」
尚も暴れ回るヴィータにシグナムが彼女の腹部に当身を食らわせ気絶させる
(お許しください・・・朱雀様・・・)
心の中で朱雀に幾度も詫びながら、シグナムはヴィータを抱え転移ゲートの方に
引き返していくのだった・・・
「ありがとう、シグナムさん・・・どうか・・・はや・て・を・・・」
朱雀はそう言って気を失ってしまった・・・
「・・・闇の書が見つからないからもしやと思っていたけれど・・・
まさか無傷だなんて・・・ちっ、厄介な・・・!」
カレンはそう言って舌打ちする
「カレン!奴等は俺達が追う!お前はこの男の護送を!」
わかったわ!気を付けて!」
第三部隊の隊長がカレンに提案し、カレンもまたこれを了承する
「・・・カレンさん、僕達も行きます。なのは、フェイト、アルフさん、行きましょう」
「分かりました」
「あいよ」
クロノの提案にフェイト、アルフが応答するが・・・
「・・・」
只一人、なのはだけが朱雀を見詰めながら震えていた・・・
「・・・クロノ、きっとなのはは疲れているのよ・・・私達だけで行きましょう。
カレンさん、なのはの事を頼みます・・・」
そんななのはの心情を察したフェイトがクロノとカレンにそう進言する
「・・・分かった。行こう。カレンさん、なのはを・・・」
「ええ、任せて。みんな、気を付けて・・・」
こうしてクロノ達と第三部隊が逃亡したシグナム達を追撃し、
カレンと第二部隊が朱雀をアースラへと護送する事となった
そして一方・・・
なのはは自分の目の前にいる人物・・・朱雀が放った”はやて”という言葉に動揺していた・・・
(そんな・・・じゃあやっぱりこの人は・・・朱雀さん・・・なの・・・)
彼女の心の中に生まれる強い恐怖と罪悪感・・・
それに堪えきれず彼女はレイジングハートを地面に落としその場にへたり込んでしまう・・・
「わ・・・私が・・・朱雀さんを・・・撃っ、た・・・?
嫌・・・そんなの・・・嫌ァっ・・・!!」
なのはがそう叫び、カレンが彼女の許に駆け寄ると、彼女は既に意識を失っていたのだった・・・
最終更新:2007年08月14日 09:30