マンション:???
柊蓮司とフェイト達が去った部屋で異変が起きた。
潰れてしまったタンスの唯一形が残っている引き出しが軋みをあげながら開く。
中からは巨大な手が出てくる。
白手袋を付けたりなんかもしている。
手首から下がなんか金属の棒になっているところを見るとマジックハンドというヤツなのだろう。
親指には何故か「柊専用」と書かれている。
マジックハンドは柊のベッド──今はベッドだった残骸わしづかみにするとタンスの中に戻っていく。
静かになった。
しばらくするとタンスの中から黒いドレスを着た銀髪の少女が出てくる。
少女は部屋をくるりと見回すと。
「ガッデム」
だとか
「ジーザス」
だとか
「くたばれ(はぁと)地獄で懺悔しろ(はぁと二つ)」
だとか言いながら地団駄をふみまくる。
さんざ暴れたら落ち着いたのだろう、少女はタンスの中に戻っていった。
そして部屋は元のように静かになる。
いや、もとよりさらに酷いことになっていた。

赤羽神社書庫:フェイト・T・ハラオウン
赤羽神社には書庫がある。
それも、けっこう大きい物だ。
蔵書は和綴じの古い本や巻物がほとんどで洋書はあまりない。
その入り口で柊蓮司とフェイト達はくれはが本を探し当てるのを待っていた。
「柊さん、何を探してもらってるんですか?」
「さっき見せてもらったステラってやつな。ここで見たことあるんだよ」
「え?そんなはずはないと思います。だって、ステラがこの世界に入ってきたのは今日が初めて……あ」
否定しながらもフェイトは自分の言葉を分析していた。
頭の中で言っていることとは違う可能性が表れ、組み立てられていく。
「どうしたんですか?」
キャロがフェイトが思わず出してしまった声に驚いている。
「もしかしたら、ステラを持って逃げたあの犯人、この世界でなにかするつもりで来たんじゃないかって思ったの」
「でも、それはクラウディアが追い詰めたからじゃ……」
「そう思ってた。でも、逃げて隠れるだけなら少しコースを変えたらもっと都合の良い世界だってある。それに、犯人はあらかじめ計画してたみたいにスムーズに次元障壁に穴を開けていた……だったら、この世界が目的地だったのかも知れない」
この世界にはフェイトが知らない未知の部分がある。
それに対応するには今まで前提としていたことを次々に書き換えなければならない。
「でも、柊さんよく覚えてましたね。こんなにたくさんあるのに」
エリオは本の置かれた棚を興味深げに見ている。
そういえば、エリオが和綴じの本や巻物を見るのは初めてだ。
「そういうわけじゃねえんだ。昔な、小さい時にクレヨン買ってもらったんだ。で、くれはん家で画用紙に書いてたんだけど、そのうち画用紙が無くなってな。その時くれはに紙がたくさんある場所があるってここに連れてこられたんだよ。それで……」
「落書きしちゃったんですね」
「おう」
「……」
「あの時は、半年小遣い抜きにされたな。何故か俺だけ」
「……」
柊蓮司は苦笑いしていた。

赤羽神社書庫:柊蓮司
書庫の奥から声がする。
「おーい、柊、見つけたよー」
くれはが本棚の影から走ってくる。
部屋の隅ある古風な机でくれはの持ってきた和綴じの本をひらく。
「やけにきれいだな」
「うん。貴重な本だから、あの後修復したんだって。スイス銀行に振り込んだってお母さんが言ってた」
「……よく半年の小遣い抜きだけで許してもらえたな」
折り目をつけないように丁寧にめくっていく。
「あった。これだ」
墨で書かれた絵は、ステラの特長をよくあらわしていた。
瞳孔のような特徴ある模様は特に丁寧に書かれてている。
「えーと」
絵の周りに書いてある文に目を通す。
目を通す…
……
………
…………
……………
………………
「……読めん」
古い本の字など簡単に読める物ではない。
ミミズのはった跡にしか見えない。
「しょーがないなー。柊は。私に任せて」
柊をどけて、本の前に陣取る。
「えーと……」
……
………
…………
……………
………………
「は、はわっ?」
「どうした」
「はわー」
「読めないのか?」
「はわわわっ」
「読めないんだな!!」
「ちょ、ちょっと待って」
深呼吸1つして、くれはは本をもう一度凝視。
くれはの体から青い炎が立ち上る。
「うわっ」
「きゃっ」
驚いたエリオとキャロが声を上げる。。
「柊さん、あれって……」
フェイトが声を潜めて聞いてくる。
「くれはのやつ……本気になっていやがる」
「本気になるとああなるんですか?」
「ああ。しかしあそこまでするか、普通」
くれははプラーナを燃やしていた。

赤羽神社書庫:エリオ・モンディアル
そうか……本気になるとああなるんだ。
「僕はあんなに本気になったことはないな」
エリオは納得していた。

少し解説しよう。
ファー・ジ・アースのウィザードは生命の源とも言えるプラーナを使うことで能力を上げることができる。
これを本気で使うと体から個人ごとの色の付いた炎のような物が見えるのだ。
しかしプラーナの存在を知るものは少ない。
ウィザードはプラーナの存在を自覚して、自らの意志で使うことができる。

赤羽神社書庫:柊蓮司
「わかったよ!!」
額に汗したくれはがものすごい勢いで振り返ってきた。
「これはね、昔どっかのウィザードが魔王を封印したときの記録ね」
「ほうほう」
「昔、滅ぼす者と呼ばれる蝗を操る魔王が居たんだって。その魔王は配下の蝗が食べた物のプラーナを自分の物にできる。その力を使って世界を滅ぼそうとした……と」
「蝗!?」
フェイト達を追っていたのは蝗だ。
「で、その魔王は倒した後に魔王の力の核になっている頭蓋骨と両目が残ったんだって。両目の片方は壊したんだけど、もう片方は行方不明になった。で、その目がこれ」
くれはがステラの絵を指す。
「片目では復活できないけど、頭蓋骨だけでも危険だから封印した……と書いているよ」
「柊さん」
フェイトが本から目を上げる。
「ああ、そいつだ!ベルの狙いは」
「あ、待って柊」
部屋を飛び出そうとする柊蓮司をくれはの声が止めた。
「ここで最後だから。魔王の名はアニエス・バートン。魔王アバドンに相当する者、だって」
柊蓮司は振り向く。
瞳孔が開いているように見えた。
「なにぃいーーーーーーーーっ」
名のある魔王。
それは、強敵であることを示していた。

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最終更新:2008年04月10日 10:31