彼らはあらゆる時 あらゆる場所に―――
ときには老いた職人の為に靴を作り ときには継母に狙われた姫君を救い またあるときには1945年のニューメキシコでキノコ雲を巻き上げさせる―――
語り 創り 惑わし 導く―――
彼らは人と関わる 人知れず―――
だが人は彼らを伝える―――
知恵ある者の言葉を借り『妖精』と呼んで―――



ホーリ-●ラウニー  


新暦XX年   某管理世界

暗く長い洞窟を赤と青の光に包まれた妖精が飛ぶ。
二人は手のひらに載ってしまうような小人を模った人形の体をしていた。

「地球じゃなくて、管理世界に飛ばされるなんて珍しいわね。 変に発達してるからやりづらいってのに」
「だいじょーぶ、今回も地味な仕事だからー」
「あんたの言葉は全然信用ならないのよ。 例によってメルヘンなんて欠片も無い仕事なんでしょ?」
「まだメルヘンを期待してるのー? ボクらにそういう仕事回ってくるはずないじゃん」
「誰のせいよ! いいから仕事するわよ! で、今回は何をするの!?」

多くの仕事をこなしてきた赤の妖精―――ピオラは不本意ながら腐れ縁になりつつある相棒のフィオに仕事の内容を確認する。

「ちょっと待って、もうすぐだから」

そうして二人がたどり着くのは洞窟の最奥にある大きく機械的な扉。
そこをくぐった先にあったのは無数に並ぶ2メートル程の大きさのカプセル。
透明な液体に満たされたそれらの中で多くの老若男女が眠っていた。もっともまともな人間の形をしているのは少なかったのだが。
あまりの光景に愕然となりながらもピオラは問いかける。

「何……なの、これ?」
「何って、大規模生体実験施設~。今回のお仕事はここで研究を続ける若き天才に成功を与えてあげることさー」
「やっぱりろくな仕事じゃないじゃない! で、具体的には!?」

襟首を掴みあげるピオラにフィオが示したのはⅠとナンバリングされた一つのカプセル、その中に浮かぶ妙齢の美しい女性。
よく見れば無数のカプセルの中でナンバリングされたものはたった12個。
それだけその中で眠る存在が特別なものだと知れた。


「この女性型生体サイボーグを完成させればいいのさー。ぶっちゃけ9割がた完成してて僕らが手を出さなくても半年もあれば完成するんだけどね」
「だったら私たち来なくても良かったんじゃない?」

フィオは首を振る。
カプセルの脇のデスクに突っ伏して眠る白衣を着た長髪の男を見やりながら、

「その半年ってのが問題でね。実はあと半月ぐらいしたら治安組織がこの施設に踏み込んじゃうんだー。
それまでにこの科学者さんに脱出してもらわなきゃいけないんだけど―――」
「それにはこのサイボーグを完成させなきゃいけないってわけね……。ってやっぱりこの施設、違法なんじゃない!
 なんだってそんな犯罪者のフォローしなきゃいけないのよ!」
「んー、今から十年後くらいにこの人結構大きな事件を起こすんだけど、その事件で保護される幼児が更に数十年後にここらの世界で最大の宗教組織の最高指導者になるんだ。しかもその子供を保護した治安機構の人間もその後かなり出世する人でねー」
「つまりまだ捕まっちゃ困るって事ね……」

うなだれるピオラを尻目にフィオは作業を開始。
事前に与えられていたスペック情報を基にカプセル内の女性の体を弄りまわす。
ピオラも諦めた表情で追随する。

「9割完成してるだけあって楽だねー」
「というか、固有の特殊装備の搭載にてこずってただけじゃない。理論は完成してたし、本当に優秀みたいねそこの男」

普段担当する仕事を思えばあまりにも楽な仕事。
順調に作業が進んでいたが、ふとピオラの手が止まる。

「ねぇ、フィオ?」
「何ー?」
「このサイボーグの計画書見ると、個体ごとの適正や固有装備の機能で差異が出るみたいだけど概ね用途は戦闘用よね?」

ピオラのモニターに表示されていたのは女性の腹部、その内部の情報。
生命維持に必要な臓器に混じって、純粋に戦闘用に用いるなら無駄とも言える存在があった。

「……何で『子宮』があるの?」
「ああ、それはやっぱり―――」

和やかに答えようとするフィオに手を向けて『止めろ』とジェスチャーするが、悪趣味な相棒は見事にスルーして続けた。


「―――やっぱり色々と『入用』なんじゃ―――」
「分かったからわざわざ口にしないでいいわよ!」

ピオラはどこからか取り出した小さな人形の体で扱うには大きすぎるカッターナイフで眼前のロクデナシをずたずたに切り刻む。
お気に入りの体だとよく言っているが構う事は無い。どうせ謎のギミックですぐに修復するのだから。
ぶーぶー言いながら切り落とされた首を抱えるフィオを無視して作業を完成させる。微妙に不愉快な気分になるが計画書通りに完璧に仕上げた。
仕事が済んだらさっさと撤収。朝日が昇る前に帰らなくてはならないのだ。
ピオラはいつものように体を繋げたフィオと共にカプセルの並んだ部屋を出て、洞窟の外へと向かう。

「そういえば疑問に思ったんだけど、いくら優秀でも拠点をとっかえひっかえして逃げ回ってるような奴によくあんな規模の施設が用意できたわね」
「あーアレ? だってさっき言った治安機構の指導者が裏で支援してるし」

本当にただなんとなく口にしただけなのだがフィオの答えはピオラの考えの斜め上をいっていた。
今度こそ凍りついたピオラにフィオは説明を続ける。

「実はあの科学者さんもその連中が作らせた人造生命でさー。色々目的があるらしくてこき使ってるみたいなんだけど、ベタな事に暴走してね?
十年後くらいに起こるって言った事件でそのお偉いサンも殺されるんだー」

アハハと何が楽しいのか愉快げなフィオの言葉の続きを、どうにかピオラが引き取った。

「で、暴走したソイツを何も知らないその連中の部下が逮捕するのね……。マッチポンプで焼死した挙句に部下に鎮火させるってその連中バカでしょ?
 本当に碌でもない仕事だわー」
「いつもの事じゃん。ボクらのお仕事は神様の尻拭いのための便所紙~」



―――そうして妖精たちは何処とも知れぬ場所へ帰っていく。
小さな小さな彼らが去ったあとには―――

―――――――――何かが終わっている


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最終更新:2009年01月07日 23:29