第3話 歩み、止まるとき…。


 警視庁、マスコミに出された声明後…3時間後。
時刻16時20分。
場所、井の頭公園…。

 ワゴン車から、ゴミのように投げ出される1人の男。
 それを呆然と見つめているホームレス。
 ワゴン車から下ろされた男は、口にガムテープを張られており、意識を失っているようだった。ワゴンはすぐに出て行く。
 下ろされた男はスーツを着たままの状態だった。

 時刻17時00分

 近隣警察に、倒れている男の人を確認したという連絡が入り交番警察が確認、拉致されていた政府の金融副大臣であることを確認。
 至急、救急車から搬送されることになる。
 金融副大臣は、怪我もとくにないようである。
 この間に、ゴッサムシティのジェームズ・ゴードン市警本部長から、解放された人質にたいして徹底的な危険物等の確認をという要請が入るが、
 解放による一時期の興奮状態によるものと、情報の錯乱により、その警告は届かない。

時刻17時30分

 救急車で搬送される金融副大臣の容態を含めた緊急特別番組が編成され、報道される。
 ジョーカーの人質解放ということに、マスコミは一斉に報道を開始し、事件の経緯や、
 今後も人質が解放されていくのではないかという、肯定的意見が占める。

 高町なのはは、自宅にてフェイト・T・ハラオウンのガス摂取による容態を見ながら、テレビを眺めていた。
 あのジョーカーという人間が……どこか釈然としないが、
 それでも自分たちの行った行動が一定の成果をあげたのではないかということを少し嬉しく感じてはいた。

時刻17時40分

 救急車が都内の大学病院に到着…。
 報道陣が集まる中、救急車からでてくる副大臣の姿。
 そこに黒い影が現れた。
 カメラが映し出したのは、黒きマスクの存在…バットマンの姿。
 バットマンは、移動ベットに寝かされている副大臣の服をめくり、そこに大きな手術跡があるのを見つける。
 バットマンはその長年の勘…なのはやフェイトとは違う、
 その強い心と供に…知り尽くしたジョーカーという存在から、その移動ベットを蹴り、関係者から離す。
 警備がバットマンを拘束しようとするが、そこで起きた光景に誰もが目を奪われた。

 爆発……。

 そう、それは人間の身体に設置された爆弾である。
 拉致した人間の内部に爆弾を設置し、解放、人が集まってきたところで爆発させる。
 効果的かつ、恐怖、そして自分自身はまったくリスクがないというおぞましい人間爆弾。
 その光景は、日本中が注目する中で最悪の形で起きてしまった。

『アァハハハハハハ~~!!私は、約束どおり人質を解放したぞ?これがお望みだろう?
 日本国民の諸君!!これからも、1人ずつ解放していってやる。
 そして蝙蝠男、久しぶりだな~?お前も含め、この俺に戦いを挑んだものすべてを屈服させてやる。
 アァ~ハハハハハハハハ!!!』

 ジョーカーの声明は、憎悪を通り越して恐怖を植えつけた。
 警視庁は声明を避け、今後の捜査方針を大きく考え直す必要が出てきた。

 なのはは、言葉を失った。
 いまだかつて、このような敵とは戦ったことがない。
 これが…私たちの今の敵。空を飛ぶことも、魔法という力を持つことも出来ない相手だというのに…
 その存在は私たちを凌駕しようとしている。
 これがあのバットマンという人が言っていた私たちではジョーカーには勝てないという意味?

『…君たちではジョーカーには勝てない』

 そんなことはない。
 確かに、あの狂気は凄まじいものがあるけれど…私たちには私たちのやり方がある。
 人を救うこと、誰だって話しをすればわかるはずだから。

 都内の警察官の増員を行い、すぐに解放された人質を見つけ出せるようにする一方で爆発物処理班を待機させ、
 すぐに処理できるように準備を進める。
 だが、広範囲をまわせる余裕も無く、テレビでこの様子をみた人たちは、怯えと恐怖を抱きながら生活を送ることになる。

「!?」

 なのはの、パソコンの画面にヴィヴィオの携帯の電波が再び受信される。
 ヴィヴィオや、フェイトの携帯は特殊であり、その場所がすぐ特定できるよう、管理局の技術を用いている。
 再びこれを受信した…。まさか!?ヴィヴィオが…。

なのはは、立ち上がり、レイジングハートを持つ。
今度こそ…止めないと。

「なのは…私も」
「フェイトちゃんは…待っていて」
「だけど!」

 なのはは、頭を振って起き上がろうとするフェイトの身体を優しく抱きしめ

「…今度は私の番。絶対にヴィヴィオをつれてくるから」
「うん……気をつけて、なのは。あの人は…」
「わかってる」

 夜空に飛び出すなのは。
 そう、わかっている…あの人は……私たちの考えが通用できる人じゃない。
 腕時計型のレーダーでヴィヴィオの位置を探るなのは。
 東京都内のネオンの光の中…この中で再び、被害者が解き放たれ、爆発するようなことがあれば、パニックになる。
 レーダーの示す場所は、旧テレビ局跡地。
 ここは…解体工事が行われるといわれながらも、その莫大な費用の前に、なかなか取り壊しが行われていない場所である。
 なのはは、警戒を緩めずに、レーダーの示す場所を目指す。
 暗闇の中で、なのははレイジングハートを握り、止まる。
 銃撃…、ピエロ仮面のものたちが機関銃を撃ちこんで来る。
 なのはは、レイジングハートを床に差して、床を破壊する。
 バランスの崩れたピエロ仮面たちはそのまま落ちていく。
 なのはは、やはりここにジョーカーがいるのだと思い、先に進む。

「…なぜ、来た?」

 振り返った、なのはは、レイジングハートを向けかまえる。
 そこに立つ黒きマスク…バットマンに向けて。
 バットマンは、動揺する様子もせず、なのはを見つめる。

「ジョーカーを止めるのは私だけだ。邪魔はするな」

 そういってバットマンは、なのはの、隣を通り過ぎようとする。

「私の仲間を助け出すためまでは、諦めない」

 なのは、通り過ぎようとしたバットマンを見ずに、そう告げる。

「…お前の力、能力…どれをとってもジョーカーには敵わないだろう。だが、お前の仲間はジョーカーに負けた。なぜだとおもう」
「……」
 なのはは、答えられない。
 ここにくるまで自問自答してきた。
 あの場所で言われた言葉…バットマンにはあって私にはないもの。
 それは一体なにかと…。
「…それは、お前にある心の弱さだ」
「!」
 なのはは、バットマンを見る。
 バットマンは歩き続けながらはっきりと答えていた。

「アハハハハハハハ、蝙蝠男。はるばる異国の地にようこそ。俺のショーは気に入ってくれたかな?」

 正面の扉が開き、そこにたつ、ジョーカー。
 にやけた表情でジョーカーは私たちを見つめる。

「…御託はいい。来るならこい」

 バットマンは冷静に答える中で、なのはには、そんな余裕が無かった。
 焦り…、ヴィヴィオがいつ、何時にあの人間爆弾にさせられるかわからないからだ。そのときジョーカーの後ろにいる人質たちの中にヴィヴィオの姿がはっきりと見えた。

「ヴィヴィオ!!」

 なのはは、コンクリートを蹴り、その距離を一気に縮める。
 レイジングハートを持ち、そこにいるジョーカーに振り下ろした。
 相手を気絶させるくらいなら。だが、そのレイジングハートはジョーカーの身体にあたったにもかかわらず、すり抜けてしまう。
 なのはは、息を呑み、人質達に手をやるが、それらもすり抜けてしまう。
 これはグラフィックス映像…。

「アハハハハハハハハ、なるほどお嬢さんの狙いがよくわかったよ。
 なんで俺をつけ狙うのかわからなかったからな。アハハハハハハハハ」

 ジョーカーの声だけが響きわたる。
 なのはは、自分がとんでもない過ちを犯したことに今になって気がつく。
 そう、これは罠だったのだ。
 私たちを呼び出して、そして…私たちが誰を助けだしたいかという…罠。

「それでは、お嬢さん、バットマン…ごきげんよう」

 バットマンはすぐに何が起こるか気がついて、呆然としているなのはを抱え、建物から飛び降りる。
 それと同時に、あちこちの柱が爆発し、建物が崩れていく。
 噴煙の中、なのはを、地上に下ろすバットマン。
 なのはは、地面にたちながらも、なおも、ふらついた足取りでいた。
 自分のせいでヴィヴィオを危険な目に合わす事となったことへの絶望…。

「…どんな敵にも、話せば通じる…そう思っているんじゃないか」
 うつろな顔でバットマンを見る、なのは。
「正義の味方では、そこまでが限界だな」
「…あなたは違うの?あなたは…正義の味方じゃないの?」
 バットマンは、なのはに、顔を向ける。

「違う。私は…悪人にとっての『恐怖』だ」

「きょう…ふ?」
「すべての人間に優しい、正義の味方では…悪人はのさばり続ける。私はそんな悪人の恐怖として存在している」
 すべての人間に、なのは達のやり方は通じない…。

「悪に憎まれることを…恐れるな。人間には様々な面がある。
 友人、仲間、社会…それらに向ける顔が全て同じではないのと同様に、これもまた違う1つの面。
 私という存在を、ある人はヒーローと唱え、ある人は犯罪者と罵る。
 それでいい…それが私、バットマンという存在だ」

 そういうと、バットマンは噴煙の中、姿を消す。

「…私は」

 なのはは、答えが出ない状態で…ただ、立ち尽くすことしか出来なかった。

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最終更新:2008年12月01日 21:28