最終話 理想と現実、その狭間で…


 私たちは、なぜ戦うのか?

 それは誰かに頼まれたわけじゃない。誰かを憎むためじゃない。
 愛すべき人を守るため、愛すべき仲間を守るため。
 そのためには、私は…手段を選べない。
 もし、もしも…管理局が私の愛すべきもの…フェイトちゃん、はやてちゃん、ヴィヴィオ…
 他のみんなを理不尽に追い詰めるようなことがあるならば、
 私は……例え管理局を敵に回しても守りたい人を守るだろう。
 それが…私が戦うという覚悟。

 ジェットコースターが動き続ける。
 その速度はわからないが、レールに火花を散らすところから見ると、
 相当の時間を、規定速度以上で走らせている可能性がある。

「ヴィヴィオ!」

「なのは…ママ?」

 その声を聞いてなのはを認識するヴィヴィオ。
 今まで会いたかった存在に、ようやっとあえる。
 ヴィヴィオは伏せていた目をあけ、あたりを見回す。
 だが、ジェットコースターに乗っている状態では、なのはを確認することは出来ない。

「…なのは」

 フェイトはなのはを見つめる。
 時間が迫る中、ヴィヴィオを助けるべきか…一般の人質、人間爆弾にさせられている人を助けるべきか。
 そのどちらの答えも私たちは否定した。
 私たちは…両方を助ける。


「……ジェットコースターに乗って、ヴィヴィオを下ろすのと同時に、私が席に着く」

 なのはは、フェイトに言う。
 それは…自分がヴィヴィオの代わりとなるということ。
 ジェットコースターに搭乗する事で、その体重がかけられ、起爆しないということは…誰かが座れば問題はないということ。
 それをなのはは、自分がやろうと言うのだ。
 人間爆弾は爆発しない。ヴィヴィオも死なない。
 だけど、なのはは…。
 フェイトは首を横に振る。

「…そんなこと、させない」
「フェイトちゃんには…ヴィヴィオを任せる」
「なのはの、願いでもそれは聞けない」

 フェイトは真剣な眼差しで、なのはを見つめる。
 振り返るなのは…。
 フェイトは顔を伏せる。

「ヴィヴィオには、なのはが必要だよ。だから…私に、やらせて」
「…出来ないよ。私には、フェイトちゃんが必要なの。フェイトちゃんがいない…明日は、私には…考えられない」
「なのは…」

 空に浮かぶ二人、月明かりの下で…見つめあう。
 誰かが犠牲にならなくては助かることは出来ない…。
 すべてに奇跡は通じない。すべてに理想は通じない。
 もしそれが起こるなら、フェイトがここに今いることもないし、高町なのは自身もここにはいないだろう。

「ヴィヴィオ…の母親として……私がヴィヴィオを、助けないといけない」

 フェイトは、なのはの強い気持ちを汲み取る。
 なのはが、一度言い出したら聞かない。
 いつまでも、それは変わることはない。
 私は…そんな、そんな…なのはのことが大好きだ。

「…なのは?」
「…?」
「私だって……私だって、なのはがいない明日なんか……いやだから。
 だから、なのは…生きて、生きて…帰って…き…て」

 フェイトの涙交じりの声に、なのはは、フェイトを抱きしめる。

「ありがとう」

 なのはは、フェイトの耳元でそっと囁く。
 フェイトは、涙を止めることができなかった。
 なのはの胸に顔を埋め、涙を流し続ける。
 なのはは、フェイトを抱きしめたまま…その、ぬくもりを感じていた。

フェイトちゃん……私の、かけがえのない…大切な人。

なのはは、フェイトから身体を離す。
フェイトもまた、なのはから顔を離し、涙を拭いて…ジェットコースターを見る。
すべてに奇跡は通じないかもしれない。すべてに理想は通じないのかもしれない。
だけど、私は信じ続けたい。このわたしの大切な人と……。

「ククククク……ヒャハハハハハハ」
 手足を拘束され捕まった状態で、ジョーカーは大きな声で高く笑う。
 バットマンがそんなジョーカーを見つめる。

「バカな奴だ。きっと、あの2人は自分の娘を助けるだろう」
「……」
「人間爆弾は爆発する。世の人間はみんな、己のものが可愛いに決まっているのさ。
 お前のような偽善者だったら、たった一人の命を見殺しにするだろうが、
 あの2人は、良くも悪くも人間だからな、ヒャハハハハハハ」

 バットマンはそんなジョーカーに拳を顔面にぶつける。
 ジョーカーは、その拳をもろに受けて、地面に叩きつけられて、気を失ってしまう。
「…少し、黙っていろ」
 ジョーカーがいかなる工作をしようとも、彼女達に託した。
 それだけだ…彼女達が何をしようが、それは私が全て受け止める。

 暴走するジェットコースターが、ジェットコースターの進行上にあるトンネルから飛び出す。
 瞬時に、なのはとフェイトは…ジェットコースターに取り付く。
 時間が迫る中で、なのはは、一番先頭にいるヴィヴィオを見つけ、そこに近づいていく。
 速度が増す中で、風に煽られ飛ばされないようしっかりと手すりを握りながら…。

「なのはママ!!」

 ようやっと見つけたかけがえのない存在…愛してやまない、ヴィヴィオとの対面。
 その顔や服は汚れていて、目は涙のためか…はれぼったい。

「ヴィヴィオ…動かないで?」

 ヴィヴィオに優しく語り掛ける、なのは。
 ヴィヴィオは、『うん』と頷いてなのはを待つ。
 なのはは、ヴィヴィオのシートベルトを外し、彼女の座っているところに自分も腰をつける。
 そして、優しくヴィヴィオを抱きしめる。

「……ごめんね。大変だったでしょう?」
「そんなことないよ!なのはママやフェイトママが助けに来てくれるって信じてたもん!」

 ヴィヴィオは、涙を浮かべながらも笑顔で答える。
 なのはは、そんなヴィヴィオの頭をそっと撫でてあげる。
 そして…ヴィヴィオを、フェイトに手渡す。
 ジェットコースターの障害物にぶつからないよう、体勢を低くしながら…。

「なのはママ?」
「……ヴィヴィオ、フェイトママといい子にしていてね?」

 その言葉の意味がわからない、ヴィヴィオ…。
 フェイトは、なのはを見つめる。なのはは、そんなフェイトを見つめ、頷く。
 それを合図に、ジェットコースターからヴィヴィオを抱え、飛び降りるフェイト。

「なのはママ!!なのはママ!!」

 ヴィヴィオの悲痛な叫びが聞こえる中……ジェットコースターは轟音と供に爆発する。
 ヴィヴィオの悲鳴と供にフェイトの脳裏にうつる…大切な人の残像。

「…なのはぁーーーー!!!!!」


 私の始めての友達…。

 私の…一番、大切な人。

 私を受け入れてくれた。

 私を…包んでくれた。

 なのはは、私を……

 私を……

 …好きといってくれた。


『ウェイン産業における、拉致事件がジョーカー逮捕という結果で解決しました。
 多数の死傷者をだした、この事件ですが、ゴッサムシティにおける犯罪が多数あることで、
 日本政府はゴッサムシティにジョーカーを国外追放とすることで決着となりました』

『ジョーカーは既に精神が病によって侵されており、残念ながら現在の日本の法律では、裁くことが出来ないと、
 ○○大学病院精神外科医の××氏は言い、日本政府としても、これは正しい判断だと言っていますが、
 弱腰外交と野党からは批判が相次いでおり、通常国会内において…』

『各国メディアでは、日本政府の対応が遅いという意見が多く、
 対テロにおける予防がなっていないと中国の新聞では書かれており、
 政府は、日本の警備体制について抜本的な見直しが必要であると声明を発表しました』

『事件解決から一週間。ウェイン産業の代表者であるブルース・ウェイン氏がようやく帰国の途につきました。
 ジョーカーの乱入等で、滞在時間の延長と、警察における協力から、警視庁から賞を受け取る予定でしたが、
 亡くなった方もいるとしてこれを辞退。
 ウェイン産業の代表は、日本において忘れられない傷を負うこととなったようです』




『…ブルース様、長期間、お疲れさまでした』
 パソコンにアルフレッドの顔がうつる。
 ブルースは、浮かぬ顔でアルフレッドを見つめる。
『さすがに…今回は、効きましたか?』
「…ただ、疲れただけさ。それで?」
 ブルースは、アルフレッドに対して、微笑み答える。
 アルフレッドは、そんなブルースの気持ちを知っている。
 そして知っているからこそ…彼には何も言わない。
『…先日から、土壌汚染等で問題にされている重化学工業の幹部が何者かに殺害されています。
 手口は全て一緒で。自然界に有する植物の毒を塗られて殺害されていて、
 犯行声明では、自分は自然界の、植物の救世主…ポイズン・アイビーと名乗っております』
「…トランプの次は、草か……わかった」

 そう、バットマンに休みはない。
 この世の悪が、バットマンという恐怖に怯え、姿を消すまで…バットマンは戦い続ける。
 たった1人…いや、違うな。
 様々な世界で悪と戦うすべてのものたちと、供に。







「?」

 顔をあげる少女
 彼女の見上げた青空に小さく飛んでいく飛行機…。
 しかし、すぐにその視線は自分の手を繋いでいる両隣の女性にうつる。
 嬉しそうに、二人の女性の手を引っ張って歩く少女……。
 二人の女性も笑顔でお互いを見ながら、少女に引っ張られていく。
 …その先に見える海が見える公園へと向かって…。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年12月01日 21:32