雪が深々と降る、クリスマスの夜。
とある一軒家から、明るいクリスマス・キャロルが聞こえてきます。
ちょっとお家の中を覗いてみましょう。
「クリスマスだねーフリード」
「キュクルー」
キャロちゃんとフリードが、仲良くクリスマスツリーの飾り付けをしていました。
フリードが飾りを渡し、キャロちゃんがそれをツリーに引っ掛けます。
一番上に大きなお星様を乗せて、はい完成。
テーブルにはケーキやチキンもあって、クリスマスを満喫する準備は万端のようです。
「後はサンタさんが来てくれるといいんだけど……フリード、靴下用意してあるよね?」
「キュククー!」
フリードが、当たり前田のクラッカーよとばかりに靴下を一足咥えています。
ギャグが古いとか、竜のくせに靴下とか履くのか、というツッコミが聞こえてきそうですが、せったくのクリスマスに無粋な疑問は要りませんからね?
そもそもミッドチルダにクリスマスなんて行事があるんかい、とか思ってる奴、お前死刑。
「それじゃ、ケーキ切り分けようか」
「キュー! キュクルー!」
キャロちゃんはテーブルに寄り、包丁でクリスマスケーキを切り分けようとしました。
フリードが歓喜に羽ばたきまくります。
…………その時でした。
ズドーン!!
爆音が響き、家が大きく揺れました。
キャロちゃんは包丁を取り落し、フリードは頭からケーキに突っ込んでしまいます。
「な、何!? どうしたの?」
さて、爆撃かダイハードか。
パニックになったキャロちゃんが音と衝撃の源を探ると、何やらもうもうと灰が漂ってきました。
どうやら、暖炉に何かが起きたようです。
目を向けると、つい先程まで暖かな火を灯していた暖炉が、巻き上がった灰に包まれていました。
これでは、中がどうなっているか全くわかりません。
キャロちゃんと顔を生クリーム塗れにしたフリードは、漂う灰を手で払いながら、暖炉に近寄りました。
ですが、その必要は無い様でした。
暖炉から突き出された手が、一瞬で灰を吹き飛ばしてしまったからです。
火は、当然消えていました。
その代りに、炎よりも赤い男がいました。
ぬう、と男が暖炉から出てきます。
赤い帽子に赤い服。そして手には大きな白い袋。
「……サンタさん?」
キャロちゃんは、思わず呟きました。
たしかに、衣装はサンタクロースのものです。
そう、衣装だけなら。
「………」
男は、無言でした。
サンタ服を着た男の帽子の下の顔は、優しい笑みを浮かべてはおらず、髭も白くはありません。
何が不機嫌なのか空飛ぶ鷹でさえ撃ち落とせそうな眼光を放ち、髭も顎にだけ黒いのが生えているだけです。
どう見ても北極から来たようには見えません。
どっちかって言うと、ギリシアのスパルタから来た様な面構えでした。
服の赤い部分はきっと返り血でしょう。
サンタクロース……いえサンタトスは、プレゼント(が入っているかも疑わしい)袋を引き摺り、キャロちゃんの目の前に立ちました。
サンタ服を着ているとはいえ、むしろサンタ服を来ているからこそ、スパルタの亡霊にここまで寄られると怖いものがあります。
フリードに至っては、床に伏せてぶるぶる震えていました。
「あ、あの……なんでしょう?」
キャロちゃんは恐る恐る尋ねました。
たしかにサンタさんが来てほしいとは思っていましたが、ちょっと慌てんぼさん過ぎます。
だいたいプレゼントを渡しに来たのかどうかさえ疑わしいですね。
「…………メリークリスマス」
すると、何ということでしょうか。
声こそ抑揚に乏しいものの、大きな白い袋をキャロちゃんに突き出したのです。
この際、プレゼントは靴下にいれるものだろというツッコミは無しにしましょう。
これ自体、クリスマスの奇跡に近いのですから。
「あ、ありがとうございまきゃっ!?」
受け取ったキャロちゃんが驚いたのは、何と言ってもその重さ。
子供の力ではとても支えられず、降ろした床がみしりと軋みました。
クレ……サンタトスのこと、人だった物の残骸でも詰まっているのかも知れません。
キャロちゃんは、ちらりとサンタトスに目をやりました。
ガン見です。
早く開いてみろと目で言ってます。
これは、開かなければ命に関わる可能性があります。
ドアに挟まれてガンガンやられるかも知れません。
意を決して、キャロちゃんは袋を開けてみました。
まず飛び出してきたのは、黄金の輝き。
袋の中身は、まるで絵に描いたような金銀財宝でした。
キャロちゃんが持てないのも当然です。
売れば一生遊んで暮らせるのではないでしょうか。
ちょっと血生臭いのは、たぶん略奪したてなのでしょう。
サンタトスはキャロがプレゼントを受け取ったのを確認すると、くるりと踵を返しました。
そのまま何も言わず暖炉の中に入り、ブレイズ・オブ・アテナを上に放って煙突を駆け昇って行きます。
キャロとフリードは急いで窓に走りました。
雪降る夜空を、サンタトスを乗せたトナカイ……ではなく鹿の角をつけたペガサスが飛んで行くのが見えます。
ソリとか一切無しです。
サンタトスは見る間に小さくなっていき……夜空の向こうに消えてしまいました。
キャロちゃんは窓から顔を離すと、
「……ありがとう、サンタさん」
可愛らしい笑みを浮かべてそう呟きました。
吐息が、窓を少しく白く染めます。
残る問題は、プレゼントされた略奪品の処分についてでした。
「……いっそお金に変えちゃう?」
「キュクルー?」
ちなみに後で分かったことですが、雪はサンタトスがデュポンの尻を蹴とばして発生させたもので、怒ったデュポンは三日三晩世界を吹雪で包みましたとさ。
最終更新:2008年12月26日 17:51