欧州系の架空型都市クラナガンの管理局の人員が、神田の時詠人形の視察に来るという。
本来なら大人たちが対応すべきだろうに、政府とか企業とかで色々あったらしく総長連合が応対する事となってしまった。
……面倒だなぁ。
そんな事を考えながら事前に指定された場所に管理局員がやって来るのを、大太郎を乗せた君と二人で待っている。

戦後、独逸の言詞爆弾をはじめとした数々の危険な技術や喪失技巧を、個々の国によるものではなく一つの組織が一括して
管理すべきだという動きが起こった。
当然各国は、うちの国が中心に、とそれぞれにもめたらしいが、結局は『魔法』による優れた封印技術などをもつクラナガンに
その組織が置かれ、人材を各国から集めるという形で合意に達する。
そうして生まれたのが管理局であり、現在に至るまで彼らは様々な国家・機関から独立した形で活動している。
と、御山の教官の講義を思い出してみんとす。

管理局としても、直接時虚遺伝詞に影響を及ぼす時詠人形は気になる存在なのだろう。
それが、人形を停止させようとする連中とかとの利害が色々あって、僕らが今ここに立っているというわけだ。
実際、やって来るのは管理局でも結構偉い執務官とやららしい。
……どうせ、偉そうなオッサンとかが来るんだろうなぁ。
こんな面倒な仕事は他に任せてしまいたかったが、先輩は別に仕事があったし、雪の字は右に傾きすぎてるから外人に斬りかかりかねない。
小坊主じゃ力不足だし、生意気な口を利いて後で問題になったりしたら大変だ。
……常々思うが、碌な連中がいないなぁ。

「あ、あれじゃない? あれ管理局の制服だし」
オッサンという僕の予想に反して、やってきた管理局の執務官さんはかなりの金髪美人だった。
補佐とかで一緒にきた助手さんもなかなかのもんだ。
地位の割に若いようだが、そういえば、管理局は優秀なら誰であれ登用するらしい。
来て良かったなぁ。
おいおい、いくらなんでも節操なさすぎじゃありませんか僕? 
「餌…」
……大太郎、人間まで餌言うな。

挨拶や自己紹介も適当に済ませ、なんか妙にやる気な君を先頭に僕らは歩き出した。
執務官さんが着ていたのは素っ気のない制服だが、そのスタイルを隠すには少々足りない。
……いい尻だ。
僕の視線に気づいたのか、君が僕の方を見ながら執務官さんたちに色々吹き込み始めた。
「おいおい待て待て。いくらなんでも初対面の相手の尻を揉んだり撫でたりなんて奇行に走るわけ無いだろう。
愛でるだけだ、愛でるだけ」
そんな抗議も空しく、執務官さんと助手さんの俺に対する視線は微妙に白いものになっていた。
理不尽だ。

実は神田の時計館の視察は明日だという事で、今日は暇らしい。
じゃあ適当に、と君が言い出したので、適当にいつものラーメン屋へ。
……いいのかなぁ? と思いつつもそれに続く。

「おや、脳が貧相な猿が来たね? 来たね?
 ちょうどよかった、いつものようにここのオヤジの薄っぺらい味わいのラーメンを、殴って極上にしてくれたまえ」
狭い店の真ん中の席を占拠する品性が貧相な猿を奥に向かって殴り飛ばし、カウンター席に並んで座る。
適当に五つ頼んだラーメンが並べられ、割り箸が配られた。
「餌餌餌餌餌ぁーぅ」
と、大盛りで頼んだラーメンを一瞬で呑み込んだ大太郎を見た管理局の二人が唖然とした。
……あれは引くよなぁ。
まぁ、そんな事をしているうちに僕らの、ついでに奥の博士のラーメンを不味いところが微妙に残るように加減して殴り飛ばす。
『思い信じて打撃すれば、エネルギー保存の法則に従い、いかなるものも打撃力を受ける』
うむ、と頷く。
転がる不味いところが少し変わっているということは、オヤジも腕を上げたということらしい。
……いずれにしろ、具じゃなく麺とスープの問題か。
ともあれ人生の様にほんの少しの不味さと大量の旨さでできたそれは、完璧ラーメンだ。
それを口にして、執務官さん達は驚き、馬鹿は歓喜に涙して店から叩き出される。
いつもの風景だ。慣れてない人たちもいるが気にしない。

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最終更新:2009年01月07日 23:31