機動六課隊舎、スバルとティアナの部屋。
夜の訓練を終えシャワーを浴びて帰って来たスバルは、
先に帰っていたティアナがパソコンで見ている物に興味を示した。

「んー?ティア何見てるのー?」
「ん?…ああ、タカオのことをちょっとね。また出たみたいよ。」

タカオ。
二年前、管理局の士官学校の卒業式に突如現れ、
所持していた剣(後に日本刀という剣と判明)で卒業生を35名、警備員を8名、士官候補生を18名と、
合計61名を殺害した「血の卒業式」をきっかけに「エルセア連続辻切り事件」「魔導士七人殺し」etc...
あまりにも多くの人を殺害していることと、AAAランク魔導士に匹敵するその戦闘能力のために
非魔導士でありながら管理局が殺傷設定での攻撃を許可している少年である。
公権力に真っ向から逆らい、大事件を幾度も起こしていながら未だに捕まらないせいだろうか。
そういうお年頃の少年少女達にとって一種のカリスマ的存在となっている。
もっとも、管理局員である二人はそうではないようだが。

「ふーん。…あれ、このタカオと戦ってる人誰?どこの部隊の人?」

その動画はニュースの物だろうか。
タカオと大剣を持った白髪の少年が戦っている様子が映し出されている。
白髪の少年の戦い方はどこか大雑把で、戦い慣れしていない様な印象を受けた。

「よく見なさい、魔法陣がさっきから一回も出てないでしょ。
 局員でこんな質量兵器の所持が許された例なんて聞いたことが無いし
 …おそらくは同じ犯罪者ね。あ、もうあだ名が付いてる。」
「スラガ?変な名前だね。」

それは髪の色からか。
それとも大剣を振り回す姿が強打者に重なるからか。
どちらにせよ、変わったあだ名であることに変わりは無い。

「今回の被害はビルのヘリポートが暫く使えなくなった位で、死者は出なかったみたい。
 …犯罪者にこう言うのもなんだけど、スラガのお陰なのかしらね。」
「でもこのスラガって人、小さい子を守りながら戦ってるみたいだし…
 だからきっと、悪い人じゃないよ。」
「あんたは相変わらずお人好しね。
 ま、こいつらの話はこれぐらいにして…今度の休みは何処に行く?
 あたしは服買いに行きたいんだけど。」
「んーとね、わたしはそろそろこの携帯古くなってきたから
 新しいの見に行こうかなーって…あ、メール来てる。」

手慣れた動作で携帯を操作するスバル。
どうやら迷惑メールだったようで、あからさまにうんざりとした顔になる。

「また迷惑メールだ…一噌のことアドレス変えちゃった方がいいのかなあ」
「今度買い換えるんでしょ?その時にしたら?」
「んー…………よし、やっぱり変えちゃおう。
 思い立ったが吉日って言うしね」

というわけでさっそくアドレスを変更。
知り合いにそれを知らせるメールを送ろうとして……

(あれ?)

違和感を覚える。
アドレス帳に覚えのない名前があったからだ。

「…ティアー。ルキノ・リリエって人知ってるー?」「誰それ?知らないわよ、そんな人。」
「だよねえ。…何で登録されてるんだろう?」

その名に既視感を覚えながらも、アドレス帳から消去する。
それが、一人の人間の完全な喪失を意味するとも知らずに。





それから数週間ほどした休日の、
夕暮れのクラナガンのメインストリート。
二人はそれぞれの買い物を終え、帰路に着こうとしていた。

「で、結局どんなのにしたの?」
「F.L.A.Gの新しいやつ。可愛かったからこれにしたんだー」

そう言いながら新しい携帯を取り出して見せびらかす。
余程気に入っているのか、いつもよりご機嫌だ。

「あら、あんたにしてはいいセンスじゃない。」
「…それどーゆー意味ー。」
「そのまんまの意……スバル、あれ。」

会話を打ち切り、ティアナはパートナーにある方向を指し示す。
その先には、予想しえなかった人物が居た。

「……スラガ!?」

大剣を持つ白髪の男。
近くで見て初めて分かったが、まだ少年と呼んでいい年頃だ。
転移魔法でも使ったのか、先日画面の向こう側に居た人物がストリートの人ごみに突如現れた。
仮面を付けたスーツの男と対峙し、大剣を構えている。

(…マッハキャリバーの起動準備。不審な動きしたら取り抑えるわよ。)
(もうしてるよ、ティア)

街中でのデバイス無断使用による始末書など気にしていられない。
何があろうとも迅速に動き、戦えるよう身構える。






その時、携帯電話が鳴った。
辺りの物全てが、一斉に。





(…こんな時に誰!?)

掛けてきた人物に苛立ちを感じつつ、携帯を取り出す。
そこに表示された名前は

「なのはさん?」

高町なのは。
二人の上司にして、戦闘の師の名前だった。

「え、ティアもなのはさんからなの?」
「…あんたも?」

おかしい。
二人同時に連絡が来るのは、業務に関する連絡の時ぐらいだ。
だが、業務に関する連絡は基本的にデバイスへと行われる。
だから携帯へのメールすら稀なのに、況してや電話。
しかも二人同時に掛けて来るなんて、明らかに変だ。
二人は顔を見合わせ、頷き合う。

「携帯には出ないで。何かが…」

告げようとした言葉は、爆音によって遮られた。
スラガがその剣で手近のショーウインドウを破壊した、爆音によって。

周囲の目を引いたそいつはそして、大剣を誇示するように頭上にかざし、必死な声で、叫んだ。
これ以上、自分と同じ「感染者」を増やさないために。



「ケータイ捨てろ!!!
 今すぐだ!!
 捨てない奴はこのスラガがぶった斬る!!!」



こうして、星-かがやき-のコールサインを持つ二人の魔導士と、嘘つきの刃旗使いは出会った。
この出会いを二人は喪失したのか、していないのか。
それは、刃旗使いしか覚えていない。


リリカルエンブリオ、始まりません。



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最終更新:2009年01月10日 15:24