──あの時は、間違いなく死んだと思った……
薄い暗闇に包み込まれた部屋で、影が蠢いた。
影はその独特の体躯をせわしなく動かせて、死んだように横たわる黒みをおびたパイプ
や、無理矢理引き伸ばした血溜りを連想させるコード、惚けたように天井を眺め続けるく
すんだ銀色の機械、等に埋め尽された部屋のあちこちを行き来していた。その部屋の中心
には、闇に薄暗く着色された壁に淡い光を投げ掛ける円筒状の機械が直立していた。
ふと、影が立ち止まって光を見据えた。
──これに、あんな力があるとは思わなかった……
影は、愛しむようにそれを見つめ続け、思い出したように溜息を吐いた。
綺麗だ。
それが影の感想だった。今まで見てきたあらゆる技術と一線を画す美貌を持つ光は、影
の心を完全に虜にしていたが、惹かれたのはその美しさにではなかった。
いきなり影は顔を顰めた。嫌なものを思い出した、と言わんばかりの顔で、自分の脳裏
に映像を結んだ。影は光の先にある何かを睨みつけるように渋面を作り、先程まで平静そ
のものだった胸中はどす黒いもので掻き乱されている。
関係ない人間全員をを船ごと爆破した男。
反抗を企て勇敢に戦う同志を悉く殲滅した男。
そして……
影の表情には一層皺が増え、胸中の思いそのものをはっきりと表した。
自分の緻密かつ周到な計画をぶち壊し、逃げる背中を躊躇なく撃ち抜こうとした男。
そこまで思考を進めた影の顔が、いきなり穏やかなものとなった。眼前の光をより愛し
く見つめ、鎮座する円筒を撫でた。
変わらず部屋を照らす光は、背中から迫る自分が最も嫌う物質の奔流を防ぎ、一挙に転
送らしき処理をして主を守ったのだった。そのことに影は心から驚嘆し、感謝した。この
光が、自分が今まで調べてきたどんな技術よりも頑強で、精悍で、信頼に値することが分
かったからだった。
それ以来、影はこの光に関する研究を続けていた。その姿は、まるで意中の女性を理解
しようとする若い男のようにも見えた。
──とにかく、今はこの光のエネルギーのことを調べよう……
影が背を向けて、またせわしなく動き出した。
それ故、影は気付かなかった。円筒の中で光が大きく揺れたことに。
光が刻むダンスは悲しむように、だが何処となく嗤っているように見えた。
それは誰も知らない、暗黒の彼方の出来事だった。



「研修……ですか?」
「そうだよ。経験を積むことは大事だからね~」
エイミィ・リミエッタは、応接室のソファから腰を浮かしてそう言うと、合成繊維製の
腕章を、目の前できょとんとする金髪と茶髪の少女にそれぞれ手渡した。
「あの……、具体的には何をするんですか?」
高町なのはは、三色ラインが入った腕章をおずおずと右腕に通しながら言った。白を基
調とした武装局員士官候補生の制服が目に眩しい。
「そんなに構えなくても大丈夫だよ」エイミィは笑顔を浮かべて宥めるように言った。
「多分、やるのは簡単な書類仕事ぐらいだから」
私もそうだったしね、と付け足した執務官補佐兼管制官に、なのはとは対照的な黒色の
執務官候補生制服に身を包んだフェイト・T・ハラオウンが尋ねた。
「期間はどれくらいなの?」
「今から二週間。その間、二人はこの艦のクルーとして扱われるけど、皆知ってる人だ
から大丈夫だよ。」
心配しないでね、と言って空間モニターを呼び出し、指を動かして操作した。
すると、顔を向かい合わせていた二人の目の前に冊子状の文書ファイルが現れた。
「それ、読んでおいてね。あたし、ちょっと行く所あるから」
そう言うと、エイミィは応接室のドアを開けて、さっさと出ていってしまった。呆気に
とられた二人はただ、言われた通りに書類を読み始めるしかなかった。



「二人にはとりあえず、書類整理をお願いしてね」
柔和な笑みを浮かべながら、リンディ・ハラオウンは空間モニター越しに言った。はい
、と返事をした自分の部下の顔がモニターと共に消え、先程まで目を滑らしていた今回の
研修についての書類が視界に戻ってくる。
「いきなりですね。彼女達の研修」
「確かにね。」
艦長席の隣に立つクロノ・ハラウオンが呟くような声を聞き、リンディは振り向きもせ
ずに緑茶を啜った。
「大方、上の意向でしょうけどね。」
「何故?」
「さぁ?分からないわ」
漆黒のバリアジャケットを着た執務官が諦めたように溜息を吐いたが、緑髪の女艦長は
何食わぬ顔で続けた。
「まぁ、彼女達のことだから、問題は起こさないでしょうし…。大丈夫よ。ちょっとや
そっとでは折れないわ」
クロノは何か言いたそうに口を開いていたが、嫌なものを見た表情をして黙ってしまった。やけに疲れた表情だった。



──駄目だ…臨界点を突破した……
常ならば薄暗い部屋に、光が撒き散らされていた。それはひどく暴力的で粗雑なものだ
ったが、佇んでいる影には、部屋を刺す光にそこはかとない拒絶の意思を感じた。
「結局、この光については何も分からなかったな……」
彼は諦感を顔に滲ませながら自嘲気味に言った。焦る時期はとうに過ぎていた。打つべ
き手は全て打ったのだ。
──光を調べようとしたことが間違いだったのかもしれない。或いは何らかの外部的要因が──
やめろ。カタは付いたんだ。影はしぶとく論理的に考えようとする思考を止めようとした。一度は助けられた光に自分が消されようとしている。それが事実なのだ。
──まるで奇跡だった……次元の違いすら感じた……
今だに生きている思考は、光に対する率直な思いを打ち明け続けていた。その間、影はうんざりしたような顔で黙っていた。
──どんな願いでも叶える存在……魔法……そう、魔法のようだった……
魔法か……。影はつまらなそうに言った。
既に光は自身の視界を白色に塗り潰し、今まさに、蓄えたエネルギーを爆発力として放出しようとしていた。仮に逃げても、数秒後には完全に気体になる未来はねじ曲げられないだろう。
「…なら、どうにかして欲しかったよ。あの男を、ウルト──」
次の言葉は出てこなかった。その時、既に膨大な力は外界に解き放たれていたからである。
力は円状に広がり、空間を振動させた。その時、奇妙な紋章が力の中心地点にあること
を垣間見たものがいたかどうかは定かではない。



衝撃は何の前触れもなく起きた。
床から鋭く突き上げたそれは、艦内で多くの両足を掬い取ったに違いあるまい。
だがそれだけではなかった。少しずつ視界が暗くなり、体から力が抜けていくように感
じた。方向感覚が狂い、天井と地面が断続的に入れ替わる。得体の知れない恐怖に襲われ
たなのはとフェイトは、整理した書類を放り出し、無意識の内に両膝を抱えてその間に顔
を埋めようとしていた。不思議なことに、その光景は艦の至る所でも見られた。誰も彼も
が同じ奇妙な姿で硬直し、彼女らの乗る艦もまた、光を恐れて暗がりを求める動物のよう
に次元の海をのろのろと進んで行った。



帰ってきたウルトラマン×魔法少女リリカルなのは

第一話 侵犯



事務用デスクの前で蹲っていたなのはは、自分に何かを強要していたものが、徐々に消
えていくように感じた。自分が両膝をしっかりと抱き、胸をその膝に苦しい程押し付けて
いると知覚した時、全身の硬直が解け、深く息を吐き出した。ゆっくりと目を開いたが、
視界は一向に明瞭にならなかった。
──電気が消えてるのかな……
今だに霞掛っている思考をフル回転させ、何が起こったのかを理解しようとしたが、全
く検討が付かなかった。体を起こした時に体のあちこちの筋肉が伸びる感じでは随分長く
そうしていた筈なのだが、記憶は一瞬で途切れていた。妙な感じだった。
突然、はっとした表情になったなのはは辺りを見回して親友の姿を捕えた。先程の自分
と同じ奇妙な格好をしているフェイトの肩を揺り動かし、呼び掛ける。
「フェイトちゃん!起きて!フェイトちゃん!」
すると、これまた自分と同じ動作をして身を起こしたフェイトは、眠そうな目を擦りな
がら大丈夫と言った。安堵するなのはを見て罪悪感を感じたのか、困ったように眉をハの
字にしていたが、薄暗い室内が弱々しい赤色の非常灯で申し訳程度に照らされているのに
気付いたのか、凛々しい声で質問した。
「なのは、何が起こったの?」
「分からないよ……。わたしが起きた時にはもう、こうなってたから……」
不安そうに答えたなのはだったが、次の言葉は彼女に内在する力に満ちたものだった。
「ここにいつまでもいたら何も変わらないよ。行動しなくちゃ」
彼女はこういう人間だった。常に前向きに考えて行動する、強い意志を持った人間だった。
わかった、と答えたフェイトは艦橋に行くことを提案した。艦の中枢とも言える場所な
ら少なくとも何が起こったかぐらいは分かるだろう。
大きく頷くことで了承の意を表したなのはは、事務室のノブを捻った。かちゃりと金属
の触れ合う音が通路に木霊したことに僅かな戸惑いを覚えた。
通路は事務室と同じ非常灯によって一定の間隔で照らされていたが、長く続いている為
に灯りが届かない部分がより強調されていて、全体的に暗い印象を受けた。
二人はドアを閉め、艦橋に向かって駆け出したが、足を動かす毎に得体の知れない圧迫
感を感じていた。静か過ぎるのだ。まるで時間が止まってしまったかのような完璧な静寂
は耳を刺激し、心を蝕んでいく。
今の二人には赤色の非常灯と黒色の闇が不吉なものに思えた。


艦橋の扉を開くと、不可解なことに先程の自分達と同じ格好で艦橋内の人間が全員倒れ
ている光景が視界に飛び込んできた。手分けして肩を揺すり、起こして回っていくとフェ
イトはあることに気付いた。艦長席の横で目を開いたクロノの質問がそれと結び付いたからであった。
「艦長は……何処に行ったんだ?」
「えっ…。クロノは知らないの?」
「いや、僕が気絶する前から艦長席に座ってた筈なんだが……」
強かに打ち付けたらしい頭を押さえ、姿の見えない艦内最高責任者の痕跡を見つけよう
としたクロノだったが、もう一人の少女の声にその行動は中断された。
「クロノくん、フェイトちゃん、みんな!モニターを!」
頭を上げて艦橋の前方に浮かぶ空間モニターを見た艦橋の全員が一瞬にして固まった。
毒々しい程、清々しい映像だった。
前方に広がる緑は強靭な生命力を想起させる木々が林立していた。その向こうにはやや
低い起伏が青み掛った緑に覆われているのが見えた。モニターの上辺に視線を移すと、何
処までも続くような雲ひとつない青空が天球を包み込んでいて、太陽の光が万偏なく降り
注いでいるのが分かった。
クロノ、艦橋内のクルーは総じてぽかんと口を開けていた。
「……何処だ…ここは……」
共通の疑問文が艦橋の天井に付きそうな位、数多く浮かび漂っていった。こうして艦の
中枢部は再び静寂に支配されたのだった。



空は澄み渡っていて視界は無限大。穏やかな風が吹き、既に葉を付けた深緑が揺れてい
る早春の日は、いつもよりも気温が高くて気分も晴れやかになる。そんな日だった。
「いい天気だなぁ」
独りごちた男はキャノピの外に広がる蒼穹を見上げた。太陽光が大気圏を突き抜け、地
表をやわらかく照らしているのが感じられた。男は満足そうに唇を上げ、第三者が聞けば
無責任ともとられかねない言葉を水鏡のように穏やかな心中に響かせていた。
だが、
「……!」
頭の中に鋭い何かが触れたように感じた。急いで周囲を見渡し、耳をすませるが、小刻
みに揺れる座席と機体外から響くエンジンの叫声以外には何も知覚することが出来なかった。
男が眉を顰めていつの間にか前に乗り出した姿勢を直した時、僅かな電子音が鼓膜に響
いた。右手でヘルメットからマイクを引き出してシステムを入れ、通信を接続する。
男は答えた。
「はい。こちらMATアロー1号、郷です」


MATとは、Monster.Attack.Teamの略称である。国際平和機構の地球防衛組織に所属し、
本部をニューヨーク、支部を世界各地に置いている。その内、MAT日本支部は国家組織「
地球防衛庁」に属し、東京湾海底に基地を構えている。
彼らの使命は、人々の自由を脅かす者と命を懸けて戦うことにあった。


「宇宙船?」
無線の向こう側から聞こえる音声にはしばしばノイズが乗っていたが、通信を行なうの
に支障はなかった。
<<ええ、午前11時27分。遠見市北、瀬礼州地区で宇宙船らしき物体が発見されたとの報告
が入りました>>
事務的な口調で淡々と情報を告げる声に耳を傾けながら、郷秀樹は先程の謎の感覚より
も幾分鈍いものの、体中に纏わりつくような感触を頭の端で得ていた。
<<郷隊員はパトロールを中断。ただちに現場に急行して下さい>>
「了解」
短く答えて操縦悍を傾ける。スロットルバーを前に押し出し、出力を上げた。
耳を劈く爆音を空間に撒き散らすアロー1号は、まるで電車に弾かれた小石のように大
気を切り裂いて進み、青い空へ吸い込まれていった。



強い太陽光を反射してちかちかと白く瞬く船体に反して、艦内の状況は最悪だった。
まず、艦内乗組員の3割が軽傷を負っていた。これは全乗組員が意識を失う前に起こっ
た唐突な衝撃によるものと推測されたが、詳しいことはよく分かっていない。
次に、各種レーダー、探知機、及びシステムの7割が中破。これには艦の電子機器担当
の管制官も頭を抱えていたが、今は全力でその復旧を行なっている。
だが、その作業を大幅に遅延させる要因があった。
「エンジンが動かないと、どうしようもないよね……」
<<うん……>>
染め抜かれた青に白色のスカートが静かに舞い、空に一点の刺繍を縫い付けていた。見
下ろすパノラマには緑が広がり、同色の起伏の向こうには灰色の波が押し寄せているのが
わかる。
アースラ上空で空中警戒の任をまかされたなのは、フェイトの二人は今だに回復の兆し
が見えないらしい艦機能に不安を抱きながら、取り留めのない話をしていた。本来ならば
艦付きの常勤武装局員が行なうべきなのだが、前述の負傷した乗組員がそれに集中してい
た為、有能なインテリジェントデバイスと、それを巧みに扱う魔導士である二人が選抜さ
れたのだった。


彼女らは生き残ったレーダーの死角を埋めるかたちで空中警戒を行なっているが、最低
限の注意は受けているだけで、実戦に即した局地的警戒任務に関しては素人同然だった。
「……けど、大丈夫だよ」なのはは努めて明るい調子で言った。「クロノくんもエイミィ
さんも、アースラのみんなが頑張ってるんだから、きっとすぐ直しちゃうよ」
<<……そう、だね。…うん、きっとそうだ>>
フェイトの顔が綻ぶのがなんとなくわかる。今は効率的な警戒の為に別々の場所にいる
が、念話越しの彼女の声は先程よりも幾分、力強いものとなっていた。
なのはは満足そうな微笑を浮かべながら顔を上げ、地平線の彼方を見つめた。
「?」
視界の中心に黒い点が浮かんでいる。目を擦って凝視するが、黒点は消えるどころか徐
々に大きくなっているような気さえする。
得体の知れない何かが近付いている。親友が自分の安否を問う声以外の何かが、遠くか
ら耳に張り付こうとしているのがわかった。
紛れもない音。なんということのない日常の中で何度か聞いたそれが、何故か怪物の雄
叫びのように思えた。
それは──甲高い轟音。飛行機械の咆哮だった。



──くそっ…何故無線が通じないんだ?
ヘルメット内蔵の小型無線通信機は機体内に配置してある大出力通信機と既にリンクし
ていたが、耳に聞こえるのは体に悪そうなノイズだけだった。郷は今の状況をすぐにでも
MAT本部に伝えたかった。
視線を滑らせて右主翼の先を『飛んでいる少女』を見遣る。
──酷く若い。下手すると、次郎君よりも幼いかもしれないな…
身長は小さく、手足もまだ伸びきっていない印象を受ける体駆だった。人間ならちょう
ど小学生だろう。だが、郷が最も注意を向けていたのは細い首の上に乗っている頭──と
りわけ、顔だった。
「目が大きい……」
耳よりも大きい瞳、それを内包する瞼。ぱっちり、という言葉では描写仕切れない程肥
大化した目は、普通の人間とは明らかに違う箇所だった。それ以外が人間に近い分、際立
って印象に残ってしまう。
その硝子細工の様な目が機体右だけでなく左からも──則ち機体両方向から向けられて
いる。監視しているらしく、視線は固定されたままだった。
機体は、先程から操縦悍を傾けているにも関わらず全く動かなかった。
原因不明の操縦、通信不能に謎の少女の出現。それが郷を取り巻く現状だった。


「あれ?エイミィさん何処にいたんですか?探してましたよ?みんなが」
「ん~……。ちょっとね……」
歯切れの悪い返事をしたエイミィは言葉少なにコンソール前の席に座った。艦内の非常
灯は既に消され、備蓄電源による予備電灯が次元航行部隊の制服を薄暗い艦橋に浮かび上
がらせている。
「なのはちゃんから報告はあった?」
「え?ぁ、いえ、まだありませんが……」
出し抜けに発せられた質問に若い管制官はしどろもどろになりかけながら答えたが、エ
イミィは表情ひとつ変えずに口を動かした。
「なら不味いね。艦の前方750に巨大な生物反応があるから」



──っ!!
耳の奥で何かが声を上げた。少しずつ、這い寄るように外界へ移動する予感が頭を、次
いで体を侵食していく。
はっとした郷は意識を視界に広がる樹木の群れを隙間に集中した。風防ガラスの向こう
にある地面が隆起し、『それ』独特の触角のような二対の尾が現れ、やがて奇怪な巨体を
太陽の元に晒した。
──怪獣!
首を振り、両脇の少女達の様子を伺う。幸いにも目の前の怪獣に気を取られているらし
く、大きい目を更に見開いて呆気に取られている様子だった。
祈るような気持ちでゆっくりとスロットルバーを引き、操縦悍を倒す。機体は郷の思惑
通りに少女二人の間を下降して行った。



気付いた時には遅すぎた。眼前に展開する光景に驚いた一瞬を突かれ、アースラが見付
からないコースを辿らせようとした戦闘機は樹木を薙ぎ倒しながら進む巨大生物に突進し
ていった。何故?という疑問を頭の片隅に追い遣り、思わず声を荒げてフェイトを呼ぼう
としたが、その声は連続した爆音に遮られた。
「フェイトちゃんっ!」
なのはが凛々しい表情で叫んだ。その真意を汲み取ったフェイトが、眉をハの字にして
頭を振る。
「でも──」
一際大きな爆音が響いた。振り返って見ると、戦闘機が黒煙を吹きながらどんどん高度
を下げている。
そのまま、あっと言う間に近くの山に吸い込まれ、爆発してしまった。
「……」
声が出ない。あの戦闘機には間違いなく人が乗っていた。それが今、間違いなく……。
戦闘機が突っ込んだ部分は赤い炎に覆われている。巨大生物はそれを見て嬉しそうに体
を揺らした。喉の奥から捻り出す様な声を上げ、体を捻った。
「……不味いっ!アースラに向かってる!」 巨大生物は長い尾を振り、進み始めた。

なのはの瞼の裏に撃墜され、鉄の塊と炎に成り果てた戦闘機がフラッシュバックし、ア
ースラにそれが重なる。
とてつもない悪寒がなのはを襲った。一瞬だけ視界が黒く染められ、周囲から自分だけ
が隔絶されたように感じた。
──嫌だ。そんなことは、絶対に。
左手に握る金と白のデバイスを振り下げ、巨大生物を見据えた。……が、同時にアース
ラと巨大生物との間に、魔力とは違う別の力のうねりが発生しているのに気付いた。
それは徐々に大きくなり、激しくなり、そして一点に纏まっていく。フェイトもそれに
気付いたらしく、力の集中する空間を凝視していた。
そして────光が、瞬く。



死者を思わせる様な暗闇の中でそれは蠢めいていた。その姿は人間の造形とは一線を隔
すものだった。
ピンポン球の様な球形の目。蝉を連想させる顔。爪先が釣り上がった足。闇の住人にふ
さわしい灰と黒の体色。そして、腕についた巨大なハサミ。
「これでいい……」
彼は俄かに呟いた。そして、独特の体躯を揺らし始める。最初は小さく、徐々に大きく。
嗤っていた。彼の種族にしか出せない声で。
「さぁ!試合再開といこうじゃないか!まだ一回の裏だ!楽しもうじゃないか!」
新たな力をその身にひっさげ、彼は『帰ってきた』のだった。
「そうだろう?『ウルトラマン』」
彼は地球ではこう呼ばれていた。
『バルタン星人』と。

フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ
フォッフォッフォッフォッフォフォッフォッ……………………………………………………



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2009年01月10日 15:33