これはJS事件が解決してからおよそ一ヶ月後の話。

地上本部のとある一室。ここで一人の女性が書類の整理を行っていた。
彼女の名は八神はやて。JS事件を解決に導いた時空管理局本局・遺失物管理部、通称、<起動六課>の部隊長にして、若きエリートである。
整理にも区切りがつき、ふと顔を上げると通信が入る。
「はやて、ちょっといい?」
「なんや?フェイトちゃん?」
相手はフェイト・T・ハラウオン執務官。9年来の親友にして、ライトニング分隊の隊長だった女性である。
「また人が襲われてデバイスが奪われたよ。今度は二人…」
「っ!?また例の事件か?」
例の事件とは、最近クラナガンで騒がれている<連続魔道師襲撃・デバイス強奪事件>のことである。被害者はすでに10人以上。
中には本局のAA+級の実力者も数人含まれており、地上本部は回復しかけたクラナガンにおいてこの脅威を見逃せるはずもなく、
本局は優秀な魔道師が幾人も敗れ去るという、自身の面子がこれ以上貶められる事態を無視できるはずもなく、両者は協力を結び、
この事件を一刻も早く解決しなければならない事態に追い込まれていた。
「うん。今度襲われたのは聖王教会の騎士だって」
「そうか。いまごろカリムやシャッハも大忙しやろなぁ…」
「聖王教会もこの事件に介入するかもしれない」
「しかし、犯人も何者なんやろな。だってあれやろ?被害者によると、犯人は6本の腕を持つっていう話やん。緑色の守護獣も連れてるらしいし。外見も普通やないんやろ?」
「でも人語を話すっていうらしいし、そこのところは本人に聞いてみないとわからないんじゃないかな?」
「ま、そやろな………まずっ」
コーヒーのカップに手を伸ばして飲むも、すでに冷め、顔をしかめる。
「ところでみんなはどうしたの?」
「ヴィータとシャマルは一度本局に戻ってもらっとる。ザフィーラとリィンは宿舎に戻ってもらっとるし。シグナムとアギトは教会やな。シャッハと模擬戦するいうとったけど。そろそろ戻るころやと思うよ」
「大丈夫?あそこらへんも被害があった場所の近くだし…」
「大丈夫やろ。アギトもついとるし。なんなら一回連絡とってみる…………」
「どうしたの?」
突然黙り込んだ親友に怪訝な表情を浮かべて問いかけるが…
「通信がつながらん…」
「っ!?それってもしかして!?」
「わからん…とりあえず通信できるまで続けてみるわ。フェイトちゃんは現場近くにいる管理局員に通達してもらえる?」
「わかった!場所はわかる?」
「………レヴァンティンからの反応によると…」
――其処は彼の者にとって最も相応しき戦場
「タッシェ橋や」
――事態は再び動く 





「残念だったな、今日は」
そうつぶやくのはピンク色の長髪を一本に束ね、魅惑ともいえるプロポーションを持つ美女、シグナムである。
心なしか、落ち込んでいるようにみえる。
「しょうがねぇだろ。最近物騒な事件も起きてるじゃねぇか」
答えるのは、約30cmの少女、シグナムをロードと定めているユニゾンデバイス、アギトである。
「この事件のことをこんなに恨めしいと思ったことは初めてだ…ふふふ」
横で若干、アギトが引いているのは気のせいではないだろう。
久しぶりに休暇がとれ、教会のシャッハ・ヌエラに模擬戦を申し込みに行ったのだが、最近の事件の被害者が教会騎士にまで及んだこともあり、
その機会がとれなかったのだ。それどころか、事務の手伝いまでやらされる始末。哀れ、シグナム。
今は大体夜の10時に差し掛かるところ。この時間帯では、この付近でタクシーを取るのも難しいので、街の大通りまで歩くつもりであり、ちょうどタッシェ橋に着いたところだった。
タッシェ橋はビュエルバ川を渡る橋であり、幅は2,30mくらいの規模の大きい橋である。交通の要所にあり、教会に行くために利用する人は多い。
しかしこの時間帯のせいか、渡っているのは二人だけであり、橋の両側に付けられた外灯が寂しく二人を照らしていたのだが…

「…………」
急にシグナムは顔を険しくした。
「どうした、シグナム?」
主の表情の変化を不思議に感じつつも問いかける。
「何か後ろから聞こえないか?」 
「後ろ?」
二人はゆっくりと振り返るが、目に映ったものは…
「…狼?なのか?あれは…」
緑色の狼。そう表現するのが一番近いと思われる生物が二人に目掛けて走ってきていた。
ここでシグナムは思い出す。昼間目にした例の事件の被害者の証言、「犯人は緑色の守護獣をしたがえていた」ということを。
「シグナム…」
アギトも気づいたらしい。顔を引き締めている。
「ああ、油断するなよ」
話すうちに、守護獣らしきものは二人に対し5m付近で停止。そして咆哮する。

―己が相棒を呼ぶために

「ガハハハハハハハハハハハハハハハァ!」
笑い声が二人の上空から聞こえ上を向くと、こちらに向かって飛来するものが見える。
「レヴァンティン、セットアップ!」
『Jawohl』
即座にデバイスを起動、バリアジャケットを装着し、謎の存在に対して二人は構える。
一方、謎の存在は二人が構えるのを見るといっそう破顔し、橋に着地しようとするが…

「トゥ?アィィィィィィィィィィ!?」

ボチャン!
失敗し、盛大に川に突っ込んだ…

「「「……………」」」
さすがに二人は拍子抜けしたのか、一匹はいつものパターンに飽き飽きしたのか。
沈黙がしばらく場を支配したが、

「フン!」
川の下から何かが飛び上がり、今度は無事に着地。いつものようにポーズを決めながら叫ぶのだ。
「いざっ……勝負!!」
しかし……
「あーなんだ?その……寒くねぇのか?」
ずぶ濡れの男に問い、場を再び沈黙が支配する。
回復した戦いの雰囲気を盛大にぶち壊したアギトは勇者であった…… 

だが、いつでもポジティブ思考のこの男に長くは通用しない。
「うるさいわぁ!これなるは、いわれ随一の兵!その名も剣豪、ギルガメッシュ!!
名高い武器を求めて止まず、西へ東へさすらう男っ………時空を越え、噂のあいつがここに見参!」
更に引くアギトの横でシグナムは冷静に相手を観察していた。緑色の守護獣を従え、決定的なのは6本の腕。
それぞれが1本ずつ異なる剣を手にしている。そして外見。全身を赤い鎧のようなもので守り、兜のせいで顔がはっきりとしていない。
最初は冷静さを失ったが、今なら断言できる。こいつが例の事件の犯人だと。
「ギルガメッシュといったな。お前が<連続魔道師襲撃・デバイス強奪事件>の犯人か?」
確認のため問いかけるが…
「何だ?それは?」
「とぼけるな。最近、幾人の魔道師や騎士を襲い、デバイスを強奪しているのは貴様だろう?
その守護獣、極めつけは6本の腕だ。犯人の特徴に一致してい…「なぁにを言っているっ!」何?」
話が通じない相手はどこにもいるものだ。
「勝負の後に敗者が勝者に武器を渡すのは常識!貴様我を愚弄するかぁ!」
「それが犯罪だといっているのだ!」
……話にならん。
そう考えたシグナムは、管理局員として己が責務を全うしようとし、改めて己が剣を構える。
「まあいい。どの道、私がやることに変わりはない。時空管理局に狼藉を働いた罪は決して軽くはない。剣を収めるなら今のうちだぞ?」
「笑止。引けと言われて引く我等ではないわぁ!お前の武器もいただくからな…行くぞ!エンキドゥ!我が心の友よ~!!」
「ちっ。アギト、お前はあの守護獣を頼む。私はあの馬鹿者を叩く!」
「まかせとけ!」
場が引き締まり、各々が己の敵を見定める。
……油断はしない。相手はAA+級の強者を幾人も破っているのだ。
自然と顔に笑みが浮かぶ。バトルマニアと散々言われているが、しょうがない。それがわたしの性なのだから。
……それに今日の休日はコイツに潰されたのも同然だし、対価は払ってもらおう。 

――血の滾る戦闘によって

「「いざ…」」
力を以って、技を以って、覚悟を以って、―敵を討つ―
「「参る!!!」」

――戦いが始まった

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最終更新:2009年01月30日 19:05