「それでは、フェイトちゃんの嘱託魔導師試験合格を記念して・・・」
「乾杯!」
アースラ艦内では、本局で試験を終えたフェイトのささやかな祝賀会が開かれていた。最低限のオペレーター以外は食堂に集合し、そ
の主役のフェイトはその中で恥ずかしそうにしつつ、皆に持ち上げられていた。
「あ・・・ありがとございま」
「飲めー!歌えー!騒げー!デストローイ!!!」
「ハイ、ハイ、ハイハイハイハイリンディ提督のちょっといいトコみてみたーい!!!」
「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAHUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」
ささやかと言うには騒ぎ過ぎである。この艦の理性でもあったクロノ・ハラオウンがいないと言う事はこれほどまでに混沌を呼ぶのか。
「どーしたのー?フェイトちゃんの為の宴なのに~」
「リンディ提督、いえ、その・・・うわ、酒臭」
「ぶふ~ん、リンディママに全部話して御覧なさ~い、っていうかなのはちゃんでしょ~?」
「・・・はい」
その時、通信音が響き、ヘッドセットをつけっぱなしのエイミィが出た。
「はいはい~ああ、クロノ君?」
通信に応対するエイミィのさりげない言葉に戦慄が走り、全員が一瞬で凍りつく。
「うん、今フェイトちゃんの試験終わって・・・え?組織の人と連絡取りたい?わかった・・・最寄の電話ボックスと組織の人を繋ぐから」
「組織・・・?」
フェイトがリンディに怪訝な顔をして尋ねる。リンディは少々顔を引き締める。
「ええ・・・クロノとなのはちゃんには今、捜査の依頼が来ていたからそちらに向かってもらっていたの、後数時間で定期連絡が来るだろう
し、その時に一度戻ってもらうように言っておきましょうか?」
「いえ・・・大丈夫です、ですが」
フェイトは真っ直ぐにリンディを見つめ、言った。
「私の方から会いにいきます」
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ネアポリス市内のケーブルカー
車掌の笛の音が響く。
「ふぇぇー!!待ってぇ!待ってください!」
ドアが閉まりきる前に間一髪滑り込んだなのは、周りの乗客の注目の的となり、軽く誤魔化し笑い。
「危なかったぁ・・・」
「もう少し待ってくれてもいいよね・・・外国の交通はしんどいよ・・・」
席を探すなのはとユーノだがその最中とんでもない人物を見つけてしまった。
「あ」
「あ」
「あ」
先程空港で自分達を騙した人物・・・ジョルノ・ジョバーナと聞いた彼がボックス席にいた。
「えと・・・座ってもいいですか?」
「え?いや、ああ、どうぞ・・・」
ジョルノと向かい合って座るなのは、荷物は通路側に置く。なのはの横の座席にユーノがちょこんと座る。
「君は・・・いや、覚えてないのか・・・?」
「さっき、空港で会った、ジョルノ・ジョバーナさんですよね?」
「・・・ああ、そうだけど・・・」
「荷物・・・無いんですか・・・」
若干落胆した顔を見せるなのは、ジョルノはそこで話を切り出す。
「その・・・さ、こう言うのは何だけど君は危機感が足りないように思えるんだ、僕が泥棒まがいの事をしていると知っているならわざわざ近寄ったりしないと思うし、荷物だって抱えて持つほうが安全じゃないか?」
「じゃあ、また盗むんですか?」
流石のジョルノも頭痛を覚えた。
「出来るなら今やってみてください」
「(なのは・・・ちょっと怒ってる・・・?)」
「(うん)」
念話での会話すら・・・いや、念話だからこそなのはの静かな怒りが伝わってきた。元よりなのはは曲がった事が嫌いであった、如何なる
理由があっても、どんな境遇であろうと、犯罪に手を染める事を許せない、頑固で真っ直ぐな性格であった。
「出来るのなら今すぐに、盗んでみてください」
「・・・なら、遠慮無く」
ジョルノは即座になのはの荷物を掴む、だが、そこまでだった。
「これは!?重い・・・!!」
出発前
「はいこれ、なのはちゃんは女の子だから色々入れなきゃいけないでしょ?盗まれたりするかもしれないし、特性のスーツケースを用意したのよ」
「なのはちゃんの魔力波動を登録すれば他の人には開けるどころか持つ事すら出来ないようにしてみたよ、開けっ放しには注意してね」
「ありがとうございます、エイミィさん、リンディさん」
「提督・・・僕には・・・」
「それじゃあいってらっしゃい」
「・・・はい・・・」
ジョルノは自分の判断が間違っていた事に気付いた。
この少女は・・・危機感が無いのではない。
危機感を持って、あえてこの場所にいるのだ・・・と
「そうか、お前がジョルノ・ジョバーナか・・・」
そんな中、唐突に話しかけてくる男がいた。ケーブルカーの上の方からゆっくりと歩いてくる、おかっぱ頭の男。
「・・・あんた、誰です?」
「あ、すみません、今ちょっと取り込み中なのでお話なら後にして・・・」
なのはの言葉が途切れる、そばで見ていたユーノは男がなのはに向かって手を突き出したのを見た。
「すまないが・・・ちょっと話したい事があってね、少し時間をもらうよ」
男がすぐに手を離した、にも拘らずなのはは口を塞がれたかの様に呻いている。
「むぐッ!?むぐう!!?」
『ジッパー』がなのはの口に縫い付けられている所為で喋れないのだ。
「ば、馬鹿な!?こんな事が・・・」
「ジョルノ・ジョバーナ、率直に聞きたい・・・このような能力を使う者を見た事は無いか?」
「この様な・・・他にも能力を持つ者がッ!!」
殴った。振り下ろすような拳がジョルノの顔を打ち抜く。
「質問はいらない、ただ答えればいい・・・ここ数日ギャングの中で腕に心得のあるやつが連続して狙われている・・・俺の仲間もその襲撃にあっている、それはどうやら特異な能力を持った奴らが、何らかの目的で集中してここ一帯を狙っている・・・という事なんだ・・・」
「・・・」
「お前が空港周辺で稼いでいるのは知っている・・・だから、妙な奴が来たなら一番お前が詳しいと思ってな・・・」
「・・・魔術士連続襲撃事件か」
「(ゆ、ユーノ君!)」
男が声の方向に向き直る、しかしフェレットであるユーノを当然無視してなのはへと。
「今のは君の声かい?オカシイ、な?口を閉じているのに喋るなんて・・・それに何やら・・・連続襲撃事件と聞こえたが気の所為かい・・・?」
「(ごめんなのは・・・!!)」
「・・・」
なのはは何も言わずじっと堪えた。男はそれを恐怖で緊張していると感じ取ったのか、少し優しい口調で
「じゃあ一つだけ答えてくれないかな・・・?俺の言ったギャングが連続して狙われている事件について、君は心当たりがある・・・イエスかノーか首を動かして答えてくれ」
イエスと応じれば、当然更なる追及を受けるだろう。
ノーと応じれば・・・解放してはくれないだろう、解放してくれたとしても背後関係を洗われる。
どちらも選べない状況で逡巡するなのは、顔に一筋流れる汗を
ベロンッ!
男が舐め取った。
「!!??!?!?」
「(こいつ・・・!!)」
「・・・」
「俺ね・・・人が嘘をついてるかどうか汗の味で解るんだ・・・この味は答える事に嘘・・・つまり答える事を隠したい・・・って事」
今度はなのはの肩口から二の腕の辺りまでがジッパーで大きく開かれた。
「ムゥー!!ムグゥー!!」
なのははすっかり気が動転していた。無理も無い、こんな身の危機では成人男性ですら悲鳴を上げて逃げ出す程だ。
「もう少し、話を聞く必要があるようだな・・・俺の名はブローノ・ブチャラティ・・・あまりにだんまりが続くようなら質問を『拷問』に変える必要があるぜ・・・」
「(なのは!!目くらましと解呪をセットでぶつける!!この場は脱出だ!)」
念話の声に理性を取り戻すと同時に、閃光弾の様な光が炸裂した。
「ぐぅっ!!?」
「うああッ!!」
ジョルノとブチャラティが目を押さえて仰け反る。
解呪によって身体のジッパーが無効化した事を確認すると、脱出経路を探そうと目を走らせた刹那、なのはに見えた。
『Protection』
窓の外で鉄槌を振りかぶる少女の姿が
「おらあああぁぁぁ!!!!」
窓ガラスを突き破って来た少女の鉄槌がなのはのプロテクションに食い込み・・・ぶち破った。
衝撃でそのまま反対側の壁まで吹っ飛ばされるなのは
「っかはっ・・・」
瞬時にバリアジャケットを展開していなかったら壁に叩きつけられて気絶していただろう・・・同時にレイジングハートを展開し、対峙するなのは。
「誰なの!?」
「命はもらわねぇ・・・おとなしくやられてくれ」
to be continue・・・
最終更新:2007年08月14日 15:54