「……NP3228………ううん、君が“シェルブリット”のカズマ君だね?」
「ハッ、だったらどうだってんだよ、本土のアルター使いさんよぉ!?」
なのはの確認の為のその問いに、威勢よく啖呵を切るが如く返すカズマ。
彼がこちらを本土から来たアルター使いという情報を早くも掴み認識していたことには驚きだが、まぁそれも今はどうでもいい。
「……漸く、会えたね」
「あん? 何言ってやがる?」
これまで資料でのみその存在を確認し、是非会って話し合ってみたいと思っていた人物が眼前に現れてくれたのだ。
それに興味や喜びを覚えないなのはではない。
だが一方、そんな彼女の心情などはまったく知らず、しかも初対面の強敵だと認識した矢先にそのようなことをいきなり言われてカズマが分かるはずが無い。
……ただでさえ、この眼前の女は何故か自分をイラつかせる。その明確な理由を自分自身でも察せられないカズマにとって苛立ちは増すことはあろうと治まることはない。
さっさとぶっ飛ばす、そう結論付けると共に彼は拳をなのはへと向けて身構える。
その瞬間だった。
「なのはさん! 大丈夫ですか!?」
そう叫びながらゾロゾロと今度は車内から眼前の宙に浮いている女と似たような格好をした輩が四人も出てきた。
こいつらがどうやら君島が言っていた本土から来たアルター使いたちで間違いないだろう。
……だが、
「……ガキばっかじゃねえか」
それも女子供、内二人はかなみとすら大差が無い。
アルター使いに年齢など関係ないことはカズマとて承知の上だ。向かってくる奴はたとえどんな相手だろうが容赦しない。
それでも思わずそんなことを呟いてしまうほどに彼は意外な連中の正体に驚いてもいた。
「……君島ぁ、やっぱりこんな奴らなんかにビビッててどうするってんだよ」
思わず苦々しくそんな呟きを漏らさずにはいられなかった。ガキだと油断することは愚の骨頂であることはカズマとて理解できていたが、それでも相手の正体には思わず拍子抜けせざるをえなかった。
だがカズマのそんな呟きを聞き漏らさずにピクリと反応した者たちがいた。
それは当然、そんな風に侮られた彼女たち自身だった。
「……ティア、あたしたち馬鹿にされてるよ」
「安い挑発……でも癪に障るのは事実よね」
スバルの言葉にティアナも正直にそう返しながら彼女たちはなのはを見上げた。
先程あの男は自分たちの隊長と全力ではないほんの一瞬とは言えど互角に渡り合った。
その実力の片鱗は確かに凄まじく、決して侮れたものではない。
だが自分たちにも機動六課の隊員として、高町なのはの教え子として、JS事件などを潜り抜けてきて成長してきた自負がある。
毎日毎日、必死になって歯を食い縛り賢明に鍛錬へと身を投じてきた。
自分たちだって成長してきている、確実に強くなってきている。もうヨチヨチ歩きのヒヨっ子のままではない。
その誇りが彼女たちに無言ながらもなのはへと告げさせる。
わたしたちにやらせてください、と……。
そしてそれは視線からなのはもまた察することが出来た。
本当に、自信を持った、そして強い良い眼をするように彼女たちはなった。
確かに敵は強敵、油断のならない相手だ。
教え子たちを案ずるなら、もしものことがないように戦うのは自分の役目だ。
それが当たり前だとも思っている。
けれど、人は成長する。
それを誰よりも良く知っているのも高町なのはであり、それを否定することは彼女たちにも出来ない。
そして此処は心配して守ってあげる場面ではない。
彼女たちの成長を、強さを信頼して、任せる場面だ。
最初から全てを取り上げるのは傲慢であり、それは彼女たちを信頼していないのと同じだ。
自分はJS事件の時もちゃんと彼女たちを信頼してきたではないか。
ならば、ここもまた同じはずだ。
故に―――
「―――良いよ、貴方達の力を彼に見せてあげて」
自信を持って、そして不敵に教え子たちへとそう告げた。
それを聞いた彼女たちもまた、同様に頷いてそれを了承。
眼前の、カズマを相手に四人は身構える。
ならばやってやる、そう行為は無言ながらも悠然とそれを物語っていた。
相手の方も、こちらのその態度から察したのだろう。同じように対峙して身構える。
なのははそれに手出しを加えない為に後方へと離れて見守ることにした。
万が一の事態には、早急にフォローに入れるように覚悟し身構えながら。
それでも今の彼女の胸中は、純真に自らの教え子たちと眼前の強敵の戦いを見入ることに務めようとしていたが。
そしてカズマも身構えた。
どうやら先にガキ共がこちらの相手をするような雰囲気だが……上等だ。
良い目つきをしてやがる、喧嘩をするには申し分の無い意気込みは確かにある。
女子供、四対一、それらはもはやこの後に及んでその一切が関係ない。
こいつ等は敵、立ち塞がる壁。
だったら―――
「じゃあ始めようぜ、喧嘩をよぉ!?」
―――この自慢の拳は纏めて全て打ち砕く、ただそれだけだ。
右腕に装着した鎧のようなアルター。
それがシェルブリットと呼ばれるカズマのアルター能力。
背中に三枚の羽根状の突起物があり、それを推進剤のように用いて爆発的な突貫力を生み出す。
「……それがホーリーのデーターベースに残ってた相手の能力」
典型的なクロスレンジタイプ、自分たちの部隊で言えばスバルと極めて似た能力。
情報は全てこちらが掌握している、相手の手の内をこちらは完全に把握しているのだから。
一方で、相手はこちらの魔法をアルター能力と勘違いしており、それですら未だ手の内は分かってなどいない。
故にこちらは最初から圧倒的なアドバンテージを有しており、相手も慎重に来ざるを得ない。
……そう、思っていた時期がティアナ・ランスターにもありましたよ。
まさか彼女のそんな思考すらも小賢しく思わせるほどに、いきなり迷いも無くあちら側から仕掛けてくるとは思ってもいなかった。
事前に渡された大事な情報を一部、彼女は失念していた。
そう、相手が単純とも評せるくらいに考えなしの突撃馬鹿なのだということを……。
先手必勝。それは喧嘩において当たり前のことであり、細かいことなど気にしていてもそもそも喧嘩など出来もしない。
故に躊躇い無く、これまで通りにカズマは地面を拳で叩くと共にその反動で高く跳躍。
そのまま挨拶代わりのまず一撃。
「衝撃のぉぉぉおおおおおおおおおお―――」
未だ固まったまま、バラけるにも今更遅い連中を相手に、カズマは容赦なくその一撃にて強襲する。
「―――ファーストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
背にある三枚の羽根状の突起物、まずそれが一枚弾け飛ぶと共に、そこから圧縮されていたエネルギーが噴出され、勢い良く彼女たちへと叩き落すべく凄まじい速度にて強襲。
威力も速度も、先程なのはが防いだ先の一撃の比ではない。
「さ、散開ッ!」
見ただけでそれは充分過ぎるほどに理解できた。
故に、ティアナがそう叫び切るよりも早く全員がその場を動いていた。
何とか全員、その場を飛び離れるも無人となったそこにそのまま勢い良くカズマの拳は振り下ろされた。
瞬間、轟音と衝撃が地面を抉り陥没させる。
バリアジャケットを着ていても、防御もせずに喰らえばただでは済まぬ一撃であることは瞬時にこの場の全員が理解できた。
……尤も、理解できたはイコールで臆することではないのだが。
朦々と上がる土煙の中、カズマは地面より拳を引き抜きながら瞬時に左側方へと振り返り拳を構える。
「はぁぁぁあああああああああああ!!」
地面を削るような勢い良く滑走する車輪の音とその叫び声と共に、土煙を突っ切ってスバル・ナカジマが拳を振り上げて襲撃を仕掛けてきたからだ。
予想通りの展開、故に迎え撃つ。それがカズマのやり方だ。
ましてや拳のぶつけ合いをしてこようというのなら、それは望むところ。
「らぁぁぁあああああああああああ!!」
相手が打ち込んでくる拳に合わせて、そこにピンポイントでカズマも返し、拳をぶつける。
俺とテメエ、どっちの拳が強えかまずは一勝負ッ!
そんな思いと共にぶつかり合う、シェルブリットとリボルバーナックル。
火花と轟音を響かせながら、打ち勝ったのは――――――カズマ。
「おらぁぁあああああああああああああ!!」
雄叫びと共に、押し負かし土煙の向こう側へと再びスバルを吹き飛ばすカズマ。
次の瞬間には、そのまま地面を拳で叩き再び宙へと跳躍。
直後、今まで彼がいたその場を切り裂くように突っ切る閃光。
「―――え?」
それをやった当人―――エリオ・モンディアルは必殺の瞬間を逃し槍が空を切った現実を信じられずに呆然とそんな呟きを漏らしていた。
だがそこへ再び着地したカズマは逃すことなくエリオを掴むと同時に、勢い良く今度は向きを真後ろへと変えて放り投げる。
その瞬間に、
「確かに速え……でも足りねえよ」
相手にもハッキリと聞こえるように耳元でそう言ってやりながら。
弾丸のように勢い良く、エリオは放り投げられその進行方向にいた少女に向かって飛んでいく。
「―――なっ!?」
クロスミラージュを構えていたティアナ・ランスターは予想外の事態に回避もままならずに少年と激突し吹っ飛んで行った。
それを確認しながら、カズマはそれを追撃するべく駆け出した。
一連の土煙の中での攻防、カズマは野生の勘とも呼べそうな驚異的な察知と身体能力に物を言わせたごり押しで見事に押し勝った。
スバルが仕掛けてくるのは音と喧嘩の場数で踏んだセオリーで容易に予想ができ、得意の力技で押し切った。
直後のエリオの不意打ちは大部分が勘だった。だがクーガーや劉鳳の真なる絶影などの速度を身を持って体験しているカズマには反応できないものでもなかった。
最後の背後のティアナについては、まぁこそこそと背後から狙ってくる奴というのは何処にでもいるものだ。予想通りに試しにやってみたら案の定いやがった。
そして二人纏めて直撃し吹っ飛んでいった。後はトドメの追撃を仕掛けるだけ。
そう思いながら、土煙を突っ切ってカズマは二人を追い―――
―――瞬間、目の前に降り注ぐ炎に驚き急ブレーキを掛けざるを得なかった。
「―――んなっ!?」
と驚きながら真上から降り注いできたソレを見上げれば、なんと上空には最後の一人であるキャロ・ル・ルシエが相棒である巨大化したフリードリヒの背に乗りながらカズマの侵攻を防ごうとしてくる。
正直、かなみと歳も変わりそうに無い少女というのはカズマにとって最も殴りづらい相手だったが、
「アルターの方になら問題ねえだろうッ!?」
飛び上がり、フリード目掛けてカズマは拳を突き込んだ。
それをおいそれと喰らってやる義理も無いフリードは迎撃のブラストフレアをカズマに向けて放つ。
だが―――
「温ぃんだよぉぉぉおおおおおおおおおおお!!」
物ともせずに炎を拳で切り裂きながら向かってくるカズマ。その勢いは衰えの陰りすらも見えはしない。
あわやそのまま炎を突っ切り、カズマの拳が飛翔する竜へと届かんとしたその時だった。
「リボルバァァァァァァ―――」
ウイングロードを展開しながら颯爽とその横合いから駆けつけたスバル。
そしてカートリッジロードと共に形成された魔力は、
「シュゥゥゥゥトォォォオオオオオオオオオ!!」
思い切りカズマへと叩きつけられ、彼を吹き飛ばした。
「キャロ、大丈夫!?」
慌ててそう尋ねてくるスバルに、キャロは間一髪の事態であったことなどもあり、やや呆然としながらも肯定の問いを恐る恐る返した。
「……そっか、よかった~」
安堵の吐息を盛大に吐き肩を落としたスバルに、キャロも改めて礼を返そうと口を開きかけ、
「撃滅のぉぉぉおおおおおおおおおおおおお―――」
瞬間、聞こえてきた相手の言葉に瞬時に緊張しながらそちらへと振り返った。
視線の先には吹き飛ばされていたカズマが立ち上がり、跳躍しながら再びあの先制攻撃の時と同じ一撃を放とうとしてきていた。
「キャロ、直ぐに離れて!」
スバルが慌てたように叫びながら、迎撃する心算なのか身構えて彼へと振り向いていた。
自分に何か出来ることは、そうキャロも思ったが今からでは何も間に合わず足手まといにしかならぬことを痛いほどに悟る。
「―――フリードッ!」
だから邪魔だけはしないよう、足枷にはならぬように自身が使役する竜へとそう命じてこの場から全速力で離れる。
「―――相棒ッ!」
『―――All right』
キャロという憂いが無くなった以上、スバルはもはや全力を出し切ることに厭わない。
だからこその切り札を、相棒に命じて発動させる。
「―――フルドライブッ!」
『―――Ignition.』
瞬間、盛大に展開されるカートリッジロード。
それは即ち、己の切り札を出し切ることの、全力全開で立ち向かうことの表明。
叫びと同時、展開される近代ベルカ式の魔法陣。
そしてマッハキャリバーより発現する翼。
ウイングロードを真っ直ぐに向かってくる相手へと定めながら―――
「ギア――――エクセリオンッ!」
『―――A.C.S. Standby.』
「セカンドブリットォォォオオオオオオオオオオオオ!!」
互いに照準を合わせた弾丸の拳をぶつけ合うべく駆け出した。
二度目の拳のぶつけ合い。
今度は互いに掛け値なしの全力の一撃同士。
その衝撃は先の激突の比ではなかった。
震動・衝撃・轟音・明滅―――超常のエネルギーのぶつかり合い同士は周囲に激しくそれらを伝播させながら、拮抗を打ち破るべく互いに踏み込み合う。
何ものをも打ち砕くための反逆の拳。
何ものからも守るべき存在を守る為の不屈の拳。
そのぶつかり合いの結果は―――
「―――何ッ!?」
焼き直し……になることはなく、ほんの僅かながらもスバルの拳が押し返した。
そのままウイングロードの足場に着地しながらも蹈鞴を踏むカズマに、続くスバルの急襲が降り注ぐ。
交錯すると同時に次々に殴りかかられ、反応することも出来ずに殴り飛ばされ続ける。
小娘の思いも寄らぬ猛攻に、カズマはぶち切れるよりも歯を食い縛りながら獰猛に笑う。
「上等だッ! どんどん来やがれッ!」
そう思い次の瞬間にも殴られるも、カズマはその不敵さを収めない。
スバルの動きに翻弄され、まるで反応できていない。我武者羅に振り抜く拳は空を切るばかり。
だがそれでも、
「倒れねえよ……んな温い拳で倒れられっかよ!?」
まったくもって手緩い。小手先の連撃などただでさえタフなこの身に効くはずもない。
来るなら、仕留めるなら、デカくてキツイ切り札を持って来い!
そう叫びながら、カズマはウイングロードを叩き再び跳躍する。
それを追いかけ真っ直ぐに伸びてくる水色の道。其処を駆け抜けながら覚悟を決めたのか正面から漸く相手も仕留めにかかりに来るようだ。
そうだ、それでいい。それならこっちも正真正銘、最後の一撃だ。
「抹殺のぉぉぉおおおおおおおおおおお―――」
そしてスバルも覚悟を決める。
何度殴り飛ばそうと、何度倒れてくれるよう願ってもこの男は倒れない。
バリアジャケットを纏っているわけでもない、正真正銘の生身でありながら自分以上のタフネスさを誇っている。
だからこそ、小手先の連打などどれだけ打ち込もうと、この男は倒れない。
倒れずして立つ男を倒すにはどうするか?……そんなものは決まっている。
問答無用で倒れざるえない全力全開の一撃をぶつけてやる。
それも真正面から、それ以外にこの男を倒す方法は自分には無い。
だからこそ、ウイングロードの道先を男の正面に真っ直ぐ合わせてスバルは駆ける。
応える様にカズマは背中の最後の羽根を使っての全力の一撃にかかってくる。
だからこそ、最大最強の一撃でこちらもまた応えるだけだ。
「一撃ッ……必倒ォォ!」
残るカートリッジの全てを引き絞り、拳の前面に形成させた魔力を疾走しながら相手へと向けて身構える。
最後の羽根を推進剤に遂にカズマの拳がスバル目掛けて向かってくる。
スバルもまた迎え撃つためその拳を同じくカズマ目掛けて突き込んで行きながら―――
「ラストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
「ディバィィィン……バスタァァァアアアアアアアアアアア!!!」
―――最後の拳のぶつかり合いが発生した。
一度目はカズマ。
二度目はスバル。
ならば互いに後が無い、決着をつけるべきのこの三度目は?
「うぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「はぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!!」
大気を揺るがすほどの雄叫びも、押し込むべき肝心の拳も。
意地も不屈の信念も。
全て両者はどちらも譲らなかった。
故に―――
此処から先は、限界を超えたもの勝ちだ。
そしてスバルは全力の切り札、エクセリオンモードを出し切った。
だがカズマには……まだ限界の先の力が残っていた。
「シェルブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!!」
叫ぶと同時、カズマの右腕を覆うアルターは更なる進化を遂げる。
より厚く、より鋭角に、より強く。
背中からは三枚の羽根に変わり、一つの尾が出現しローターの回転のように回りだす。
それに呼応するように、右手の甲が開き更なる輝きを増していく。
強大な力がカズマに集まっていくのがその場の全員に理解できた。
だが当人―――カズマにしてみれば、これだけではまだ足りない。
そう、もっとだ! もっと、もっと、もっと―――
「―――もっと輝けぇぇぇええええええええええええ!!」
叫ぶと同時、黄金の輝きを放つカズマの進化した拳が、遂にスバルを振り切った。
その敗北はスバルにとって驚愕であると同時に……無念でもあった。
何かを最後に叫ぶよりも早く、輝く光と衝撃に吹き飛ばされスバルは意識を失った。
「……さて、最後はアンタ一人だぜ?」
そう不敵に言うものの実際は肩で息をしているのがカズマの現状であり、それは相手からも察せられるほどに明らかなものだった。
実際、シェルブリットの第二段階を前座と思っていた相手に使わざるを得ないとは予想だにしていなかった。
全力全開、その先にあるものから引き出してくるあの力はその代償として容赦なくその身を蝕んでくれる。
その疲労は馬鹿に出来たものでなく、洒落にもならないのが現状だった。
事実、あの時は一瞬こそ出したものの、なのはを前に見上げるカズマはアルターを解除した状態だった。
もう一度アルターを発現し戦闘……とてもではないが、相手のなのはの方がカズマにそんな余力は残っていないだろうと思っていたほどだ。
無論、やられた教え子たちの無念は晴らしてやりたい……が、ボロボロの相手を前に私怨をむき出しに私刑紛いの事を行う倫理観をなのはは持ち合わせていない。
幸いにも、四人には大した怪我は無い。スバルが気を失っているがそれは大事に至るものほどではないことは確認済みだ。
それらを踏まえ、そして物資輸送の護衛の任務に必ずしも相手を殲滅する必要性がない以上、ここで彼が諦めて引き下がってくれさえすれば撃退したと言う名目は立つ。
手打ちはソレで充分のはず、これ以上不毛な争いを続ける必要などないはずだ。
むしろ逆だ、なのははカズマと戦いたいのではない。カズマと―――
「ねえ、争いはもう止めにして少しお話しないかな?」
対話、それが彼女がカズマへと望んだことだった。
だが―――
「ハッ、絶対にノゥだ! ホーリーのアルター使いなんぞと話すことなんざこちとら何もねえよ!」
獰猛に、不敵な獣の笑みを見せての拒絶だった。
だが一度や二度の激しい拒絶くらいで引き下がる高町なのはではない。
どんなに拒絶されようと、お話を聞いてもらうために何度も食い下がる。意地でも退かない、それが高町なのはのやり方だ。
当然、カズマがなのはを受け入れることなど欠片も無い。理由は分からないが、コイツと会話をするだけで何故か分からぬ苛立ちが沸々と湧いてくるのだ。
「どうして? 私は君と争う心算なんて―――」
「テメエがホーリーだって時点で俺にはあり過ぎるんだよ! ゴタクなんざ結構だ、語るってんなら拳でやってやるよ!」
―――だからやろうぜ、喧嘩をよぉ!?
相も変わらず、カズマがなのはに突きつけてくる欲求はただそれだけであった。
そこに譲る気持ちなどあろうはずもない。只管に眼前の相手は頑なで意地っ張りであった。
だが繰り返すがなのはにはボロボロのカズマと戦う戦意などもはやない。
ただどうしてそこまで頑なに彼がホーリーに逆らおうとするか、自分たちと戦おうとするのかを話し合って聞きたかっただけだ。
それはカズマにとっては苛立たしく、火点きの悪い行為以外の何ものでもない。
それこそもはやこの茶番すらも打ち切って、問答無用で殴りかかりたいのが本音だ。
それを思いながらも実行しない理由は……生憎と、カズマ自身にもそれは分からない。
無抵抗な女に殴りかかる、無意識にもそんなことに負い目を感じているのかもしれない。
だからこそ、なのはがやる気になってくれないとカズマも相手へと殴りかかれない。
このままでは埒が明かない、だからこそ仕方なく取った手段がこれだった。
「そんなに俺と話がしてえなら、力づくで話を聞かせてみろよ」
挑発の蔑笑と共に言ったカズマのその言葉に、ピクリとなのはは反応した。
力こそがこの大地のルール。だからこそ、誰にも縛られない自分を縛りたいと言うのならそのルールに則ってかかって来い。
そういう意図で告げたのだが、それはなのはにとって自身の心境を揺さぶられると言っていい提案だった。
どうしてお話を聞いてくれないのか、それに悩んでいた相手のあからさまな拒絶に戸惑っていたなのはだが、相手のその言葉には思うところもあった。
力づくで従わせる、などという方法は彼女にとって最も好まぬ方法だった。
自らの意志で互いに歩み寄っての対話、それを望んでいた彼女にとっては乗る気にもなれない提案だ。
それでも一方で、己の過去においても話を聞いてもらうために実力行使に出ざるを得なかった場面というのが何度かあったのは確か。
フェイトの時もヴィータたちの時も、結果的には争わざるを得ない、良い悪いに関係なく、互いに退けぬ理由があったからこそぶつかり合うしかなかったこともあった。
あの時のあれらの選択、あれらの戦いをなのはは後悔していない。あれは必要であったが故の、本音をぶつけ合うために必要であったからこその戦いだ。
……じゃあ、目の前の相手もそれを望んでいるのだろうか?
喧嘩と言い切り、そちらの都合をぶつけて来る強引なやり方。お世辞にも褒められたものだとはいえない。
だが彼女たちの時と同じように、この男もまたそういう引けに退けない理由がないとも限らない。ただ戦いだけを楽しんでいる、などということはないはずだ。
きっと彼にも背負っているものがある、守らなければならないものがある。
その為にも、話し合いには乗ることが出来ない。
だからこそ、相手は戦いの中で本音を語り合う方法を望んでいるのかもしれない。
ならば、不器用な自分がそれを聞き届けるには、それに応える以外にないのだろうか?
……本当に、悪魔らしいやり方でしかお話を聞いてもらうことは出来ないのであろうか?
分からない、こちらが望んでいるのは対話。でもあちらが望んでいるのは闘争だ。
致命的に違うのに、行き着き先には同じモノが待っている。
その矛盾はジレンマとなりなのはの胸中を蝕む。
それでも相手は早く決めろと決断を促がす、こちらと戦えと促がしてくる。
それは自分がホーリーであり、彼がネイティブアルターである限り、変わらないことなのだろうか。
「迷ってんじゃねえ! そうと決めたことがあるんなら、迷わずそれを為せるように行動しろってんだ!」
遂にカズマが苛立ちも顕に怒鳴ってくる言葉に、なのはは葛藤から引きずり出されハッとなる。
迷うな、その強い言葉は確かに今の自分が欲しているものだったはず。
精神面で弱くなり、戸惑っていた彼女が揺らがぬように欲していたはずの断固たる決意の言葉。
それを言われて、彼女は漸くに覚悟を決めた。
「私は……君とお話がしたい」
「だったら力づくで実行しやがれ、ホーリー野郎!」
その拒絶の言葉は次には気持ち良い位に清々しく響いた。
いいだろう、好みじゃないがそれが必要だと言うのなら……もう迷わない。
郷に入れば郷に従え、それが此処のルールであり、自分が彼の憎むホーリー隊員でしかないのだとすれば、
「……分かったよ、それでいい」
今はそれを目一杯に演じきろう。悪魔らしいやり方で、話を聞いてもらう機会を勝ち取る。
自分が失ってしまった強さにも、それは通じるはずだから。
だから―――
「おいで、反逆者(トリーズナー)。―――遊んであげる」
その目一杯の不敵な宣戦布告に、カズマはそれこそ呆気にとられ一瞬ポカンとしながらも、すぐに言葉の意味を悟ると共に。
「上等だぁ、テメエぇぇぇえええええ!!」
獰猛な笑みと共に、シェルブリットを纏った拳で襲い掛かった。
なのはがその身を守るように周囲に無数に展開している桜色の光弾の数々。
それが彼女のアルター能力、詳細は不明だがあの橘あすかの“エタニティエイト”と似た能力なのだろうか。
なのはと初めて摸擬戦を行い対峙した瞬間、一見して劉鳳はそう思考した。
そして皮肉にも、カズマもまたこの瞬間、彼女と対峙した時にそう考えた。
宿敵同士、まったく関係ないところでも同様の考えへと至るその皮肉。
……ただし、その思考の次に選んだ行動はまったくの対極であったが。
劉鳳はまずは相手の能力を把握すべくに、慎重に絶影に隙を見て襲撃を窺わせながらの待ちの姿勢を取り、
「衝撃のぉぉぉおおおおおおおおお―――」
カズマは考えなしにとりあえず攻めるという姿勢を選んだ。
近づいて殴る、それがカズマの攻撃方法であり何よりも譲れぬスタンスだ。
どんな相手だろうが、それを変える心算は無い。
だからこその先手必勝、先制攻撃を取ろうとしたのだが……
「……駄目だよ、それじゃあ隙だらけだよ」
宙に跳び拳をこちらに構えてくる相手になのはは瞬時にその光弾を十発、相手に容赦なく叩き込む。
確かにカズマの攻撃は強力だ。だが幾度の死線を潜り抜けてきた歴戦のエースオブエースである彼女からすればモーションの隙が大きすぎる。
それではつるべ撃ちの格好の的でしかない。
事実、桜色の光弾は次々と拳を振り上げようとしているカズマの全身に叩き込まれていく。
それを回避も防御も出来ずに、カズマは為す術も無く直撃し続ける。
―――尤も、
「ファーストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
どれ程撃ち込まれようともまるで問題にもしないという勢いで、そのまま突撃してくるのが“シェルブリット”のカズマの所以だったのだが。
だがそれはなのはにとっても承知の上、先程の戦いでスバルがあれだけ打ち込んでも倒れなかったほどの驚嘆的タフネスさを誇る相手に錬度・精度を高める為に威力を搾ったシューターを十数発撃ち込もうとも倒れるはずがない。
(やるならバスター……それも取って置きの一発でも直撃させない限り彼は倒れない)
それは理解している、だが直射型の砲撃魔法にはどうしても溜めがいる。
いくらなんでもそれを許してくれる相手でもない。
だからこそまずは―――
「―――レイジングハート!」
『―――Load Cartridge.』
突撃してくるカズマの拳、それを受け止めるべくなのははプロテクション・パワードを発動。
カートリッジを用いて上乗せした障壁の強度は見事にカズマの拳を受け切る。
「……しゃらくせぇッ!」
カズマはそれを打ち破らんと先程までと同様に更に拳を押し込もうとしてくる。
しかし、それになのはは、
「綱引きだけが戦いじゃないよ」
そう告げると共に、フラッシュムーブを発動し一瞬で側面に移動。
当然、ぶつかっていた対象を失い、勢いを殺しきれずにそのまま拳が空を切るカズマ。その表情にはいきなりの事態に驚愕が走っていた。
だがそれは当然、なのはにとってはがら空きの致命的な隙でしかない。
レイジングハートの照準をカズマに合わせ、瞬時に再び形成された数十の魔力弾が一斉に彼へと向かう。
『Accel Shooter.』
デバイスから発せられたその音声の直後、全弾がカズマの身へと直撃する。
流石に堪えたのか、呻き声を上げながら落下していくカズマだがこちらを振り向き睨むその眼は陰りを見せない苛烈なものだ。
彼の憤慨が分からないわけでもない。こちらは平然と力比べに乗ると見せかけ一方的に放棄した。
綺麗や汚い云々を戦いに持ち込むほど彼女はアマチュアではない。無論、自ら長所の比べあいを放棄した自身の選択を全面的に肯定するわけではないが。
だが彼女はプロだ。プライドよりも重視すべきことがあり、勝ちを取りに行くための戦いに拘りなど持ち込みはしない。
「撃滅のぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお―――」
蹈鞴を踏みながらの着地直後、再びカズマは二枚目の羽根を爆発させての拳の一撃をこちらへと向けてくる。
その姿勢は愚直とも言えるだろう。なのはの個人的な心情としては好ましくも感じる。
けれど、これとそれは別。
「セカンドブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
叫びと同時、再び弾丸と化し向かってくるカズマの拳。
シェルブリット……正にその名称通りに彼の拳は銃口から発射される弾丸と同じだ。
だがそれ故に、その軌道はなのはたちが魔法で扱うような例外を除けば決定されているも同じ。
「つまりは直線……それが分かっているなら」
回避はそう難しいことではない。
事実、その指摘通りに迫る拳をなのははかわしてみせた。
そして放たれた弾丸はそこで止まる事もできずにそのまま飛んでいくしかない。
当然、ここでもなのははすれ違い様に再び形成した魔力弾の群れをカズマへと叩き込む。
全て的確に、無駄なく、効率的になのはの攻撃は続いていく。
まるでそれは傍から見ている者からすれば詰め将棋、一方的なワンサイドゲームでしかなかった。
「………ちょこまかちょこまか飛び回りやがって……ッ!」
挙句に針で刺すみたいな手緩い攻撃を何度もぶつけてくるだけ。
「………そんなんじゃなぁ・・・何度ぶつけられたって……」
倒れやしねえぞ、と叫ぼうと口を開きかけるもカズマはそれが出来なかった。
その理由は簡単だ。今の彼の姿を見れば明らかとも言える。
「随分と、お疲れみたいだね」
その相手の忌々しい指摘の通り、カズマは肩で息をして立っているも辛いと明らかに思わせるほどにふらふらだった。
実際、手緩い攻撃であり何発喰らおうとも倒れない、そう豪語したカズマの意見は正しいようで間違ってもいた。
確かに一撃一撃のシューターには彼を昏倒させるだけの威力は無い。
だがそれを何十発も間髪入れずに喰らわされれば?……それはまた違ってくることになる。
塵も積もれば山となる、などとも言われるがボクシングでもボディに喰らい続ければ疲労とダメージは無視できぬほどに蓄積される。
ましてや彼女が扱うのは正に人を倒す目的を持って扱われる魔法だ。常人の拳の比ではない。
そしてそれには非殺傷設定という効果も一役買っていた。
時空管理局の魔導師にとって非殺傷設定の魔法とは決して手加減の事を指さない。
むしろ直接的に魔力ダメージを内部に浸透させるソレは、暴徒鎮圧などの役割において充分過ぎるほどに効果を発揮する。
簡単に人を昏倒させることだけを目的とするならば、むしろ非殺傷設定の方が容易であるのも確かだった。
何よりも全力を込めても相手を死に至らせる危険性は限りなく減少させている。ソレは高町なのはなどの非殺傷設定を絶対に対人において解除しないという信念を持つ者からすれば気兼ねの必要も無くなることを意味する。
故に彼女は容赦なく、手加減抜きで彼を相手に魔力弾を叩き込み続けた。
なまじ頑丈さに自負があり、手緩い攻撃と防御を怠ったカズマ自身の選択も合わさり、遂に先の新人たちとの戦闘も合わせて無視できぬだけのダメージが蓄積されてしまったのだ。
傍から見てもこの現状、もはや勝敗は明らかだった。
故に―――
「そろそろ、お終いにしようか」
―――彼女もまた改めてそう告げてきた。
「……おいおい、圧倒的じゃねえか」
その様子を君島邦彦は見ていられないと頭を抱えながらも、どうすることも出来ずに物陰に隠れて見ていることしかやはり出来なかった。
カズマが派手に喧嘩をし始めたのは離れていても響いてくる振動や轟音から直ぐに察せられた。
失望され、相棒の資格を失ったとはいえそれでもカズマを見捨てることなど君島には出来なかった。
故に、恐る恐ると言った様子も露わに戦場へと足を運んだのだが……
そこで見たのは、やはり絶望的な光景でしかなかった。
空を飛ぶ白い服に杖を持った、自分たちよりも僅かばかり年上の女。
充分に美人と評されて良いほどに見目麗しくも思えるが、君島にとって彼女は悪魔のようにしか映らなかった。
それは恐らく戦っているカズマ当人の方が尚更にそう思えたことだろう。
本土から来たアルター使い、十中八九それで間違いないその女はまるでカズマを子ども扱いでもするように圧倒していた。
尽く果敢に繰り出すカズマの拳すら、彼女は嘲笑うかのように簡単に避けて自らの攻撃を次々と彼へと撃ち込んでいく。
それも表情一つ変えることなく淡々としたように、だ。
カズマを圧倒しているその光景とも相まり、それは君島からすれば正に悪魔の如き所業であり、強さだった。
あんなものロストグラウンド中のアルター使いを集めてきたところで勝てるとは思えない。
正直にそう思えるほど、君島はその白い悪魔に恐怖を覚えていた。
……それでも、それでもカズマなら。
そう、一縷の望みを戦いを見守りながらも抱かずには、期待せざるをえなかったのだが、それすらも段々と絶望に変えられるだけだった。
もう何十発、或いは百発近く撃ち込まれたのではなかろうか。それ程にボロボロなカズマの姿とは対照的に、女の姿は涼しいほどに無傷そのもの。
それも当然か、君島が見る限りでもカズマの拳は一度たりともあの女には届いていなかったのだから。
それでも、一撃でも拳が届きさえすればカズマならばそこから逆転してくれるはずだと、そんな希望をこの期に及んでも君島は持ち続けようとした。
―――無情にも、次の瞬間には冗談みたいなレーザー砲紛いの一撃にカズマが吹き飛ばされるまでは……
そして、そこから再び立ち上がる様子を見せないカズマを見て、遂に君島の最後の希望は絶望へと変えられた。
そろそろ頃合だ。
仕留めにかかるには充分過ぎると見計らい、なのはは改めて降服勧告をカズマへと促がす。
尤も返ってきたのは、
「………上等…だッ!……やれるもんなら、やって…みやがれッ!」
不屈とも言って良いほどに変わらぬそんな反抗の姿勢だったが。
反逆者、開戦前に相手を思わずそう呼んでいたが、この男は事実その言葉通りの男だった。
決定的に倒されなければ……否、或いは倒されても、この男は絶対に折れない。
それが交戦してみて改めてカズマに対して抱いた印象だった。
それはある意味においても力強く、気高くさえも感じられる。
……正直、羨望を覚えないわけでもない。
或いはそれは失くしてしまったものへの郷愁だったのかもしれない。
かつては自分もこの眼前の男と同じような時期があった。ただ我武者羅に、自身の信念だけを迷わずに、真っ直ぐに貫こう。
そうやって空を翔けようとした頃が確かにあった。
でもそれはもはや今の彼女には無い。まだ残っているのかもしれないが、本人が思っているほどにあるわけではなく、それならば失くしてしまったのと同じだ。
何故、それが無くなった?……そんなのは決まっている。
―――大人になったからだ。
少なくとも、社会で生き適応できる身の振り方を身に付けた。
出来る事と出来ない事を明確に線引きし、限界を定めた。
諦めという物の分別もまた覚えたのはこの頃だ。
手にできるモノと手から取りこぼせないモノを定めて、それだけは守り抜こうと固く誓った。
自身の掌の大きさを自覚した……恐らくは言ってしまえばそういうことだ。
それに後悔は無い……否、抱けないし抱いてはならない。
それで手に入れたものがあった、それで守り抜いたものがあった。
それらを否定する行為だけは、絶対にしてはならない。
少なくとも、現在に幸せを感じているのだ。そしてそれを守り抜きたいのだ。
ならばこそ、自分はそれで良いと思う。
―――でも、この男は違う。
言ってしまえばこの男は自分勝手であり、それは我が儘だとそのまま表現できる。
我慢を知らず、規律を守れず、調和を乱す。
マイナス面が顕著とも言えるほどに、一見すれば言い方は悪いが……クズだ。
それでも、少なくとも彼は自分に嘘を吐いていない。
正直だ、渇望して、執着や奪取に躊躇いを見せない。
そして諦めと言う行為すら絶対に受け入れず、立ち向かう。
自身を抑え付けない、限界を定めない、抗うことを決して止めない。
純然たるアウトローの生き方、決して褒められるものでもない。
―――けれどそこには、確かな輝きが存在した。
その輝きは力強くて眩しくて、自分では決して手に入れられないものだとはっきりと自覚させられる。
だからこそ、きっとこんなにも惹かれてしまうのだろう。
羨ましい、それを正直に認めてしまうことが出来る。
でもそれでも―――
「―――それでも、私と君はやっぱり違うから」
親近感を抱き、憧れるものを持っている。
それでも自分たちは生き方も生きるべき場所も違う。
譲れない、目指すべき場所が悲しいほどに異なる。
だから―――今は倒す必要がある。
その後に改めて、歩み寄れる限界ギリギリの部分まで見極めるために話し合おう。
そのお話を聞いてもらうために、これしかないのなら。
私は躊躇わずに、悪魔らしいやり方でも君を倒す。
その決意と共に、なのははレイジングハートを眼下のカズマへと向けカートリッジロード。
決定的な敗北を相手に与えるために、敢えて彼女は彼へと告げる。
「此処からは小細工なし……お互い、全力全開の比べあいだよ」
言うなれば挑戦状、真っ直ぐ逃げずにかかって来いと相手のプライドを逆手に取った退路を断つためのそれは布石。
そして今までのこの相手の言動を見る限り、その性格上必ず―――
「いいぜ! やってやろうじゃねえか!」
―――その誘いに乗った。
カズマは了承の叫びを挙げると同時に拳を構える。
その拳を必ずに弾丸と化してこちらへと撃ち込む為に。
だがそれは彼女もまた同じ。無敵を誇る、誇りとも呼べる砲撃を持ってそれを迎え撃つためにこれまでやってきたのだ。
だからこその、此処から先は真っ向勝負ッ!
「抹殺のぉぉぉおおおおおおおおおお―――」
「ディバィィィィィィィィィィィン――――」
最後の羽根が砕け、カズマの渾身の拳が爆発を伴いながら弾丸と化してなのはを強襲する。
飛んでくるカズマ、自ら射線に突っ込んでくる相手に躊躇い無く彼女は最強の魔砲を解き放つ。
「ラストブリットォォォオオオオオオオオオオオオオ!!」
「バスタァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
弾丸と化したカズマを拳どころか丸ごと、桜色の奔流は包み込む。
それを突っ切り、必死に届かせようと拳を相手に向かって突き上げ続けるカズマ。
だが遂に―――
―――反逆の拳は不屈の魔砲に吹き飛ばされた。
轟音と共にかなり距離の離れた岩まで吹き飛ばされ、叩きつけられたカズマを確認して漸く彼女は己の勝利を確信した。
傍から見れば彼女はノーダメージ、一見すればこの結果は完勝だ。
しかし本人からしてみれば、辛勝もいいところだった。
実際、上手くいったから良い様なものの事実は綱渡りも良いところだった。
正直に言って二人の間の力量はそれ程かけ離れたものではない。
むしろ現状ならば、カズマはなのはを僅かばかりほど上回っていたはずだ。
何故なら彼はエクセリオンモードを解放したスバルを相手に真正面から打ち負かしていたのだから。
リミッターを課せられている高町なのはと、エクセリオンモードを解放したスバル・ナカジマ。
この状態の両者ならば、力において上回るのは後者のスバルだ。
なのは自身、それは正直に認めているところではあるし、スバルがなのはを打ち破れる可能性もまた高い。
ならばそんな状態のスバルを倒して見せたカズマに、何故リミッターを付けたままのなのはがこうまで一方的な展開を見せ付けることができたか。
そこは間違いなく、地力の差だった。
本来ならば幼少時より弱肉強食のこの無法の大地で生き抜いてきたカズマの経験は常人の比ではない。
だが十年もの歳月を過酷な様々な戦場、それも最前線で戦い抜いてきた高町なのはの経験は決してソレに劣るものでは無い。
たかが小娘の十年、そう侮るなかれ。
エースオブエース、無敵や不屈と称されるその経歴は決して伊達ではない。
最前線の戦闘経験、そして自他共に含める最高峰の鍛錬、その双璧の壁の厚さは、持つ抽斗の多さはそう簡単に他の追随を許さない。
だからこそ彼女は終始相手にペースを握らせない、土俵では戦わせない搦め手に徹した。
プライドを押し殺し真正面からの戦闘を避け続け、ヒットアンドアウェイを繰り返す。
そして蓄積され、無視できぬだけの疲労が溜まったのを確認してから、相手の退路を断ったチェックメイトを掛ける。
多種多様な能力性を持ちながらも、個人のもの自体は単一性の能力であるアルターと、状況によって切り分けのきく多様性の魔法という相性の良さもあった。
それら全てを踏まえての実践しきってみせた逃げ切り、この結果は正にそう言えた。
だが例えどうだろうとも、
「……私の勝ちだよ、カズマ君」
これで漸くにお話を聞いてもらえる。
今の彼女が確信を持って考えていたのはそれだけだった。
だが―――
目次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3108.html
前へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3147.html
次へ=www38.atwiki.jp/nanohass/pages/3154.html