食べ物の好き嫌い。
誰もが一度はその道を歩いていく。
幼子がどのように克服していくかが人によってまちまち。
そこにいくつもの物語がある。
気がつけば食べられるようになっていた。
新鮮なものを食べたら食べられるようになった。
親の試行錯誤の果てに生み出された料理によって克服できた。
そんな結果の傍らで、いつまで経っても克服できない子がいる。
なにが良いとか悪いとか、明確な答えはないけれど、たった1つだけ言えることがある。
幼心に苦手意識を埋えつけてしまったら容易には治らないと言うこと。
けれども食べろ食べろと強要する親がいる。
かつて自分自身にも子供だったときがあったはずなのに。
さて、そんな親達は子供が疑問を持つ可能性を考えているのだろうか。
食べろ食べろと言うけれど、親には好き嫌いがないのか……本当に?
魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めようか。
第15.7話 それって食べられるの?
お昼時の機動六課の食堂。
いつもの面子が思い思いに食事をしている。
今日の訓練も過酷で、けれど実力がめきめきと実感できるほどついていることがわかるのは素直にうれしい。
ただ、疲労困憊で、ともすれば吐き戻しそうにさえなる状態だというのに、
冗談みたいな量を盛られたパスタをこれまた冗談みたいな速度で食べていくエリオとスバル・・・それにギンガさん。
カロリー消費が激しいからフォワードは大食漢になるって言われているけれど、
これはどう考えてもおかしいって思うのはあたしだけなのだろうか?
フェイト隊長やシグナム副隊長、ヴィータ副隊長、ついでにはんたやポチも普通の量しか食べていないのだからたぶんこの考えは間違えていない。
なによりあれだけの量を食べておきながら3サイズ、特にWあたりの値に大きな変動が無いあたり反則を通り越して殺意さえ覚えてくる。
ああ、だめだ。見ているだけで吐き気がしてくる。
エリオ達を視界に移さないように微妙に視線をずらしながら自分のパスタを攻略にかかる。
うん。今日も美味しいわね。
機動六課ってこういうところにお金かけているのかしら。
他部署からは女所帯とさえ言われるほどに女性過多の新設部隊。
だからこそモチベーションの維持も兼ねてこういう部分の管理をしっかりしているのか。
八神部隊長の考えなのかしら?
そういえば97管理外世界だと食事が戦争の明暗をわけたことがあるってヴァイス陸曹から聞いたけれど本当かしら?
そんなこんなで昼食が終わりに差し掛かった頃、
ここ最近耳にするようになったなのはさんの台詞が響いた。
「もう、ヴィヴィオ。ちゃんと食べないと大きくなれないよ。」
「うー・・・・・・。」
今日も泣き出しそうな顔のヴィヴィオ。
その手に握られたフォークにささった真っ赤なにんじん。
あー、好き嫌いか。
でも、にんじんとかピーマンって一度苦手になると食べづらいのよね。
にんじんはえぐい味がするし、ピーマンなんて苦いだけだし、
セロリなんて蝋燭かじったのかと思う味するし、
トマトの果肉がどろりと流れ込んでぬめっとした感触とか
蛙の卵を見た後にタピオカ出されるとか・・・・・・。
血が滴り落ちるステーキとかダメって人もいるって聞くし・・・・・・。
でも・・・・・・。
そう思って視線を反対側に移せば猛烈な勢いで貪るように食べていく人々がいる。
こっちは好き嫌いがどう考えても無さそうよね。
それどころか『好き嫌い?それって食べられるの?』とさえ聞いてきそうだ。
気分がいいを通り越して吐き気さえ覚える食べっぷりの横で、
今日もこっそり自分のにんじんをエリオに移そうとしているキャロがいる。やれやれ。
いつもならその後、キャロが誰にもばれないように速やかににんじんをエリオのお皿に移動させて、
本当に我慢しているって感じでヴィヴィオがにんじんを食べて終わるのだけど、今日は珍しく乱入者がいた。
乱入した白衣とサングラスにパイナップルのような髪形の老人が誰かは言うまでもないと思うが・・・・・・。
「ハハハハハ、ハハハハハハハ、ハハハハハ・・・・・・。
やあ、みんな。今日もクソ元気そうでなによりだよ。」
「あ、バトー博士。バトー博士も食事ですか?」
「そうだよ、ロシュツキョー。
重大なことができちゃったからパンツをはきかえるのも後回しにして
大喜びしながら大急ぎでゴキブリを探してたんだ。」
「重大?」
「そうだよ。喜んでよ、ゴキ・・・・・・あれ?」
バトー博士が重大ということは何かしらすごいことなんだろうが・・・・・・。
いったいなんなんだろう?
ただ、食事時にクソとかゴキブリとか言うのはやめてください。
なにげにフェイト隊長を露出狂呼ばわりしているのはもうみんなスルーするのね。
慣れって怖いわね。
フェイトさんの疑問の声に嬉々として言葉を続けようとしたバトー博士はふと傍らのヴィヴィオに視線を止めると言葉を止めた。
「ナキムシーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー。いったいどうしたんだい。
ナキムシはナキムシらしくメソメソウジウジ泣いて喚いて見られたもんじゃない面をぐちゃぐちゃにしているのが自然なのに、
なんでそんなに我慢しているみたいな顔してるのさ。
ただでさえ酷い顔が余計に酷い顔になってるよ。」
「うー・・・・・・。」
「ああ、そういうことか。言わなくてもいいよ。なんたってボクは天才だからね。
1を聞いて10を知るどころか聞かずに全部理解しちゃうなんてお茶の子さいさいさ。
それじゃ、ナキムシ。ちょっとだけこれ借りていくね。」
「あ、バトー博士・・・・・・。」
なのはさんが口を開くよりも早くバトー博士がヴィヴィオのにんじんを強奪すると
厨房のほうへ駆けていった。
呆然としたままのヴィヴィオ。
そういえばヴィヴィオにつけられたアダナはナキムシだった。
バカチンとかロシュツキョーとかナイチチとかゴキブリとかクソイヌとかニートとか
トシマとかゲボ子とかウスノロ1号2号とかムッツリとかコシヌケとか・・・・・・
ノウナシヒステリーに比べればナキムシが遥かにマシに思えてしまった私は、
なにか間違っているんだろうか。
あるいは末期なのかしら・・・。
バトー博士が厨房に消えた直後からおそらく調理のものだろう音が響き始める。
でも、響いてくるこの音って本当に料理の音なんだろうか?
料理でドリルとかトンカチとかグラインダーとか滑車とかバーナー使った覚えがないんだけど・・・・・・。
あ、排莢音まで・・・ってええ!?
調理器具にカートリッジシステムついたものって無いはず・・・・・・よね?
私が物を知らないだけではないかと自信がなくなってきた。
再びバトー博士が戻ってきたのはその3分後。
3分クッキングを文字通りやってみせるバトー博士をすごいと思えばいいのか悩むところ。
その手にあるのは毒々しいほどにんじん色の液体が注がれたコップと
芸術的とさえ思えるほどに整えられた純白のショートケーキ。
それをヴィヴィオの前においてバトー博士が口を開いた。
「さぁ、ナキムシ、遠慮なく食べてよ。エサを目の前にしたブタみたいにさ。」
にかっと笑いを浮かべたバトー博士に引きつったような笑みを返すヴィヴィオのとった最初の行動は、露骨なまでに液体のはいったコップを横にどけること。
ああ、そりゃそうよね。
にんじんが嫌いなのににんじんジュースだされたら。
しかも他になにが入っているか分からないくらい毒々しい色までしていたらあたしだって拒否する・・・・・・。
逆に音符が飛んでいそうなくらい鼻歌交じりでぱくついているのはショートケーキ。
生クリームも本当にきめ細かくてさぞかし舌触りもステキな一品なのだろう。
そんなヴィヴィオの傍らから当然のごとく抗議の声があがるのも自然な成り行きだろう。
「もう、バトー博士。甘やかさないでください。」
「うん?バカチン、ボクがナキムシをどう甘やかしたんだい?」
「にんじん食べていないじゃないですか。」
「はぁ?なにを言っているの、バカチン。
いつもいつもバカやりすぎて、とうとう頭がジャンクになっちゃったのかい?
バカチンにバカをやるなって言うのが鳥に空を飛ぶなって言うくらい無茶なことは分かっているけど、そんな発言してるとバカチンがこの上ないバカに見えてきちゃうよ?
このバカチン♪」
いや、『バカチン♪』じゃないってば。
疑念の余地もないくらい当たり前のことをなのはさん言ってるって。
あまりの言われようになのはさんも呆然としてしまってるし。
・・・でもどういう意味かしら?
「まったくバカチン。よく見てよね。ナキムシはちゃんと食べているじゃないか。
3欠けと云わずに3本も。ついでだからパセリとセロリとほうれん草とピーマンとゴーヤと冬虫夏草も一緒にしておいたのに・・・・・・。
バカチン、ちゃんと頭働いてる?
バカチンの使い物にならないノウミソがこれ以上使い物にならなくなって
砲撃しかノウの無い単純バカチンからとりあえず砲撃ぶちかますバカチンになっちゃったらボクはもういったいどうすればいいのさ。」
「「「……えっ?」」」
その言葉になのはさんが戸惑いの声を上げる。
フェイト隊長とあたしも驚きの声を上げていた。
気がつけば皆がヴィヴィオを凝視している。
毒々しい液体はまったく手付かずのまま・・・。
あたし達の目の前にはショートケーキをぱくついているヴィヴィオしかいない。
どういうこと?食べている?
つまり現在進行形ということ。
もしかして大前提が間違えている?
ショートケーキと思っているものがショートケーキじゃなかったなら・・・・・・。
「バカチンのことだからナキムシが食べたくないものをバカの一つ覚えみたいに縛り付けてトラウマ級の砲撃ぶちかます理論で
食べろ食べろって無理矢理押し込んで食べさせてたんでしょ。
やっぱりバカチンはどうしようもないバカチンだよね。
そんなことしたらナキムシが余計にナキムシになって、
にんじんなんか見るのも嫌だって言うようになるのは分かりきっているじゃないか。
そうと分かっているのにそんなことをするからバカチンはバカチンなんだよ。
それで母親なんて名乗るんだから身の程知らずだよね。
ハハハハハ、ハハハハ、ハハハハハハハハハ・・・・・・。」
「もしかして・・・・・・。」
そう呟いたフェイト隊長が毒々しい液体を手に取ると覚悟を決めた様子で口をつける。
ごくりと皆が息を飲む。
緊迫した雰囲気の中、口からコップが離れると、呆然としたようにフェイト隊長が呟いた。
「これって・・・・・・水?」
「そうだよ。ロシュツキョー。やっぱりロシュツキョーはぽんぽん服を脱ぐだけあって外見なんかどうでもいいって発想してるだけあるよね。
中身の違いにすぐ気がついたね。
頭の切り替えも景気のいい脱ぎっぷり同様に快調だよね。
そうだよ。それはただの色水。
顔を見る限り、ゴキブリ以外は皆、これがにんじんジュースなんて安直な考えでいたんだね。
まったく・・・。これだけ単純な人間ばかり集まった部隊かと思うと騙し討ちとか奇襲で総崩れしちゃいそうで臆病なボクは思わずウンチもらしちゃうじゃないか。
しっかりしてよね。」
「それじゃ、そのショートケーキが・・・・・・。」
「うん。子供なんて調教されてないAIみたいなものだからね。
ちょこっと手間をかけるだけで簡単に先入観を奪えちゃうから食べるなって言っても嬉々として自分から意地汚く食べるようになるもんだよ。
その程度の手間を惜しんで余計に苦手意識埋めつけようとしてるんだから力押ししか知らないバカは救いようがないよね。
それにロシュツキョーもいかに合法的に素っ裸になれるか考える頭がついてるんだったらナキムシのことをちゃんと考えてよね。
身の程知らずにも母親なんて名乗るんだったらさ。」
なんだろう。
心情的に物凄く納得いかないのは・・・・・・。
言っていることは物凄く正論のはずなのに・・・・・・。
誰もがどこか腑におちない気分を抱えたのだろう。
そんなとき、苦悩するようななのはさんとフェイト隊長をよそに
沈黙に包まれた空間を破ったのはシグナム副隊長だった。
「ところでバトー博士。重大なこととはいったい・・・・・・。」
「ああ、そうだった。さすがニート。無駄に大きなオッパイがついているだけあって物覚えがいいよね。
そうそう、それで、重大なことだけど、喜んでよ、ゴキブリ。
ボクたちの食べなれたぬめぬめとかどろどろとかでろでろとかいもいもとか諸々の合成に成功したんだ。
クソまずい料理でも仕方なく食べてたけど、せっかく食べるならやっぱり美味しいものが食べたいもんね。」
「ぬめぬめとか?」
「どろどろとか?」
「でろでろとか?」
「いもいもとか?」
エリオ達が食事の手を止めて順に疑問の言葉を口にする。
なんで擬音語使う必要があるんだろう。
ぬめぬめとかどろどろとかでろでろとかいもいもとか・・・・・・。
語感からするとこんにゃくとか山芋とかすり身みたいなものかしら?
あれ?表現として結構普通・・・よね?
むしろものすごく普通じゃないかしら・・・。
誰もが似たような思考だったのだろう。
バトー博士用の補正をかけて考え直そうとした矢先に
あれ?っと考え直すような表情を皆でしている。
そんなあたし達を置いて話が進む。
「それでね。せっかく美味しいものを作れるようになったんだから皆にご馳走しようと思うんだけどどうかな。
美味しいものを1人隠れてちまちましこしこ食べるケチくさくて貧乏くさくてネクラな趣味はボクにはないからね。
やっぱり美味しいものは皆で分かち合いたいじゃない。だって、僕達、トモダチだろ?
それにトモダチが今までまったくいなかったボクとしてはお食事会なんていうステキなイベントを是非ともやりたいんだ。」
「いい考えだ。」
「わふ!!」
「うん。ゴキブリとクソイヌのことだからきっとそう言ってくれると思ってたよ。
それで、他の皆はどうなんだい?」
「毒なんか入ってねぇだろうな。ギガうまい料理じゃなきゃあたしの口は満足しねぇぞ。」
「やれやれ。ゲボ子、なにを言ってるんだい。なんでそんな面倒なことしなくちゃいけないのさ。美味しいものをまずくすることにこだわりでも持ってるの?
人間の三大欲求の1つだからクソ食らうぐらいだったら
少しでも上等のものを食べたいって思うのって物凄く自然なことだと思うんだけどな。」
「あ・・・・・・わりぃ・・・・・・。」
正論だ。この上なく正論だ。
言動のところどころにすごい言葉を使っているけどまさに正論。
だからだろう。
ゲボ子と呼ばれても暴れずに素直にヴィータ副隊長が謝ったのは・・・・・・。
「それにギガうまいなんてみみっちいこと言わずにテラうまいものを食べさせてあげるよ。
あまりのおいしさにナイチチがわれを忘れて貪り食ってペタムネがサイズアップしちゃうくらいにさ。
ああ、その後エクササイズしないと体重計に乗って悲鳴上げることになるだろうからカロリー控えめにしあげようか?
カロリー控えめにしてもおいしくする自信はあるけど、やっぱりおいしいものって絶対カロリーが高くなるものだからね。」
「太るって露骨に表現されてるのはこの際置いとこうか。・・・なぁ、バトー博士。料理できるんか?」
「心配要らないよ、ナイチチ。ボクの超絶カッコイイ戦車作りに比べたら、
ナノやフェムトやヨクトで寸法を合わせて切り刻む必要もなければ刺す必要もないし、
鉄さえ溶けないぬるすぎる火で気長に炙って炒めて蒸したりするだけの料理なんて
簡単すぎて簡単すぎて料理の片手間にマスカキしちゃいたくなっちゃうよ。
そもそも1人暮らしの男が料理ぐらい出来なくてどうするのさ。」
まぁ、たしかに八神部隊長の言葉もおかしかったわね。
目の前でショートケーキ作ってきたんだからそれなりの技量はあるってわかるはずなのに。
気持ちは分かるけど・・・・・・。
バトー博士のイメージと料理のイメージが幾ら考えても重ならないし・・・・・・。
それとお願いだから料理作るっていう話をしているときに・・・その・・・マスカキとか言わないで……。
「それで、皆、どうするんだい?腕によりをかけて腰が抜けるくらいすごいの作っちゃうつもりなんだけどさ。」
誰も反対の声を上げなかった。
どんなものが出されるか知っていたら・・・・・・それでも微妙か。
食い意地が張っている人はそれでも参加しただろうから。
沈黙を了承と取ったのだろう。
嬉々としてバトー博士が言葉をつむぐ。
「誰も反対しないみたいだからちゃきちゃきと製作にとりかかるよ。
もちろんお食事会を開いたら、
聞いてもいなければ参加表明もして無いのにちゃっかり席についちゃってるだろう
どこかのワカヅクリとかイキオクレとかオヤバカがくるだろうから
大皿から取り分ける方式にするよ。
ああ、そうだ。この際まともな食生活送ってなさそうなインジュウも誘ってあげよう。
なんたってボクとインジュウはトモダチだからね。
書庫に引きこもって自家発電ぐらいしかできてそうにないインジュウもたまには外にだしてあげないと。
それじゃ全力全壊で皿をなめるどころか皿まで食べるような勢いで食べたくなる料理の下ごしらえを始めてくるよ。ハハハハハハハハハハ……。」
そういい残して行ってしまった。
でも誰のことだろう?
若作りと行き遅れと親馬鹿と淫獣……。
いずれにせよ凄まじいあだ名だけど。
「ごちそうさまでした。」
あ、ヴィヴィオ。まだ食べてたんだ。
うん。そうよね。ヴィヴィオもいるんだし、好き嫌い作りそうなものを出すはずないわよね。
そんな考えが甘すぎると知るのは食事会が終わってからなのだけど。
むしろ常識的な食べ物を食べてきた人にとっては大ダメージすぎた・・・。
そんなこんなで時間が経過して、ついに食事会の時刻。
ずらりとテーブルについた見知った面々の他に、ゲストとして来た人の顔とアダナにひきつった。
リンディ・ハラオウン提督と騎士カリム、あとスバルのお父さんとユーノ・スクライア司書長・・・ワカヅクリとかイキオクレとかオヤバカとインジュウ・・・。
絶対にアダナを思い浮かべて向こうを向かないようにしようと思う。
それにしてもこの部屋冷房効きすぎじゃないかしら。
さっきから鳥肌が止まらない・・・。
「やあ。そろいも揃って食い意地の張った皆、来てくれてうれしいよ。
腕によりをかけて作ったから、体重計のことは忘れて遠慮なく食べてってよ。」
「はい!!」
「いただきます!!」
エリオとキャロだけが威勢のいい返事を返す。
お願いだから食べる前に体重計を思い出させないで・・・。
「さて、それじゃ持ってくるよ。ああ、そうだ。
誰とは言わないけどバカみたいな勢いで食べるウスノロとムッツリがいるから親切丁寧に料理の説明をしていたらお皿が空になってましたなんて事態になると思うんだ。
だから料理の説明はデザートまで終わってからにするよ。
それじゃ、最初の料理から持ってくるよ・・・と、その前に、ワカヅクリとイキオクレとオヤバカにはこれをどうぞ。
イチコロっていうおいしいお酒なんだ。料理に合うからこれでも飲んで待っててよ。そこらじゅうに花が咲いてるんだから料理なんかいらないかもしれないけどさ。」
「おう、気が利くな。・・・ところで俺のことか?オヤバカって・・・。」
お願いですからあたしに尋ねないでください。ゲンヤさん。
この凄まじく重たい空気読んでください。
特にゲスト席に座っているあなたの隣とその隣あたりが発生源ですから!!
「久しぶりだね。なのは。この間のホテル・アグスタ以来かな。」
「ええと・・・そのぐらいになるね。なんだがずっと会ってなかったような気がするよ。」
「まぁ、お互い忙しいしね。昔みたいにいかないのはしかたないさ。」
「うん・・・。そう・・・だね。」
いやいや。なのはさん。そんなところでラブコメしてないでくださいよ。
ヴィヴィオが不思議そうな顔してるし!!
ユーノ司書長も空気読んで!!
どうしてここの男の人って空気を読むスキル持ってないのよ!!
「ねぇ、ティア。どうしてさっきから百面相してるの?」
「スバル、うるさい!!」
訂正。空気が読めない女がいた。
続けてなにか言おうとしたとき、キャリアーをガラガラと転がすバトー博士が到着した。
「おまちどうさまー。じゃ、最初のお皿を置いていくよ。味わって食べてね。
ああ、名前はぬめぬめ酢の物とぴりぴりなまことたこさしとくらげさしだから。
醤油もわさびもしょうがもネギもニンニクも唐辛子も用意してあるから好きにつかってよ。」
それだけ言ってダッシュで厨房に戻っていった。
ええと・・・料理はなんていったかしら。
「いっただっきまーす。」
「おお!?やべぇ!?なんだこれ。ありえねぇ!!ギガうめぇ!!」
「一品目に刺身たぁいいところついてきたな。」
「お父さん、お酒はほどほどにしてよ。」
「なんたる伏兵や!?バトー博士・・・。それにしてもこのなまこ美味しいわー。」
「はい。ヴィヴィオ。たこさんだよー。あーん。」
「あーん。」
「いや、なんで普通に食べてるんですか!!」
ほのぼのとしながら当然のように食べている
スバルとギンガさんとヴィータ副隊長とはやて部隊長となのはさんとヴィヴィオとシグナム副隊長とシャマルさんに思わず突っ込んでいた。
逆に戸惑っているのはあたしとエリオとキャロとフェイト隊長、リンディ提督に騎士カリム・・・あれ?共通点がありそうな気がする・・・。
「ええと・・・ティアナ。なにかおかしいかな?とっても普通の料理だと私達思ったんだけど・・・。」
「いや、ありえないですって!?たことかくらげとかなまこって食べられたんですか!?」
「ははーん。そういうことか。」
あたしの言葉に訳知り顔でゲンヤさんが笑った。
「ティアナ。こいつらはな。第97管理外世界だと実にポピュラーな飯なんだ。
まぁ、ミッドじゃゲテモノ食いみたいな扱いされてるし、好き嫌いもあるだろうから食わなく・・・・・・。」
最後まで言えずにゲンヤさんの言葉が止まった。
理由は、純白のバリアジャケットをなぜか着ている人のせいだ。
いつのまに着替えたんです?
「ゲンヤさん。好き嫌いがなんですって?」
和やかな雰囲気が一変した。
なんで食事中にこんな戦場の真っ只中にいるみたいな状態にいなきゃいけないのよ!!
「な、なのは。落ち着いて・・・。」
ぐりんっと音がしそうな勢いでフェイト隊長のほうを向くなのはさん。
「ねぇ、フェイトママ。好き嫌いはないよね。」
「はい。フェイトママ。あーん。」
ワラッたなのは隊長の横でヴィヴィオが無邪気になまこを差し出している。
引きつった笑みに変わるフェイト隊長。
「ねぇ、皆・・・。好き嫌いはないって言っておきながら、いざってときに好き嫌いするんじゃ意味・・・ないよね。
ねぇ、わたしなにか間違ったこと言ってるかな?少し頭・・・。」
「はい、次のお皿お待ちどうさまー。あれ?なんで食べてないのさ。
普段ろくなもの食べてないんじゃないかってくらいブタみたいに貪り食ってる食欲はどこにいったんだい。
まぁ、そんなのどうだっていいよね。バカチンもハイライト消えた目なんかしてるよりも食事楽しんでよ。ごはんは美味しく食べなきゃね。」
このときほど、バトー博士に感謝したことはなかったかもしれない。
ひとまず空気が霧散したんだから。
とはいえ、ヴィヴィオがさっきのお皿から食べていなかった人をじっと見つめている。
あ、まずいかも・・・。
「ねぇ、ティアナ。ティアナは好き嫌いなんて・・・ないよね?」
「ありません!!」
なんであたしが最初!?って思わないでもなかったが、
なのはさんの言葉に反射的に返事をしていた。
トラウマにでもなっているのかしら、あたし・・・。
覚悟を決めてくらげさしというものをおっかなびっくり口に入れる。
モキュモキュモキュ・・・あれ?
まずくない・・・というかむしろゴリゴリとした食感が美味しいかも。
「ほらね。ヴィヴィオ。皆好き嫌いなんてしないんだよ。分かったかな。」
「はーい。」
とりあえず第一関門突破かしら。
次のお皿はなんなのかしら。
でも、本当においしいわね。
特にこの酢の物・・・。
「うん。和やかに皆で食事をする。トモダチがいなきゃ絶対にできないステキな光景だよね。それじゃ、次のお皿はこれだよ。
ぴちしゃぶサラダ、サボテンサシ、会心マッチョポテト、肝ニラいため、あと手羽とかリザードとかカルビとかいもいもとかの揚げ物の盛り合わせ。
ああ、デザートまであと3皿って宣言しておくよ。だから後先考えないで遠慮なく食べてよね。」
再びダッシュで厨房に戻っていく。
しかし、どうして難易度高い料理を並べるんですか・・・。
というかむしろ・・・なんで普通に食べてるんですか、なのはさん達・・・。
もしかして97管理外世界ってものすごいゲテモノ料理ばかりとか?
「すげぇ。すごすぎるぜ。こいつはギガうまなんてちゃちなもんじゃねぇ!?」
「ほう。これはおいしいな。」
「でもどうしてピチシャブなのかしら?海鮮サラダでもいいと思うんだけど。」
「これが手羽で、これがリザード、これがカルビで、これがいもいも?
どこかでこの揚げ物たべたことあるんだけど・・・。」
「あ、エリオ君も?私もいもいもはどこかで食べた記憶があるんだけど思い出せなくて・・・。」
「あかん。いもいもだけほんまにわからん。いったいこれはなんなんや!?」
「「・・・・・・。」」
スバルとギンガさん、沈黙してひたすら食べてるし。
美味しいもの食べると口数が減るって言うけど、ここまで劇的なものなのかしら?
ゲンヤさん達はリンディ提督と騎士カリムを巻き込んで乾杯してるし。
・・・難しく考えるのはやめよう。
いただきます。
モキュモキュモキュ・・・。
美味しい!?なにこれ!?
ウエストのこと忘れて食べようかしら。
それにしてもなんなのかしら?いもいもって・・・。
一番美味しいけど。
マッチョポテトはマッシュポテトと同じみたいだし。
案外名前だけ違ってて食材は慣れ親しんだものばかりなのかも。
エリオとキャロもいもいもを食べたことがあるっていってるし。
ポテトとひき肉を混ぜ合わせたものかしら?
そんなことを思っていると、いつのまにか次の大皿を持ってきたバトー博士が待機している。
「やぁ。いいペースで食べ始めたね。次のお皿だよ。
名前は足スティック、ハッスルチヂミ、マルデケバブ、マジカルスープ、キチンピラフ。
さて次がメインディッシュなんだけど、ちょっと困ったことになったんだ。
本当に申し訳ないんだけどゴキブリとニートにお手伝い頼みたいんだよね。
2人の力がないとメインディッシュは作るに作れないんだよ。
せっかく料理を楽しんでくれていたのにごめんよ。根性なしのロクデナシおじいちゃんでさ。」
「かまわん。そのぐらい手伝おう。」
「さすがニートだね。無駄に大きなオッパイと切り刻むしか能がないだけあるよ。
それじゃレバ剣もって厨房まで来てよ。」
「・・・?わかった。」
バトー博士についてシグナム副隊長とはんたが席を立つ。
でも、なんでデバイスが必要なのかしら?
それに、足スティックってこれなんの足?
カニ・・・かしら?
節足動物の足っぽいけど・・・。
こんなに大きな虫って・・・いつぞやの女の子が召還した蟲ぐらいじゃないかしら?
でも、召還獣を料理するなんて考えられないし。
まぁ、他は普通でほっとしたけど。
チキンピラフのいい間違えかと思ったらキチン質を使ったピラフだからキチンピラフなのね。
なるほど、こんな料理があったのね。
それにしてもずいぶん静かになったわね。
本当に美味しいものを食べると言葉がなくなるってこういうことなのね。
そんな感動を持っていたときだった。
金属棒で硬いものをたたいたような音が厨房から響いてきた。
同時にバトー博士の言葉も・・・。
「ニートーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!
まったくなにをやっているんだい。
無駄に大きなオッパイと切り刻むくらいしか能がないのに、こんなものさえ切れないナマクラデバイスまでぶらさげるようになってたなんて!!
これじゃ、ニートの価値は無駄に大きなオッパイだけになっちゃうじゃないか!!
これからは烈火の将なんて大声で名乗りを上げたら赤面物の称号を名乗らないで、職業自宅警備員と胸を張って名乗らなきゃいけなくなっちゃうよ。」
いや、いったい何を切らせようとしたんです?
アームドデバイスのレヴァンテインで刃が立たないって・・・。
「ククククク、フハハハハハハハハ・・・・・・。」
やばい。なんか逝っちゃったような笑い声・・・ってこれシグナム副隊長!?
こんな風に笑ったところ初めて聞くんですけど!?
「舐めるな!!!いくぞ、レヴァンテイン!!」
「Jawohl.」
って排莢音してる!?
ほぼ同時に凄まじい爆音が厨房から響いてくる。
いったいこんな音を出して・・・というかデバイス使ってなにを料理するんですか!?
八神部隊長もどこか引きつったような表情。
でも、怖いもの見たさで厨房に飛び込む度胸はさすがにない。
ふと、この中で一番常識人っぽいユーノ司書長と視線が合った。
同時に力ない笑みを浮かべたのが印象的だけど・・・。
・・・あ、厨房が静かになった。
静かになってから数分とたたずにバトー博士がやってきたあたり、
盛り付けるだけでできる料理なのかしら?
でも、ちょっと・・・・・・。
キャリアーの数・・・多すぎない?
いったい何機もってくるのよ。
シグナム副隊長も仕事をやり遂げたって満足げな顔をしているし。
いったいこれって・・・。
「さて、それじゃ、本日のメインディッシュ。テロ貝さしとテロ貝の薄作りと絶妙テロ貝の昆布締めだよ。堪能してよ。」
「あ、あの、バトー博士。いったいどうしてシグナムが・・・。」
「ロシュツキョーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
それはどうしてニートが厨房にいったのか?って聞きたいって事かな?」
「う、うん。」
「なんだ。それならそうと言ってよね。それはね、さすがのボクでも戦車1台分ある貝を1人でばらすのは大変だったからなんだ。
だからゴキブリとニートに手伝いを頼んだわけさ。
豆腐を切るみたいにスパスパ切り刻むゴキブリとは対照的に、ニートのナマクラじゃ刃がたたなくてニートからヤクタタズにレベルアップするのかと思っちゃったよ。
でも、さすがニートだよね。きっちり切り刻んで見せたんだから。
やっぱりニートは無駄に大きなオッパイを持った切り刻むしか能がないニートだよね。」
いやいや。デバイスでも刃がたたないってどんな貝よ。
でも、ずいぶんたくさん用意したのね。
車1台分もの重さの貝を用意するなんて切るだけでも大変だろうに。
難しいことは後にしよう。
今は目の前のこれを食べよう・・・・・・。
テロ貝ってどんな貝なのかしら・・・ぱくっと・・・・・・。
はっ!?
あたしはいったい!?
みんなも同じ様子で呆然としていた。
目の前にあった料理は食べられた痕跡が残っている。
一口目を食べるところまでは意識があるのに!?
あまりのおいしさに意識がとんだ!?
「じゃ、デザートだよ。皆本当に満喫してくれたみたいで意識を飛ばしても餓鬼みたいに貪食してくれるなんてうれしいよ。
ああ、一心不乱に貪っていてこれが流出したらお嫁にいけなくなること間違いなしな映像データは残してあるからあとでダビングしてあげるね。
それとも動画サイトにでもあげて親しみをもってもらおうか?ま、それはさておき、ラストだよ。
超流動ナタデドコ。これで全部の料理は完了だね。満足したかい?」
「すごかったぜ。こいつはギガうまなんて言っちゃだめだな。まじでテラうまだったぜ。」
「ごちそうさまでした。バトー博士。」
「最初は面食らったけど、ほんまにうまかったわ。機会があったらまた頼んでもええかな?」
「あれ?どうして?あたしの料理がいつの間にからになったの!?」
「あ、あら?私も・・・。お父さん、知らない?」
「スバル・・・ギンガ・・・お前ら、あんだけ一心不乱に食っといてなにいってやがる。」
「おいしかったですよ。食材があまっていらっしゃったら教会へいくらか包んでいただけるとうれしいのですが。」
「わたしもお願いできるかしら。クロノがうらやましがるわね。」
全員が全員満ち足りた表情。
ヴィヴィオも好き嫌いがなくなるだろうし、おいしいものもおなかいっぱい食べられたし。
うん。これでハッピーエンド・・・
「ところでバトー博士。どんな食材つかったんですか?どうしても分からないのがあるんですけど・・・。」
・・・・・・じゃないのかしら?
エリオの無邪気な質問に場が凍りついた気がする。
そういえば、気にしないで食べていたけど、いくつか想像できない食べ物あったし、
もしかしてものすごいもの食べていたりするとか?
「ムッツリーーーーーーーーー!!加工品だけじゃ満足できないから加工前の姿を見せろって言うんだね。
さすがムッツリ。モザイク入りのエロ本で物足りないから無修正をよこせって言わんばかりだよ。もちろん教えてあげるよ。
ちょうどあそこの壁がいい感じにディスプレイになりそうだからね。映像データはしっかりBSコンに収めてあるさ。
それじゃ、出力につないで・・・ぽちっとな。最初はぬめぬめ酢の物からだったよね。
ぬめぬめ細胞なんてポピュラーすぎて説明の必要ないと思うけど・・・。」
「・・・・・・ぬめぬめ細胞?」
疑問の言葉を発したのは誰だっただろう。
もっとも、それ以上にものすごくいやな予感を覚えた。
他の人も同様なのだろう。
どうして人間は好奇心なんてものを持って生まれてしまったのか。
知りたいという思いと知りたくないという思いがせめぎあっている。
もっともそんなのお構い無しでバトー博士の説明は続けられたが・・・。
「そういえばこっちじゃ売ってないよね。ぬめぬめ細胞って。高級食材なのかな?
殺人アメーバの細胞なんだけど・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アメーバ?」
「うん。アメーバだよ。ナイチチ。」
「アメーバっていうと・・・。」
「これだね。」
そう言って手元のコントローラをバトー博士が操作した途端に現れた映像に
一斉に悲鳴が上がった。
「ぬめぬめ細胞ごときで悲鳴を上げるくらい喜んでくれるなんて思わなかったよ。
それじゃ、説明してなかった料理の説明を始めようか。」
「ごとき!?」
「バ、バトー博士。ちょっと待・・・。」
「面倒だから食材になった生き物の写真をずらっと並べちゃおうか。これだよ。」
その後の顛末は語るまでもないだろう。
アメーバとかアリとかクワガタとかハチとか食べていたなんて思いもよらなかったし。
車サイズの貝とかありえないし!!
そして最大の分かれ目が・・・
「いもいもって・・・なんだったんです?」
「肉みたいな味の芋があったんだろ?なぁ?そうなんだろ!?」
多少ショックをうけたぐらいで済んでいるエリオとは対照的に
マジ泣きしているヴィータ副隊長。
その言葉はすでに祈りや懇願になり始めている。
スバルとギンガさんが妙に静かだと思ったら失神してるし・・・。
ちょっと、いつもの鋼の心臓はどこにいったのよ?
そんな周囲の思いを嬉々として裏切る準備をしていたかのように現実は残酷だった。
もっとも、答えはバトー博士からではなくキャロから来たんだけど。
「あ、そうだ!!いもむしだ。」
「ああ!?そうだよ。それだよ。キャロ。
子供のころに食べたっきりだったけど独特の食感だから覚えやすかったのに・・・。」
「いも・・・むし・・・。」
「これは驚きだね。コシヌケとムッツリの言うとおり、いもいも細胞はいもバルカンのお肉だよ。こんなやつだね。」
口から銃身を生やした巨大な芋虫の写真が大写しになる。
どさりと複数個所から音が聞こえた。
「きゃああああああ。お母さん。目を覚ましてー!!」
「ヴィータ!!おい、ヴィータ!!しっかりしろ!」
「おい、騎士の嬢ちゃん。目を覚ませって。」
カオスだ。
ああ、これが好奇心は猫を殺すっていうことなのね。
そんなあたし達の思いを知ってか知らずかバトー博士の言葉に意識があったものは
その表情を引きつらせる。
「食べなれない素材もあっただろうからちゃんと料理したんだよね。
でも、本当の通の人はほら、ゴキブリとポチがしているみたいに・・・。」
ぶちぶちぶちっと音を立てて食いちぎっている1人と1匹。
見間違えてないのなら、あれって料理してないんじゃ・・・。
「やっぱり通は生で食べるよね。そういうわけでナキムシーーーーーーーーー!!
皆好き嫌いはしていないってわかったかな?」
「はい!!よくわかりました!!」
「さすがナキムシ。物覚えがいいね。また食べたくなったら言ってよ。好きなだけご馳走してあげるからさ。」
かくして食事会は多少の混乱はあったものの無事終了。
しばらく次はこないだろうけど、またいつかこんな機会がもてたら・・・。
そんな風に思っていた。
これが最後の食事会になるなんてこのとき誰も予想していなかったけど。
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まったく、今日はさんざんやったわ。
ヴィータは白目向いたまんまやったし、リンディさんも騎士カリムも気絶したまんまやし。
元気なのはヴィヴィオとエリオとキャロくらいなもんで、
フェイトちゃんもなのはちゃんも涙目やったもんなぁ。
明日の業務に差し支えんとええけど・・・・・・。
でも、美味しかったなぁ・・・はっ!?
だめや、だめや。私にはトラウマを嬉々としてえぐるようなサドっけはないんや。
その日の夜、ベッドに入って一日を振り返ってはのたうちまわる。
そんな奇行をどれぐらいの間行っていただろう。
ふっと、疑問を持った。
料理を作るのはいいとして、材料はどうしたんやろう?
合成したって言っとったけれど、トー博士たちの故郷の食べ物っちゅうことは元になる故郷の素材が必要やな。
でも、クローン培養なんてアングラなやりかたするにも元がないと作れない。
そもそも故郷に帰れないから管理局で働くことになったはずやし・・・。
帰られるならとっとと帰りそうなもんやし。
なにもないところから創造したとか?
あほらしい。とっとと眠っとこうか。
追伸:
後日、聖王教会の騎士カリム宛にクール宅急便で巨大なコンテナが届いたらしい。
開封したシャッハが悲鳴を上げてコンテナごと中身を爆砕し、
爆砕した破片がべちゃりと顔に直撃した騎士カリムが泡を吹いて倒れて、
たまたま来ていたクロノ君とヴェロッサが巻き添えになって黒焦げになり、
教会ではテロか!?と大騒ぎになったそうな・・・。
そしてもう1つ。
「フェイトママー。お料理教えてー。」
「うん。いいよ。ヴィヴィオ。火を使うのはまだ難しいけど、包丁の使い方から覚えていこうか。最初はリンゴの皮むきから覚えていこうか?」
「ううん。えっとね。キャロおねえちゃんからたくさんもらってきたのがあるの。
だからね。これのお料理教えて。」
そう言って傍らにぶら下げていた可愛らしい袋を差し出す。
中でなにかがうぞうぞと動いているそれを・・・。
悲鳴を上げなかった私に満点をあげてもいいよね?
きっと引きつっているだろう笑みを必死に浮かべながら言葉をつむぐ。
「えっと・・・・・・・・・・・・ねぇ、ヴィヴィオ。中に・・・じゃなくて、ええっと、その、
また今度教えてあげるから、今日はリンゴにしようか。」
「ええー。」
「リンゴにしようよ。」
「うー。」
「うさぎさんのリンゴ教えてあげるから。」
「どうしてー。」
「リンゴにするよ。」
中身の予想がついたフェイトは必死にそれを空けさせまいとするが、
ヴィヴィオの顔は不満ですと主張している。
でも、これだけは譲れない。
袋の大きさからすると1匹や2匹じゃ済みそうにない。
見た瞬間に卒倒する自身がある。
お願い。だれか助けて・・・。
「ただいまー。フェイトちゃん。ヴィヴィオー。帰ってるの?」
「あ、なのはママー。お帰りなさーい。」
私から興味を失ったかのようにヴィヴィオが小走りになのはのほうへ駆けて行く。
なのは、最高、愛してる!!
けれど、私は油断した。
中身がなんであれヴィヴィオの袋を預かっておくべきだったのだ。
キャロがヴィヴィオの力でもあけられるように袋をゆるく縛っていたとか、
ヴィヴィオがもってくるまでの過程で袋の口が緩んでいたとか、
注意力散漫になったヴィヴィオが室内のなにもないところでも転ぶとか、
転んだ拍子に手に持っていたものが放り出されてしまうとか、
その袋の進行方向になのはがいたとかいくつもの偶然が重なった結果。
中身のいもいもを全身に浴びちゃったなのはがとった行動は・・・。
機動六課の隊舎全体に高町なのは一等空位の悲鳴が響き渡った。
結果として管理局のエースオブエースにあのような悲鳴をあげさせる猛者とはいったいなにもの!?としばらく噂になり、なのはは好き嫌いを口うるさく言わなくなった。
もっとも、ヴィヴィオは好き嫌いどころかゲテモノ食いとカテゴリーされる側にいってしまったけれど。
最終更新:2009年06月03日 02:38