此処は首都クラナガンに存在する広大な地下水路、其処に一つの小さな影が存在する……
その容姿は金髪に翡翠色と紅玉色のオッドアイの瞳、小さく幼い左手にはレリックケースが二つ鎖に繋がれていた……
そして少女は、か細い声で母を探しながら水路を歩き続けているのであった……
リリカルプロファイル
第十九話 交戦
…此処はスバル・ティアナの出身地であるミッドチルダ西部エルセア地方に存在するポートフォール・メモリアルガーデン、スバルの母、ティアナの両親と兄が眠る墓地である。
休暇を貰った二人はヴァイス陸曹からバイクを借り、この期を利用して墓参りに来たのである。
二人はそれぞれ参る墓へと赴き花を生け手を合わせると、今まで起きた出来事を近況として報告していた。
そして墓参りを終えた二人は一つの慰霊碑へと赴く、その慰霊碑はミッドチルダ失踪事件の被害者を弔う物である。
慰霊碑には被害者の名が刻まれており、二人はカシェルの名を見つけると手を空わせ静かに目を閉じる。
暫く静寂が続くと、スバルはゆっくりと目を開き慰霊碑を見つめた。
「此処で見ていてねカシェル、私達絶対に強くなって夢を叶えるから!」
スバルの決意が滲む言葉に呼応するように頷くティアナ、すると優しい風が二人の髪を揺らす。
その風はまるでカシェルが優しく答えてくれたように感じ、二人は微笑みを浮かべ慰霊碑を離れ墓地を後にするのであった。
場所は変わり此処はゆりかご内、現在ベリオンはオットーとディード、そしてルーテシアの相手をしていた。
だが相手と言ってもその巨体に乗り、ゆりかご内を探索しているだけなのであるが。
「やれやれ…遊び道具として作った訳では無いのですがね……」
レザードはその光景に頭を押さえ首を振る、作成後のベリオンはナンバーズの遊び道具と化していた。
大抵は模擬戦の相手なのであるが、オットーとディードはベリオンの肩の上がお気に入りらしく、良く乗っかっており、
更に先日では、セインとウェンディによる自作のメイド服を着せられていた。
二人の言い分ではベリオンの「御主人様」と言う一言のみで作り上げたのだという。
メイド服を着たベリオンの姿はまるで、足の無い某宇宙用MSを彷彿としており、
その姿を思い出し思わず苦笑しているとレザードの下にスカリエッティの緊急の通信が入る。
「どうしたのです?ドクター」
「レザード、困った事態が起きた………“鍵”が逃走した」
「………それはどういう事です?」
レザードの問いかけに説明を始めるスカリエッティ、事の発端は首都クラナガン近郊に存在する地下施設、スカリエッティは此処で“鍵”を作成していた。
“鍵”は順調に成長しレリックを融合できるまでに至った為、運送車で此処ゆりかごへ運送していた。
ところが、その道中に“鍵”が覚醒、生体ポットを破壊し暴走を始めた為
“鍵”の暴走を止めるべく同行していたガジェットI型が起動したのだが、瞬く間に破壊、そのまま“鍵”は逃走したのだという。
“鍵”にはレリックケースが二つ繋がれており、レリックの存在によって管理局が動く可能性がある。
管理局より早く“鍵”を回収しなければならない、其処で“鍵”に繋がれているレリックを利用してガジェットと不死者を囮として用い、
その間にナンバーズが“鍵”を回収して欲しいとの事であった。
“鍵”はSランクの砲撃にも耐えられるような造りをしているらしく、いざとなったら“鍵”ごと攻撃してもかまわないとスカリエッティは語る。
するとレザードは手を顎に当て考え始める、スカリエッティの依頼は“鍵”の回収、それに適した人物はセインぐらいであろう。
だが……もし管理局が先に“鍵”を回収したとしたら、それにデコイは優秀なモノの方が良い…そう考えるとクアットロとディエチが適切だと判断する。
何故ならばクアットロが持つISシルバーカーテンは視覚からレーダーまで情報を妨害させる特性を持ち、幻影すら見せる事が出来る。
そしてディエチの砲撃能力は高く正確でもある、つまり管理局の目を欺き、砲撃による強襲をかけるには十分な組み合わせなのである。
すると今までの話を聞いていたルーテシアがベリオンの肩から飛び降り、自分も向かうと話しかけてきた。
ルーテシアの話では自分が召喚するガリューは今回の回収作業に適しているという。
しかしルーテシアの護衛役であるゼストは他の世界へレリック回収の為に行動中である。
すると護衛は私に任せろ!っと無い胸を張るアギトだが、それを不安な目で見つめるレザード。
「仕方ありません…ベリオン、ルーテシアの力になりなさい」
「了解シマシタ、御主人様」
レザードの命令にベリオンは肩に乗せていたオットーとディードを降ろすと、ルーテシアと共に“鍵”の回収に向かうのであった。
…そしてその背中をジッと見つめるオットー、更にその光景を見つめていたディードは、徐にオットーの頭を撫でると二人はその場を後にする。
その背中はとても寂しい印象を醸し出していた……
場所は変わり此処は交通事故が起きた現場、其処に紫の長髪の女性が存在していた。
彼女の名はギンガ・ナカジマ、陸上警備隊第108部隊に勤めている捜査官でスバルの姉である。
現場には大破した運送車が一台転がっており、ただの自動車事故と思われていたのだが、
よく調査してみると車両には内部から破壊されている形跡があり、更に運送車の外部・内部共にガジェットの残骸が散らばっていた。
そんな現場の状況に不審を感じたギンガは運送車の荷台を調べると一つの装置を目にする。
「生体……ポット?」
荷台に乗せられていた生体ポットもまた破壊されており、辺りには強化ガラスの破片が散らばっている。
ギンガは一度荷台から降り考え始める、現場の状況から見て恐らく破壊されたガジェットは生体ポットにいた存在によるものだろう。
そしてガジェットの残骸が散らばっているとなると、レリック…もしくはそれに準するロストロギアが関わっている可能性がある。
となると…あの部隊に連絡を取らなければなるまい…するとギンガは自分の考えを上司であるラッド・カルタスに伝えるのであった。
…一方現場から数キロ離れたビルの上、クアットロ率いる捜索チームが遠くで現場を視察しており、
クアットロは現場から少し離れた位置に水路への入り口が開いているのを発見、
恐らく“鍵”はあの入り口からクラナガンの地下水路に向かったと推測し、メンバーに指示を送る。
ベリオンはルーテシアの護衛、ルーテシアはガリューを召喚後セインと共に地下水路を探索、
そしてディエチは自分と共に行動、自分はシルバーカーテンを起動させて待機、何故ならば三十分後に来る予定である囮のガジェットと不死者の幻影を作り出す為であるからだ。
クアットロの指示の元、それぞれは割り当てられた任務をこなす為、散らばって行くのであった。
その頃エリオとキャロはシャーリーが立てたスケジュールを黙々とこなしていた。
二人は次の予定である洋服店でのショッピングの為に、町を歩いていると、ふと路地裏に目を向けるエリオ。
エリオが目を向けた先には一人の少女が倒れている姿があり、二人は少女の下へ急ぐ。
少女は衰弱している様で、左手には鎖に繋がれたレリックケースがあり、
更に先には繋がっていた形跡のある鎖が伸びており、恐らく鎖の先にはレリックケースが同じく繋がれていたと判断、
そして少女が倒れている先には地下水路への入り口が開いており、恐らく此処から来たのだろうとキャロは語る。
その話を聞いたエリオは頷きストラーダでロングアーチと連絡を取るのであった。
暫くすると現場にシャマルが姿を現し、二人は少女を任せるとロングアーチから連絡を受けたスバルとティアナがバイクを二人乗りでやって来た。
「休暇中悪いんやけど、任務や!」
はやての申し出に力強く返事するフォワード四名はデバイスを起動、レリックを回収する為次々に地下水路へと赴くのであった。
フォワード陣が地下水路に向かう前、キャロからの連絡を受けたロングアーチはその後すぐにガジェットと不死者が地下水路へと向かっているのを確認、
恐らく目的は少女の手に繋がっていたと思われるレリックの回収だと考え、
なのはとフェイトをガジェット及び不死者の迎撃に向かわせ、スバル達を地下水路に向かわせると、
他の位置から複数の反応が現れ、その幾つかは別の入り口から地下水路への進入を許してしまう。
そこではやてはヴィータを地下水路にいるフォワード陣の下へ向かわせるように指示したその時、一つの連絡がロングアーチに届く、連絡先は第108部隊のラッドからである。
連絡の内容は部下の一人であるギンガが地下水路へと赴いており、目的は機動六課と同じであるという。
そこで機動六課と共同戦線を張り、迅速にガジェット及び不死者を撃破、そしてレリックの回収を提案した。
はやてはその提案を承諾すると、なのは達にもその旨を伝えるように指示した。
一方なのはは襲撃を受けているポイントに向かうと、瞬く間にガジェットを撃破、
次のポイントへ急ぎ標的に攻撃を仕掛けると、ガジェットと不死者は陽炎のように消えていった。
「まさか…フェイク?!」
肉眼で騙す幻影、それはティアナがよく使う幻術に近いが、レーダーすら騙すとなるとそれ以上に厄介な代物である。
取り敢えずなのはは今起きた事をロングアーチに報告すると、ロングアーチの答えはとにかく片っ端から片づけろというものであった。
ロングアーチの答えに頬を掻くも仕方がないと感じるなのは、
何故なら幻術系は分析にかなりの時間を要する為、分析して把握するより幻影ごと潰した方が早いからだ。
なのはとフェイトはロングアーチの指示に了解すると続けて一つずつ潰しに掛かるのであった。
一方地下水路ではセインと分かれたルーテシアがガリューと共に“鍵”を探していた。
その時、待機していたクアットロから連絡が入る、内容は“鍵”が管理局側の手に落ちた事、ガジェット及び不死者が幻影ごと片っ端から片づけられている事、
そして“鍵”に付けられていたレリックケースが一つしか無いことを伝える。
そこでセインとルーテシアは“鍵”の回収からレリックケースの回収の変更を指示、ルーテシアは一つ頷くとレリックの捜索に移る事に、
そして暫く地下水路を道なりに進むと広い場所に出る、奥には既に局員が存在しており、手にはレリックケースが握られていた。
「ベリオン、ガリュー、奪い取って」
ルーテシアの命令にガリューとベリオンは局員に襲いかかるのであった。
一方スバル達はギンガと合流し先を進むとガジェットI型がレリックケースに手を伸ばしていた。
それを見かけたスバル達はガジェットと応戦、見事撃破しレリックケースはキャロに渡すと、
キャロは怪しい音を聞き顔を向ける、其処には巨大な機械が姿を現していた。
「なっなにあれ!?」
「私ノ名ハベリオン、レザード様に造ラレシ、ゴーレム」
ベリオンと名乗るゴーレムは礼儀正しく答えている瞬間、不意を付いて使役虫らしきものがキャロが持つレリックケースを奪おうとに手を伸ばすがエリオに阻止される。
その光景にティアナとギンガは分散するように指示すると、柱を壁代わりに全員が分散した。
その時スバル、ティアナ、キャロは同じ柱を壁にしており、相手の目的はキャロが持っているレリックケースの強奪だとティアナは考える。
するとスバルが代わりにレリックケースを持とうと進言するが、他にいい方法があると言うとキャロの帽子を取るティアナなのであった。
一方ベリオンとガリューの両名はスバル達を探しており、周囲を探索していると、
ギアセカンドを起動させたスバルがベリオンの下へ、そしてデューゼンフォルムを起動させたエリオがガリューの下へと飛び出す。
「リボルバァァキャノン!!」
「メッサァァアングリフ!!」
エリオの不意の一撃を辛うじて左に避けるガリューに対し、ベリオンは正面からスバルの攻撃を受け止めていた。
不意からの一撃を正面から受け止められたスバルは流石に驚いた表情を見せると、ベリオンはスバルの様子に好機と捉え右拳を振り下ろす。
だがスバルはすぐに気を取り直し後方に跳び、ベリオンの一撃を辛うじて回避した。
一方ガリューはエリオの一撃に合わせ右膝によるカウンターを狙っていた。
だがエリオはストラーダに備え付けられているサイドブースターとヘッドブースターを点火させ左に急速回避を行い難を逃れるのであった。
一方でキャロはレリックケースを大事に抱え、キャロの前ではギンガが前傾姿勢で、ティアナがクロスミラージュを向け構えていた。
その様子を遠くで見つめるルーテシア、すると後ろから殺気のようなモノを感じる。
「…動かないで」
「……幻術…渋い魔法ね…」
「……それはどうも」
するとキャロを守るティアナが陽炎のように消えていく、フェイクシルエットと呼ばれる幻術魔法である。
ルーテシアの賛美に答えつつ後頭部にダガーモードに変えたクロスミラージュを突きつけるティアナ、
ティアナは攻撃を中止するように命令するとルーテシアは温和しく応じる。
「アナタ……名前は?」
「……アギト」
ルーテシアはそう名乗ると上空から巨大な火球がティアナ目掛けて落ちてくる。
ティアナはとっさに後方へ飛ぶとルーテシアもまた火球を回避した。
そしてルーテシアの目の前に30cm程の小さな少女が炎を操りながら現れる。
「オラオラァ!かかってこいやぁ!この烈火の剣精アギト様が相手だぁ!!」
そう名乗ると手招きをして挑発するアギトであった。
一方ロングアーチでは海上から新たなガジェット及び不死者の群れを確認した。
しかも一つの群れに30~40と数が多く此方に向かっている事から増援であることには間違いない。
そしてその異常な数から町中のガジェット達と同様にフェイクが混じっている可能性がある。
其処ではやてが直々に海上の増援を相手にしようと立ち上がると、モニターにクロノの姿が映し出された。
「クロノ君?何で此処に?!」
「説明は後回しだ、時間が惜しい、海上の方は俺に任せてくれ」
「なんか良い手でもあるんかいな」
「まぁな…」
クロノの意味深な返事にはやては困惑するが、迷っている時間はない為、海上をクロノに任せる事となった。
はやての素早い判断にクロノは頷きモニターを切ると今度はもう一つのモニターに目を向ける、其処には最高評議会のエンブレムが映し出されていた。
「これでよろしいのですか?エインフェリアは切り札のハズ」
「…構わん、それにエインフェリアの実力を世間に見せるには良い機会だ」
世論を味方に付ける、その為にはエインフェリアの実力を見せる事が一番であり、それに加え地上本部に牽制を促すことができる。
更に地上を護る事にも繋がる為、一石二鳥どころか三鳥だと話す。
最高評議会の考えにクロノは無言になるが、此処で揉める事が出来る程時間があるわけではない、
クロノは最高評議会の考えに不満を覚えつつもエインフェリアに指示を送った。
エインフェリアには五タイプ存在し、フロントアタッカータイプの接近戦型、ガードウィングタイプの高速戦型、
フルバックタイプの防衛戦型、センターガードタイプの遠距離戦型、そしてどれにも属さない広範囲攻撃型である。
今回出撃するのは広範囲攻撃型のゼノンとカノンの二体である。
二体はクロノの指示の下、早急に現場へと向かって行くのであった。
一方地下水路ではアギトがレリック奪還に参戦、自分の周囲に火球を作り出すと一気に放ちスバル達を牽制する、ブレネンクリューガーと呼ばれる魔法である。
辺りは炎に包まれる中、スバル達フォワード陣は柱を盾にアギトの攻撃を防いでいた。
「どうしよ?!ティア」
「落ち着きなさい!スバル」
慌てるスバルをティアナは嗜め、状況を把握させる。
現在レリックはキャロが手にしている、その為自分達はキャロを中心にして防戦、
そして先程手にした情報では現在、自分達がいる現場にヴィータ副隊長が向かっており、自分達はヴィータ副隊長が来るまでレリックを死守すればいいのである。
するとヴィータ副隊長から念話が届く、今現在ヴィータはリインと共に現場の近くまで来ており、もうすぐで到着すると伝えられた。
「っ!ルールー、上から魔力反応!……こりゃでけぇぞ!!」
「そう……じゃあベリオン、足止めをお願い」
「了解シマシタ、ルーテシア様」
ルーテシアは淡々とベリオンに命令するとベリオンはヴィータを押さえる為に飛び立つのであった。
その頃、ヴィータは最短距離でスバル達の下へ向かっていたのだが、目の前には壁が隔れていた。
そこでヴィータはギガントハンマーで壁をぶち抜こうと考えた時、リインが声を上げる。
「ヴィータちゃん!前方に熱源反応!!」
「何だと!?」
次の瞬間、目の前の壁は砕け巨体が姿を現す、それは先程までスバル達が戦っていたベリオンである。
ベリオンの出現に戸惑うリインであったが、寧ろ壁を壊す手間が省けたとヴィータは応え、
グラーフアイゼンをラテーケンフォルムに変えベリオンに突撃した。
「邪魔だ!どけぇぇぇ!!」
ヴィータはそのままの加速を維持して一気に振り下ろすが、ベリオンは左手でヴィータの一撃を受け止めると、右手を握り締めヴィータへと振り抜く。
だがヴィータはとっさにパンツァーシルトを展開させ攻撃を受け止めるが、衝撃までは受け止められず吹き飛ばされる。
ヴィータは吹き飛ばされつつも姿勢を直していると、目の前にいるベリオンは銃口を覗かしている右手をかざし、直射砲を撃ち鳴らす。
ヴィータはとっさに右に回避、後方では光を放ち爆音が響くと、一つ舌打ちを鳴らし目の前のベリオンを睨みつけていた。
一方地下水路のスバル達は、未だガリューとアギトに苦戦を強いられていた。
互いの攻防が行き来する中、ルーテシアがアギトに念話で進言する。
(…アギト、私に会わせて轟炎を撃って)
(なんか手があるんか?)
ルーテシアは頷くと右手をスバル達に向け足下に紫紺色の五亡星の魔法陣を展開させる。
「…バーンストーム」
かざした手の指をパチンッと鳴らし唱えると周囲を巻き込むように大爆発を起こす、
更にそれに合わせアギトは巨大な火球、轟炎を放ち辺りは炎の渦で真っ赤に染まっていた。
しかしその炎の渦から飛び出すようにスバルとギンガがら姿を現し、まっすぐルーテシアの下へ向かいつつ攻撃態勢をとっている。
だがルーテシアは待っていたと言わんばかりに五亡星の魔法陣を展開させおり、既に指を二人に向けていた。
「ライトニングボルト」
次の瞬間、強烈な電撃がルーテシアの指から放たれ二人の体を貫き、なす統べなく倒れるスバルとギンガ、
その頃炎の中ではキャロによるホイールプロテクションで轟炎を分散させ更に竜魂召喚させたフリードリヒが舞い上がり、背中にはキャロが乗っていた。
キャロは大事そうにレリックケースを抱えて持っており、それを確認したガリューはすぐさまキャロの下へ向かう。
しかしそれを阻止しようとスバルとギンガは立ち上がろうとするが意識が朦朧として動けないでいた。
ルーテシアが放ったライトニングボルトにはスタンマジックと呼ばれる追加効果が含まれており、
この効果を持った魔法を受けると一定時間気絶もしくはそれに近い影響を受けるのである。
二人の様子を見て柱に隠れていたティアナが代わりにクロスミラージュで応戦するが、ガリューは体を回転しつつ魔力弾を回避、更には手を刃に変え撃ち落としていた。
キャロの下へガリューが迫る中、未だ燃えたぎる炎の中からストラーダをガリューに向け構えるエリオの姿があった。
「うぁぁあああ!!メッサァァァアングリフ!!」
エリオはカートリッジを三発消費すると一気に加速、ガリューの左わき腹を捉えると一気に吹き飛ばした。
エリオの一撃によって誰もが安心していた瞬間、エリオとキャロは紅いバインドに縛られてしまう。
キャロの後ろにはルーテシアがいつの間にか乗っており二人をレデュースパワーで縛り付けたのだ。
しかもキャロを縛り付けているレデュースパワーはフリードリヒをも縛り付けており、その効果によってエリオとフリードリヒは力が抜けるように落ち始めていた。
その落下中にルーテシアはキャロが手にしているレリックケースを奪うとフリードリヒから飛び降り、そしてガリューがルーテシアを抱えるように受け止めたのであった。
「……それじゃ逃げるよ…アギト、しんがりをお願い…」
「任せろぉおい!!」
ルーテシアの言葉にアギトの頭上に巨大な火球、轟炎を作り出すとそれをフリードリヒに向け投げつけ、フリードリヒを中心に辺りは火の海と化していた。
その様子を確認したルーテシア達は地上への出入り口へと向かうのであった。
…先程まで燃えさかっていた炎が消えていく中、フリードリヒを中心にスバルはプロテクションを、ギンガはシェルバリアを張り難を逃れていた。
「みんな!大丈夫?」
「なっなんとか……」
「くぅ、まだそんなに遠くには行ってないハズ!追いましょう!!」
「あっあの?ちょっと―――」
ティアナの制止を一切聞かず飛び出すように後を追うギンガ、
ティアナとスバル、そしてキャロは苦笑いを浮かべながらギンガの後を追うのであった。
一方ルーテシア達は地上に続く通路を進んでいるとアギトが後方から魔力反応を感知、先程の局員が追って来ていると判断した。
「どうする?ルールー!!」
「…うろたえないで、アギト」
ルーテシアには策があるらしく手を床に向け不死者召喚の詠唱を始める。
そして詠唱を終えると魔法陣から一体の不死者を召喚する、
その姿は楔帷子に緑の甲冑、むき出した太ももが印象的な女性の姿をしていた。
ルーテシアは不死者に足止めを命令すると不死者は槍型のアームドデバイスを起動させ構える、ルーテシア達はそれを確認すると先を急ぐのであった。
するとその道中にアギトはルーテシアに問いかけてくる。
「なぁルールー、あの不死者一体だけで大丈夫なのか?」
「……あの不死者は特別製…らしいから」
ルーテシアの答えにアギトは首を捻ると説明を始める。
あの不死者はレザード曰わく管理局にとって最も“有効的”な足止めであるという。
そう話しながらルーテシア達は入り口へと急ぐのであった。
一方スバル達はギンガを先頭にエリオとキャロを乗せたフリードリヒ、ティアナを背負ったスバルがルーテシアを追っていた。
そしてギンガ達の前に一つの影が目に写る、その姿はスバルとティアナが良く知る存在であった。
「あれは!!」
「エイミ姐さん!!」
そう…その姿は紛れもなくエイミであった。
だがその顔は土気色に染まり無表情で、かつてのカシェルと同様不死者化されていたのである。
その様子にスバルはティアナを心配する、何故ならばティアナはエイミを姐さんと呼ぶ程までに親しい関係柄であるからだ。
だがスバルの心配をよそにティアナはクロスミラージュを額に当てて祈るように目を閉じている。
「エイミ姐さん……今、救います!」
そして目を見開きエイミを直視する、不死者化したエイミを救うのは自分しかいない、
カシェルの時と同じ過ち繰り返さない!……ティアナの瞳には決意と覚悟が滲み出ていたのであった。
一方地上では海上からの増援の対抗策である、白いフードを被った金髪の男性ゼノンと、
黒いフードに覆われ手には引きちぎられた印象を持つ手錠が掛けられたカノンの二体が海岸上空で待機していた。
「数は30~40の群れ……さて、どうする?」
「どうもこうもないよ、片っ端から片付けるだけさ」
ゼノンはサラリと言うと詠唱短縮に特化した杖型ストレージデバイス、エーテルセプターを起動させると円状の魔法陣を展開する。
そしてカノンはやれやれ…といった様子で同じくエーテルセプターを起動させ円状の魔法陣を展開した。
ゼノンの杖の前には炎が火球の形になって燃え続け、カノンは中が吹雪いている印象を持つ球体を作り出していた。
それぞれは魔法を撃つ準備を進めていると、先に完了したゼノンが不死者の群れの位置を杖で指し示す。
「先行する、エクスプロージョン」
すると杖の前で真っ赤に燃えていた火球が不死者の群れに向かい、群れの中心にて一気に膨張、一瞬にして不死者を焼き尽くした。
すると今度は準備を終えたカノンがガジェットの群を指し示す。
「次は俺の番だ、グラシアルブリザード!」
カノンの魔法もまた先程と同様に群れの中心に向かうと一気に膨張、海ごとガジェットを凍り付かせた。
両名は互いに交互しながら魔法を撃ち続け、ガジェットと不死者の数を次々に減らし続けていくのであった。
その様子をモニター越しで見つめるはやて、この様子だと全滅も時間の問題と考えるも、あの二名はかなりの実力者だと判断していた。
一方一足早く地上に着いたルーテシアは入り口から離れた高速道路にて地下水路の様子をモニターで見ていた。
地下水路ではエリオがエイミを攪乱させ、ティアナが牽制、動きを止めたエイミにキャロがバインドをかけ、スバルとギンガのコンビネーションによる一撃を与えていた。
その連携によりエイミは苦戦を強いられており、その様子にルーテシアは一言つぶやく。
「手緩いか………」
そしてルーテシアは手をかざすと召喚を始める、召喚したのは地雷王と呼ばれる巨大甲虫である。
地雷王とは生体電流を放電し魔力を用いて振動させる事により、局地的に地震を起こす事ができる能力を持つ。
ルーテシアは召喚した地雷王3体を地下水路に通ずる位置に配置するとアギトが心配そうに叫ぶ。
「ルールー、いいのか!?アイツら潰れて死んじゃうかもだぞ!!」
「…別に……問題はない」
レリックケースは既に手元にあり、ベリオンは瓦礫程度で破壊されるハズは無くセインにはISがある、失うのは足止めに使った不死者と局員のみであるという。
ルーテシアは説明を終えると指を鳴らし、地雷王はその音を合図に放電し始めるのであった。
一方地下水路のスバル達はいきなりの揺れに戸惑いを見せていた。
その揺れは徐々に大きくなり地下水路の壁に亀裂が走り、破片が落ちてくる。
その状況にギンガは地下水路が崩落する可能性を考慮し、いち早くこの場から去ろうと提案、
他のメンバーはギンガの提案に乗るが、目の前にはエイミが立ちはだかっていた。
「くっ!押し通るしかないようね」
「待ってください!私に考えがあります」
キャロには何か得策があるらしく、援護をして欲しいとのことである。
四人はキャロの策を聞くとそれを受け入れ、配置に付いた。
キャロはセカンドモードを起動させると早速桃色の魔法陣を展開、
するとエイミの持つ槍から薬莢が二つ排出されると紅い魔力が槍を伝って全身を纏わせ、一気に加速、キャロ目掛けて突撃してきた。
スピニングエッジと呼ばれるエイミが得意とする攻撃である。
そのエイミのスピニングエッジに対しスバルが間に入りプロテクションで受け止め動きを止めると、スバル肩を踏み台にエリオのスタールメッサーが振り下ろされる。
しかしエイミはバックステップで回避すると、逆にエイミが槍を振り下ろす。
しかしエイミが槍を振り上げた瞬間をティアナは狙い、クロスファイアはエイミの槍を撃ち落とすと、
前方にいたスバルとエリオが左右に展開すると中央からギンガが加速しながらエイミに突撃、
ギンガのナックルバンカーがエイミの腹部に突き刺さると、九の字に曲げながら後方へと吹き飛ばす。
「行きます!鋼の軛!!」
その瞬間を狙いキャロはフィンが展開されている右手で床に触れると、床を介して桃色の鋼の軛がエイミの体に突き刺さる。
ミッド式の鋼の軛、ザフィーラとシャマルの訓練とシャーリーによって追加されたバインドである。
鋼の軛によって動きを止められたエイミを確認後、急いで地下水路の入り口へと向かう一同。
その中エイミに目を向けるティアナであったが、頭を横に振りその場を後にした。
地下水路の天井が瓦礫となって落ちる中、鋼の軛に縛られているエイミから紅い魔力が溢れ出していた。
「体ガ熱イ……チカラガ……目覚メル!!!」
次の瞬間、体から溢れ出ていた魔力がエイミの体を包み込むと同時に、エイミの頭上の天井が崩れ飲み込まれるのであった。
一方ヴィータとベリオンの戦いは、床を撃ち砕き、壁をぶち壊し、柱はへし折られ、地下水路崩壊の一端を担う程の熾烈さを繰り広げていた。
そしてヴィータの一撃がベリオン頭を捉え吹き飛ばすと、リインが地下水路の崩壊を示唆、
フォワード陣は既に出入り口へと向かっている事を確認したと伝えるとヴィータもその場から去ることを決める。
しかし土煙の中からベリオンが姿を現し、ヴィータは苦虫を噛んだ表情で睨みつけていた。
「ちっ!しつけぇ奴だ!!」
「…システム、バスターモードニ移行、スキル・マイトブロウ起動シマス」
そう言うとヴィータに目を向け佇むベリオン、
ベリオンが起動させたマイトブロウとは、相手を気絶、更にガードを破壊する効果を持つスキルである。
そしてベリオンの足下が光りだすと魔力を噴射、一瞬にヴィータの懐に入り右手を握り締めた。
ヴィータは一瞬の動きに戸惑うがすぐに冷静になりパンツァーシルトを展開、ベリオンの一撃に備えた。
しかしマイトブロウを起動させたベリオンの一撃はヴィータのシールドを一瞬に打ち砕きヴィータを直撃、まるで弾丸のように吹き飛び柱にめり込むのであった。
ヴィータは柱の中で気絶をしているとベリオンが近づき左拳で柱ごとヴィータを殴りつける、
柱はバラバラに砕け散りヴィータと共に吹き飛ぶと、ベリオンは追い打ちとばかりに目の前に現れ両手を組み床に叩き付けた。
案の定床は砕け、ヴィータは瓦礫と共に下層へと落ちるが途中で意識を取り戻し下層の床へと着地、しかし足下はおぼつかずよろめいており顔は俯いていた。
しかしヴィータを追って来たベリオンに捕まり右フックを振り抜かれる。
するとヴィータは左手をかざしパンツァーシルトを展開するが空しく打ち砕かれなす統べなくベリオンの一撃を受ける……ハズであった。
ベリオンの一撃はヴィータの左手によって受け止められており、ヴィータの左手…いや全身は赤い魔力に覆われていた。
パンツァーガイストと呼ばれるフィールド魔法を纏っていたのだ。
ヴィータは顔を上げると口の端から血が流れているが、その瞳は蒼く激怒していた。
「デカブツがぁ!!図に乗ってんじゃねぇ!!!」
そう叫ぶとカートリッジを二つ消費してギガントフォルムに変えると勢いよく振り抜き、ベリオンは壁に激突した。
するとヴィータが落ちてきた穴からリインが心配そうに降りてくると、それを確認したヴィータはユニゾンを要求する。
ユニゾンとは、ユニゾンデバイスであるリインフォースIIと融合する事を指し、
ユニゾンすることで能力の向上、更には補助などの支援を受ける事ができるのである。
ヴィータの言葉にリインは一つ頷くとヴィータの目の前に立ち、そして――――――
『ユニゾンイン!!』
二人の声が重なり合って叫ぶと、リインは吸い込まれるようにヴィータの体と融合、
ヴィータの魔力が高まり騎士服は赤から白く染まり、髪はオレンジ色、瞳も青く変化していた。
「リイン!詠唱短縮!」
「任せるです!」
ヴィータはリインに命令するとギガントフォルムのままベリオンに突撃する。
一方ベリオンは左手のマシンガンで応戦するも先程とは打って変わって素早く懐に入られギガントハンマーがベリオンの胴体に突き刺さる。
しかしベリオンも負けてはおらず右ストレートを繰り出しヴィータのシールドを砕いて吹き飛ばす。
すると融合しているリインが後方にヴァルヒ・スツーツと呼ばれる白い柔らから支柱を展開させ激突を免れる。
そしてお返しとばかりにラテーケンフォルムに切り替え突撃、見事にベリオンの胴体に突き刺さる。
そしてカートリッジを三発消費すると噴射口から大量の魔力が吹き出しベリオンごと回し始め―――
「一対一の戦いでぇ!ベルカの騎士はぁ!!」
「負けはないです!!」
二人の息のあった台詞と共にベリオンを天井に向け投げ飛ばし、ベリオンは天井を突き破りながら姿が見えなくなっていく。
それを確認したヴィータは口の端の血を拭い中に溜まった血を吐くと、今度こそ脱出の為入り口へと向かうのであった。
一方地上では未だ地雷王が地震を起こしており、その振動により地下水路は轟音と共に崩壊した。
「あ~あ、やっちゃった……」
アギトのやりずぎじゃね?感を醸し出した感想を浮かべる中、一つの轟音が響く。
其処には先程ルーテシアが戦っていた局員の姿があった、どうやら先程の音は瓦礫を砕いた音のようである。
「たっ助かったぁ」
「どうやらみんな無事みたいね」
瓦礫で塞がれていた入り口を先行していたギンガがナックルバンカーで打ち抜き、どうにか脱出できたようである。
ティアナはメンバーの確認を終え周囲を見渡す、地下水路が崩壊した影響かビルの一部が倒壊、道路の一部が陥没している状況であった。
その酷い状況にギンガは他の部隊に救援を要請していると、キャロが地下から強大な魔力を感知したという。
すると地面が盛り上がると中から紅い竜が姿を現した。
「赤い竜!?……まさかエイミ姐さん!!」
その竜の姿は猛禽のような爪に猛獣のような牙、鋭利な角に鋼のように強固な赤い皮膚と柔軟で強靭な巨大な体躯と尾、
そしてその肉体を浮かばすことが出来る程の翼を持ち、ティアナがグレイから聞いた特徴と同じモノを持っていた。
つまりあの竜はエイミが竜化した姿であるのは間違いないのである。
ティアナがエイミを説明しているとエイミはその巨大な拳で道路を砕き、尾で倒壊したビルを叩き、口から吐き出した炎はビルのガラスを砕き溶解させた。
今のエイミは不死者化に加え竜化している為、力が暴走しているのは明白、目に映る物全てに攻撃を仕掛けていた。
このままエイミを暴れさせていてはさらに被害が増える!そう考えたギンガはスバル達と共にエイミの下へと向かうのであった。
ウィングロードにて近くで見るエイミは思いの外巨大でベリオンの三倍近くあるように思えた。
これだけ巨大であると通常の攻撃は通用しないと考えるスバル、
しかしここで怖じ気つく訳には行かない!……そう自分を鼓舞するとエイミに突撃、額辺りにリボルバーキャノンを撃ち込む。
しかしスバルの攻撃にいっさい動じず寧ろ左手で弾かれ吹き飛ばされる。
すると足元からエリオがソニックムーブを用いたスタールメッサーを放つが傷は浅くエイミの膝を付かせるまでには至らなかった。
エリオの攻撃に気付いたエイミは踏みつぶそうとするが、ストラーダがソニックムーブを用い危ういところで回避する事が出来た。
その頃フリードリヒに乗ったキャロがエイミの前に立ちふさがるとフリードリヒはブラストレイを放つ。
だがエイミの炎には叶わずブラストレイを押しのけキャロ達を飲み込む。
「っ!キャロ!!」
その光景にエリオは叫ぶが、炎は渦のように円を描き分散、その中央には光の渦を張ったキャロの姿があった。
キャロはホイールプロテクションを用いてエイミの炎を防いだのである。
それぞれの戦闘を見ている中ティアナはギンガに考えがあると話す。
その内容を聞いたメンバーは一斉に頷くとそれぞれの位置に付く。
「一番!エリオ行きます!!」
エリオはスピーアフォルムの石突と噴射口部分から金の突起物が現れるウンヴェッターフォルムに変えると
カートリッジを三発消費、ストラーダの先端に雷を纏う。
そして加速してエイミに突き刺さると周囲を雷に包まれ直撃する。
サンダーレイジと呼ばれるエリオの電気変換資質とフェイトの魔法を元に生み出した魔法である。
エイミの体に雷が撃たれている中、左手にフィンを展開させたサードモードを起動させたキャロがエイミの後方で魔法陣を展開させていた。
「二番キャロ!鋼の軛を撃ちます!!」
そう言うと両手を開き魔法陣に触れる、すると先程以上の巨大な桃色の鋼の軛が六本、
六角形の角部分を彷彿するような位置から伸びエイミの体を貫く。
するとエイミの正面にはナカジマ姉妹が構えていた。
「スバル!先に行くよ!」
「了解!ギン姉!!」
「三番!ギンガ、突貫します!」
そう言うとカートリッジを三発消費しエイミに向かっていく。
そしてエイミの目の前まで向かうと左拳を振り下ろし更に振り上げる、ストームトゥースと呼ばれるコンビネーションである。
だがギンガの攻撃はまだ終わらず、今度はウィングロードを螺旋の形に展開させて今度は左拳によるナックルバンカーを鳩尾あたりに打ち込む。
「スバル!今よ!!」
「応!四番スバル、ギア・エクセリオン!!」
スバルが叫ぶとマッハキャリバーから片足に二枚、計四枚の翼を展開、A.C.S モードを起動させる。
そして一気に加速するとカートリッジを二発消費、右拳に魔力が纏い、そのまま姉ギンガと同様エイミの鳩尾あたりに拳がめり込む。
更にスバルはカートリッジを三発消費すると拳に環状の魔法陣が展開、めり込んだ拳の先には魔力弾が形成されていた。
「ディバイン…バスタァァァ!!!」
ゼロ距離からのディバインバスターはエイミの体内で炸裂し内側から強固な皮膚を貫き穴という穴から魔力光が溢れ出す。
もはやとどめと思われた一撃であったが未だエイミは鋼の軛を外そうとしており、それを倒壊寸前のビルの屋上で見つめるティアナ、
するとクロスミラージュをダブルモードに変えるとビルから飛び降り、左の銃でエイミの額あたりにアンカーショットを打ち込む、
そして一気に巻き上げ加速させると右の銃をダガーモードに切り替える、狙いは脳髄である。
ティアナが迫る中、エイミは顔を上げティアナを見上げ口から炎を吐き出す。
炎はティアナに直撃する瞬間、ティアナは陽炎のように消える、お得意の幻術である。
本物は飛び降りたビルの中心、遠距離型狙撃銃ブレイズモードに切り替えたクロスミラージュを握り標準は見上げたエイミの頭である。
「さようなら…エイミ姐さん…」
そう一言呟くとティアナは引き金を引きファントムブレイザーを撃ち出す。
クロスミラージュから放たれたファントムブレイザーは高密度に圧縮されており、
エイミは小細く声を上げると頭を撃ち抜かれるのであった。
…撃ち抜かれ頭部を無くしたエイミの体は轟音と共に倒れ光の粒子となって消滅、その光景を涙を流し見つめるティアナとスバル…
すると突然フリードリヒが雄叫びを上げ、キャロは戸惑い目を向けるとその目には涙が浮かんでいた。
「どうしたの?フリード」
キャロの問いに答えないフリードリヒ、何故フリードリヒは泣いているのか…それはエイミが消滅する瞬間にあった。
…ティアナの一撃がエイミの頭に直撃する瞬間、か細い声で一言「ありがとう…」と言っていたのだ。
…エイミには元々から意識があったのか?…それとも死の一瞬だけ意識を取り戻すのか?
それはもう分からない…だがフリードリヒの耳には確かにエイミの感謝の言葉が届いていたのだ。
フリードリヒはまるで弔うように涙を浮かべ何度も雄叫びを上げるのであった。
一方、一部始終を見ていたルーテシアはモニターを閉じガリュー及び地雷王を送還する。
「いいのか?ルールー」
「……私の目的は果たしたから」
そう言ってレリックケースをアギトに見せ足早に去ろうとした瞬間、
アギトはバインドに縛られルーテシアの右コメカミ辺りにはラテーケンフォルムが向けられていた。
「やっと見つけたぜ、テメェラ」
ルーテシアの後ろにはヴィータが睨みつけており、レリックケースを置くように指示すると温和しく従い手を挙げる。
ヴィータ達はベリオンをぶっ飛ばした後出口へと向かい崩壊前に脱出していたのだ。
その後巨大な竜が姿を現し、ヴィータはあの少女の仕業だと考えリインに少女の詮索をさせその後に発見、現在に至ったのである。
その後しばらくしてヴィータの連絡をもらったスバル達が駆けつけ、レリックケースをキャロに持たせるヴィータ、
スバルとティアナは複雑そうな面持ちでルーテシアを見つめていたが、当人は涼しい顔をしていた。
ルーテシアはバインドにて縛られていると、クアットロからの念話が届く。
(…ルーお嬢聞こえていますかぁ?)
(……クアットロ、今まで何していたの?)
ルーテシアの問いかけにクアットロは説明を始める。
ルーテシアが地下水路で戦っている頃“鍵”を回収する為シルバーカーテンを用いて隊長クラスを足止め、その隙にセインが回収するハズであったのだが、
管理局はヘリを用意し“鍵”を運ばれるところであった。
そこで第二プランの強襲による“鍵”回収を試みる為ディエチがイノーメスカノンをチャージ中、地雷王の地震に竜化したエイミの暴走が影響してヘリを飛ばす事が出来なくなったのである。
だが今は地震王もエイミもいない為強奪にはもってこいの条件であると語る。
今セインはルーテシアの近くにおり、レリックケース回収後、ルーテシアも回収するという。
(其処で強襲の切っ掛けとなる合図の言葉を言ってほしいんですぅ)
(……分かったそれで何をすればいいの?)
(慌てないでねぇ、まだディエチのチャージが―――)
(早くして……私…じらされるのは嫌いなの……)
ルーテシアの言葉に両の手のひらを広げ肩をすくめるクアットロ、
仕方ないと考えたクアットロは眼鏡に手を当て不敵な笑みを浮かべるとあの紅い魔導師に向かってこう言うように仕向けるのであった。
一方ヴィータ達はヴァイスが操縦するヘリを見送ると、ルーテシアに目を向ける。
「取り敢えずてめぇは公務執行妨害で逮捕だ」
『逮捕は良いけど……大事なヘリは放っておいていいの?……また貴方は…守れないかも』
その言葉にヴィータの目が蒼くなる、この少女は八年前の事件の事を知っているんじゃないのか、
そう考え詰め寄ろうとした瞬間、リインが強力なエネルギーを感知したと、そしてその方向に指を指すと其処には女性が二人おり、
その一人が大型狙撃砲でヘリに向け直射砲を撃ち抜いた。
ヘリは急速回避出来ず激突は免れないと思った瞬間、ヘリと直射砲との間に桜色の光が割り込み爆発を起こす。
爆発によりヘリの周りには白煙が包まれ徐々に晴れていくと、其処にはエクシードモードを起動させたなのはの姿がありどうやら先程の光の正体のようである。
一方ヴィータはヘリの無事を確認していると、キャロの叫び声が上がり目を向ける。
其処には水色の髪の少女の姿があり、手にはキャロから奪ったレリックケースが握られていた。
ヴィータはその少女を捕まえるように指示するが女性は腰に付けた手榴弾のような物を投げつけると、まるで水面を潜るように道路の中を潜った。
すると置き土産である手榴弾のような物が光を放ち爆発する。
「くっ!閃光弾か!!」
目をくらましつつ周りを確認すると既にバインドが解かれた二人を抱えている姿があり、ヴィータは必死に捕まえようと飛びつくが健闘空しく空振りに終わる。
そしてリインは反応を調べるが対象は既にロスト、逃げられたという空しい事実だけが現場に残されているのであった。
一方クアットロとディエチはなのはに追われていた。
ディエチが手にしていたイノーメスカノンは重すぎるため現場に放棄、ビルの屋上を飛び移りながら逃走していた。
「待ちなさい!」
「待ちなさいと言って待つ人なんていませんよぉ」
そうクアットロは軽口を叩くとカンに障ったのかアクセルシューターを撃ち出される。
するとディエチは右足に力を込め思いっきり踏み込み跳躍、体を半回転しつつ腰に付けていたスコーピオンを抜くとアクセルシューターを迎撃した。
そして逆さまから落ち掛けたところをクアットロが足をつかみ難を逃れる。
「助かったわぁ、ディエチ」
「こっちも助かった」
そんな事を言いながら逃走を続ける二人、それを追うなのはにフェイトが追加されこのままでは本当にまずいと考えるクアットロであった。
一方逃亡者を追いかけているなのはとフェイトの下に一つの念話が届く。
(此方はエインフェリア、クロノ提督の名の下援護します)
その聞き慣れない名前に困惑するもクロノの名が出た為、信用する二人、
二人はエインフェリアに指定された位置に向かうこととなった。
一方、エインフェリアのゼノンとカノンは海上を離れなのは達が追っていた場所を確認する。
「さて…何を撃つつもりだ」
「空を飛ぶ物にはこれが相応しいだろうな」
そう言うと左手に雷を走らせるゼノン、その考えに乗ったカノンもまた雷を走らせると魔法陣を展開させる。
そして二人の目の前に稲光が走る球体が出来上がるとゼノンは右、カノンは左に撃つこととなり
そして――――
『サンダーストーム』
撃ち出された魔法は真っ直ぐ現場に向かって進むのであった。
一方で隊長クラスの追撃を受けなくなった二人は少し戸惑いを見せ後方を見据える。
何も起きない、まるで嵐の前の静けさだなと考えていると上空に稲光が起きている物を発見する。
「あれは…グラビディブレスぅ?」
「いや…違うと思うけど、多分あれは……」
『広域攻撃魔法!?』
二人は声を合わせてそう言うと二つのサンダーストームは広がりを見せる。
その広がりの早さにクアットロは焦りつつ飛び抜けるが、後方ではサンダーストームから無数の雷がクアットロ達目掛け落ちていた。
「きゃああああ!?」
「ちょっと、クアットロ姉さん!?もっと高く飛んで頭が擦れる!!」
しかし上昇すればあのサンダーストームの渦に巻き込まれる、しかし低いままでもあの雷の雨にやられる。
クアットロは再度シルバーカーテンを使用して自分とディエチの姿を消すのであった。
一方なのはとフェイトは指定された位置で周囲を確認していると、先程の二人組が姿を現す。
「ビンゴ!行こうフェイトちゃん!」
「分かった、なのは」
そう言うとなのははレイジングハートを二人に向けカートリッジを一発消費し、フェイトは左手をかざしカートリッジを三発消費する。
そして互いの足元に魔法陣が展開され魔力弾が形成されていく。
そして――――
「エクセリオンバスター!」
「トライデントスマッシャー!」
二人の魔法はクアットロ達を挟むように放たれ、クアットロ達は逃げられないと覚悟する。
そして二つの魔法がぶつかり合い相殺され辺りには魔力の残滓が舞っていると、
二人を片手ずつ掴む紫の短髪の女性が佇んでいた。
どうやら監視役としてスカリエッティに派遣されたようだが、妹達のピンチに思わず手を出したようである。
「たっ助かりましたぁトーレ姉」
「…早くディエチを連れて行け、しんがりは私に任せろ」
トーレの言葉に甘えるようにクアットロはディエチを抱えシルバーカーテンを使ってその場を後にする。
するとなのは達が逃がさないとばかりに追うとすると、
トーレの両手足にエネルギーの翼を展開、そして瞬間移動を彷彿させるようなスピードで
なのはの腹部にミドルキック、更にフェイトの腹部にも後ろ蹴りを与えそのまま退避した。
その一瞬の出来事になのはは痛む腹部を押さえ困惑する中、
フェイトは先程の女性の速度はかつて自分が使っていたソニックフォーム、もしくはそれ以上の速度を出していたと考えていた。
なのはからの連絡を受けたヴィータは今回の失態は自分のせいだと話し、ギンガもまた同じ事を言っていた。
その中、恐る恐る手を挙げるティアナ、ヴィータ達には忙しくて連絡が遅れていたが、
スバルとティアナはレリックケースに仕掛けをして置いたと話しヴィータとギンガは首を傾げる。
一方“鍵”回収チームは合流地点に次々に集まり、其処にはベリオンの姿もあった。
今回、回収出来たのはレリックケース一つ、その事をどうドクターや博士に報告しようか考えていると、セインがレリックを見たいとダダをこね始める。
トーレはやれやれと言った表情を見せつつ了解するとセインは早速レリックケースの鍵を開錠、ふたを開けると中にはレリックは一つも入ってはいなかった。
「なんでぇぇぇぇぇ?!」
「…してやられたようだな」
中身は空っぽ今回の任務は徒労に終わり疲れがドッと出るメンバーであった。
一方行方知れずのレリックはキャロの帽子の中に隠されていた、戦闘面では後方支援のキャロに持っていてもらえば安全だとティアナのが出した提案であった。
その事にヴィータとギンガは苦笑いを浮かべていると、ヴィータがあきれた様子で話し始める。
「しっかし、いくら後方支援でもよく大丈夫だったな」
「えっ!?」
ヴィータの言葉に目を丸くするキャロ、レリックは高エネルギーの結晶体、いくら封印処置をされていても、
魔法が直撃すれば暴走する可能性があると語り、その言葉に冷や汗を垂らすキャロ、そして恐る恐る聞いてみた。
「もし…暴走させたら?」
「そりゃあもちろん……頭がパーン」
そう言って頭が爆発する様子をジェスチャーするヴィータに顔を青ざめるキャロ、
そしてキャロは涙目でティアナに抗議するのであった。
一方ゆりかごに戻ったクアットロ達はレザードとスカリエッティが待つ部屋に向かう。
そして今回の一部始終を話すと腕を組むスカリエッティ、その行動に息をのむ一同。
「つまり“鍵”もレリックも管理局側に回収されてしまったんだね」
「申し訳ございません、ドクター」
「まぁ、仕方がない、今日は疲れただろう…もう休みなさい」
そう言って皆を帰らせるスカリエッティ、一同はその行動に疑問を感じるも一礼して部屋を後にした。
暫く静寂が包み込む中、レザードの口が開き始める。
「いいのですか?お咎めなしで」
「あぁ、“鍵”はまた回収しに行けばいいからね」
それに地上本部を崩壊させるきっかけにもなると、狂喜に満ちた表情を現すスカリエッティであった……