魔法世界ミッドチルダ。その世界においてもイジメは社会問題として抱えられており、
 しかもなまじ魔法が普通に存在する世界であるが故に、魔法を使ったイジメも普通にあったりするのである。
 そして、ミッドチルダ某所のとある学校において、同じクラスの不良から寄って集ったイジメを受ける
 一人の幸薄い少年の姿があった。
 彼は日系ミッド人の白浜兼一。小学校入学以来現在に至るまで、彼はまさしくイジメの対象であった。
 しかも周囲の者達による彼に対するイジメのやり方がかなりエグイ。

 「おらおら! まだネンネするのは早いぞ! 魔法の練習にならねーだろうが!」

 何しろ『攻撃魔法の練習』と称して兼一を攻撃魔法の標的代わりにして滅多打ちにすると言うのだから。
 ある意味ミッドチルダならではと言えなくも無いが…それをやられる兼一としてはそれ所では無い。


 その日もまた全身傷だらけの状態でヨロヨロになりながら兼一は帰宅していた。

 「くそっ! くそっ! 何時もそうだ…こっちが弱いと分かると直ぐにイジメて来る…卑怯者どもめ!!
 でも、どうする? このままだと死ぬな…。」

 そして兼一はよろけながら電柱へ倒れ込む様に寄りかかる。

 「殺される前にまた転校か…ハハハ、逃げなきゃ死ぬんだ…しかたないよな………………………………。」

 しかし、ここで彼の中で何かが切れた。

 「うわああああああ!! 逃げるのはもうやめだ! こうなったら強くなってやる!!
  鍛えて! 鍛えて! 鍛えて!! あいつら、全員…仕返ししてやる!!」

 こうして彼は涙ながらに決意した。自分もまた鍛えて強くなって、今まで自分をイジメて来た連中を
 見返してやろうと…………


 後日、どこか魔法を教えてくれる様な道場かジムがありはしないか探していた兼一であったが、
 そこで彼は見た。一人の女性が大勢の男、それもデバイスで武装した如何にもヤバそうな男達に
 取り囲まれていると言う光景。

 「てめぇ! 今日こそは死んでもらうぞぉ!!」

 ほら、セリフの時点でヤバイ事は明白。どこからどう見ても女性が危ない。とは言え兼一は助けに入る度胸が
 無かった為、とりあえず管理局に電話をしようと思っていたその直後、男達は全員倒されてしまっていた………。
 一体如何にして男達が全員倒されてしまったのかは分からないが、これだけは分かる。
 あの女性がやったのだと。一体何者なのかは分からないが…とにかく凄い魔導師なのだろうと
 兼一にもそれだけは理解する事が出来た。
 そして何事も無かったかの様に立ち去ろうとしていた女性に対し、兼一は思わず走り寄っていた。

 「ま…待ってくださぁぁぁい!!」
 「え?」
 「ぼ…僕に…魔法を教えてください!」

 兼一は思わず叫んでいた。初めて会う見ず知らずの相手だと言うのに。普通ならばこういうのは
 失礼な事だし、あっさりと無視されてしまう物だが…

 「良いよ。」
 「早!」

 逆にあっさりと承諾されてしまって、これはこれで兼一も驚いた。

 「そんなアッサリ即答して良いんですか!? 僕の方から一方的に頼んでたのに…。」
 「ふ~ん? 君…大方イジメにあって、相手を見返してやりたいとかそんな感じでしょ?」
 「え!? なっ何故それを!?」

 今度はあっさりと兼一の心中を見透かしてしまった女性にまたも驚くが、女性は優しく微笑みながら答えた。

 「君の目と体中の傷を見てれば分かるよ。」
 「で…でも本当に良いんですか? イジメっ子から身を守る為とは言え、ケンカの為に魔法を使うなんて
  言語道断なんて怒られると思っていたんですが…。」
 「確かに弱い者イジメの為に魔法を使うのは私もダメだと思うけど、自分の身を守る為に
  強くなる事は決して悪い事では無いと思うな。」


 こうして白浜兼一は、一瞬で大勢の男達を倒した『凄腕の女性魔導師=高町なのは』から魔法を教わる事になったのだが…

 「ん…ぎ……んぎぎぎぎぎぎ………んああああああああ!!」

 物凄い声を上げ、まるで全身に大量の重りを抱えているかの様に全身を震わせながら一歩一歩前進する
 兼一の姿がそこにあった。まずなのはが兼一に課した特訓。それは立つ事も困難な程の魔力負荷を受けた
 状態で歩く特訓であった!

 「死にゅぅぅぅぅぅ! 死にましゅぅぅぅぅぅ! なのはさぁぁぁぁぁん!!」
 「あ~大丈夫大丈夫。それで死んだ人はまだいないから大丈夫!」
 「じゃあ僕が最初のケースになっちゃいましゅぅぅぅぅぅ! 死にましゅぅぅぅぅぅぅ!!」

 と、この通りなのはの課した特訓は兼一の想像を絶していた。厳しく怒鳴られながらの
 特訓は既に鍛えようと決めた時から覚悟していた事だが、なのはは優しく微笑みながら
 それ以上に厳しい特訓を押し付けてくるのである。もはやこれは特訓では無い。拷問だ!
 しかも、この『魔力負荷による重圧で身動き取るのも困難な状態で歩く』と言う特訓ばかりが
 連日続けられ、なのははまるで兼一に魔法を教える様子を見せる気配は無かった。

 「あ…あの…ここの所毎日こういうトレーニングばっかりな気がするんですけど……こういう事やって
  本当に強くなれるんですか?」

 特訓内容に疑問を持ち始めていた兼一は怒られる事覚悟で質問して見たのだが、なのはは
 やはり笑顔で答えるのである。

 「やっぱり何と言ってもまずは魔力が無いと話にならないもんね。柔よく剛を制すなんて
  言葉もあるけど、それを実行出来る技術を身に付ける特訓に耐える為にもやっぱり
  体力と魔力は必要不可欠。どんなに優れた魔法を持っていても、フェレットさんが巨大な真竜に
  勝つ事は出来ないでしょ?」
 「さしずめ僕はそのフェレットって所ですか?」
 「あ…それはフェレットさんに失礼かな? フェレットさんはもし大型動物だったなら
  食物連鎖の頂点に立っていたかもしれないって言われる位の強い動物でもあるからね。
  だからむしろそのフェレットさんを見習いなさい?」
 「そんな事言って…僕をイジメてるだけなんじゃ…。」
 「そんな事は無いよ。さっきも言ったけど、基礎体力と魔力を付けてあげようと
  壊れない程度に生かさず殺さずやってるだけだって。」
 「い…生かしてよ…。」

 やっぱり、笑顔で優しく酷い事を言ってくるなのはは、兼一にとってどんな鬼コーチの
 怒鳴りよりも辛いものだった…w

 とは言え、兼一は逃げる事無く連日続くなのはに特訓に耐えた。それに関して
 なのはが相当な美人で、そんな美人にマンツーマンの特訓受けられるなんてサイコー!
 なんて男の下心もあったりしたのだが…何よりも………

 「なのはさぁぁぁぁん! ちょっと小耳に挟んだんですが、なのはさんって
  時空管理局の教導隊って凄い所の所属って本当ですか!?」
 「うん。本当だよ。」
 「って事は…そんな凄い人から直々に特訓を受けられるなんて………もしかして僕って才能ある?
  僕に隠された潜在能力を見抜いてたんですよね!?」

 それまでなのはの事を『とにかくキレイで凄い魔導師』としか思っていなかった兼一にとって
 彼女が教導隊出身だと言う事は衝撃であり、そんな彼女から特訓を受けられる事を
 誇りにすら思い始めて来たのだが………

 「君に才能? ハハハ…冗談キツイな~。君にそんな物があるわけ無いじゃない!」
 「え……………。」

 優しく微笑みながらやっぱり酷い事を言ってのけたなのはに兼一は固まった。

 「ちくしょぉぉぉぉぉぉ! やっぱり僕は…僕はいらない人間なんだぁぁぁぁぁぁ!」
 「あああああ待って待って待ってよぉぉぉぉぉ!」

 怒りに身を任せて首を吊ろうとする兼一をなのはが必死に止める。

 「なのはさんがそんなにまで必死に僕を止めるなんて…やっぱり僕は……。」
 「いや…兼ちゃんに才能が無いのは本当だけど…ってまた首吊ろうとしないで話を聞いてよ!
  私が管理局の教導隊に所属してるのは先にも言った通りだけど、教導隊で教える子って
  みんな訓練学校で成績が良かったり、各隊から選りすぐられたエリートばかり。
  兼ちゃんみたいなタイプの子を教えるのは今回が初めてだから、私としても勉強になるんだよ。
  何も無いまっさらの状態から魔導師を育てて行きたいって思ってもいたし…。」
 「………………。」

 そんなこんなで、毎日毎日馬鹿正直に魔力負荷の重圧に耐える特訓を続けていた
 兼一だが、ついに新しいステップに入る事になった。

 「それじゃあ次は私がこれから兼ちゃんにシューターを撃つから、それを避けてね?」
 「えええ!? しゅ…シュゥゥゥタァァァァ!?」
 「そんな怖がらないの。まずはゆっくり飛ばして、徐々に慣らしていくから大丈夫だよ。
  それじゃあ行くよ。ゆっくり~。」
 「ゲフゥッ!!」

 なのはがシューターを放った直後、その魔力弾が兼一の顔面にクリーンヒットしていた。
 要するに双方の感覚の違いと言う奴である。なのはにとってのゆっくりも兼一にとっては
 超スピードだったのだぁぁぁぁぁぁぁ!

 「ゲフッ! グェ! ガァ!」
 「ほらほら! ちゃんと避けないと大怪我しちゃうよ!」
 「もう大怪我してましゅぅぅぅぅぅ!!」

 こうして、兼一君はなのはの次々発射するシューターを回避出来ずに滅多打ちにされてしまいましたとさ
 めでたしめでたし………でもまだ続くんじゃ。

 その日の特訓が終わり、兼一は全身ボロボロの状態で倒れこんでしまっていた。

 「うう……こんな事続けていたら…それこそ本当に死んでしまうかも……。」
 「あらら…本当派手にやられちゃった見たいだね。」
 「え? あ…あの…どなたですか?」

 突然兼一の前に一人のメガネを掛け、穏やかそうな男性が現れた。そして彼は兼一の隣に座り込む。

 「僕はユーノ=スクライア。なのはの友達さ。なのはが仕事とは関係無い所で魔法を教えてる子がいるって
  話を聞いて来て見たけど………なのはのに魔法を教わるのは辛いかい?」
 「辛いってもんじゃ無いですよ! これじゃあ学校のイジメの方が遥かにマシですよ! って言うか…
  最近は学校のイジメで付く傷よりもなのはさんの特訓で付く傷の方が遥かに大きくて深いんですよ!」

 なのはがその場にいない事を良い事に馬鹿正直に言う兼一だが、ユーノは怒る事無く彼の話を聞いていた。

 「そっか……なら…やめるかい? 何なら僕の方から彼女に話を付けても良いんだよ。」
 「いえ、やめません。なのはさんの特訓は確かに辛いですけど、僕の為を思ってやってる事だと
  分かってますし、それに僕…ずっと友達がいなかったから…友達が出来たみたいで楽しいんです。」
 「そうか…。なら僕の方からは何も言う事は無い。これからも頑張るんだよ。(連日厳しい特訓で
  ボロボロにされてるのに友達なんて……精神的にはかなり強いのでは…?)」

 こうしてユーノはその場から立ち去っていたのだが………何故か次の日の特訓の際に
 また兼一の前に姿を現していたのである!

 「あ! ユーノさん! 今日は一体どうしたんですか!?」
 「毎日毎日なのはの下で頑張っている君にご褒美をあげようと思ってね?」
 「え!? ご褒美ですか!?」

 ユーノの言う『ご褒美』』に思わず兼一の表情が緩むが…

 「今日は僕がバインド魔法を教えてあげよう。」
 「それの何処がご褒美なんですかぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ご褒美と期待してこれだから、思わず涙流しちゃう兼ちゃん。しかしそんな彼の嘆きも
 なのはの前では空しいだけだった。

 「ユーノ君に教わって損は無いと思うよ。私も元々ユーノ君から魔法を教わったんだから。」
 「でもバインド魔法でしょ~? 僕はもっと派手な魔法を習いたいな~。」

 なんて愚痴る兼一であったが、その直後、彼の全身の各部をバインドが締め上げていた。

 「んがぁ!」
 「バインドが地味? 決してそんな事は無いよ。相手を傷付ける事無く行動不能に出来る
  素晴らしい魔法じゃないか。」
 「傷付いてましゅぅぅぅぅ! 体中が絞まって死にましゅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 バインドが地味と馬鹿にされたのがやっぱり気に触ったのか、優しく微笑みながら
 バインド魔法で兼一の身体を締め上げてくるユーノの姿が兼一にはなのは以上の鬼に映っていた…。

 「ユーノ君それ以上やったら本当に死んじゃうよ。こういうのは生かさず殺さずやらないと。」
 「ああそうだね。僕とした事が少しカッとなってたよ。ごめんね兼一君。」

 と、なのはに言われてユーノはバインドを解いたのだが…その直後兼一は一斉に物凄い速度で
 逃げ出してしまったでは無いか。

 「死にましゅぅぅぅぅぅ!! このままじゃ本当に死にましゅぅぅぅぅぅぅぅ!!」
 「あ!」

 今までなのはに課された特訓も下手をすれば死ぬレベルだったが、ユーノのバインドで
 全身を締め上げられる感触は、そのまま絞め落とされても不思議じゃないレベル。
 このままでは本当に死んでしまうと…己の危機を悟った兼一はとにかくどこか安全な所へと
 逃走していたのだが…残念ながらそうは問屋は卸さない。全力で逃げる兼一の全身に
 チェーンバインドが巻き付き、そのまま引き寄せられてしまったとさ。

 「兼一君。どうして逃げるんだい? 昨日、苦しくても止めないって言ったのは嘘だったのかい?」
 「でも死にましゅ~! バインドで全身締め上げられて死にましゅ~…。」

 恐怖の余り狂ってしまったのか、『死にましゅ~』を連呼する兼一になのはとユーノもやや困り顔になる。

 「兼ちゃんはイジメッ子から自分の身を守る為に強くなりたいんじゃないの?」
 「でもその前にここでの特訓で死にましゅぅぅぅぅぅぅ…。」
 「じゃあこの際イジメッ子にイジメ殺されるのが先か? 私達の特訓で死ぬのが先か? って勝負で
  良いんじゃないかな?」
 「さっすがユーノ君! 分かり易い!」

 二人とも優しい笑顔で酷い事言って来るので困る。(兼一君が)こうして構わず特訓が
 再開されるわけだが、その特訓内容はと言うと、重りの繋がった鎖をひたすら引張ると言う
 やっぱり魔法には関係無さそうな感じの内容であった。

 「ユーノさぁぁぁぁぁん! これで本当にバインドを会得する事が出来るんですかぁぁぁぁぁ!?」
 「出来るよ。何と言ってもバインドは引く力が大切だからね。さあ無駄口叩かずにどんどん
  引張って行っちゃお~!」
 「ひやぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱり死にましゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」

 兼一としても信じがたい事だが、なのはとユーノの天使のごとき優しい笑顔で行われる鬼の様な特訓に
 彼は何と二ヶ月も耐えたのであった……………
 そしてあくる日、兼一は何時もの様に学校へ行ったのだが、そこでなのはの義娘であるヴィヴィオが
 なのはとユーノにある質問をしていた。

 「ねえねえ、なのはママとユーノ君が毎日魔法を教えてるケンイチってお兄ちゃんは
  何時も意地悪してるって言う悪い人に勝てるのかな~?」
 「そこはママも分からないかな~。だって兼ちゃん才能無いもんね。ティアナが兼ちゃん見たら
  凡人だなんて自虐的になってた自分が恥ずかしいなんて言っちゃうと思う位。」
 「なのはも笑顔であっさり言うね~。本人が聞いたら泣くかもよ。でもあんまり否定も出来ないから困っちゃうね。
  上手く育てる事が出来たとして…全次元世界オリンピックの魔闘競技で金メダル程度が精々なんじゃ無いかな~?」

 なんて笑いながら三人は言い合っていたが…その肝心の白浜兼一はと言うと…………
 案の定、何時も彼をイジメる学校の不良に取り囲まれ、攻撃魔法の練習と称した
 サンドバッグにされそうになっていた…………のだが……………

 「へっへっへっへっ…白浜~今日も攻撃魔法の練習よろしく頼むぜ~。」
 「ヒィ!」

 兼一に対するイジメの張本人で、グループのリーダーでもある不良が兼一にデバイスを向け、
 攻撃魔法を撃ち込んだ! 何時もやられていただけに思わず怯える兼一であったが………
 次の瞬間、兼一の顔面にヒットすると思われた魔法弾は外れていた。兼一が回避していたのである。

 「なっ!」
 「今までと同じ様に僕を痛め付けるのかと思ったら…手加減してくれたんだね?
  もしかして何時までもイジメばっかりやるのも良くないと思い始めて来たのかい?」
 「な…なんだとぉぉぉぉ!?」

 先程の魔力弾を回避出来たのは不良の中にもイジメに対する葛藤があって、
 その迷いが弾速の低下に現れたと考えていた兼一であったが、それに対する彼の言葉が
 不良には挑発している様に感じられた。不良にとっては真剣に撃ち込んだつもりだったのである。

 「くそっ! お前等何してやがる! さっさと撃ち込め! 白浜をボコボコにしろぉぉぉ!!」

 不良に怒鳴られて、その取り巻き達も一斉に兼一へ向けて魔法攻撃を仕掛けるわけだが、
 それさえも兼一は容易く全て回避してしまっていた。

 「やっぱり…皆の攻撃が遅いや。こんな手加減してくれてるなんて。やっぱり皆も
  いい加減イジメは良くないって思い始めて来た証拠だね。良い事だと思うよ。」
 「なっ………ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!」

 不良達は完全に頭に血が上り、さらに激しい連撃を撃ち込んで行くのだが、
 やはり兼一にはゆっくりした攻撃にしか見えず、次々にかわして行く。

 「ほらやっぱり。皆手加減してくれて……って違う!? そうか! 毎日毎日なのはさんの
  素早いシューターから逃げ回ってたおかげでこっちの目が慣れていたのか!?」

 いい加減彼も気付いた。これは不良達が手加減をしているのでは無い。
 なのはのシューターから逃げ回る特訓を毎日続けた事によって、彼の回避力が
 知らず知らずの内に鍛えられていたのである。
 と、自分の上達を初めて認識した兼一だが油断大敵。ここで初めて直撃を食らってしまった。

 「うっ!」
 「今だ! 白浜を一気に袋叩きにしろぉぉぉぉぉぉ!!」

 一発食らう事で怯んだ隙を突き、不良及びその取り巻き達は一斉に兼一目掛け
 ひたすらに攻撃魔法を撃って撃って撃ちまくった。それこそ…自分達が息切れを
 起こしてしまう程にまで…

 「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…。」
 「ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…ゼェ…。」
 「どうだ……もういい加減死んだだろう…。」

 もはや皆が魔力を使い果たし、中には疲れ果ててその場に座り込む者もいたのだが…
 次の瞬間、滅多打ちにされて倒れこんでいたはずの兼一がムクッと起き上がっていた。

 「何!?」
 「痛たたたた…でも我慢出来ない程じゃないぞ…。」

 流石に滅多撃ちにされたのは痛かった様だが、だからと言って動けなくなる程のレベルでも無かった。
 そう。伊達に兼一は毎日なのはのシューターで滅多撃ちにされてはいなかった。耐久力に関しても
 知らず知らずの内にこの通り鍛えられていたのである!

 「う…うあああああ! 何だコイツ! バケモンだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 「あ! こら! 逃げるな!」

 ついに不良の取り巻き達が散り散りに逃げ出し始めた。無理も無い。それまで単なる
 攻撃魔法の標的。サンドバック代わりに過ぎなかった者の変貌振りに、彼等は恐怖を抱いていたのである。
 元々大半は兼一イジメの張本人の不良と一緒になってやっているだけであり、もうこれ以上
 付き合いきれなかったのだろう。ついには兼一の前に立っているのは不良一人になった。

 「ま…待てよ…置いて行かないでくれよ! 俺も連れてってくれよぉ~!」

 結局こういうのは集団でつるまないと何も出来ない者が多い。この不良もただ一人取り残されて
 初めてその事を露とし、慌てて逃げ出し始めていたのだが………

 「逃がすかぁぁぁぁぁ!!」

 流石にイジメの主犯だった不良だけは逃がすわけには行かないとばかりに、兼一は
 ユーノから何度も締め上げられながら叩き込まれたチェーンバインドを不良に巻き付け、
 さらに重りの付いた鎖をひたすら引張る特訓によって知らず知らずの内に身に付いた
 引く力によって不良を手元まで引き寄せていた。そして…

 「ひ…ひ…ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 恐怖に歪む不良の絶叫が響き渡ったそうな………………………が……………………

 それから数時間後、なのはとユーノの所へ物凄い表情で泣き付いて来た兼一の姿が見られた。

 「なのはすわぁぁぁぁぁぁぁん! ユーノすわぁぁぁぁぁぁん! 助けてくだしゃいぃぃぃぃぃ!!」
 「あらどうしたの? またイジメられたの?」
 「いえ、そっちは何とか出来たんですけど………今度はさらに怖くて強そうな先輩達に目を付けられて…。
  助けてくだしゃいぃぃぃぃぃぃぃぃ!! 今度こそ本当に殺されましゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 兼一をイジメていた不良も、不良の中では雑魚の雑魚に過ぎず、兼一がイジメから身を守る為に
 それに勝ってしまった為に、今度はその上位の不良に目を付けられる様になってしまっていたのである。

 「助けてくだしゃいぃぃぃぃぃぃ! 助けてくだしゃいぃぃぃぃぃぃ!」
 「う~ん…それはちょっと無理な相談かな~?」
 「そ…そんな…なのはさんの薄情者ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 助けを求めるもあっさり拒否され、兼一も思わず泣き叫んでいたが、なのはは手を横に振りながら言った。

 「ああゴメンゴメン。私が言いたいのは、直接手出しをする事は出来ないって意味だから。
  でも、兼ちゃんが自力で何とか出来る力を身に付けるお手伝いをする事は出来るよ。」
 「って事は…今まで以上にキツイ特訓をするって…事ですか?」
 「特訓? 今までのは軽い準備運動。これから初めて特訓に入るんだよ。」
 「………………!」

 兼一は絶句した。今までの辛い特訓の数々は、なのはの基準ではただの準備運動に過ぎなかった―――!

 「ユ…ユーノしゃぁぁぁぁぁぁん! 助けてくだしゃいぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 今度はユーノに泣き付いていた兼一だが、ユーノはそんな彼を拒まず優しくこう答えた。

 「そっか。じゃあ僕の方から一つ策を授けてあげよう。」
 「え!? 何か良い方法があるんですか!? 是非教えてください!」
 「この状況を打開する策…名付けて…戦って、戦って、戦って、戦い続けた末、最後に立っていたのは僕だった作戦。」
 「……………………!」

 兼一はまたも絶句。要するに、この状況を何とかするには兼一本人が強くなる他は無いのである!
 そして、硬直する彼の肩をなのはが優しく手を置いていた。

 「それじゃあ…特訓始めよっか?」
 「ひ…ひ…ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 こうして、白浜兼一君の地獄の日々が始まったのであった……………………

 おしまい







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最終更新:2009年07月01日 21:57