イレギュラーハンターにはその隊員の任務遂行能力に見合った
レベル、即ち「ハンターランク」が与えれる。

振り分けられているハンターランクは現在、四つまで存在する。
下級の順からC級、B級、A級…そして特A級。
特A級のレプリロイドはイレギュラハンター全体においても
僅かの1%にも満たない程数が少ない。

特A級クラス、それはハンター達にとって尊敬できる存在であり、
そのランクを持つ者として、それは自分の誇りに成り得る。

ある者はそれを誇りに持ち、ある一応の肩書きとしてそれを持ち、
そしてある者は、それを己が強者だと言う証としてその名を振るう。

自分より格下の者が適う筈が無いと。



第05話『闘う者 -Revenger-』



「一機たりとも此処を通しはしない!」

ホテル・アグスタ周囲の広域防御戦。ザフィーラが戦っていたのは、お馴染みとなりつつあったガジェットI型と
メカニロイドの混合編成郡だった。メカニロイドは情報に無いタイプも見受けられる。それぞれ恐竜とサソリを模
して造られたタイプである。恐竜に似たメカニロイドの名前はティラノス。元々はロボット博物館の展示品だった
が、対地用小型戦車として改造された物である。サソリを模したタイプはアクランダ。固定式の砲台だったのだが、
サーゲスによって迎撃用として移動ができるように改良されたメカニロイドだ。
ティラノスは前部に装備されたマシンキャノン、アクランダは尾部に装備された小型爆弾と腕部の二連装レーザー
砲でザフィーラを攻撃するが、盾の守護獣の二つ名を持つザフィーラの頑丈なバリアは攻撃を通す事を許しはしな
かった。

「悪いが効きはしない……鋼の軛! おおぉぉあああぁぁぁああぁッ!!」

「鋼の軛」と呼ばれる魔力の諸刃は、ガジェットとメカニロイドの装甲を正確に貫く。串刺しとなった敵機は、脆
くも瞬く間に爆散した。


「レヴァンティン!」

シグナムのアームドデバイス「レヴァンティン」は一発のカートリッジロードによる魔力強化により、その刀身を
魔力の炎で包み込む。魔力を感知した一機のガジェットIII型の模索モニターがシグナムの影を捉える。その途端、
側面に備えられたケーブルと大型のアームでシグナムを攻撃する。しかし、シグナムは地面を蹴って跳び上がり、
そして、

「紫電一閃ッ!!」

炎の魔力を纏ったレヴァンティンの刀身はガードの体勢を取っていたアームごとガジェットの表面を焼き切る。
シグナムがそのまま後方へ一気に飛び退いた直後、ガジェットは爆散する。
ガジェットと伴っていたメカニロイド・ガンボルトは、その名の通りく、ガジェットIII型をを一刀で両断したシグ
ナムに対して電撃弾を放つ構えに入るが、機動力の面はシグナムのそれから見れば、既に物の数ではなかった。

「遅い!」

ガンボルトに対してシグナムとレヴァンティンの鋭く、素早い一閃が走った。その瞬間ガンボルトの胴体
は文字通り横面両断と化し、そのまま滑り落ちたと思った瞬間に爆発を引き起こす。
 


「敵の増援? シグナム達でもさすがに厳しいわね……シャーリー?」

シグナム達が敵と交戦している最中、現場指揮を担っているシャマルへ彼女のデバイス、クラールヴィントのセン
サーが新たな敵影を捉えた。この事は機動六課隊舎のロングアーチからでも既にキャッチしていた。新たな敵影は
少なくとも20機、現状のままでは、さすがの副隊長達とザフィーラだけだは対処は難しいはず。防衛ラインは
新人達に任せるべきと判断したシャマルは、スターズα・エックスに援護の要請を送った。

「こちらエックス。シャマル先生お呼びですか?」
『エックス君、新たに多くの敵機が確認されたわ。シグナム達だけだと厳しいはずなの。援護に当たって!』
「解りました、直ちに副隊長達の援護に回ります!」
迎撃の要請を受けエックスは、新人達に事を告げると、指定を受けた方角へと身を駆け出して行った。



戦場から少し離れた場で戦闘見守っている一人の男と一人の少女へある無線が飛び込む。連絡を送ってきた人物
は、ジェイル・スカリエッティからの物であった。

『ごきげんよう、騎士ゼストにルーテシア』
「ごきげんよう、ドクター」
「突然何の用だ、スカリエッティ」
『君達は近くで戦いの状況を見ているのだろう? ならば少し頼み事があるのだ』
「………」
『あのホテルにレリックは無いようなのだが、実験の材料として良い骨董品が一つあるのだ。協力しては
 くれないかね?ゲストの部下には、自分は破壊が専門だと言われ突っ張り返されてしまってね』
「それで俺達に持ちかけて来たのか?」
『恥ずかしい限りだがそうなのだ。君達なら手も無い事だろう? 引き受けてはくれないか』

スカリエッティは無線越しで話し掛けている大柄な男、ゼスト・グランガイツに自分に頼みを持ちかけるが、

「断る、レリック関連以外の事項で互いに関与しないと誓った筈だ。ゲストに対しても例外ではない」

レリック以外の事で関わるつもりは一切無い。ゼストはその依頼を飲む気は無いと悟ったスカリエッティは紫色の
髪の長い少女、ルーテシア・アルピーノに目線を動かす。

『おっとそうだったな……ルーテシア、君はどうだい、手伝ってくれないかな?』
「……私はいいよ。手伝う」
『ありがとう。ルーテシアは優しいね。今度是非、美味しいお茶とお菓子でもおごらせてくれ』
「……うん、期待している」
『君のデバイスに私の欲しい物のデータを送信したよ。嬉しい報告を待たせてもらうよ』

ごきげんよう、互いに終わりの告げ、スカリエッティとの回線は切れた事を確認したルーテシアは、纏っている自
分のコートをゼストに渡す

「しかし、いいのかルーテシア? これはお前の為ではないのだぞ?」
「うん……ゼストやアギトはドクターやゲストの事を快く思ってないけど、ゲストの事はともかく、私はドクター
 の事はそんなに嫌いじゃないから」
「………そうか」

ルーテシアの手に装備されているグローブ型ブーストデバイス「アスクレピオス」が物静かに輝いた。



「ほう、やはりゼスト氏には随分と嫌われ、ルーテシア嬢には好かれてるようじゃのう?」

ゼスト達との交信を終えたスカリエッティに一人の男が声を投げ掛けてきた、ゲストことサーゲスである。

「ああ、彼等に関しては、色々と事情がお有りなのだよ」
「ふむ……実はな、現場にはスタッガー以外にもう一人ワシの部下を送り込んでるのじゃ。今の会話も傍受
 している筈じゃ。あやつにも手伝いをさせるかのう」
「それならば早く言ってくれないかねドクターサーゲス。 ルーテシアに徒労を掛けさせてしまったよ」
「すまんのう。そいつは偵察とデータの収集が本業なのじゃ」

一体どう言う事情なのか? あえてスカリエッティにそれを問わず、自然と話しをすり替えたサーゲスは無線用の
コンソールを使い一人の部下を呼び出しす。それから間の無く一体のレプリロイドとのモニターが映し出された。

「紅のアサッシンよ、ちとお前に一つ頼みがあるのじゃ」
『は、なんなりと』
「少しの間ルーテシア嬢の手伝いをして差し上げるのじゃ。その後はスタッガーの観察を頼むぞ?」
『承知しました』

アサッシンと呼ばれた者は、サーゲスの指示を聞き入れると、そのまま通信を切った。



各分隊副隊長とエックス、ガジェットとメカニロイド郡との戦闘は、エックス側が優勢を保っている形となってい
る。多くいた編成も、確実に数を減らしていた。
加勢したエックスのバスターは敵機の機影を一機ずつ確実に仕留めていた。前の反乱で明らかに戦闘慣れしていた
エックスは、現在対をなしているガジェットIII型を目掛けて虫のような物が取り付いたのが見えたが、それに構
わず敵機に向けて連続攻撃を炸裂させた。
しかし、放たれたバスターがガジェットIII型を仕留める事は叶わなかった。ガジェットIII型は自身に狙いを付け
たエックスバスターを突如、アームで容易の如く弾き飛ばしたのだ。

「な、なにっ!?」

いきなり弾き返された。エックスが一瞬動揺したのも束の間、ガジェットIII型がレーザー砲を放つ、その反撃は、
一瞬反応が遅れたエックスの肩部をかすめた。その狙いは先程のモノより正確かつ、精密な物であった。虫のよう
な物体がガジェットやメカニロイドに取り付いたかと思ったその瞬間、敵機の動きは途端に鋭く、シャープな物へ
と豹変したのだ。

その時、シャマルからシグナム達に伝達が飛び込む。エックスとヴィータは新人達の待機している防衛ラインまで
後退。シグナムはザフィーラと合流。場合によってはホテル内で待機している隊長達も出撃も要請すると言う内容
であった。

「相手はおそらく召喚師だろう。あの動きで新人達の下へ回り込まれたら危険だ」
「よし、解った!」
「了解! 急いで戻らなければ……!」 

新人達の待機している防衛ラインまで後退するエックスとヴィータの行く手を遮るかのように新たに現れた敵機の
攻撃が撃たれる。こいつ等と付き合っている暇など無いのに! 僅かながらも苛立ちを隠せないエックスの前方を塞
ぎ、狙っていたメカニロイドの編成郡に対して、

「アイゼン! シュワベルフリーゲンッ!!」

ヴィータのアームドデバイス「グラーフアイゼン」から魔力を込めた鉄球の打撃攻撃が多数に渡って叩き込まれる。
エックスに狙いが集中していた為か、対象となっていたガジェットとメカニロイドは回避行動を取ろうとしたが、
対応が間に合わず直撃を受け、粉砕された。

「お前は先に行け! あたしはこいつ等を片付けたら直ぐに行く!」
「すまないヴィータ、気を付けて!」

援護を受けたエックスは、この場をヴィータに任せ、ダッシュ移動で防衛ラインまで一直線に直行した。



防衛ラインまで後退し、エックスは新人達と共に召喚されて出現した敵機を迎撃していた。そんな最中、ガジェッ
トIII型と対峙するエックスの後方にも敵機が腰を構えていた。挟み撃ち。エックスの前方にはガジェットIII型、
後方にはアクランダが腰を構えていた。挟み撃ち攻撃。ガジェットからアームユニットによるなぎ払い攻撃が、
アクランダからレーザー砲が撃たれる。その二重攻撃に対してエックスは、

「ダッシュジャンプ!」

互いの真正面からエックスを狙ったアクランダとIII型の同時攻撃は、ダッシュジャンプで回避された結果によって
皮肉にも、なぎ払い攻撃とレーザー砲は打ち合った味方双方を直撃、ガジェットIII型はある程度のダメージで終わ
ったが、アクランダの方は強力な質量の攻撃が災いしてか、アームは胴体を直撃、完璧に大破してしまった。
空中を舞うエックスを今度こそと言わんばかりに、ガジェットIII型の索敵モニターは再度、降下するエックスに照
準を絞る。しかし、損傷して精密さが損なわれた状態では手遅れも同然だった。エックスのチャージショットの直撃
を受けたモニターは一瞬にして危険信号を意味するレッドアラートに埋め尽くされ間もなく停止してした。

「フェイント戦法さ、精密すぎる攻撃が仇になったな」

ティアナはクロスミラージュから撃ち出される魔力弾でガジェットI型や六課で訓練時に標的の的としても扱われる
メカニロイド・ジャミンガーとボール・ド・ボーに外付け装備されたミサイル弾を迎撃、敵機を仕留める中、エッ
クスの動きに僅かながらも目を見張っていた。ポジションが違えど自分と比較してしまうと同じ射撃を主な戦法と
するエックスに利があったと思えたのだ。

(悔しいけど、正直頼りになる……強い)

今はそんな事を考えている場合ではない、そんな事は後で幾らでも考えれるだろうと自分に言い聞かせてティアナ
は再びクロスミラージュを握り締め、迫り来る敵を落とす任務に集中する事に専念した。



「そろそろ潮時だな……ボス、始めさせてもらうぜ?」
『いいじゃろう。戦果を期待しているぞ。ヒートナックルチャンピオン』
「ボス、この戦いが終わったら俺は降りさせてもらうぜ、俺はスカリエッティの言う野望も、奴の復活も興味は無い。
 エックスさえ倒せたらそれでいいんだ」
『わかっておる。後はお前の好きにするがいい』

そのまま通信は途切れた。

「ククク……待ってたぜ、この手で俺に泥を塗った奴をを焼き払うこの時ををな!」

戦場から少し離れていた場で、業を煮やした一人の男の復讐が熱く、
けたたましく燃え上がろうとしていた。



「あと少しでカタが……!?」

臨機に応戦を続けるエックスの姿に対して、それは飛来してきた。しかし、気付いた時には既に遅しであった。

「何!? しまっ――」

高速で飛来したそれは、炎の塊だった。エックスは凄まじいスピードで自分へ突っ込んで来た"ソレ"に対して対応
が遅れてしまった。そしてそのまま体当たりされた形で離れた場所まで突き飛ばされ、その勢いで吹き飛ばされた
矢先、密生した複数の木を一気に薙ぎ倒す事となる。痛む体を起こし、自分に奇襲を掛けてきた眼前の相手の姿を
垣間見たエックスは一つの驚きに目を疑う。鹿を思わせる頭部に左右分かれたノズルから放出される火で構成され
た角。その姿に見覚えがあった。

「隙だらけぶりは相変わらずだな……エックス!」
「お前は……行方不明になっていたフレイム・スタッガーじゃないか!」
「そうさ、かつてお前の同僚だったヒートナックルチャンピオンだ!」

フレイム・スタッガー。かつてエックスと同じイレギュラーハンターであり同僚だったレプリロイド。シグマの反
乱で姿を消し、行方不明になっていた。左右のショルダーアーマーに追加されたノズル、胸部に組み込まれた計器
類等、ボディの細部が以前の容姿と異なっていた。

「まだあの時の事を恨んでいるのか?」
「そうだ、お前の命を持って俺の栄光を取り返させてもらう……行くぞッ!」

宣言を投げ掛けた直後、スタッガーの両腕から炎を纏った弾丸が複数放たれた。「ラッシングバーナ」と呼ばれる
炎で覆われた弾丸の洗礼を受けエックスは一瞬怯むが、

「くっ! それが理由で反乱軍に身を投じたと言うのかッ!」

体勢を立て直したエックスはバスターでスタッガーの撃ち出す弾丸を正確に叩き落す。更にスタッガーの胸部を狙
いバスターの連打攻撃を撃ち込むが、その直撃を受けたスタッガーは大したダメージを受けなかった。

「どうだ! 貴様を倒す為にボスとスカリエッティに改修してもらったこのボディはよぉ!」
「やはりジェイル・スカリエッティに加担している者がいるんだな……ボスとは一体誰なんだ!?」
「お生憎だが言えねえなぁ! 」

スタッガーの繰り出したパンチをサイドステップで回避したエックスは、近くに大きく聳え立つ岩肌の崖を見つけ
るや否や、お得の壁蹴りで一気に上へと駆け上がっていく。スタッガーの射程外から攻撃する戦法である。

「この遠距離ならばご自慢のパンチも火炎弾も届か―――!?」
「……なら、間合いに入れば良い話しだよな?」

しかし、現在のスタッガーの機動力は、エックスが知っていたそれを大きく上回る物だった。バスターを構えたエ
ックスの目を見張ったのは、自分よりも素早く壁を駆け上がり、既に自分を目前に捉えていたスタッガーの燃え上
がる姿だった。速い、スピードが確実に上がっている。愕然的の思考が走るエックスに対して、

「下へ参りまああああぁぁぁす!!」

スタッガーの出した肘打ちはエックスの背部を打撃。途端にバランスを崩したエックスは地表へ落下するが、表面
スレスレの場で体勢を立て直し、如何にか着地に成功する。だが、ほぼ同時に飛び込んで来たスタッガーはエック
スの頭部を瞬時に鷲掴みにする。

「ぐぁっ!」
「笑っちまう……エックスに敗れちまった連中に笑っちまうね! シグマも含めてな!」
「ぬぐ…ぁ…であぁッ!!」

頭部を捕らえるスタッガーの拳に力が入る。強烈な握力に耐えながらもエックスは、自分の脚部に力を入れた。
その不安定な体勢の中、重みを掛けたエックスの左足が繰り出した回し蹴りは、スタッガーの頭部に確実に打撃
を与える事を許した。不意打ちの一撃はエックスを捕らえるスタッガーの腕の力を緩めた。エックスはそのまま
脱出に成功。体勢を立て直すべくして、ダッシュによる高速移動でスタッガーとの距離を広めるが、スタッガーの
迫る機影は、エックスとの距離を確実に狭めてゆく。

「やるじゃねぇか……だが、またすぐに超特急で頂にさせてもらうがな!」
「くそ、装甲もパワーも! スピードも以前とはまるでダンチだ……!」

強化されたスタッガーは明らかに総合力においてエックスを上回るスペックを得ている。
スタッガーの目先がエックスを捉え、凄いスピードで追い詰めようとしていた。

(真正面からぶつかるのは無謀な沙汰か…ならば!)

エックスは撃墜され既に動かぬ鉄の屍と化していたガジェットを見つけると、ダッシュジャンプでガジェットの真
上へと跳んだと見せたら、スタッガーとの間合いを見計らって、ガジェットに向けてバスターを撃ち込む。
肉薄するスタッガーは目前で炸裂した爆風によって一時盲目となり疾駆していた足をを止める。
盲目も収まり、立ち込めた煙も消えた時には既に、エックスの姿は無かった。

「眼くらましかよ、相も変わらず味な真似をしてくれる奴だぜ」

爆発を利用しで自分が足を止めた隙に逃げたのだろう。しかし、遠くへは行っていない筈。
スタッガーはエックスがまだいると考えられる森の周囲を再び疾駆した。

「エックスめ、何処に隠れやがった…?」

その時、一つの草むらから動く影があった。そこか!? スタッガーはその動いた影へ瞬発的かつ文字通りに、炎
のダッシュパンチを繰り出す。しかし、その影の正体はエックスではなく、既に機能停止していたメカニロイド
だった。直撃を受けたメカニロイドは無残に燃え尽きる。それはエックスの仕掛けたダミーだった。

「ぐお! 変わり身のつもりか!?」

大木に隠れたエックスの上からの奇襲攻撃。スタッガーはガードをする間も無くエックスバスターの連続弾を受け
一瞬の怯みを見せたが、強力となったボディに対してこの程度ではまだ倒れはしない。しかし、足を止める事に成
功した。エックスは彼が見せた隙を突くチャンスを逃がしはしなかった。

「ぐ! この野郎は…!!」

スタッガーは負けんと言わんばかりにランシングバーナーを放つが、相手の動きに注意を払っているエックスは
これを回避。更にバスターの連続攻撃を叩き込み、スタッガーの動きを封じ込め機動力を奪う。連続攻撃の雨を
受けスタッガーは倒れて怯む、一旦攻撃が止んだ事を悟り反撃のチャンスだと見たが、既に目前でバスターを構
えているエックスの姿が眼前と佇んでいた。これではどんなに酷いノーコンでも外し様は無いだろう。勝負が決
まったかに見える。しかし、その銃口を向けるエックスの見せる眼差しは先程の闘いの眼ではない。

「大人しく投降してくれスタッガー。出来る事なら、お前を破壊したくない」
「………!」

それは、一寸の疑い様の無い降伏勧告を意味していた。これは無益な破壊や殺生を嫌うエックスだからこそ取る
行動。相手に破壊以外の選択の余地を寄与する動きには、エックスの優しさが実に垣間見えた。

「ち、畜生! 悔しいが俺の負けだ。素直に認めるぜ……」
「そうか……分かってくれたのか!」

スタッガーに降伏の意思があると判断したエックスはその言葉を率直に聞き入れ、歓喜の表情を浮かべ、バスター
の構えを解き普通の右腕に戻す。もう一度やり直す事が出来る。そんな考えの最中、エックスはスタッガーへ自分
の手を差し伸べる。
しかし、相手の言葉に全く警戒心と言う概念を抱かなかったエックスの持つ"甘さ"がスタッガーに絶好のチャンス
を与えてる機会となった。

「……なんてなああぁ~~!!」
「があぁッ……!?」

強烈なブロウのパンチ。重厚にして鋭い一撃がエックスの腹部にめり込む。その直撃はエックスが怯むには、十分
すぎる威力だった。さっきのお礼と言わんばかりの炎のストレートのパンチは、容赦なく確実にエックスを捉える。
更に、頭部と肩部のノズルから吹き荒れる炎でを耐火コーティングを施したボディに纏い、自らが炎の弾丸と化し
たスタッガーの必殺の突進攻撃「ラッシングストライク」がエックス蒼いボディに叩き込まれた。

「やっぱりお前ェは飛んだ大アマちゃんだな!! エックスウウゥゥッ!!」
「ぐあああああぁぁぁぁッ!!」

強烈なとダッシュパンチ、強烈なタックルの連続攻撃のコンボを受けて吹き飛んだエックスは、運が悪いのか後方
に頑固と晒していた岩石に叩きつけられ、そのままうつ伏せに倒れ込む。これは、エックス自身の優しさが招いた
結果であった。エックスの持つ甘さをスタッガーは常に気に喰わなかったのだ。

「その優しさに大いに感謝するぜ? 御人好しのエックス隊長~?」
「くそ、スタッ…ガー…」
「そうだ……お前が俺の栄光を、俺の名誉を、俺の誇りを滅茶苦茶にしたんだ! 俺の全てをッ!!」

スタッガーはエックスやその周囲を目掛けて燃焼性を高めたラッシングバーナーを容赦なく乱射。その火炎の弾丸
はエックスを囲む芝生や木、メカニロイドとガジェットの残骸に引火して激しく燃焼。忽ちエックスを憤怒の炎へ
と飲み込んだ。焼き切る音が叩き上がるその光景は、雪辱で満たされたスタッガーの心境を具体化していたのかも
しれない。反乱軍に加担した事、サーゲスとスカリエッティ一味に加わった事、全てはこの時の為だった。

「そうだ……あの時から俺は――」



その復讐は、シグマの反乱が起こる前の頃から始まった。

かつてフレイム・スタッガーはイレギュラ-ハンター第17精鋭部隊所属の特A級の優秀なハンターであった。
素早いスピードと強力なパンチ力。その実力によって彼は「ヒートナックルチャンピオン」の異名で知られ、
格闘能力に関しては同じ部隊の所属であり「豪速拳の雷王」と呼ばれたスパーク・マンドリラーと並ぶ程の
実力者と言っても過言ではなかった。スタッガー自身も特A級と言う肩書きと己の異名に自信を持っていた。
自分は何者よりも強い。自分より下のランクの奴が自分に適う訳が無い。通用する奴は隊長であるシグマ位だろう。
自分は無類の実力者だあり、特A級のエリートハンターだ。これがスタッガーの持つ自身と栄光だった。
だが、愚かしいまでの過信は、自身の名を崩壊へと導く結果へ繋がった。

かつて、イレギュラーハンターでは一部の特A級ハンター達による下級ハンター達への暴行が問題となっていた。
被害を受けたハンター達はこの件の事を上告をしたが、加えた当事者曰くリクリエーション、コミュニケーション。
蛮行と暴行はその一言で容易に一種のコミュニティにすり変えられてしまった。暴行を行っていたグループの中心
となっていたのが、フレイム・スタッガーだった。

スッタガーの栄光が砕け散ったのはその時である。自分の行為に対して怒りを覚え、噛み付いて来た男がいた。
その男こそ、エックスだった。ズバ抜けた能力をを持っている訳でもなければ、特A級クラスのハンターでも
ない。敵にも情けをかける程のアマちゃん。大した実力も無い、単なるB級ハンターに過ぎなかった。
そんな奴に負ける筈がない……絶対的な自身を抱くスタッガーはそう考えていた。

そしてエックスとスタッガーの一発勝負の一騎打ちが行われる事となる。

「俺が勝ったらその行い、改めてもらうぞ……スタッガー!」
「良いだろう。だが、B級クラスは特A級クラスに絶対勝てないと言う事を教えてやるさ……」

エックスの申し出した約束をスタッガーは何の苛立ちも無く承認した。何故ならば自分はその契約を遂行する事な
ど有り得ない、即ち自分が絶対的に勝利すると確信していたからである。

確執する決闘は、スタッガーの勝ちと言う形で一瞬で終わるだろう。これまでにスタッガーに反発を抱いて叩き込
みを仕掛けてきた下級生達は皆、彼によって返り討ちに遭ってきた。今回も同様だろう。観戦していたハンター達
はそう疑わなかった。しかし、結果は予想とはまったく違う結果となる。スタッガーの一撃をかわし、エックスの
一撃が入る言う結果に終わったのだ。ある者は唖然とし、ある者は歓喜した。

「これはぁ……勝負あったな?」
「何だと? 冗談を抜かすなマンドリラー! 俺がエックスに負けたとでも言いたいのかッ!?」
「さすがに潔く負けだと認めるべきだと思うよぉ、スタッガー?」
「な………」

敗北。自分が負けてしまった。相手は隊長のシグマでなければ、同じ所属で名を馳せた"あの男"でもない。
一部から落ちこぼれと呼ばれていたエックスに負けた。ただのB級ハンターに。

「認めん……俺はこんな結果…断じて認めなぞおおおぉぉおおぉぉぉォォォッ!!」

これを境にスタッガーの持つ栄光は崩壊して行った。
その後、一部の者達にこう罵倒される。

「クワワ、近寄るな! お前の敗北ウィルスに感染てしまうクワッ!」
「にににに! B級に負けたお馬鹿さん? これは良い傑作だぜ~?」
「おやおや……それは何と言うごった返しの芸術ですか、スタッガー?」
「スペック面では貴方に利があった筈……さすがに自業自得と言いざるを得ませんね?」

これは、自分自身に絶対的な自信を持っていたスタッガーにとって極めて耐えがたい屈辱以外の何物でもなかった。
フレイム・スタッガーは誓った。自分の名を汚し、泥を塗り付けたエックスを倒す事を。復讐である。
そして、シグマの反乱が動き出した時、スタッガーもこれを機会として反乱軍に加わった。エックスを倒す為。
あの時の事を嘘にする為。自分を見下した者達を見返す為。しかし、シグマから他のレプリロイド達に各ごとの作
戦が与えられる中、スタッガーには大した命令は下されなかった。そして、エックスを倒す機会が回らぬまま指導
者であったシグマはエックスとの死闘劇の末に敗れ、反乱軍は壊滅状態となる。

地に堕ちたも同然だったスタッガーとは対照的にエックスは、反乱軍を鎮圧した功績を評価され、特A級クラス
へと昇格する。更に第17精鋭部隊隊長の座へ就任。それ以降、一部のレプリロイド達からエックスは、尊敬で
きる存在、更には一種のヒーロー像とまで称えられていた。明らかに自分より格下だった男が気づけば自分と同
等……否、それ以上の出世を果たしていた。自分は蹴落とされ、相手は英雄呼ばわり。これは雪辱でなければ何
なのだろうか。

あの男さえいなければ。一人のレプリロイドさえいなければ。エックスさえいなければ。
自分は未だ名誉の有る存在だったかもしれない。それを、この男は剥奪した。
自分を蹴落とし、英雄呼ばわりされた奴が。故に憎み、恨んだ。復讐を誓った。

残党を率いる一人の老人が逃亡を続けていたスタッガーにある話を持ち掛けてきたのはその時である。
その話しは可笑しいとしか言い様がなかった。魔法文化、異世界、おとぎ話しも良い所だった。
しかし、ある一言が、スタッガーを大きく促した。

「自分の部下になれば、エックスを倒せるだけの力を与えてやろう」

スタッガーはこの話に賛同。エックスに対する復讐を再び待った。
そして―――



「クククク…ハハハハ! 貴様の大負けだなエックス! お前に相応しい火葬じゃないか!」

そして今、己が誓った復讐は完遂されようとしている。これ程の凄まじい灼熱の炎の中でエックスが助かる見込み
など無い。ある筈が無い。あってはならない。スタッガーは自分の勝利を確信し、歓喜に走った。
何かと自分とつるむんでいたナウマンダーも報われるだろう。

「所詮エックスはエックスだったか。これでフィニッシュに……ん?」

最後の一撃を放とうとしたその時、二人の人間の叫び声が、動きを止めた。

「まさか、エックス!?」
「これは一体何が……そんな!」

スバルとティアナだった。ライン周辺に位置する一定の敵機を一掃し一旦落ち着いた頃、離れた所からエックスの放つ
識別信号と、未確認を意味する未確認の信号が激しくぶつかり合う様子が確認された。これはただ事ではないと察
した二人は、エリオとキャロを下がらせ、エックスの援護に向かったのだ。向かう最中で彼の放つシグナルが途絶
えた。反応が途絶えた地点で二人が目にしたのは一体の未確認の敵影と燃え盛る炎の塊だった。
これが何を意味するのか、まさか? 二人の脳裏にに最悪の事態がよぎった。

「お前達は……エックスのお仲間だな? 一歩遅かったな、只今エックスの火葬の真っ最中さ!」
「 よ、よくも! 許さないっ!!」
「スバル、落ち着いて!」

火葬と言う非情な通達に対してスバルの怒りが走った。しかし、ティアナはそんなスバルに冷静になるように促す。僅か
ながらもエックスの反応をクロスミラージュが感知したのだ。まだ助ける事ができる。ならば現状で二人が成すべき事は
一つ。

「敵をノックダウンした後にエックスを救出する」
「うん!」

スバルとティアナは自分達で組んだ一つの陣形の構えを取った。

「クロスシフトAで行くわよスバル!」
「おぅ!」

合図を交わすと、スバルは自分の特殊魔法ウィングロードを形成、魔力で作られた青色の道を空中へ向ける。更に
相棒であるデバイス「マッハキャリバー」で構成されたウィングロードを駆け抜けながらリボルバーシュートでス
タッガーのを動きを止める。無論スタッガーもラッシングバーナーで応戦するが、スバルはロードの方向を器用に
変えて相手の攻撃を臨機に回避し、命中弾をプロテクションで遮断する。

「えぇい、五月蝿いハエみたいに動き回りやがって!」

その間、スバルに気を取られていたスタッガーのティアナに対しての攻勢はほぼ皆無と化していた。ティアナはス
バルが敵の気をの気を引き付けている隙に魔力を形成。両手に持つのクロスミラージュのカートリッジを両方一発
ずつロードする。合わせて二発ロード。周囲にオレンジ色の魔力弾が複数形成される。
そう、スバルが相手を撹乱している所へティアナの攻撃で敵を鎮圧すると言う戦法なのだ。

ティアナは両手が振るう。スタッガーが気付く時ティアナの攻撃を避けるには若干ながらの時間が足りなかった。

「クロスファイヤー!シュートッ!!」
「チぃ、猪口才な!?」

クロスファイヤーシュート。ティアナの周辺から構成された複数の魔力弾は一斉に撃ちださた。その一つ一つの弾
は確実にスタッガーのボディに叩き込まれ、爆風が巻き起こる。それだけでは終わらない。着弾地点を目掛けて、
クロスミラージュのトリガーを引き、更に攻撃を撃ち込む。ただし、最優先目的はあくまでエックスの救出であり、
敵機の撃破ではない。相手の抵抗力を奪えば良いのだ。一定の攻撃を終え撃ち方を止めた。

ここでティアナはまだ警戒を解くべきではなかった。相手は未知数なのだから。

「中々と堪えてくれる弾丸じゃないか……だが、まだ俺は倒れてないぜ?」
「なっ―――!?」

自分の想像以上にタフであった。相手はエックスをも退けた強敵、それを忘れてはいけなかった筈。煙幕から姿を
突如現したスタッガーの回し蹴りがティアナを襲った。不意打ちに近い攻撃に対して受身を取れず、ティアナの体
はそのまま左方面へと突き飛ばされ倒れこみ、ティアナは気絶してしまう。

「よくもティアをっ!!」

おとり役を担っていたスバルが感情を昂ぶらせる。スバルはスタッガーへと方向を向け、迎撃とし撃ちだすラッシ
ングバーナーを一つはプロテクションで逸らし、または敏感な機動で避けながら、更にはリボルバーバスターで叩
き落しマッハキャリバーの持てるスピードを活かし、一気にスタッガーへと切り込む。そして、

「うおりゃあああああぁぁ!!」
「たああぁああああぁぁぁ!!」

リボルバーナックルとスタッガーの拳が激突。二つの強力な力は、互いに大きな反動エネルギーを発生させて、ス
バルとスタッガーの体は大きく後ろへと飛び退いた。
人間の癖にやってくれる。未だに余裕を募らせるスタッガーに対して、スバルは既に次の二撃目の構えを取ってい
た。

「ディバイィンバスタアァーッ!!」
「が……ッ」

スバルの右拳から放たれた砲撃魔法ディバインバスター。その青い魔力の光の砲撃はスタッガーを捉えていた。
しかし、その攻撃は終わった中、スタッガーは倒れてはいなかった。そのタフネスぶりはヒートナックルチャンピ
オンだから持ち得る物なのだろう。しかし、

「な……」

手応えあり。スバルの叩き込んだディバインバスターの一撃は、直撃したスタッガーのボディに確実なダメージを
負わせていた。胸部には大きなヒビが入っていたのだ。

「コ、コイツは……よくも! よくも俺の体に傷をッ!!」
(今は間合いを取らないと……!)

スバルは一旦スタッガーとの距離を取るべく、素早くバックで下がろうとする。しかし、己が身に大きな傷を負わ
せた相手を、スタッガーは逃しはしない。「逃がさなねぇぞッ!!」と声を張り上げ、頭部ノズルからけたたまし
い炎を突き立て、タックルを活用したダッシュ移動で一気にスバルとの間合いを詰め、そのままスバルの右足を
踏みつける。

「あぁっ!?」

踏みつけられ重心バランスを大きく崩し、隙を見せたスバルに対しスタッガーは鋭いパンチの重みを腹部へと流し
込んだ。本気の力が入ったものではなかったが、その一撃は強打したスバルにとって大きなダメージとなった。
言うなれば大砲の鉛弾が直撃したかのような激痛に襲われた。腹部を抱え倒れこみそうになったスバルの首筋を、
スタッガーの左腕が掴み、絞め上げた。

「ぐぅ…ッ!?」
「苦しいか? 止めてしてほしいか? なら詫びた方がいいぜ、最後の仕上げの邪魔したからな?
 まぁ、謝った地点ですぐには放さねぇがな!」

最後の仕上げとは無論エックスに止めを刺す事だった。それを邪魔されて気分が良いわけがない。
自分に傷を付けたとは言え所詮は人間。それも年端も行かない女子供。すぐに弱音を吐き命乞いをする。
そういった思考を走らせるスタッガーの思案は裏腹に、スバルの見せる風当たりは頑強だった。

「だ、誰が……」
「ん?」
「誰が謝るもんか…あんたの様な奴なんかに、誰が謝るもんか……!」

それが強がりなのかは解らないが、この状況でも屈する気などスバルにはなかった。
しかし、その風当たりは、スタッガーからすれば挑発も良い所であったのだ。

「仕方ねえな……少しでも俺に善戦した礼だ、じわじわと殺してやるさ!」
「!! う、うあ、あ…ぁぁ…っっ!!」

自分の首を絞める敵の腕に強い力が一気入る。苦しい。痛感の感覚がスバルを襲う。スバルは顔を歪めながらも、
この状況から脱しようと右腕のリボルバーナックルで自分の首を絞め上げる相手の腕を何度も殴りつけ抗うが、先
程受けた痛みによるものなのか、思うように腕に力が入らなかった。もがく内に自分から体力が徐々に奪われてい
くのをスバルは苦しみながら感じ取った。

「うぅ……ス、スバル!?」

意識を取り戻したティアナの眼前に飛び込んだのは、友人が首を絞められもがき苦しむと言う衝撃的な光景だった。
許せない。何とかして奴とスバルを引き離さなければ! ティアナはクロスミラージュを握り締め、スタッガーの腕
部に狙いを定める。相手はこちらに気付いてはいない。注意を逸らしてスバルを助けようとした。
しかし、ある一つの感覚が、ティアナに降りかかった。

(撃てない……問題なんて何も無いのに、どうして!?)

ティアナが構えるクロスミラージュは確実にスタッガーの左腕を捉えていた。狙いは正確で外す事は無かった。
しかし、ティアナは引き金を引く事が出来なかった。妨害する物は何も無ければリスクなど、何も無い筈。ならば
どうしてなのか? ティアナは恐れていた。もしも自分の弾がスバルに当たってしまったら? その不安が、ティア
ナに大きな躊躇いを生み出していた。気付けば不安の余りにクロスミラージュを構える自分の手が震えていた。

こうしている内にもスバルの意識は徐々に遠ざかろうとしてた。腕の力は抜け落ち弱々しくなり、目の前の視線も
おぼろけになりだす。もう自分は駄目なのか? そんな恐怖さえ走った。

「一つっきりの命だったんだ、もっと大事に扱うべっきだったな!」

しかし、嘲笑うスタッガーは一つ腑に落ちない事が有る部分に気付く。それは違和感だった。スバルにストレート
を打ち込んだ時の手応えの感覚、そして目前の状況。普通の人間ならば既に抵抗する力も無い筈。違和感はそれだ
った。スカリエッティの一味により、この世界に関する知識や技術の事は知っている。自分の攻撃をまともに受け
ても死なないのも、大抵はバリアジャケットと呼ばれる一種のアーマーのお陰による事もスタッガーは承知してい
た。しかし、直撃ならば多少の致命傷を負っても変ではない。

(普通の人間と全然違った……普通だと? まさか、コイツは――)

ある一つの概要が思考から浮上していた瞬間。
スタッガーの腕を光の槍の一閃が走った。そして――

「……え?!」
「うぁ……」
「な、ななな何だとッ!?」

その一閃が走った直後、スバルを締め上げていたスタッガーの腕が切り裂かれた。
左腕を削ぎ落とされると言う全くの予想外の事態にスタッガーはうろたえるしかなかた。
その一撃は炎の中から放たれた物だった。そして、それを放った姿は―――

「残念だったなスタッガー……俺の火葬は見送りだ!」
「て、てめぇは! あの炎の中を生きていやがったのかッ!?」

異様な熱気と燃え盛る炎が裂かれている中。その周囲の眼前の先に飛び込んだのは他でもない。ダメージで傷つき、
焼きただれながらも、敢然と立ち尽くし、バスターと鋭い視線を構えるエックスの真影だった。
お世辞にも無事とは言えないが、エックスの姿を見えて、スバルとティアナは安堵する。

「エ、エックス……!」
「よかった……本当によかったよ…!」

エックスは、炎と熱気が猛然と視界を防いでいた中、チャージショットの銃口を絞り込み、貫通力を高めたスピア
ショットで、文字通りスバルを苦しめていたスタッガーの腕を、正確には腕の関節部を射抜いたのだ。しかし、
視界が遮られていると言う悪条件の中でそれこそ僅かでも狙いが逸れていたらスバルに命中していた危険性があっ
た。精密な射撃能力が無ければ出来ない事であった。

ティアナは、荒業としか言い様がない事を成したエックスに一瞬唖然としたが、直ぐに我に返り、
解放されて横に倒れていたスバルの下へ駆けつけ、スタッガーの距離を引き離し彼女の傍らとなった。

「スバル大丈夫? しっかりして!」
「ご、ごめんティア……ちょっとしくじちゃったよ」

先程までの苦さで咳を突きながらも、スバルは健気さを失ってはいなかった。ティアナは相棒を助ける事が出来た
筈なのに出来なかった自分を責めると一瞬考えた。しかし、スバルは責めなかった。むしろ「助けようとしてくれ
てありがとう」と礼すら述べた。そんなスバルを見て、ティアナは自分が不甲斐なく思えた。
一方、片腕を失うと言う予想外の展開に動揺を隠せなかったスタッガーは既に、先程まで感じた疑問の事など、
既に眼中に無く、混沌とした視線は、エックスに対してただ唯一の的を得ていた。

「もうお前を許さない……」
「な、なんだと……!?」
「俺の事をどう思うのも、俺をどう恨むのも、お前の勝手であり、お前の自由だ」
「ヒュッ―――!」

エックスの見せる顔を伺った瞬間。スタッガーは一瞬自分が臆している事に気づいた。エックスの鋭い視線、原因
はそれだけだった。常にアマちゃん呼ばわりされている男に対し、自分は僅かでも恐怖も持ったのか。それだけも
信じ難い物だった。しかし、拳を握り締めるエックスの張り出した台詞は、スタッガーの最後の油に火を点け怒り
が臨界状態へと達するにはもはや十二分だった。

「だが、それを理由にして何の関係も無い友達を手に掛けようするお前を……俺は許さないッ!!」
「こ、この"エセ"特A級は! そう言った正義の味方ぶる貴様の虚言癖が気に喰わないんだよッ!!」

スタッガーはエックスの事が気に入らなかった。不愉快、ひたすらに不愉快。その負の力がスタッガーを支配して
いた。それに対してエックスは先に見せた躊躇いは既に消え失せている。もはや更正の余地は無し断定。目前の
"敵"を討つ覚悟は既に決まっていた。

「フレイム・スタッガー……イレギュラー認定、処分するッ!」

地盤が揺るぎ、怒りの気迫に満ちたスタッガーの残された右腕から、凄まじい力と全てを焼き尽くすかの如く、白
熱と化した紅蓮の炎が燃え盛る。胸部の火力メーターの針はオーバーヒートを示す限界領域を振り切っていた。対
する鋭い目付きを貫き通すエックスも、バスターのエネルギーを限界までフルチャージする。双方も己が持てる力
を限界の限り出し尽くす。出し惜しみなど一切を持って無し。次の一撃で勝負は決まる。

「貴様のその眼が……お前のその眼を今度こそ抉り潰してやるッ!!」
「他人に暴力を尽くすお前に、誇り有る特A級ハンターを名乗る資格は無いッ!!」

イレギュラーハンター・エックスとフレイム・スタッガー。二つの確執。
二人のレプリロイドが真正面から飛び込み、最後の一撃繰り出す。

「エックス―――――ウゥッッ!!!」

最初に一撃を出したのはスタッガーだった。怒りと復讐に満ちた憤怒の炎、エックスに向けて全ての力を込めた
ストレートの一撃「アトミックナックル」とも言うべき白熱で覆われた最後のパンチは、

「がッ―――」

しかし、その懇親の一撃がエックスを仕留めることは適わなかった。完璧に冷静さを欠き、怒りに全てを委ねたス
タッガーの拳の軌道は直線的、故に単純だったのだ。エックスはスタッガーの動きを見極め、パンチが入るか否か
と言う瞬間、寸前の所で己の身の姿勢を崩し、身を潜めスタッガーの懐へと入り込み、

「うおおおぉぉぉぉぁぁああぁぁぁッ!!」

カウンター。そのままエックスの右腕はスタッガーの胴体を一気に突き上げると同時に先の物とは対照的に攻撃力
を重視し、懇親の一撃秘めたハイパーXブラスターを放った!
確かに強化されたスタッガーのボディは頑丈である。その装甲は分厚く、エックスのバスターを幾度も防ぐには、
十分な耐久力を持つ。しかし、それも完璧なる鉄壁ではなかった。クロスファイヤー、ディバインバスターと立て
続けに強力な攻撃を受けるボディにもダメージが通っていた。スバルが打ち込んだ攻撃でそれは明確と化していた。

超至近距離から撃たれたエックスバスターが、スタッガーの体をに貫いたのだ。

(俺の炎が消え行く……負けた、俺はまた、エックスに負けたのか……)

紅蓮の炎が尽きた瞬間。スタッガーの心情が走った。二度の敗退と復讐の失敗。たったそれだけの事だが、今まで
の心情とは比例にならない程の実感が突き抜けた。多くの部品が飛び散る中、エックスの一撃を受けたスタッガー
は、スローモーションが流れたかのように空中を舞い、そのまま大地に倒れ込む。その光景は傍かも、エックスが
アッパーカットを繰る出したかの様に見えた。

「はぁ…はぁ…はぁ……くっ」

闘気は既に冷めていた。傷つき、疲労に果て、荒い息を吐く、一時膝が地面を着いたが、エックスは痛む身体を
お越し、半ば屍となっているスタッガーの下へと歩み寄せる。意識が途絶える寸前、スタッガーは言葉を発する。
動力炉は完全に大破、致命傷。体の到る箇所から火花が著しく飛び散り、スパークが走っていた。機能停止する
のは時間の問題だと言う事はスタッガー自身も十分に悟っていた。

「フ…ハハハハ……ボスの口車に、乗った結果がこれか……」
「…………」
「俺は……エックスに負けたんじゃ、ない……自分の…過信に負けた……んだ。今更、だが…な」

この時、スタッガー疑問の符が抜けなかった。。何かを自分が何故エックスに二度も負けたのか。何故エックスは
倒れなかったのか。自分が人間に手を出した時に見せたエックスの眼がそれを物語っていたのかもしれない。
しかし、スタッガーはエックスが勝ったと言う事を認めたくはなかった。エックスの力に負けたのではない。
自分の敗因は幾つか…一つは己がの異名に溺れた自分にある。そしてもう一つは――

「シグマを退いた伝説……あの話、は……本当、かも…しれ……――」

ある一つの伝説。残された力でその言葉を発して間もなく、フレイム・スタッガーの機能は停止。
もう"ヒートナックルチャンピオン"がその拳を振るう事は無かった。

「最期まで自分の肩書きに自惚れたのが、お前の敗因だったな。スタッガー……」

既に事切れていたスタッガー見届ける、エックスはかつて同僚の一人だった男の結果を受け入れるしかなかった。
結果的にハンターとしての担う役目を全したが、シグマの反乱の時と同様、レギュラー化したとは言え、同じ仲間
だったレプリロイドを倒した事は、エックスにとって気持ちの良い事ではない。これからもそうだろう。しかし、
スバルとティアナに危害を加えて、あまつさえ命を奪おうとしたスタッガーを許す事ができなかった。だが、その
状況を作ったのは他でもないエックス自身である。スタッガーに見せた"甘さ"が故に、間接的とは言え、二人を危
険な目に遭わせたの事は否定できない事実。

「こんな様じゃ隊長の肩書きなんて……?」

飛散したスタッガーの破片の中からエックスは、ある一つのパーツを発見した。それは、ラッシングバーナーを撃
ち出す為の武器チップだ。ラッシングバーナーは本来、スタッガー専用として造られた特殊武器なのだが、エック
スはその武器チップを手に取り、バスターに備えられている接続端子に組み込む。

「ウェポントレース終了……悪いけど、お前の武器を借りるよ」

「………」
「………ぁ!」

二人の死闘を見守っていたスバルとティアナはただただ唖然とするしかなかった。
特にティアナはエックスの見せた力強さに圧倒された感情さえ湧き出た。
正直な事を言ってしまえばあの状況下、エックスが自力で助かるとは思えなかった。
そして彼を助けるつもりが、逆に自分達が助けられた。自分が出来なかった事を
やってのけた上に目前の強敵を倒してしまった。

そしてティアナは思った。やっぱりエックスは強いと。



「エックス、フレイム・スタッガーを撃破セリ」

丁度その頃、陰からエックスとスタッガーの闘いを観察しているレプリロイドがいた。紅のアサッシンと呼ばれた
者である。サーゲスから二人の戦闘データの収集と状況の報告、スタッガーが倒れたら最優先で帰等するように命
令を受けていた。

「直ちに主に報告しなければ……ジャマー解除」

そして、スタッガーがエックスに倒された事を確認し、現状の任務を果たしたと判断した彼は、その場を去る事を
決定する。その瞬間、紅のアサッシンの姿は影に溶け込むかのに姿を消していた。それはまるで、忍者の如く。



エックスがスバルとティアナに身の安全を確認し合っていた中、三人へ無線が突然割り込んできた。
無線の主はロングアーチの通信士であるルキノ・リリエからだった。

『応答してください、こちらロングアーチ!』
「こちらスターズα、エックス」
『よかったぁ、先程から連絡が繋がらなかったから心配したよ!』

手っ取り早く呼びかけに答えたエックスに対して、ルキノの声から心配していた様子が伺えた。先程までエックス
達のいたエリアからジャミング電波が発生していたらしく、今まで回線が上手く繋がらなくなっていたのだ。

『各方面のガジェットとメカニロイドは殆ど撃破。残りの敵機も全て機能停止。そちらの状況は?』
「こちらは敵機を指揮していた思われる敵を撃破。戦闘によって一部で火災が発生。直ちに救援を願います!」
『確認。リイン曹長にそちらへ向っていただくよう指示します。皆は一旦ラインまで戻って下さい』
「了解。一時後退します……」

交信を終えるとエックスは立ち上がり、スバルとティアナと共に後退する。

皆の下へ戻る最中、エックスはフレイム・スタッガーとの戦いで自分が持つ一つの心算が完全な物に
固まった事を感じた。この世界の事件にイレギュラーの反乱軍残党が絡んでいるのは疑い様の無い事実だと。
異世界においてもイレギュラーが暴れた時は自分も戦う。イレギュラーを許してはおけない。

ジェイル・スカリエッティと手を組む反乱軍残党の目的が何であろうと関係ない。
その者の企みを暴き、必ず止めてみせる。
エックスは再び決意を新たにした。

一人の親友との誓いを守る為に。



フレイム・スタッガー撃破!
You Get! Rushing Burner!



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最終更新:2009年07月14日 20:14