恐怖心を感じなかったことなんてない。
 いつも戦うのは怖かったし、別の次元世界にいる凶悪な魔法生物などは外見から既に恐ろしいものだった。
 それでも戦えたのは皆を守るためだったから。大切な友達や仲間、助けを求めている人達のためだから戦えた。
 けれどあの時から本当に怖くなってしまった。
 大切な、本当に守るべき大切な人が、出来てしまったから。
 死ぬのは怖くない。けれど自分が死んで彼女を一人ぼっちにしてしまうのは怖い。どうしようもなく怖い。
 あの怪我でわたしはまた弱くなった。このままでは本当に死ぬかもしれない。絶対に死ぬわけにはいかないのに。
 そんな悩みを抱えているわたしの前に、彼は現れた。



   リリカル×ライダー

   第九話『仮面』




 俺は無断外出がバレてしまい、隊長室に呼ばれていた。
「……で、カズマ君はなんで外に出とったん?」
 はやては珍しく怒っていた。真面目な表情を見た時も驚いたのだが、今回はそれ以上のものだった。
「俺は、その、外の空気が吸いたくて」
「それだけのためにわざわざヴァイス君のバイクを持ち出しとったん?」
 はやてがこちらを睨み付けながら痛いところを突いてくる。流石ははやて、普段から口論で勝てた試しがないほどの弁達者だ。いや、俺が下手くそなのもあるだろうが。
 ただ、今回はこちらも必死なのだ。負けるわけにはいかない。
「実は、怪物を倒そうと思って街を捜索してたんだ」
 嘘は、ついていない。内容は事実そのものだ。
「……もしかして、この前の事件の?」
 ティアナと出かけた時の、ローカストアンデッドの事件のことだろう。こいつのカードには色々と複雑な念を抱いてしまう。頼りにもなり、災いの種にもなる、そんな思いだ。何故かは分からないが。
 閑話休題。
「俺なりに責任を感じたからな。でもごめん、皆に迷惑かけたな」
 取り敢えず謝る。事実、彼女には迷惑かけっぱなしだ。この期に謝っておくべきだろう。
「――ホンマ頼むから心配かけんでや」
 はぁ、とため息をつくはやて。部隊長として忙しいにもかかわらず迷惑かけたのは本当に申し訳なかった。
 けれど、やめる気は全くないが。
「ところで、誰が気付いたんだ?」
「ん? キャロが気付いたんよ。芝生が荒れていたのを気にしててな」
 そうか、と俺は納得した。



     ・・・



「ライダー……僕とカリスの決闘を邪魔したお前を、僕は絶対に許さない!」
 空を舞う人影が羽根を引き抜く。高層ビルが乱立する、人工のジャングルとも言うべき街を見下ろしながら。
 彼が思い浮かべるのは一万年前のバトルファイトと、十五年前の人間が起こした偽物の殺し合い。
 前者はカリス――ハートのカテゴリーエースとの闘いを、後者は『仮面ライダー』と名乗る人間との戦いを想起させる。
カリスとはいわゆるライバルであり、バトルファイトに決着をつける際、戦おうと誓った仲だった。逆に『仮面ライダー』はその神聖な決闘を妨害した憎き敵だった。
「あの男が望む通り戦ってやろうじゃないか。そしてカリスを解放し、もう一度あの続きを――!」
 彼は怒りを、そして決意を固めながら憎むべき人間を俯瞰する。
 人影、否、雄々しい翼を伸ばした人ならざる者の影から、鋭利な刃物のような羽根が鋭く投げられる。それは煌く軌跡を描きながら地表へと吸い込まれていく。
 またしても、クラナガンで被害者の絶叫が響いた。



     ・・・



「ダメダメですよ~! 一人で外出なんて~」
 俺は訓練場に行きながらリィンにこっぴどく叱られていた。もっとも、身長30cm程度のリィンが怒っても可愛らしいだけだ。俺としては気にもならない。
「悪かったよ」
「もう、外出ならリィンがついていきましたのに~」
 いや、それじゃ意味ないから。と心の中で突っ込んでみる。
 そんな雑談をしている内に、俺は訓練場に辿り着いていた。
 今日も誰もいない。皆捜査に奔走してるみたいだ。俺は日課の訓練をこなすためにリィンを連れて来ていた。リィンがいなければ訓練場の空間シミュレーターが制御できないからだ。
「じゃあ、いつもの続き、やりますよー!」
 おー、と言って答えるが、当然やる気はない。ここの所、寝不足がかなり響いていて、ときおり眩暈すらするほどだった。

――ドクン。

 そう、こいつらのせいで。俺はあんな狂った力を使わなければならなくなるんだ。そのために睡眠時間が削られているんだ。
 だが、今回の反応はいつもと違っていた。

――ライダー……ッ!

(まさか、上級アンデッドか!?)
 上級アンデッド。
 カテゴリージャック、クイーン、キングのアンデッド達のことだ。
 奴らの最大の特徴は、絶大な力と前回の優勝者の生物への擬態能力。
 奴らは前回の優勝者、ヒューマンアンデッドの一族、『人間』に擬態することができるのだ。つまり奴らは『人間』が持つ最大の武器、“知恵”を所有している。
「どうしたんですか?」
 奴らはマズい。このままにはしておけない。訓練は後回しだった。
「悪い! 野暮用が出来た!」
「カズマさん!?」
 俺は一気に走り出す。チェンジデバイスを起動させて腰に巻き付ける。
「変身!」
『Drive ignition.』
 レバーを引っ張ると同時に、たちまち俺の姿は青の拘束着を思わせるインナースーツと不自然に肩と腹の部分が塗りつぶされた銀色のアーマー、そして甲虫を象った仮面が貼り付いたヘルメットという組み合わせのバリアジャケットに包まれる。
『Fry booster』
 そして飛行魔法を発動し、背中のブースターを閃かせながら低空飛行で一気に飛び去ることにした。
(ライダー……?)
 一つの単語が、妙に頭の隅に引っ掛かりながら。



     ・・・



(カズマ君……)
 あの夜、見てしまった真実が網膜から離れない。
緑色のおぞましいと思わせる肌と、鋭い眼を隠すように付けられた透明なフェイスガード。そして鋭利な刃物を思わせる右腕から伸びた突起物。
 彼の正体が、実は人々を殺戮する怪物だったなんて信じられなかった。
普段の彼は多少粗暴なところはあっても基本お人好しで、困った人がいれば迷わず助けにいくような人だ。そう、彼なはずがない。
 けれど、もし彼が怪物事件の犯人なら。
(わたしが、何とかしなくちゃ)
 そう、わたしが機動六課を守らなくちゃ。そのための隊長であり、そのためのエースオブエースなのだから。
 けれど、わたしは本当に戦えるのだろうか……?
「なのは、行くぞ!」
「あ、ごめん、ヴィータちゃん!」
 ヴィータちゃんが赤いドレス型のバリアジャケットから伸びるスカートをはためかせながら怒鳴り声を上げる。後ろでスバルも手を振ってくれていた。
 取り敢えずカズマ君のことは帰ってから。今は任務に集中しなくちゃ。



     ・・・



「ふん、来たか」
 眼鏡をかけたインテリのような雰囲気を持つ男が、スーツを直しながら呟く。
 巨大ビルの屋上ヘリポート。天を突く摩天楼に築かれた二人だけのコロッセウムにて、男は待ち続ける。
 そして、彼は現れた。
 銀色の装甲とブルーのアンダースーツ、甲虫を模した真紅の複眼が印象的な仮面。
 だが男の目からは以前と節々が違うように感じられた。肝心な腹と肩の部分に描かれるはずのマークもなく、剣も形が異なる。
「お前が、上級アンデッドか!」
 仮面の男――カズマが叫ぶ。
「待っていたぞ、ライダー!」
 男もそれに答える。カズマの反応を見て、眉間に皺を寄せながら。
「……本当に覚えていないとはな」
 男の呟きはカズマには届かない。
 男は一度だけ首を振った後、顔を上げた。
 その瞬間、男に変化が生じる。
 一瞬にして、右手に鋭い鉤爪を付け、雄々しい翼を広げる、黒い鎧と羽毛に覆われた怪人に変化していた。
「……上級、アンデッド」
 カズマが驚きの声を上げる。理解しているのと目の当たりにするのでは訳が違う、それを認識させられたというような声音だ。
 一方の男――イーグルアンデッドはすでに鉤爪を構えながら大空に浮かび上がり、戦闘態勢を整えていた。
「いくぞ、ライダー!」
 イーグルアンデッドが羽根を手裏剣のように投げ付ける。鋭利な羽根は肉を抉らんとカズマに襲い掛かる。
「くそっ!」
 カズマも後ろに飛んで避けながら背中のブースターを噴かし、空中に上がる。
「ほう、フロートのカード無しで飛行できるのか」
 感心しながら観察と羽根手裏剣による牽制を行うイーグルアンデッドに対し、カズマはその不完全な剣を抜いて羽根の迎撃を行う。
「今度は負けん!」
 イーグルアンデッドは羽根をばら撒いた刹那、右腕を振り上げながらカズマの隙を突くようにして自ら襲い掛かった。
『Protection』
 だが、今度はイーグルアンデッドが驚愕する番だった。
 イーグルアンデッドの鉤爪が装甲に達する寸前、青のバリアに阻まれる。ガード魔法、プロテクションがオートで発動したのだ。
「魔法だと!?」
 イーグルアンデッドのような上級アンデッドは人の姿に化けることができる。故にヒト社会に潜り込むことが可能だ。
 彼が潜伏して知った驚きの事実、それが魔法だった。
 たかが人間がアンデッドにしか出来ないような“超”能力を行使したことに驚きが隠せなかった。
 そして目の前のライダー、何故以前は使えなかった魔法などという技を、こいつが覚えているのか。
「ふん。こんなもの、破壊すればいいだけの話しだ!」
 イーグルアンデッドは頭から余計なことを振り払うかのように首を振って、右腕の鉤爪を叩き付けた。
 その破壊力は、容易く強固なプロテクションを打ち砕く。
「ぐあっ!」
 衝撃に吹き飛ばされるカズマ。
 すかさずイーグルアンデッドはカズマを追跡する。
「――この程度なのか、ライダー」
 連続して繰り出される鉤爪を剣で払うカズマだが、一本二本と装甲に傷が入っていく。
 カズマは反撃に転じようとするも、悉くカウンターを食らってしまう。
「これで、終わりだ!」
 イーグルアンデッドが隙を突くように渾身の回し蹴りを叩き込む。
 強烈な一撃に意識を刈り取られたカズマは、そのまま地上へ落ちていった。
「カリスよ、やはり僕と戦えるのはお前だけのようだ」
 どこか哀愁を漂わせる、独りの男を残して。



     ・・・



「――さん」
 誰かが俺を呼んでいる。起きて反応しなければならない。
 けれどとても瞼が重くて、反応出来そうにない。それに、こうしている方が心地良いから、反応したくない。このまま眠っていたい。
「……マさん」
 鬱陶しい。このまま眠れば、これ以上苦しまなくてすむんだ。もうあの苦しみから解放されるんだ。
 だからこれ以上、俺を起こさないで――
「――カズマさんっ!」
「うわっ!?」
 リィンの怒鳴り声が一気に俺の意識を覚醒させる。ついさっきまで考えていたことをすっかり忘れ去ってしまうほど、豪快な起床だった。
「ど、どうしたんだリィン?」
「どうしたもこうしたもないですよっ! あんな高い所から落ちてきたから心配してたんですよ!?」
 そう言われて空を仰ぎ見る。
 すぐ近くには、天を突く勢いの巨大なビルがそびえていた。
(そう、か。あの上から落ちたのか)
 そっと周りを見渡す。地面に叩きつけられたならあの血が飛び散っているはずだが、それはない。ほっと安心すると共に疑問が湧き上がる。
「なんで、無傷なんだ……?」
「リィンが受け止めたからですっ!」
 泣きそうな顔で覗き込んでくるリィン。
 彼女は普段の妖精みたいな外見から、ヴィータみたいな小学生ほどの体格に成長していた。魔法とその体で受け止めてくれたのかもしれない。
 しかも、何故か膝枕をされているのも謎だ。
「あ、これはですね、変身魔法の一環で体を大きく出来る魔法なんですよ!」
 普段の30cmの体格では嫌が上にも彼女が人間ではないことを痛感させられるが、今の姿なら人間の子どもと大差ない。
そんな子どもに膝枕されていると思うと段々恥ずかしくなってきた。
「普段は何で小っちゃいんだ?」
「む、私だってこっちの方が子ども扱いされないから良いですけど、あっちの姿の方が魔力の節約とかで便利なんですぅ~」
 こっちも子どもじゃないか、とは言わなかった。女性に余計なことを言うとろくなことにはならないことを何故か理解していたから。
(……待てよ、俺は何かを忘れて――)
「――リィン! あいつは!?」
「はひゃ!? び、びっくりしました~」
「いいから! あいつはどこに?」
 最初は目を真ん丸にして驚いていたリィンの顔が徐々に陰り、最後は視線を反らしていく。嫌な予感がふつふつと湧いてきた。
「……見失いました」
 間違いない。あいつは人間に化けたのだ。すぐに探さなければまた被害者が出てしまう。しかし――
「取り敢えずカズマさんも起きましたし、結界を解いたら六課でたっぷり事情を聞かせてもらいますからね」
 ――どうやら、今すぐ探すことは出来なさそうだった。



     ・・・



「くくくっ」
 百階以上はあると思われる高層ビルの屋上にて男は笑う。高らかに、嘲りを込めて。
 その瞳が映すモノは世界か、己か。
「やはりアンデッドには魔法が通用しないようだな」
 男は理知的で寡黙そうな顔に獰猛で野蛮な笑顔を浮かべ、下界を見つめ続ける。
 世界は何も知らないかのように整然と動く。いや、実際何も知らないのだろう。だから例え人が墜落しようと、街は決して変わらない。
「いや、奴が勝てないのはそれだけじゃないか。記憶がないんだからな」
 男は笑みを深めながら右手で弄んでいるカードを見つめる。
 端にスペードの刻印とアルファベットのAが穿たれ、鮮やかで生き生きとした甲虫らしき生物が描かれたカード。
 たかが紙切れ一枚に、どれほどの力が宿っているか、人々は知らないだろう。アクセサリーに強大な力を込めたもの、デバイスを作れる連中には良い皮肉だと男は考える。
「さぁ、お前にきっかけを与えてやるよ。俺は“お前”を倒す必要があるんだからな」
 男はベルトに下げたホルダーの中から箱型の機器を取り出し、それを忌まわしげに握りしめる。それは中央に黄金の三角形――ゴールデントライアングル――が埋まったクリスタルを嵌めた機器。
「俺はオリジナルを殺し、本物になる。そのためにまずは剣崎、お前を倒す!」
 決してこの男には似合わない笑い声を上げながら、彼は世界に向かって吠えた。



     ・・・



 あの上級アンデッドとの戦いから次の日、俺は帰って早々はやてから散々怒られたことを思い出していた。
『無茶してもし死んどったらどないするん!?』
「無茶しても死ねないからなぁ」
 どこか自嘲気味に呟きつつ、最近フラッシュバックする光景が思い浮かぶ。雪山。近付く地面。ぐしゃりという音。周りに広がる“緑”の血。
 夜な夜な俺を苛む記憶の断片。それが俺を追い詰めている。それが分かる。
 人ではない。
 そう、俺は化け物なのだ。それをありがたくも再確認させてくれる。お陰で睡眠時間は減る一方だ。これなら記憶が戻らない方がまだマシだったかもしれない。
 一度頭をかきむしり、思考をリセットする。そう、今考えることはあの上級アンデッドのことだ。他のことは、今はいい。
(ジョーカーでいくのでは飛行能力を持つアイツに勝つのは難しい。だからといって魔法では勝ち目はない……)
 どんどん選択肢が無くなっていっていることに気付いた。これでは奴に勝てない。考え方を変えなければ。
 そんなとき、機動六課演習場に凄まじい騒音が響き渡った。



     ・・・



「何や!?」
 爆音と共に、はやての声が響きわたる。
 はやてが覗き込んだ窓の向こう側から、煙が昇った演習場が見える。それを見て、はやては顔を青ざめた。
「ザフィーラ! ちょっと調べてきてくれんか?」
『了解です、主』
 はやてが念話で己の守護騎士を呼ぶ。
 六課に残る戦力は看護班のシャマル、指揮官のはやて、そしてフリーのカズマとザフィーラだけ。その上、はやては強力すぎる部隊にならないよう戦力規制のリミッターがかけられており、シャマルは前戦向けではなく、カズマは負傷中。戦えるのはザフィーラだけだった。
 隊舎から飛び出す蒼き狼は四肢を振るって海上に浮かぶ演習場へと向かう。疾風を纏うかのような速さで滑り込んだ彼が見たものは、立体シミュレーターによって作り出されたコンクリートを出鱈目に打ち砕く怪鳥ならぬ怪人だった。
「何者だ」
 低く、唸るような声でザフィーラが言葉を投げかける。彼も人ではないからか、怪人に即座に襲いかかるような真似はしなかった。
「……今度は犬畜生か。人間といい犬といい、僕とカリスを邪魔するには役不足な連中ばかりだ」
「俺は犬ではない! 狼だ!」
 ザフィーラが毛を逆立たせ、低く腰を落とす。途端、彼の体が白く輝きだす。その姿が、一瞬にして獣人のそれに変わった。
 鍛え上げられた筋肉、がっしりとした逞しい体、そして白い髪とそこから生える犬耳。
寡黙な顔をしかめさせながら、ザフィーラはファイティングポーズを構える。
「ほう、人間のしもべに成り下がった犬畜生がアンデッドに刃向かうとはな」
「盾の守護獣、ザフィーラだ! 俺を侮辱し、主の御元を傷付けるお前を許さん!」
 ザフィーラは足元に三角形の魔法陣を展開し、それを蹴飛ばすような勢いで怪人――イーグルアンデッドに挑みかかった。
「犬ごときが、この空に上がるな!」
 それに対しイーグルアンデッドは雄々しい剛翼を広げ、鋭利な羽根を雨のように降らせる。そのナイフの豪雨をザフィーラは両腕に展開した三角形の魔法陣で巧みにはじいていく。
「その程度、俺には効かん!」
 そういうザフィーラに対し、イーグルアンデットは右手を振り上げて答えた。
「この程度で消えてくれた方が良かったんだがな」
 イーグルアンデッドの傍にまで接近したザフィーラにその鉤爪を振り下ろす。ザフィーラは二つの盾をもって防ぐが、イーグルアンデッドは強引に爪をねじ込み、怪力をもって盾を打ち砕いた。
「ぐぉ!?」
「犬がアンデッドに楯突くんじゃない!」
 さらに連撃として左ストレートを打ち込まれ、吹っ飛びザフィーラ。
 だが筋肉の鎧で包まれた守護獣は、この程度で怯みはしない。
「まだまだ、いくぞ! 『鋼の軛』!」
 ザフィーラが両腕を構えると同時に大空を舞うイーグルアンデッドを囲むようにいくつもの魔法陣が浮かび上がる。
 それらがイーグルアンデッドに向いた瞬間、魔法陣から白き拘束条が勢いよく伸びる。
「それがどうした」
 それらをイーグルアンデッドも避けるが、二本が翼を貫通する。すぐに引き抜こうとするが、拘束条が膨らんでいき、抜けなくなる。
 それはまさに、空に射止められた鷲。
「なんだ、これは!?」
「俺の『鋼の軛』はあらゆるものを貫いて捕獲する拘束魔法。お前も、これで終わりだ」
 羽ばたくこともできず空中に停止させられた状態のイーグルアンデッドは最初こそ暴れていたが、すぐに大人しくなった。
「主、終わりました」
 それを降服と受け取ったザフィーラは念話で主を呼ぶが――
「ふん、これで終わるかと思ったか?」
「――何?」
 彼は右腕を掲げる。嵌められた黒光りする鉤爪が閃く。それは決して降参のそれではなく、むしろ必勝を思わせるもの。
 イーグルアンデッドは、その鉤爪で自らの翼を斬り落とした。
「ぐっ!」
「なん、だと!?」
 そしてその刹那、千切れた断面から新たな翼を生やした。
「ぐおっ……!」
「翼を、強引に再生だと!? なんという生命力だ!」
 そしてイーグルアンデッドは隙を見せたザフィーラの懐中に一瞬で入り込み、鉤爪を嵌めた右手による右ストレートを腹に叩き込んだ。
「ぐおあぁぁっ!」
 血を噴き出しながら墜落するザフィーラ。それを受け止めたのは、はやてだった。
「ある、じ……?」
「喋ったらあかん。シャマル、すぐに治療を」
「はい」
 あの念話から急ぎ赴いていたはやてとシャマルは、用意していた回復魔法によってザフィーラの治療を開始する。
 だがそこに、イーグルアンデッドが舞い降りた。
「人間の、しかも女か」
 右手を構えながら近付くイーグルアンデッドに立ちはだかるはやて。その彼女に対し、侮蔑の響きを込めた言葉を投げ掛ける。
 だがはやてはその程度に屈するほど弱い女ではない。
「これ以上、好き勝手はさせん」
 はやては自らの十字架を模した杖型デバイス、シュベルトクロイツを構え、イーグルアンデッドは己の誇る鉤爪を構える。
 一触即発の空気。
 そこに割って入る影。それは、カズマだった。
「お前の相手は俺だ!」
「ライダー、貴様は負けたのだ。下がれ」
 それを無視し、剣を引き抜くカズマ。腰を下げ、垂直に立てた剣に左手を添える独特な構えを取る。
「カズマ君は怪我しとるんよ!? 下がって!」
 はやては自らの前に躍り出たカズマを引き下がらせるべく腕を伸ばす。
 だがそのとき、周囲を白い煙幕が包み込んだ。
「何や!?」
 はやての叫びすらも包み込むように広がる煙幕は演習場を瞬く間に包み込んでいく。はやてとシャマル、ザフィーラは一か所に固まっていたが、イーグルアンデッドとカズマはそれぞれバラバラに動き出し、まもなく散り散りになっていく。
「くそっ、あいつはどこだ!」
 煙幕の中を彷徨い歩きながら、イーグルアンデッドを探すカズマ。
 そんな彼の元に一枚のカードが滑り込む。
「受け取れ」
「なんだ!?」
 カズマの右手にいつの間にか握られたカード。そして男の声。
 どこから響くかも分からないそれが、カズマの記憶を激しく刺激する。
「今の声……、それにこのカードは」
 カズマは手元のカードを握りこみ、変身を解く。
「裏だ」
 聞き覚えのある声。そう、かつて自らを鍛え、導いた先輩である、戦友でもある男の声。
 カズマは、本人も気付かない内に行動を開始していた。
「そうだ――俺は」
 チェンジデバイスの裏、カードを挿入するラウズリーダーが顔を覗かせる。それを見てカズマは右手のカードを差し込んでいく。
 そしてそれを腹部に持って行った刹那、チェンジデバイス側面からトランプのカードに似たものが幾枚も飛び出し、カズマの腰にベルトに変化しながら巻きついていく。
 そう、その姿は――
「――そうだ、俺は『仮面ライダー』だ!」
『Turn up』
 カズマがレバーを引いた直後にチェンジデバイス中央のクリスタル、その中のゴールデントライアングルが回転し、そこから青いエネルギーゲート、オリハルコンエレメントが射出される。
「うぉぉぉあぁぁぁ!」
 それを潜ってカズマは、「仮面ライダー」へと変身した。


     ・・・



 遂に「仮面ライダー」に変身したカズマ。再誕した彼とイーグルアンデッドとの第2ラウンドが始まる。
 一方、それを眺める三人の男達は、それぞれが行動を開始する。その目的とは――――

   次回「ライダー」

   Revive Brave Heart

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最終更新:2009年07月13日 21:47