*
「人間じゃ、ない……?」
フェイトの発した台詞にジョーカーの体を強ばらせるカズマ。フェイトは彼を抱き締めたまま、その顔は見えない。
彼女がどんな表情で自らを“人間ではない”と言うのか、それをカズマは知ることが出来ない。
「フェイトちゃんは人間だよ!」
「なのは、私はそういう意味で言ったんじゃないの。うん、母さんやなのはのお陰で私は生まれが特殊でも生きてこれた。今でも感謝してるよ」
「生まれが……じゃあ、フェイトはどうやって――」
「――今から話すよ。カズマには、聞いてほしいから」
腕をほどいたフェイトが、カズマに向けて小さく微笑みかけた。
それが、彼女の話の始まりだった。
リリカル×ライダー
第十二話『来訪者』
「プロジェクトFATE――――それがフェイトの出生の秘密なのか」
「……うん」
彼女が話した一つの計画。
時空管理局には組織を束ねる中枢機関、最高評議会と呼ばれる存在があったらしい。
彼らは管理局が質量兵器、つまり銃などの兵器を禁止しているため常に戦力不足であり、そのため次元世界の治安を守り切れない状況だった。そんな現状を打破するために、彼らはある計画を始動させた。
――プロジェクトFATE
後にプロジェクトF、又は人造魔導師計画とも呼称されることになるこの計画とは、人為的に魔導師を生み出そうとする計画だった。
何故魔導師を生み出す計画になったのかというと、魔導師になれる人間は全体の三割程度で、更に才能ある魔導師となるとその中の数パーセントしかいないからだそうだ。なのはやはやては地球という本来魔導師の生まれない星で誕生した変わり種らしい。
また魔導師の魔導師たる所以である魔力精製器官『リンカーコア』を人為的に再現できないのも理由らしい。周辺の霧散魔力を集積、倍加させる魔力炉や一時的に魔力を充填して魔法の発動を強化、促進するカートリッジなどがあるものの、魔力そのものを生み出すことは出来ないそうだ。
話を戻すが、この計画を遂行する人材を確保するために最高評議会は古代の遺伝子操作技術を用いてある天才を作り出した。
――ジェイル・スカリエッティ。
彼は遺伝子レベルでこの計画を遂行しようとする意思が刻み込まれており、その最高レベルの知能を発揮して計画を進めた。
彼が取った手段はクローン技術。魔導師をクローニングし、記憶を転写することで魔導師そのものを複製するというものだった。
元々、最高評議会は遺伝子操作技術で計画を進める予定だったため、スカリエッティもその方面に長けた人物になるよう調整されていたのだ。
「今は最高評議会もメンバーが変わったし、計画自体も戦闘機人計画に変わって廃れてしまったんだけどね」
フェイトが疲れたように息を吐く。所々なのはも助力しながら説明された話は、俺には理解し難いややこしい内容だった。
しかし重要なのはこれからだ。
「その計画とフェイトがどう関係するんだよ?」
フェイトが視線を下げる。そこでなのはがフォローするように口を開いた。
「計画自体はさっきも言うように破棄されたの。けれど、ある人がその計画を引き継いだ結果、計画は別の形で続行されることになった。その人が――」
「――私の、母さん」
引き継ぐように、フェイトが重い口を開いた。
「母さんは娘をなくしていて、我が子を生き返らせるために計画を引き継いだの。けれど、結局生み出されたのは失敗作だけだった」
「失敗作、って……」
俺の顔から血の気が引くのを感じる。いつの間にか、俺の体はジョーカーから人間の姿に戻っていた。
「私、だよ。その娘と同じ外見、記憶を持ちながら全くの別人になってしまった失敗作。試験管から生み出された人の形をした異形【ホムンクルス】」
「そういうことか……」
プロジェクト名をそのまま付けられたのは、おそらく失敗作としての烙印だろう。娘の名を授ける気も起きなかったのか。
「……くそっ!」
彼女には本当の親がいない。俺は死んだとはいえ覚えているが、彼女には覚える親の顔さえないのだ。
「でも平気だよ。今は私を大切にしてくれる母さんや親友がいるから。それに私は自分を生んでくれた母さんも好きだから」
そう言って笑うフェイト。
彼女は乗り越えたのだろう。他人には想像も出来ないほどの地獄を、親友や多くの人に助けられながら。
「だから今度は、カズマは私が助ける」
最初はなのはを傷付けた俺に敵意を剥き出しにしていた彼女が、次第に見舞いにも来るようになり、今はこんな俺の手を握って温かい言葉をかけてくれる。
だからこそ、気付いてしまった。
「――ありがとう。けど、俺はここには居れない」
「どうして!?」
フェイトの顔から目を反らして手を見る。俺は誰かに守られる存在でもなければ、ましてや人と共に存在できる体でもない。そう、この手は――
「――全ての人々を、守るためにあるんだ」
そのためには、何かを求めてはならない。これは無償の戦いだ。例えそれが、目に見えないものだとしても。何か大切なものを作ってしまったら、俺の戦いも終わってしまうから。
そう、こんな所で立ち止まってはおれない。
――――ドクン。
人々を、守らなければ。
・・・
カズマがアンデッドを封印するために六課を出た次の日、はやてはまたもや頭を抱えたくなるような事態に直面していた。
「フォォォォォウ!」
意味不明な叫び声を上げる男。先程フェイトちゃんのスポーツカーと違って趣味の良いデザインの車が六課に突っ込んできたのだが、それに乗っていたのがこの男だった。
「いやぁ、入局申請? みたいなのをするために来たつもりが事故の処理をやる羽目になるとはねぇ」
椅子にふんぞり返りながらそんなことを言う男。
アンタが原因だろ、とは言わない。はやては大人なのだ。
「取り敢えず管理局保安部には連絡しておきました。それで、どういった御用件でしょうか」
極めて事務的に、かつ口調を固めに言うはやて。彼女としては、さっさと要件を済ませて出ていってもらいたいのだろう。
だがこの男、アロハシャツに丸いサングラスといった奇抜な外見や奇妙な言動からも分かる通り、一筋縄ではいかない。
「へぇ、キミが部隊長? やっぱり美しいモノは皆好きだよねぇ。けど怖い顔してると美貌も台無し、やっぱ誘うなら笑顔でなきゃ」
「……真面目に答えて下さい」
というより、話が通じなかった。
「いやぁ、管理局に入りにきたのよ。就職、ってヤツ?」
はやては目の前の男を鋭く睨み付ける。冗談にしか聞こえない口調で言っていい内容ではない。少なくとも、はやての前では。
だが彼女は大人だ。どれだけ内心怒り狂っていようとも、公の場では笑顔すら装う。
「管理局は非常に大きな組織です。入局されるのでしたら地上本部で身体検査、心理テスト、学力テストを受けて最適な部署を紹介してもらってください。ここでは募集は行っておりません」
ポーカーフェイスのまま、事務的な内容を告げるはやて。彼女は本人すら気付かぬ内に身構えながら、簡単な地図を描いた紙を差し出す。
「ではお引き取り――」
「――仮面ライダー、ここにいるんだよなぁ?」
その台詞に、はやてのポーカーフェイスは砕け散った。
彼女の頭に浮かぶのは前回の戦い。彼女の愛しい守護騎士が傷付いた、あの戦闘。
『俺は、仮面ライダーだ!』
カズマが放った、あの言葉。
「実は知り合いなんだよねぇ、ちょっと顔を見たくてさぁ」
「カズマ君のことを知っとるん!?」
はやての手は自然と、男の襟首に向かっていた。
「ちょっと過剰じゃない? スキンシップがさぁ」
「何を知っとるんや!? カズマ君はいったい何者なんや!」
魔導師では歯が立たなかった怪人を倒したカズマを思い出すはやて。彼女は彼が普通じゃないことに薄々感付いていた。記憶が戻りつつあることも。
だが彼女はそれを聞くことはできない。聞けばカズマはもうここに居れなくなってしまうから。
彼女は、部隊長なのだから。
「教えてや! 私は、私は知りたいんや!」
「ふぅん? 仮面ライダーって、こっちでも人気なんだ?」
そんな彼女を見ながら笑みを深める男。いつしかその笑みが危険なものになっていることに、はやては気付かない。
「じゃあさ、こうしようか」
「……なんや?」
「ライダーが来るまでに俺を倒せたら、とか」
その瞬間、彼女の体が三メートル先の壁まで吹っ飛んだ。
「ッ! かはっ、けほっ」
「今日は助けてくれる奴、いないんだろ? 二人でお楽しみってわけだ。フォォォォォウ!」
いつの間にか、男の外見は変化していた。
凶悪な面に羊を思わせる双角。左右非対称な体、白い右側の体は肩から真っ直ぐ歪角を伸ばし、白い羊毛で覆われている。
その名はカプリコーンアンデッド。
彼が上級アンデッドと呼ばれる存在であることを、はやては知る由もない。
「まさか、怪人やったなんて……」
吹き飛ばされた直後にデバイスがオートで起動したため、彼女の体は白黒のバリアジャケットに保護されていた。それでも装甲板を埋め込んだ壁をへこませるほど衝撃は、彼女を苦しめた。
「怪人? 違うな、俺達はそんな名前じゃない」
心底愉快気に笑うカプリコーンアンデッドは太く逞しい右腕を振り上げ、掌を拳の形に変えていく。
「俺達はアンデッドって言うんだぜ? フォォォォォウ!」
その右腕を、勢いよく振り下ろした。
「――ッ!」
はやても十字架を模した杖型デバイス、シュベルトクロイツを構えながらプロテクションを発動させて受け止めるが、その凄まじいパワーにじりじりと圧されていく。
「フォォォォォウ!」
さらに左腕も駆使しての連撃を放つカプリコーンアンデッド。その怪力によって打ち出される拳撃は単純なパンチにも関わらず凶器と呼べるレベルである。
特にはやては六課でも屈指の魔力量を生かした大規模魔力爆撃が得意な後方支援型だ。なのはのように砲撃がメインながらあらゆるレンジを対処出来るタイプとは異なる。
そのため近接戦では無類の強さを誇るアンデッドとは余りにも相性が悪すぎた。
(せやかて、こんな所で私は負けられないんや!)
少しずつ後退しながらもはやては新たな魔法の術式を起動させ、足元に正三角形を元にした魔法陣を展開させる。
「刃を以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー!」
詠唱によって術式を発動させる。
その瞬間、カプリコーンアンデッドを囲むように12の血に染まったような紅い短剣が出現する。
「行け――!」
それらが一気に中心点を屠るべく迫る。
「グォォォォオ!?」
カプリコーンアンデッドの全身にブラッディダガーが突き刺さり、さらに爆発を以て傷口を抉る。
それに対しカプリコーンアンデッドは今までの喋り方からは想像も出来ないような獣じみた呻き声を上げる。
「今の内に……」
はやてが素早く部屋の隅に備え付けられた警報装置を作動させようとする。だが――
「なんで!? なんで作動せんのや!」
「テメェ、痛ぇじゃねぇかよ! 可愛い顔して舐めた真似してくれちゃってよぉ!」
作動しないスイッチを叩くはやてを後ろから襟首を掴んで強引に持ち上げるカプリコーンアンデッド。
その右腕を、ぎりぎりと握り込む。
「やっぱり女って汚いよなぁ。前も女に騙されて殺られたが、今度はそうはいかねぇ!」
カプリコーンアンデッドは舐めるようにはやての顔を眺め、そして彼女の腹に向けて拳を打ち込む――!
「フリジットダガー!」
その瞬間、カプリコーンアンデッドに氷で作られたような蒼く透き通ったナイフが幾重も刺さった。
「グォォォォオォォォ!?」
その傷口は瞬く間に凍り付いていき、カプリコーンアンデッドの動作を阻害する。
はやてはそれを見て弛んだ手から脱出する。
「リィン! 気付いてくれたんか!」
「もちろんです~! はやてちゃんを守るのがわたしの務めですから!」
リィンが場にそぐわない明るい笑みを浮かべる。妖精のような外見だから余計に場違いだ。
しかし、そんな笑顔も一瞬で暗いものに変わった。
「ただどこからか分かりませんけど、六課のコンピュータがハッキングをかけられて各設備が使用できなくなってます。ロングアーチスタッフはその処理に追われててんてこ舞いですよ~」
(それが原因やったんか……)
いったい誰が、と思考を続けようとするはやて。
しかし彼女がそんな思考に埋没できる時間はない。
「舐めてくれちゃってよぉ。いい加減ブッ殺さないと気がすまねぇなぁ!」
「リィン、ユニゾンや!」
「はいです!」
立ち上がったカプリコーンアンデッドに対抗すべくユニゾンデバイスたるリィンが本領を発揮する。
光り輝き出したリィンがはやてに溶けるように消えていくと同時にはやてを光が包み、髪の色や黒が基調のバリアジャケットを白く染め上げていく。
カプリコーンアンデッドとはやての戦いが、始まった。
・・・
「はぁ、はぁ、はぁ――――」
目の前で斬り伏せたジャガーアンデッドの腹部にあるバックルが二つに割れる。その割れ目にはスペードの刻印と9という数字が刻まれている。
俺はアンデッドに向けてカードを放ち、封印する。鮮やかな躍動感のある豹の絵が描かれたカードを確認しながら俺は後ろを向いた。
(おかしい。あの感じは上級アンデッドだったはずなのに……)
今回のアンデッドの反応は妙だった。現れては消えを繰り返すもので、探すのにかなりの時間を費やしてしまった。
しかし今封印したアンデッドの反応だったとは思えない。あれは上級アンデッドのものだった気がするのだ。
(おかしい……)
嫌な予感がする。何か忘れているような、大切なものを放っておいてしまっているような――。
そんな俺の視界に、何かが滑り込んだ。
「また会ったな、剣崎」
「た、橘さん!?」
現れたのは橘さんだった。しかも今回はバイクに跨がって。
そのバイクは――
「ああ、お前のだ。あの伯爵に頼まれたのでな。今は従うしかないので届けに来た。感謝しろ」
不快そうに眉を潜めながらそう話す橘さん。だが今回ばかりは全く気にならなかった。
――ブルースペイダー。
あらゆる不整地を走行出来るように計算された高い車体。蒼いカウルで保護された車体。そして最大の特徴たるスペード型の青いスクリーン。
かつての愛車であり、たった一人で戦っていた頃も共にいてくれた相棒。
「……なんで、橘さんが?」
「俺は届けに来ただけだ。次に会うときは殺し合う仲、お前と話すことなんてない」
本当に鬱陶しいんだと言わんばかりにヘルメット(それも俺が使っていたものだ)を脱いでハンドルに引っ掛け、バイクを降りる。
「さっさと行け、お前がベストのコンディションで戦えないと俺も気分が悪い」
「どこに行けと言うんですか?」
「知るか。自分で考えろ」
記憶と随分違う橘さんの言動に戸惑いつつ、話の内容を咀嚼する。
(まさか、六課が……!)
辿り着いた結論は、嫌なものだった。頭の悪い俺の結論にも関わらず、外れている気がしない。
「すいません、行かせてもらいます!」
俺がブルースペイダーに跨る。セルでエンジンを起動させ、クラッチを握りながらギアを一速に切り替える。
橘さんは何も言わずに何処かへと去っていった。
その背中を見届けた後にアクセルを少しずつ捻りながらクラッチをゆっくりと開き、緩やかに、だが徐々に加速させながら走り出した。
・・・
「はぁ、はぁ、はぁ……」
はやてが苦し気に息を吐きながらシュベルトクロイツを構え直す。
対照的にカプリコーンアンデッドは腕を軽く振りながら軽い足取りではやてに迫ってきていた。
はやてがリィンとユニゾンしてから、すでに15分が経過していた。
「健気だねぇ、まだ抵抗を止めないとは」
じりじりとあちこちが凹んだ壁へと追い詰められるはやて。バリアジャケットが傷付いて露出した、赤みがかった白い肌を舐めるように見回すカプリコーンアンデッド。
先に動いたのは、はやてだった。
『「フリジットダガー!」』
はやてとユニゾンしているリィンの声が重なるように発されるのと同時に、部屋の各所から水晶のように透き通った冷気を帯びるナイフが幾つも出現する。
それらは目にも止まらない速度でカプリコーンアンデッドに飛来する。だが――
「ハァァアァ!」
カプリコーンアンデッドが吐き出した青いエネルギー体が、それらを弾き飛ばした。
「くっ……!」
はやてはエネルギー体の突撃をプロテクションで防ぐが、吹き飛ばされて壁に激突してしまう。
「フォォォォォウ!」
カプリコーンアンデッドが止めを刺すべく右手を振り上げる。
その時だった。
「りゃあああぁぁぁ!」
強化ガラスを突き破って、カズマがブルースペイダーに乗ったままカプリコーンアンデッドに突撃した。
「――ッ!?」
ウィリーによって持ち上げられた前輪にかかった力学的エネルギーはカプリコーンアンデッドを容易く吹き飛ばすに足るものだった。
「大丈夫か、はやて!?」
「カズマ君……」
『カズマさん来てくれたんですねっ! リィンはちゃんと信じていましたよ!』
カズマがブルースペイダーから降りつつはやてとリィンの元に行こうとする。
しかし一足早かった者がいた。
「あぐっ!」
その影は太い腕をはやての首に回し、そのまま縛り上げる。
「ベルトを下に置け! さもないとこの女が死ぬぞ?」
影の主、カプリコーンアンデッドは愉しげな声でそう言った。
その台詞、光景に何故かカズマは既視感を覚える。この吐き気のするような光景に。
「卑怯な!」
「五月蝿い! お前のせいで俺はこんな目に遭ってるんだからお前も痛い目を見ろ!」
「何のことだ!?」
「覚えてないとでも言うか!? なら今すぐ思い出させてやる!」
怒り狂ったカプリコーンアンデッドははやての首を絞める腕に力を込めていく。その太い腕と対照的に細いはやての白い首が嫌な音を上げ出す。
「あっ、あ、ああ……」
「はやて!」
「さっさとベルトを置け!」
カズマがカプリコーンアンデッドを睨み付けるが、意にも解さず笑みを浮かべながら首を絞めていく。
だが、この時三人は後一人の存在を忘れていた。そう、はやての中にいるもう一人の存在を。
『フリジットダガー!』
突然はやての内側から舌っ足らずな叫びが上がる。
「な……!?」
その瞬間、カプリコーンアンデッドの真上に出現した氷の刃が彼の脳天を貫いた。
「今だ!」
カズマがそこでショルダーチャージをかけて吹き飛ばす。その腕の中には、救出されたはやてがいた。
「か、カズマく――」
「はやて、離れてくれ。俺はあいつを倒す!」
「……」
はやては一瞬不満そうな表情を浮かべるが、状況が状況故に素早く身を離す。
カズマは醒剣ブレイラウザーのカードホルダーを展開し、二枚のカードを抜き出す。
『KICK,THUNDER』
スラッシュされた二枚のカードから引き出される力は混ざり合い、コンボという名の必殺技へと昇華される。
『――LIGHTNING BLAST』
カプリコーンアンデッドが、ゆらりと立ち上がった。
その動作と同時にカズマはブレイラウザーを地面に突き刺し、彼の元に走る。
カプリコーンアンデッドはそれを見ながら慌てて腕をクロスさせて防御態勢を取る。
カズマはジャンプによって得られた位置エネルギーと、カードによって得られた雷撃の力を、強化された右足に込める。
「うぉあああぁぁぁぁ!」
それを、容赦無くカプリコーンアンデッドに叩き付けた。
「ウォォォォオッ!?」
その力によって、彼は壁をひしゃげさせるほどの勢いで吹き飛ばされる。
カシャンという軽い金属音。
カズマは静かに、『Spade Q』を封印した。
・・・
戦いが終わって、ようやく私は応接室を見回す余裕が生まれていた。あまりの酷い惨状に泣きたくなるだけだが。
何だかんだで私も頑張ったと思う。数少ない近接魔法を駆使し、苦手なんてもんじゃないクロスレンジをどうにか戦い抜くことが出来たわけだし。
それはそうと、今は聞きたいことが山ほどあった。カズマ君に。
「――なぁ、カズマ君」
「はやて、大丈夫か? 全身傷だらけだし……。くそっ、俺の帰りが遅れたばっかりに――!」
けれど、こんなに他人のために一生懸命なカズマ君を見ていると、何だかどうでも良くなってきた。まるで往年のなのはちゃんみたいな……って、それは本人に失礼か。
「私は大丈夫や。今リィンが回復魔法をフル稼働中やし。それよりロングアーチに連絡を取ってくれんか? そこの受話器が使えればええけど、無理なら直接行ってくれん?」
「ああ、わかった」
そう、私は大丈夫。私は部隊長、こんなところで倒れるようじゃ『奇跡の部隊』を率いることなんて出来ない。
しかし今回のハッキングを行った者が誰か、それが問題だ。ロングアーチにハッキングするほどの実力者で、怪人に協力できる者。心当たりは、二人いた。
これは捜索を急いだ方が良いかもしれない。
そう思考していた私の元に、唐突に“轟”というエンジン音が耳に入る。
顔を上げた先には、今日二人目の来訪者がいた。
「剣崎、ようやくお前と戦う時が来たようだな」
その来訪者は――
「――紅い、『仮面ライダー』?」
真紅の配色ながら、カズマ君の変身した姿とそっくりなバリアジャケットを纏っていた。
細部は確かに違う。頭はカズマ君のが一本角なら二本角になっているし、肩のアーマーなども形状が違う。
そして似ているのはカズマ君のバリアジャケットとだ。何故なら、不自然なまでに腹部や肩が何かを塗り潰すように装甲が貼られているからだ。
「橘、さん……」
「剣崎、後でお前に通信を送る。そこに一人で来い。誰か一人でも連れて来ればあの悲劇がここで起きることになる」
「あの悲劇――?」
「お前がかつて己の体をかけて止めた悲劇だ」
そのセリフで、カズマ君の表情が変わった。
「いいな?」
「待ってください、橘さん!」
だが橘さんと呼ばれた紅い『仮面ライダー』はそれに答えることなくバイクを走らせてこの場を去ってしまった。
結局私は、何一つ理解出来ないまま。なのに状況だけが次々と進んでいた。
・・・
カズマが受けた決闘状。相手はかつての師、戦うのは異国の地、奮うのは人とは異なる体。
人の皮を被る怪物と試験管から生まれた異形がぶつかり合った時、伯爵のストーリーは進む。
次回『決闘』
Revive Brave Heart
最終更新:2009年09月26日 18:24