暗雲で覆われていたはずの空。光を遮りこの大地を暗闇に閉ざした中で突如発生した閃光。
轟音と共に星が爆発したかのような錯覚を思わず抱かせる閃光と衝撃を発しながら、空を覆っていたはずの雲が切り裂かれていく。
「なのかさん……カズヤ………」
ストレイト・クーガーはサングラス越しにその爆発をしかと見届けながら、恐らくはこの現象を起こしたのであろう張本人たちの名を思わず呟いていた。
勘にしか過ぎないが……恐らくは、これで決着がついたのでは無いだろうか。
勝ったのはなのはか、或いはカズマなのか………
「……約束だったんだが」
カズマを彼女に任せ、自分は少女を探し出して保護する。
割り決めた役割分担は決して容易く破棄していい事柄ではない。
なのはがなのはの務めを果たしたというのなら、クーガーにはクーガーの務めを果たす義務がある。
それを放棄することは、むしろ彼女へと抱き彼女もまた抱いてくれた真摯な信頼への裏切りも同じ。
男としての誇りをもってしても故にこそ無碍には出来ない。
しかし………
「……やっぱ放っておけないってのも事実だしな」
深く、深く息を吐いて溜め息。
胸中にて詫びの言葉をなのはへと、スバルへと、そして探している少女へも告げる。
都合一分、黙祷のようにそれを行った後再び顔を上げたクーガーにもはや迷いは一つたりともない。
即断即決、こうと思ったこと、やりたいと思ったことを躊躇わずにやる、最速で。
それこそが彼の本当にやり遂げるべき生き方。
「人生は短い……偶には俺の我が儘の方もお願いしますよ」
即ち、二人の決着を見届けたい。
その願望を果たす為に、探索作業を一時中断したクーガーはそのまま爆心地を目指して駆け出した。
「……ありゃあ一体何なんだ?」
先の大規模な地鳴り騒ぎも冷めやらぬ内のこの光景。
丸っきり蚊帳の外そのものの立場にいる自覚はヴィータにもあったものの思わずそう呟かずにはいられなかった。
歯痒い……そう正直に思う。強制待機を命じられている身分。これ以上勝手な事をして部隊に迷惑をかけるわけにはいかないのは分かっていたが、それでも胸中は嫌な胸騒ぎがやむことも無く沸き続けて仕方が無い。
あれはいったい何なのだ? 今何が起こっている?
それに何より………
「………なのは……無事、だよな………?」
自分の戦友。護ると決めたその対象。
彼女の安否が今無性に気になって仕方がなかった。
なのはは本当に無事だろうか?
「無事に……帰ってきて、くれるよな?」
八年前のようなことなどあってはならない。あっていいはずがない。
縁起でもない事を脳裏に浮かべかけたのを、慌てて苛立たしげに打ち払い否定しながらヴィータは呟く。
「帰って来い……ちゃんと帰って来いよ…………なのは」
己の願望とも言えるその祈りを。
「………なのはさん」
曇天を切り裂いた光を見上げながらスバル・ナカジマが呟くのは憧れの人のその名前。
帰ってくることを約束して、誰にも負けはしないと笑ってくれたあの人。
故にこそ、スバルはただその約束、その言葉を信じてこの場を動かない。
任された己の責務を全うし、帰って来てくれる彼女へと『お帰りなさい』のその言葉を告げる為に。
スバル・ナカジマは高町なのはの帰還を信じて待ち続ける。
何が起こった、いったいどうなった。
俺は勝ったのか、それとも………負けたのか。
閃光が視界を焼き、先程まで浴びせられていたモノの比ではない衝撃を全身に叩き込まれ、吹き飛んだのは覚えている。
情けないことにそれで意識が飛んでいたらしい、漸くにうっすらと覚醒し始めた意識の中で自分はどの程度の時間落ちていたのかをカズマは考えようとする。
だが指一本すら本当にもう動かせそうもない痛みと疲労、これによってマトモな思考すら形成することもままなっていないというのが正直な現状だった。
右目は開かない。先の劉鳳も加えてやりあっていた時の最後辺りからそうだったが、完全に目としての機能を失ってしまったらしい。
だがまだもう片方……そう、左目がある。こっちはまだ機能しているはずだ。
そう思い至りながら、カズマは閉じていた左目の瞼を無理矢理こじ開ける。瞼一つあけるのにも信じられぬ労力を要した事実から考えても、本格的にもはやヤバイらしい。
開けた左目はしかし未だ朧に霞んだ世界を映すのみであり、何がなにやらサッパリ分からないというのが現状。
漸く暫く経った後に、回復してきた視力が自分が現在うつ伏せに倒れていることを認識する。
全身を覆っていたはずのアルターは既に砕け散って欠片も残っていない。そもそも指先一つ動かすのに激痛が走る現状ではアルターの維持も不可能なのは明らか。
これ以上の戦闘続行は不可能……絶対に認めたくも無いことだが、体がそれを正直に引っ切り無しに訴えていた。
……あの女はどうなった?
先程までの喧嘩の相手。猛る激情を一身に叩き込み続けていた対象。
乗り越えねばならぬ、立ち塞がってきた俺の壁。
まさか、あの爆発で自分同様に吹っ飛んでしまったのだろうか。それが最も可能性のある予測だったが、断定できない。
結局、何も白黒はっきりしていないまま。収まりがつかないのは当たり前。
あの女を……あの女を倒して、自分は前に進まねばならないのだ。
それまでおちおちこんな所で寝てもいられない。そう決心しながら、カズマは悲鳴上げる体の訴えを強引に無視しながら、無理矢理に立ち上がった。
二本の足で辛うじて立っているのが精々であり、マトモに歩行へと移ろうものなら即座に転びかねない。
それ程に、立っているのがやっとと言っていい状態だった。
だがそれでも構うものかと、俺の体なら意地を見せろとカズマは自身の体に苛立ちを叩き込めながら、首を回して周囲を見回す。
爆発の影響だろう、盛り上がって突き出していた岩壁の数々は砕け散り、自分が立っている地面もスプーンでそこを切り取ったような深いクレーターの中の中心。
この体で上まで上るのはキツイなと早くもうんざりしかけていたその時だった。
「……カズ……マ………くん……」
ふと己の名を呼ぶ聞きなれた……否、あれとは違う忌々しい声。
それが宿敵のものだと察し、それが頭上から聞こえてきたものだと分かったカズマは即座に視線を上へと向ける。
見上げるカズマの上空。
そこにボロボロになったバリアジャケットを纏い、一見して明らかな重傷を全身の至る所に負った白い魔導師が浮かんでいた。
「………テメエ……ッ……!?」
敵意を剥き出しにして、睨み上げながら怨嗟の声を漏らすカズマ。
だが彼女―――高町なのはは未だ治まらぬ敵意をぶつけられながらも、それに臆した様子も無く、ゆっくりと彼が立っている場所まで下降してくる。
体に鞭打ちながら何とか形だけは身構えるカズマだが、正直、拳を握り繰り出すことすらマトモに出来るかどうか分からない。
けれど逃げない、逃げられない。
この女にだけは逃げられなければ、負けられない。
これは理屈ではない。
カズマの中の本能がそうさせるのだ。
だから―――
「がぁぁああああああああああああああああああああああ!!」
余力など欠片もない。無駄な叫びを上げること自体が体力の浪費。
だが知ったことかと言わんばかりに、カズマは目の前にまで降りて来たなのはへと拳を振り上げ、殴りつける。
普段の彼の放つソレとは比べるべくも無い程に力ない、そうヘナチョコと笑われる様な無様な一撃。
子供が癇癪を起こしてぶつけるのと大差ない……否、それにも劣るような一撃。
「―――ぐっ!?」
けれどなのははそれをかわすこともなく受け止める。
否、かわせるだけの余力すら今の彼女には無いというのが事実。
カズマ同様に、なのはもまた既に立っているのが辛うじてと言っていい状態だったのだ。
それでも、それでもなのははカズマにぶつけられた拳を喰らい、思わず倒れそうになるほどによろめきながら。
けれどギリギリで踏ん張り、持ち堪える。
なのははそのまま真っ直ぐにカズマを見据えながら、辛うじて無事な方の右腕を彼へと向かって伸ばしながら―――
―――ゆっくりと、なのははカズマを抱きしめた。
「―――ッ!? テメエ、離―――」
思ってもいなかったなのはの行動に、カズマは驚きながら反射的に振り払おうと身を捻ろうとして。
だが彼がそうする前に、その叫び上げようとするその声すら遮って。
彼女は静かに、けれど力強くはっきりとその言葉を彼へと告げる。
「もういい。もういいんだよ、カズマ君。君は――――今、泣いていい」
泣いて、いいんだよ。
そうしっかりと抱きしめながら、なのははカズマへとその言葉を告げる。
ずっと、この戦いを始める前から、ずっと言わなければ、伝えなければいけないと思っていたその言葉を。
泣けない獣に、そうじゃないのだと告げる為に。
高町なのははその言葉をカズマへと告げる。
泣いて、いい。
自分は今泣いてもいいのだと、そう自分を抱きしめてくる女は言ってくる。
訳が分からない。いったいどういう意味だというのか。
その瞬間、脳裏に走ったのは言うまでもないあの光景。
大切だった、護りたかった、背負うべきはずだった、アイツの姿。
―――君島邦彦。
アイツが殺されたと知った時、信じられなくて、悔しくて、許せなくて。
復讐を誓った。アイツを殺した連中だけは絶対に許さないと。
そしてアイツが大切にしていた、あの車も取り戻すと。
そうして激情に駆られ、連中の駐屯地に殴りこみ、力を振るって連中を残らず薙ぎ払った。
そして取り返した、アレだけは……アレだけは奪われるわけにはいかなかったから。
アレはアイツの物だったのだから。
けれど、思いの全てを拳に込めて連中を叩きのめそうと、そして目的の物を取り戻そうと。
結局は、何も治まりがつくこともなかった。
何も決着などつくことすらもなかった。
けれど……
「……泣けねえ……泣けるわけねえだろ。……んなこと……出来るかッ!」
搾り出すように反論の言葉を怒鳴りつける。
泣いてもいいだと? ふざけるな!
「……泣いちまったら……認めちまうことに……なるだろうがッ!」
涙は弱さだ。そんなもの幾ら流そうが何の意味も無い。
この最低で最悪の大地の上で、そんなものは最も無意味で無価値なもの。
弱者の証だ。泣くということは、己が弱者であると認めるようなもの。
出来ない、そんなこと出来るはずも認められるはずもない。
俺は弱者じゃない。奪われる立場じゃない。
“シェルブリット”のカズマ………アイツの、君島邦彦の相棒だ!
そんな俺が涙など……流すことなど絶対にあってはならない。
だから泣かない、泣かなかった。
泣きたくても、泣くのは駄目だから……泣けなかった。
今更、今更になってかなみすら失ってしまった後にどうして掌を返すようなそんな事が出来る?
どうして弱者になど戻れる?
だから俺は涙なんて―――
「……違う。違うよ、カズマ君。……涙は、決して弱さなんかじゃない」
誰かを思って泣くことは、決して間違っていることでもなければ恥かしいことではない。
だってその痛みと悲しみこそが、その思っている者への自分にとっての真実の価値。
心から偽らずに、思うことを許された証明だ。
だから泣いていい。悲しい時には泣いていい。泣いて、いいのだ。
そうでなければ、本当に泣きたい時に泣けなければ―――
「本当に、泣きたい時に泣かないと……もう、本当の意味で笑えなくもなるんだよ?」
自分を偽ってしまえば、仮面を被る事を了承してしまえば、嘘を肯定してしまえば。
その瞬間から、自分は自分で無くなる。自分としての本当の思いを、曝け出せなくなる。
「……そんなの……そんなの………ずっと、辛いよ」
辛い、辛すぎることなんだとカズマを更に抱きしめながらなのはは告げる。
悲しみに暮れろと言っているわけではない。そこで立ち止まることを肯定しているわけでもない。
けれど悲しい時には悲しまないと、泣きたい時にはちゃんと泣かないと。
笑いたい時にも、笑えなくなってしまう。
そんなのは駄目だ、絶対に駄目だ。
「君島くんやかなみちゃんは………今の君のそんな姿を、本当に望んでいるの?」
「―――――――――――――――ッ!?」
なのはに告げられたその言葉に、カズマはビクリと体を震わせ反応を示す。
君島とかなみ……カズマにとって誰よりも大切だった者達。
彼らを護りたいと思った、背負いたいと思った。
その為に、その為に自分は戦ってきたはずだった。
そんな彼らが自分へと望んでいること……………?
君島の顔が脳裏へと浮かぶ。
かなみの顔が脳裏へと浮かぶ。
これまでの彼らとの日々が、脳裏へと浮かぶ。
失って初めて気付いた自分にとって心の底から幸せだった過去。
もう取り戻せない彼にとっての日溜りの地。
涙が、気付けば頬から一滴零れ落ちていた。
思い出してしまった。
……思い出して、しまった。
「………俺は、泣いてもいいのか………?」
本当に泣いていいのか?
そんな都合の良い事、身勝手なこと、許してもらえるのか。
君島やかなみは……涙を流す自分を許してくれるのか?
「うん……泣いていい。君は………今、泣いていいんだよ」
それが限界だった。
堤防が決壊する。もう我慢も出来ない。
ずっと溜め込んでいた悔しさが、無念が、喪失感が、悲しみが、カズマの中から次から次へと溢れ出てくる。
カズマは泣いた。悲しみを貪るように、慟哭を発しながら。
自分が失ってしまったものが、本当にどれだけ大切なものだったかを改めて噛み締めながら。
泣けないはずの獣は、しかし涙を流し続けた。
漸くに、泣いてくれたカズマに安堵しながら、高町なのはは優しく彼を抱きとめ続けた。
彼が泣き止むまで、それに付き合おうと。
この後に、彼が再び笑えるように願って。
彼が、本当の意味で強くなってくれることを願って。
(………けど、やっぱりもう一度、君とちゃんとしたお話が……したかったな………)
彼との間に後悔があるとすればそのこと。
そして、結局は彼の助けも出来なさそうだという事。
それから、後一つは―――
(……あれ?………おかしいな……結局、私って後悔ばっかりだ………)
まるで糸が切れたマリオネットにでもなったように不意に全身の力が抜けていく。
彼を抱きとめ続けることはおろか、もう立っていることも出来ない。
……ああ、限界か。そうなのはは他人事のような遠い意識の中で思い至る。
限界を超えた代償……文字通り、命を燃やし尽くしたその最期。
遠ざかっていく意識。霞む視界。形として纏まらない思考。
眠い………酷く、眠い。
もう、眠ってもいいのかな。
そう、ふと思いながらそれでも消え行く最期の意識で彼女が脳裏へと思い浮かべたのは二人の人物。
今最も逢いたくて、言葉を交わしたい大切な人たち。
最期にあの二人に逢いたいな、そう思いながら……高町なのはの意識は断絶した。
急に高町なのはが押しかけてきたこと。その事実にユーノ・スクライアは戸惑っていた。
それこそ奇妙だと思う怪しむべきことは山ほどある。
どうしてなのはが此処にいるのか。いったいいつロストグラウンドから戻ってきたのか。
そして、何の為に自分に逢いに来てくれたのか。
分からない。大まかな疑問であるこれらの解となるべき情報をユーノは持ち得ていない。
故に戸惑う。彼女への対応を測りかねる。
とりあえず向かい合って座りながらコーヒーを用意して彼女へと差し出す。
微笑と共になのはは礼を言ってくる。
ふとした彼女の笑みや仕草に思わずドキリとしてしまうのは、先程からずっと彼女のことばかりを意識していたからか。
兎に角、落ち着けと逸る動悸を抑えようと言いきかせながら、ユーノは自分が冷静であるようにと極力努める。
深夜、誰もいない広大な無限書庫内部。
高町なのはと二人きり………。
拙い、落ち着こうにも落ち着けない。
表面上くらいは冷静さを保ちたいのだが、どうにもチラチラと先程から彼女へと視線を向けるのをやめられない。
不意になのはがこちらを見てくる視線とかち合う。慌てて目を逸らす、彼女はそれに不思議そうに首を傾げている。
これ以上は醜態を曝せない、落ち着けユーノ・スクライアと彼は胸中で自分へと必死にそう言いきかせながら、今度は人という字を掌に書いてそれを飲み込む。
気休めなおまじないだがやらないよりはましだろう、気分的に。そう思っていたら不思議と逸る己の内心も少しはマシになってきたような気がした。
「それで、急な来訪だけど………どうしたの?」
とりあえず会話をしていけばいい。それで場は保てるはず。
故に当然といえる切り出し方だが、まずこの疑問を解消したいとユーノはなのはへと問いかける。
それに対してなのはは、
「うん、ちょっとね。………ユーノ君と逢って、お話がしたいかなって」
いきなりに破壊力抜群の先制攻撃を叩き込まれる。
思わず、ぐはっとでも血反吐を吐き出したいところだがそんなことやったら引かれるだけだ。絶対にそんなことは出来ない。
落ち着け、落ち着けと普段の自分で良いんだと自己暗示をかけるのに突入しようとしていたユーノになのはは語りかけてくる。
「……早いものだよね、ユーノ君と出逢ってもう十年にもなるんだよ」
光陰矢のごとし、そんな言葉が彼女の世界の諺にあるのをユーノは思い出す。
明らかに郷愁に満ちた彼女の様子をどこか不思議と感じながらも、それ以上は踏み込まない。
きっと言いたくないことくらいは彼女にだってあるだろう。それを無理に聞き出すことは出来ない。
昔を懐かしんで、愚痴にでも付き合ってもらいたいのかなと思ったユーノは彼女の会話に合わせる事にした。
「始まりは……本当に偶然の小さな出会い、だったよね?」
「そうだね。……あれから今日まで本当に色々あったよね」
そう互いに笑い合いながら、思い出話へと花を咲かす。
ジュエルシードを巡ったあのPT事件、そして『闇の書』事件。
フェイトやはやてとも一緒に管理局入りして、局員として働き続けたこれまでの日々。
辛い事や悲しい事、苦しい事も色々とあったのは確かだ。
だがそれでも―――
「私は今まで私のやってきた事に、後悔はないよ」
「………なのは?」
凛として告げる彼女の姿を気高く美しいと正直に思う反面、何故か彼女が消え入りそうなほど儚く霞んで見えた気がした。
ゴシゴシと目を擦り改めて彼女を見直すも、おかしなところは何も無い。彼女はいつも通りだ。
………見間違いだろうか?
きっとそうなのだろうと不安を払拭するようにそう思おうとしたその時だった。
「ユーノ君。今まで……本当にありがとう」
急にそう微笑みながら言ってきた唐突な彼女の言葉。
ユーノはそれこそいきなりらしくもない彼女の言葉にどうしたのかと問い直そうとする。
けれどなのははそれを遮るように小さく首を振ると座っていた椅子から立ち上がる。
「そろそろいかなきゃ。……ユーノ君も、あんまり無理しちゃ駄目だよ」
体は大切にしないと、そう笑ってきながら一度だけ真っ直ぐに目を逸らすこともなく真剣にこちらへと視線を向けた後、
「ユーノ君が色々と支えてくれて、私はここまでやってこれたんだと思ってる。……出来れば、ヴィヴィオの事も良くしてあげてくれないかな。あの子、ユーノ君には凄く懐いてるみたいなの」
別にそれは構わない。彼とてヴィヴィオの事は好きだ。なのはに頼まれなくてもそれくらいは任せてくれて良い。
将来、司書になりたいというのなら自分の方から色々と教えてもいいと思っているくらいだ。
だからヴィヴィオの事は問題ない。こちらだってその心算だ。
けれど、このなのはの言い分はまるで―――
「なのは……君はいったい………?」
「友情に見返りは求めないけど、私はユーノ君には恩返しは色々としておくべきだったって思ってる」
それが出来そうにないのは申し訳ないと唐突に彼女は謝ってきた。
恩返し、それこそそんなものは欲していない。ユーノが欲するものがあるとすればそれは―――
「な、なのは! 僕は―――」
礼を示した後、背を向けて立ち去ろうとする彼女へユーノは思わず声を張り上げながら呼び止めようとする。
止めなければ、行かせてはいけないと思った。
呼び止めないと、もう二度と彼女には―――
「………ユーノ君?」
声を張り上げて呼び止められたことに驚いたのか、なのはは不思議そうに首を傾げながらこちらへと振り返ってくる。
言え、心の内からもう一人の自分がそう言ってくるのをユーノは自覚した。
言え、自分の想いを、十年間秘めてきたその想いを伝えろ。
今ここで言わないと、ずっと後悔することになる。
そう何故か確信したからこそ、想いを解き放てとユーノの中のもう一人のユーノが告げてくる。
それに対してユーノは………躊躇いを抱いていた。
本当にここで言って良いのか、本当にこの告白は上手く行くのか?
自分の中の臆病な部分が、あれ程に先に固めていたはずの決意にすら待ったをかけた躊躇いを示す。
情けない……本当に度し難い、チキン野郎だ。
自分自身を罵る言葉なら即座に百通り以上は瞬時に思いついただろう。それくらいに土壇場で踏み止まっている自分が見苦しいとユーノは思っていた。
しかしなのははそんな押し黙っているユーノにさえ、文句一つ言う様子もなくただ静かにユーノから視線を逸らすこともなく彼が言葉を紡ぐのを待ち続けている。
それに彼女もまた何かを期待しているように見えたなどと思えたのは、ユーノ自身の単なる勘違いの自惚れだったのか。
どちらにしろ、もうこれ以上行かなければならないと言っている彼女を、自分の中の訳の分からない確証もない予感で止めておいていいはずも無い。
そう思ったからこそ、ユーノは―――
「―――僕も、今まで君がいたからこそやってこれたんだと思ってる。……ありがとう、なのは」
―――結局、選んで告げたのはそんな無難な言葉だった。
一瞬、なのはが悲しげな顔を見せたような気がしたのは見間違いだったのか。
なのははただ笑みを浮かべて、うんと頷きを示した後、
「それじゃあ、ユーノ君………バイバイ」
「うん、またね。なのは」
最後にもう一度、そんな別れの言葉を交し合ってなのはは背を向け無限書庫を出て行く。
その後姿を見送りながら、結局また素直に本音を言えなかった己の無様さをユーノは認め、溜め息を吐いた。
深い、深い溜め息だった。
「……でも、次こそは絶対―――」
言おう、胸中で今度こそ改めた決意を抱き直したその時だった。
「―――それから私、たぶんユーノ君の事が好きだったんだと思う」
不意に去ったと思っていた彼女の声が、言ってくるとは思わないようなそんな言葉を発してきたことにユーノは驚きながら反射的に入り口のほうへと視線を向ける。
「なのは!?」
彼女の名前を呼ぶ。視線をあちこちへと向けて彼女を探す。
けれど、もう何処にも影も形も高町なのはの姿は見当たらない。
「………幻聴?」
きっとそうだろうとは自分でも思っている。自分の妄想が幻聴となって聞こえてきたのだと思った。
だってこっちが彼女の事を想うなら兎も角、彼女が自分のことなど………
「疲れてるのかな」
もう帰って寝た方がいいだろう。アルフはおろかなのはにまで釘を刺されたばかりだ。
作業の続きは明日にでもしよう。そう思い中断されていた作業等の片づけへと入ったその時だった。
「………本当に、彼女だったんだよな」
出したコーヒーは手付かずのまま、もうすっかりと冷め切って湯気すら出していない。
それを自分が飲んだコーヒーカップと一緒に片付けながら、今夜のことは色々な意味で忘れられそうに無いだろうなとユーノは思っていた。
これが、ユーノ・スクライアと高町なのはが顔を合わせ、言葉を交わした最後の機会だった。
夢を、夢を見ていました。
それはとても穏やかで、優しい夢でした。
なのはママがいて、フェイトママがいて、ユーノ君やアイナさん、ザフィーラや皆がわたしの傍に居てくれる。
わたしにとっての一番の幸せを、形にしてくれた夢でした。
とっても楽しくて、平和で、賑やかで、優しい。
わたしが居ても良いって言ってくれる、わたしを独りぼっちから解放してくれたわたしにとっての最高の幸せ。
ママ……なのはママ、ありがとう。
わたしを引き取ってくれて、わたしをママの娘にしてくれて。
わたしを―――助けてくれて。
わたしは……高町ヴィヴィオは凄く幸せです。
本当に、本当に幸せです。
この幸せがいつまでもずっと続いてくれれば良い。
それが今のわたしの心からの願いです。
「………ママ?」
「あれ、起こしちゃった? ゴメンね、ヴィヴィオ」
不意に己にとっての幸せを形とした夢が終わりを告げ、朧気ながらも眠っていた状態から目を覚ましたヴィヴィオは寝ている自分を覗き込んでいる人物に気付いた。
薄っすらと未だ明確でない視界と寝起きで形を保てていない思考ではあったものの、段々とそれが誰なのかを認識していくにつれて彼女の意識は一気に覚醒した。
「―――ママ!?」
「うん、なのはママだよ。ヴィヴィオ」
そう言って優しく微笑みかけてくる彼女―――高町なのはの姿はいつも通り。
ヴィヴィオが良く知る、誇りに思う、自分にとっての最愛の人物。
自分を引き取ってくれた、自分の母となってくれた人。
「ゴメンね、こんな夜遅くに起こしちゃったみたいで。顔だけ見られればそれで良いと思ってたんだけど」
そう詫びながら申し訳無さそうに苦笑を浮かべるなのは。
確かに普段のヴィヴィオならばもう眠くて仕方の無い時間であったのは事実だが、そんなことは今何の問題でもなかった。
久しぶりになのはが戻ってきてくれた。その事実だけでヴィヴィオにとっては他の何よりにも勝る吉報も同じ。
彼女が忙しいことは知っていたし、我が儘を言ってはいけないと思ってずっと我慢していたが逢いたかったというのはヴィヴィオにとっての紛うことなき本心でもある。
いっぱいお話をしたいことがあった。なのはがいない間に自分がしてきたこと、ユーノのお手伝いだって少しは覚えた。聖王教会の学校では友達と一緒に楽しく学び、過ごしてきた。
それらをずっとなのはへとヴィヴィオは話をしたかったのだ。
「ママ、ママ、聞いて。わたしね―――」
「うん、聞くよ。ちゃんとヴィヴィオのお話は最後まで聞くよ」
そう言いながらヴィヴィオが嬉々として語るなのはが不在の間に起こってきたこと。
その体験、その思い出、その時に感じた感情を。
拙い会話ではあるものの、一つ一つヴィヴィオはなのはへと話していく。
なのはもまた嬉しそうに、娘が語る話の全てを、相槌を打って応えながら全て最後まで聞き続ける。
傍から見るならばそれは、優しい親子の触れ合いの一幕だったのだろう。
やがて語ることも語りつくしたヴィヴィオは、段々と疲れて眠気が再び襲ってきた。
ここで眠ってしまうのは嫌だと思ったヴィヴィオは目を擦ったりしながら必死に眠気に抗おうとしているものの、
「駄目だよ、ヴィヴィオ。眠いなら、もう寝ないと」
自分に付き合わせてゴメンねと謝りながら、もう寝なさいと優しく諭され、渋々ではあったもののヴィヴィオはそれに従った。
ベッドに戻り横になるヴィヴィオは傍になのはが居てくれることを改めて確認しながら、大事な事を問う。
「ママ……明日はちゃんと居てくれる?」
今夜までに語りたいことの多くを語った。だが明日以降にもあるであろう様々なことをいち早く語りたいというのも事実。
まだまだ、ずっとずっと彼女とお話をし続けたかった。
だがヴィヴィオのそんな儚い願いにも、なのはは申し訳無さそうに表情を曇らせて、
「……ゴメンね。また明日からもママ……お仕事にいかなきゃならないの」
そして今度のお仕事は結構時間が掛かるらしく、暫くはまた帰ってこられないとのこと。
当然、そう言われてヴィヴィオの表情もまた曇らないわけではなかった。
しかし―――
「うん。そうだよね。……ママのお仕事は大変だもんね」
そう自分自身に言いきかせて納得させようとする。
我が儘を言ってママを困らせちゃ駄目だ。良い子にしていないといけない。
そう自らに仕方の無いことなのだとヴィヴィオは言い聞かせた。
寂しいのは間違いの無いことだが、それでもなのはが皆を守る為に働いているとても立派な仕事なのだということに誇りを持っているヴィヴィオは、だからこそこれをちゃんと受け入れられてもいた。
ただ……それでも少しだけの我が儘が許されるのなら……
「……ねぇママ。わたしが寝るまでは傍に居てくれる?」
そのヴィヴィオの言葉に不覚にも泣きそうになったなのはだったが、それを必死に自制する。
悟られるわけにも、心配もかけさせるわけにもいかない。
それに何より……最愛の娘のこんな儚い小さな願いを無碍になど出来なかったから。
「うん、居るよ。ヴィヴィオが眠るまで、ママはずっとヴィヴィオの傍にいるから」
だから、安心してゆっくり眠りなさいとなのははヴィヴィオへと告げる。
ヴィヴィオもまた嬉しそうに頷きながら、ゆっくりと自身の瞼を閉じる。
なのはの姿は見えなくなったが、それでも約束通りに傍に居てくれているのがその優しげで温かな気配から直ぐに分かった。
これで安心して眠れる。きっと良い夢だって見れることだろう。
「……ねぇヴィヴィオ、ママがお仕事で出かける前に言った約束は覚えてる?」
勿論だ。ずっとずっと考えていたのだ。片時だって忘れていない。
そう、わたしが行きたい場所……それは―――
「……ママのところ」
ポツリと呟くヴィヴィオの言葉になのはは「え?」と言った様子で聞き返してくる。
ヴィヴィオは照れ臭く恥かしくなったが、構わないと思い直し自分の望みを告げた。
「わたし、ママの居るところなら何処でも良いよ。時間が掛かってもいいから、いつか……ママが立っている場所の傍に、わたしも一緒に立ちたい」
それがわたしの―――高町ヴィヴィオの偽らざる、たった一つの小さな願い。
場所云々は関係ない。そんなものは何処でも良い。
大切なのは……なのはと一緒に居られること。
同じ大地の上に立ち、同じ空を見上げて、同じ風を肌で感じ取る。
最愛の母親と一緒に居たいというのが娘にとっての唯一の願望だった。
改めて言うには照れ臭い、そんな気恥ずかしさを覚えながらも、けれどハッキリとなのはへと告げることが出来てよかったとヴィヴィオは思った。
また娘が自分をそんなに慕ってくれている事に嬉しさと共に申し訳なさを感じながらも、それでもなのはが愛する娘へと告げるべきことは……
「ヴィヴィオ。……ママはずっとヴィヴィオの傍にいるよ。どれだけ離れてても、ちゃんと心で繋がってる。ちゃんとヴィヴィオのことを見守ってるから」
そう言ってくれることに嬉しいと思う反面、何だかいつものなのはらしくもない言葉だとも感じた。
だが眠気が強まり朧気になっていく意識の中では、もうそれについても深く考えられない。
幼い子供として睡魔には抗えない事例を示すように、ヴィヴィオの一時の楽しい夜更かしは終わりを告げようとしていた。
霞がかかって眠りへと落ちていく意識の中で、それでもヴィヴィオの耳が最後に聞き拾った言葉は、
「ありがとう。それから―――愛してるよ、ヴィヴィオ」
自分もまた母へと抱いている感情と同じ言葉であった。
そうして分散し、乖離していた意識は急激に元の場所へと呼び戻されるように戻っていく。
最後の最期に、本当に愛していたその者たちへと告げたかった言葉を告げ終えながら………
誰かが自分の名を呼んでいる気がする。
必死になって呼びかけながら、揺り起こそうとでもするように強引に体を揺さぶられる。
痛覚をはじめとした感覚など、それこそ既に根こそぎ消失したはずだというのに、何故だかそれが分かった。
そして少し不満にも思う。女の子をこんな強引なやり方で起こすのはデリカシーに欠けると。
白雪姫などと柄にも無い事を言う心算は無いが、起こそうとするのならもう少し優しく起こして欲しい。
ただでさえもう全てを出し切りスッカラカンと言っても良い現状で、疲れているのだからこのままもうずっと眠りたいと思っているのに。
………そう、もうこのままずっと………
――――――――は!
全てを出し切り、やるべき事をやり、伝えたい事を伝えたとは思っている。
無論、何から何まで満足がいく結果だったわけでもなければ、自分でもこのやり方が本当に正しかったかなど分からない。
もっと上手く立ち回れるやり方はあったのかもしれない。幾つかの悲しみだって或いは起こすことすら事前に防ぎ回避できたものだってあったのかもしれない。
自分のやった事など、結局激流の中に何の効果も無い無意味な一石を投じただけだったかもしれないとは思わないわけではないのだ。
―――――――のは!
けれど、それでも私は自分がしてきたこと、成し遂げたこと、残したものが間違っていたとは思わない。思いたくはない。
まったく後悔がないわけじゃない。未練が無いわけでも無論の事ながらありえない。
それでも……それでも、私は私を偽らなかった。
百点万点には程遠い、自己満足に過ぎない結果だったとしても。
それでも……それでも私は、自身の中にあった信念を確信を信じている。
あの日、あの時、あの瞬間に。
こんなにも星が近い空の上から、この大地を見下ろして思ったこと。感じたこと。
信じて、突き進んだこと。
……勝手で我が儘なことは承知の上だけど、それでもこれを誇りたい。
十年前から変わらずに抱き続けてきたもの、これを最後まで捻じ曲げることなく戦いきったこと。
自分の持つ魔法の力が、きっと何処かの誰かの笑顔を護る為の一助となれたこと。
それを誇りながら私は―――
―――――――なのは!
…………え?
「おい、しっかりしろよ!? なのは!」
強く引っ張られるように揺さぶられ、がなり立てるように響く切羽詰った叫び声。
バラバラに細分化し、そのまま消えてなくなるはずだった彼女の意識を一時とはいえ繋ぎとめ、呼び戻してきたその呼びかけ。
力強い意志。
それがいったい何者が行ったのかを高町なのはは僅かとはいえ復活した意識からそれを悟った。
「……カ……ズ……マ……く…ん………?」
必死になって倒れ行くこちらの体を抱きとめ、必死になって呼びかけてくるその少年の姿。
覚えてる……無論、まだ忘れていない。
自分が助けようと願い、手を伸ばし、名前を呼んだ相手。
先程まではそれこそ命の取り合いだったというのに、今ではどういうわけかこちらを心配して呼びかけてくれているようだ。
嬉しい、そう正直に思う反面、しかしこれも意味のないことだと知ってしまっていれば申し訳ないことだとも思う。
「しっかりしろ! 直ぐに医者の所まで連れてってやる! だから……だから、死ぬな!」
必死にそう励ましてくれているのは嬉しいが、それも残念ながら聞き入れられない要望でもある。
自分の体は自分が一番よく分かっている。だからこそ、これはもう決まってしまったことだ。
全身に負った重傷の数々、そして何より魔導師にとっては第二の心臓とも言って良いリンカーコアが回復も効かないほどに損壊してしまっている。
先のブラスターの限界を遙かに超えた行使の濫用が原因だが、これも仕方のないこと。
命を代償にしてでも、それでもなのはは力を望んだ。
カズマを止める為の、助ける為の。
その結果がこれ……もうどうしようもない。これは覆せない。
自分はもう………助からない。
後悔や諦め云々は抜きにしても、認める他にない現実だ。
だからこそ、カズマにはもう意味が無いのだと分からせるように静かに首を振った。
だがそれを見て尚更に、カズマは感情を爆発させながら叫ぶ。
「ふざけんな!……んなこと……そんなこと、認められるか! 勝ち逃げなんて許さねえ!」
だから死なせてたまるかと怒鳴ってくるカズマに、実に理由が彼らしいとなのはは笑う。
勝ち逃げ……そう、勝ち逃げか。
実力ではこっちが完全に圧倒されていたようにも思えたし、ラストも不意打ちに近かったのではなかろうかとは自分でも思っている。
加え、死にかけている自分と比べても酷くボロボロではあるものの、まだカズマは大丈夫そうではある。
この結果を踏まえても、彼にとってこれは勝ち逃げになるらしい。
勝ち負け云々に拘りを持つ方かと言われれば……確かに、勝った方が気分が良かったり気持ちが良いものだとは時折思う。
こんな強い男の子を相手に自分は勝てたのか……ふむ、少しだけ、ほんの少しだけだが嬉しいと思っている部分がないわけではない。
無茶をした上での勝利など本当は論外なのだが、最後の最期である。大目に見てもらおう。
そして今は、そんな勝ち逃げ云々など以上に―――
「おい、なのは! しっかり―――」
「………な、まえ………」
不意にこちらがポツリと口を開いて零した言葉に、一体何の事かとカズマが怪訝そうな顔をする。
けれどなのははそれを気にした様子も見せず、ただ心から嬉しいと思える表情を精一杯に浮かべながら、
「………やっと、名前……呼んで…くれた……ね……?」
『テメエじゃないよ。わたしの名前は高町なのは。まだ名乗ってなかったよね? 改めてよろしくね、カズマ君』
『………おい、テメエ』
『何かな? あ、それと私の事も名前でちゃんと呼んで欲しい―――』
『んなことはどうでもいい! それより俺の後を付いて来るんじゃねえ!』
『私は私のやり方で壁を乗り越える。だから―――今度は名前を呼んでもらえると嬉しいかな』
それはあの時、あの再会の時に交わした言葉の数々。
少女が願った小さな頼み。
「ずっと……呼んで…くれない、から……忘れちゃってたんじゃ……ないかなって……思ってた……」
けどやっぱりちゃんと覚えていてくれたんだね、と嬉しそうになのはは笑う。
互いが互いの名前を呼び交わす。
高町なのはにとってそれは神聖とも言って良い行為のひとつ。
理解というものを他者との間で進めていく上で、心を触れ合わせる為の最初のステップ。
友達になるための、はじまりの言葉。
高町なのはにとってのカズマとの間にあった三つの後悔。
一つは、彼との間に充分なお話の機会をもう一度設けることが出来なかったということ。
もう一つは、これから激動の渦中で戦い続けるであろう彼を支えて一緒に戦えないこと。
そして最後の一つ、これこそがそれだった。
お互いの名を呼び合い、友達となること。
この三つを叶える事が出来ないままで終るのは本当に無念だと思っていたのだが、最後の最期で、この一つだけでも叶ったことは或いは彼女にとっても唯一の救いともなった。
「カズマ……くん……君は……ひとりじゃ…ないよ……」
どんなに苦しくて辛い時でも、決して一人ではない。
死んでしまったとしても、それでも君島邦彦の信念は彼の中で生き続けている。
由詑かなみはどんな時でも、決して諦めることなく彼の帰りを待っている。
そして自分もまた……この想いだけでも彼と共にあろうと思う。
だから―――
「……諦めちゃ……駄目だよ………最後まで……最後まで……」
―――この大地の上で、しっかりと生きていかなきゃいけないよ。
そう彼女は最後に彼へと伝えるべき事を伝えた。
「おい……おい! なのは! おい、しっかりしろ!?」
再びに叫び声を上げながら体を揺さぶられるが、それも正直限界だ。
眠い……本当に、凄く眠い。
もっと色々彼と交わしたい言葉もあれば、この大地の上で成すべき事も残っている。
やり遂げるべき事を、残した者達へと押し付けるような形となってしまったことには自分とてそれが己自身の罪だろうとは思っている。
スバルに帰ると約束し、ヴィータたちを護ろうとも思っていた。
はやてやフェイト……生涯最高の親友たちを置き去りにしていってしまうことのなんと薄情なことか。
また、ユーノやヴィヴィオ以外にだって他にも別れを告げたい人たちは沢山いる。
死にたくない。綺麗事で格好をつけて誤魔化すこともできない、それが己の中にある本音であることも間違いの無い事実だ。
けれど……けれど、高町なのはが終ってしまうということもまた避けられない事実。
『なのはちゃんにしか出来ない事、きっとあるよ』
十年前に抱いた想い、運命との出会い、駆け抜けてきた日々。
今まで必死になって、精一杯に護ってきた私の大好きだった人たち。
大好きだったその笑顔と、そこにある幸せ。
……私は、護れたのかな?
成し遂げられたのかな。自分にしか出来ないことが出来たのだろうか。
「――――――――――――あ」
不意に、覗き込んでくるカズマの表情の向こう、分厚い暗雲に覆われていたはずの空へと視線を向ける。
満開の夜空。宝石が散りばめられたような、手を伸ばせば届きそうとも思えるくらいに空を近く感じるこの大地。
こんなにも、星が近い空の下で。
こんなにも、美しいものを最後に眼に焼き付けながら。
私は、終ろうとしている。
護りたい、護って欲しい。
こんなにも美しいこの大地を、この大地に住むことを誇りに思う人々を。
いつか、いつの日か、それがずっと遠い未来のことなのだとしても、それでもいつか―――
―――この大地に住む人々が笑って過ごせる未来を願って。
それが叶わぬ夢物語だとしても、それでもいつかきっととそれをと願って。
高町なのはは静かにその瞼を閉じた。
青い青い澄み切った空。どこまでも果てしなく続いていると錯覚させるように広い草原。
年の頃は十歳前後だろうか、栗色の髪を両端で縛ったどこかの学校のものであろう白い制服を着た少女が走っていた。
ただ空を見上げて、真っ直ぐ、真っ直ぐに。
少女は走る。走り続ける。
不意に、草原を駆けていた少女の足がピタリと止まる。
不思議そうに前方を見据える彼女の視線の先には一人の女性が立っていた。
年の頃は凡そ二十歳前後。これまた少女と同じ色合いの栗色の髪をサイドポニーで纏めた髪型であり、身に纏っているのは青と白を基調とした動きやすそうな制服。
じっとその女性の事を見つめていた少女は、一度頷くと共に意を決したように女性へと向かって走り出す。
彼女の傍らまで近寄り、彼女の手を掴み、彼女を見上げる。
掴まれた方である女性も別段に驚いた様子もなく、見上げていた空から自分の手を掴む少女へとゆっくりその視線を下ろし、見つめ合う。
交錯する視線、対面する両者。
十年前のわたしと十年後の私。
かつてのわたしといつかの私。
互いが互いの視線から逸らすことなくしっかりと見つめあいながら、最初に言葉を切り出したのは幼い方の高町なのは。
「これで……本当に、良かったの?」
明確な疑問を顕にした問い。後悔や未練の有無を尋ねるかつての自分。
真っ直ぐに、目を逸らさずに効いてくる子供のなのはに、大人のなのははそうだねと一度頷きながら、
「………分からない、かな」
そう苦笑を浮かべて静かに首を振った。
正直な本音。偽りで誤魔化そうとは思わない自分自身へと告げる言葉。
子供のなのははその彼女の返答に困ったように首を傾げる。当然ではあるだろう。これだけの事をしておいて、結局は答が分からないではハッキリともしないではないか。
子供のなのはの不満が分かったのだろう、大人のなのはもしかしその言葉の続きをまた口にしていく。
「分からないけど……それでも、多分同じ場面が繰り返されたとしても、また何度でも私はこの選択肢を選んだとは思うよ」
たとえ何度繰り返そうと、別の選択肢を選んでしまえば自分の命が助かることになったとしても。
それでも自分は同じ選択肢を選ぶのだろう。何度でも。
何度でも、彼の前に立ち、彼を止める為に、彼の名前を呼び、彼に向かって手を伸ばす。
それが自分のしなければならないことだと思ったから。
それが自分のしたいことだと思ったから。
死ぬのは当然嫌だ、痛いのだって勘弁してもらいたい。戦いなどよりも話し合いで済むなら喜んでそちらの選択肢を選ぶだろう。
けれど、これしかなかった。今回はこのやり方しかなかった。他の者ならもっと上手いやり方を思いついたのかもしれないが不器用な自分ではこれが限界だった。
結局、はやての言う通り、自分勝手に一人で背負って一人で潰れてしまったのだろう。
自己満足の代償が己の護りたかった人たちから笑顔を奪うという結果ならば、これは本末転倒だとさえ言える。
罪深い……そう、己は罪深いのだろう。
「……けどね、皆ならきっとそれも乗り越えて行ってくれるよ」
勝手な願望は承知の上、彼女たちが立ち直るまでにはそれこそ酷く時間だってかかるだろう。
沢山迷い、沢山苦しみ、沢山傷つき、或いは沢山間違う事だってあるかもしれない。
「それでも………私は、信じてる」
あの時に、あの瞬間に、スバルが己を超えていってくれる希望の一端を垣間見せてくれた時に感じたのだ。
彼女なら……否、彼女たちならそれがきっと可能だ。
あの教え子たちならばきっと自分を、自分たちを超えて、高く空を飛んで行くことだって出来る。
自分はもう手助けできないが、親友たちや仲間達がきっとそれを支えてくれる。
希望はある、希望の芽はちゃんと残っている。
「私には後を託せる人たちがいるから」
それがきっと一人ではないと言うことの意味の一つでもあると思う。
だから―――
「私は私が果たすべき役目をやり終えたんだって思うんだ」
舞台から退場するのは名残惜しいが、散々我が儘を既に通してしまっている。これ以上のルール違反も出来ない。
だから潔く、この結果を受け入れて、それでも叶うことならこれからもずっと皆の事を見守っていきたい。
繋いだ心の絆を通して、ずっと傍から。
「………うん、分かった」
大人のなのはの話を、子供のなのはもまたそうして静かに聞き終えた後に、頷いた。
全てに納得し、了承を示したわけでもないのだろうが、それでも分かってはもらえたらしい。
「……ねえ、一つ聞いてもいい?」
子供のなのはが次に告げてくることに、大人のなのはは頷きながら何が聞きたいのかと質問を促がす。
子供のなのはは一度間を区切った後、意を決したように真剣な表情で真っ直ぐに大人のなのはを見ながら尋ねる。
「わたしは……わたしにしか出来ないことがちゃんと出来た?」
十年前の始まりの疑問。
将来の夢、進むべき道、選び取りたい未来。
そして―――本当にやりたい事と護りたいもの。
駆け抜け続けた十年、その終わりで彼女が告げる答は―――
「―――――――――――――――――――――うん」
やがて大人のなのはは子供のなのはへとハッキリとそう頷いた。
大人のなのはの返答を見て、子供のなのはもまた嬉しげに笑いながら。
「そっか……じゃあ、ありがとう。わたし」
そう微笑みながら、握っていたこちらの手を離して走り去っていく。
一度だけバイバイと振り返って手を振りながら、けれど以降は二度と振り返ることもなく。
なのはは黙ってその後姿を見送った。駆け去っていくかつての自分の後姿を、やがて彼女の姿が霞んで消えていくまでずっと見送っていた。
そうして、ただ一人だけ取り残されたなのはは空を見上げる。
青い青い、澄み渡るような、そして広大でもある悠久の青空。
良い空だと思う、実に澄んだ良い空だ。
自分もまたレイジングハートと共に仲間達と一緒にこんな空を駆け抜けていたのだろうかと思い返しながら、いつかあの教え子たちがこんな空の下でしっかりと力強く羽ばたいて行って欲しいと願い続けた。
いつまでも……そう、いつまでも………
「………なのは?」
静かに最期に微笑みながら息を引き取った己の腕の中で眠った女の名を、カズマは呼ぶ。
それに返ってくる応えはない。
それが示す意味、その結果を身を震わせながらやがてカズマもまた理解する。
気に入らない……本当に、気に入らない女だった。
しつこくて、ワケ分からなくて、ムカつく、そんなよく分からない女だった。
けれど………最期まで自分から逃げずに立ち向かってくれてきた女でもあった。
「……何だよ、こりゃあ………」
いったい何だというのか、結局これで俺にどうしろというのか。
また一人……刻んで背負わなければならない十字架が、増えたのではないのか。
「……散々こっちをボコって……ヘコませて……挙句の果てには泣かせやがったくせに」
それで本人は満足気に勝ち逃げ?……ふざけんなよ。
ああ、ふざけんなよ! 畜生っ!
結局情けなく柄にもなく日和っちまったこっちの立つ瀬はどうなるってんだよ。
畜生……ッ……畜生ッ!
「……俺にまた……重てぇモン背負えってことかよ……ッ!?」
なぁ、何とか言えよ? 黙ってたら分かんねえだろ?
眼ェあけろよ、何とか言えよ……?
「……俺と、お話するんじゃなかったのかよ……ッ!?」
今なら何でも聞いてやるから、目を開けろよ。
何か言えよ……言ってくれよ。
「なぁ………なのは」
名前だって呼んでやってるだろう? なぁ、だから―――
―――もう一度、俺の名前を呼んでくれよ。
「………っくしょう!」
ギリっと奥歯を噛み砕かんばかりに歯を食い縛る。
何故だか目頭が熱くなってくる。
胸の奥までムカムカしてくる。もう何が何だか分からない。
……あぁ、こんな感情は何度目だ?
それを押さえ込もうと更に強く歯を食い縛って耐えようとしたところ、ふと見下ろす物言わぬ少女が先程言っていた言葉を思い出す。
「……泣きたい時は、泣いてもいいんだったよな………?」
なら、もう我慢しなくても良いのかと思った瞬間だった。
気付けば、頬に何だか生温い液体が流れ落ちてきていた。
無性に、叫びだしたいそんな衝動に従って。
慟哭が、荒野へと響き渡る。
再び大切な何かを失った、その確信と共に。
或いは勝ち逃げして空へ還ったムカつく女の事でも柄にもなく思うように。
なのはを抱きしめたカズマの慟哭が、ロストグラウンドの荒野へと響き渡っていた。
それが全ての結果だったのだろう。
全速力、最速で駆けつけたストレイト・クーガーが見たのは、暗雲晴れ、いつの間にか姿を表していた星空の下。抉れたクレーターの中心、そこで静かに息を引き取ったであろう白い魔法使いの亡骸を抱えて慟哭の叫びを上げる獣の姿。
何があって、それがどうなったのか……凡そでもクーガーとて分からないわけでは無かった。
こんな結果になるのではなかろうかと予想し得なかった訳ではない。
むしろ、こうなる事を心の奥底では恐れていたからこそ、彼女を止めようともしていたのだ。
けれど結局、自分は彼女を信じ、彼女に託し、彼女に行かせ――
―――そうして、彼女はこうして帰らぬ人になってしまった。
その罪科はいったい誰にあるのだろう。
彼女をその手へとかけたと思わしきカズマか?
それとも自分の言い分を聞き入れず愚かな行動に先走ったなのは自身か?
或いは、そんな彼女を結局行かせることに選び、護ってやれなかった己自身か?
分からない……その明確な解答をストレイト・クーガーは持ち合わせていない。
だから結局、クーガーが選んだのはただ無言でサングラスを掛け直しながら、静かに空を見上げること。
綺麗な、とても綺麗な星空だった。
桐生水守が魅せられ、高町なのはもまた魅せられていたのだろうそんな星空。
彼女は空へと還ったのだろうか、そう思いながらクーガーが幻視したのはいつかのこの空の上を飛んでいる白い魔法使いたる彼女の姿。
酒もタバコも嗜んではいないクーガーだったが、ここで文化的にハードボイルドに決めようと思うならば、それらのオプションもふと欲しいと思った。
まぁ、それは無いので仕方が無い。
仕方が無いのだが……
「……いつか、一緒に酒くらいは飲みたかったですね」
桐生水守やスバル・ナカジマ、ホーリーや機動六課のその他のメンバーが一緒でもいい。
ただもう一度、いつかそういう風に笑い合って酒でも酌み交わしてみたい、そう思っただけだ。
結局は、それも無いものねだりに過ぎない、もう二度とは叶わぬ願いだが。
……強い、強い女性(ひと)だった。
そう素直に賞賛し、故にこそ桐生水守に続いてその行動を見届けたいとも思った人だった。
「……貴女は、自分の標識を見間違わずに進めましたか?」
詮無い質問ではあるが、クーガーからすればこれに是と答えられると言うのなら、むしろ羨ましいとも思った。
そう、或いはそれを完全には出来なかった者としては。
高町なのはという少女の生き方は、或いはストレイト・クーガーがかつて羨んだ光景だったのかもしれない。
どちらにしろ、もはやその詮索もそれこそ意味は無い。
憧れは、もう二度と手の届かないところに行ってしまった。
翼を持たず、この大地に二本の足で立ち、駆け続けるしかないクーガーには、幾ら近かろうともこの空は手を伸ばしてもやはり遠過ぎる。
だから結局は、短いこの余生、この大地でしっかり生きていくしかない。
空に還ってそこから見守っているであろう彼女に、恥かしい様を曝さない為にも。
「まぁ、出来る限りの残ったフォローは約束しますよ」
だから―――今はサヨウナラ。
安心して休んで、そこから見守り続けていてください。
ニヤリとニヒルでふてぶてしい、自分でも中々に決まったと思う笑みを浮かべながら、逝った彼女を安心させるようにそう告げた。
そして最後に、最大限の心から敬意を込めたこの言葉を貴女に――
「ゴッドスピード―――高町なのはさん」
名前、今度はちゃんと合ってるでしょう?
夢を、夢を見ていました。
それはとても荒々しく、激しい、そして悲しい夢でした。
己の腕の中で逝ってしまった、強くて優しかったあの女の人の喪失を知って慟哭を上げるあの人。
あの人の胸の中にまた一つ刻まれてしまった想いと名前。
やり場の無い自身の感情に押し負けてしまいそうになりながら、あの人は慟哭をあげ続けます。
悲しい、とても悲しい。
あの人が傷ついたことも、あの女の人とも二度とお話が出来なくなったということも。
わたしにとっても……堪らなく悲しい。
悲劇の連鎖が続いていく中で、わたしはそれでも夢の中のあの人が立ち上がってくれることを信じたい。
けれど、段々と途切れていくわたしの意識の中であの人はどんどん遠くに行ってしまって。
もう二度と手を伸ばしても届かないのではと思うくらいに、遠くに行こうとしているあの人に何も出来ず、わたしは取り残されます。
それがわたしが見た最後の夢。
わたしはこれ以降、夢であの人を見ることが出来なくなりました。
いったいあの人は何処へ行ってしまったのか、あの人は帰ってきてくれるのか。
分からないまま、わたしは途方に暮れていました。
もう、願いを叶えてくれる魔法使いは何処にもいないのだという絶望を共に抱きながら。
ロストグラウンド。
二十二年前の大隆起現象を原因として、世界から隔絶された失われた大地。
大隆起現象による影響により、標高の高いこの大地の上は空に非常に近いとも言われることがある。
夜空の一面に広がる星々。宝石を散りばめた様なこの夜空は、手を伸ばせば届くのではないかと余人に錯覚を抱かせるほどに圧巻としたもの。
故にこそ、こんなにも星に近い大地だったからこそ。
一つの強い輝きに満ちていた星は、落ちてしまったのかもしれない。
星もまた、自分に近しきこの大地を求めて。
どちらにしろ、これが現実であり結果だ。
一つの星は自身の在り方がどうあるべきかを追い求め、結果、成すべき事を成し遂げようとしてこの大地へと流れてしまった。
その星が流れる間際に発した輝きは、その残光がこの大地にこれからどんな影響を及ぼすのか。
そしてこの大地で生きる者たちはその輝きをどう受け入れるのか。
どちらにしろ、その答は未だ出ていない。
その答に向かって事態が動き出すのはこれより暫し間を置いた八ヵ月後。
混迷極まるこの大地に飢(かつ)えた野望を胸に秘めた蛇が来訪し、残された者たちの前へと現れるその時まで。
また己の正義と信念を喪失してしまった男が、零からの再スタートでとある少女と邂逅し絆を深め合うその時まで。
また同じく背負うべきものも何も無い、全てを失い戦いしか残っていない獣の前に、かつて獣を止めた女の意志を受け継ぐ者が現れるその日まで。
暫しの間、混迷を極めるこの大地の物語は一時の閉幕を迎える。
次回予告
幕間1 ユーノ・スクライア
幕間劇の舞台は異世界。
かつて此処から旅立った彼女たちを送り出し、残された者達。
喪失の虚しさが、悲しさが。
導を失った彼らにどのような影響を与えるのか。
既にその想い伝えるべき者……此処にはいない。
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