はるか昔・・・・・・・とある次元世界

其処は戦場だった、多くの巨大な戦艦『戦船』が飛び交い、休むことなく光学兵器や実弾を目標に向かって放つ。
それは目標を、目標ではない別の物を、目標を中心とした一帯を破壊し、焼き尽くし、粉々に吹き飛ばす。

数多の兵士が相手を殺すために引き金を引き、獲物を振り下ろす、堪えることのない様々な声、叫び、苦しみ、歓喜。
彼らが敵を殺すのは理由がある、友のため、自身の世界のため、恋人のため、家族のため、快楽を得るため、金のため、忠誠を誓う王のため、理由は様々。

そしてそれらを束ねるそれぞれの王自身も、己の力を示すため、世界を征服するために力を振るう。

『一騎当千』の言葉を証明するかの様に、圧倒的な力で数多の軍勢を蹴散らす王

自身に戦闘力は無いものの、高い指揮能力を駆使し、兵を有利に導く王

友軍、敵軍問わず、自らの能力でそれらの屍を自らの駒として戦わせる王

そして、ひときわ巨大な戦船に乗り、その圧倒的な破壊力で敵を蹂躙する王、

それ以外にも、多くの王がその力を振るう。その戦いは果てしなく・・・そして数多の次元世界を巻き込んでも尚続き、終わりは無いかに見えた。


                           『・・・・愚かだ・・・・』


その惨状を空から見つめている者がいた、そして、見下ろしている大地や空での惨状を見て自然と呟く。
皆がただ戦い殺しあうだけの世界、誰もその行為を疑問には思わず当然の事だと思っている、それを愚かと言わずになんと言うか。

そもそも、『彼』はこの世界の住人ではない。普段はある世界を中心とし、数多の世界を見守っているだけの存在、
もしもそれらの世界に危機が訪れた場合、その原因を排除するのが彼の主な仕事であった。
彼が此処に来た発端は、見守っていたある世界が『次元断層』を引き起こし、崩壊しかけたことが始まりだった。
幸い直ぐに手を打ち、その世界の崩壊を『軽い地震』程度で防ぐことは出来たが、其処は魔法は無論、文化・科学レベルも平均より下の基準、『次元断層』などが起こる事など無かった。
無論、不運や様々な要因が重なり、『次元断層』などの大災害が起こることもあるか、今回のは明らかな人為的な行為。
早速自らの仕事をこなす為、彼は原因であろう世界へと赴いた。
其処で彼が見たのは戦場、何かを救うためでもなければ、何かを守るためでもないただの戦い。
舞台となっている世界は無論、他次元世界の被害すら省みず、己の勝利のみに執着する王達、そしてその王の行為に何の疑問も抱かない兵
その光栄を見た彼は、ただ呆れるだけであった・・・・・・その時である。

                             『未確認物体・・・・・排除』

幾つのも閃光が突如彼を襲う。それは俗に言う『ビーム』という光学兵器であり、触れた者を一瞬で蒸発させる光。
彼に死を齎すために、その光が一直線に彼に向かう・・・・・そして直撃
激しい爆音と光の花火が空を明るく照らすが、誰も気にする事はしない、そのような光景は此処では日常と化しているから。
    
                        『直撃・・・・確認・・・・・逃走形勢・・・無し』

上半身は人間の形をし、、下半身は飛行用のブースターのみという形態の機動兵器は、両腕のビーム発射口を閉じ腕を下ろす。
続けて、後方から銃や剣の様な物を持って近づく人間に状況を報告し、同時に対象の生死の確認を行おうとするが、銃を形をし武器『デバイス』を持った男に止められる。
「もういい、死体が落ちない以上、蒸発した事に間違いはない」
『・・・了解・・・周囲の索敵を開始します・・・・』
「それでいい・・・・戦船の装甲にも風穴を開けるビームだ、障壁を張った形跡が無い以上、間違いなく蒸発だ。
あと死体ではない、形状から何かしらの機動兵器だ、残骸だろ?」
剣の形をしたデバイスを持つ男が、仲間であろう男の間違いを指摘したあと、デバイスにカートリッジを補充し始める。
未だに爆煙が立ち込める空を見ながら、銃のデバイスを持つ男もカートリッジの補充を行う。時間にして数十秒、補充が終った二人はこの場を離れるため後ろを向く。

既に破壊した対象に対する興味を彼らは失った。敵対する輩は沢山いるのだ、未確認であるため興味はあったが壊れてしまえばそれまで、一々付き合ってなどいられない。
本当なら警告などを呼びかけるのだが、相手は自分の部隊に無い機動兵器、攻撃理由はそれだけで十分。
此処では味方以外はすべて敵、機動兵器は無論、人間でも降伏しようが、命乞いをしようが関係ない、敵対する者は殺すか殺されるか、ただそれだけ。
戦場でもある最低限のルールも、此処では意味がいない・・・・当然といえば当然だ、関係の無い次元世界を幾つも巻き込んでいる時点で、そんな価値観は既に無くなっている。
突如現われた敵の機動兵器に驚きはしたか結果は直ぐに破壊、大したことは無かった。拍子抜けした気分に犯されながらも、二人はその場を後にしようとした・・・だが


                                  『・・・警告、対象はせいx・・・』
 
                                        「ん?どうし」


索敵を終えようとした機動兵器は突如発生したエネルギーを感知、即座にその場を去ろうとする二人に警告をする。
その内の一人は即座に気付き、疑問の言葉を呟きながら振り向く

                              彼が見たのは黄金色の光、そして迫り来る光

もし喋る余裕があったのなら、彼はこう呟いていただろう・・・・「綺麗だ」と。だかその言葉は無論、彼は疑問の言葉を話しきる事すら出来なかった。
否、自分が死んだことすら理解できなかったかもしれない。
迫りくる光は機動兵器を消し、二人の騎士を消す・・・・・・・否、蒸発させる。だが、それだけでは済まなかった。
放たれた光は消える事無く伸び続ける、そして幾つもの機動兵器と兵を飲み込みながら一つの戦船に直撃、先ほどまで空中要塞の一つであった戦船を大破させた。
戦舟の残骸が煙と炎に包まれながら大地へと落下する中、幾つもの機動兵器と兵、一隻の戦船を無へと返した『彼』が爆煙の中から右手を突き出した状態で無傷で姿を現した。
『やはり・・・・・この世界の・・・・・人間は・・・・・・』
優れた英知を持っていても、結局は互いを滅ぼす事にしか使わない愚か者の集まり。
自分が見守る世界にも人間はいるが、これほどまで愚かではない。否、此処にいるのは人間ではないのかもしれない、ただ戦うだけだの愚かな生き物・・・ならやる事は一つ
今、自分は奴と・・・・・『古代神バロックガン』と同じことをしようとしている。だが、今なら奴の考えもわかる気がする。
すべての人間を消滅させようとした奴の気持ちも分かる気がする

無論、すべての人間が愚かではない。だが、この者達は・・・・この世界の人間は別だ、他者を巻き込み、己の勝利しか考えない愚かな生き物。
このまま奴らを野放しにしても、ただ殺し合い全滅、もしくは誰かが勝利するだけで終る。だかその結果が齎される頃には、一体幾つの命が、世界が犠牲になるだろうか。
なら自分がやる事は一つ、腐った部分は正常な部分が腐る前に取り除くこと。

ゆっくりと腰に下げている鞘から剣を抜く。そして自身が持つ赤き翼を広げ、力を一気に開放した。
空気が振動し、何かを叩いたような轟音が響き渡る、それだけで何時までも続くと思われた戦いはピタリと止まった。

                        だがそれも一瞬

機動兵器から放たれるビームなどの光学兵器、ミサイル、巨砲などの実弾兵器、騎士や魔術師が放つ白・黒・赤様々な色が入り乱れる攻撃魔法、
それらが下方、そして左右から一斉に彼目掛けて放たれた。

警告も無し、下手をすれば何なのかを確かめずに行われた一斉砲撃、だが攻撃を放った彼らからして見れは当然の行為だった。
こんな彼らでもすべてにおいて共通する事があった、それは『味方以外は排除する』という事。
先ほどの攻撃対象も、自分達の所属する舞台の兵器ではないから排除する、ただそれだけ。

それに目標のあの力、下手をすれば自分達の王に匹敵する力を兼ね備えている、この一斉攻撃でも生ぬるいかもしれない。
だが幸運な事に、他の軍勢も同じ考えを持っていたのだろう、先ほどの一斉攻撃は全員ではないが、結果的にすべての勢力が加わっている、目標の排除は間違いない。
攻撃を放ったほぼ全員がこのような考えを持っていた、中には上手く敵が利用でき、障害物を排除できた事に嫌らしくニヤつく輩もいる。

もしこの中に少しでも冷静さを取り戻している人物がいたら気付いていたかもしれない・・・否、一部の王は気付いていた。
兵や側近は『敵側の機動兵器を倒した』と言っている、確かにあれは自分達の保有する兵ではない、そうなると自分達の敵であることは間違いない。
ならなぜ、すべての勢力が一斉に攻撃をしかけたのだろうか?もし何処かの王が所有する兵であったのなら、攻撃をしない、もしくは阻止する筈だ。それを行った奴がいないと言う事は・・・・・
その王の予感は的中していた・・・・だが、すべてが遅すぎた。


突如爆煙の中から閃光が放たれる。それは軸線上にいる兵を飲み込みながら地上に落下、周囲の兵を多数巻き込み大爆発を起こす、
突然の出来事に光に飲み込まれた兵士、そして爆心地にいた兵士は悲鳴をあげる事も、防ぐ事も出来無かった・・・・否、自身に何が起きたのか理解出来ずに死を迎えた。
爆心地から広がる光に包まれた兵士は、彼らとは違い、恐怖の叫び、必死の逃亡、多重障壁の展開など、己のすべき行為をすることが出来たが全てが無駄に終わり、光に飲まれた。

「・・・な・・・・なんだよ・・・・」
皆の言葉を代弁するかのように、一人の兵が上空の爆煙を見つめながら裏返った声で呟く、デバイスを持つ手は震え、歯も恐怖からかカチカチと音を立てる。
ほぼ全軍の一斉攻撃が効かない、それ所か先ほどより強大な力を感じる。そして一瞬で敵や味方の兵や機動兵器が消失。
此処で初めて彼は・・・否、彼らは後悔した・・・・・『してはいけない事をした』と、そして恐怖した、圧倒的な力の前に。

一斉砲撃の時に発生した爆煙が晴れる。其処にいたのは傷一つない彼・・・・・否『光の騎士』
彼は周囲を見下すかのように見つめた後、一度溜息をつく。そして抜き取った剣を構えると同時に、小さく呟いた。


                                   『愚か者共が』


その力に恐怖し、戦意を喪失した者、勇敢にもその力に抗おうとし、消された者。命令しか聞けない機動兵器は蒸発し、形が残っても鉄屑となって地上にばら撒かれる。
一騎当千を誇っていた王はたいした抵抗も出来ずに斬り捨てられ消滅。
高い指揮能力を駆使し、兵を導いていた王は、兵と自らが乗る戦船諸共大地へと落下し爆散。
屍を自らの駒として戦わせる王は全ての兵を消され戦力を失う。
そして、一際巨大な戦船『ゆりかご』に乗った王は、自ら戦いを挑むも敗北し、ゆりかごと共に地上へと伏した。

その後、永遠に続くかと思われたベルカの戦はその日をもって終焉を迎えた。理由は簡単、戦える者がいなくなったからだ。
生き残った殆どの王が、兵が、光の騎士の力の前に戦意を失った。
その後、生き残った兵や王はそれぞれの道を歩み始めた、力を捨てた者、自ら眠りに入った者、ただの荒地となったベルカの地を捨て、新たな世界に旅立った者。
そして突如現われ戦いを終焉に導いた光の騎士を神と崇める者。

正直彼にはどうでも良い事だった、自分は自分の仕事を行っただけ、崇められる事などをした憶えは無い。
殲滅させなかったのも、戦う戦意を失った事や、愚かさに気付いたから生かしているだけ、決して下僕にするわけでも、奴隷にするわけでもない。
『もし奴なら・・・・・この者達を皆殺しにしていただろうか・・・・』
次元世界を守るのなら、バロックガンの考えの様に、様に此処にいる全員を皆殺しにするのが一番だろう。だか『彼』には出来なかった・・・・人間が好きだからだ。
どんなに愚かな行為をいていても、反省したり、戦意を喪失した人間を殺すことなど彼には出来ない。むしろ二度と同じ過ちを犯して欲しくないと心から願う。
無論、そのように相手の心を弄る事など彼には簡単に出来る。だがそれではただの洗脳だ、生き残ったこの者達の考え出した結果ではない。
彼は人間という種族が好きであると同時に、その可能性にもかけている。再び争いを起こすか、手を取り、平和な時を生きるか。
『賭けだな・・・・所詮神になろうとも、出来ることは限られる・・・・か』

もう、この世界に用は無いと結論付けた彼は跪く王達を一瞥、そして後ろを向き、ゆっくりと天に向かって上昇する。
「お・・・お待ちを!!」
だが、跪く群集の中心にいた王、『聖王』が彼を引き止めた。
彼女は彼にすべての民を治める人物、『王』になって欲しいと願った、今のベルカには指導者が必要、それはこの戦を瞬く間に収めた『彼』しかないと。
だがその聖王の願いに一言も答えず、彼は天に上がる。だが、何かを思いついたのか、ゆっくりと振り向き聖王を真っ直ぐに見つめる、そして彼女にある助言をした。
その言葉を聞いた聖王は深々と頭を下げる事で同意の意思を示す、そして彼女に続くように、周囲の兵が、民が、王が彼に頭を垂れた。

その後、ベルカの王の一人『聖王』は戦後のベルカを見事収めた。死後もその功績から長く進行の対象となり、後の『聖王教会』の誕生に繋がる。
そして同時に、この戦を終焉に導いた彼も聖王同様に信仰の対象となった。


                                 その騎士の名は十二神の1人『黄金神スペリオルドラゴン』


                                魔法少女リリカルなのはStrikers 外伝 光の騎士 第一話

 

ナイトガンダムがラクロアに帰還してから二年後

・ラクロア城・王座の間


スダ・ドアカ・ワールドに存在する数多の王国の内の一つ『ラクロア王国』
二年前に起きた巨人事件の爪跡は既に無くなり、今では以前よりも豊かさと人々の活気に恵まれてる。
その中心に聳え立つラクロア王国のシンボルともいえる城『ラクロア城』その中に存在する王座の間で今、ある儀式が執り行われていた。
王座の間にいるのは5人、戦士ガンキャノンと僧侶ガンタンク、そしてラクロア王国の姫であるフラウ姫、
王座の間に唯一ある椅子に座るのは彼女の父であり、この国の王であるレビル王、
そして、王座の間の入り口から王が座る椅子を繋ぐ赤い絨毯の中心で跪き、真っ直ぐに王を見つめる白き甲冑に身を包んだ一人のガンダム族

「伝説の名を持つ騎士、ガンダムよ・・・その方に、すべての騎士の上に立つ者としてバーサルナイトの照合を与える」

『バーサルナイト』それはスダ・ドアカワールドの騎士に贈られる、最高の名誉ある称号。
『騎士の中の騎士』『最高の騎士』を指し、その照合を得た騎士は、すべての騎士の憧れ、そして目指す存在へとなる。
ちなみにバーサルの称号授与決定権は、歴代のラクロア王、同じバーサルの称号を持つ騎士、そして『神』にある

純白の甲冑に身を包んだガンダムは、一度深々と頭を下げた後、王の宣言に答えた。
「・・・・名前以外、記憶を持たぬ私に・・・・どこの者かも分からぬこの身に、もったいなきご好意の数々・・・・・
その上、バーサルナイトの称号まで・・・・・」

ここに来ても尚、ガンダムはバーサルの称号を受取ってよいのか躊躇ってしまう。
自分はこの国の民ではない、名も分からぬMS族の自分にこの様な栄誉ある称号をいただいてよいのかと?
だがレビル王も決して形だけの無能な王ではない、ガンダムの表情から、彼が何を思っているのか直ぐに理解する。

「なに、その方の修行の賜物じゃ。そして、どこの者であろうと国を救い、国のために尽くしてくれたそなたの行動に偽りは無い。
ガンダムよ、そなたがこの国の者でなかろうと、何処の誰てあろうと関係は無い。そなたはラクロアの・・・否、
スダ・ドアカ・ワールドの勇者となるものじゃ・・・・この称号、受けてもらわねば困る」

『バーサルナイト』の称号を断ろうとした自分を説得するかの様に語りかけるレビル王。
その言葉は王の本心だという事は直ぐに理解できた、だからこそ、ガンダムは内心で湧き上がる感謝と嬉しさを吐き出すかの様に感謝の言葉を述べた。

「ははっ!!謹んで、お受けいたします!!!」

 

 ・ラクロア王国 城下町

「改めておめでとう、騎士・・・いや、今はバーサルナイト様かな?」
「様つけはよしてくれガンキャノン、どうにも落ち着かないよ」
キャノンの冗談をガンダムは軽く笑って返す。キャノン本人もその気は無いのだろう、軽く笑いながら先ほど出店で購入した串焼きを頬張りはじめた。
今二人が歩いているのはラクロア王国城下町の市場通り、まるで祭りでも行われているかの様な活気が辺りを支配し、市場を、そして国を自然と盛り上げる。
その光景を笑顔で見ながら、ガンダムはつい2年前までは此処が瓦礫の山だった事を思い出した。

自分があの世界から帰還しラクロアに戻った時、そこには繁栄していた王国は無く、瓦礫とけが人、放心したレビル王だけ残されていた。
正にただの荒地となっていたラクロア王国、だがそれも昔の話、僅か2年という歳月で此処まで回復し、以前の活気を取り戻していた。
品を値切る人、世間話をする人、屋台の出し物にはしゃぐ子供達、ふとその子供達を見た瞬間、彼はあの世界の事を思い出す。
「・・・・そうか、もう二年になるのだな・・・・」

必ず戻ると約束してから今年で二年目、時期が過ぎるのは本当に早いと思う。
彼女達は自分を待っていてくれるだろうか?元気でいるだろうか?彼女達の事を考えると、いつも頭に過ぎる思い。

「しかしあの瓦礫だらけだったラクロアも見違えたもんだ・・・・・今では昔以上の大国になってる・・・・あっ食うか?鳥モモの塩焼き」
「いや、遠慮しておくよ。だけどあの荒地を此処まで再建させる・・・・この国の民は本当に強いとい思う。キャノン、君もそう思うだろ」
「ングッ!・・・・其れは同意だ。俺達は戦うとは出来るが、国を潤したり活気づかせることは出来ない。それを行ってくれる民がいるからこそ、
こうして楽しく平和を満喫でき、上手い串焼きを食うことが出来る。俺達は敵から民を、民は俺達に平和で楽しい日常を、それぞれ守り守られて暮らしている・・・だろ?」
慌てて串焼きを喉に流し込みながらも、キャノンは自分なりの考えを述べた。
それはガンダムが思っていることと同じ、守ろうとする人達に助けられてるという事実、それはあの世界でも経験した事。
守ろうとした二人の少女に助けられた、今でもあの光景が目に浮かぶ。
「(・・・ふふっ、未練だな、何かとあの世界の皆に繋げてしまう・・・・・恋しいのだな)」

二人が向かう先は鍛冶屋テムの家である。
今ガンダムが装着している鎧『バーサルアーマー』は数ヶ月、ラクロアを襲ったモンスター『ファントムサザビー』によって破壊された霞の鎧と力の盾を元に作れている。
本来修復不可能といわれている神器を新たな鎧として作り直したのが、ラクロアきっての名鍛冶屋(本人曰く)鍛冶屋のテムである。
本当であったら直ぐにでもお礼を良いに伺いたかったのだが、鎧を貰った後もモンスターやジオン騎士の襲来など色々ゴタゴタがあり、満足にお礼を言えなかった為、こうして彼の家へと赴いていた。
「だけどなぁ、あの飲んだくれに酒なんて、しかも目玉が飛び出るほどの名酒・・・・・・考え直せ、ガンダム!感謝の気持ちは言葉で十分、むしろ友である俺にくれ」
途中から不気味なほどに真面目に尋ねるキャノンを乾いた笑いと共に軽く流しがら、さりげなくテムに渡す名酒を隠す。
その動作に、自分の思いは叶わないと確信したのだろう、わざとらしく舌打ちをした後、交渉決裂の悔しさをぶつけるかの様に残った串焼きにかぶり付いた。
「・・・・・まぁ、酒に関しては後でテムの所で頂くとして諦めよう」
「キャノン・・・意地汚いぞ」
「まぁ言うな、何だかんだで俺もあの飲んだくれのおっさんの腕は認めてる。その酒を丸々飲む権利が十分あることは認めるしかない・・・・ただ俺は毒見をするだけだ」
「・・・・・後で奢るからやめてくれ。まぁテム殿の腕は確かに見事なものだよ、あの神器を新たな鎧として作り直してくれるのだから」
それにはガンダムも心から同意する。
復元不可能なほどに焼け焦げ、砕け散った力の盾と霞の鎧を新たな鎧として作り直した程の腕前、
並の職人には到底出来ない行為だ。

「だがな、今回に限ってはそうでもないぞ。これはテムのおっさんから直接聞いたんだが、
さすがに今回の仕事は行き詰ったらしい、まぁ獲物が三種の神器だからな、だからあの魔道師に助けを借りたそうだ」
「あの魔道師・・・・それは一体?」
キャノンの言う魔道師に対し、心当たりが全く無いガンダムは問いただす。
そんな彼の態度にキャノンは一瞬考える様に沈黙、だが直ぐに納得した様に『ああ』と声をあげながら話し出した。
「そうか、お前は巨人事件後も修行やジオン族討伐などで周囲の村へ行く事が多かったからな、知らないのも無理は無い。俺達が巨人討伐のためにラクロアを離れた後
森でタンクが保護した親子だ。発見当時、親がやたら薄着だったり、子供が裸でやたら大きなガラス容器に入っているという不可思議な状況だったが、
魔道師は瀕死、子供は魂が抜けた状態に酷似した状況だったらしい。だか今では二人とも回復して使い魔の女性と暮らしている・・・・ああ、丁度良い、見て見ろよ」

立ち止まり、キャノンはある方向へと指を刺す。ガンダムは自然と彼が指した方向を見るとそこにあったのは工事現場。
人やMS族が汗だくになりながら、それぞれの仕事を行っている風景、その中に溶け込むように一体の機械人形が動いていた。
人間や並みのMS族では持てない資材を軽々持ち上げる機械、それはつい最近までラクロアには無かった風景。

「あの機械もあの魔道師の作品さ、確か『傀儡兵』というらしい、ラクロアの急速な復興はこいつらのおかげでもあるのさ、
あんな高度な技術を持っている上に魔術師の腕もタンク以上、おっさんが協力を依頼するのも納得がいく」
腕を組み、うんうんと頷きながら納得するキャノンをよそに、工事作業を行う『傀儡兵』をガンダムはただ呆然と見ていた。
当然である、形は多少違えどあの機械は自分はよく知っている。あの世界で敵として表れ、何体も破壊したのだから。
それにキャノンの話からして、この技術を齎したという魔道師にも不審な点がある、もしかしたらあの世界で自分が言われた『次元漂流者』なのかも知れない。
「ん?おーい、何ぼっとしてるんだー?」
キャノンの声で現実に引き戻される、いつの間にか考えることの集中してしまったのだろう。
だから気が付かなかった、自分が今立っているのは店の入り口で

                      「ありがと~!おまけしてくれて~!!」

其処から嬉しそうに出てくる少女の存在に


                              ドン

                             「ん?」
                          
                            「ふにゃ!?」

当然二人は見事にぶつかったが、尻餅をついたのは少女の方、ガンダムは驚きはしたものの直ぐに少女の方へと向き、尻餅をついた少女を起こすべく手を差し伸べるが、
「ああ、ごめんね、だ・・・・い・・・・・」
ガンダムは言葉を出す事ができなかった。手を差し伸べた状態で固まり、まるで幽霊を見るかのような顔で少女を見る。
思考が追いつかない、自分は何を見ているのだろう・・・・・・否、それよりなぜ『彼女』が此処にいるのだろう。
「・・・いたたた・・・ごめんなさい、前を見てなくって・・・・」
お尻を摩りながら少女は謝る、そして顔を上げ、自分がぶつかった人物をはじめて見た。
この顔には見覚えがある・・・・・否、この国に住んでいる住人で彼を知らない方がおかしい、それ程の有名人。
「(うわ~、初めて見た、確かガンダムさんって言うんだよね)」
話などでは聞いていたが、こうして生で見るのは初めて。確かに他のMS族とは違うし、とても強そうに見える。
自分と同じ位の男の子も「おおきくなったらガンダムみたいな騎士になるんだ!!」と胸を張って自慢していたが、それも今では分かる気がする。

とりあえず、手を差し伸べてくれた事にお礼を言った後、その手を取ろうとするが、どうにも様子がおかしい。
自分の顔を見た瞬間、硬直したかの様に固まり、まるで幽霊を見るかのような瞳で自分を見つめている。
もしかしたらぶつかった事に怒っているのだろうか、そう思い咄嗟にもう一度謝ろうとしようとした瞬間

           「・・・フェイト・・・・・フェイトじゃないか!どうして君が!!」

人目も憚らないガンダムの大声によって遮られた。

「あっ!?」
自分でも何をやっているのだろうと思う、転んだ少女を助ける事もせずに大声を出すなんて。
確かに目の前で呆気に取られている少女はフェイト・T・ハラオウンに良く似ている・・・・・・否、瓜二つと言っても良い。
だが彼女が此処にいることなどありえない、冷静に考えれば分かる事だ。それなのに自分は何をしているのだろう。
とりあえずは呆然としている少女を起こし、いきなり大声を出した事について謝るのが今第一にする事、だが
「ごめんね、いきなり大声を(なんで・・・・・」
途中で言葉を遮られる、その声は先ほどの無邪気な声ではなく、歳相応とは思えない冷静な声。
そして飛ぶように起き上がると、抱きつく様にガンダムに詰め寄った。
「どうして!どうして知ってるの!!あった事があるの!!」
突如顔色を変え、言い寄る少女にどうしていいのか分からず言葉を詰まらせてしまう。
何故そのような事を聞くのだろうか?なぜこの少女はフェイトの事を知っているのだろうか?
こちらも色々と聞きたい事はあるが、今は彼女を落ち着かせることが最優先。だが、目に見えて必死な彼女は全く聞く耳を持とうとしない。
そんな状況を見かねたキャノンが、二人の間に割って入ろうとしたその時
「どうしたのですかアリシア?そんな大声を出して!?」
聞き覚えのある声に名前を呼ばれた少女『アリシア』はようやく我に返り、後ろを向く。
其処には両腕に買い物袋を抱えた薄茶色の髪の若い女性が不思議そうに二人を見つめ立っていた。

突然のアリシアの大声に驚き、素早く買ったものを袋に入れ外に出た女性『リニス』が見たのは、ガンダムに詰め寄るアリシアの姿だった。
一瞬何事かと思ったが、困惑しているガンダムの表情を見てある程度は理解できた。
アリシアは好奇心が旺盛な子供だ、フェイトと違い、アルフと同じ位活発な元気な少女、
店内や市場の賑わいから、店の中では何を言っているのかは聞き取れなかったが、おそらくこの国で一番の有名人である騎士ガンダムに色々を我侭を、
それこそ『一緒に遊んで』『色々お話を聞かせて』とせがんでいるに違いない。
「(やれやれ・・・・・困ったものです)」
内心でつぶやきながらも、行動力旺盛なアリシアの姿に自然と顔から笑みがこぼれる。
とにかく先ずは困惑している騎士ガンダムを助けるのが優先だろう、
もしこの後、時間があるのなら家に招待するのも良い、自分の主も快く迎えてくれるだろう。
自分の中で今後の行動をある程度固めたリニスは、早速二人の間に割って入ろうとする。だが

              「リニス!!ガンダムさん、私を見てフェイトって言った!!フェイトの事知ってるんだよ!!!」

数秒後、ガンダムに詰め寄る人が一人増えた。

・テスタロッサ邸

「す・・・すみません・・・・取り乱してしまって・・・・」
「いえ、お気になさらないでください」
その後、キャノンの介入といち早く冷静さを取り戻したリニスによってその場はどうにか収まる事ができた、
だがアリシアは無論、リニスも説明を求める視線でガンダムを見つめる。
そんな二人の気持ちに答えるかの様に、ガンダムはフェイトの事について話す事を申し出た。
彼女達が説明を求めている事、そして何故ラクロアにいる彼女達がフェイトの事を知っているのか、自分自身も知りたかったからだ。

キャノンに説明をした後、ガンダムは二人に連れられ、一軒の家に招かれる。
早速、『アリシア』という少女からフェイトについて色々聞かれたが、ガンダムは知っていることはすべて話した。
元気で暮らしている事、心強い仲間に囲まれている事、持てる力で皆を助けている事。
彼の回答にとても満足したのか、アリシアは終始ご機嫌だった。だが、最後の質問の時には、何かに恐れるように俯いた後、躊躇するかのように声を絞り出しながら尋ねた。

                  『フェイトやアルフは私を恨んでいないのか』

その質問の意味が正直理解できなかった。だが、フェイトが誰かを憎んだりしている事など無かったし、
そんな素振も見せたことは無い、むしろ他者を恨むとう行為が出来るのかも怪しい。
自己の判断から結論を言うのはどうかと思ったが、彼女の正確や仲間達を思う心を信じ結論を出した、「彼女は誰も恨んでなんかいないよ」と。
その言葉にとても安心したのだろう、アリシアは心からほっとすると椅子に力なく座った。

「そうですか、貴方がフェイトとアルフの師、そしてバルディッシュの製作者なのですね」
「ええ、でも安心しました。あの子達が元気に生きていて、バルディッシュがあの子の力になっていて」
その後、眠そうにするアリシアを寝室まで運んだリニスは、ガンダムとフェイトについての話で盛り上がる。
リニスもフェイトの事を忘れた事は無かったが、もう会えることは無いだろうと諦めていた。
だが、今自分は最近の彼女と行動を共にした騎士から話を聞くことが出来ている。
新たに命を与えられた時、主から今までの経緯を聞いたときは不安で仕方が無かったが、今ではアリシア同様途轍もない安心感に包まれてる気分だった。

話が一区切りつき、リニスがお茶のお代わりを持ってこようとした時、ドアが開く音と共に一人の長い黒髪の妙齢な女性が入ってきた。
「ああ、プレシア、お帰りなさい」
「ただいま、リニス・・・・あら、貴方は・・・・バーサルナイト」
笑顔でリニスに答えたのは、この家の主であり、リニスのマスターであり、アリシアの母親である女性『プレシア・テスタロッサ』
彼女はリニスと席をはさんで座っている意外な客人に少し驚いた表情になる。
そんな彼女をよそに、ガンダムは椅子から立ち上がるとプレシアの目の前で跪き、頭を垂れた。
「はい、申し送れました。私、ラクロア騎士団所属、バーサルナイトガンダムと申します。プレシア殿、この鎧の製作に助力をして頂き、誠にありがとうございました」
「顔をあげなさい。いいのよ、そんなに畏まらなくても。私は私が出来ることをやっただけなのだから、でもその言葉は受取って解くわ。あと、ついでになってしまうけど
騎士ガンダム、バーサルナイトの称号授与おめでとう。貴方に相応しい称号よ」
バーサルナイトの称号を祝われた事に、ガンダムは再び頭をさせ、感謝の意を示す。
その時、今まで会話に口出ししなかったリニスが、真面目な顔でプレシアに近づき、ガンダムが此処に来た理由を話し始めた。
その内容に、プレシアは驚きを顔に隠さず表しガンダムを見つめる、そして直ぐに表情を隠すかの様に俯いた。
同じく立っているリニスには分からなかったが、跪いているガンダムにはその表情が見て取れた、
何かに懺悔すかの様な、後悔に満ちた表情に。


今はリニスも席を外し、リビングにはガンダムとプレシアだけになってから約5分、今まで続いた沈黙を最初に破ったのはプレシアだった。
「・・・・・私や・・・・・私達の事・・・・何か聞いている?」
「・・・詳しくは・・・・」
「・・・そう、なら話すわ・・・これは・・・償いきれない私の罪よ・・・・」
リニスから聞いたのは、彼が約2年ほど前、自分達がいた世界に行き、其処でフェイト達と行動を共にしていた事。
行動を共にしていた以上、知っている筈である。フェイトの出生、そしてジュエルシードを巡ったあの事件の事・・・・・そして自分がフェイトに行った仕打ちの事。

今思っても自分はとても残酷な事をしてきた、『最愛の娘を生き返らせるためなら何をしても許される』それを何の疑いもせずに抱いていた。
自らの使い魔を一度消滅させた、なんの躊躇も無く。
フェイトを失敗作と罵り、散々道具として利用した。そしてつるし上げ、彼女が素直な事をいい事に散々痛めつけた。
アルハザードへ行くために次元震を起し、何の関係も無い世界を滅ぼそうとした。
そして、最後まで自分を信じたフェイトの手を掴む事をしなかった・・・彼女を否定したまま。

 

アリシアの保存ポットと一緒に時空の歪に落ちた後、自分は意識を失った。否、自分の体のことは良く知っている、むしろ死んだだろうと思った。
だが気が付いたときには知らない部屋のベッドで寝かされていた、生き返ったアリシアと共に。
「アリ・・・シア・・・・!!?」
一瞬見間違えかと疑った。だが、アリシアの顔色はよく、規則正しく寝息を立てている。
これが意味する事は一つしかない、アリシアは生き返ったという事。
目覚めた途端、叶える為に必死だった願いが叶ったとこ、そして目覚めたばかりで頭が上手く働かないために、プレシアは軽い混乱に陥った。
その時である、ノックと共に彼女を保護したMS族、僧侶ガンタンクが入ってきたのは。

出された水をゆっくりと飲み、プレシアは自身を落ち着かせる。そしてある程度グラスの水を飲み干した事を確認したタンクは、一度断りを入れた後、
今までの経由を離し始めた。
3日ほど前、自分達が森で倒れていた事、アリシアは魂が抜けた状態、そして自分は瀕死の重傷だった事、そのため保護し、治療を行ったこと、
目覚めたばかりで頭が回らないだろうと思ったタンクが、簡潔にプレシアに説明をする。

『正直信じられない』これがプレシアの感想だった。自分の体は次元世界では最先端の技術を持つミッドチルダの医療技術でも治療は不可能だった。
実際自分でも可能な限り・・・・・それこそ、非合法な方法を使っても不可能だったので嫌でも理解できる。
だが今まで体を蝕んでいた苦痛、激しい痛みを伴う喘息も一切おこらない、あの見たことも無い種族の話が本当だという事だ。

そして生き返ったアリシア、彼は『魂が抜けた状態』と説明していたが、一科学者としてその意見を受け入れる事は出来なかった。
そもそも自分を含めた魔道師が使う魔法は一種の科学の延長、簡単な話、一部のロストロギアなどを除けば人類の英知である『化学』で説明が出来てしまう。
だが、『魂が抜けた状態』というのはプレシアから・・・否、ミッドチルダや加盟している次元世界に住む住人から見れば立派な『オカルト』である。
だが結果としてその『オカルト』により愛娘は生き返り、今は可愛らしく寝息を立てている。

こんな事が出来るとなると・・・・此処は自分が行こうとしたアルハザードではないのか?そもそも、今説明をしてくれている人物?も、科学者であるプレシアでさえ見たことが無い。
自然と備え付けの椅子に座っているタンクに質問をする『此処はアルハザードなのか』と、だが返ってきたのは『違う』という回答。
「此処はラクロア王国という国じゃ、『アルハザード』という国や街は聞いたことが無い・・・・それよりお前さん達は旅の者か?それにしては格好などが不思議じゃが」
その質問にどう答えていいのか考えようとするが、ふとその質問内容に疑問が生まれる。『なぜ彼は自分達の事を知らないのだろうか?』と。
「・・・ごめんなさい、悪いけど先に質問させてくれないかしら?」
「ああ、かまわんが」
「ありがとう、貴方、『時空管理局』『ミッドチルダ』この用語に心当たりは無い?」
「『時空管理局』に『ミッドチルダ』・・・・・すまんな、全く聞いたことが無い、何かの街の名前か?」
「・・・・いいえ、ありがとう・・・・」
これで確定いた、此処が管理局が一切関与していない未発見の世界だという事が。だが、タンクに質問する前に、既に大体は予想が出来ていた。
自分は管理外の世界を次元震で滅ぼそうとした、これは十分極刑に値し、次元世界レベルで指名手配されていてもおかしくは無い。
仮にこの世界が、管理局が接触はぜずにただ監視している世界だったとしても、自分の様な犯罪者を野放しにしておく筈が無い。
その事から、プレシアは本当の事をこの恩人に言っても理解はしてくれないだろうと結論付けた、だから嘘をつくことにした、『旅人である』と。

プレシアはガンダムに包み隠さず話した、この国に来た経由、自分が今まで何を、そしてフェイトに何をしたのかを。
フェイトに対する仕打ち、地球を滅ぼそうとした事を聞かされた時は、ガンダムも怒りを隠す事が出来ず、自然と拳を握り締めプレシアを睨みつける。
だが彼女の表情、心から自分の罪を悔いているその顔を見た瞬間、彼が抱いていた怒りも一瞬で収まった。
「・・・・・一つ、お聞かせ願いたい」
「何・・・かしら」
「今の貴方は過去の出来事をとても悔いている。正直、私も怒りを感じたが、貴方の表情を見てその怒りも薄れた。
だが、先ほどの話を聞く限り、貴方は自らの意思で悪行を行った、そんな人物が過去を悔いる事などしない・・・・何が貴方を変えたのですか?」
真っ直ぐ自分を見つめるガンダムにプレシアは数秒沈黙、そしてゆっくりと自分の手を頬に当てた。

                            パチッ!!!

アリシアが目覚めた時、最初に行ったのはプレシアに抱きつく事でもなければ、彼女の名前を呼ぶことでもない、力の限りプレシアの頬を叩くことだった。
呆然とするプレシアに対し、アリシアは涙を浮かべ、声を荒げながら、フェイトにした仕打ちや今までの事を尋ねた。
「アリシア・・・何故、何故貴方が知っているの?」
「・・・・・・見てたんだよ、あの研究所の事故の後、私、ずっとお母さんの事を・・・・とても悲しかった・・・・やめてって何度もいった
でも、私を救うためにしてくれたんだよね・・・・・・それでも、フェイトに・・・・アルフに・・・・リニスに・・・・どうしてあんな事を・・・」

プレシアもまた、ただの気まぐれで二人にあの様な仕打ちをしたわけではなかった。あの事故でアリシアも、リニスも死んでしまった。
だから当時の自分は『プロジェクト・フェイト』の技術でアリシアを、使い魔としてリニスを生き返らせようとした。
だが生き返ったのは自分が知るアリシアでもなければリニスでもない。

認めるわけにはいかなかった。今いる二人を認めたら、自分は本物のアリシアを、リニスを否定することになる。
むしろ怖かった、姿が同じでも彼女達は自分が知っている子達ではない、このまま自分の思い出の中で生きるアリシアとリニスに取って代わるのではないかと。
だから二人を邪険に扱った、道具としてしか使わなかった、そうする事で『フェイト=アリシア』『使い魔のリニス=山猫のリニス』という考えを壊せるから。

「・・・・だったら・・・どうして二人を・・・フェイトを『アリシア』としてじゃなくて、一人の女の子として、リニスを『山猫のリニス』としてじゃなくて
一匹の使い魔として接してあげられなかったの・・・・・おかしいよ・・・・そんなの・・・おか・・・しい・・・よ・・・」
涙で顔をくしゃくしゃに汚しながら、アリシアはプレシアに抱きつく。
未だに愛娘に打たれた事にショックを隠すことは出来ないが、自然とアリシアを抱きしめ、心の中で彼女の言葉を繰り返し呟く、そして自問する

         なぜ自分はフェイトやリニスを代わりではなく、一人の女の子、一匹の使い魔として見なかったのだろう

                     なぜアリシアは自分の胸の中で泣いているのだろう

                         なぜ自分は愛娘にぶたれたのだろう

知らずに自分の瞳からも涙が溢れる、今流れる涙は自分の愚かさから来るものか?愛娘を悲しませたという罪悪感からか?フェイト達に行った懺悔からか・・・・否、その全てだろう。
答えは簡単だった、自分の心の弱さ。自分の心が弱いからアリシアとリニスの死を認められず、フェイトと使い魔のリニスを人や使い魔として見ず、道具として扱った。
結局は自分が原因、何て愚かだったのだろう。
「・・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい・・・・」
今更認めても遅い、自分が心から謝罪する人達は此処にはいないのだから、それでも謝罪の言葉は何時までも部屋に響き渡った。


「では、あのリニス殿は?」
「あの時、契約解除と共に消滅させる筈だったわ、だけど当時の私はまだ何かに使えると思った、だから一種の仮死状態にしてデバイスに閉じ込めていたのよ」
「そうですか・・・・・・最後に一つだけ聞かせてください、今の貴方は、フェイトを愛していますか?」
その質問に、プレシアは体を震わせ言葉を詰まらせる。だが、その表情は今までの嫌悪を表した物ではない。
「・・・・・その質問には・・・答えられないわ・・・いえ、私にはその資格が無い、フェイトを愛する資格なんて(それ以上言うのはよして下さい」
静かだが、明らかに怒りが含まれているその声に、プレシアは言葉を詰まらせた。
声を発したガンダムの表情は明らかに怒っていた。その怒りは先ほど『資格が無い』と言おうとした自分にむけられてる事は直ぐにわかる。
「以前にも、似たような人と会いました。その方は自分の子供達の不安に気付いてあげる事が出来ずに自分自身を攻めていました。自分は『母親失格』とも言いました。
ですが、その考えは間違っている。確かに自分の過ちに気付き、苦しむ事もあるでしょう、ですがそれで自分の価値を、資格があるか無いかを決め付けるのはいけないことです!!
プレシア殿、貴方は今までの行為を恥じてる、そして反省している、そしてあの子に・・・・フェイトに対して申し訳なく思っている・・・・もう答えはでているのではないのですか?」
「けど、フェイトは・・・・・あの子は私の事を・・・・(そんな事は決してありませんよ」
あれだけ酷い事をしたのた、そしてあのこの必死になって伸ばす手を掴まなかったのだ・・・・そんな自分を、あの子が良く思っているわけが無い。
だが、そんなプレシアの不安を、ガンダムは今度は先ほどとは違う、優しい声で否定する。
「・・・・私がこのラクロアに帰る時、あの子はある人の家の養子になりました。そして新たな姓を貰い、名前も変りました『フェイト・テスタロッサ』から
『フェイト・T・ハラオウン』という名に・・・・・途中の『T』が何を指すかわかりますか?」
突然投げかけれた質問に、プレシアは戸惑ってしまうが、直ぐにその答えを導き出す。だが不安が残る、もし間違っていたらという不安が
だが、そんな彼女の不安を消すかのように、ガンダムは直ぐに答えを話した。
「『T』は『Testarossa』の『T』、貴方達親子と一緒の姓です。初めて聞いたとき、疑問に思い尋ねました。どうして旧姓を残すのかと、
そしたらフェイトははっきりと答えました、『絆を失いたくないから』と。もうお分かりですよね、ですから改めて聞きます、フェイトを愛していますか?」
声が出なかった、嗚咽を漏らし涙をただ流す、心に残っていた重たいしこりが一気に抜け落ちた様な開放感、そして今までの不安を包み込むほどの安心感
がプレシアを襲う、まともに声など出ない・・・・・だが、ガンダムの質問には答えたかった、彼に気持ちを伝えるために
呼吸を整え涙を拭く、そしてしっかりとガンダムを見据え、答えた。

                          「・・・ええ・・・愛してるわ・・・・私の愛娘だもの」

その後、話の区切りを見越したリニスと昼寝から起きたアリシアも加わり、テスタロッサ邸では少し遅めの午後のお茶会が開かれた。
他愛も無い話をしながら紅茶と焼きたてのスコーンを頬張り、至福の一時を過ごす四人。その時である、ドアを叩く音に全員が振り向いたのは
「テスタロッサ殿!いらっしゃいますか!?」
『何かしら』と呟きながら、リニスは立ち上がり玄関へと向かう。扉を開けると、其処にいたのはラクロアの兵であるジムが二人。
だが彼らはリニスの顔を見た瞬間、言葉を詰まらせ、顔を仄かに赤くした。
リニスはその容姿、性格などから人間族、MS族にとても人気がある、当然その中にはテスタロッサ邸を訪れた兵二人も含まれており、
彼らの態度もリニス本人以外からしてみれば納得がいく。
だが彼らもラクロアを守る兵士、多少慌てた後、誤魔化すかの様に敬礼し用件を伝えた。
「お・・・お・・・おやすみ・・・ではく・・・あ~と・・・」
「落ち着け馬鹿!!失礼しました!リニス殿!!今日もお美しく・・・ではなく、こちらにバーサルナイト様がいらっしゃるとお聞きしたのですか?」
二人の兵の態度に、悪いと思いながらもリニスは少し笑ってしまう。
そして直ぐにガンダムを呼ぼうとするが、リビングにも声が聞こえたのだろう、彼女の後ろからガンダムがゆっくりと歩いてくる。
その姿を見た二人の兵は直ぐに敬礼をする。まるで兵の見本になるほどの立派な敬礼を。
今の二人が感じているのはリニスの時とは違う憧れ、尊敬、信頼、このラクロアで誰もが彼に抱いている感情。彼らは常にそれらをガンダムに対して抱いていた。
「ご苦労様です、どうしました?」
二人の敬礼に対し、ガンダムもまた敬礼で返す、そして直ぐに顔を引き締め、報告を聞こうとする。
彼らがわざわざ出向くとなると、何かあったことは確か、もしジオン族が現われたのか?
最悪の状況も踏まえて彼らの報告を聞こうとするが、結果はガンダムの思っていた事とは逆であり、彼を喜ばせる物であった。
「先ほど、騎士アムロ殿が修行の旅からお帰りになりました、しかも凄い客人を連れて」
「アムロがですか!無事に帰ってきたのですね・・・・それで客人とは」
「はい、バーサルナイト様、貴方にそっくりな方達です。詳しいことはお城で、皆さんがお待ちです」

少し話してから行くといい、ガンダムは先に二人を帰らせえる。
そして改めてバーサルアーマーの御礼を行った後、ガンダムはプレシアの気持ちを知ってから思っていた事を話した。
「プレシア殿・・・・・・あの世界に帰ろうとは・・・・思わないのですか?」
今の彼女は昔とは違う、だからこそ元の世界に、フェイトに会いたいのではないかと思う・・・・・だが、プレシアの回答は『いいえ』だった。
「私はあの世界で多くの罪を犯したわ、だから仮に戻っても捌かれるだけ。無論私にはその覚悟はあるわ、だけどアリシアやリニス、そしてアルフやフェイトが
その巻き添えを受けるのは我慢できない・・・・・ふふっ、臆病者よね。そしてもう一つがこの国を気に入った事かしら」
彼女は誓った、何一つ疑わず自分達を救い、受け入れてくれたこの国の人達を持てる力を使い救おうと。
今でも忘れない、母を救った子供に言われた『ありがとう』という言葉を、忘れていた感謝されるとこの喜びを取り戻した瞬間でもあった。
だが、ガンダムが考えていたことをプレシアもまた考えていた、だからこそ尋ねる。
「貴方は、ジークジオンを倒したらあの世界『地球』に戻るのよね?貴方こそ、この世界に残ろうとは思わなかったの?
俗物的な言い方だけど、貴方は此処では地位も、名誉も、富も思いのまま、中には貴方を崇拝する人もいる、一般的に見ればどちらを取るかは一目瞭然よ」

確かに彼女の言う事は正しい、自分は望んではいないのだが、何度もラクロアの危機を救った自分を『伝説の勇者』と崇拝する者がかなりいる。
現に自分に『様』をつけて呼ぶ人は後を経たない。
そしてバーサルナイトの称号を王から与えられた、金銭に関しても『褒美』と称して金銀財宝を与えられている。

「・・・・・・プレシア殿、確かに貴方の言う事は正しい。ですが私はそられを手放しても共にいたい、守りたい人達がいます。
ですがこのラクロアも、共に戦った仲間も同じ位に大切です。ですから脅かす危機を取り除く、この国の民が平和に暮らせるように。私が旅立つのは、それからです」
真っ直ぐにプレシアを見据えてガンダムは答えた。
ラクロアに平和を、そして必ず帰るという二つの誓いを守る決意が瞳を見るだけで十分なほどに分かる。
その瞳を改めてみてプレシアは思う、「彼になら預けてもいいだろう」と
「・・・リニス・・・あれを持ってきて」
その意味を直ぐに理解したリニスは一瞬躊躇するが、直ぐに部屋の奥へと行き、ある小箱を持って来た。
「・・・プレシア・・・・いいのですか・・・・」
「貴方は私に異見することが出来るわ、それをしないという事は貴方も同じ気持ちなんでしょ?」
軽く微笑みながら、既に答えが出ているであろう問いをリニスに投げかける。
案の定、プレシアと同じ気持ちだったリニスは言葉を詰まられる、そして軽く溜息をついた後、ゆっくりとガンダムへと近づき、その箱を渡した。
不審に思いながらも、その箱を受取り、中身を確認する。
中に入っていたのは少し大きめの宝石だった。
宝石には詳しくは無いが、その輝きは純粋に綺麗だと思う。だが不思議に思ったのはその宝石の中央にある数字、
月村家の書物で見たことがあるが、おそらくローマ数字だろうか?
「・・・この宝石は一体・・・・ただの装飾品とは思えませんし、何かのアイテムでしょうか?」
「それは『ジュエルシード』というロストロギアよ・・・・・是非貴方に持っていて欲しいの」

『ロストロギア』という言葉に直ぐに反応する。確か過去に滅んだ超高度文明の異物、高度な科学技術や魔法技術の結晶。
危険な物も多く、見つけ次第厳重に保管、もしくは破壊し使えないようにするとクロノから聞いたことがある。
何故これをもっているのかと聞こうとしたが、彼女の今までの行為を思い出し、言葉を飲み込む、
おそらくその時に手に入れた品なのだろう。だが、なぜ自分に与えるのだろうか?

「ロストロギアの事は知ってるようね、確かにこれは途轍もないエネルギーを秘めてるわ。これ一つの力をほんの少し・・・それこそ何万分の1
だけで、小規模の次元震を起こせるほどの、だからこれはこうも呼ばれてるの『願いをかなえる石』と。
だからこそ、唯一残った一つを貴方に託すわ。貴方なら正しい事に使ってくれると信じてる」

会って間もない自分にこれほどの物を与えてくれる事に感謝の言葉を述べようとするが、
自分なりに考えた感謝の言葉は、信頼を寄せてくれる彼女の期待に答えることだと思う。
ゆっくりと箱を閉じ仕舞う。そして真っ直ぐにプレシアを見つめたと、跪き、頭を垂れた。

「この力!!平和のため、悪を滅するために使います!!このバーサルナイトの称号、そして勇者ガンダムの名にかけて!!」


ガンダムの背中に何時までも手を振っていたアリシアも姿が見えなくなると手を下ろし、家の中へと入っていく。
家では既に夕食の準備が行われており、アリシアは何か手伝う事はないかと、野菜を洗っているプレシアに尋ねた。
今の生活はとても楽しい、自然は豊かで、大好きなお母さんとリニスがいる。だが、アリシアはいつも思っていた、この中にフェイトとアルフがいればと。
あの時、フェイトが自分を恨んでいない事を聞いた時とても安心した。だが、失礼だとは思いながらも完全には信用できなかった。
だからこっそりと母とガンダムの会話に耳を傾けていた。

「フェイトは・・・・『私』じゃなく『フェイト』として、私の妹として生きてる」

フェイトも・・・フェイトの大切な人達と暮らしている・・・・・そして私達との絆を大切にしていた。
ふと手伝いをする手を止め空を見る、其処には夜空に輝く幾つもの星々
もしかしたら、この中にフェイト達が住んでいる世界があるのではないかと考える。
どうか元気でいて欲しい、幸せでいて欲しい・・・・・そう願いながら、アリシアは夜空を見上げていた。
「(・・・・・・元気でね・・・フェイト・・・・)」

その後、朝日と共に一つの光が天に昇っていった。皆がその光景を見ている中、僧侶ガンダンクは受け継がれている伝説の予言を自然と呟いた。

  『星降る時現われし勇者、ガンダム。この世の終焉を問う空の裂け目が語る者を無くし、その口を閉じし時、一条の光と共に天に昇る・・・・・』

 

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最終更新:2009年10月18日 07:34