※ クロス元:フルアヘッド!ココ

 海賊というと、皆さんどんなイメージを思い浮かべますか? 
 例えば、風にはためく海賊旗。遺跡に眠る宝。無限の大海に船出する、かっこいい男達の旅と戦い――。
 男の子なら胸躍らせるのでしょうが、なまじ本で齧った知識のあったわたしにとっては、あまり良いイメージはありませんでした。
人を傷つけ、略奪をするならず者だと思っていました。あの人と出会うまでは……
 あれはそう、わたしとユーノ君がロストロギアの調査の為、とある世界を訪れたある日。目的は伝説の『ファルコン文明』。
物凄いエネルギーを秘めた石、山ほどもある巨大な怪物、強力な閃光を吐く獣、これらを自在に操った文明も今はお伽噺。
一部の冒険者、つまり海賊さん達が追いかけるだけなのだそうです。
 フェレットのユーノ君を肩に乗せた私は、先に来ているはずのクロノ君を探して港町イノガスイーダに降り立ちました。
そこでココ君という孤児の男の子と知りあいましたが、彼と共にトラブルに巻き込まれ、成り行きで赤髑髏の海賊『レッドスケル』に追われてしまうわたし達。
戦うしかないかと身構えたその時、屋根を飛び越え、颯爽と数人の男の人が現れました。
 中でも一際目を引いたのが、わたしとココ君を庇うように前に立った人。白髪に近い銀髪。逞しい剥き出しの上半身。包帯でぐるぐる巻きにされた両手。
 彼こそがキャプテン・バーツ、通称『クレイジーバーツ』その人でした。
 彼は襲い来る海賊に対し、片手に剣を構えて挑み――負けました。あっさりと手から剣を弾かれてしまいました。終いには、わたしとココ君の襟首を掴んで逃げ出す始末。
 何故、こんなに弱い人がキャプテン? それが彼の第一印象でした。わたしとココ君は揃って首を傾げたんです。
 わたし達が乗せられたのは石造りの女神を船首に頂く海賊船クレイジーストーンヘッド、もとい『スイートマドンナ号』。
 一癖も二癖もあるクルーは、物知りお爺さんのノーズさん、面倒見がよく知恵者のバクチさん、その名の通り猿みたいに小柄なミガルさん、
クルー一の力持ちのハルクさん、近寄り辛い剣の達人デッドさん、優しいコックさんのピートさん。
 帰る港を持たず、物資は同じ海賊から奪い、狙うはファルコン伝説のみ。ともかく型破りな海賊一味に、わたしとココ君は迎えられました。

 以前からバーツさんに憧れていたココ君と違って、わたしは海賊になるつもりはありませんでした。町であったレッドスケルの海賊も、イメージ通りの荒くれ者だったんですから。
 降ろしてほしいとお願いしたのですが、地理と食料の関係ですぐに他の港には行けないと言われ、仕方無く同行することにしました。
飛んで逃げることもできたんですけど、乱暴な人達ではないようだったので。
 ただ流されるままに向かった次の目的地。そこは大蛇のようなモンスターに護られた遺跡でした。襲いかかるモンスター、危機に陥るクルーの人達に、バーツさんは問いかけました。

「お前らあの蛇、殺したら食うか?」

 皆が頷くのを確認すると、バーツさんは剣を今度は両手に一本ずつ持ちました。
大丈夫なのかと思いきや、剣を二つ持ったバーツさんは、出会いの時とは嘘みたいに強かったんです。
『双剣のバーツ』一本では弱くても、二本持てば鬼神の如く。それがバーツさんのもう一つの通り名でした。
 しかし、それでも苦戦する彼らを見て、いよいよわたしも戦おうと正体を明かしました。レイジングハートを構え、一撃必倒のディバインバスター。
激しい衝撃に苦しむモンスターに、バーツさんとデッドさんが止めの剣を突きたてました。
 クルーの人達は、わたしがレイジングハートを使うとかなり驚いていました。当然ですよね。
でも、わたしが掻い摘んで説明すると、バーツさんはすぐに子供みたいに目を輝かせ、

「俺の船に乗らねぇか?」

 とっても素敵な笑顔で言いました。調査に来たわたし達の存在が、ファルコンの実在をより強く確信させたんです。それともう一つ、わたしの魔法にも興味を持ったみたいで……。
 ファルコン文明に近付けるという打算以上に、この船に乗ればもっと楽しいものに出会えるような――そんなワクワクに惹かれたわたしは、首を縦に振りました。
思えば、その一言がわたしの大冒険の始まり。
 後から聞いた話ですが、"食わない生き物は殺さない"がキャプテンの信条だとか。蛇の味は最低でしたけど、賑やかなみんなにつられて、気づけばわたしも笑顔になっていました。

 海鳴で何度か戦ったフェイトちゃんとアルフさん。二人もファルコン文明の存在を追ってこの世界に来ていました。
 ファルコンに関わるバニスさん一家と行動していたフェイトちゃんとは、それぞれの行き違いから戦ったり協力したり。
バニスさんとフェイトちゃん、わたしとキャプテンでチームバトルなんてこともあったんですよ。
でも、その中でお互いを知ったわたし達は次第に仲良くなっていきました。

 そして現れる白無と名乗る組織。巨大な船を持ち、ファルコン文明の力で世界を手に入れようとする人達です。
伝説の力の一端、武器に変わる獣『化獣』を多数手にしていた白無と、わたし達スイートマドンナは何度も衝突しました。
 その中にはわたしと同じ異世界の魔導師、守護騎士ヴォルケンリッターの姿もありました。
 わたしとヴィータちゃん、キャプテンとシグナムさんの戦いはそれぞれ互角でした。
ほぼ剣のみで戦っているとはいえ互角に戦えるキャプテンにも、制約の中でも十分に強いシグナムさんにも驚いたものです。
 しかし、戦いの決着は突然の乱入によって持ち越されました。乱入者はファルコンの守護者を自称する遠殺剣のザギ。
異常な長さの剣を操り、瞬間移動に空中浮遊と、魔導師のような力を持った暗殺者には、わたし達もヴィータちゃん達も力及ばず撤退するしかありませんでした。
しかしキャプテンは、ザギが阻めば阻むほど自分達がファルコン文明に近付いていると確信するのです。
 ボロボロになっても諦めないキャプテン、殺してでもファルコン文明に近づく者を阻むザギ、その力で世界を狙う白無、
他の世界からそれを見極める為に訪れたわたしやフェイトちゃん達。
 管理局にとっては未開の世界でありながら、こんなにも多くの人を惹きつけるファルコン文明とは一体何か。
その時、わたしは心から知りたいと思ったんです。

 それから戦ったり、辛い別れもあったけれど、やっぱり凄く楽しかったと今は思います。
あの世界でわたしが出会った人達は、みんな一生懸命で活き活きと輝いていましたから。
 特に、海賊スイートマドンナのみんなとの冒険は、二度と味わえないわたしの一生の宝です。
いつも全力全開で全速前進(フルアヘッド)。潮風を感じて、前だけを見て突き進んだ日々。
 いつか……この冒険譚の続きを語れる日が来ればいいなと思います。

※ クロス元:Damons ダイモンズ

 現在、機動六課のフォワードはあたし、ティアナ・ランスターを含む三名。後の二人はエリオ・モンディアルとキャロ・ル・ルシエ。
もう一人、半年前までいたはずの彼女がいないのは未だに違和感がある。
 半年前、地上本部と機動六課襲撃のあの日、なにもかもが変わってしまった。あたしの親友でもあり、仲間でもあったスバル・ナカジマは、その日家族と両腕を失った。

 襲撃してきた戦闘機人の内、ある者は目の改造により人を操る能力を得て、またある者は腕を自在にブレードに変形させた。
ナノテクノロジーで強化された戦闘機人の戦闘能力は凄まじく、彼女らが使い慣れていない武器で加減ができなかったこともあったのだろう。地上本部は大打撃、犠牲者は膨大な数に上った。
 戦闘機人の改造、強化。これは、新たにスカリエッティのスポンサーに付いた疑いのあるロゴスディア社によるものではないか、と目されているが真偽は定かではない。
新開発の医療用ナノマシンを軍事転用しているであろうと、誰もが疑いながらも確たる証拠は何も掴めていなかった。
 分断され、別行動をしていたあたしがスバルを発見した時には、スバルは両腕をもがれ血の海に横たわっていた。
一命は取り留めたものの、以前のような明るさ、溌剌さは消え、抜け殻のように変わり果てていた。綺麗な青だった髪は半ば白く染まり、あの日の体験の凄まじさを想像させた。
 呆然とあたしの声にも反応しないスバルが、唯一報告したこと。それは彼女の姉ギンガさんと、本部防衛に当たっていた父ゲンヤさんが戦闘機人によって殺害された事実。
 スバルが何を見て、何をされたのかは今もって分からない。何故なら、辛うじて動けるまでに回復したスバルは、突如失踪してしまったからだ。
 病室を抜け出したスバルが発見されることはなかった。まだ混乱が治まっていない状況でもあった為、あたしもなのはさんも、あまり捜索には関われなかったのが悔やまれてならない。
そして数日が経っても、スバルは戻らなかった。
 彼女は何処へ行ってしまったのだろうか、両腕も無いままで。帰る場所も待つ人も、もうここにしかないというのに……。

 半年後、再会は思わぬ形で叶えられた。
 水面下で着々と勢力を強めるスカリエッティは、強力なスポンサーを得て万全の態勢を整えるつもりなのだろう。
それを防ぐ為にあたし達は戦い、ついにその尖兵である戦闘機人の一人と対峙した。
 そこへふらりと、彼女は現れた。大きなトランクケースを持ってはいたが、BJのデザインは変わっていない。一部を除けば、その姿は間違いなくスバル。
だが、一瞬あたしには彼女が誰だか分からなかった。纏っている雰囲気もまったく別種のものに変わっている。
 まず髪の色。微かに青みを残してはいるが、白が占める範囲は半年前とは違い、ほぼ全体まで広がっていた。
リィン曹長の銀髪に近いがより白く、あの艶と美しさはない。さながら骨か血色の失せた皮膚か――その白さは否応にも死を連想させた。
 そして腕。失ったはずの両腕が変わらずあった。義腕か移植かは不明。
両手に付けたリボルバーナックルは、見た目シャープに簡略化されているものの、たかが半年で戦闘機人に勝つまで使いこなせるものだろうか。
 こちらを一瞥した瞳の色は金。冷たい輝きを放つ瞳は暗く、心まで凍りついてしまったかのよう。あたし達を見てもまったく反応しなかった。
 スバルは戦闘機人に向き直り一言、

「ナンバー12、ディード。やっと見つけた……!」

 隠しきれない感情を込めた、轟くような声。無表情だった顔がみるみる険しくなり、スバルは雄叫びを上げて跳びかかった。
激しく空気を震わせる咆哮も、眼光も、以前のスバルにあったはずなのに。なのに何故……あたしは動けないのだろう。
 スバルの顔に浮かんだのは憤怒と憎悪、そして紛れもない歓喜。この足が動いてくれないのは、それを感じ取ってしまったからだ。
エリオとキャロもおそらく同様、もし邪魔をすれば、今のスバルならあたし達も敵と見做すだろう。
あたし達はその場に縫い止められ、スバルの戦いを見ているしかなかった。

 スバルの雄叫びに応えて、ディードの両腕が赤い光を放つブレードに変形した。スバルはブレードを振るうのを許さず、一気に距離を詰める。
 始めは乱打の応酬から。驚くべきことに、スバルは碌にバリアも張らずに真正面からディードと打ち合っている。違う、張れないのだ。
今のスバルにはマッハキャリバーが無いのだから。
 ローラーブーツは代用品を使っているようだが、性能はオーダーメイドのマッハキャリバーに遥かに劣る。
では、前にも増して高出力になったブレードと鎬を削るのは――リボルバーナックルだ。純粋にナックルの強度のみでブレードと拮抗している。
 ナックルに深く傷が刻まれていく。あれでは修理に時間を要するばかりか、デバイスの機能にも支障をきたすだろう。あんな危険で荒い戦い方は、かつてのスバルなら絶対にしない。
できないのだ。ナックルだけではない、腕全体が使い捨てでもなければ。

 阿修羅の如き零距離での猛攻。数分間の攻防を制したのは、勢いが微塵も衰えなかったスバル。右腕を叩きつけると、ディードは両腕のブレードを交差させ受け止めた。
 荒い息を吐くスバルの口元が歪み、同時に右腕が発光。振動破砕――スバルからの話でしか知らないが、制御が非常に難しいと聞いた。
そんなものをマッハキャリバーのサポートが無い状態で使えば、スバル自身にも多大なダメージが返るに違いない。
 だが激突から数秒、いつまで経ってもスバルの身体に異常は表れない。振動破砕の衝撃をすべて腕で吸収しているのだ。
しかしそんなことをすれば、かかる負荷に腕が耐えられるはずがない。現にスバルの右腕は、既に振動に耐えきれず軋みを上げている。
 拮抗をスバルが押し破るが早いか、自壊するのが早いか。ディードもそれを悟ったのだろう。右腕のブレードを渾身の力を込めて振り下ろし、防御を捨てて攻撃に懸けた。
 スバルは左拳でブレードを受け止めるが、

(あれじゃ持たない……!)

 予想した通り、あらん限りの膂力とエネルギーを込めた一撃は、スバルの拳を真っ二つに切り開き、同時にスバルの右腕が自壊した。
 あたしは反射的に目を瞑りそうになり、そして見開いた。ディードもエリオもキャロもそう、誰もが予想した光景とあまりに食い違っていたから。

 肘と手首の間でボキンと折れた腕は、

 二の腕までブレードを食い込ませた腕は、

 神経の通っていない鋼鉄の腕。あれでは義手の役割を果たせるはずがない。はずがないのに――。
 現に彼女の腕は動いていた。指の一本一本まで器用に動かしていた。あり得ないことだった。
 スバルは折れた腕を意にも介さない。逆に一瞬の動揺を見せたのはディードの方。
刹那、スバルはブレードに食い込んだ義手を捨て、鋭利に尖った拳の無い腕で戦闘機人の胸を貫いた。
 腕はずぶずぶとスーツごと肉に食い込み、心臓まで達しただろう。鮮血が舞い、スバルの頬が赤い斑点に彩られる。
 やはり、彼女の心は凍りついてなどいなかった。使命感よりも強く、夢よりも熱いものが彼女を突き動かしている。次の瞬間、予感は確信に変わった。
 血飛沫を浴びたスバルが――笑った。
 歪んだ眼のその奥で金色の瞳を爛々と輝かせ、攣り上がった唇の隙間から牙を剥き出しにして。
 まるで獲物に跳びかかる寸前の狼。いつ眼前にあるディードの喉に喰らいついても、不思議ではなかった。

「苦しいか! 父さんもギン姉も、もっと苦しかったんだ! あたしは……お前達を、戦闘機人をすべて殺す……!
人を殺す機械……一人だって残さない、その上でスカリエッティも!」

 それはあたしの記憶の中にある、明るく優しい笑顔ではない。邪悪で醜悪で獰猛な笑み。

 見る者に与えるのは勇気ではなく恐怖。引き出すのは活力でなく悪寒。

「人を殺す機械……? 所詮貴女も同類だというのに……。身体だけじゃない……どんな理由であれ、望んで人を殺める貴女が……"人"だと?」

 ディードは口の端から血を零しながらスバルを嘲笑った。無感情な戦闘機人が初めて感情を垣間見せた瞬間だった。

「同類でいい……人殺しの機械でも……死神でも悪魔でも構わない! 二人の無念を晴らせるなら……あたしは"人"であることなど望まない!!」

 ディードは最後の抵抗にとブレードを振り上げる。それより早く、聞き慣れたカートリッジロードの音が響いた。ディードの胸に突き立ったスバルの右腕からだった。

 使い捨ての腕――丸ごと鋼鉄の腕――簡略化されたナックル――これまでカートリッジをロードしなかった理由――まさか!!

「スバル駄目ェェェェェ!!」

 ようやく喉から出た叫びも空しく、一発だけ仕込まれたカートリッジが炸裂。轟音と閃光がスバルの右腕で弾けた。
 スバルは刺さっていたディードを、己の腕もろとも吹き飛ばした。胸に空虚な大穴を開けられたディードは衝撃で仰向けに倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。
やはりスバルは最後の切り札を、この瞬間の為に取っていたのだ。
 簡略化したリボルバーナックルは、おそらく量産の為。と、なれば誰か協力者がいるはず。義腕を製造し、彼女に供給する協力者が。
強度を保ち量産化するなら、完全なリボルバーナックルはコストが掛かり過ぎる。
 これから何十本の腕が必要になるか知れない。そう、スバルにはまだ十二人の標的がいるのだから。スバルの復讐は今、この瞬間に幕を開けたのだ。
 肩口まで無くなった腕が外れて落ち、そこから何かが噴出している。目を凝らさなければ分からないが、あれは……オーラとでも言うべきか。
色はない、靄のような陽炎のような――形容し難い禍々しい波動が鋭い爪を持った巨大な手を形成していた。
 その爪は既に息絶えているにも関わらず、ディードの身体に振り下ろされる。スバルは何度も何度も、実体の無い爪で屍を抉っていた。
 あたしは確信した、彼女の腕は憎悪で動いていると。それは決して比喩ではない。魔力とは別種の、憎しみから発生した得体の知れない力が、彼女の腕を繋ぎ止めている。
 戦闘機人とスカリエッティをその手で葬り去るまで、尽きることのない無限のエネルギー。尤も、その力を『ゼスモス』と呼ぶのだと知ったのは、ずっと先のことだが。
 降りかかる真紅の洗礼を浴び、人を殺して笑う彼女を人と呼んでいいのか――あたしには分からなかった。
 これでは彼女が忌むべき存在である戦闘機人と同じ……否、もっとおぞましい何かだ。
 だが自分で言ったように、彼女はそれすら甘んじて受け入れるのだろう。それで復讐が果たせるなら。
 目の前の彼女は、最早あたしの知っているスバル・ナカジマではない。
 今のスバルはまさしく、憎しみと悲しみの悪魔。
 ダイモンズ・スバル――。

※ クロス元:風が如く

 前略 フェイトさんへ。
 お元気ですか? 私は今、戦国時代にいます。昔、少しだけフェイトさんに聞きましたよね? フェイトさんがいた世界の過去の時代、あの戦国時代です。
 石川五右衛門――ってご存知ですか? 私その人に盗まれちゃいました。厳密には私じゃなくてフリードが、なんですけど。

 機動六課の召集前日にこんなことになってしまって、心配されてることと思います。
実は私にも何が何だかよく分からないのですが、突然フリードが光に包まれたので抑えようとしたら一緒に飛んでしまって……。
 そこで出会ったのが金髪にピアスと奇抜な格好をした泥棒、石川五右衛門さんでした。性格は奔放で自分勝手。欲しいものを見ると両手が疼くんだとか。
 フリードをしつこく盗もうとするので、私も初めは応戦したんです。何度火傷しても諦めないけど、卑怯な事をする人ではありませんでした。
泥棒なのに卑怯じゃないっていうのも変な話ですけど。ずっと付き纏っている内に徐々にフリードも気を許すので、仕方なく同行することにしました。
 どうせ行く場所も知り合いも無いですし、何より元の世界に帰る為にはそれが一番ですから。本人は盗んだ気でいるのがちょっと癪ですけど。

 五右衛門さんの"盗んだ"ものの中に、かぐやちゃんって女の子がいるんですけど、この娘がフリードをこの時代に召喚したらしいんです。フリードだけじゃなく、
年に一度いろんな人や物を呼び出してるみたいで……しかも700年。信じ難いですが、かぐや姫っていうのは本当みたい。だって私やワープさんがいるんですもん。
 そういえば、昔フェイトさんに聞いたリィンフォースさん? 鬼ヶ島で見かけたんですが、たぶんそうだと思います。鬼さんと仲良くやってました。
 それと、プレシアさん……って確かフェイトさんの本当のお母さんでしたよね。織田信長という人の下で働いてました、なんでも愛妾なんだとか。
信長って歴史上の有名人ですよね? すごいじゃないですか。ところで愛妾ってどういう意味なんでしょう?
 私達に目を付けて度々追い掛けてくるので正直困ってるんですが……でも、とっても元気そうでしたよ。
 自称小悪党の大泥棒、五右衛門さんはかぐやちゃんと一緒に月に行って、月を盗むつもりなんです。無茶苦茶ですよね? でも、あの人らしいとも思うんです、少しだけ。
 織田信長に誘拐されたかぐやちゃんを助けて……そのせいで私まで追われる身になっちゃいました。何百の兵隊相手に大立ち回りしたのは主に私とフリードですから。
バイクのガソリンを稲葉山城から盗む時、引火して大火事にしたのも私ですし……まさかこんな所に来てお尋ね者になるなんて、夢にも思いませんでした。
 けれど、やっぱり私は五右衛門さんに付いていきます。かぐやちゃんを月に帰せば私も帰れる――かもしれないそうなので。
それに楽しいと思い始めてる自分もいるんです。
 これをフェイトさんが読んでいる時、私はそちらに帰っていると思いますが、後の報告の為にも日々の出来事をケリュケイオンに記録しておこうと思います。
やっぱりちょっとだけ不安なので、こうしてお手紙形式ですが。
 お土産は持って帰れるか分かりませんが、とりあえずお土産話だけはいっぱいあります。それ以前に、帰れるかどうかも分からないんですけどね。
 でも、私はなんとか元気です。五右衛門さんにはフリード共々振り回されっぱなしですが、金太郎さんは強くて優しいし、
金太郎さんの友達の坂田さんはすごくモフモフしてます。かぐやちゃんは可愛いし、ワープさんとは同じ境遇の者同士で話が合ったりもします。
 命の危険もいっぱいありますが、毎日賑やかですし、楽しいこともありますから頑張れそうです。ですからフェイトさんもあまり心配しないで、
どうかお身体に気を付けてください。それでは、またお会いできる日を楽しみにしています。

 キャロより



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年02月02日 21:48