シショチョウガタリ
ゆーのフェレット
快晴。
無限に澄み渡る空のことを指すのなら、間違いなく今日の空は快晴なのだろう。
落ちる日差しは穏やかで、眼下の海がきらきらとはね返す。
海鳴の海が一望できる丘の上。
弟子であり友人であり幼馴染でもある彼女が幼いころ、毎日魔法の練習をしていた公園だ。
ここは、変わらない。
なら他に変わったものがあるのか、と問われれば、ある、と答えざるをえないけど。
――そこへ、子どもたちの笑い声。
横目で確認すると一組の家族が僕が座るベンチの後方を歩いて行く途中だった。
こちらの世界には曜日というものがあり、日曜日は休日という属性を含んでいる。
僕、ユーノ・スクライアはこの世界――第97管理外世界の人間というわけではないが、
幼少のころのある期間をこちらで過ごしていたため、その辺の知識は最低限持ち合わせている。
『そんなんだから――』
まただ。
また彼女の言葉が脳裏で再生された。
弟子である彼女じゃなくて、もう一人の、幼馴染である彼女の言葉だ。
金色の髪を持つ、おせっかいな彼女の言葉は僕がここに来てから――ここに来る前からも不意に再生され、気を滅入らせていた。
「……確かに言い過ぎだったかもしれないけどさ」
思わず漏れた言葉は若干の後悔だ。ただ僕は僕に全面的に非があるとは思わない。
それでも――それでもだ。
「そうは思えないんだから仕方がないじゃないか……」
不満はこの青い空と蒼い海が吸収してくれることを願いつつ、僕はベンチを立った。
今日はもう帰ろう。
友人である彼女には悪いが、この埋め合わせはどこか違う形で行うことにしよう。
――と振り返り、公園の出口の方へ踵を返したときだ。
円形のゴミ箱の横に立てられた海鳴観光マップを一人の少女が眺めていることに気付いた。
少女は髪を頭の左右で二つに分け、大きな――ぱんぱんに膨れた大きなリュックサックを背負い、
ブラウスにスカートという格好。
髪型が幼馴染の昔の髪型に似ている気がしないでもない。
それだけなら特別気にすることもない光景なのだが、その少女は僕がここを訪れたときも
そのマップを食い入るようにして見ていた。
それですぐにどこかに行ってしまったのだが、またここに来て見ているということは。
「……迷子、かな」
だとすれば、放っておくわけにはいかないだろう。
僕は息を吐いて、小さな笑みを造る。
そして少女に近づき、彼女の肩を叩いた。
「ねえ、君、もしかして、迷子?」
「うっうわぁあ、たったすけてぇえ、おまわりさーん」
おまわりさん――警察を呼ばれてしまった。
僕ってそんなに不審者にみえるのだろうか。
「って、君、落ち着いて。怪しいものじゃないから」
おや? といった表情で少女は振り返る。
僕の顔を確認するや頭を下げた。
「あ、ごめんなさい。てっきり知り合いの男子高校生かと思いまして」
どんな知り合いなのだろう。
肩を叩かれただけで警察を呼ぶほどの知り合いとは。
「会うたびに抱き締められ、頬ずりされ、スカートの中をまさぐってくる普通の知り合いですよ」
「それ普通じゃないよ! ただの変態だから!」
海鳴の街はいつからそんな変態が現れるようになったのだろうか。
それも時代の流れ、という奴だろうか。
……嫌な流れだ。
「それで、今度はこちらから攻めていこうと思いまして、おまわりさんを呼んであせらせようと思ったんです」
……なかなか知能犯だな、この少女も。
僕が変なところに関心したのに気付いたのか、少女は胸を張って、
「この街の今月の標語は『ロリコンどもに社会的な死を!』ですからね」
社会的抹殺。
末恐ろしいことである。
海鳴も変わったなぁ……と遠い目でこの街のことを想う。
前髪をくしゃっとつかみ、
「この場合は迷子だから、というより、別件で警察に行ったほうがいいのかな……」
それこそ、その知り合いに社会的な死を与えるべくだ。
「あっいえ、大丈夫ですよ」
それなのに被害者である少女は健気にも笑ってみせた。
「あれも、あの人とのコミュニケーションの一環ですから」
嫌なコミュニケーションの取り方である。
「そんなことより」
少女はささいなことだとでも言うようにその話題を切り捨て、大きな瞳をこちらに向けた。
「お兄さん、もしかして家に帰りたくなかったり、します?」
★ ☆ ★
先ほどまで座っていたベンチに再び腰をかける。
今度は一人ではなく二人でだ。
「えー、私の名前は八九寺真宵と言います」
「どうも。ユーノ・スクライアです」
「外国の方なんですか?」
「外国、といえば外国だね」
正確には異世界なのだが。
「それで、スクライアさんはどうして家に帰りたくないんですか?」
あれから、真宵ちゃんはいきなり「私が人生相談に乗ってあげますよ、ふっふー」と
僕の了解承諾
その他もろもろを得ずに、僕の手を引っ張って先のベンチに無理やり座らせたのだった。
僕としても意気揚々とした彼女の好意をむげにするのは、子どもの善意を否定する後ろめたさがあったので、
こうして人生相談に乗ってもらったという形を取ったわけである。
子どもの遊び。
人生相談ごっこ。
時間が許す限りは、乗ってあげるのが大人というものだ。
「うーん、ちょっと人と口論してね」
本当は口論と呼べるほどのものではなく、一方的に言われっぱなしだったけど。
「ふむふむ。口論ですか」
相槌を入れる真宵ちゃん。気合いの表れだろうか、と思いつつ口を開く。
「僕には幼馴染の女の子が三人いてね」
「日本男児の敵ですね」
……どうして三人の幼馴染がいるだけでこの国の敵になるのだろう。
「この国では、幼馴染の女の子という存在は希少ですべての男子の憧れですからね。
毎朝起こしに来てもらったり、一緒に通学したり、お風呂に入ったり、いったいどれだけの
男子が渇望していることか! それを三人もだなんて……あなたは今この国の男性すべてを
敵に回しました」
「そっそうなんだ……」
それをなぜ女の子である真宵ちゃんが憤るのかは謎であるが。
この分だとお風呂の件については黙っていたほうがいいのかもしれない。
進んで言うようなことでもないし、そもそもあのときの僕は人間じゃなくてフェレットだったし。
「で、その中でも特に大切な幼馴染がいるんだけど、他の幼馴染が
どうも僕と彼女をくっつけようとしているらしいんだ」
「男女の仲に、ということですか?」
「そうらしいね」
とある悪友の奥さんも会うたびに彼女との仲を聞いてくるわけだけど、
「僕としては本当に、大切な、大切な幼馴染なんだ。それなのに……」
彼女は言う。
『そんなんだからユーノは――』
「顔を合わせるたびに『好きなんでしょ?』とか『付き合わないの?』とか聞かれてね――」
彼女は言う。
『そんなんだからユーノはいつまでたっても――』
「今日もちょっとしたパーティーでこちらに来たんだけど、そこでも彼女に言われて――」
JS事件も終結し、高町家で行われたパーティー、というより宴から。
「いい加減うんざりしてしまって、――逃げてきたんだ」
逃亡者。
脱落者。
どちらでも同じことだ。
僕は間違いなく、逃げてきたのだから。
どこから?
執務官である彼女のもとから。
そして、教導官である彼女のもとからも。
「ここに来たのも心を落ち着かせるためなんだ。少し一人になりたかった、というか。
結局、自分の心の狭さが嫌になっただけなんだけど」
笑って言えばよかったんだ。
君の言う通り――だね、と。
それなのに、どうして僕は――。
吐息し、先ほどから黙っている真宵ちゃんをうかがう。
「こんな感じの悩みなんだけど、何かいい方法はあるかな?」
「思った以上に深刻な悩みで小学生な私はドン引きです」
引かれてしまった。
それもドンを冠するぐらいに。
小学生に相談するにしては内容が複雑すぎたと思い、すぐに否と考え直す。
問題は至ってシンプルで、あくまでもロジカル、どこまでもリアルだ。
答えは出ているわけで、僕がそれに対し、盲目的なだけなのだ。
「要するに、好きなんでしょ好きなんでしょ言ってくる幼馴染がうざくて、
逆ギレしてしまったと」
遠からずとも近からずだ。
逆ギレ、と捉えれても仕方がない。
「――うん、だいたいそんな感じだね」
真宵ちゃんは顎に指をあて、目を閉じ、
「私の経験から言わせてもらえば――」
目を開けた。
「その好きなんでしょ好きなんでしょと言ってくる幼馴染の方も
スクライアさんのことが好きだったりしますね」
「……いやいや、それはないよ」
彼女が僕のことを好きって?
ありえない――それこそありえない。
仮にそうだとしても、僕にとって彼女もまた大切な幼馴染だ。
そういう――仲になることはない。
「どうです? いっそのこと、三人目の幼馴染の方も含めて全キャラ同時攻略というのは?」
「あははは、僕はそこまで器用な男じゃないよ」
社会的にも物理的にも殺されそうだ。
僕だって命は惜しい――まだ死にたくない。
「ですが、中には本命の彼女さんがいるのに、他のキャラに手を出している人もいますよ。
彼女の後輩とか、クラスの委員長さんとか、妹の友達とか、妹とか――」
「最後の何? 倫理的にまずい気がするよ?」
「ぼん、きゅっ、ぼんの小学生とか――」
言って、なぜか真宵ちゃんは両頬をおさえ、ぼんきゅっぼんだなんて……と身悶えていた。
と、僕の視線に気づいたらしく、こほんと咳をして姿勢を正し、
「失礼。ちょっと浮かれすぎました」
「沈んでくれて嬉しいよ」
「嬉しいといえば」
真宵ちゃんは僕の言葉尻を捉え、一度うなずく。
「女が喜ぶと書いて嬉しい。――これってなかなか意味深だと思いません?」
「そうなの? 僕にはよくわからないなぁ」
「あっそうでした。スクライアさんは外国の方でしたね」
やや不満げに真宵ちゃんが腕を組む。会心のネタを袖にされたのが不満なのだろう。
「――話を戻しますけど」
脱線した車輪がようやくレールに戻る。
「スクライアさんはその幼馴染の方々をただの、と言ってはなんですが、
大切な存在として認識しているわけですよね?」
「うん、そうだよ」
それだけは臆面もなく照れもなく言える。
「ですが、脳科学的にみれば男女間に永遠の友情なんてものは存在しないそうですよ」
「いずれは恋愛感情が芽生えると?」
「ええ。まっとうな思春期を迎えてなくてもです」
なぜだろう。その一言はピンポイントで僕に向けられている気がした。
「ですから、今は友達以上恋人未満、友情以上恋愛未満だとしても、その幼馴染の方々を
女性として認識――恋愛感情を抱くときが来るはずですよ」
恋愛感情、か。
そんなふうに彼女を思える日が来るのだろうか。
だが、来たとしても。
「……僕は、彼女をそんな風に思っていいのかな?」
「――と、言いますと?」
いい相槌を打ってくれる子だな、と思い、どうせ冗談として処理されるだろう、と予測。
これぐらい許容範囲だろう、と自分の正体を告げた。
「実は、僕――魔法使いなんだ」
「とても三十代には見えません!」
えっ何、そのリアクション……?
「まだ十九です」
「ならもうすぐ妖精さんですね」
これもこの世界独特の言い回しなのだろう、とメガネの位置を直して、
僕はその意味を追求せずに話を進める。
「僕が彼女に出会ったのもそれゆえなんだけど、そのせいで彼女は――」
雪景色に染まる赤色。
包帯を多重に巻かれた彼女。
難航したリハビリ。
「――重傷を負ってしまってね。それもまだ……そうだね、君と同じぐらいの歳だった」
台無しになった11歳時の半年間。
僕と出会わなかったら、と会わなかった可能性を考えた。
「僕と出会わなかったら彼女は大けがを負うことはなかった」
僕と出会わなかったら、彼女は普通の人間としていられた。
今でこそ彼女には青い空が似合う。空こそが彼女の居場所だとはっきりと言えるわけだけど。
「出会いがもたらした負の可能性を考えると、自分には、彼女を大切な幼馴染以上に
思う資格がない気がするんだ」
守りたいがゆえに、それ以上の感情を抱いてはいけない。
それがあの子の目には――。
彼女にとっては。
彼女を。
「……いらいらさせるんだろうね」
「……複雑ですねぇ」
真宵ちゃんと二人、しみじみと空を見上げる。
あの青い空のように、広い心を持ちたいな、と半ば現実逃避。
真宵ちゃんはぽつりと言う。
「代替性理論、バックノズル……」
その呟きに視線を横に向けると、真宵ちゃんが少し真剣な瞳をこちらに返していた。
「いえ、京都で会った狐のお面を被った男の人が言ってたことなんですけど……」
ここは突っ込みどころ、なのかな?
「スクライアさんは、代替性理論、バックノズルという言葉をご存じですか?」
「いや、初耳だよ。どんな理論なの?」
「代替性理論というのは、別名ジェイルオルタナティブといって――」
真宵ちゃんはわかりやすい解説を述べた。
「全ての事物には代わりがあるという理論ですよ」
「代わり?」
もしくは替わり、か。
「例えば、ここでスクライアさんが私と出会わなかったとしても、違うとき、違う場所で、違う誰かと
同じような会話をしたことでしょう。というのが代替性理論、代用可能――ジェイルオルタナティブです」
「代用可能……ジェイルオルタナティブ」
「そしてバックノズル。私たちはこうして出会ったわけですけど、しかし、もしここで
出会わなかったとしても、違う場所で出会っていた。時間の前後はどうあれ、
出会っていたことでしょう。つまり、起きることはいずれ起きる、ということです」
起きることは、いずれ起きる。
彼女のけがも?
「スクライアさんの場合でみれば」
真宵ちゃんは言う。
「その幼馴染の方と、そのとき、その場所で出会わなくても、いずれ違う場所で出会っていたはずです。
また幼馴染の方も、スクライアさんと出会わなかったことによって、その大けがを負わなかったとしても、
違う誰かと出会ったことによって、同じような大けがを負ったかもしれません」
それは――その可能性は、ありえる話だった。
もともと高い魔力値を持っていた彼女のことだ。
PT事件に遭遇しなかったとしても、闇の書事件には巻き込まれていたかもしれない。
そこから魔導士としての道を歩み始めた可能性もある。
そして、蓄積した無理と疲労によって……。
「…………」
それが彼女の運命だったとでも言うのだろうか。
「とまあ、結局は――」
眉間のしわを深くした僕をよそに、真宵ちゃんは悪戯めいた笑みを見せた。
「――戯言なんですけどね」
★ ☆ ★
拍子抜けした僕に真宵ちゃんは続ける。
「所詮は可能性の問題ですよ。それに起こったことは起こったことして揺るがないじゃないですか。
今さら気にしても仕方がないです」
「……ポジティブだね」
「そうかもしれませんね……」
言って、顔を俯かせる真宵ちゃん。
どことなくシリアスな雰囲気に僕は首をわずかに傾ける。
「さきほど、全キャラ同時攻略を身をもって実行している人がいると言いましたよね?」
「うん、言ってたね」
「実はその人、冒頭でお伝えした知り合いの高校生なんです」
「…………」
思わず絶句してしまった。
世の中というのは、こう、……よくできているよなぁ。
「私は迷子だったところをその方に助けられたわけなんですが、助けてくれたのが……」
真宵ちゃんは照れを含んだ笑みを造り、
「その方でよかったと思います。あのとき、声をかけて、助けてくれたのがあの人で良かったと、
そう思っています」
都の条例に引っ掛かりそうな好意や行為は勘弁ですが、と続く言葉には苦笑を浮かべるしかない。
「ですから、そのけがをした幼馴染の方もスクライアさんに出会えて――スクライアさんで良かった、
と思っているはずですよ。スクライアさんは、その好きなんでしょと言ってくる幼馴染の方がくっつけようと
するぐらいの人なんですから」
根拠としては希薄なのだが、説得力は抜群にあるような気がした。
「起こったことは起こったことして割り切ることも必要ですよ。それとも、スクライアさんは
その幼馴染の方に出会ったのが別の男の人でも良かったとでも?」
なぜ男の人に限定しているのか不思議に思ったが、彼女の横に僕じゃない別の男性が
立つところを想像してみる。
「……」
それは――それは、なんかくやしいや。
「……そうだね」
彼女に出会えたのが、彼女を魔法の世界に導いたのが。
「僕で、良かったよ」
僕じゃないとダメ、とまでは言わないけど。
彼女に出会ったのが僕で、本当によかった。
「――本当に」
目を細め、風を感じる。
海からの穏やかな風が頬をやさしくなで、山々へと突き抜けていく。
そこへ。
「はぁーちぃーくぅーじぃー」
風とともに届いた声に真宵ちゃんが身を震わせた。
姿は見えないが、声の主はどうやら真宵ちゃんを探しているようだ。
「もしかして……例の人?」
「ええ、そのようです」
「警察、呼ぼうか?」
「いえ、さすがにそれは本気で傷つくと思うので、またの機会に」
真宵ちゃんは再度響いた彼の声に困ったような笑みを浮かべた。
「今日はちょっとした観光でこの街を訪れたんですけど、あの人、いつの間にか
迷子になってしまって、あの観光マップであの人がいきそうなところを探してたんです」
それは自分が迷子になったのではないという主張そのものだった。
そういうことにしておこう。
「あんまり焦らすと後が怖いですから、もう行きますね」
「そう、色々とありがとう」
「いえ、私は何もしてませんよ。……スクライアさんが、一人で勝手に助かっただけです」
どこか突き放した言い方だったが、僕にはそれが好ましく感じられた。
笑みを造り、笑みを見せ、笑みを送る。
「それでも、話せたのが君で良かったよ」
「そっそうですかぁ」
真宵ちゃんは顔を赤くしてベンチから降りると、満面の笑顔を咲かせた。
「それでは、友愛と息災と再会を」
★ ☆ ★
公園を出て高町家に戻ると、門のところに人影が見えた。
そこにいたのは上背のある女性――幼馴染の一人であるフェイトだった。
何か言いたそうな顔をして、目線を下げたり、上げたりしている。
「ユーノ……」
そう呼びかけ、一度躊躇い、それでも意を決したらしく彼女は言葉を紡いだ。
「さっきはごめんね」
さっき。
『そんなんだからユーノはいつまでたっても――』
「……別に、気にしてないよ」
わずかに間があったのも、彼女の言葉がリフレインしただけで深い意味はない。
「私、ユーノがあんなに傷つくとは思ってなかった」
まさか、と彼女は言い、脳内でも彼女の言葉がリピートされた。
「――ヘタレと言われるだけで、あんなに傷つくなんて」
『そんなんだからユーノはいつまでたっても――ヘタレって言われるんだよ』
「…………」
「あっ、ごめん、また言っちゃった」
フェイトのことだから悪気がないとは思う。
思うが――そう思わないとやっていけないのが本音だ。
「もういいよ、ヘタレでもなんでも……」
若干あきらめ口調で言い、気持ちを切り替えてフェイトに尋ねる。
「なのはは、どこ?」
「たぶん、台所、かな」
「わかった。ありがとう」
礼を述べ、高町家の敷地に入る。
なぜかフェイトは嬉色の笑みを見せ、
「えっ、もしかして――」
「もしかして?」
「んん、なんでもないよ」
そう、と納得し、ふと思い立ってフェイトの方に半身を向けた。
「フェイト」
「うん、なに?」
「なのはの友達になってくれて、ありがとう」
えっいきなり何言ってんだこいつ、といった目になるフェイトに構うことなく玄関に入る。
ちょうど彼女がいた。
高町なのはがいた。
エプロンを着た彼女は僕に気づくと首を傾けて自然な笑みを造り、
「お帰り、ユーノくん。どこ行ってたの? 散歩?」
「うん、ちょっとした異文化交流をね。ただいま。……あれ、ヴィヴィオは?」
「中庭でアリサちゃんやすずかちゃんたちと遊んでる。アリサちゃんもあれで子ども好きだから」
そうは見えないけどねー、と笑い合う。
望むは本人が聞いていないことばかりだ。
笑いを止め、彼女の目を見て口を開く。
「ねえなのは」
僕は想う。
「もしよかったら、今度一緒に食事でも――」
ユーノスクライアが出会ったのが高町なのはで本当に良かったと。
《hesitation wound》is THE END.
おまけIF
「フェイト。もしよかったら今度一緒に食事にでも行かない?」
「……は?」
何言ってんだこいつ、といった目になるフェイト。
「あっ、はやて。もしよかったら今度一緒に――」
「ええで。どこ行こか?」
ハーレムエンド
最終更新:2010年04月26日 13:10