ここからは、物語が変わる。
今とは違う時間、そして同じ場所で。
遙か昔に滅びた理想郷、アルハザードを舞台としたもう一つの物語が始まる。
これは如何なる物語とも混ざり合うことのない、独立した物語。
世界の平和のために数え切れないほどの戦いを果たした彼らは、英雄と呼ばれる。
そして、これから英雄になろうとする戦士達も集結する。
彼らはこれより、崩壊した理想郷に集結しようとしていた。
この物語の中で集められた英雄達が戦う理由は、世界が滅びる未来を変えるため。
それは、この物語の影で行われていた物語。
それは、世界の破壊者の物語。
それは、輝く歴史が集結した結果作られた物語。
それは、数多ある中の一つとなる未来への道しるべとなる物語。
それは、数多ある世界の英雄達が集結する物語。
それは、新たなる物語への序章。




そしてそれは、世界の破壊者との出会いを果たした一人の少年の物語でもあった。








     ――これまでの、仮面ライダーディケイドは――








記憶を失った青年、門矢 士。
光写真館に居候する彼は、宛ても無く写真を撮り続ける毎日を送っていた。
その一方で、光 夏海はある夢に悩んでいた――


見知らぬ荒れた土地の中で、微かな汚れの付いた白いドレスを身に纏いながら立ちつくす自分。
周りを見渡しても、岩山が広がるだけで他には何もない。
ここは何処なのだろう。どうしてこんな所にいるのだろう。
考えながら辺りを見渡していたが、突然世界が壊れるような轟音が辺りに響き、大地が大きく揺れた。
目を閉じながら地面にしゃがみ込んだ途端、彼女の脇を通り過ぎていく存在があった。
それは仮面を纏う戦士、仮面ライダー――


夏海の目の前を通り過ぎる仮面ライダーの数は、数えることは出来ない。
彼らは皆怒号をあげながら、荒野を進んでいる。
ある者はその足を用いて走り、ある者は多種多様のバイクに跨り、ある者は鏡の世界の魔物を使役し、ある者は動物の力を持った円盤の力を使い、ある者は時を越える列車の上に乗り、ある者は巨大な龍の上で戦っていた。
彼らの行く先は皆、同じだった。
しかし、全ての仮面ライダーが辿り着けた訳ではない。一人、また一人と力尽きて倒れた者が大勢いた。
爆風に飲み込まれて身体を四散させた者もいれば、天からの飛来物によって押し潰された者もいる。
それでも仮面ライダー達は戦場の中を走り続けていた。
その異様な光景を前に、夏海はただ目を瞑りながら怯えることしかできなかった――


やがて何度目になるのか分からない爆発の後、静寂は唐突に訪れる。
それまでの喧噪が嘘のように辺りが静かになったので、瞼を開けて辺りを見渡す。
その途端、目に飛び込んできた光景によって彼女は言葉を失ってしまう。
先程まで走っていたはずの仮面ライダー達は皆、倒れていたのだ。
道標のように辺りに倒れている仮面ライダーの跡を辿ると、光を背にした人影が見える。
逆光によって全身を確認することは出来ないが、腰には赤い輝きを放つ宝石が埋め込まれたベルトが見えた。
それはこの戦いの勝者。ライダー大戦で只一人生き残った者。
彼の名を、夏海は知っていた――



――ディケイド



ある日、士の前で突如発生した謎のオーロラ。
灰色に彩られた歪みから現れ、人々を襲う凶暴な生命体。
その標的は士と夏海とて例外ではなく、二人は窮地に立たされてしまう。
絶体絶命と思われたその時、夏海の見つけたバックルを士は手に取り、戦った。
仮面ライダーディケイドへと変身して――



――俺が、世界を救えると言ったよな?



ディケイドの力を用いて、怪人達を倒した士。
しかし、まだ世界の崩壊は終わらなかった。
士の前に現れた謎の青年、紅渡。彼が見せたのは、独立した数多の世界が融合する光景。
その結果、滅びてしまう世界。
それを食い止める為には士に世界の旅をさせ、崩壊への未来を変えること――


仮面ライダーが存在する数多の世界を渡る士は、確実に世界を救っていた。
彼はクウガの世界で得た仲間である小野寺 ユウスケ。旅の途中に訪れたブレイドの世界で出会った泥棒、海東 大樹と共に多くの驚異を打ち破っていく。
だがある時、士達が救った筈の世界が次々と消滅してしまった。
続くように彼らの前に現れる仮面ライダー達、目的は世界を救うためにディケイドを消滅させること。
ディケイドはたった一人で仮面ライダー達と戦うことを決意し、ライダー大戦は始まってしまった――


戦いの果てにディケイドは力尽きてしまうが、夏海達の力によって彼は再び命を取り戻す。
その一方では、悪の組織スーパーショッカーが世界制圧のために動き出していた。
ディケイドはこれまで戦っていた全てのライダー達と力を合わせ、スーパーショッカーを撃破する。
スーパーショッカーが壊滅したことによって世界に平和が訪れ、士は仲間達と共に旅を続けた。
本当の自分自身と出会うために――





やがて彼らは旅を続ける内に偶然訪れたとある世界で、新たなる仲間を得た――





気が付くと、彼の身体は浮遊感に包まれていた。
足下に存在するはずの地面に立っている感覚は無く、まるで空を飛んでいるかのように感じる。
赤いシャツと灰茶色のコーデュロイのパンツに身を包み、その上を漆黒色の素材で作られたロングコートを羽織って、二眼レフのトイカメラを首から下げている彼が最初に感じたのは、その感覚だった。
青年、門矢士は無意識のうちに瞳を開ける。すると、目の前の光景に軽く目を見開いた。
そこに広がっていたのは、真っ黒い空で煌めいている数え切れないほどの小さな輝きで、まるで満天の星空を思わせる。
ここは一体何処なのか、何故俺はこんな所にいるのか。
周囲を見渡すと、足下から頭上まで全ての空間が、星の光に満ちていた。
視界全てを埋め尽くすほどに広がっているその星々を見て、彼は宇宙空間にいるように錯覚してしまう。
一瞬、士は突然この謎の空間に跳ばされたことに困惑するが、すぐに落ち着きを取り戻す。この手の現象に離れていたからだ。
どうせ、俺に戦いを義務づけた奴がまた呼んでいるのだろう。
そう考えながら彼は周囲を見渡すが、イルミネーションのように光り輝く小さな星が散らばっている黒い空が広がるだけで、他には何も見えない。

「とっとと出てこいよ、いるのは分かってるんだよ」

士は不機嫌を示すかのように眉を歪ませ、声を荒げる。
それに答えるかのように、彼の背後より甲高い音が響き渡っていく。
宇宙を思わせるような空間に生まれた音響の方向に、士は振り向いた。
視線を左に動かすと、一人の男が星空を背後にこちらに歩み寄る。初めの内は小さく見えたが、彼方より近づいてくることによってその全身がはっきりと見えていく。
彼の正体を、青年は知っていた。
世界を滅びの現象から救うために、自分に対して世界の破壊者として戦うことと、時空を超えた旅を命じた男。そして以前訪れたことのあるキバの世界とはまた違う、別世界に存在するもう一人の仮面ライダーキバ。
その名は紅渡。
純白のストールと同じ色のコートを上半身に纏い、残る部分を紫色のジーンズで包んでいる。
線が細く、どこか柔和な顔つきの中で、穏やかに見えながらも強い意志が込められている瞳を向けていた。
かつてこの男とは、ライダー大戦が始まる際に互いの命を賭けて死闘を繰り広げたはずなのに、士の感情には変化がない。
双方、様々な思いを込めて戦ったはずなのに、まるでそれが嘘のように思える。
初めて出会ったときにも浮かべていた柔らかい笑みを、士に向けながら渡は口を開いた。

「お久しぶりですね、ディケイド」
「やっぱりお前だったか………まあ、大体分かってたけどな」

穏やかな口調で語る渡に対し、ディケイドと呼ばれた士の方は乱暴に言葉を返す。
彼がこの不可思議な空間に放り込まれたのは、以前も何度かあった。
一度目は、世界が崩壊する前兆として現れた怪物達と戦う為に、力を手に入れた忘れもしないあの日。
二度目は、世界の融合を防ぐために大ショッカーの幹部であるアポロガイストを倒した直後、ライダー大戦の開幕を知らされた時。
士は自らの不機嫌を示すかのように、意図的に渡を視線から外し、周囲で瞬く星空に目を向ける。
本来ならば一流の芸術品にも劣らないはずの美しい光景も、過去にあった出来事のせいで彼には良い物に見えなかった。

「お元気そうで何よりです、どうやら旅は順調のようですね」
「一度は旅を終わらせようとしたくせに、よく言うぜ」

うんざりしたように鼻を鳴らしながら士は言うと、渡の方に再び振り向く。
表情を歪ませている彼の瞳からは、明らかな敵意が感じとれた。
それでも尚、悠然とした態度を取っている渡に苛立ちを覚えながら士は口を開く。

「それで、今日は何の用だ? また俺の旅を終わらせに来たのか」
「いいえ、違います」

首を軽く左右に震わせながら渡が答えた瞬間、その表情が一気に強固な物へと変わる。
突然の変化に士はキョトンとしたような顔を浮かべるが、すぐに元に戻った。

「今日は貴方に折り入ってお願いがあって来たのです」
「お願いだと?」
「これを見てください」

言葉と同時に、渡は右手の親指と中指を使って指を鳴らす。
乾いた音が周囲に響くのに呼応するように、星空で広がる景色が急激に流れていく。
数え切れないほどの光はビデオの早送りをしたかのように動き、二人の前を次々と通り過ぎる。
疑念に満ちた表情を浮かべながら変化する光景を見渡す士を尻目に、渡は真摯な瞳で流れる先を見つめていた。
数秒ほどの時間が経った後、彼らの前に球状の物体が現れる。それと同時に景色の流れは唐突に止まった。
それは惑星のように見えるが、地球のように青い輝きを放つ部分が僅かしかなく、所々が黒く塗られている。
まるで元々彩られていた青の上を、暗色のペンキで無理矢理塗り潰したかのようだった。
炭のように濃く見える黒い部分は徐々に広がっていき、紺青の色を消していく。飲み込まれた跡には何も残らなかった。

「この世界の名は、アルハザード」

闇が広がっていく星を眺めるのに夢中になっていた士は、渡の呟きによってその意識を戻していく。
彼は表情を変えることのないまま、顔を向ける。

「アルハザードだと? 何だそこは」
「ええ、かつては辿り着けばあらゆる望みが叶う理想郷と言われていました……しかし遠い昔に文明が滅びてしまい、今では廃墟としか呼べない世界です」
「それなら、俺は必要ないな」

渡の語りを遮るように士は口を開く。

「俺は世界の破壊者。とっくの昔に滅びた何もない世界にわざわざ行くなんて、お断りだね」
「創造は、破壊からしか生まれません」

先程より一層高いトーンの声で、渡は応じる。
それは士が仮面ライダーの力を得た日、彼に対して言った言葉だった。

「今、この世界より新たなる脅威が生まれようとしています……漆黒の闇に包まれた理想郷の最深部に」
「新たなる脅威だと?」
「ええ、この大宇宙に広がる数多の生命を脅かす脅威……それらが時空の壁を越えて、このアルハザードに集結したのです。その結果、元々青く輝いていたはずのこの世界は闇に閉ざされてしまいました」

士は目の前に立つ渡と視線を合わせながら、その口から出てくる饒舌な語りを聞いている。
彼にとって本来ならば憎々しく聞こえるはずの言葉が、何故か聞き逃してはならない物に聞こえた。

「このまま放置していては、いずれ脅威はアルハザードから時空を飛び越えて、独立したそれぞれの世界を飲み込むでしょう……その前兆として、脅威は時空の壁を破壊しようとしています」
「その脅威とやらを、俺が止めろって事か?」
「それが世界を脅威から守る、たった一つの方法です」

それは、渡が力を手に入れた士と邂逅をした際に、告げた言葉を改変した物だった。
世界が滅びる未来を変えられるのは、全ての仮面ライダーを破壊する者である彼だけと知ったあの日に聞いた言葉。
士が過去を思い出していたが、渡は言葉を続けていく。

「僕と、僕の仲間も貴方に力を貸します。このまま放置しては、いずれ全ての世界に滅びの現象が起こってしまいます……お願いです、力を貸してください」

そう言う渡の表情は、出した言葉に比例するかのように徐々に曇っていく。まるでこれから起こる出来事に危機感を覚えているようだった。
これまで見せた事のない顔付きに、士は戸惑いを覚える。
その内面に潜む意志を見ることは出来ないが、これまでの話を総合して今が切羽詰まった状況であることが理解できた。
恐らく、このアルハザードという世界に潜んでいる脅威とやらは、各世界で暴れ回っている怪人達が集結して出来た悪の組織、大ショッカーのような物なのだろう。
あれが進化したスーパーショッカーを壊滅させてからは、このようなことは二度と起こらないだろうと思っていた。しかしあの恐怖がまた世界に襲いかかろうとしている。
正直な話、目の前の男は気に入らない。しかし、だからといって嘘を言っているようにも見えなかった。
ならば、やるしかないだろう。

「……大体分かった」

二人の間に数秒の間が空いてから、先に言葉を出したのは士の方だった。

「次の世界に行く前に寄り道するってのも、悪くはないか……」
「ありがとうございます、ディケイド」

素っ気ない態度で士は答えるが、渡はそれが充分な答えだったのか笑顔を浮かべる。
その表情が何処か気にくわないと彼は感じたが、深く考えても仕方がない。

「そう聞いて安心しました……それなら、大丈夫ですね」
「今度は何だよ」
「貴方に彼らと会わせても大丈夫だと言うことです」
「彼らだと? 誰のことだ」
「この方達です」

渡の一言を合図とするように、士の背後に位置する空間に歪みが生じる。
複数の色を混ぜ合わせたペンキの如く、淀んだ灰色に揺らめくそれはオーロラのように横へ広がっていき、人が数人通れる程度の大きさとなっていく。
突然発生した歪みを感じ取った士が振り向くと、人型のシルエットが二つ浮かび上がる。
揺らめくオーロラの中を掻き分けるように現れた彼らを見た瞬間、彼は驚愕の表情を浮かべてしまう。
それは、士の知っている人物だったからだ。

「お前達は……!」

時空の歪みから現れたのは、士が世界を渡る旅をした際に出会った戦士達。
一人は端正な顔付きに整った黒髪、士とほぼ同じ体躯を黒いカーディガンと赤いポロシャツ、加えてカーゴパンツで包んでいる男。
士はかつて、旅の途中でライダーのいない世界を巡ったことがある。そこは遙か昔から三途の川に潜む外道衆と呼ばれる存在が、人々の平穏な生活を脅かしていた。
それを相手に『侍』の名を持つ戦士達が戦い、殿と呼ばれる志葉家の人間が彼らを束ねている。
目の前に立つのは、侍戦隊シンケンジャーと呼ばれる侍達を束ねるリーダー、志葉丈瑠。
もう一人は士から頭一つ分の身長を減らしたような背丈に、ピンク色のジャッケトと純白のインナー、そしてコーデュロイのホットパンツで包み、オレンジ色の髪を二つの髪留めでツインテールを作るように束ねている少女が一人立っていた。
彼女の左脇腹の位置からは、可愛らしさを感じさせる桃色を基調としたポーチが下げられている。
凛としたその表情からはあどけなさを感じさせ、一見すると何処にでもいるような普通の女子中学生にしか見えないだろう。
しかし彼女もまた、士が旅の中で出会った戦士の一人だった。彼はスーパーショッカーの野望を打ち砕いた後、シンケンジャーの世界とはまた違うライダーがいない世界を訪れたことがある。
それは、全てのパラレルワールドの支配を企む、管理国家ラビリンスの世界制圧を阻止するために戦う伝説の戦士、プリキュアと呼ばれる四人の少女達が戦っていた世界。
士の前に現れた少女、桃園ラブはそんなプリキュアの一人だった。

「………士、久しぶりだな」

目線を士と合わせながら、丈瑠は一歩前に出ながら口を開く。
その瞳からは丈瑠本人が持つ厳格さを感じさせるが、再会を懐かしむような雰囲気も持ち合わせていた。
あまりにも意外すぎる人物の登場に、士は目を丸くしていたが、その一言ですぐに元に戻る。

「話は全て聞いている、どうやらあの世界で異変が起こり始めているようだな」
「わざわざこんな事に力を貸すなんて、二人揃ってご苦労なこった」

何処か冷ややかな目線を向けながら、士は皮肉が込められた言葉を言い放つ。
それに意を介する事のないまま、丈瑠は言葉を続ける。

「ここまで聞かされたからには、無理とは言えないからな」
「あたしも、こんな事を放っておくなんて出来ません!」

真摯で真っ直ぐな瞳を、丈瑠とラブは士に対して向けていた。
二人の向けている感情には揺らぎという物が一切存在していないことを、士は感じ取る。
理由は彼らが守っている世界を訪れた際、共に戦ったことがあったからだ。ほんの短い時間しか一緒にいなかったが、それでも互いに深い信頼を感じていた。
そんな二人との再会で士の心中は穏やかになり、感慨に浸りたくなる衝動に駆られてしまう。しかし、彼はそれを抑えた。
今は昔を懐かしむ場合ではないからだ。

「そうか、なら俺は何も言わない。お前達が力を貸したいのなら、勝手にしろ」
「初めからそのつもりだ。でなかったら、最初から俺はこんな所に来ない」
「あたしもそうです、みんなの幸せを守るためにあの世界に行くんです」

三人の間で飛び交う言葉は、再会を喜び合うような雰囲気ではない。
親睦を深めた者同士が浮かべる笑みは見せず、あるのは戦いへの決意が込められている精悍な表情のみ。
もしも、事情を知らない者がこの光景を目にすれば、これから三人が互いに喧嘩でも始めるのかと思うかもしれない。
二対一の割合でそれぞれ正面を向き合いながら、真っ直ぐに立っていた。
士が丈瑠とラブの事を見つめ、同じように丈瑠とラブが士の事を見つめている。
しかし彼らにはそれだけで充分だった。世界の崩壊を防ぐという一切のブレがない同じ信念を持ち、その為に同じ場所に立っている。
一度はその為に力を貸し合った彼らにとって、多くの言葉は必要なかった。
士は自分の背後に立っている渡の方に顔を向ける。彼の脇で映し出されているアルハザードと呼ばれる世界を覆う黒雲は、先程よりも重い物に見えてしまう。
泥のように粘り気があり、見る者全てに生理的嫌悪感を与えそうなその闇は、このまま放置しておくと宇宙へと流れ込んでいき、全てを押し潰してしまいそうだった。
無言でその場に佇んでいる渡に視線を移し、士は口を開く。

「それで、俺たちは今すぐそこに行けばいいのか?」
「ええ、ですがその前にあなたが導かなければならない方がいます」
「何?」
「スーパーショッカーとの戦いを終えた後、貴方が新しく得た仲間………彼がこの戦いの鍵となります」
「戦いの鍵だと……?」

実直な瞳を向けている渡の言葉に、士の中で疑念が生まれる。
一体何を言っているのか。
ほんの数秒だけ思考を巡らせた途端、彼の脳裏に一人の少年の姿が浮かび上がっていく。
次の瞬間、士はハッとしたような表情を浮かべた。

「おい、それってまさかあいつが――!」
「ディケイド……貴方が彼と共に戦い、更なる力を与えることで、アルハザードの脅威を打ち破ることが出来ます」

驚愕の混ざった士の言葉は、渡によってあっさりと遮られてしまう。

「僕達が時空の歪みを食い止めます……ですのであなた方はその間にアルハザードへと行き、脅威を食い止めてください。お願いします、ディケイド――」

透き通るくらい静謐な渡の言葉が、士の耳に届いた。
その直後、渡の背後から光が溢れていき、世界の全てを飲み込んでいく。
虹のように煌めいている七色の輝きは、数え切れないほどの星々も、漆黒の闇が蠢いているアルハザードも、そして渡の身体すらも飲み込むと、士の視界を覆い尽くしてしまう。
オーロラを思わせるように揺らめく光の前に、士はその眩しさに目を細めるしかできなかった。
背後に立つ二人の様子を確認している余裕はないが、微かな呻き声が聞こえたので自分と同じ状態になっていることが分かる。
渡に対して文句の声を出そうとしたが、あまりの出来事で口を動かす暇もない。
全てが純白の輝きに包まれた途端、彼は自分の身体が羽根のように浮いていくのを感じる。
やがて士の身体は、周囲を通り過ぎていく光の流れに巻き込まれていくかのように、彼方へと吸い込まれていった。




両足が固い地面を踏んでいる感触を覚える。
あれからどれ程の時間が経ったのか。それを彼が把握することは出来ないが、長い時間でないことは確かだった。
辺りを包む空気の匂いが、鼻を刺激していく。それは、彼にとって嗅ぎ慣れている澄んだ檜の香りだ。
事態を把握するために、士は瞼を開く。視界に飛び込んできた光景は、先程の妙な空間とは違って彼にとって馴染みのある物だった。
壁に貼られた純白の内装材、艶が出ている床の木材、壁に掛けられている額縁の中に納められた数多くの写真、訪問者を受け付けるために用いられる机。
そこは、世界を巡る旅をしている士の身体を休める場所となっている光写真館の入り口だった。
耳を澄ませると、通路の奥から賑やかな話し声が聞こえる。それは光夏海や小野寺ユウスケを初めとする、士と共に旅を続けている仲間達の声だった。
廊下に響く複数の笑い声を聞いた瞬間、士は先程告げられた渡の言葉を思い出す。
これから行くことになった、アルハザードという世界より生まれる脅威を打ち破るためには、旅の中で得た新しい仲間の力が必要であること。
だが彼にはその言葉の全てを信じることが出来なかった。士は以前、彼が持つ仮面ライダーに引けを取らない程の戦闘力を目にしたことがある。
けれども、それだけであの世界から放たれていた威圧感に対抗できるとも思えない。いくらそれだけの力を持っていると言っても、実際はラブと大差ない年齢の子どもだ。
士が思考を巡らせていると、通路の左側に付けられている木製の扉が開いていく。その音によって、彼の意識はそちらに移る。
ドアの向こう側から現れたのは一人の少年だった。背丈は士よりほんの少し低いくらいだ。
前が僅かに跳ねている茶色の髪、黒いシャツの下に着られている長袖の青い服、右手首に巻かれている繋ぎ目がない銀色の腕輪、純白の布が左側の太股に縛られたデニム生地のズボン、それを締め付けている腰に巻かれた太い革製のベルト。
その少年、トーマ・アヴェニールは廊下に出ると、士の方に振り向いた。

「あれ……士さん、帰ってたんですか」
「今帰ったところだ」

トーマは士の立つ場所に歩み寄る。しかし彼が横に着こうとした瞬間、士はずかずかと廊下を歩き始めた。
通り過ぎていく士の横顔を覗きながら、トーマも足を進める。

「さっきは急にいなくなってましたけど、出かけてたんですか」
「あのな、俺だって行きたくて行った訳じゃない」
「じゃあ何で――」
「無理矢理呼び出されたんだよ」

うんざりしたかのように不機嫌を示す顔を作りながら、士はトーマの疑問を遮ってしまう。
それに対してトーマは怪訝な表情を浮かべるしかできない。

「呼び出されたって……誰に」
「さあな」
「さあな……って」

トーマの言葉に対して、士は鼻を鳴らしながら答えることしかしない。
それを見て、トーマは誰にも聞こえない程度の溜息を漏らしながら詮索しないことを決めた。
彼は士と出会い、世界を渡る旅に加わってからその傍若無人と言えるような言動に、幾度となく辟易させられている。
故に、この状態の士に対しては無闇に言葉をかけるべきではないと、トーマは自然に学んでいったのだ。
恐らく、外で何か嫌なことでもあったのかもしれない。ならば深く詮索するべきではないだろう。
やがてリビングに入る為の扉の前に辿り着くのと同時に、トーマは心の中で呟く。
彼はドアノブを右手で回して手前へと引っ張り、そのままリビングへと足に踏み入れる。
視界の先には、丸形のテーブルを囲むように座っている三人の少女と、窓側に備え付けられているソファーに背中を預けている一人の青年が見えた。

「おお、士か! おかえり」
「ああ……」

日の光が差し込む位置に座っている男、小野寺ユウスケは部屋に入ってきたトーマと士の二人の方に振り向くと、朗らかな笑顔を浮かべながら立ち上がる。
それに対して士は呟くような声で返すと、ユウスケの横を何事もなかったかのように通り過ぎて、ソファーの横に置かれている椅子に音を立てながら乱暴に腰を落とした。
ユウスケの方はその対応に慣れているのか、特に何も言わずに笑みを浮かべたまま再びソファーに座り込む。
この二人が繰り広げているいつもの光景を目にしたトーマもまた、椅子に背中を下ろした。

「う~~~~っ………」
「ほらほらほら、夏ブドウさ~~~ん。速く引いたらどうですか~?」

唸るような声と、戯けたような声がトーマの耳に入る。
不意に、彼は女性陣が囲んでいるテーブルの方に視線を移す。見ると、二枚のトランプを手にしながらニヤニヤと笑みを作っているアイシス・イーグレットと、それを突きつけられて表情を顰めている光夏海の姿があった。
彼女達の間を挟むような位置では、リリィ・シュトロゼックが笑顔を浮かべている。
その様子から察するに、三人はトランプでババ抜きをしている最中だろう。リリィは一枚もカードを持っていないとなると、一番最初にゲームに勝ったと思われる。

『あれ? アイシス、夏ブドウさんじゃなくて夏イチゴさんじゃなかったっけ?』
「どっちも違います! 私は夏美ですよ~!」

リリィの発する精神感話に対して、夏海は否定の声をあげる。
しかしそれに気を止めることのないアイシスは、尚も煽るように鼻を鳴らしながら笑みを浮かべていた。
夏海は、目前に並んでいる二枚のカードを見比べながら喉を鳴らす。
その様子を見ていた士はソファーから立ち上がると、夏海に耳打ちする。

「夏ミカン、左だぞ」

士の呟きによって、夏海は反射的に左側のカードを引く。
チェック模様が彩られている面を裏返した途端、彼女は愕然とした表情を浮かべてしまう。
そこには、引いてはいけないカードであるジョーカーを示すピエロの絵柄が描かれていたからだ。
夏海の反応を見たアイシスは、途端に瞳を輝かせる。

「ええ~っ!?」
「ラッキー! それじゃあ、次はあたしの番で――」
「ちょっと待ってください!」

喜びの感情をこれでもかというほど表情にしているアイシスの言葉を、すぐに夏海は遮る。
すると、彼女は椅子から立ち上がりながら傍らに立つ士を上目使いで睨み付けた。

「士くん、あなたアイシスと二人で私のこと騙しましたね!?」
「何のことだ」
「とぼけないで下さい! 左を引けと言われたから引きましたけど、これババじゃないですか!」

夏海はたった今引いたジョーカーのトランプを、士に対して思いっきり突きつけながら怒鳴っている。
しかし士は、何事もなかったかのような涼しい顔で鼻を鳴らした。

「俺は別に左がババじゃないとは一言も言ってないぞ?」
「はぁ!?」
「お前が勝手に勘違いしただけだろうが、まったく……」

まるで悪びれている様子のない士に、夏海は眉を顰めてしまう。
その直後、壁に立てかけられている背景ロールの裏から、二つの小さな影がそれぞれ白と銀の軌道を描きながら飛び出してくる。
片方は、親指ほどの大きさしか持たない蝙蝠を彷彿とさせる純白の外見、宝石のように赤い両眼、小熊のように丸みを帯びた耳、右耳に巻かれている小さな赤いリボン、それぞれ三本の爪が伸びた両足、二本の牙が突き出ている口。
キバーラの名を持つ白い蝙蝠と共に現れたのは、筒状の形状を持つインテリジェントデバイスだった。
銀色に輝く全身、たった一つだけ付いているレンズのような赤い瞳、腕を思わせるような二本の黒い紐。
それはトーマがたった一人で旅をしていた頃からの付き合いである相棒、スティード。
彼は宙を漂いながら、キバーラと視線を合わせていた。

「ねぇん、スティード~」
『何でしょうか、Ms.キバーラ』
「今のあたしって……どう?」

キバーラは軽くウインクをしながら、猫なで声でスティードに詰め寄っていく。
スティードは人間が腕を組むかのように紐を絡ませると、瞳を点滅させる。

『どうとは……それはどのような意味で言っているのでしょうか』
「だ~か~ら~! そのままよ! あたしが可愛いかどうかって事よ!」
『ああ、そういうことでしたか。 失礼』
「まったく……あんたも鈍いわね~! そんなんじゃモテないわよ」

キバーラは軽く顔を顰めながら言う。
そこから瞬き一回ほどの僅かな時間が流れた後、スティードは再び語り出す。

『そうですね、いつもにも増して可憐に見えますね……もっとも、普段の貴方も充分に綺麗ですが』
「やっぱり~? あはは、あんたわかってるじゃな~い! やっぱりあたしって魅力的よねぇ~」
『ええ、とっても魅力的ですよ』
「んもう! 褒めたって何も出ないわよぉ~!」

キバーラは頬を赤らめながら、左の翼を使ってスティードの頭部を勢いよく叩く。
その一撃によってスティードの身体は、スタンドセットの元へ勢いよく吹き飛んでいった。
やがて彼の全身は左側に吊されている鎖に激突してしまう。スティードの重量によって鎖は引っ張られてしまい、背景ロールが動き出す。
音を立てながら機械が稼動していくことで、掲げられている背景紙は切り替わっていく。
何も映し出されていなかった垂れ幕の上に覆い被さるように、新たな背景が現れる。
リビングにいる全員の視線は、そこに描かれている絵へと移っていった。

「これは……!?」

現れた背景を見て、トーマは無意識のうちに椅子から立ち上がりながら呟いてしまう。
そこに描かれていたのは、漆黒で覆われている空の元に広がる荒野と、鬱蒼と生い茂る森林。
更にその荒れ果てた大地には、多種多様の外見をした異形が群がっていた。
それは平行して存在する数え切れないほどの世界で、人々に牙を剥いていた怪人達。
怪獣、未確認生命体、アンノウン、ミラーモンスター、オルフェノク、アンデット、魔化魍、ワーム、イマジン、ファンガイア、レジェンドルガ、ドーバント、ネガティブシンジケート、臨獣殿、蛮機族、外道衆など、数えきることが出来なかった。
そのタペストリーが示すことは次に訪れる世界の情景。
驚愕、あるいは困惑したような表情でリビングにいる全員が背景画を見つめていると、突然入り口のドアが開く。

「おい、士!」
「士さん!」

木製の扉が軋む音が鳴るのと同時に、後ろから二つの声が聞こえた。
士とトーマが振り向くと、一組の男女がリビングに入ってくる。
一人は士とほぼ同じ身長を持ち、二十代前半に見える黒髪の青年だった。
遅れて現れたのはアイシスやリリィに近い身長で、明るい色の髪を二つに束ねている少女だ。その年齢はトーマに近い。
二人ともトーマに見覚えのある人物だった。士と出会い、いくつもの世界を渡る旅に加わってから出会った戦士達。

「丈瑠さんに……ラブか!?」
「あ、トーマ! 久しぶり!」
「久しぶりだな」

桃園ラブと志葉丈瑠の二人を見て、トーマの表情はより一層驚愕で染まってしまう。
リビングに現れた丈瑠は、すぐさま士の方に顔を向けた。
それに返すように、士もまた現れた二人の方に視線を移す。

「何だ、お前らもここに来てたのか」
「正確に言うなら、気が付いたら俺たち二人ともこの家の前に立っていた……だな」
「そりゃ災難だったな、殿様」

突然の来訪者に対しても、大して感情を動かさずに平然とした様子で士は答えた。
大方、あの紅渡という男の仕業なのだろう。こんな事に引っ張り出されるこの二人には、流石に同情するべきだろうか。
そう心中で呟きながら士は、丈瑠と共にタペストリーの絵を真摯な瞳で見つめる。

「士……これが脅威が潜んでいるという、これから行く例の世界か」
「だろうな……さて、鬼が出るか蛇が出るか」

あの謎の空間で、渡の言っていたアルハザードという世界の絵を前にして、彼らは呟く。
多種多様の外見を持つ異形が描かれている風景は、まるで罪人が苦しむ光景を描いた地獄草紙を思わせるほどの禍々しい雰囲気を醸し出していた。
まじまじとその絵を見ていると、士は無意識のうちに顔を顰めてしまう。
それはこれまで見てきた光景とは違い、血の池に沈んだ亡者が群れている様子を見せつけられているようで、気分が悪くなっていったからだ。
そんな士に対して、ユウスケは怪訝な表情を浮かべながら顔を向けていた。
それに気付いたのか、士もまたユウスケの方に振り向く。

「なぁ士、これは一体どういう事だ?」
「何がだ」
「いや、何でこの二人がここにいるんだって……」
「気が付いたら家の前に立ってたって、言ってただろうが」
「そういうことじゃなくて……」

ユウスケの問いに答える気配を見せずに、士は鼻を鳴らしている。
あまりに素っ気ない態度に、ユウスケは答える気力を無くしたのか頭を軽く掻きながら溜息を漏らす。
士とは付き合いが長いのでこういう対応は既に慣れているが、それでも辟易してしまう。
その一方では、ラブは笑顔を浮かべながらアイシス達の方に視線を向けていた。

「アイシスにリリィに夏海さんも!」
「あれ、あなたラブちゃんですか!?」
「ラブじゃん、久しぶり~!」
「うん、アイシスこそひっさしぶり~!」

ヒマワリのように明るい笑顔を浮かべるアイシスに対し、ラブは喜色満面で右手を上げる。
その行為の意味を瞬時に読みとって、アイシスも同じように右手を上げた。二人は喜びの声と共に、勢いよく手の平を打ち合わせていく。
ラブは続けざまに、柔らかい笑みを見せているリリィの右手と自分の手を合わせて、大きな音を立てる。
そこから流れるように、やや驚愕したような顔を浮かべているトーマと夏海とも手を合わせた。
そしてラブは最後の仕上げとして、タペストリーの前に集まっているユウスケ、丈瑠、士の三人に振り向く。

「そうだ! 士さんも、ユウスケさんも、丈瑠さんも!」

上機嫌となった彼女は、彼らの前で両手を大きく掲げる。
その行動の意味を、三人はすぐに察知した。

「………やれやれ」

士は溜息を漏らしながら、左腕を軽く上げる。
ここで下手に断っては、後で夏海に五月蠅く言われるかもしれないからだ。

「わかった」

丈瑠は軽く頷くと、手の平を向けた。

「あ、ああ………」

未だに状況が飲み込めていないユウスケは、ラブの言われるまま右腕を掲げる。
ラブはそんな三人に向けて、大きくハイタッチをした。
彼女の行為の意味は、かつて自分の住む世界に訪れてくれた素晴らしい旅人達との再会を喜ぶ証である。
ラブはそれを終えると、今度はリリィの方に振り向いた。

『元気そうだね、ラブ』
「そりゃあもっちろん! あたしの毎日は幸せでい~~っぱいだから!」

リリィが送った精神感応を、ラブは輝いて見えるほどの笑顔を維持したまま答える。
すると二人の間に入り込むように、アイシスが横から視界の中に現れた。
彼女もまた、ラブに匹敵するような明るい笑顔を浮かべている。

「ねぇラブ、一体どうしたの突然?」
「うん、ちょっとね」
「あ! もしかしてあの美味しいドーナツを持ってきてくれたの!?」

アイシスの笑い顔には、ラブに対する期待に満ちたような視線が込められていた。
彼女は士達と出会ってから、世界を越える旅に同行し、プリキュアの世界へと訪れたことがある。
そして四ツ葉町でラブと会った際に、カオルちゃんと呼ばれる陽気なおじさんの作るドーナツを食べたことがあったのだ。
それを向けられてしまったラブは、ほんの少しだけばつの悪そうな表情を浮かべてしまう。

「ああ~………ごめんアイシス、カオルちゃんの作ったドーナツは持ってきてないんだ」
「何でよ~」
「はは………ごめんごめん」

アイシスが頬を膨らませながら唸っているが、ラブは乾いた笑みで返すことしかできない。
その最中、ラブは何かを思いついたかのように表情を明るくした。

「ん~………それじゃあ、今度また来るからその時に絶対持ってくるよ!」
「え、本当!?」
「本当に本当! トーマやリリィやアイシスはもちろん、士さん達みんなの分だってたくさん持ってきて、美希たんもブッキーもせつなもみ~~~んな、誘ってみるから!」
「やった~! やっぱラブ最高~!」

不満な様子を醸し出していた先程の表情が嘘のように、アイシスは満開の笑みを浮かべながら勢いよく両腕を挙げる。
ラブの言葉によってリリィもまた瞳を輝かせている一方で、トーマはほんの少しだけ申し訳なさそうな表情をしていた。

「本当に良いの?」
「いいっていいって! だってみんなで食べた方が楽しいじゃん!」
「そうそう! ラブだってこう言ってるんだし~!」
「いや、お前が言うなよ!」

アイシスの言葉にトーマが突っ込みを入れるが、彼女がそれに気を止めることはない。
そのまま続くように、ラブは笑顔のままで丈瑠を見上げた。

「そうだ、丈瑠さんも良かったら一緒にどうですか?」
「ん、俺か?」
「はい! それに丈瑠さんだけじゃなくて、シンケンジャーの人たちみんなの分だって、いくらでもドーナツを持ってきますから!」

彼女の言葉によって、丈瑠はぽかんとした様な表情を浮かべる。
同時にそんなラブの姿が、かつて共に戦った女侍、花織ことはの姿が重なって見えてしまう。
シンケンイエローに選ばれた彼女も、常にこの様な天真爛漫な笑顔を浮かべていて、良くも悪くも純粋だった。
そんなことはの姿と重なってか、丈瑠にはラブの提案が悪いとは思えなかった。
何よりこういう頼みは、断るわけにもいかないだろう。

「そうだな、用事が終わったらあいつらも呼んでみるとするか」
「分かりました! それじゃあ、いっぱい持ってきますよ!」

丈瑠は軽い笑みを浮かべながら、肯定の意思を見せる。
それによって、ラブはより一層表情を明るくさせていく。
その直後、夏海は疑問の表情を浮かべながら、二人に顔を向けた。

「あれ、そういえば今日は二人とも一人で来てますけど、他のみんなはどうしたんですか?」
「みんなね、今日は忙しいんです」

ラブは夏海の言葉に即答する。

「美希たんも、ブッキーも、せつなも、みんな自分の夢に向かって一生懸命頑張ってるんです! だから、呼ぶに呼べなくて」
「俺の方も、そんな所だな」
「なるほど……みんな頑張ってるんですね」

夏海は二人の言葉に頷く。
三人が雑談を交わしている一方で、士はトーマに視線を向ける。
それに返すようにトーマも、士の顔を見据えた。

「どうかしたんですか、士さん?」
「トーマ、次の世界はな――」

その言葉を最後まで言い切ることが出来なかった。
突如、士の身体が淡い光に包まれていく。それに続くようにトーマ、ユウスケ、丈瑠、ラブの四人の身体にも、同じような輝きが何の前触れもなく纏われる。
あまりにも唐突すぎる出来事によって、五人は驚愕の表情を浮かべてしまう。しかしそれを無視するかのように、光は段々と強くなる。
そこから数秒の時間も経たずに、彼らの全身はその光に飲み込まれていく。
トーマ達を包み込んだ輝きはその視界を白く染めると、不気味さを感じさせる背景ロールへと飛び込んでいき、そのまま霧散していった。
その光景をただ見ているだけしかできなかったリリィとアイシスと夏美の三人は、飲み込まれた人物の名前をひたすらに呼ぶ。けれども何も返ってこない。
呆然としたような表情を浮かべる彼女たちの前で、キバーラはパタパタと音を立てながら羽根を動かし、宙を漂っていた。

「あらあら……今回の旅であたし達はお留守番をしてろってこと」
「キバーラ、これは一体どういうことですか!?」
「さあね、あたしにもよく分からないわ」

夏海の問いに対して、キバーラは真摯な瞳を向けながら口を動かしている。
普段の彼女からは考えられないような態度に、部屋に残された三人は困惑したような表情を浮かべてしまう。
キバーラはその感情の動きを気にせず、小さい溜息を漏らした。

「でも、これからちょっとヤバいことが起こりそうね」
「え、ヤバいことって……」
「ありゃりゃ? 士くん達、みんな出かけたの?」

アイシスの言葉を遮るように、キッチンから素っ頓狂な声が聞こえる。
声の主である老人、光栄次郎は怪訝な表情を浮かべていた。
純白のエプロンを身に纏っている彼は今、光写真館に集まっているみんなの為に、お菓子を作っている最中だった。
それ故、何の前触れもなく彼らがいなくなったことで、完成間近のクッキーをどうすればいいのか悩んでいる。

「困ったな~……お客さんの分のクッキーだってすぐに出来るのに………」

栄次郎は唸りながら呟いていた。
しかしその直後、キバーラは何かに気付いたかのようにハッとしたような表情を浮かべると、窓を開いて外に向かう。
彼女の様子に疑問を抱き、続くように夏美とアイシスとリリィの三人も、大きな窓際から外を眺める。
刹那、空を見上げた彼女たちはぎょっとしたような表情を浮かべた。
青く澄んだ大空に、本来ならば存在するはずのない不気味な黒い球体が浮かび上がっている。太陽とも月とも違うそれは、轟くような音を立てながら放電し、徐々に巨大化していた。
遙か彼方の空に浮かんでいる球体の表面から、まるで粘土細工のように人の形をした闇が次々と作られていき、一瞬で剥がれ落ちる。
空より降ってくるたくさんの闇は、ボコボコと音を立てながら形を変えていき、醜悪な異形へと姿を変えた。

「な、なんじゃありゃぁ~~!?」
「もしかして……!」

リビングから空を見上げているアイシスが驚愕の表情を浮かべているのに対し、夏海はハッとしたような表情を浮かべる。
彼女はこの光景にデジャブを感じていた。士がディケイドの力を手にしたあの日、今と同じように何の前触れもなく多くの怪人が自分の世界に攻め込んだ。
あの時はディケイドが怪人達を難なく倒したが、その彼が突然現れた謎の光に包まれて消えてしまった。
ならば、あの怪物達と今戦えるのは自分だけ。
夏海はキバーラの方に顔を振り向いた。



「ドオォォォォォパントぉぉぉぉぉぉ~~~~!?」

鳴海亜樹子は異変が起こり始めている空を見上げながら、素っ頓狂な表情で悲鳴をあげていた。
彼女はいつものように探偵事務所で事件の依頼を受け、左翔太郎やフィリップとは別行動で調査をしている最中だった。
この風都の空から突如、ドーパントと思われる怪物が降ってきたのだ。その数は一匹だけでなく、最低でも三十は超える。
何の前触れもなく現れたそのドーパント達は無差別に町の人を襲い、周囲の建物を次々に破壊していた。
無論、この異常事態に対抗するために警察もすぐに出動し、人々を避難させている。
しかし、それだけでドーパントに対抗できるわけが無く、進行を止めることが出来ていなかった。
頼みの綱である仮面ライダーWと、仮面ライダーアクセルの二人の姿は未だ見られない。
救急車のサイレンと人々の悲鳴が響き渡る町の中を、亜樹子は携帯電話を左耳に当てながら走り抜けていた。
先程から翔太郎に連絡を取ろうとしているが、呼び出し音が鳴るだけで一向に出てくる気配は見られない。

「早く出てよ翔太郎くん~! 所長は今ドーパントに追われてピンチなのよ~!」

別行動を取っている翔太郎に助けを求めるように、亜樹子は今にも泣き出しそうな目で口を開く。
全力で走っている彼女の後ろからは、一匹の異形がゆっくりと歩を進めていた。
見る者全てに生理的嫌悪感を与えるような甲虫の蛹を思わせる緑色の巨躯、自らの顔を両手で隠している骸骨を思わせる顔面、左腕から長く伸びた爪。
亜樹子はそれをガイアメモリの力によって生み出された悪夢の存在、ドーパントと勘違いしていた。厳密に言うならば、宇宙より飛来した隕石より現れ、擬態能力を用いて人々を襲う生命体、ワームに分類される物である。
無論、亜樹子がその違いを見分ける術を持っていないので、迫り来るサリスワームをドーパントと思いこむのも無理はなかった。
サリスワームに追われている彼女は次第に業を煮やしていき、携帯電話を畳んで上着の左ポケットに収める。
亜樹子は一刻も早くこの場から離れることに力を注ぐことにした。

「こんな事に……」

逃げる亜樹子は無意識のうちに、ぽつりと言葉を漏らす。
自分はいつものようにドーバント絡みの事件を調べていた。
その最中に風都のおいしい食べ物を適度に食べて、適度に事件に調べて、最後にドーパントの正体を華麗に暴く――

「こんな事になるなんて……」

まあ、この名探偵亜樹子様が論理的かつ華麗な推理でドーパントの正体を暴いても、向こうにはガイアメモリがある。
卑劣な犯人はそれを使って、依頼主もろとも私の命を奪おうとするだろう。
しかしその時は我が鳴海探偵事務所の優れた部下である、翔太郎くんとフィリップくんの二人がWに変身して、極悪非道のドーパントを打ち破る。
大活躍の末、依頼人からは感謝の気持ちと共に多くのお金が手にはいるはずだった。

「こんな事になるなんてっ…………!」

しかし今はそのドーパントに追われ、無様に逃げ回っている!
ドーパントが現れたのにも関わらずして、仮面ライダーは一向に現れない。
何故!? どうして!? 何があたしをここまで追いつめてるの!?
分からない。全く分からない。この天才的頭脳を持ってしても理解することが出来ない!
様々な感情が亜樹子の中で駆け巡る中、鼻を使って息を思いっきり吸う。
数秒の間が空いてから、胸の内に貯まっている思いと共に彼女は全力でそれを吐き出した。

「――――あたし聞いてなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁいっ!」

その亜樹子の叫びは、風都の各所に響き渡ったという。






漆黒の闇が広がる周囲には、数多もの星々の輝きで満ちている。
永劫の静寂に包まれた宇宙空間で、光を放つ存在がいた。
無数の星と同じ、あるいはそれを上回るかのような真紅の輝きを持つその球体は、宇宙の暗闇を切り裂くように進んでいく。
彼が広大なる宇宙を跳んでいる理由は、遙か彼方より放たれた邪悪なる気配の正体を確かめるため。それは故郷の星雲に届くほど強大な物だった。
果てしない広さを持つ大宇宙には、数え切れないほどの命が存在する。
多種族に対して友好的な者もいれば、自らの野望の為に罪のない命を蹂躙する者もおり、それによって数多の悲劇が生まれていた。
しかし同時に、同じ程の希望も存在する。
自らの持つ高度な文明を悪用し、他の平和的思想を持つ命を守るために銀河を駆け抜ける戦士達がいた。
彼もまた、罪のない命を守るために戦い続けた戦士の一人。M78星雲と呼ばれる銀河系から、地球と呼ばれる惑星の監視へとやってきた。
何の偶然か、彼が大気圏外に到達した直後に地球には怪獣が出現し、人間に牙を向けていたのだ。その時に彼は、自分の命を投げ出してでも人々を守ろうとした青年を見つける。
その様子に共振する個性を見つけた彼は、青年が直面していた命の危機を救い、共に戦うことを決意した。
地球の人間と戦う彼は、文明が発展したせいで他の星から迫り来る侵略者より幾度となく問われたことがある。何故、地球人に荷担するのかと。
彼は信じていたのだ。人間は過ちを犯すことがあるが、それを正すことも出来るという事を。
現に、対怪獣防衛チームDASHは幾度となく窮地に陥った自分を助けてくれたのだから。
その一心で彼は地球のために戦い続けていたが、最後の戦いの後に地球人は自分の力を頼りにしなくとも未来を掴み取ると言ってくれた。
それを信じた彼は、最も信頼する地球人に見送られながらM78星雲へと帰還していった。
流れるように自分の前を過ぎる多くの星々は、芸術と呼べるほど美しく輝いており、指先で少し触れただけで砕け散ってしまいそうなほど儚く見える。
だが、今はそれを眺めている場合ではない。
目的の場所に近づくたびに、禍々しい力がますます強くなっていくのを感じる。
まるで、この宇宙に存在する全ての不吉が込められているかのようだった。ほんの少しでも油断してしまったら、それで全てが終わってしまうかもしれない。
けれども、あの力を放置していてはこれから災いが起きるのは明らかだ。一刻も早くその正体を突き止めなければ。
自らに与えられた使命を思い返しながら彼は進んでいたが、唐突にその思考が止まってしまう。
前方より感じていた力が突然、一気に膨れ上がるのを感じる。それによって彼は反射的に動きを止めてしまう。

「何だ、この力は………!?」

光の球体へと姿を変えている彼は、無意識の内に言葉を出す。
その力はまるで、この辺り一帯の惑星群を飲み込んでしまうかのようだった。
数秒の間が空いた後、彼は速度を上げて再び気配の元へと進む。
この宇宙に異変が起こり始めている。彼はそう確信し、滅びた惑星へと急行した。
かつては絶大なる文明を持ち、あらゆる望みを叶えることが出来る理想郷と呼ばれていた星、アルハザードへと。




それが、ウルトラマンと呼ばれた彼に与えられた使命なのだから。





                       ウルトラマン

                       仮面ライダー

                       スーパー戦隊

                       プリキュア




     四つの奇跡が集結するその時、一つの未来を導いていく

               Forceの名を持つ未来を



              ――世界の破壊者 ディケイド――

        ――数多もの世界を救い、その瞳は何を見る――



                         新世紀
       Super Heros New Legend


             仮面ライダーディケイドForce
              The First Story
  
 ウルトラマン&仮面ライダー&スーパー戦隊&プリキュア
    ヒーロー大集結! アルハザード大決戦!






天空を覆っている黒い雲は、激流のように流れ続けている。
数えるのも億劫になる程の昔に滅びた闇に覆われた世界、アルハザードの奥地で仮面ライダーディエンドは駆け抜けていた。
不気味なほどに鬱蒼と生い茂っていた森林は、いつの間にか終点を過ぎている。
あれほどまで周囲に広がっていた木の数は急激に減っていて、雑草もまともに生えていない乾いた荒野が彼の目前に広がっていた。
しかしその急激な環境の変化に、今のディエンドが気を止めている余裕は無い。

「やれやれ……一体この世界はどうなっているんだ」

漆黒の中でシアンの瞳が輝く中、彼は焦燥が込められた声で呟く。
ディエンドの周辺には、数え切れないほどの異形が囲んでいた。
それはカブトの世界で暴れていた怪人のワームだけでなく、他の世界の怪人もいる。
自らの快楽を満たすために暴虐の限りを尽くした、クウガの世界で未確認生命体と呼ばれる怪人、グロンギ。
この世界とは隣り合わせのように存在する、映された鏡のように全ての物が反転した世界、ミラーワールドから人々を喰らおうと牙を向けている龍騎の世界の魔物、ミラーモンスター。
人としての命を失い、死者の眠りにつけずに進化を果たしてしまった人間の成れの果てである、ファイズの世界に潜む灰色の異形、オルフェノク。
遠い彼方の未来より精神体としてやって来て、人間に取り憑き、自らの時代を都合の良い物に改変しようと画策した電王の世界で暴れた魔神、イマジン。
人間の姿に成り済まし、人間のライフエナジーを狙おうとするキバの世界に現れた魔の一族、ファンガイア。
仮面ライダーのいない侍戦隊シンケンジャーの世界で、何百年も前の時代からあの世とこの世の隙間に存在する、三途の川より人々を恐怖に陥れてきた妖怪、外道衆。
他にも、数えるのも億劫になるほど多くの世界の怪人がいるが、ディエンドが確認することは出来ない。
財宝を求めてこのアルハザードに訪れた途端、何の前触れもなくワームの大群が現れた。
ディエンドライバーの力を借りて難なく撃破し、奥に進むことに成功する。しかしそこから更に不可解な出来事が立て続けに起こった。
先程彼に襲いかかったサリスワームに続くように、似たような外見を持つワーム達が姿を現したのだ。
いや、これだけならばまだいい。この世界にワームが見られたのだから、それの仲間がいくらいたところでおかしくはないだろう。
問題はその直後だった。ワームと再び戦ってから数分の時間が経った後、突如この世界に時空の歪みが生じたのだ。
それを示す淀んだオーロラが発生し、数多の怪物がこのアルハザードに現れた。
北東の方角からは、シンケンジャーの世界で猛威を振るっていた外道衆の尖兵が群れを成している。その数は、軽く二桁に達していた。
イソギンチャクに酷似した形状を持つ血の色に染まった頭部、瞳の存在しない顔面の大半を埋めている大きく開いた口、刃物のように鋭く尖っている牙、黄色い皮膚を守っている黒と真紅に染まった汚れた鎧。

「GYAAAAAA!」

ナナシ連中の名を持つ異形達は、皆同じ形状の剣をその手に握りながら耳障りな鳴き声を発している。
柄から伸びている波のように反った刀身は、異形の皮膚のように赤く染まっていた。
前の方に並んでいる一匹のナナシ連中が、大きく刀を振りかぶりながらディエンドに迫り出る。
それに対してディエンドは、刃先が胸部のディヴァインアーマーに接触しようとした瞬間、瞬時に両足を軽く屈めながら背後に跳んだ。
ナナシ連中が震った刀刃が空を斬るのと同時に、彼は乾いた地面に足を付ける。
その直後、ディエンドは間髪を入れずに右手で握っているディエンドライバーの銃口をナナシ連中に向け、引き金を人差し指で引く。
銃の中に蓄積されたトリックスターの名を持つ動力源が、弾丸を生成していき、空気を切り裂きながらナナシ連中へと進み出す。
ディエンドライバーから放たれた銃弾は異形の鎧に着弾すると、瞬時に装甲を貫いていき、皮膚の中を突き進んでいく。
命中した弾は体内で破裂し、その身体を仰け反らせる。その衝撃に耐えることが出来なかったのか、ナナシ連中の中には爆発四散した者がいた。
轟音と共に炎へと消えていく妖怪の様子に気を止めることはせずに、ディエンドは他の敵に目を向ける。
移った視線の先には、ネガの世界に巣くっていたミラーモンスターが集団で歩を進めていた。
トンボの幼虫であるヤゴを象ったような頭部、先端の黒い顔面に付いた得物を睨む十個の赤い瞳、両肩と胸部を守る無機質な外骨格、青と金の二色を基調とした皮膚、四肢のあらゆる部分から満遍なく伸びた棘。
レイドラグーンと呼ばれるミラーモンスター達を見て、ディエンドは脇腹に付けられているライダーカードホルダーに手を伸ばす。
瞬時に蓋を開けて、一枚のカードを取り出した。そこに描かれているのは、残像のように分かれたディエンドライバーの引き金を引いているディエンドの姿。
ディエンドは銃身の側面に、エネルギーの封じ込められたライダーカードを差し込んだ差し込み、銀色のトリガーを前に動かした。

『ATTACK RIDE BLAST』

エネルギーの解放を知らせる電子音が響くのと同時に、金色に輝くディエンドの紋章が銃の側面に浮かび上がる。
引き金を引くと、クラインの壺と呼ばれる別次元から流れるエネルギーが銃弾に込められ、その質量を増していく。
二連式の銃口から発せられる弾は、前方で並んでいるレイドラグーン達の硬質な皮膚に、高速の勢いで進み出した。
ディエンドブラストの名を持つ連弾の攻撃によって、鏡の世界で潜む魔物達の身体は少しずつだが、確実に破壊されていく。
しかし決定打にはならず、衝撃によって怯ませることしかできない。
笑い声を思わせるような不気味な鳴き声が背後に位置する個体から聞こえる中、それに混ざるようにして空気を裂くような鋭い音が迫るのを、ディエンドは察知する。
北西の方角に顔を向けると、鋼鉄製の輝きを放つ三本爪が振り下ろされてきた。
彼はディエンドライバーを用いてそれを受け止めると、衝突した所為によって瞬時に火花が飛び散る。その目前では、電王の世界で時の流れを歪めた怪人がディエンドを睨み付けていた。
モグラを思わせるような鉄の仮面、頭部と口から短く伸びているドリルを思わせる角、一切の暖かみが感じられない朱色の瞳、血のような赤さを持つ革のジャケット、かぎ爪を思わせるような鉄製の肩パット、その二つに守られている紫色の皮膚、両腕に装着された鋭い鉄の爪。
未来から来たエネルギー体がとある人間に憑依した際、思い浮かべている親指姫サンベリーナの物語からモグラをイメージした結果、生まれたその異形の名はモールイマジン。
モールイマジンの空いた左腕を見て、ディエンドは左足を素早く振り上げて鋭い前蹴りを放った。八トン分の重さを持つ足が腹部に沈み込むことによって、その巨躯は蹲っていく。
そんな微かな隙をディエンドが見逃すはずはなく、直ぐさま引き金を引いた。銃口の瞬きに比例するように、ディエンドライバーからは弾丸が無限に放たれる。
光で構成されている弾は、嵐のようにディエンドの周りを囲む異形に襲いかかり、着弾するたびに火花を飛び散らせた。
降り注ぐ弾丸によって、群れを成している数匹の異形は衝撃に耐えることが出来ず、やがてその身体が爆音と共に粉砕されてしまう。
怪人は肉片も残ることはなく、その代わりとして暗闇を灯すような炎が燃え上がっていた。それによって空気の温度が一気に上昇し、火の粉が地面に舞っていく。
燃え盛る炎を怪人達との境界線にするように立つディエンドは、ホルダーから二枚のカードを取り出す。
それは先程の戦いのようにディエンドライバーのエネルギーを用いて、別世界の仮面ライダーを呼び出すライダーカードの一種だった。
ディエンドはカードを拳銃の左脇に差し込みながら、銀色に輝くフォアエンドの名を持つグリップを前方に動かしていく。

『KAMEN RIDE QUETACK』

電子音声が発せられるとの同時に、ディエンドライバーの側面に金色に書かれた文字とクワガタ虫を思わせるようなエンブレムが浮かび上がる。
『MASKED RIDER QUETACK』の文字が記されている一方で、ディエンドはグリップを元の位置に戻す。
そこから瞬時に二枚目のライダーカードを同じ場所に装填し、再び音を立てながら動かした。

『KAMEN RIDE RED DRAKE』

『MASKED RIDER RED RRAKE』と金色に書かれた文字とトンボを連想させるマークが、同じ場所に記される。
人工音声が荒れた大地に響いた瞬間、異形の群れにディエンドライバーの口を突きつけて、ディエンドは引き金を引く。
ディエンドライバーは平面の空間に封じ込められたライダーカードのエネルギーを一瞬で分解し、立体になるよう再構築をする。
その力は光を放つ球体となって銃の筒先から放たれ、瞬時に形を崩壊させた。
虹のように七色の光を持っている人型の像が現れ、異形の間を縫うように素早く駆け巡る。その輝きは、常闇の世界であるアルハザードをほんの僅かだけ照らしていった。
色鮮やかな影は瞬時に重なり合い、ヒヒイロノカネを生み出していく。生成された金属もまた、人の形を取るように変化を果たす。
怪人達の前に姿を現したのは、二人の仮面ライダーだった。
片や、漆黒に煌めくクワガタ虫を思わせる風貌の鎧、四肢を守る銀色のプロテクター、力強く天に伸びた二本の角、エメラルドを思わせるほど緑色の輝きを放つ両眼、両肩に装着された黒い輝きを持つ一組の曲刀、腰に巻かれた鋼鉄のベルト、その中央に付けられた甲虫型の機械。
彼は世界を司る超存在が犯した間違いによって、偶然生まれてしまった仮面ライダーだった。とある謎の男が変身するそのマスクドライダーは、悪食の神の名称を持つ。
しかしそれだけではなく、もう一つの名前があった。その名を仮面ライダーケタック・ライダーフォーム。
もう一方は、ケタックに変身している謎の男が初期に使用していたマスクドライダーだった。
真紅色に輝いている二つの瞳、トンボを思わせる像が彫られた仮面、虫の羽根を思わせる形をした胸板、赤と橙色を基調とした鎧、左手に握る銃、両腕と両膝の位置に装着された装甲、純銀の光を放つベルト。
仮面ライダードレイクに近い外見をしたその仮面ライダーの名は、仮面ライダーレッドドレイク・ライダーフォーム。
二人の仮面ライダーはそれぞれの両眼を闇の中で輝かせると、視線を怪人達に向けながら己の武器を握りしめる。
両肩より己の武器であるケタックダブルカリバーを手に取ったケタックは、両足に力を込めて地面を蹴ると、勢いよく駆けだした。
彼の持つ驚異的な脚力によって、数メートルもの距離は一瞬で埋められていく。一匹のサリスワームの目前まで迫ると、左腕を勢いよく掲げる。
異形の右腕を目掛けて、銅色の輝きを持つマイナスカリバーを振り下ろす。大気と共に濃緑の爪は切り裂かれ、火花が飛び散っていく。
サリスワームは痛みによって体勢を僅かながら崩してしまい、途端に隙が出来た。
それを好機と見たケタックは、右腕に持つプラスカリバーを横一文字に震う。赤い輝きを放つ鋭い刃は、その固い皮膚を容易に傷つける。
続けるようにケタックは両腕を高く上に掲げて、勢いよく振り下ろす。風と共に切り裂かれたサリスワームの皮膚に、それぞれの刀に込められているエネルギーが流れ込む。
二つの違う性質を持つ膨大な粒子状の力は、サリスワームの体内を自由に暴れ回り、体内の組織を次々と破壊していく。
怯むサリスワームを余所に、ケタックは身体の方向を東に向ける。視線の先からは違う個体のサリスワームと、レイドラグーンが群れを成しながら迫っていた。
その様子に気を取られることはせずに、ケタックは両腕の得物を構えながら勢いよく走り出す。
彼は無言のまま、異形の皮膚を標準にしてダブルカリバーを振るい始める。ケタックは最も近い位置にいるレイドラグーンの前に迫ると、左腕を大きく振りかぶっていく。
そこから一撃目を放つと、どんよりとした空気と共に右肩から胸部を切り裂いた。凄まじいほどの火花が血液のように飛び散り、皮膚に電流が走る。
続けざまに身体を方向転換させ、北の方角から迫るもう一匹のサリスワームに振り向く。蛹によく似た外見の異形は左腕から伸びた巨大な爪を振るうが、ケタックは右腕に握るプラスカリバーを素早く振るってそれを弾く。
その衝撃によってサリスワームは蹌踉めいてしまう。体勢を崩したのを好機と見たケタックは、左腕のマイナスカリバーで胸部を横一文字に一閃する。
痛みが全身の神経に駆け巡り、サリスワームが数歩後退ってしまう中、モールイマジンとナナシ連中がそれぞれ一匹ずつ、己の武器を構えながらケタックの背後に迫っていく。
かぎ爪と刀は勢いよく振り下ろされるが、それがケタックに突き刺さることはなかった。
二つの金属が接触しようとした直前、モールイマジンとナナシ連中の胸部に火花が走る。突然の衝撃によって怪物達は身体を痙攣させてしまい、動きを止めてしまう。
それは、異形の群れより少し離れた位置で立っているレッドドレイクの放った弾丸が命中したことで起こった出来事だった。
レッドドレイクはその手に持つ銃の引き金を絞り、更なる弾を撃ち出す。暴風の勢いで放たれるそれは、ケタックに襲いかかろうとする怪物達の皮膚に次々と着弾していく。
その一方で、ケタックは両手で強く刀を握り締めながら、ファイズの世界に存在する人間の成れの果てを目掛けて走り出している。
無機質な灰色に彩られた肉体、鳥類を思わせるような形の頭部、羽根の模様が刻まれている首から巻かれたマント、歪に発達した全身の筋肉、両手から鋭く伸びた鈎爪。
ピジョンオルフェノクとの距離が無くなった途端、ケタックは縦一文字にダブルカリバーを同時に振るう。
闇の中で鋭い輝きを放つ二本の刃は鈍色の肌を容赦なく切り裂き、内部に込められているエネルギーを体内に流し込む。
流れるようにケタックは横に薙ぎ払うように、上半身を狙って双刀を振るう。ピジョンオルフェノクはその衝撃に耐えることが出来ずに、そのまま吹き飛んでいく。
ボールのように乾いた地面を二度、三度とバウンドしながら転がるが、直径一メートル程の巨大な岩に激突したことによってそれは止まる。
距離が離れていくピジョンオルフェノクに目を向けることはせず、ケタックは周りを囲むワームとオルフェノクの群れに視線を移す。
ケタックが二本の得物を振りかぶる中、レッドドレイクは異形の群れを前にしながら銃口を向けていた。
彼が引き金を引くことによって、勢いよく弾丸が放たれていく。瞬いた銃口の先には、キバの世界で人間のライフエナジーを狙っていた魔の一族が立っていた。
辺りの闇に同調するように黒く染まった肉体、鼠を連想させるほど口が突き出している頭部、異常なまでに鋭く尖った十本の指、胸部と両足で色鮮やかに煌めいているステンドグラスを思わせる模様。
ファンガイア族のビーストクラスに属した「黒い死」の真名を持っているラットファンガイアの肉体に、レッドドレイクが放った弾丸が一気に殺到していく。
それは一匹だけでなく、その周りで群れを成していた他のラットファンガイアにも命中していた。
高速の勢いで突き進んでいく銃弾は漆黒の皮膚に到達すると、内部に込められている熱がそれを一瞬で焼いていく。
そこから体内に深々と沈み込むと、身体を構成する骨と肉を次々と破壊し、弾の原料となるエネルギーが体内で暴れ回り、背中から突き出ていった。
ラットファンガイア達の肌には次々とヒビが入り、火花が一気に吹き出していく。次の瞬間、鼓膜に響くような爆音と共にその身体が吹き飛ばされてしまった。
その途端に、荒野を暖めるかのように炎が燃え上がっていたが、辺りに漂う凍てついた大気によってすぐに吹き飛ばされてしまう。
よって火が消えるのにそれほどの時間は必要とせず、跡には黒く焼け焦げた土が残っているだけだった。
レッドドレイクと共に戦っているケタックはプラスカリバーを握る腕を高く掲げ、目前に立つレイドラグーンの右肩を目掛けて振り下ろす。
ヒヒイロノカネによって作られている刃はレイドラグーンの身体に深々と沈み込んでいき、左脇腹まで容赦なく切り裂いていく。
鮮血の如く火花が飛び散る様子に目をくれず、ケタックは瞬時に左側に立つナナシ連中へと振り向いた。
目の前の外道衆は、その手に握る真紅の刃を横一文字に振るうが、ケタックが背後に跳躍することによって空振りに終わってしまう。
地面に両足を付けたケタックは、その瞬間に地面を蹴って空いた距離を詰めていく。
両腕を交差させるように大きく掲げながら駆け抜けていき、目前まで迫るのと同時に勢いよく振り下ろす。冷気が放たれている刃と接触した鎧は、呆気なく切り裂かれてしまう。
無論、その下で守られている皮膚も無事では済まずに深く抉られていった。
それぞれの刀に込められている二つの力はナナシ連中の身体を駆け巡っていき、衝撃に耐えきれなくなった皮膚に亀裂が走る。
全身に電流が迸るのと同時に、ナナシ連中は地面に倒れてしまう。それを合図とするように、これまでケタックダブルカリバーの刃先を浴びた全ての怪人が、その身体を爆発させた。
火炎が燃え盛り始めたその一方で、辺りの暗闇からは新たなる異形が姿を現していく。
土のように血の気を感じさせない色を持つ肉体、異常なまでに発達した全身の筋肉、犀のように力強く尖った二本の角、胸部と両手首に施された金色の装飾、下腹部の位置で輝いている怪物の顔を思わせるような紋章。
それは、クウガの世界に存在する警察官から「未確認生命体第22号」と呼ばれ、大型車に乗る人間を無差別に襲った犀に似たグロンギ、ズ・ザイン・ダ。
闇より現れたザインの存在に気付いたケタックは、双剣を素早く振り下ろす。しかし一組の刃は、交錯させるように組んだ両腕に阻まれてしまい、金属同士が激突するような音と火花が周辺に散るだけで終わってしまう。
ザインは両腕に力を込めて、輝きを放つ得物を強引に振り払った。それによってケタックの体勢は一気に崩れてしまい、後ろに数歩下がるように蹌踉めいてしまう。
その瞬間を好機と見たザインは右手で握り拳を作り、腰を軽く落とす。ストレートの体勢で放たれたパンチは、ケタックの腹部に入り込む。
異常なまでの筋力を持つグロンギの攻撃に耐えることが出来ず、ケタックの身体は地面に吹き飛ばされていった。
一切の潤いが感じられない大地に転がるが、ほんの僅かな回転だけで勢いが止まる。
しかしそれだけで終わることが無く、追撃を加えようとザインは走り出す。離れたケタックとの距離は一瞬で埋まり、発達した左足を振り上げた。
重力の勢いに任せて、ザインは容赦なくそれを振り下ろす。

『FINAL ATTACK RIDE』

ザインの左足がケタックの胸部に接触しようとした瞬間、無機質な音声が鳴り響く。
その瞬間、クワガタを模した黒い戦士の身体は唐突に分解され、七色の粒子へと変化する。
追撃が土に衝撃を与えただけに終わってしまう中、レッドドレイクの身体もケタックと同じように崩壊していく。
それは、ディエンドが必殺技を放つために必要なライダーカードを、ディエンドライバーに差し込んだことによって起こった現象だった。
ケタックとレッドドレイクの身体を生成していた粒子は、ディエンドライバーの銃口に集中する。その直後、ディエンドの目前にはライダーカードに似た形状のエネルギーが並んでいた。
己の武器を握る手を真っ直ぐ伸ばし、異形の群れを標準にしてディエンドは引き金を引く。

『DI、DI、DI DIEND』

エコーの効いた電子音が発せられた途端、目の前で並んでいたエネルギーが大気と共に銃口へ吸収された。
その直後、ディエンドライバーの先端から七色の光線が撃ち出されて、怪人の群れを目掛けて突き進んでいく。
熱線はまず最初に、直線上にいたザインの身体を容赦なく貫き、体内の組織を次々と破壊する。
エネルギーの塊はザインだけでなく、その背後で集まっている多くの怪人も無差別に巻き込んでいった。
ディメンションシュートの標的となった異形達は、膨大な粒子に耐えることが出来ずに呆気なくその身体を粉砕させてしまう。
彼らが立っていた跡には、燃え盛る炎だけが残っていた。
しかしそれでもディエンドは一切気を休めていない。怪人達の数は減ったが、それは氷山の一角に過ぎなかった。
それどころか周囲の闇は更に歪みを増していき、次から次へと醜悪な外見の異形が姿を現している。
まるで怪人の撃破に反応しているかのようだ。一匹倒したところで、またすぐに増えてしまう。

「チッ……キリがないな」

明らかな不快感を示すように舌打ちをしながら、ディエンドは小声を漏らす。
彼の目前では、新たに姿を現した怪人達が殺意の込められた視線を向けていた。
インピジブルのカードを使って逃げる方法もあるだろうが、これだけの相手がいては宝が置いてある場所にも相当いるはず。
かといってここでこのまま戦うなど、出来るわけがない。今は大丈夫だとしても敵の戦力は未知数だ。
ライダーを召還し続けたとしても、いずれ尽きてしまう可能性だってある。
先程姿を現した緑と黒の二色に彩られた仮面ライダーのように、助っ人を期待することは出来ない。

(さて、ここはどうするべきかな)

怪人の群れを仮面の下から見つめながら、ディエンドは内心でそう呟く。
虎穴に入らずんば虎児を得ずという言葉があるが、今回はまさにその通りだろう。
だがここで引き下がるつもりは毛頭無い。宝の入手を邪魔するのなら、排除するまで。
そう思いながら、彼はディエンドライバーを怪人達の群れに向けようとした。
その時だった。

「待て!」

突如として、この戦場に新たな声が響き渡る。
それに続くように、空気を裂くような爆音が数回鳴り始めた。
直後、ディエンドに迫っていた数匹のサリスワームとレイドラグーンの皮膚から火花が飛び散っていく。
あまりにも唐突すぎるその衝撃に反応することが出来ずに、異形の身体は轟音と共に一瞬で吹き飛んでいった。
新たなる炎が燃え始める中、ディエンドは声の発せられた方向に振り向く。その瞬間、仮面の下で海東の表情は驚愕で染まった。
視界の先には自分のよく知っている旅の仲間達と、数多くの世界を巡った際に出会った人物が立っていたからだ。
現れた五人の顔もまた、ディエンドのように驚きで満ちていた。

「やっぱり海東か」
「君たちは……!」

集団の先頭に立つ青年、門矢士を見たディエンドはほんの微かな安堵を感じる。
彼は怪人達を目掛けてディエンドライバーを向けて、引き金を引いて弾丸を放つ。
前方で並ぶナナシ連中とレイドラグーンの群れに着弾し、皮膚が爆ぜる。
衝撃によって怯んだ隙をついて、ディエンドは士達の元に駆け寄った。

「やれやれ、まさか君たちもこの世界に来ているとはね」
「俺は別に来たくて来た訳じゃない」

驚愕から一変、いつも見慣れている不機嫌を現した表情で士は呟く。
その反応を見てディエンドは仮面の下で笑みを浮かべると、彼の周りで立つ者達に目を向ける。
士がクウガの世界で出会った初めての仲間、小野寺ユウスケ。
シンケンジャーの世界で力を合わせて外道衆を相手に戦った青年、志葉丈瑠。
スーパーショッカーとの戦いの後に士が新しく得た仲間である少年、トーマ・アヴェニール。
トーマが仲間に加わってから訪れたプリキュアの世界で出会った少女、桃園ラブ。
人物の確認を終えるのと同時に、ディエンドは怪人達の方に振り向きながら引き金を引く。
発射された弾が高速の勢いで異形の巨躯を貫き、ふらふらと蹌踉めかせる。
その様子に目を向けることはせずに、ディエンドは再度口を開いた。

「ユウスケに少年くん、それにプリキュアの少女くんやシンケンジャーの世界の殿様までいるとは」
「何だ、文句でもあるのか?」
「別に? 豪華な顔ぶれと思っただけさ。それに――」

士の言葉に気を止めず、ディエンドは踵を返す。
彼の視線の先では、未だに三桁を超えると思われる怪人達が群れを作りながら迫っていた。
その中には、先程戦っていた時には見られなかった者も存在する。

「あいつらを相手にするのもうんざりしてた所だし、ちょうど良いさ」
「そうかよ」

ディエンドは軽口を叩くものの、士はそれをたった一言で返すだった。
彼の言うことに対していちいち真面目に答えても、ただ疲れるだけと士は知っているからだ。
そんな彼の横に並ぶように、丈瑠もまた前に現れる。
彼の鋭い瞳は、かつて幾度となく戦ってきたアヤカシを見据えていた。

「まさか本当に、こんな所にまで外道衆がいるとは……」
「恐らくこの世界を覆っている闇が、アヤカシどころかそれ以外の怪物どもに命を与えているんだろう」
「成る程な」

暗闇より次々と姿を現すナナシ連中を見ながら、丈瑠は士の言葉をあっさりと受け止める。
あまりにも突拍子の無い理屈だったが、今こうして目の前で起こっているのだから認めざるを得なかった。
今やるべき事は原因の究明ではなく、目の前の敵達を打ち倒すことだ。
こんな連中を放置していては、直ぐさま違う世界に危害が及ぶに決まっている。
丈瑠は右手を懐に入れ、赤と黒に彩られた携帯電話を思わせる機械、ショドウフォンを取り出した。
二つ折りになっていたそれを大きく広げて、左側を大きく回転させて反対側に接続させる。
その動作によって、ショドウフォンの先端からは筆先が飛び出した。
その直後、士と丈瑠とディエンドの後ろからは、残るトーマとラブとユウスケの三人も現れる。
彼らもまた、このアルハザードに潜む怪物達に立ち向かうため、それぞれの構えを取った。
トーマの左手には、かつてリリィとの出会いを果たした際に手に入れた、銀色の輝きを放つ銃剣が握られている。
リボルバー式拳銃を彷彿とさせる銃身、銃身下に装着された鋭利なサバイバルナイフ、側面に刻まれている「996」と「React STROSEK」の刻印。
ECディバイダーの名を持つ武器が闇の中で光る一方で、ラブは腰に下げたポーチから自らの変身アイテムを取り出していた。
鮮やかな桃色に彩色された携帯電話を思わせる形状、中心部に大きく備え付けられた画面、その下に模様として付けられた四つ葉のクローバー。
それは元々は普通の携帯電話だったが、プリキュアの力の源である妖精、ピックルンが宿ったことによって現在の形へと変えていったのだ。
ラブは右手にリンクルンを納めると、その反対側の手で力を解放するための鍵、クローバーキーを取る。
残るユウスケは自らの両手を腹部に翳し、意識を集中させていた。
全身に流れる血液の行く先と、駆け巡る神経の電子信号を全て、そこに流し込むように。
その瞬間、彼の腹部を位置する空間に金属が生成される。
一瞬の内にそれは量を増していき、ベルトのようにユウスケの腰に巻き付いていく。
銀色の輝きを放つ金属、中心部に埋め込まれた炎のように輝く霊石アマダム、その周辺とベルトの両脇に書かれた古代リント文字、アマダムから横一文字の形に裏側まで並ぶ装飾。
アークルと呼ばれるベルトが姿を現した途端、心臓の鼓動と血液の流れが一気に速くなり、全身の熱が上昇していくのを彼は感じる。
まるで、暴力を振るう怪人達から人々を守りたいという、ユウスケの行動原理に答えるかのようだった。
彼は左手で握り拳を作り、腕をアークルの側面に添えるように曲げる。そしてもう片方の腕を、左の方向を目掛けて思いっきり伸ばす。
そしてここにいる者達の動作に呼応するように、士は白銀の変身バックルを手に取る。
その中央に埋め込まれた宝石は、真紅に輝いていた。
ディケイドライバーを腹に当てると、右から左脇へとベルトが伸びていき、士の腰に巻き付いていく。
完全に絡んだ途端、マゼンタと黒と銀の三色に彩られ、ディケイドの紋章が描かれた本型の箱が左脇に出現した。
両サイドのサイドハンドルに指をかけて、左右に思いっきり引っ張る。それによって、ディケイドライバーのバックルが大きく九十度に回転した。
それを終えると、現れたライドブッカーの蓋を横に開き、内部の左側に納められたライダーカードを一枚だけ取り出す。
その表面には、ディケイドの顔が描かれていた。
士はライダーカードを裏返しながら、怪人達に見せつけるように右手を翳す。
彼の瞳は、長きに渡る旅で得た仲間達と共に、目の前で群がる邪悪なる存在達を睨み付けていた。

「こんな連中を他の世界に出すわけにはいかないからな」

やがて士は口を開く。
ディケイドの紋章が描かれたライダーカードの裏側を、己の存在を宣言するかのように向ける。
暗黒の闇に包まれた世界であるこのアルハザードで、相対する二つの陣営が互いに睨み合い始めた。
片や、人々の希望を踏み躙ろうとする醜悪な怪物達。
片や、人々の希望を救うために戦う戦士達。
数では怪人達に圧倒的な程有利に傾いているが、戦士達に退くという選択肢は存在しなかった。

「お前達、行くぞ!」

空気が圧迫するほど重さを増し、辺りの気配が鋭さを増していく。
そんな雰囲気に飲み込まれないようにする為か、士は激越したような声で叫ぶ。
その一言に感銘を受けたかのように、彼の周りに立つ者達は瞬時にそれに答えた。

「分かった!」

ユウスケは士に負けないくらいに、力強い言葉を出す。

「そうするよ!」

ディエンドの仮面の下で、海東は軽い笑みを浮かべながら呟く。

「ああ!」

丈瑠は短く、それでいて気強い返事を返す。

「はい!」

ラブはリンクルンとクローバーキーを持つ両手の力を更に込めながら、とても大きい真っ直ぐな声で答える。

「分かりました……士さん!」

そして最後に、トーマが腹の底から振り絞るかのように口を開く。
この場に立つ者達は皆、それぞれ違う世界からやって来た。
されど、彼らが抱える志は同じだった。
トーマの言葉を合図とするように、彼らは闘志を漲らせていく。
それが決戦の幕開けを知らせるゴングとなった。

「変身!」
『KAMEN RIDE』

士は大きな声で、今まで幾度となく口にした言葉を吼える。
慣れた単語と同時に、ライダーカードをディケイドライバーの上部に挿入した。
それに反応するように甲高い音声が鳴り響くと、ベルトの中央には『KAMEN RIDE』と赤く書かれた文字が浮かんでいく。
そのまま両手で再びサイドハンドルに触れて、強く押し込んだ。

『DECADE』

先程と似たようなトーンの音声がディケイドライバーから発せられる。
それと同時にバックルの両脇にそれぞれ三つずつ宿るシックスエレメントが光を放ち、ライダーカードに封じられたエネルギーが解放されていく。
その力はディケイドの紋章を形作り、ベルトの中央に浮かび上がる。
直後、これまで訪れた世界に存在する九人の仮面ライダーを象徴するエンブレムが、士の周辺に現れた。
そして、ディケイドライバーの力によって作られたマークの位置を中心とするように、透き通るような九つの残像が、人型のように生成される。
幻に似たそれらの物体は士の全身を覆い尽くすと、一瞬の内に黒い鎧へと形を変えていった。
刹那、ディケイドライバーの宝石から赤い光を纏う七本のプレートが現れ、緑色の瞳が輝くマスクへと装着されていく。
すると無機質な鎧にはまるで命が吹き込まれるかのように、鮮やかなマゼンタが彩られていき、額と双眼の光が増す。
それが、創世と破壊の使者の登場を示す合図であった。
マゼンタと黒を基調に彩られた鎧、七つのプレートが突き刺さった仮面、エメラルドグリーンの光輝を持つ両眼、身体の中央に付けられた数字の十を思わせる白い縁取りの黒い線、両膝と両太股に微かに塗られた白の色。
現れた戦士は世界の破壊者と呼ばれる、数多の世界を救う使命を持った通りすがりの仮面ライダー。
仮面ライダーディケイドの名を持つ戦士へと、門矢士は姿を変えていった。

「変身っ!」

構えを取ったユウスケは、士の言った言葉を叫びながら伸ばした右腕を動かしていく。
彼の心臓の鼓動に合わせて、ゆっくりと平行に右側へ。
ユウスケが右手を左腕に押しつけると、アマダムの赤い輝きが闇の中でより一層強くなる。
すると、アークルからユウスケの体内に張り巡らさせた神経に力が流れ込み、彼の姿を一気に変えていく。
ユウスケが両手を大きく開くと、その皮膚が黒に染まる。
その途端、たった一つの色しか存在しない全身に、次々と装甲が生成された。
胸部、両肩、両腕、両膝、両手首。
赤い堅牢な鎧が身体を包んだ途端に、頭部も一気に形を変貌していく。
鼻筋から額にかけて二本の角が大きく伸びて、瞳は大きさを増しながら炎の如く赤に彩られる。
そして、彼の口は硬度を増すのと同時に、銀色の輝きを放ち始めた。
それを合図とするように、ユウスケの体に起こっている変化がようやく終わる。
クワガタ虫を彷彿させるように凛々しく突き出した金の二本角、鎖骨と腹部の部分に古代文字が刻まれた赤と金を基調とした鎧、両手首に巻かれた黄金のブレスレット、同じ輝きを放つアンクレット、それらに守られた漆黒の皮膚。
彼の外見は人のそれではなくなり、自身が生まれた世界を守る仮面ライダーへと姿を変えた。
人々から「未確認生命体第4号」と呼ばれた彼は、超古代民族リントがグロンギに立ち向かうために生み出した戦士。
クウガの世界に存在するとある遺跡には、古代の戦いに関する碑文が存在し、それには多くの伝説が残されていた。
今のユウスケは『邪悪なる者あらば、希望の霊石を身に付け、炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり』の一節が示す、炎を司る戦士。赤のクウガ。
マイティフォームの名を持つ仮面ライダークウガの基本形態へと、小野寺ユウスケは変身していた。

「ショドウフォン!」

丈瑠は異形の存在を睨み付けながら、ショドウフォンを持つ右手を真っ直ぐに伸ばす。
彼は書かれた文字を形にさせる術、モヂカラを使うために意識を集中させる。
古来より外道衆と戦ってきた人間だけが扱うことを許される力を発揮するため、彼は大きく叫んだ。

「一筆奏上!」

言葉と同時に、ショドウフォンの筆先で「火」の文字を書くように腕を動かす。
燃え上がる火炎のように赤いモヂカラが目前で形になると、丈瑠はかけ声と共に腕を大きく振るう。
ショドウフォンの脇に付けられたボタンを押すと、尺八の音色のように清らかで美しい音が響き渡る。
丈瑠が大きく腕を広げると、その身体がモヂカラによって作られた戦うための衣に包まれていき、左腰に炎と同時に一本の刀が生成されていく。
最後に、その顔もモヂカラを素材としたマスクに覆われた。
彼はベルトのバックルを横に開いて、その中に納められている黒い煌めきを持つ秘伝ディスクを取り出し、シンケンマルの名が付けられた刀に取り付ける。
外道衆と戦う侍と呼ばれる存在へと姿を変えた途端、両手で刀を取る。
そして両膝を軽く落としながら、静かに名乗った。

「シンケンレッド……」

言葉と同時に足を伸ばしながら、シンケンマルを右手だけで持ち、峰の部分を肩に乗せる。
「火」と書かれた文字が大きく刻まれたマスク、炎のような赤と黒の二色に彩られた戦闘スーツ、和服の襟を思わせる模様、両手を守る白い手袋、左胸に彫られた金色に輝く志葉家の紋章、二足の赤い足袋。
彼はかつてシンケンジャーと呼ばれた天下御免の侍戦隊を率いて、外道衆から人々の平穏な生活を守り抜いた、志葉家十九代目当主の座を与えられた侍。
その名をシンケンレッド。それが今の志葉丈瑠だった。

「志葉 丈瑠!」

ラブは右手に持つクローバーキーを、リンクルンの上部にある差し込み口に挿入する。
鍵を開けるように右に捻ると、その表面が横に開いていく。
リンクルンの中央に埋め込まれている桃色のローラーを、ラブは右手の人差し指で勢いよく回転させる。
それによって、リンクルンの画面からは眩いほどの光が発せられていき、ラブの全身を包み込んだ。
その瞬間、彼女の身体は地面より数センチほど浮かんでいった。

「チェインジッ! プリキュア!」

高らかとした声で、ラブは叫ぶ。
その言葉が示すのは、これまで数え切れないほど口にした伝説の戦士になるための合図だった。
彼女の声に反応するように、二つの髪留めが消滅し、纏まっていたツインテールが解けてしまう。
風によって頭髪が棚引いた途端、ラブは勢いよく両足を地面に付けた。

「ビィィーート! アーーーップ!」

張り上げたような声を出しながら、彼女は両腕を天に高く掲げる。
左足を軸にして、独楽のように身体を大きく回す。数回だけ旋回させると、右足でその勢いを止めた。
体勢を低くしながら前に向けて走り出し、数歩だけ進んだ直後に両足に力を込めて、高く跳躍する。
普段のラブでは到底出来ない行為だが、リンクルンに込められている力が全身に流れたことによって、運動能力を爆発的に上昇させていた。
故に、この程度のことは造作もない。
段々と跳ぶ距離を伸ばしていく中、彼女の身体を覆う光は次々と形を変えていく。
右胸の位置には、四つ葉のクローバーを象ったようなプリキュアの紋章が生成される。
そこには桃、青、黄、赤の四色が一枚ずつに彩られていた。
解けていた髪はボリュームを増していき、より明るい色に変色を果たす。
腰に届くほど長くなったのと同時に、ツインテールの形を作るように髪は二つに結ばれる。
瞬間、彼女の身体を纏っていた煌めく光は霧散され、その下から新たな服が顕在した。
濃淡なピンクと純白の二つを基調とした彩色、脇腹に飾られたリボン、スカート下に幾重にも重ねられたフリルのペチコート。
四散した光は露わになった四肢に集中していき、右足から順番に包んでいく。
赤と桃の二色を基本とし、微かだけ上部に白が塗られたブーツが、両足に出現する。
続くように光は手首の位置に集中すると、真紅のリボンが結ばれたリストバンドへと形を変えた。
右の横腹にはリンクルンが収納されている桃色のケースが現れ、それを結ぶチェーンが腰に巻かれる。
光を素材とした赤いチョーカーが首に巻かれ、続くように耳飾りが両耳に作られていく。
そして、最後の仕上げとしてハートの形をした二つの髪飾りが、ツインテールを縛り付けるように頭部に現れた。
一瞬にも満たない全ての出来事が、終わりを告げる。
変身を終えた彼女は、両足の踵でリズムの良い音を立てながら地面に着地した。
ブーツの裏が大地に付いたのを感じるのと同時に、体の奥底から力が溢れ出てくるのを感じる。
この力は、みんなの毎日を守るために必要な大切な力。
みんなを笑顔でいっぱいにするために必要な大切な力。
そして、みんなが本気の幸せをゲットできるようにするために必要な大切な力。

「ピンクのハートは愛あるしるし!」

心の中から勇気が湧き上がっていくのと同時に、彼女はハートの形を作るように八本の指を絡めて、小指だけを立てる。
力強さと優雅さを兼ね揃えた声で、堂々と名乗りを上げながら両手を胸の前に翳す。
すぐにその形を崩すと、手の平同士を大きな音を立てながら合わせるように叩く。
彼女の言葉が示す意味は、伝説の戦士プリキュアがこのアルハザードに現れたことの証明だった。
妖精の国スウィーツ王国には、遥か昔より『世界に危機がせまりしとき、プリキュアの森で祈りささげば、伝説の戦士よみがえるけり』という、一つの伝説が残されている。
今の彼女は、それに記された伝説の戦士の一人だった。
華やかなレモン色に輝くツインテール、それを結ぶ真紅に彩られたハート型の髪止め、同じ色と形を持つ二つのイヤリング、右胸の位置に四色に塗られたクローバー型のワッペンがあしらわれたコスチューム、細い手足に作られたリストバンドとロングブーツ。
それは一見すると、戦う為の衣装には見えないかもしれない。しかし彼女は今まで何度もこれを身に纏い、平和の為に戦い抜いたのだ。

「もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」

両腕を左右に動かしながら左腕を真っ直ぐに伸ばし、右腕を大きく曲げる。
かつて、全てのパラレルワールドの支配を企んだ管理国家ラビリンスは、とある世界に存在する四ツ葉町に魔の手を伸ばそうとした。
その脅威から守るために、ラブは親友たちと共にプリキュアとなり、戦うことを決意する。
愛の力を宿らせるピックルン、ピルンによって目覚めたそのプリキュアの名は、キュアピーチ。
人々の『愛』を守るプリキュアへと、桃園ラブは覚醒していた。

「レッツ、プリキュア!」

キュアピーチは左腕を上に伸ばしながら、力の込められた言葉を口にする。
そのまま上げた腕を下げて、右腕を大きく掲げた。
全員が戦うために変身する一方で、トーマの握るECディバイダーからは力が流れ込み、彼の全身を駆け巡っていく。
右手の腕輪が光を放った直後、トーマの衣服が大きく形を変えていき、瞳と髪が急激に変色していた。
一秒にも満たない時間が経過すると、変化は唐突に終わる。
銀色に彩られた髪、首に巻かれた風に棚引く布、両肩と腹部を露出させた黒を基調とした服、全身に刻まれた藍色の入れ墨、両腕と腰に装着された装甲。
それは魔導殺しの別名を持つ、ディバイダーの力を解放した結果だった。
色が変わった両眼を怪物達に向けるトーマ・アヴェニールは、他の者達と同じように構えを取る。
ここにようやく、闇に包まれたアルハザードから世界に牙を向けようとする脅威に、抗おうとする者達が集結した。
彼らは皆、元々は平行して存在する別々の世界に存在していた住民。


全てを破壊し、全てを繋ぐ使命を持つ記憶を失った青年、門矢士が変身する仮面ライダーディケイド。
燃え上がる炎のように赤く染まった鎧に身を包み、グロンギと戦ったリントの勇者、小野寺ユウスケが変身する仮面ライダークウガ。
それぞれの世界に存在する価値のある財宝を求めて、士達の旅に同行する大怪盗、海東大樹が変身する仮面ライダーディエンド。
古来より三途の川から人間を苦しめる怪人、外道衆と戦う侍戦隊シンケンジャーを率いる志葉家の当主、志葉丈瑠が変身するシンケンレッド。
全てのパラレルワールドの支配を企んだ管理国家ラビリンスから、人々の自由と幸せを守るために戦った戦士プリキュアに選ばれた少女、桃園ラブが変身するキュアピーチ。
そして、多くの世界を渡る旅をしている士との出会いを果たし、彼の新たなる仲間となった少年、トーマ・アヴェニール。


異形の存在達は尚も、彼らを目掛けて殺意の視線を向けている。
けれどもそれに押される者は誰一人としていなかった。
ディケイドは左脇腹に下げられているライドブッカーを左手で握り、取っ手の部分を垂直に曲げる。
それによって反対側からは、勢いよく鋭利な刃が飛び出していく。
戦いの準備は完了したと、一列に並ぶ彼らは皆、無言で察した。
その直後、天空より無数の咆吼が唐突に聞こえる。
獰猛な野獣を思わせるような不気味な声に反応し、六人は上を見上げた。
見ると、雷鳴が轟き続けている黒雲の中から出てくるように、空の彼方からは新たなる怪物が姿を現していたのだ。
数えるのも億劫になるほど群れている異形達が、このアルハザードに現れた自分達を獲物と定めていることを、瞬時に察することが出来た。
翼竜を連想させるような二メートルに達する灰色の体躯、腹部に彩られたまだら模様、クジャクチョウのそれに似た羽根の模様、腹部から伸びた金色に輝く二本の爪。
それはとある世界に存在する超古代都市ルルイエに封印された、地を焼き払う悪しき翼と賞された怪獣の同族。
超古代怨霊翼獣シビトゾイガーの群れが鋭い牙を向けている一方で、イナゴを思わせるような外見を持つ数え切れないほどの怪獣達がいた。
かつて地球の光を覆い尽くし、根源的破滅招来体の手先として、ウルトラマンガイアとウルトラマンアグルを苦しめたことがあるその怪物の名は、破滅魔虫ドビシ。
シビトゾイガーとドビシが無数の陣形を組んでいる一方で、地を群れているレイドラグーン達の胸部が盛り上がり、縦に裂ける。
その直後、まるで昆虫が脱皮するかのように新たなる異形の怪物が飛び出してきた。
それはレイドラグーンに酷似していて、トンボを思わせるような姿だった。
両腕に付いた鋭い爪、背中から左右に生えた一対の羽、後方に向かって伸びた六脚虫の物に似た腹部。
ハイドラグーンの名が与えられたミラーモンスター達もまた、人間達を標的にして空中を飛んだ。
その直後、ワームを筆頭としたアルハザードの怪物達を目掛けて、六人は地面を蹴って走り出した。

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最終更新:2010年05月29日 22:57