「天体戦士リリカルサンレッド短編集」

 『果て無き進化』

 「いったいさっきのは何だったんだ…」

 XL級次元航行艦『クラウディア』艦長、クロノ・ハラオウン提督は艦内にある執務室の椅子に腰掛け先程の出来事を思い返す。

 クラウディアで航行中、突如転移して現れた小型のアンノウン。高速で移動していた為に姿を捉えることは出来なかったソレは最初、「新型のガジェットか?」と思ったがAMF反応は無かった。
そしてソレはクラウディアに向けて二発のミサイルを放った。センサーにも反応せずに突然現れ、高速で放たれるミサイル。
その電撃的な襲撃にクロノやクラウディアのクルーは迎撃が追い付かない。誰もが「やられる」と覚悟したその時、ミサイルの初弾がクラウディアの前で爆発、空間に穴を開けたのだ。その開いた穴に次弾、そしてアンノウン自身も吸い込まれるように入り反応は途絶えた。

 敵対組織による挑発行為、はたまた単なる愉快犯か?憶測が脳内で駆け巡るが答えが見出だせない。唯一の手掛かりは、穴に入る直前に一瞬見えた『緑色の鳥』の姿だけだった…

 ~所変わりミッドチルダ支部(仮)~

 「あれ?Pちゃん、このミサイルいつもの(核)と違うね」

 「んっとねぇねこ君、これ『ESミサイル』って言うんだって!!僕もどんなのかは難しいからわかんないや…」



 『スカ家の掟』

 「ウーノ姉ぇ買ってきたッスよぉ~」
 「ありがとうウェンディ」

 お使いに行ってきたウェンディ、ウーノは袋を受け取り夕飯の支度を始める。

 「あら?…ちょっとウェンディ!!ウチでお酢と言ったら『米酢』じゃなくて『穀物酢』よ!?」



 『スカ家の掟2』

 「ウーノ姉ぇ買ってきたッスよぉ~」
 「ありがとうウェンディ。袋はそこに置いてちょうだい」

 またお使いに行ってきたウェンディ、ウーノは袋を開けて夕飯の支度を始める。

 「あら?…ちょっとウェンディ!!ウチで味醂と言ったら『味醂風味』よ!?」


 『セインとノーヴェ』

 「ねぇノーヴェ~」
 「何だよセイン?」

 部屋でプロレス雑誌を読んでいた所を話しかけられたノーヴェは面倒臭そうにセインの方を向く。

 「J○のホームにある自販機のゴミ箱でさぁ~一つの箱にカン、ビン、ペットボトルって捨てる穴が別れてる白いのがあるじゃん?でもアレって中は一つの袋になってるから結局は分別出来てないんじゃないかなぁ~って思ってね。」
 「……知るかよ。業者が分別してんじゃねーのか?」
 「いや、それなら何故わざわざ3つの穴に分けるのか…」

 ノーヴェはセインの疑問を聞き流し、食堂の方へと移動した。


 『回答』

 「やっぱりゴミ袋かな」
 暗闇の中で椅子に腰かけているヴァンプ将軍は、唯一の光源である真上からのライトに照らされながらある質問に答えている。

 「ちゃんと分別をしていなかったり、専用のゴミ袋に名前シールを貼っておかないと業者の人が回収してくれないのは当然だと思うの。だって環境のことを考えたらそれぐらい厳しくしていかないと…袋が10枚で800円ってちょっと割高けど決められたことだしね。
 でも…………そのゴミ袋が10リットルのしかないのはどうかと思うの、私!!一人暮らしだったら問題ないけど二人以上の家庭だと小さいし、本当に環境の事を考えたらやっぱり大きい方のが袋も使いすぎなくて良いと思うの、私!!」

 (もっと他にもあるだろうが、何でこんなにゴミ袋にこだわんだよ…)
 ヴィータの出した「ミッドに来て何か不満な所ってあるか?」と言う質問にたいして熱弁するヴァンプであった。




 『ミッドを貫く伝説の杖』

 「フロシャイムの怪人たちよ、時は満ちた!!」

 ミッドチルダ山岳部にそびえる巨大な塔をバックに、ヴァンプ将軍は声高らかに言う。その姿は満月に照らされ、普段よりも影や威厳が増していた。

 「この塔より発せられる電波でミッドチルダ全域のメディアを掌握し、『フロシャイムが支配者』というテロップを瞬間的に流す。それを繰り返せばサブリミナル効果により、人間共は無意識にフロシャイムの支配下となるのだ…さぁ、今宵我らは「そんなことさせへんよ!!」む、貴様は!?」
 ヴァンプの前口上を遮るように響く凛とした声、その先には満月をバックにフロシャイムと対峙する5つの影があった。

 「夜天の王、はやて!!」
 「烈火の将、シグナム!!」
 「鉄槌の騎士、ヴィータ!!」
 「湖の騎士、シャマル!!」
 「盾の守護獣、ザフィイィラァァッ!!」

 「空を覆うは白き雲…」

 「「「「「蒼・天・戦・隊!!ヴォルケンジャーッ!!」」」」」

 「フロシャイム!!今日こそ皆まとめてお縄になりぃやっ!!」

 はやて、シグナム、ヴィータ、シャマル、ザフィーラの五人が騎士甲冑を身に纏い、背後にある五色の爆発と同時に名乗りとポーズを取る。

 「えぇい忌々しいヴォルケンジャーめ…怪人たちよ、今日こそ奴らの息の根を止めるのだっ!!」
 対するヴァンプは号令を送りそれに呼応するように怪人達が飛びかかる。だが彼女達ヴォルケンジャーの対応は速かった。

 「飛竜一閃!!」
 「ぶっ潰せ、アイゼン!!」
 「旅の鏡発動…リンカーコアをぶち撒けろっ!!」
 「縛れ、鋼の軛!!」

 レヴァンティンが
 グラーフアイゼンが
 シャマルの腕が
 光る柱が

 はやてを守る様に斬り、潰し、穿ち、貫き怪人たちを蹴散らす。そして空いた場所をはやては突破し塔との距離を詰める。

 「一気にカタをつけるで…響け、終焉の」
 「そこまでです」

 はやてが塔を破壊せんとした瞬間、塔のそばにある謎の大型装置の影から男性の声が響く。すると発動中だった魔法陣、飛行魔法、魔力球が力を失い、さらにはデバイスから火花が散り出した。

 「なっ!?レヴァンティン!!」
 「どうしたんだよアイゼン!?」
 「力が、俺の魔力が砕かれていく…」
 「AMF?そんな…」
 「いや、それだけや無い。これは…」

 「いやぁ何とか範囲内に入ってくれましたね」


 ヴォルケンジャー達が声に反応し大型装置の影から現れた人物、それは何とも場違いなごく普通の青年だった。
 ベージュのチノパンに黒いネクタイをした水色の半袖Yシャツ、その上に白い袖無しのサマーセーターと言った清潔感のある服装。そしてその服装と違わない、爽やかな表情で彼は右手に持っている何かのスイッチと傍らにある機械を見せた。

 「これは高密度AMF発生装置ですけどちょっと改良しましてね…強力なEMP(電磁パルス)発生機能も追加したんです。魔法と言えどデバイスも結局は精密機器ですからね…
 代わりに効果範囲が半径20m以下となってしまい、貴方達が全員範囲内に入ってくれるかどうかは賭けでしたが…効果はご覧の通りです」

 「フッフッフッ、その冴え渡る知性…流石はフロシャイムが誇る頭脳よ」
 「いえ、そんな…これは既存の技術を組み合わせただけですし。僕は只『こういう手もあるんじゃないか』って考えただけで…
 さっきも言った様に半分賭けみたいな物でしたから、確実とは言えませんよ」

 「そう謙遜するでない。現に結果は出ている…その型に捕らわれぬ発想こそ誉れと言えよう。
 さて、待たせたなヴォルケンジャーよ…今のお前たちは宛ら翼をもがれた鳥、その爪や嘴で抗うことはありとて最早恐るるに足らず。
 魔導とはいずれ滅びるが運め、それは地球の歴史が証明している…そして今宵こそ、お前たちの滅びる時だっ!!」

 まるで研究発表を行う学生と教授の様なやりとりの後、ヴォルケンジャーに向き直ったヴァンプは槍を掲げ宣告をする。残りの戦闘員と怪人達が全面に立ちはだかる中、はやては杖を強く握り直し怪人たちを見据えた。
 魔法が使えない?ベルカの騎士は本来近接特化型だ。デバイスをシグナムは剣に、ヴィータは鎚に、シャマルだって鋼糸として、ザフィーラに至っては元から徒手空拳で戦える。そして自分とてシュベルトクロイツを槍や棒として振るえば戦えなくもない。
 だが正直な所あのAMFは厄介だ。敵の言う通り範囲こそ狭いものの、身体強化は使えずデバイスもショートしてバリアジャケットが通常の衣服程度の強度にまで阻害されている。唯一、範囲内で使える可能性があるとすれば炎や氷の様な発生効果だろうが、術者本人がAMFの範囲内にいれば結局は意味を為さない。

 だが諦めるつもりは微塵も無い。自分達はミッドチルダの守護を担う魔導士だ。ただいつもより骨が折れる戦いである。たったそれだけ、そして先陣を斬るのはリーダーである自分だ。はやて達は覚悟を決め、怪人達へ進もうとする。だがそこで上空から二つの声が聞こえた。

 「ちょっと待つです!!」
 「ったく私らが来るまで待てなかったのかよ?ま、今回はそれが良かったかもしれないけどな」
 「ム、誰だ!?」

 まだ幼さの残る涼やかな声と活発さを感じる声、その声のする上空へとヴァンプは顔を上げるがそこにはいない。ただ満月が宵闇の空で輝いているのみ。
 だがはやては気づいていた。あの声を聞き違える筈は無い。それに目を凝らせば見えてくるのだ、満月をバックに空に浮かぶ小さな家族の姿が…

 「銀の翼に祝福乗せて」
 「灯せ烈火の焔火を」
 「祝福の風、リィンフォース・ツヴァイ!!」
 「烈火の剣精、アギト!!」

 「「ご期待通りにただいま参上!!」」

 「早速だけど一気に行くぜ、まずはあの機械だ。タイミング合わせろよバッテンチビ!」
 「むぅ~だからその呼び方はやめて下さいと言ってるですよ。それにタイミングの話はこっちが言いたいくらいです!!」

 二人は喧嘩の様な掛け合いをしながらも腰を低くして構えを取る。するとリィンの右手に冷気が、アギトの左手からは炎が噴き出す。

 「行くですよ…吹けよ氷雪!!」
 「燃えろ灼熱!!」

 「「バアァァニングブリザァァドッ!!」」


 二人の手から放たれた氷と炎が龍を形作り螺旋を描くように直進する。そして線上にあったAMF兼EMP発生装置をその爆発ごと二つの鰓が飲み込んだ。

 「しまった!?おのれヴォルケンジャーの新たなる戦士め…」
 「よし、今がチャンスやザフィーラ!」
 「承知っ!!」

 ヴァンプが忌々しげに見る中、はやては勝機と見てザフィーラに合図を出す。ザフィーラははやての合図に呼応し、青い光に包まれながら上空へと飛び上がる。そして光が弾けた後に現れたのは普段の青狼とは異なる、メタリックなコバルトブルーとホワイトて彩られた機械の体を持つ鋼の獣がいた。

 「システム、チエェンジッ!!」
 声を聞けばザフィーラだとわかる、鋼の獣はそのボディーを犬の伏せに近い形にして、巨大な砲へと変形する。
 尾は下部へ向けてスライドし、後足は折り畳まれそれぞれの前足からは砲身がせりだす、口は何かをくわえる様に開かれ凹の形となり背面と臀部、腹部にはマウントラッチが展開された。

 「グラーフアイゼン!!」
 「レヴァンティン!!」
 「クラールヴィント!!」

 ヴィータ、シグナム、シャマルの三人はEMPの影響から再起動したデバイスを上空にいる巨砲となったザフィーラへと投げる。するとギガントフォルムとなったグラーフアイゼンが柄部分を砲身にして腹部に、ボーゲンフォルムとなったレヴァンティンがくわえられる様に口部へ、リンゲフォルムとなり更に1つに纏まったクラールヴィントがターゲットサイトとして臀部にマウントされる。

 「とぉっ!シュベルトクロイツ!!」
 次にはやてが跳躍し、シュベルトクロイツを背面に添える。そして尾が変形した巨砲のグリップを掴みながら地上に降り真下をヴィータが、右側をシグナムが、左側をシャマルが支えて構えた。
 「「これで仕上げです(だ)!!」」
 最後にリィンとアギトが光に包まれ水色と赤色の宝玉に変化し、アイゼンの鎚部分に現れた穴へと装填される。
 「魔力玉、装填。完成…ヴォルケニックキャノン」
 はやて達はヴォルケニックキャノンの照準を塔と怪人たちに絞り引き金を引く。

 「「「「「ヴォルケニックキャノン、ファイヤーッ!!(テェオアァーッ!!)」」」」」

 全員の力を合わせたヴォルケニックキャノンは氷と炎、そして紫、紅、緑、白の魔力を放出させながら、ヴァンプを含める怪人と塔の全てをその奔流で吹き飛ばした。

 「終わったんやね…」
 崖の上に佇む七人は夜が明け白み始めた空を眺める。今回は辛くも勝利を納め、遂にヴァンプ将軍を倒した。
 だが敵は更なる策を用いて立ちはだかる。ヴァンプ将軍を倒せどまだ知将ヘンゲル将軍は健在だ。
 そしてまだ見ぬフロシャイムの首領、キングフロシャイムの正体とは?
 彼女達の戦いはまだ続くのだ。頑張れヴォルケンジャー、次元世界の未来は君達の杖にかかっているのだ!!

 『蒼天戦隊ヴォルケンジャー~ミッドを貫く伝説の杖~』
           <続く>





 「っと言った感じで今度の対決、どうかお願いします。」
 六課の応接室にて説明が終わったヴァンプ将軍ははやてたちの前で深々と頭を下げる。

 「いやいやいや、色々と無理があるやろコレ」
 「そうですよ、それに私ぶち撒けるだなんて物騒なこと…」

 「そこをなんとか!!この通りタイザくんもヤル気満々ですので…」
 「ン~ヨォユゥヨォユウ」
 「いや、そんな菓子溢しながらサムズアップされてもよ…しかもこいつさっき出ていなかったろ?
 だいたい菓子折り持って頼み込んでも無理なもんは無理なんだよ。とくにザフィーラ何か物理的に…なぁ、お前からも何か言ってやれよ」

 ジト目でタイザに突っ込むヴィータはヴァンプ達が持ってきたミッドチルダ地上本部名物、『レジちゃん饅頭』の箱を玩びながらザフィーラに意見を求める。
 するとはやての足下で獣形態のまま、ずっと黙していたザフィーラはいつもと変わらぬ落ち着いた様子で答えた。

 「…………主、今度シャーリーと相談してみます」



 『天体戦士リリカルサンレッド』この物語はミッドチルダにて繰り広げられる善と悪の壮絶なる闘いの物語である―――


        続く


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最終更新:2010年06月14日 13:31