幕末輪廻-人斬り抜刀斎と呼ばれた男
「こちらフェイト・T・ハラウオン執務官、ロストロギアの回収完了。これより帰還します」
とある時空管理外世界でロストロギアを回収したフェイトは本局にそう連絡を入れた。
このまま管理局に戻れば任務完了、彼女の帰りを待っている人の元に返るだけ。
今日もそんないつもの日常で終わる・・・筈だった。
「それにしてもこのロストロギア・・・一体何だろう?」
崩れ落ちた神社らしい場所でフェイトが見つけたロストロギアはまるで白木添えの刀の様な形状をしていた。
「魔力反応は今は感じない・・・武器なのかな?」
そう言いながら何気なくロストロギアの刀を鞘から引き抜いた、その時だった。
突然刀から光が輝きだし、フェイトは閃光に包まれる。
「これは・・・!?きゃああぁぁぁっ!!」
悲鳴と共にフェイトは白い閃光の中へと消える。
閃光が消えた後、そこにはフェイトの居た形跡も存在も無かった―――
「・・・っ・・・!」
呻きと共に気絶していたフェイトは目を覚ました。
確か回収したロストロギアから光が溢れ出し、それで気を失った。
状況を確認したフェイトはふと辺りを見渡してみた。
「ここは・・・?」
フェイトが目を覚ました場所、そこは夜の霧に包まれていたが木造作りの家々が並ぶ古い町並みだった。
「確か森の近くの神社跡にいた筈・・・どうして町に・・・?」
助けられたにしては道の真ん中に倒れていた。
恐らくはロストロギアの力によってこの場所に転移されたのだろうと推測する。
「あのロストロギアの力でここに・・・って、あのロストロギアが無い!?」
フェイトはさっきまで自分が持っていた刀が無い事に気づく。
もしかしたら先ほどの光の時に手放してしまったかもしれない。
「どうしよう・・・あれの力でここに来たならどうやって帰れば・・・」
途方に暮れながらフェイトはとりあえずバリアジャケットを解除しようとした。
その時、フェイトは何かの気配とある事に気づいた。
「人の気配・・・それに血の匂い!?」
人が居る事、そして血風の存在に気づいたフェイトはバリアジャケットのまま駆け出した。
ふとこの町が何処かで見覚えがある気がしていたが、今はこの気配に向かって進むだけだった。
「抜刀斎だ!維新政府の人斬り、緋村抜刀斎だ!」
「人斬り!?こんな所で!」
何処からか聞こえた声にフェイトは驚きの声を上げる。
まさかこの町では辻斬りが起こっているのか?
そう思いながらフェイトは夜の路地を駆け抜け、町の大通りらしい場所に出た。
「・・・!?」
これまで感じた事の無い気配-剣気を感じたフェイトは反射的にその方向を向く。
そこには数人の刀を持った男達と、それと対峙する緋色の髪を束ねた青年がそこに立っていた。
青年は鋭い金色の瞳を持っており、その左頬には十字の様な斬り傷があった。
「人斬り抜刀斎!今宵こそこの京都の地でその命を貰い受ける!」
一人の男が刀を構えながら人斬り抜刀斎と呼んだ青年に叫ぶ。
(人斬り・・・?彼が・・・!それに京都って確か)
フェイトは自分とほぼ同じ年に近い青年が人斬りだという事に驚く。
それに京都は自分の親友が住む世界の都市の名前だとフェイトは気づいた。
「どけ・・・無駄に命を取る気は無い」
一方刀を抜かないまま、鋭く、冷たい声で相手に警告する緋村抜刀斎。
「甘く見るな!覚悟!」
抜刀斎の警告を無視し、男達は刀を構えながら接近する。
「駄目っ!」
人目で抜刀斎の実力を見切ったフェイトはそう制止の声を上げるが、
ざんっ!
フェイトの声も虚しく、一瞬で男達は抜刀斎に斬り捨てられていた。
抜刀斎は何の表情も見せぬまま刀を納め、声を上げたフェイトの方を見る。
「何て事を・・・!」
悲痛な声で無残に殺された男達、そして人斬り抜刀斎を見つめるフェイト。
一方の抜刀斎は自分の前に立っている黒と基調とした服を着た金髪の女性-フェイトを見つめていた。
「・・・何者だ?お前は」
「私はフェイト・T・ハラウオン。貴方が人斬り抜刀斎なの?」
名を聞かれたフェイトは自分の名を答え、逆に抜刀斎に本当に人斬りかどうかを尋ねる。
「ああ」
フェイトの問いに抜刀斎は簡潔に自分が抜刀斎だと明かした。
「どうしてこんな事を!?人の命をこうも簡単に・・・!」
自分の目の前でほぼ同じ年の青年が簡単に命を奪った事にフェイトは怒りの声を上げた。
「今はこれが当たり前だ。ここでは新時代のために多くの人達がここで戦い、そして散っている」
抜刀斎はここで起こっている死戦について簡潔に説明した。
「お前はどうやらこの戦いには関係の無い者の様だな。早くここから去れ。命を失いたくなければな」
フェイトがこの戦場で戦っている人間だと気づくと、この場から去る様に忠告する抜刀斎。
だが、今の惨状を見たフェイトはここから去る気は無かった。
「それは出来ない。見てしまった以上、貴方の殺戮を放置する事は今の私には出来ないから」
そう自分の決意を表すと、フェイトはバルディッシュを展開させた。
漆黒の斧の様な武器を取り出したフェイトを見て、抜刀斎も腰の刀-新井赤空作、初期型殺人奇剣-『全刃刀』に手を掛ける。
そして抜刀斎は神速と呼べる程の速度でフェイトに接近し、全刃刀を横薙ぎに振るう。
「くっ・・・!」
抜刀斎の速さに驚きながらもフェイトはバルディッシュで受け止める。
だが抜刀斎は素早く高速の連続斬り-龍巣閃を繰り出す。
それに対しフェイトは素早く後ろに下がり、魔法を発動させようとした。
「プラズマ・・・!」
「・・・遅い」
プラズマランサーを放とうとした瞬間、抜刀斎がさっきより素早い動きでフェイトの目の前に接近した。
フェイトは咄嗟に魔法を中断し、袈裟斬りに振られた斬撃をギリギリ回避するが、
「・・・あうっ!」
斬撃をかわした筈なのに、突然右の脇腹に痛みを感じ、そのまま近くの家の壁に叩き付けられる。
(今のはかわした筈・・・どうして・・・?)
攻撃を受けたフェイトは信じられないと言った様子で抜刀斎を見る。
すると抜刀斎の左手に鞘が握られているのに気づいた。
「飛天御剣流-双龍閃」
抜刀斎はフェイトが全刃刀の斬撃を回避した瞬間に鞘でフェイトを殴りつけたのだ。
この鞘で二段階の攻撃を繰り出す技が飛天御剣流の技の一つ、双龍閃である。
(そうか・・・鞘を使っての二段階攻撃・・・でもその存在が分かれば二度と喰らう事は無い)
フェイトは抜刀斎の双龍閃を警戒しながらバルディッシュをハーケンフォームへ変化させる。
抜刀斎のスピードは予想以上に速く、もしかしたら自分よりも速いとフェイトは予想した。
接近戦でのスピードは驚異的なため、一度距離を取っての攻撃を仕掛けようとした。
「ハーケンセイバー!」
バルディッシュを振るうと同時に光の刀身が抜刀斎に向かって放たれる。
フェイトの攻撃に対して抜刀斎は再び高速で移動して攻撃を回避し、フェイトとの間合いを詰める。
抜刀斎が再び接近戦を挑むのを予想していたフェイトはバルディッシュを横薙ぎに振るう。
だが抜刀斎はフェイトがバルディッシュを振るうと同時に高く跳躍していた。
(上からの攻撃!?・・・でも!)
高く飛んだ抜刀斎が上から攻撃を仕掛けてくると踏んだフェイトは斜め後ろに飛びながら距離を取ろうとしたが、
「龍槌翔閃・・・!」
「きゃあっ!」
地面に着地した抜刀斎は飛び上がったフェイトに対し斜め上に向かって斬撃を繰り出す。
抜刀斎の連撃は飛び上がったフェイトの左肩を軽く斬った。
「もう止めておけ。これ以上この幕末の戦いに関係ないお前と戦うのは本意ではない」
軽いとはいえ手傷を負わせた抜刀斎はフェイトに戦いを止める様注意を掛けた。
始めて見るフェイトの武器や戦い方を見た抜刀斎は驚きながらも、フェイトとこれ以上戦い、ましてやフェイトをこの手で殺したくは無かった。
一方フェイトは抜刀斎から『幕末』という言葉を聞いて、ここが何処かに気づいた。
(まさか・・・ここは幕末の京都?という事は私は過去に飛ばされたの?)
以前通っていた学校で習った事のある、徳川幕府と維新政府との戦い。
だとすれば抜刀斎の言葉の意味も納得が出来る。
過去に飛ばされた理由はフェイトには分からないが、この幕末で戦う理由は今のフェイトにある。
「私も出来るなら無用な戦いはしたくない。でも・・・貴方は言ったよね。ここでは新時代のために多くの人が戦っているって」
フェイトの問いに抜刀斎は静かに頷いて肯定する。
「でも多くの人を殺した新時代に、どんな意味があるの?私にはそれが正しいと思えないから・・・私は貴方と戦う。貴方を止めるため、そして・・・貴方の話を聞く為に」
そしてフェイトはバルディッシュをザンバーフォームへと変化させ、光の剣と化したバルディッシュを構える。
魔力要素を持たないとはいえ、抜刀斎のあの速度や剣技は恐るべき能力を持っていた。
最強形態である真ソニックフォームでなら抜刀斎のスピードにも十分対応出来るが、防御力が落ちるという欠点があるため威力を重視してザンバーフォームで戦う事をフェイトは決めた。
「俺も自分がやってる事が正しいなんて思っていない。これまでも新時代を作るという名目で俺は多くの人を斬ってきた。だから罰は受けるさ・・・この幕末の戦いを終わらせたらな」
人斬りとしての罰を受ける事を覚悟している抜刀斎はそう言うと全刃刀を鞘に収め、抜刀術の構えを取る。
フェイトと緋村抜刀斎はそれぞれ武器を構え、お互いに次の一撃で決着を付けようとしていた。
血風舞う夜の町並みに、強い風が吹いたと同時に―――霧の中二人が動き出す!
「おおおおぉぉっっ!!」
「はああぁぁぁっっ!!」
お互いの声が響き、そしてフェイトと抜刀斎の剣が交差する。
二人の剣が交差したその瞬間、交差した剣から凄まじい光が発生した。
それはフェイトがこの場所に転移する前と同じ光だった。
「何っ!?」
「これは・・・!?あの時の・・・!」
驚きの声を上げるフェイトと抜刀斎は突然現れた光に包まれる。
そして光が消えた時、その場に居たのは緋村抜刀斎だけだった。
「消えた・・・?今のは一体」
抜刀斎はフェイトが消えた事に驚きながらも全刃刀を鞘に収めた。
「フェイト・T・ハラウオン・・・か・・・」
空を見上げながら抜刀斎は先ほどまで対峙した女性の名を呟く。
幕末の京都を包み込んでいた霧は、いつの間にか晴れていた。
「・・・フェイトちゃん・・・!フェイトちゃん!」
自分の名を呼ぶ声を聞いて、フェイトは意識を取り戻す。
「・・・なのは?」
「良かった・・・!フェイトちゃん、目を覚ましてくれて」
そこに居たのは自分の親友である高町なのはだった。
先ほどまで緋村抜刀斎を死闘を繰り広げた自分の前に、よく知ってるなのはがそこに居る。
「ここは・・・?私は確か・・・」
「ここは管理局の医務室や。突然フェイトちゃんとの通信が切れて音信不通になったんでシグナムに様子を見ていってもらったんや。そしたらフェイトちゃんが向かった世界で倒れていたって訳やで」
フェイトの問いに上司でもある八神はやてが答えた。
話を聞く限りどうやら元の世界に戻ってこれたらしい。
「所でロストロギアは・・・?」
「いや、何処にも見つからんかった。どうやら間違った情報だったらしい」
あの刀の形状のロストロギアの所在を聞いたフェイトにはやてはロストロギアが見つからなかったと報告する。
「心配したんだよ。フェイトちゃんが任務の最中に倒れたって聞いて・・・怪我もしてるみたいだし」
本当に心配そうな表情を浮かべながらなのはは話し掛ける。
傷を負っているという事は、あの抜刀斎との戦いは夢ではないとフェイトには思えた。
「ごめんね、心配掛けて。私は大丈夫だよ、なのは」
「うん・・・」
優しい笑みを浮かべながらフェイトはなのはの顔を片手を伸ばして触れる。
「あー・・・二人の世界に浸るのは結構やけど、ちゃんと事後報告は頼むで」
「分かってるよ、はやて」
二人の様子に呆れながらのはやてにフェイトはそう答えた。
そして医務室の窓を見上げながら先ほど戦った抜刀斎を思い出していた。
「・・・幕末の京都・・・人斬り、緋村抜刀斎・・・」
その呟きはすぐ隣に居たなのはには聞こえた様だった。
「えっ?京都がどうかしたの?」
「・・・ううん、何でもない」
なのはの問いにフェイトは何でもないと答える。
恐らく彼に出逢う事はもう無い、フェイトはそう思いながら空を見上げていた―――
「・・・おい、剣心。起きろって」
幕末の記憶を巡っていた緋村剣心は自分の名を呼ぶ声に気づき、その人物を見上げた。
「・・・おろ?左之、どうかしたでござるか?」
「どうかしたでござるか?じゃねーよ。何ぼーっとしてやがるでぃ?」
縁側で座っていた剣心に相良左之助はそう言いながら呆然としている剣心の顔を臨み込む。
どうやらいつの間にか眠ってしまい、幕末の夢を見ていたらしい。
「すまん、つい寝てしまっていたでござるよ」
寝てしまった事に苦笑しながら剣心は左之助に謝った。
「そうか。で、夢でも見てたのか?」
「・・・そうでござるな。十年の時を得て思い出した、一人の戦う女性の事を夢に見ていたでござるよ」
かつて人斬り抜刀斎として幕末の京都で出逢い、手合わせした長い金髪の女性との邂逅。
幕末に関わりが無いに関わらず、人斬りの自分を止めるためにその剣を振るった一人の剣士。
最後には突然の閃光に包まれ、剣心の前から何の形跡も残さず消えてしまった。
「珍しいな。おめぇが女の夢を見るなんてよ。一体どんな女だったんだ」
余り女に縁がなさそうな剣心が女の夢を見たと聞いて、興味本位で尋ねる左之助。
「珍しい武器を使う手練、そして心の強い女性に思えた。逢えるのならもう一度逢って話をしてみたいでござるな」
「ふーん・・・おめぇがそう言うならいい女なんだろうな」
自分の過去を余り話さない剣心が懐かしい表情を浮かべたのを見て、左之助もどんな女性か興味を持った。
今の流浪人としての自分なら、あの女性と話が出来る。剣心はそう考えていた。
「フェイト殿・・・か。お主は今頃どうしているでござるか・・・?」
空を見上げながら、剣心は自分と戦った記憶の中のフェイトにそう尋ねた―――
それは二つの軌跡が交差した、一瞬のすれ違い―――
最終更新:2010年07月27日 21:43