「ボーンクラッシャーが管理局の魔導師と本格的に戦闘を始めたそうです」
スタースクリームの報告を、メガトロンは大聖堂のてっぺんで腕を組み、目を閉じながら聞いていた。
「デモリッシャーもチビ三匹に手こずっている様ですし、戦車部隊に紛れて動いているブロウルでも増援に送りますか?」
その提案に対し、メガトロンは目を開いて答える。
「いや、手こずってはいるが倒される心配はあるまい。それより、サンダークラッカーとスカイワープを呼べ」
それからしばらくして、青を下地に何箇所か赤いラインが走る、単座型で翼がないずんぐりした機体の戦闘機と、黒と紫の
ストライプに色分けされた、Y字型の戦闘機二機が飛んできて、メガトロンの眼下でロボットに変形して降り立つ。と
「お呼びでございますか、メガトロン様」
青色のデストロン航空兵“サンダークラッカー”が尋ねると、メガトロンは彼らに指示を下す。
「ドレッドウイング共を率いて空より攻撃をかけろ、奴らの航空戦力がどれ程のものか見極めるのだ」
黒と紫の航空兵“スカイワープ”がそれに答える。
「仰せのままに、メガトロン様」
二人は恭しく頭を下げると、すぐに戦闘機に変形して再び空へと舞い上がって行った。
 
本局ビルNMCCで空の動きを監視していた、レーダーを担当している二つの巨大な眼に鯰のような口をしている昆虫型
生物の士官たちは、クラナガン市街周辺の未開発区画から、突如として未確認の航空機を示す赤の輝点が大量に表れた
のを見て驚愕の表情を浮かべた。
「市街近郊の遺跡区域より、大量の未確認飛行物体が出現!」
大急ぎで報告すると、黒い瘤らだけの肌に骸骨顔の、翼竜の羽を持った将官が文字通り飛んでくる。
「数は?」
士官たちはレーダー上に映る赤色の塊の数を見極めようと、必死で目を凝らす。
「推定一千と見られます!」
それを聞いた将官は絶句するが、すぐに気を取り直して奥にいる長官以下の幕僚達へ報告の為の準備を始めた。
将官からの報告に、幕僚たちは将官と同じように愕然となった。
只でさえ地上は大変な状況だというのに、今度は空からの脅威に対応しなければならないのだ。
「今動ける航空隊は?」
グーダとは別種の、髭と髪が肩下まで伸びた、三白眼に巨大な口と黒緑色の皺だらけな肌の半魚人生物の幕僚が、気を
取り直して尋ねると、事前に部隊のチェックを行っていた将官は即座に答える。
「クラナガン市内の航空隊ならば、どこの部隊でもすぐに。
一番近いのは機動一課第19師団256航空隊と五課第978師団24航空隊です」
少し離れた場所にいたシグナムとアギトが、互いに顔を見合わせて頷く。
「ただちに出動させろ。それと他の部隊もすぐに増援に出せるようにしておけ」
将官が敬礼して立ち去るのと入れ替わりに、シグナムとアギトが幕僚の前に進み出る。
「256航空隊は私の指揮する部隊ですので、復帰の許可を頂きたいのですが」
「分かった、急ぎ戻ってくれ」
幕僚に敬礼して踵を返した二人に、ゲラー長官が声をかけてきた。
「君達、ちょっと待ってくれ」
シグナムとアギトがこちらに来ると、長官はモニターを開いて連絡を始める。
「ギーズ一佐、シグナム三佐の援護を頼めるかな?」
「了解致しました。本局ビル屋上で落ち合う…という事でよろしいでしょうか?」
長官は考え込むように顎に手を当てる。
「…うむ、そうした方がいいだろう」
話を終えてモニターを切った長官に、シグナムが尋ねる。
「本局ビル内での魔力使用は厳禁されているでは?」
「今は非常事態だ、一々下に降りてる暇はあるまい?」
シグナムはそれを聞くと、長官に敬礼しながら改めて言った。
「かしこまりました。シグナム三等空佐、本局ビル屋上でギーズ一佐に合流の後、本隊に戻ります」
 
シグナムは本局ビルの屋上に上がると、既に到着していたギーズ一佐に敬礼する。
「援護にご協力、感謝いたします」
ギーズが返礼を返しながら言う。
「急ごう、敵はすぐそこまで迫っている」
「はい!」
シグナムは頷くと、首に吊下げている剣のアクセサリーみたいなデバイスを取り出し、ギーズも制服の内ポケットから龍が
彫られたコイン型のデバイスを出す。
「レヴァンティン!」
「羅龍盤!」
それぞれデバイスの名を呼んで上に掲げると、デバイスから強烈な光が溢れ出、光の球となって周囲を覆う。
最初に掲げられたデバイスは宙へ浮き上がると変形を始め、レヴァンティンは大剣へ、羅龍盤はサーベルへと変形する。
二人がそれを取ると同時に制服が光の粒子となって四散し、シグナムの適度に鍛えられた均整の取れている奇麗な、
ギーズの細身ながら筋肉質な裸身が露となる。
拡散した光の粒子は、再び二人の体を覆い、シグナムは白いジャケットにミディアムヴァイオレットの騎士甲冑へ、ギーズは
足元まである長いマントにダークシーグリーン色の軍服風バリアジャケットとなる。
光球が弾けると同時に二人は空高く舞い上がり、既に戦闘が始まっている方へと飛び去って行った。
 
“ドレッドウィング”という名を持つドローンは、六枚翼の戦闘機から一つ目の人型ロボットに変形すると、こちらに向かって
来る三人の空戦魔導師目掛けて機銃を撃ちまくる。
魔導師たちはシールドを展開して弾を防ぎながら散開する。
身長五十センチほどの、口から牙が生えた黒人魔導師がドローンの周囲を旋回飛行し、アクセルシューターを撃ち込みながら
大声で挑発する。
「おい、どうした! その程度か!?」
挑発が効いたのか、ドレッドウィングは数発ミサイルを発射する。
最初の二~三発は避けたものの、次のミサイルが魔導師を直撃し、文字通り木っ端微塵に吹き飛ばされる。
続いて、白色の鱗で全身を覆う両生類型生物の魔導師がスピア型デバイスを突き出して真上から突っ込んで来るが、右腕
でそれを殴り落とす。
と、いきなりドレッドウィングの腹部を、ディバインシューターが突き抜ける。
ドローンは痙攣し、火花と炎と吹きながら墜落する。
人間と類人猿の合いの子のような顔立ちをした、身長一メートル弱の猿人魔導師が煙の中から突き抜けた次の瞬間、別の
ドレッドウィングによるビームを数発喰らって後を追うように落ちて行った。
 
「フェニックス47がやられた! もう持ち堪えられない!!」
モニターから上がる悲鳴に近い救援要請に、後方で部隊の管制を行っている、白い肌に三つの突き出た目が特徴的な魔導師
が脂汗をかきながら必死に処理している。
「フェニックス16は47のバックアップに回れ! フェニックス23と98は一旦後退しろ!」
そこへ、シグナムとギーズがやってくると、魔導師はホッとした表情になった。
互いに敬礼を省略(戦闘中の敬礼は敵の格好の標的になるので厳禁されている)し、早速シグナムが魔導師に質問する。
「状況は?」
魔導師は戦闘の概略図を表示させながら答える。
「芳しくありません。敵GD一体に対して魔導師三名で戦っていますが、攻撃力に差がある上に数が多すぎて…」
「ヴィータ達が増援に駆け付けるまで、まだしばらく時間が掛かるな…」
手を顎に当てて考え込むシグナムに、ギーズが言う。
「ならば、到着まで我々が直接抑えるしかあるまい」
シグナムは頷くと、肩に乗っているアギトに言った。
「聞いての通りだ。アギト、ユニゾンで行くぞ」
それを聞いたアギトは、飛び上がって指を鳴らす。
「待ってました! 一丁派手に大暴れしてやるぜ!!」
シグナムとアギトは眼を閉じて呼吸を整えると、互いの意識をリンクさせる。
“ユニゾン―――”
唱和を始めるのと同時に二人の周囲に光の粒子が溢れ出し、それが繋がって一つの流れとなる。
“―――イン!”
唱え終わった途端、強烈な光の奔流が二人を覆う。
それが収まった時、インディゴカラーの騎士甲冑と背に四枚の炎の翼を持つ、ピーチパフカラーの髪に変わったシグナムが
居た。
 
ドレッドウィングに背後を付かれた、シアン色の肌をした翼竜型生物の空戦魔導師は、左右にジグザグ運動する事で追撃
を必死にかわそうとしていた。
しかし、ドローンの速度は魔導師よりも遥かに上で、とても振り切ることが出来ない。
「駄目だ、逃げ切れない! 誰か助けてくれ!」
悲鳴に近い叫びを上げながら逃げ惑う魔導師を、ビームを撃ちかけながら追い詰めていたドレッドウィングが、突然爆発を
起こしてバラバラの破片になった。
「!?」
いきなりの事に唖然としていると、魔導師の眼前にギーズとシグナムが現れる。
「大丈夫か?」
シグナムに問い掛けられると、魔導師は気を取り直して頷く。
「よし、直ちに部隊へ戻れ」
魔導師が原隊に復帰するのを見届けてから、シグナムは念話で部隊へ呼び掛ける。
“こちらはフェニックス1、シグナムだ。敵GDの主力は私とギーズ一佐が引き受ける。全部隊員は、こちらのフォローと周辺
の敵を頼む”
念話で部隊に呼び掛てるところを狙って、一機のドレッドウィングがシグナムを撃ち落とさんと迫ってくる。
と、その前にギーズが現れ、羅龍盤で機体を縦一文字に斬る。
「淑女の話の邪魔をするとは、紳士の風上にも置けぬ愚か者め」
シグナムはギーズの言葉に首を捻りながら、レヴァンティンを構える。
「私は単なる夜天の書のプログラムです、それにこんな機械人形に性別などありますまい」
そう言いながら人型に変形してビームを撃ってくるドレッドウィングを、横への一閃で斬って捨てる。
「何であれ礼儀を失した者には、相応に指導をせねばならん。ただそれだけの事」
カートリッジを装填し直しながら、シグナムはニヤリと笑みを浮かべる。
「確かに…人の話が分からぬ者には、鞭が必要ですからな」
まるで、その言葉を合図としたかのように、レヴァンティンを青白い炎が包む。
「では、これからやって来る愚か者共に、一つ教育的指導と行くか?」
そう言ってギーズが顔を向けた先には、迫り来るドレッドウィングの大群が見えた。
「喜んで」
牙をむき出しにした虎のような凄みのある笑みを浮かべて、シグナムは答える。
ユニゾン中のアギトは、引きつったような笑いを浮かべながら呟いた。
“二人とも怖えぇ…”
 
高級ブティックが建ち並ぶ第18区アナベア通りは、ドローン軍団対EW-TTと陸戦魔導師の混成部隊による攻防戦の舞台
となっていた。
人だろうが物だろうが片っ端から砲弾を撃ち込んで来るドローンに対して、部隊はEW-TTが展開する強力なシールドと装甲
を盾に、ディバインシューターや魔導師によるアクセルシューターの連射で対抗する、。
激しい戦闘によって崩れた建物の瓦礫の中から、人の指先が一つ現れると周囲を見回すようにクルクル回る。
“セイン、状況はどう?”
アクアブルーの色にセミロングの髪が特徴的な、見た目はハイティーンの少女との“セイン・オケアノス”は、指先に取り付け
られたペリスコープアイで周囲を見回しながら、ティアナの質問に答える。
“状況は互角ですね、特に私達の助けが必要な感じはないです”
“スバルやチンク達が遭遇したような、自己意識を持った指揮官タイプは?”
“ええと…”
少しの間、セインは指を回して周囲の状況を再度確認する。
“それらしいのは見当たらないです、全部かつてのGDみたいにプログラミングされた動きしかしてません”
しばらくの沈黙の後、ティアナは再び話を始める。
“そちらは部隊任せで大丈夫そうね。セインは引き続き指揮官クラスのGDを探索―――。”
突然、セインはティアナの言葉を遮った。
“ちょっと待って下さい!”
 
突然、後方にいたEW-TTの一両が大爆発を起こして擱座した。
「な、何だ?」
部隊長を務める、頭頂部以外に毛のない真っ白な猿みたいな容姿に四本の腕を持つ魔導師が、面食らいながら後方へ
モニターを切り替えると、一台のEW-TTがこちらへ砲口を向けている映像が映し出される。
「最後尾は何をやっとる!? 味方を誤射してるぞ!」
部隊長が怒鳴り付けるが、車両からは何の返事もない。
それどころか、EW-TTは再び砲口を別の車両に向けて、もう一発砲弾を発射する。
「砲弾!?」
ニ台目が炎上して倒れた時に部隊長は気が付いた。
あの車両が撃ち出しているのは質量弾であって攻撃魔法ではない、という事は―――。
「全部隊、最後尾の車両は敵だ!」
部隊長が血相を変えて怒鳴るのと同時にEW-TTが変形を始める。
砲身が引っ込み、最前の脚と車体前部が腕に、後部開いてが足に変形し、中から機械の頭と胴体が出現し、分かれた車体
は手と足に変わる。
砲塔部分は後退しながら回転し、中から顔と胴体が出現する。
それはEWーTTから“デストロン軍団 狙撃兵ブロウル”となって立ち上がった。
 
「前方のGDは放っておけ! 後方が本命だ!!」
部隊長はそう怒鳴ってEW-TTの砲搭を回転させると、全車がそれに倣ってブロウルに狙いを定める。
ディバインシューターが一斉に撃ち出されるのと同時に、ブロウルも両肩に搭載されたミサイルや両手の機銃などを一斉に
発射する。
砲撃魔法と質量弾は、丁度両者の中間辺りでかち合って爆発し、辺り一面煙と埃に覆われる。
その中からブロウルがゆっくりと歩きながら姿を現す、ボディには傷一つ見当たらない。
ブロウルは肩のポッドからミサイルを発射し、三両目のEW-TTを血祭りに上げる。
「くそっ!」
部隊長が毒づいた時、いきなりブロウルの背後で爆発が起こり、俯せに倒れ込む。
「!?」
訝しむ部隊長の眼前に、空間モニターが開いてティアナの顔が現れる。
「こちらは次元部局第三艦隊、第783機動部隊1348強襲揚陸隊所属、ティアナ・ランスター執務官補佐です。
こちらの敵は私の方で対応します」
話を受けた部隊長は一瞬“若造め”という苦い表情になるが、それを声に出す事なく、努めて平静を装いながら返答する。
「了解しました、後はお願いします」
モニターを消すと、部隊長は小さく舌打ちする。
「全部隊、後方の敵は執務官補が引き受ける。我々は前方のGDを掃討しながら前進するぞ!」
不機嫌な部隊長の声に対して、車内の乗員達は皆一様にホッと安堵の表情を浮かべた。
 
起き上ったブロウルは振り向くと、機銃が装備された腕をティアナに向ける。
銃弾が身体を引き裂くよりも前にティアナはバイクを急発進させると、自身のデバイス“クロスミラージュ”をブロウルに向ける。
立て続けに撃ち出されたディバインシューターは全弾ブロウルに命中し、二・三歩後退させる。
「さあ来なさい、あなたの相手は私よ!」
態勢を立て直したブロウルに、ティアナは大声で挑発した。

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最終更新:2011年01月04日 22:52