「高町なのは」
エース・オブ・エースの異名と共に、ミッドチルダにおいてその名を知らぬ者は多分いないであろう。
しかし、そんな彼女の存在がとんでもない脅威を招き寄せてしまうのである!
その日、ミッドチルダの人々は特に何の変哲も無い日常を送っていたが、異変はそこから遠く離れた
時空管理局の本局内無限書庫の中から起こった。
「いきなり出て来るなり僕をこんなにして…お前は一体何者だ! 何が目的なんだ!」
『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ…………。』
無限書庫中の一角、無限書庫司書長ユーノ=スクライアは何者かにロープで縛られていた。
そしてユーノの目の前に立って不気味に笑っているのは、ただの人間では無かった。
頭部はまるでセミを思わせ、腕はまるでザリガニの様なハサミ状になっていたのである。
これはもはや誰がどう見てもあきらかに「人間」では無い。
『何も取って喰おうなんて野蛮な事はしない。私はバルタン星人。』
「バルタン星人!?」
ユーノの問いに対して、彼はそう答えた。「バルタン星人」
この世に存在する「人類」がホモ・サピエンス型のみでは無い事は知られている事だが
その非ホモ・サピエンス型人類の中の一つに「星人」と呼ばれる分類が存在し、
さらにその数多の星人の中の一つの人種が彼、宇宙忍者の異名を持つバルタン星人なのである。
「うわ…星人なんて初めて見たよ…。管理局にも様々な世界から人が集まって来るわりには
大人の事情でホモ・サピエンス型人類な局員しかいないからな~。って感心してる場合じゃない!
バルタン星人とやら! 僕を一体どうするつもりなんだ!?」
『だから先程言ったでは無いか。何も取って喰おうなんて野蛮な事はしないと。
だだ私はある目的の為に君の姿と声を借りたいのだ。』
「ある目的!? それは一体何なんだ!?」
『フォッフォッフォッフォッ! 心配する必要は無い。』
「答えになって無いよ!」
丁寧に説明してくれるわりには肝心な事は教えてくれなかったバルタン星人は次の瞬間自分の腕を軽く振るう。
するとどうであろうか。バルタン星人がユーノと同じ姿へと変身したのである。
「どうかな? 上手く化けられたかな?」
「うわ! 声まで一緒…気持ち悪い…。」
バルタン星人の変身したユーノは本物のユーノが見ても驚く程姿も声も寸分違ってはいなかった。
ミッド式魔法にも変身魔法は存在するが、それを踏まえてもバルタン星人の変身は異常な物があった。
ミッドチルダにおいて変身魔法で特定の誰かに成りすます事は犯罪とされる。無論それを防ぐ為の
魔法等も確立されているのだが、バルタンの変身はミッド式魔法による変身魔法とは全く異なる物であり、
ミッドチルダにおける対変身魔法では察知する事すら出来ない。バルタン星人が変身する様を眼前で見た
ユーノただ一人を除いては………
「ぼ…僕に化けて一体何をするつもりなんだ!?」
「大丈夫だよ。何も君に成りすまして悪さをして、全ての罪を君に着せるなんて事はしないから。」
「嘘付け! どう考えてもそれやるに決まってるじゃないか!」
ユーノは必死にもがくが、ロープで縛られている為に身動きが取れない。
そしてユーノに変身したバルタン星人は悠々と無限書庫から去って行った。
ユーノに変身したバルタン星人。彼の狙いは果たして一体何なのであろうか?
それから一時した後、ヴィヴィオは無限書庫へ行く為に本局行きの定期船へ向かっていた。
そんな中、彼女はとある光景をふと目にした。
「あ!」
ヴィヴィオが見た物とは、なのはがユーノと並んで歩いていた光景であった。
とは言え、それはヴィヴィオがいる場所から距離が離れていての事であったし、
二人が一緒に歩くという光景は別に不自然な物では無く、何よりヴィヴィオは
無限書庫に行く為に本局行きの定期船に乗らねばならない。
だからヴィヴィオは特に構う事は無くその場を去るのであった。
そうしてヴィヴィオが無限書庫に辿り着いて間も無くの事だった。
「あれ~~~~~~~~~!?」
その様なヴィヴィオの間の抜けた声が無限書庫中に響き渡った。何故ならば…………
「ユーノくんそんな所でどうして縛りプレイしてるの!?」
「違う! 縛りプレイじゃなくて本当に縛られてるんだよ!」
そこにはロープで縛られ身動きが取れなくなったユーノの姿があったのだから、ヴィヴィオにとって驚きである。
つい先程ユーノがなのはと共に歩いていた所を目の当たりにしていただけに、ヴィヴィオはどういう事なのか
さっぱり意味が分からなかった。
「ユーノくんどうしてこんな所にいるの? なのはママとお出かけしてたんじゃなかったの!?」
「違う! それは僕じゃない! 僕に化けた偽者の仕業なんだよ!」
「ええ~~~~~~~~~~!?」
「とにかく僕の偽物がなのはと一緒にいたって事はなのはが危ない! 一体アイツの狙いは何なんだ!?」
ユーノに真実を知らされ、ヴィヴィオは真剣に驚いた。これはもはや悠長な事はしていられない。
ユーノとヴィヴィオは共に無限書庫を飛び出し、なのはと偽ユーノを探す為にミッド地上へ向かうのであった。
一方、バルタンの変身した偽ユーノは何食わぬ顔でなのはと共に街を歩いていた。
無論、誰もそのユーノがバルタンの変身した偽物であるとは気付いていない。
前述の通り、ミッド式の変身魔法とは根本から異なるバルタン忍法による変身は
ミッド及び管理世界内で使用される対変身魔法対策では察知する事すら出来ないのである。
「ねえユーノ君、私に大切な話があるって何かな?」
「うん。それはね…。」
姿のみならず声さえも完全にユーノに成りすますバルタンにはなのはも気付かず、
しかし突然大切な話があるからとこんな所に呼び出したその行動に違和感を感じながら
問い掛けていたのであったが、その時だった。
「そこまでだ!」
「え!? ユーノ君がもう一人…?」
そこへ現れたのは本物のユーノ。しかしそれを見たなのはは二人のユーノに双方を見渡し困惑する。
「ソイツから離れるんだ! ソイツは僕の偽物だ!」
「え!? え!? 偽物…!? でも変身魔法の反応は感じられないよ?」
流石のなのはも双方の判別が出来ず、双方をそれぞれに見渡し続けてはあたふたしていたが、
そこへ遅れてヴィヴィオも到着していた。
「こっちのユーノくんが本物だと思うよ。だってこっちのユーノくんは無限書庫でロープで縛られてたんだよ。
きっとなのはママと一緒に入る偽物のユーノくんに縛られたんだよ。その偽物のユーノくんはユーノくんに
成りすまして悪い事するに決まってるよ~。」
「ヴィヴィオまで…。と言う事は………。」
ヴィヴィオにもそう言われ、なのはは恐る恐る自分と一緒にいる方のユーノに目を向けてみるが、
その直後だった。なのはと一緒にいる方のユーノが笑い始めたのである。
『ハッハッハッハッハッハッハッ! こんなに早く脱出して来るとは思わなかった!
もう少しきつく縛っておくべきだったかな!?』
「え!?」
その時の声はユーノのそれでは無かった。そしてなのはと一緒にいる方のユーノの姿が
三人の目の前で変わって行き、バルタン星人としての正体を現したのだ。
『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』
「キャァァァァ!! 何これぇぇ!!」
『おっと逃がさんよ。』
自分がユーノと思っていた人間が突然セミ顔でザリガニ腕な星人の姿になってしまい、なのはも
思わず悲鳴を上げていたが、バルタン星人はなのはを逃がさず両腕のハサミでガッチリと捕らえていた。
「なのはを離せ! 一体なのはをどうするつもりなんだ!」
『フォッフォッフォッフォッフォッ! 高町なのははこれよりバルタン星人の物になるのだ!』
「何だって!?」
『見よ!』
バルタン星人が片腕を上空へ向ける。するとどうであろうか。クラナガン上空に漂っていた巨大な雲の中から
葉巻型の巨大な戦艦が現れたのである。
『バルタンの星から来たUFOの母船だ。あの中に高町なのはを吸い込ませてバルタン星に連れて帰る。』
「それで一体どうするつもりなんだ!?」
『我々優秀なバルタン星人の動物園に入れるのだ。下等動物として動物園にな! フォッフォッフォッフォッ!』
何と言う恐ろしい計画であろうか。バルタン星人の目的はなのはを捕らえて自星の動物園に入れる事だったのである。
ユーノに変身したのも、ユーノに成りすませば一切警戒されずになのはに近付く事が出来ると見ての事なのだろう。
そしてなのはとバルタン星人に対し、バルタンの葉巻型戦艦からビームが放射される。
ビームと言ってもそれに殺傷力は無く、俗にトラクタービームと呼ばれる物なのか
二人はバルタンの葉巻型戦艦へ向けて吸い込まれて行く。
「なのはー!」
「ユーノくーん!」
このままではなのははバルタン星へ連れ去られて動物園に入れられてしまう。
なのはは必死でもがくが、バルタン星人の力は強く離さない。
『無駄な抵抗はよせ! 往生際が悪いぞ!』
バルタンはなのはを抑えようとするが、なのはは抵抗を止めない。なにしろバルタン星に
連れて行かれたらなのはは動物園に入れられてしまうのだから、なのはも必死である。
人として最大限の努力をしなければならない。そしてバルタンの腕が緩んだ一瞬の隙を突いて脱出。
レイジングハートで魔法少女に変身した。マッハ5のスピードで空を飛び、強力な魔力であらゆる敵を
粉砕する不死身の女となったのだ。それ行け! 我等がヒロイン! って第一作目ウルトラマン第一話を見てなきゃ
全然意味が理解出来ないフレーズだなこれは。
バルタン星人及びバルタン葉巻型戦艦のトラクタービームから脱出したなのはは空を切ってその場から離れて行く。
しかしバルタン星人も空を飛んでなのはの後を追い駆ける。
「近付かないで! 気持ち悪い!」
なのははバルタン星人目掛けてシューターを連発して行くが、バルタン星人もそれを掻い潜って行く。
一方、バルタン星人の襲来によって時空管理局ミッド地上本部は大騒ぎであった。
特にバルタンの葉巻型戦艦は依然クラナガン上空を我が物顔で浮遊(もち無許可で)しており、
管理局もこの対処に追われていたが、本局ならともかく貧乏な地上本部にまともな戦艦の類があるワケが無く
もうこの状況どうすりゃええんだよ~って事になっていたが、なんとか彼方此方探し回った挙句
既に廃艦が決まっていたにも関わらず、廃艦解体作業もタダじゃねーんだぞと言わんばかりに予算の都合で
依然そのままの状態で残っていたアースラに急遽武装や燃料を積み込んで出撃すると言う事態になっていた。
なのはのシューターを巧みに掻い潜るバルタン星人になのはは徐々に追い詰められつつあった。
バルタン星人は空を飛べるのみならず、バルタンの同属の中にはかつてM78星人のスペシウム使いの一族とも
互角以上の空中戦を演じた者がいる程その速度も凄まじい。流石のなのはも苦戦は必至と言わざる得なかったが…
「なのはー! 助けに来たよー!」
「フェイトちゃん!」
そこへ何処からかなのはのピンチを小耳に挟んだのか、フェイトが飛んで来た。
そしてバルディッシュのザンバーモードでバルタン星人へ飛びかかったのである。
「なのはに手を出す奴は私が許さないぃぃぃ!!」
次の瞬間バルディッシュザンバーの一閃がバルタン星人の身体を真っ二つに両断した……が………
何と言う事だろう。そのバルタンの真っ二つになったそれぞれが二人のバルタン星人に変化したのだ。
『フォッフォッフォッフォッフォッ!』
『フォッフォッフォッフォッフォッ!』
「ええ!?」
二人のバルタン星人の不気味な笑い声がハモり、フェイトも思わず困惑してしまうが、
二人のバルタン星人の両腕のハサミがフェイトに対して開かれ、そこから破壊光弾
通称バルタンファイヤーが撃ち込まれ、その直撃を受けたフェイトは何処へ吹っ飛ばされてしまった。
「あ~れ~!」
「フェイトちゃ~ん!」
恐ろしい。何と恐ろしいバルタン星人であろうか。宇宙忍者の異名は伊達では無いと言う事なのか。
一方その頃地上ではユーノとヴィヴィオの二人に加え、この騒ぎを聞き付けて殺到して来た大勢の
モブ局員に対してバルタン葉巻型戦艦の猛爆撃が行われていたりする。なのは本人は動物園に
入れる事が目的である為に生け捕りにするのだろうが、他の者達はお構いなしと言う事であろうか。
無論管理世界における質量兵器禁止もバルタンには関係の無い事なので、バルタン葉巻型戦艦の
破壊光弾が次々にクラナガンの地表へ撃ち込まれもう阿鼻叫喚。
そこへやっと遅れて来たアースラが到着。バルタン葉巻型戦艦へ向けて魔力砲を果敢に発射し、
クラナガン上空を舞台に壮絶な空中戦が始まっていた。
その頃、なのははシューター攻撃を止め、二人から一人に戻ったバルタン星人に対して
レイジングハートの先端を向けていた。
「全力全開! ディバイィィンバスタァァァァ!!」
なのはの代名詞と言われるディバインバスター。これならば例え直撃は無くとも射線にいるだけで
それ相応のダメージを与える事が出来る…が…次の瞬間である。ディバインバスターがバルタン星人を
飲み込むと思われたその時、バルタン星人の胸部が開き、そこから現れた鏡上の物体が
そのディバインバスターを180度反射させてしまったのである。
「え!? キャァァァァァァ!!」
自分のディバインバスターが180度跳ね返って来てなのはも思わず悲鳴を上げずにいられなかった。
そう。これもバルタン星人の持つ能力の一つであるスペルゲン反射鏡。胸部に仕込まれた強力なミラーで
全ての光学兵器を弾き返してしまうのである。人類にとって放射線や紫外線が有害である様に、
スペシウムなる物質を有害としているバルタン星人が、スペシウムの力を持つM78星雲の戦士に対抗する為に
自身を進化させたのが始まりであり、その威力はM78星雲の戦士の放つ光線のみならず、あらゆる光学兵器に
対して有効である。無論ディバインバスターも光を発している以上光学兵器には変わり無い為、
スペルゲン反射鏡の前には反射されてしまうのも仕方の無い事だった。
「え!? そ…そんな!」
『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』
ディバインバスターが180度そのまま反射される。なのはにとってそれは衝撃的な事だった。
しかしバルタン星人はそんな事等構うはずも無くなのはへ向けて迫って来るのである。
『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』
「悔しいけど空中戦では不利なのかもしれない…。」
なのはは確かに優れた空戦魔導師であるが、元々陸上生物たる人が魔力によって不自然に飛行している形に過ぎない。
だがそれに対しバルタン星人は種として当たり前に持っている力として飛行可能な星人である。
それを考えれば空中戦に関してなのはと言えどもバルタン星人に劣っていると言わざるを得ず、
なのはは陸に降りて地上戦に切り替えるのだった。
「あの両腕の大きなハサミで殴られたら一溜まりも無いけど…代わりに重くて格闘戦時の動きも鈍くなるはず…。」
陸に降りたなのはは後を追って陸に降りたバルタン星人に対しあえて格闘戦を挑んだ。
バルタン星人の両腕の大きなハサミは格闘戦時に強力なハンマーとして機能し得る反面
その分重量もあって素早くかつ器用に振り回す事は出来ないであろうと考えたのである。
故にバルタン星人のハサミ攻撃を回避しつつレイジングハートでバルタン星人を一突きにする作戦であった。
「やぁぁぁ!!」
レイジングハートを構え、なのはは正面からバルタン星人目掛け突っ込んだ。
そしてレイジングハートの鋭い先端部分がバルタン星人の胴体部へ突き立てられる……と思われたその時、
バルタン星人がフッとその場から掻き消えたでは無いか!
「え!? 消えた!?」
突如として姿を消したバルタン星人に戸惑うなのはであったが、さらにその直後
何と背後にバルタン星人が現れて右腕のハサミで突き飛ばされてしまった。
バリアジャケットの保護があれど、これは痛い。
「え!? 何時の間に後に!? ならば今度こそ!」
バルタンに殴られて痛いのを我慢して素早く体勢を立て直したなのはは再びバルタンへ突きかかる…が、
やはりバルタンはなのはの眼前からフッと掻き消え、今度は側面からハサミで突き飛ばされてしまった。
これも例によって痛い。
「えぇ!? そんな! 何でぇ!?」
なのははその後も何度も何度もバルタンへ突っ込むが、その都度バルタンは掻き消え、
さらにその直後になのはの意識しない方向から反撃を受けると言う事を繰り返す羽目になっていた。
そう。これこそバルタン星人が宇宙忍者と呼ばれる所以の一つ。物や人を遠くへ転送する魔法は
ミッドチルダにも存在するが、それも詠唱等の準備が必要となる。しかし、バルタン星人は
特に意識する事無く呼吸をする様に楽々と瞬間移動を可能としているのだ。その威力は
M78星雲のスペシウム使いの一族の戦士さえ翻弄してしまえる程。しかもこれもやはり
バルタン星人が種族として当たり前に持っている力なのだから恐ろしい事この上無い。
『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』
「あーもー! ズルイズルイ!」
人間の基準からは余りにもトリッキー過ぎるバルタン星人の行動になのはも悔しさを感じずを得なかった。
M78星雲のスペシウム使いの一族の戦士ならば透視能力でバルタン星人の動きも捉える事は可能であろうが、
残念ながらなのはにそんな力は無い。しかしなのはにはまだ最後の武器が残っていた。
「えぇい突撃!」
再びバルタン星人へ突撃するなのは。無論その手はバルタン星人に瞬間移動回避をされるのがオチである。
しかし………………
「と見せかけてバインドォォ!!」
なのははバルタン星人へ突っ込むと見せかけてバインドをし掛けた。なのはが馬鹿の一つ覚えの様に
バルタン星人へ突撃を繰り返していたのは全てこの為であった。なのはが突撃を繰り返せば、バルタン星人も
条件反射的に同じ行動を取る様になる。そこでなのはが全く違う行動を取ればバルタン星人も、
最低一瞬は隙が出来るはず。そこを狙いなのははバルタン星人へバインドをし掛けたのである。
両腕両脚のみならず、胸部スペルゲン反射鏡を仕込んだ部分をバインドで抑えられ動けなくなった
バルタン星人に対し、なのはは距離を取った。
「これならば…これならばどう!? 今度の今度こそ正真正銘の私の全力全開!
スターライト! ブレイカァァァァァァァァァァァ!!」
出た。なのはが周囲の魔力を集め放つスターライトブレイカー。ディバインバスターと並ぶ
彼女の代名詞とさえ言われる強力な魔力砲である。ディバインバスターをも凌ぐ太さと出力の
極太魔力砲がバルタンへ向け、射線上のあらゆる物を巻き込みながら突き進んで行く。
そしてバルタン星人はバインドから逃れる事もスペルゲン反射鏡で弾き返す事も出来ず、
ついにその魔力光に飲み込まれてしまった。
「ふぅ………幾ら相手が星人だからと言っても…やっぱり命を奪うのは忍びないかな…。」
スターライトブレイカーの魔力爆発が晴れ、そこに残された真っ黒焦げの焼死体となった
バルタン星人に対しなのははそう呟いていたが…その時だった。何とその焼死体と思われた
バルタン星人の中からまるで虫が脱皮をする様に無傷のバルタン星人が出て来たのである。
『フォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』
「えぇ!? そ…そんな……。」
バルタン星人はここまでの力を持つと言うのか? 自分の持つ全ての能力が通じないバルタン星人の
脅威的な力になのはも絶望せざる得なかった。バルタン星人がなのはを下等動物として動物園に
入れよう等考えるのも、これだけの差を見せ付けられればそれも仕方の無い事なのかもしれないと
彼女でも考えてしまう。そしてバルタン星人は絶望しその場に立ち尽くすなのはへ歩み寄って行く。
しかし、絶望的なのはそれだけでは無かった。クラナガン上空でバルタン葉巻型戦艦と撃ち合っていた
アースラもまた背後に回りこまれた上で滅多打ちにされ、煙を噴き上げて失速ていたのだった。
「推進部、動力部ともにもうどうにもなりません!」
「総員退艦! あ~も~! あれもこれもまともな艦をよこしてくれない本局が悪いんだ!」
幾らアースラが廃艦が決まった旧式艦であるとは言えこの絶望感は異常。恐るべきはバルタンの科学力。
とは言え、アースラにはリンディ・クロノ・エイミィ等、アースラと言えばこいつ等的なお馴染みのメンバーはおらず、
クルーも艦長も急遽揃えられたモブの集まりであったのだから、むしろここまで戦えた事を褒めるべきか。
アースラも工場で廃艦解体されるよりかは戦いの中で轟沈した方が本望であろう。
「あ…アースラが…。」
『フォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッフォッ!』
アースラが炎を吹き上げ沈んで行く中、バルタン星人の不気味な笑い声が響き渡る。
そして絶望の余りその場から動けぬなのはに対しバルタン星人は一歩一歩近寄って行くのである。
『バルタン星の動物園が待ってるぞ~。』
「あ…ああ……。」
なのははこのままバルタン星の動物園に下等動物として入れられてしまうのだろうか?
が、その時だった。突然バルタン星人に背後から飛んで来たと思われるチェーンバインドが巻き付いたのだ。
「あのチェーンバインドの色はユー………あっ!」
チェーンバインドの色から考えるに、ユーノの物であるとなのはは悟っていたのだが、その後が違っていた。
確かにチェーンバインドそのものはユーノの物だ。しかし何と言う事であろうか。ユーノのそのチェーンバインドを
ヴィヴィオやら先程バルタン星人に吹っ飛ばされたはずのフェイトやら
その他モブ局員やらが大勢集まって
掴んで引張っていたのである。
「そ~れ! そ~れ!」
とか何か声を上げながら皆で一斉にバルタン星人を引張り、なのはから引き離して行く。
しかし、ただ闇雲に引張って行くだけでは無かった。
「それ! 今だぁ!」
「それぇぇぇぇぇ!!」
皆で息を合わせ、一斉にバルタン星人を引き飛ばした。バルタン星人が引き飛ばされた先にはバルタン葉巻型戦艦。
そしてバルタン星人は勢い良くバルタン葉巻型戦艦に衝突し、忽ち空中で大爆発を起こし四散してしまった。
「あ……………。」
あれだけのチート振りを誇ったはずのバルタン星人の余りにもあっけない最後になのはも
開いた口が塞がらなかったのだが、それをフォローするかの様にユーノが言った。
「だって考えても見てよ。バルタン星人を倒せるのはバルタン星人の作った兵器しか無いんじゃない?」
「な…なるほど~~~~~~~~!!」
確かに言われて見ればその通りである。様々なチート的超能力を種として持っているバルタン星人を
倒せるのは、そのバルタン星人がチート的科学力で作ったチート的兵器しか無い。
こうしてなのはをバルタン星の動物園に入れると言うバルタン星人の野望は潰えた。
しかし、バルタン星人は数多ある星人の中でも特に限りなきチャレンジ魂を持っている種族である。
もしかしたら何かの拍子に付けてヴィヴィオ・リオ・コロナ等の子供達を喧嘩させ、
その子供同士の喧嘩から家庭間の喧嘩に発展させ、そこからさらに喧嘩の規模を連鎖的に
発展させる事で全人類を巻き込む大戦争にまで発展させて行く~なんて気の長い
計画を進める様なバルタン星人も…現れるのかもしれない。
END
最終更新:2010年09月15日 13:24