「僕が命令する…『死ぬな』って言ってるんだ!!」
 熔鉱炉に少年の叫び声が木霊する。熔鉱炉の上のタラップにいる叫んだ白人の少年はあるモノと相対し、彼の傍らには母親と思しき赤毛の女性がいる。
 「人間が何故泣くのかわかった。俺には涙を流せないが…」
 そして少年の前にいるソレは彼の目尻に滲む涙をそっと指で拭い、諭すように穏やかな口調で語りかける。
 その姿は癇癪を起こした子どもを慰める父親の様に見えるが少年とソレには血縁関係は無い。ましてソレはヒトですらなかった。
 ソレの左腕は肘から下が無く、その傷口や頭部、腹部からは金属系の光沢を放つフレームが見え隠れしている。そうソレはヒトではなく機械、マシーンなのだ。

 「押してくれ、自分の抹殺は出来ない…」
 ソレはそう言うとクレーンの操作端末を少年の母親渡す。彼女は端末を受けとるのを一瞬躊躇するが、ソレがこれから行うことが愛する息子の、さらには人類の平和に繋がるのがわかっているので受けとるしかなかった。
 そしてソレは未だにしがみついている少年から離れ、クレーンの鎖部分へ足をかける。それを確認した彼女は何かを堪えながらも端末を操作してソレを熔鉱炉へと沈めていく。

 まず足から順に衣服が燃え、100年単位での連続稼働を誇るチタン合金のフレームが徐々に熔けていく。
 その様を見ていられなくなった少年は母親に寄り添い堪えていた嗚咽が漏れ、母親はそんな息子の肩を抱きソレが沈む姿を見ている。
 その時だ、頭も沈みもう右腕しか姿を捉えられなかったが…ソレは右手の親指を立てていた。まるで心配するなとでも言うように…
 そしてその右手も沈みきり周囲には工場の作動音と少年の嗚咽だけが響く。過去に夫を失った経験からソレに対して懐疑的だった彼女は先の姿を見て思う。
 息子が心を開き、自身の損傷を省みず護ったソレ…否、『彼』には機械の体であっても人と何ら変わらない『心』があったと…

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 雪が降り積もる真夜中の森を一人の男性が歩いていた。白衣にマフラーと手袋、耳当てのみという軽装だがこの辺りには、いやこの『世界』には民家どころか文明すら確認されていない。
 そんな人気の無い場所に存在する彼は広域次元犯罪者、所謂お尋ね者だった。
 潜伏先である地下のラボに籠っていたが助手であり、自慢の作品であり、ある意味娘とも言える女性から雪が降りだした事を聞いた彼はその瞬間に支度を全て終え、外に出ていた。
 彼は森の中を歩いているが別に行く宛があるわけではない。強いて言えば雪道を歩くこと事態が目的だ。
 雪化粧された真っ白なキャンパス…月夜に照らされ、どこか幻想的な雰囲気を醸し出すそれに自分だけの足跡が残る。
 ただそれだけの事だが征服感や独占欲が妙に擽られ、雪の時独特の無音状態も相まってバレない悪戯をしている様な気分にかられるのだ。 それがクセになって雪が降るとついやってしまう。
 だが歩く速度が上がりハイになってきた時、雪を踏みしめる音と少し荒くなった鼻息以外の何かが弾ける音がした。
 音のした方を見れば森が少し開けた場所にある広場だった。だがそこは月明かり以外の光源の無い筈の森で激しいスパークを発している。
 落雷の様な轟音と閃光に思わず目を瞑ったが、その直前に彼は確かに見た。空間の歪みを…そして落雷らしきモノが収まり彼は広場へと駆け出す。
 周りは落雷が落ちたのか数本の木が燃えており、その広場の中心の雪はソフトボールサイズの円を描いて溶けている。
 そしてそこにはかなり大きめの、板チョコを連想させるメモリーチップがあった。
 彼はまだ熱を帯びているチップを拾い上げ、満月に翳す。
 「フム、誰が言っていたかな?『満月の晩の散歩ではいい拾い物をする』と…」
 彼、広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティの口の端は自然とつりあがっていた。

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 「はぁ…はぁ…」
 スカリエッティが拾い物をしてから数ヵ月後、廃棄都市の地下区画を若い青年陸士は壁づたいに歩いていた。
 彼は陸のエースストライカー、ゼスト・グランガイツが指揮する部隊の一員であり主に斥候・通信障害時の伝令を担っている。
 つい先ほども以前から目をつけていた戦闘機人関連の違法施設を調査し、無人兵器と既にロールアウトしている戦闘機人からの襲撃を受けた。
 通信をジャミングされ応援も儘ならない中、ゼスト隊長から直々に近隣部隊への伝令を遣わされた。
 彼の他に命令を受けたのは同じく伝令等を主に担う後輩の若手陸士とベテランの小隊長、三人ともバリアジャケットの防御力をも機動力に回した脚が売りだ。
その三人一組で向かったが今は自分しかいない…二人はヤツにヤられたのだ。彼らが現場を離脱し、近隣部隊へ向かう途中のルートにヤツはいた。
 オールバックで整えられた黒く短い髪、黒いレザージャケットの上からでもわかる鍛え上げられた筋骨隆々の体、そして目元の表情が伺えないほど色の濃いサングラス。
 ヤツは右手に持っている銀色の銃を構えてこちらを待ち構える。彼らは知らないが、それは第97管理外世界でAMTハードボーラーと呼ばれるタイプだ。
 初めに彼ら陸士はデバイスを向けて警告を発した。魔力反応もなく、先ほど現場にいた戦闘機人の様なボディースーツも着ていない、質量兵器を構えている事からアチラ側の非魔力保持犯罪者だと思われる。
 さらに手元を見れば、銃身が震えているのがわかった。あんなナリをしているが実は素人なのか?一瞬そう考えた時、乾いた銃声が響く。
 そのあと何かが倒れる音がし、そちらを見ると後輩の陸士が倒れていた。倒れた陸士の顔を見ると目を見開き、額には銃創と血が見える。
 その瞬間、小隊長と彼は同僚を射殺したヤツに魔力弾を放った。だがヤツは放たれた魔力弾をものともせず接近し、彼を殴り飛ばした。
 彼は咄嗟に杖状のデバイスを盾にして致命傷を避けたがその衝撃に耐えきれず、フレームから砕けてその機能を失い、バリアジャケットも解除されてしまう。 そんな彼を逃がしたのは小隊長を務めるベテラン陸士だった。俺が抑えるから早く行けと…バインドでヤツを抑えながら小隊長が言う。
 本来なら小隊長が離脱し任務を優先すべきだ。だが彼は小隊長が隊員の人命を優先することを知っていた。自分が反論した所で恐らく聞かないだろう…だから彼はダメージの残る体を引きずりながら離脱した。
 恐らく小隊長はヤツと刺し違えるつもりだが、彼は生きていてほしいと願わずにはいられなかった。 


 「はぁ、くそっ…」
 ここまで休みなく移動してきた彼は乱れてきた呼吸を整える為にコンクリートで出来た壁に背中を預ける。
 小隊長がヤツを足止めしてくれたおかげで、何とか離脱しヤツを撒くことが出来た。流石にここまでは追ってこないだろう…そう思った矢先だ。
 コンクリートからミシリと何かが軋む音がする。そして背後の壁から手が生えたかと思うとそのまま彼の首を掴み、壁を突き破ってヤツが現れた。彼は首を掴まれ高く持ち上げられたまま、反対側の壁に押し付けられる。
 喉を圧迫され彼は呼吸もままならず意識が遠退いていく。そして完全に意識が堕ちようとする直前…ヤツが掴んでいた力を緩め、まるで別な生き物が抵抗しているかのように腕が小刻みに震える。 そして彼はその隙を見逃さなかった。

 「このクソッたれがあぁぁっ!!」

 彼は先ほど壁が崩れた時、咄嗟に掴んだコンクリートの破片を強く握り、さっきのお返しとばかりに比較的鋭利な所でヤツの額を殴り付けた。
 掴んでいた手から血が滲むほどの一撃。ヤツのかけていたサングラスがはじけ飛び、首が殴られた姿勢のまま硬直している。彼はやったか?と一瞬考えたがヤツはそのまま何事も無かったかの様に彼に向き直った。
 そして彼は息を飲んだ。ヤツの傷口からは血が垂れている。だがその傷口の奥には普通の人間ではありえない、金属質の光沢が見えていたのだ。

 「バケモノめ…」
 彼はそう言葉を漏らすと意識を失い、二度と目覚めることは無かった。

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 「いやはや『彼』は実に興味深いね」
 ゼスト隊が全滅してから数年後、スカリエッティはその部隊の小隊を全滅させた『彼』のデータを整理していた。
 「何がですか、ドクター?」
 モニターを操作し、スカリエッティのサポートをしいてたウーノが尋ねる。
 「彼の表面の体組織は培養した細胞でコーティングされているのは知っているね?さらに戦闘機人と違い痛覚はあれど苦痛は存在しない…魔導師の非殺傷設定の攻撃はあまり意味をなさないのさ。
 ベルカ式による直接攻撃でも彼のボディーを壊すのは難しい。アルカンシェル等なら可能だが、少なくとも人の身では不可能だよ。魔導師にとっては天敵さ、すでに対処法が確立されているAMFよりも厄介だと思わないかい?」
 「それはドクターがその様に作ったからでしょう?」

 まるで自慢するかのように語るスカリエッティにウーノはため息が漏れる。暗に「そんな事はいいからさっさと仕事をしろ」と言っているのだが、スカリエッティはさらに話を続ける。
 「いいや、私は『再現』しただけさ。拾ったメモリーにあったデータをね、只それだけだよ。」
 スカリエッティはそう言うとウーノのモニターへ彼に関するいくつかのデータを表示する。

 「あのメモリーはブラックボックス化している部分が多くてね、ボディースペックの他にはその設計図と何の目的で生み出されたか…
 つまり彼が何者かということしかわからないんだ。ここまで調べるのにもなかなか骨が折れたよ、この私がだ。おまけに『記憶』や『経験』と呼べる部分のメモリーも殆どが破損している。
 でもだからこそ興味深い。この私が数年を費やしてもまだ全てを知る事が出来ない。刺激されるんだよ、知りたいという私の無限の欲望(アンリミテッド・デザイア)がね…」
 スカリエッティの嬉々とした講釈聞いていたウーノには、スカリエッティほど彼に興味を抱けなかった。
 確かに単純な出力や強度は自分を含めたナンバーズを遥かに凌ぎ、声帯の模写や特定の人間を探査する能力など見た目以上に繊細な能力も持っている。スカリエッティが彼のメモリーからインスピレーションを感じ、新たなシステムを構築している事も知っている。だがそれだけだ。 
 メモリー自体は復元できず、ボディーを量産しようにも制御するAIがインテリジェントデバイスの物でも処理しきれない。 技術の幾つかを組み込もうにも技術体系が異なり、姉妹の強化にも使えない。
 ウーノにとって彼はサンプルの一つでしかないのだ。

 そう考えながらウーノは別のモニターに映る彼の姿が目に入る。現在彼は休憩室に屯する姉妹達の傍らに控え、彼女たちと戯れ…もとい遊ばれていた。
 「いやぁ~やっぱTちゃんはおっきいッスね~」
 「ほんと、ターちゃんは登り甲斐があるってもんだよ」
 休憩室ではウェンディとセインが彼を木に見立て競うように登り、頬をつついたり耳に息を吹き掛けたりして遊んでいた。二人ともどちらの刺激で反応し表情を崩すかを競っているようだ。
 判定係としてディエチも巻き込まれ、彼の様子をじっと見ている。
 姉妹に似たよう者がいるとは言え彼の無表情ぶりは群を抜いていた。何をされても無反応、一度「笑ってみろ」と言われ笑顔になったことはあるが…
 あまりの作り物ぶりに気味悪がられるほど違和感があった。
 一応話しかけられたりした時や質問には受け答えるが、任務やナンバーズの訓練以外で彼が能動的に動く事はまずない。
 食事もせず睡眠もしない、検査や荷物運びなど何もすることが無いときは常に誰かしらナンバーズが入り浸っている休憩室に突っ立っている。だからこそセインやウェンディは彼の変化を見てみたいと躍起になっているのだ。だが二人の勝負(と言う名のちょっかい)が激しくなった時、小柄な姉から注意がとぶ。
 「セイン、ウェンディ、あまり苛めてやるな。ハチ、お前も嫌ならちゃんと言って良いんだぞ?」
 とチンクが二人をたしなめるが、彼は「支障はない」とだけ答え微動だにしない。
 ちなみにハチだのTちゃんだのターちゃんだのは、彼の正式名称が長かったり味気なかったりする為にナンバーズの何人かが勝手に呼んでいる愛称である。(特にセインとウェンディはその日の気分で呼び名がコロコロ変わる)
 チンクは相変わらずの反応に慣れていたが、隣にいる妹のノーヴェは気にくわなかった様である。 

 「おいこらデカブツ、チンク姉がせっかく心配してくれてるのになんて態度とってんだ!!」
 ノーヴェは凄んで彼を威嚇するが、彼は更に「問題ない」と答えるだけで反応が薄い。それに業を煮やしたノーヴェが彼の股間を蹴りあげるが、逆に彼女が脛を抑えて悶えだす。
 ノーヴェの自滅はいつもの事なのか、セインとウェンディは腹を抱えて笑い、チンクやディエチも苦笑するだけだ。そんな様子をモニターで見ていたウーノもつられてつい苦笑してしまう。
 そして今まで抱いていた疑問をスカリエッティに問いかけた。 「ドクター、今更ですが何故貴方はアレを『彼』と呼ぶのですか?チンクまでの姉妹しか知らぬ事とはいえ、アレは戦闘機人とは根本から異なる『物』です」
 それを聞いたスカリエッティはまるで今までその疑問を待ちわびていたかの様に目を見開き、狂喜染みた笑みを浮かべている。
 「よくぞ聞いてくれたよウーノ、私はね…その質問をずっと待っていたのさ!!」
 待たずに言えばいいものを…とウーノは思うがスカリエッティの行動パターンが時に予測出来ない事は承知しているので彼女は黙って聞いている。

 「人型兵器というのは数多の次元世界規模で見ても非常に珍しい、殆ど無いと言っても良いだろう。彼は戦力であると同時に貴重なサンプルでもあるんだ。だから私は彼に殆ど手を加えていない。まぁ素の性能を検証したいと言うのもあるがね。
 それに手を加えたといってもたった2つ…『私(ジェイル・スカリエッティ)とナンバーズの命令に従う』、『私とナンバーズを守る』只それだけだ。さて、前置きはこれぐらいにして本題に入ろうか…」
 スカリエッティはそう言うとモニターを操作してある映像を映し出す。それは数年前、彼が陸士の小隊を殺害した時の映像だ。
 ウーノはそれを無表情で見ているが、内心余り気分のよい物ではない。スカリエッティは彼女の様子に気づいてる様だが、それを気にも止めず話を続けた。

 「当時彼に命じた任務は『現場を離脱した局員の抹殺』…それだけだ。だがこれを見てくれ、彼は局員を殺害する直前に限って、不自然な硬直や人間で言う『躊躇い』を見せる。少なくとも彼の製造目的を考えればこれは有り得ないバグだ。人類を抹殺する為に作られた殺人マシンとしては…ね」 

 スカリエッティは更にモニターに指を走らせ今度はグラフや何かの数値を表示する。

 「最近彼のバグに極めて近いパターンをようやく見つけたよ…それは何て事は無い。単なる『パラドックス(矛盾)』だったのさ。程度の低いAIであればそのままエラーを起こして機能を停止させるだろう。
 だが彼は強制的に再起動をかけて命令を実行していたのさ」
 そしてスカリエッティはモニターを消してウーノを見据える。モニターの消えた部屋の中で、照明の光源だけが二人を照らしていた。

 「なぜ人間を抹殺する為に作られた機体がその命令で矛盾を生じさせるのか…私は破損しているメモリーが鍵だと考えている。例えば『人間を殺すな』と上書きされているとかね。
 所でウーノ、君は知っているかい?彼が未だメモリーのサルベージを独自にやっていて、自身をそれに近づけ様としていることを…」

 ウーノは思い返し、今まで幾つか疑問に思っていたモノが氷解していく様な感覚を覚える。確かに彼の行動で何故、と思う事が幾つかあった。服装の要望やウーノが利点を見出だせないサングラス、より高性能な武器があるにも関わらず態々97管理外世界の質量兵器を求める等…
 そんなウーノの表情を見たスカリエッティはまるで悪戯が成功した子どもの様な顔をしている。

 「生じた矛盾を押し通して任務を遂行する、メモリーの断片から得た物に自身を近づけ様とする。まるで生命ならではの『揺らぎ』ではないか。それを機械である彼が出している。只の機械では出せない筈の輝きを!!

だからこそ私は彼を一個の『生命』として扱おう、素材としての生命は素晴らしいからね… 機械が生命としての輝きを放つ、生命操作を研究する身としては興味がつきないよ」

そして時は進み9月14日、時空監理局ミッドチルダ地上本部襲撃事件の日となる

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 「かえせ…ギン姉を返せぇぇええええッ!!あぁああぁッ!!!!」
 青い短髪に金色の目をした少女、スバルは自身の姉であるギンガの重症を見て歯止めが効かなくなっていた。その証拠に自分自身が恐れて使っていなかった戦闘機人としての能力、『振動粉砕』を使いチンクを行動不能に陥れていたのだ。
 「かえせ…ギン姉を返せよぉぉ……ッ!」
 だが彼女は相手を傷つけた事、自分の腕から機械のフレームが露出している事すらも省みず吠えた。それ程にスバルは憔悴しきっていたのだ。そして精神的な負荷に耐えきれなくなった彼女はそのまま地面に倒れ付していた。

 「チンク姉ぇ!!クソ、タイプゼロ…旧式が生意気しやがって。ファーストは手に入ったんだ、てめぇはここでっ!!」

 ウェンディの制止を振り切り、チンクの元へ戻ってきたノーヴェは姉の安否を確認し、倒れているスバルに止めをさそうと近づく。だがそこにスバルを追って遅れて来たティアナとフェイトが立ちはだかった。

 「時空管理局機動六課だ。直ちに武装を解除して投降を。その場合、貴方達には弁護の機会が与えられる」
 定められた条文を読み上げるフェイト達を睨みながら、ノーヴェは離脱のチャンスを逃した事を悔やんだ。だが今度は聞き慣れた、無愛想過ぎていけ好かない奴の声が聞こえた。

 「伏せろ」

 その声を聞いた瞬間、爆発と閃光がおこりノーヴェはチンクを爆風から守る様に伏せた。そして声のした方を見ればいつもの格好にサングラスをつけた奴がいた。

 「チンクは早急な修理が必要だ。お前たちは離脱しろ。ここは俺が抑える」

 彼はそう言うとM79 グレネードランチャーを構えている。だがそれを承知するほどノーヴェは非情に慣れなかった。
 「はぁ!?何言ってやがんだデカブツお前も来い!!」
 「良いから行け…」

 「だから納得出来ねぇって…「早く行けッ!!セイン!!」」
 「あいよ、セインさん登場!!ターちゃんも気を付けてなっ」

 「ノープロブレム」
 初めて聞く彼の怒声にビクンと震えたノーヴェは今まで連れ出す隙を伺っていたセインに引っ張られ、チンク共々地面へと消える。煙が晴れた地下には、障壁を張っていたフェイトとティアナ、二人に守られ気絶しているスバル、そして彼だけが残っていた。 

 「ティアナ、スバルを連れて離脱して。彼は私が捕縛する」
 フェイトはデバイスを構えてティアナに指示を出す。ティアナはそれに従いスバルを連れて離脱した。対峙している彼はそれを追おうともしない。無論彼にもタイプゼロの捕獲命令は出ているがファーストが手に入った今、優先順位はFの遺産であるフェイトの方が上だ。

 「貴方を質量兵器不法所持、局員への傷害罪、及び殺人未遂その他多数の罪で逮捕します。ただちに武装解除を」
 フェイトは改めて彼に勧告するが、彼はそれに応じず無言で銃を向ける。そんな態度に彼女は声を張り上げずにはいられなかった。
 「貴方たちは…いや貴方は、何の為にこんな事をする!?人がたくさん死ぬかも知れない様な事を」
 「俺が受けた命令は地上本部の襲撃、及び戦闘機人タイプゼロ、Fの遺産の捕獲だ。人員の殺害は禁じられている」
 本来なら彼は彼女に答える必要は無い。だがスカリエッティやウーノとは別にクアットロからも命令を受けていたのだ。『タイプゼロやFの遺産等、捕獲対象からの質問にある程度は答えるように』と。『彼の答えの反応を見たい』只それだけの為に
 そして彼が言った事は言外に、命令があれば殺人も行うという意味だ。その言葉に彼女は怒り心頭となる。

 「ふざけるな、人を殺して何とも思わないというのか?同じ人間が…!!」
 恐らく彼も戦闘機人だろうとフェイトは考えている。だが彼女は同僚であり、部下でもあるスバルやその姉のギンガが戦闘機人でありながらも、人間として生きようとしている事を知っている。ここで彼を人として見ぬ事は彼女たちを冒涜する事と同義だ。だからこそ可能ならば彼も説得したい、出来れば思い留まって欲しい。それが彼女の本心だ。だが…

 「俺は人間ではない…マシーンだ」
 「それは違う!!戦闘機人だって心はある…立派な人間だっ!!」
 自身の生い立ちにも理由はあるが、彼女や六課メンバーの『人間』の意味はかなり広い。だからフェイトは自分の考えを譲れない。たがそんな彼女を嘲笑うかの様な、甲高い少女の声がスピーカーを介す形で聞こえた。 

 『もう、余りにもありきたり過ぎて面白味が無いですわねぇ~ま、ソレの正体を知らないならば仕方無いとも思いますわ』
 「あ、貴女は…」
 『会うのは二度目かしらぁ~改めて自己紹介致しますわ。わたくし、ナンバーズNo.4クアットロと申しますの。以後お見知りおきを…フェイトお嬢様』
 新たに現れたガジェット1型から投射されるディスプレイ、そこに映るクアットロと名乗る少女は、丁寧な口調だがどこか人を見下した態度で自己紹介をし、そのまま話を続ける。

 『さてと、話を戻しますがソレは人間では…ましてや戦闘機人でもありませんわ。さぁ、わたくしがしたんですもの貴方も自己紹介をしたらどうですの?』

 「了解した。ターミネーター…サイバーダインシステムズ・モデル101シリーズ・T-800-VerJ・S。それが俺だ」

 彼の自己紹介にフェイトは気づく、他のナンバーズの名前とは違い彼の名前はメーカーの製品地味ている事に…

 『お気づきになられましたか?ソレはですね、ある未発見の管理外世界で作られたアンドロイド… 人間を抹殺(ターミネート)する為の兵器ですのよ?人工知能を搭載した金属の骨格に培養した細胞をコーティングした物…食事も睡眠も感情も必要としない、その外見も端的に言えば只の着ぐるみに過ぎませんわ。それを人間…いえ生物と言えまして?
 そんな物を人間だと叫んで説得している姿は…無知とは言え正直笑いを堪えるのが大変でしたわ』

 クアットロの暴露にフェイトは動揺をするが、それは別な意味でだった。人型兵器と言う稀有な存在を10年前実母が作った傀儡兵しか知らなかったからだ。そして彼、ターミネーターが人間や生物と根幹から異なる者だと言われても、彼女はだからどうしたとしか思えなかった。


 人工知能?それならば自身のインテリジェントデバイスとてそうだ。 だが自分や仲間は一度たりとも彼らを物として扱った事はない。

 感情が無い?少なくとも先ほど離脱した戦闘機人の少女達とのやり取りには感情と呼べるものが感じられた。
 それ以外に何が必要か?最も大切な…心と呼べる部分があればそれで充分だとフェイトは思う。 

 だがあまり揺るがない、逆に決意を強く固めたフェイトの表情にクアットロは不満がある様だった。
 『理解できない頑固者は面倒ですわね…まぁ良いですわ。ターミネーター、フェイトお嬢様の捕獲を』

 クアットロの指示に従い、今まで口以外微動だにしなかったターミネーターが、背中に担いでいたウィンチェスターM1887を取り出して動き出す。フェイトもそれに身構えた。
 「貴方を止める…止めて見せるっ!!」

 そして銃声と雷の閃光がその場を支配した。


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 同時刻、場所は変わりある薄暗い部屋に三つのカプセルと中に浮かぶ脳髄があった。
 『スカリエッティめ…飼い犬の分際で主の手を噛むか』
 『別に構わん。代わりは幾らでも作れる。まぁ新たなシステムを構築した手柄は認めるが…』
 『並列処理に特化したAIが本局と地上の全てを総括するネットワークシステムだったか?海も陸も関係無い、さしずめスカイネットと言った所か…』

 『魔法少女リリカルなのはStrikerS The Terminator Chronicle』



ごめんなさい、はじまりません

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最終更新:2010年10月12日 11:23