ボーンクラッシャーは雄叫びを上げながら一撃、二撃とスバル目掛けて拳を振り下ろす。
スバルはそれに合わせて身体を捻る事で、ボーンクラッシャーの拳を紙一重の差で次々と
避けて行く。
「ちいっ! ちょこまかと逃げ回りやがって!」
苛立ったボーンクラッシャーは、スバルに毒づく。
ボーンクラッシャーは戦法を変え、今度は跳び上がってスバルを踏み潰そうとする。
それを右横にステップしてかわした時、スバルはボーンクラッシャーがニヤリと笑って
いるように見えた。
その事について考える間もなく、回避した先、つまり右側から巨大な鉤爪がスバルへ迫る。
回避動作中のスバルにそれを避ける術はなく、身体が木の葉のように吹き飛ばされる。
ジャンプしたのは相手を引っ掛ける為のフェイント、咄嗟に動けない状況を作り上げて、
本命の鉤爪を叩き込むという二段構えの作戦であった。
殴り飛ばされたスバルは、ニューヨークやパリにありそうな瀟洒な造りをしたブティック
のショーウィンドーに突っ込む。
着地したボーンクラッシャーは、止めとばかりに先程自分で破壊したEW-TTの残骸を
持ち上げて店内へ投げ込む。
獲物は仕留めた。
普通に考えればそうなるだろうが、ボーンクラッシャーはその場を動かず、店内に向かって
怒鳴り声を上げる。
「出て来いスバル・ナカジマ! テメェがこの程度でくたばる訳がねぇだろ!」
その直後、轟音と共にブティック内から残骸が転がり出てくる。
それから少し経って、スバルが悠然と歩きながら埃の中から姿を現す。
バリアジャケットは何箇所も破け、身体のあちこちに擦り傷が出来ているが、それ以上
の怪我は見当たらない。
さらに注意深く見てみると、瞳は“戦闘機人モード”が起動した事を示す、金色に光り
輝いているのが分かる。
「やはり生きていたか…」
そう呟くボーンクラッシャーに、スバルは悠然とした表情で問い掛ける。
「いつ気付いたの?」
「最初からよ。あの戦車を軽々と受け止めている時点で只者じゃねぇ」
それを聞いたスバルは、笑みを浮かべながらリボルバーナックルにカートリッジを装填する。
「そう…。それじゃ、次は全力全開で行くよ」
そう言いながら構えを取ったスバルの足元に、ナンバーズと同種のISコードが展開される。
「本気になったってか? いいねぇ、生温い闘いに飽き飽きしていたところだ、これで遠慮
なく派手に暴れられるってモンよ」
ボーンクラッシャーは闘牛士に挑みかかろうといきり立つ雄牛のように、二~三度足で路面を
蹴ると、スバル目掛けて猛ダッシュをかける。
「次は路上のシミに変えてやるぜ!」
シグナムとギーズは、阿修羅の如き勢いでドレッドウィングたちを相手に大立ち回りを演じて
いた。
シグナムは、レヴァンティンを“シュランゲフォルム”と呼ばれる蛇腹剣仕様に変形させて
ドローンを数機串刺しにすると、それをハンマー代わりに振り回して周囲のドローンたちを
次々を叩き落とす。
ギーズは、数発のアクセルシューターに幾重にもレイヤーを重ねて強力な誘導ミサイル代わり
にして次々と撃ち落とす。
「ええい、たかが人間二匹如きに何を手こずってやがる!」
後方で旋回しながら状況を見ているサンダークラッカーは、苛立ちも露に言うと、同じく旋回
していたスカイワープが提案する。
「このままじゃ埒が明かねぇな…。
おいサンダークラッカー、あいつらは俺達で始末するぞ」
それを聞いたサンダークラッカーは、舌打ちしながらぼやいた。
「それしかないようだな。ちっ、役立たずどもめ!」
「どうやら、本命の登場のようですな」
シグナムの言葉にギーズが顔を上げると、サンダークラッカーとスカイワープが二人の方へと
向けて飛んで来るのが見えた。
“フェニックス全隊へ、我々はこれから敵主力と戦うが、雑魚共は任せられるか?”
念話で問い掛けたシグナムに、各隊員から次々と返事が来る。
“お任せ下さい、今度こそキッチリとケリを付けて見せまさぁ”
“増援も間もなく到着致します、こちらは大丈夫です”
“派手に暴れて見せます、ご武運を!”
これらを聞いたシグナムは、笑みを浮かべながらギーズに言った。
「部下達は大丈夫です。我らも心置きなく戦うとしましょう」
ギーズもニヤリと笑い返しながら答える。
「いい部下を持ったな、シグナム三佐」
二人がこちらへ向かって来るのを見たスカイワープがサンダークラッカーへ言う。
「おい見ろ。奴ら自分から俺達の方へ向かって来るぜ」
「サシでケリを付けるってか? 上等だ、血祭りに上げてやるぜ!」
サンダークラッカーはそう言うと、十発立て続けにミサイルを発射する。
二人はシールドを展開し、撃ち込まれたミサイルを悉く防御する。
爆煙の中から現れたギーズはサンダークラッカーへ、シグナムはスカイワープへ 目掛けて斬り
込む。
サンダークラッカーはギーズの斬撃を手で受け止めたのに対し、シグナムのレヴァンティンは
当たる直前にスカイワープの姿が消えてしまい空しく宙を切る。
「!?」
敵が一瞬にして消えてしまった事に戸惑うシグナムは、背後で急に殺気が膨れ上がるのを感じて、
反射的にシールドを展開する。
次の瞬間、シグナムはシールド越しにスカイワープの拳を直接食らい、衝撃を吸収仕切れずに
墜落する。
スカイワープは満足そうに手を2~3回叩くと、ギーズと交戦中のサンダークラッカーへと向き
直る。
「少々手こずってる様だな? 手を貸してやろうか?」
それにサンダークラッカーが答えようとした時、ギーズの言葉がそれを遮った。
「おめでたい奴らめ、あの程度の攻撃で倒れると思っているのか?」
それを聞いたサンダークラッカーが大声で警告する。
「後ろだ!」
慌てて振り返ろうとした瞬間、爆発が起こって今度はスカイワープが吹き飛ばされる。
態勢を立て直したスカイワープは、先程倒した筈のシグナムが悠然と浮かんでいるのを見て、驚愕
の表情を見せる。
「瞬間移動か…。確かに相手の不意を突くには有効な戦法だな」
額から血が一筋流れているが、それ以上のダメージは見当たらない。
気を取り直したスカイワープが撃ち込む機銃弾を、シグナムはシールドを展開して弾き飛ばす。
「だが、相手を甘く見すぎだ、我らベルカの騎士が、この程度の攻撃で倒れるものか」
シグナムはそう言いながら、レヴァンティンを“ボーゲンフォルム”と呼ばれる弓矢の形に変形
させ、スカイワープ目掛けて矢を放つ。
スカイワープは再度ワープしてシグナムの背後を取る、と同時に先程の矢がスカイワープの顔面
を直撃して爆発する。
「何っ!?」
スカイワープが驚愕の声を上げると、ユニゾン中のアギトが自慢げに言う。
“へっへーん、同じパターンが二度も通用するかってんだ! ユニゾンを舐めんな!!”
その様子を戒めるかのように、シグナムが言う。
「アギト、引き続き監視と管制をしっかり頼むぞ」
“OK! 任しとけって!”
「増援は間もなく到着します」
「やれやれ、まずは一安心…ってところだな」
士官からの報告を聞いた、直立歩行する猫背のカバを思わせる肌と体の、額に鼻のついた幕僚が
ホッとしたように言うと、まんまゴリラの姿をした幕僚がそれに異議を唱える。
「安心するのは早いぞ。敵のGD一体倒すまでに、こちらの魔導師が三~四人は倒されてるという
報告も入っている。
数はまだまだ足りん」
「私が出ます」
戦闘が始まって以来ずっと沈黙を保っていたはやてが、突然口を開いた。
「はやてちゃん!?」
不意の一言に驚いたなのはが、はやての方を振り向く。
その表情には、決意と過緊張などと言った堅いものはなく、当たり前のことを思いついただけと
いう落ち着きがあった。
「理由は?」
ゲラー長官がはやての目を見ながら真意を尋ねる。
「増援が到着して数の劣勢を覆せたとしても、先程どなたかおっしゃった通り、敵GD一体に対して
魔導師が三~四人は犠牲になる恐れがあります。
その点、私の遠距離広域魔法なら、上手く使えば私一人で敵部隊を壊滅させる事も可能です」
「そう思う根拠は?」
長官ははやてに重ねて質問する。咄嗟の思いつきだけで発言していないかどうか確認しているのだ。
「今までの戦闘状況を見て判断した結果です。
確かに敵GDは地上型・航空型共にJS事件当時のものより強力に見えますがそれは攻撃力のみに
限った話で、防御力・敏捷性に関しては当時のもの殆ど同じなのは、EW-TT隊やシグナム二佐
とスバル・ナカジマ一等陸士達の戦いで既に実証されております。
自律行動する主力はともかく、陸戦・空戦魔導師が相手をしている人型GDに関してなら、一気に
数を減らす事が私なら出来ると思いますが如何でしょうか?」
臆する事なく正々堂々と意見を言うはやてに、長官は破顔しながら言う。
「実は、私も同じ事を考えていたよ…」
そこで再び表情を引き締めると、長官は改めてはやてに命令を下す。
「いいだろう、八神一佐、直ちに出動を命ずる」
はやては笑顔で敬礼しながら答える。
「ありがとうございます、八神はやて一等空佐、空戦魔導師部隊援護の為出撃致します」
「でしたら、私にも出動命令を―――」
そう言いかけたなのはを、はやては手で制する。
「高町一佐、今はまだ出る時やない。
聖王教会に陣取っとる銀の魔神とその眷属たちがいつ動き出すか分からへんからな。
彼らが動き出すまでは辛抱してや、ね?」
はやてに優しく諭されたなのはは、心を落ち着かせようと努めて深呼吸する。
「無理はしないでね」
なのはの心配気な言葉に、はやては屈託のない笑みで答える。
「勿論や、何かあった時は救援を頼むで」
言い終えると、はやては小走りでNMCCから出て行った。
チンク達ナカジマ家姉妹は、時には攻撃し、時には巨体に手が触れる近くまで寄って 挑発したり
しながら、デモリッシャーを沿岸の第二号廃棄都市区画へと誘導していた。
“ディエチ、こっちでいいのか?”
一旦デモリッシャーから離れたチンクが、ディエチに確認を求める。
“うん。そのまま真っ直ぐ行けば、古い海上橋に行くから…”
ディエチの返事を聞いたチンクは、彼女が何を意図しているのか理解する。
“そういう事か。よし、姉に任せろ”
海上橋を見下ろせる廃ビルの屋上でチンクからの返事を受け取ったディエチは、対物用大型ライフル
の形をした自分の固有武装“イノーメスカノン弐式”を構え、遊底を引いてカートリッジを装填する。
“みんな、後もう少しで目的地だ”
チンクが念話で励ますと、ノーヴェとウェンディから返事が返って来る。
“了解ッス、あたしはまだまだ行けるッスよ!”
“こっちも同じく!”
あらゆるものを蹴散らし、踏み潰しながら爆走するデモリッシャーと、その周囲で必死に攻撃と挑発
を続けるチンク達の姿が橋の近くへ迫ると、ディエチはイノーメスカノン弐式の狙いを、老朽化した
橋の真ん中の橋脚に定める。
「IS発動、ヘヴィバレル起動」
ディエチがそう言うと同時に、彼女の周囲にISコードが展開される。
“セットアップ完了”
デバイスから発射可能を告げるアナウンスが流れると、ディエチは引き金に指を添え機会を待つ。
追撃戦が橋の真ん中に差し掛かった時、ディエチは引き金を引いた。
銃口から高出力のエネルギー弾が放たれ、廃橋の橋脚に直撃する。
あらゆる水害に耐えられるよう頑丈に設計された橋脚が、まるで爆竹で吹き飛ばすかの如く軽々と破壊
される。
橋はあっと言う間に崩壊し、その上を走っていたデモリッシャーも巻き込まれて海に転落、周囲に水飛沫
と橋の残骸を派手に撒き散らした。
「やったッス!」
「まだだウェンディ!」
破顔し、拳を作ってガッツポーズを取ったウェンディに対し、油断なく海の様子を見ていたチンクが
鋭い声でウェンディに警告する。
それと同時に、水面を切り裂いてデモリッシャーの巨大なアームが突き出る。
ウェンディは、自分目掛けて降ってくる巨大な腕を辛うじて回避するも、再び巻き上がった海水に呑み
込まれてライディングボードから振り落とされそうになるのを、必死にバランスを取りながら、崩落
した橋げたに手を掴んで海に落ちるのを防ぐ。
びしょ濡れになったウェンディが、水しぶきが収まったのを見て改めて周囲を確認すると、自分が掴んで
いるのが橋げたではなく、デモリッシャーの車輪だった事に気付く。
デモリッシャーは不気味な笑みを浮かべると、自分の車輪を上下に激しく回転させ始める。
いきなり振り回され始めたウェンディは、振り落とされまいと必死にデモリッシャーにしがみ付いた。
「到着いたしました」
長官より護衛の任を受けた、カマキリそのままの姿をした空戦魔導師が所定の空域に着いた事を告げると、
はやてはドローンと戦っている総ての魔導師部隊(シグナム達も含む)に念話で呼び掛ける。
“交戦中の部隊の皆さん、こちらは八神はやて一等空佐です、只今より各戦闘空域内にいる敵GDの掃討
を開始します。
当該部隊は、合図があり次第空域より離れてください”
それを受けて各部隊の指揮官から了承の返事が次々と送られて来る。
指示が行き渡った事を確認すると、はやては蒼天の書を具現化させる。
「さあて、一つ派手に行ったろか。リイン、精密誘導の方しっかり頼むで」
“はいです!”
ユニゾン中のリインが張り切って答えたのを聞くと、はやてはベルカ式魔方陣を展開させて呪文の永唱を
始める。
「来よ、白銀の風…。天より注ぐ、矢羽根となれ!」
永唱が終わると、はやての眼前に五つのミッド式魔方陣が広がる。
“準備完了しました。戦闘中の部隊の方は全員その場から直ちに離れて下さい”
リインフォースの呼び掛けを受けて、ドローン達と交戦していた魔導師部隊が次々と戦場から離脱して行く。
突然戦闘をやめて飛び去ったシグナム達に、サンダークラッカーとスカイワープは呆気に取られた。
「何だあいつら?」
人間形態のままホバーリングしながらサンダークラッカーが言う。
何か嫌な予感を感じたスカイワープは、空間モニターを開いて他の空域の状況を確認する。
「俺達だけじゃねぇ、ドローンどもの所でも同じ事が起きてる」
「って事は…」
長年に渡る実戦で培われて来た勘が、管理局側が何をするつもりかを不意に悟らせる。
「や、やばい! デストロン軍団退却!」
彼等はドローン部隊にそう呼び掛けると、慌てて戦闘機形態に変形し全速力で後退する。
“敵が後退を始めたみたいですよ?”
リインがハッとした表情で言うと、はやては余裕の笑みを浮かべた。
「気付いたか…でも、もう遅いで!」
はやてはシュベルトクロイツを振り下ろしながら、
「フレース…ベルグッ!」
その瞬間、はやての中で入念に練り上げられた魔力が、強力な光とエネルギーの塊となって放たれた。
フレースベルグの魔力光を察知したドレッドウィングたちは、緊急回避プログラムに従って編隊を
解き、各機バラバラに散開していく。
フレースベルグは急速に離れて行くドローンの中心点で炸裂する。
ドローンたちは強烈な光にセンサーを焼かれ、続いて衝撃波で次々と叩き落とされて行く。
いち早く危険を察知したサンダークラッカーとスカイワープは、まともに攻撃を喰らうのを回避はした
ものの、衝撃波の煽りを受けて互いに激突し、もつれながらクラナガン郊外の森に覆われた遺跡地帯に
墜落する。
突然、轟音と共に天から巨大な二体のロボットが落ちて来たのに驚いて、動物達が慌てて逃げ出した。
縺れ合った体をほどくと、スカイワープはサンダークラッカーを指差しながら毒づく。
「痛てぇじゃねぇか! てめぇはどこ見て飛んでやがる!」
サンダークラッカーも負けじと怒鳴り返す。
「うるせぇ! おめえこそ何やってんだ、センサー類が休みボケしてんじゃねぇのか?」
「何だと?」
互いに罵り合いながら、二人は森の中を歩きながら退却して行った。
「ほう?」
メガトロンは感心したように、ドローンを部隊単位で潰して行くはやてを観察する。
「ドローンどもの手が届かん超遠距離からの高出力砲撃で部隊ごと殲滅する…と、来たか」
メガトロンは頷きながらスタースクリームの方へ顔を向ける。
「あんな小さな体で戦略兵器級の攻撃が出来るとは…人間とて中々やるではないか。
のう、スタースクリーム」
それを聞いたスタースクリームは眼をギラッと輝かせると、メガトロンに訴え出た。
「メガトロン様、もしお許し頂けるのであれば、あの人間の首、このスタースクリームが討ち取りに
行きたいのですが」
「どうした? 奴を倒せば儂に取って代わる証になるとでも思ったか?」
少しの間考え込んだ後、メガトロンは口を開く。
「いいだろう、出来るのならやってみるがいい」
「ありがとうございます、必ずや献上して御覧に見せます」」
スタークスクリームは恭しく頭を下げると、戦闘機に変形して勇躍空へと上がる。
「取って代わる証だと?
ああそうさ、あんたが評価するって事は、奴の命にはそれだけの値打ちがあるって事よ」
急上昇しながら、スタースクリームは一人呟く。
「このスタースクリーム様こそデストロンのリーダーに相応しいと、身をもって証明してやるぜ!」