『ドラなの』第3章(後編)


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誕生会はビンゴ大会、誕生日のプレゼント渡しと進行していくなかで異様なまでに盛り上がった。
しかしそんな楽しい時間も永遠ではない。彼ら彼女らが気づいた時にはもう時計は午後8時を知らせていた。

「楽しかったけどもう遅いし、お開きにせなあかん。・・・・・・みんな、今日はウチのためにホンマ、ホンマありがとう!」

はやてが壇上でマイクを両手に保持し、最高の笑顔で一同に告げる。それを合図にしたかのようにどこからか巻き起こる拍手。それは次第に拡がり、最後には全員に伝染した。
八神はやては車椅子で生活して過ごした3年以上前には考えもしなかったこの光景に、胸が一杯になった。


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20分後

八神家一同はすずか邸専属メイドさんが運転する車で。なのはとフェイトもアリサの呼んだハイヤーで帰宅の途に着いた。
ここでできればドラえもん達もスネ夫の呼んだリムジンで・・・・・・とか言いたい所だが、世の中そう甘くない。
彼らの足はもっぱら己が足と自転車ぐらいだ。
静香の場合は家が八神家に近いため乗り合わせても良かったが、自転車をすずか邸に乗り捨てる訳にもいかない。必然的に自転車で帰る事になった。
ちなみにドラえもん、のび太は自転車がないので『どこでもだれでもローラースケート』だったりする。のび太達は自転車が羨ましいと言うが、果たして普通の人からすればどちらの方がいいのか・・・・・・
まぁ、それは置いておこう。
5人ともスケートや自転車を使わず話しながら帰っていたので、ものすごくゆっくりだ。そしてそれは丁度彼らが空き地前の角に行き着いた時だった。
一同の内、ジャイアンが何かを見つけた。

「何だありゃあ?」

ジャイアンの指差す先にはやや太い黒猫。いや、短足だからそう見えるのか。しかし最大の問題はそれが"二足歩行"しているという事だ。
見つかった事にびっくりしたのか

「キキーッ」

などと鳴きながら空き地へと逃げていく。
明らかにネコの鳴き声ではなかったが、ジャイアン達には関係ない。
ジャイアンとスネ夫は自転車に飛び乗ると、

「かわいそうよ!」

という静香の制止を振り切って

「捕まえて見せ物にしてやる!」

と言いながら追撃、空き地へ入っていった。
しかし次の瞬間聞こえてきた声は

「捕(と)ったどぉーーー!」

というような喜びの雄叫びでも

「逃がしたか!」

という悪態でもなかった。

暗い空き地に明らかに街灯とは違うオレンジ色の閃光が走ったかと思うと、

「ギャァァァ!」

というスネ夫の悲鳴が響き渡った。

「スネ夫!?ドラえもん!」

「うん!」

のび太とドラえもんが現場に駆けつけようとローラースケートで地面を駆る。
しかし空き地に着くと同時に今度はジャイアンの悲鳴が耳に届いた。
二人はそこで見た。"何かが書かれたオレンジ色の円状の透明な板"と、そこから伸びる"オレンジ色の光線"を。光線はあやまたずジャイアンを捉えており、当のジャイアンは感電でもしたように硬直。光線の解除と同時に地面に倒れ伏した。

「ジャイアン!」

のび太の声に呼応するような形で今度はこちらに光線が放たれた。それをなんとか建物の角に入ってやり過ごせたのは僥倖(ぎょうこう)、もしくは奇跡と言って良かろう。

「ドラえもん、これじゃ近づけないよ!」

「よぉし・・・・・・!」

ドラえもんも相手を脅威ある敵と見なしたのかポケットに手を突っ込む。そしてひみつ道具を取り出した。

「『スーパー手袋』!早く着けるんだ!・・・・・・『こけおどし手投げ弾』!僕がこれを投げ込むから、爆発したら突入。向こうが怯んでる隙にジャイアン達を助けるよ!」

「O・K!」

ドラえもんはのび太が手袋を着けたと見るや、手投げ弾のピンを抜き

「口をあけて目と耳を塞げ!」

という注意を発して空き地へとそれを投擲した。
数瞬の後轟音と共に炸裂。カメラのフラッシュほど短い時間に強烈な爆音と閃光を放射し、対応していなかった者の目を、耳を奪った。

「ゴー!」

ドラえもんの掛け声と共に二人は空き地へと雪崩れ込む。そこにはスネ夫とジャイアンが倒れていた。
それをのび太達はスーパー手袋によって得られる怪力とローラースケートによる機動力で救出、搬送を開始する。
ここまでの経過時間はたったの10秒弱。
素人には過ぎるタイムだ。おかげで敵からの迎撃はなく、ドラえもん達は二人を背負ったまま空き地から脱出。静香とともに安全圏への退避を図る。

「・・・・・・」

一目散に逃げていたのび太は2ブロックほど進んで後ろを振り返ったが、敵の追撃はないようだった。
というか根本的に"敵"はあのネコなのだろうか?
一方ドラえもんもこのまま逃げても仕方ないとみんなを建物の影へ誘導する。

「のび太くん、ジャイアンを」

ドラえもんは担いでいたジャイアンをのび太に託すと、再びポケットに手を入れる。しかし目的のものが出ないのか四苦八苦している。

「これも違う、これも違う、これも、これも、これもぉーーー!『お医者さんカバン』はどこだぁーーー!」

その焦りに見かねた静香に

「落ち着いてドラちゃん!」

と諌められる始末。
しかしその焦りも分かる。のび太の両腕に感じる重み。スーパー手袋を通して確かに感じるその重みは地球重力によるものではなく命の重みだ。
どちらにも切り傷といった外傷はないが、いかなる攻撃だったのかよくわからない。
のび太にはその辺りの知識はなく、それがさらに不安を煽った。
しかしドラえもんがようやく役に立つものを探し当てた。

「・・・・・・ん、これなら!『壁紙秘密基地』!」

ドラえもんは声も高らかにポスター大のそれを出すと、民家のブロック塀にそれを貼りつけてシャッターを開いた。

「中に!奥に治療のためのベッドがあるから二人をそこに寝かせて!」

ドラえもんはスーパー手袋を静香に渡す。
のび太は少なくともジャイアンよりは取り回しがきくであろうスネ夫を彼女に託すと、シャッターの先にあるはずのベッドへと向かった。

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ジャイアンを担ぐのび太、スネ夫を背負う静香を先に入れ、ドラえもん自らも入ろうとして静香の自転車の存在に気づいた。

「危ない危ない・・・・・・」

見つかっては困ると彼女の自転車を四次元ポケットへとぶち込み、やや煩雑にシャッターを閉めた。
閉めてしまえばこちらのもの。数ある壁紙シリーズのなかでも最大のサバイバビリティ(生存性)を発揮するこの道具は、発見されにくいこともさることながら、内部空間が超空間になっているため仮に壁紙自体が焼けても違う場所に出入口を出現させることができるのだ。
シャッターの施錠閉鎖を確認したドラえもんはさっと階段を駆け降りると、この施設の1つである治療室へ。
しかしそこではのび太と静香がまごついていた。

「ドラえもん、この"ベッド"でいいの?」

指差されるまるで棺桶のような箱。どうやらもっと寝台のような形を想像していたらしい。現代と未来の治療室の違いから発生したジェネレーションギャップであった。

「うん。急いで!」

ジャイアン達が所定のベッドに寝かされたことを確認すると、近くの制御コンソールから治療コンピューターを作動させた。
この秘密基地にはたいていの設備がそろっており、おもちゃに近い『お医者さんカバン』の域を超える高度な治療すら全自動で行うことができるのだ。
こうして二人を寝かした棺桶の蓋が閉まると、中央画面に検査中という文字が表示された。
棺桶の内部ではX線や超音波、核磁気共鳴など多岐に渡る種類の検査が「これでもか!?」というほど行われている。あの棺桶のような形状は患者を外部から完全に遮断して検査の精度の向上を図ることと、内と外の人間を同時に守るための形だった。

「・・・・・・ドラえもん、どう?」

のび太が聞いてくるが、結果が出るまで何とも言えない。そのため

「う~ん・・・・・・」

と唸ることしかできなかった。

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機械の動作する音以外は沈黙が支配するその場に不意に光が戻った。
結果が出たのだ。

「えっと、ケガの程度は・・・・・・軽傷みたいだね。よかった・・・・・・」

のび太がさらっと流し読みしてその結論を読み上げた。しかし静香は他の部分も気になったようだ。

「ねぇドラちゃん、ケガの内容の所の『MEPによる1度の魔力火傷』ってあるけど、MEPってなぁに?」

ドラえもんは処置するよう機器を操作すると、その質問に答えようと頭を捻る。

「あ~えっと・・・・・・僕が持ってる『タケコプター』って知ってるよね?」

「ええ」

「あれとか他のひみつ道具も電池で動いてるんだけど、それが貯めてるのは電気じゃないんだ。MEP(マジカル・エレメンタリー・パーティカル)。訳して『不思議な素粒子』とか、誤訳か知らないけど『魔力素』とか呼ばれる空気中に浮かぶ素粒子を『連結核』っていう専門の発電所で使えるエネルギーに変換して、そのエネルギーを貯めておくものなんだ。だからこの時代じゃ僕の道具の充電がきかない」

「へぇ・・・・・・でもどうして電気じゃダメなの?少しぐらい過去に行っても充電できるじゃない」

当然の疑問である。そんな特殊な電源を使ってはせっかくの道具も使えなくなるばかりだ。しかしドラえもんは首を振る。

「ううん。これじゃないとダメなんだ。MEPはちょっと工夫するだけで簡単に重力子の制御による重力制御とか、空気中の元素に干渉して任意の物質を作るとか、空間歪曲による空間の瞬間移動とか・・・・・・う~ん、いきなり言ってもわからないよね・・・・・・」

もっと簡単に伝えたいんだけど、昔教科書で丸暗記したことを少しアレンジしてるだけだから・・・・・・と弁明するドラえもんに、静香は

「それでもいいわ。続けて」

と促す。

「うん。ともかくMEPはいろいろできるんだ。・・・・・・そうだ、例えば電気だけでタケコプターを飛ばそうとすると、重力制御装置が大きくなりすぎてここまで小さくできなかったり」

 ・・・・・・お分かりだろうが、タケコプターは回転する翼(ローター)で発生させた揚力で飛ぶヘリコプターの原理と同じではない。
それを行った場合羽が小さすぎて必要な揚力が得られないばかりか、回転が強すぎて危険である。
そのためタケコプターには翼の内部に重力制御装置が組み込まれており、これによって10割の負担を軽減しているのだ。
トドのつまりプロペラ(回転翼)は見栄えと、目と耳でどの程度動作しているか(正常、電池切れ、故障など)を確認する"お飾り"である。

「じゃあこの魔力火傷ってのは何なのさ?」

続くのび太の質問にドラえもんは

「多分魔力素って誤訳からできたものだと思うけど・・・・・・」

と前置きをすると、ある道具を取り出した。それは彼の持つ道具の中でも攻撃的な要素の強い『ショックガン』だ。
ドラえもんはそれを空いた棺桶に入れるとフルスキャン。画面にその内部構造を示す3次元図面が浮かんだ。

「MEPは何にでも使える。例えばこのショックガンもこの丸い形をした粒子加速器で、こんな感じにMEPを速くして打ち出す道具なんだ」

誰か準備したのか、それとも今作ったのか―――――おそらく後者だろうが―――――パイプ状のリングの中を粒がくるくる回り、パッと前に撃ち出すアニメーションが流れた。

「・・・・・・MEPはすごく小さくて、普段は物を通り抜けちゃうんだ。でもこうしてビームにして密度を上げると、たまに物や体に衝突するものが出てくる。それが当たった場所にショック、つまり火傷みたいな症状を与えて気絶させる。それがショックガンなんだ」

「えっと・・・・・・つまり、相手がショックガンを使ったってこと?」

「わからない。とりあえず今は様子を見るしか・・・・・・」

ドラえもんはそれだけ言うと黙り込んでしまった。

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時系列はジャイアン達の襲撃直後に遡る。
次元航行船『アースラ』は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていた。
第97管理外世界でオーバーAランククラスの魔力砲撃の発砲を3発探知したのだ。
魔力周波数、魔力光、それら個人を特定する2つの要素は地球に駐屯するどの魔導士にも適合しなかった。しかし分かることは1つ。
術式がミッドチルダ式であることだった。
こうなると次元犯罪者の可能性が高くなる。
現在エイミィ達電算室のメンバーが術者を映像に収めようと努力しているが、強力なジャミングが行われているのかまったく映像電波が通らなかった。

「なのは達に知らせろ!海鳴町、中央空き地にて危険魔法使用。警戒しつつこれを確認せよと」

クロノの指示が飛び、通信担当の部下が動く。
なのは達は民間協力者とは言え管理局から謝礼という形で給料を貰っており、すでに管理局局員に数えられていた。

「艦長、すでに高町さんはフェイトさんと共に現場に急行中との事です」

「うん、さすが地元だ。初動が早い」

感心する内に他から通信リンクが開いた。クロノは怪訝な顔をしつつそれに応える。

「ん、どうしたシグナム?こちらの情報はそちらにも送ったはずだが─────」

『違う!"主はやてが消えた!"こちらでは精神リンクを含め消息を確認できない!そちらはどうだ?』

「なんだと!?・・・・・・エイミィ!」

「はいよ!」

クロノの指示にエイミィの手が目にも止まらぬ速打ちで機器を操作して確認するが、結果は同じだった。

「バイタル、デバイスの信号、第97管理外世界を含め、半径20次元宇宙キロ以内に応答認めず!本艦は、完全にはやてちゃんをロストしました!」

その報告にクロノは思わず艦長席のパネルに拳を打ちつけた。

「くそ!やつらの狙いははやてか!全力を挙げて探せ!転送魔法、結界、失踪に関する全ての可能性を洗い直すんだ!」

「「了解!」」

中央電算室のメンバーが一斉に応答。この事態にその誇りを掛けて挑み始めた。
クロノは一応の落ち着きを見せると、シグナムにどのように消えたのか説明を求める。

『それが・・・・・・目の前から突然消えたんだ』

シグナムの説明によると、はやては誕生会から家に帰ってすぐ疲れていたのか居間のソファーで寝入ってしまっていたという。
そこで風邪をひいてもいけないとシャマルが掛け布団を掛けようとしたその時、彼女は全員の視界から何の前触れなしに消え失せたらしい。

『誰も結界、転送魔法なんて感知しませんでしたし、物質操作魔法で空気中に元素分解された様子もないんです!こんなの普通あり得ません!』

シャマルが悲鳴のように言う。
確かに質量を持つものが我々の3次元世界で肉眼によって見えなくする方法は4つほどしかない。
1つはブラックホールのような強い重力で光をねじ曲げる方法と、2つ目は光を完全に吸収、もしくは反射させない事で相手の目に光を届かなくさせる方法。
もちろんブラックホールに代表される超重力を使うものは荒唐無稽であるため除外。後者は後ろの光を通して透明化する魔法として多用されるが、シャマルの探知能力は優秀で、この近距離なら必ず何かを探知するはずである。つまりこれも違う。
3つ目は核分裂などによる質量欠損。
しかしこれも『E=mc2乗(エネルギーは質量×光速の2乗)』という有名な式の通り、欠損した質量は全て熱、音、光といったエネルギーに変換される。それなりに軽いと予想されるはやてであろうと、質量全てがエネルギー化すれば余裕で日本を地球から消滅させることができる。よって除外。
最後の4つ目は肉眼で見えないほどバラバラに分解すること。
多少困難を伴うものの、恒常的に使われる物質操作魔法(例えばデバイスを無から空気中の元素を固定して生成したりする)によって実現可能なこの方法。そのためシャマルは大事をとって空気中の浮遊物を調べた。が、予想される空気の密度変化、もしくは質量の増加は確認できていなかった。
ともかくこの神隠しはエネルギーや質量といった対価となる何かが出ない以上、物理的にあり得ないものだった。

しかしそれはあくまで3次元的な考察であった。

「まさか・・・・・・本当にこんなことが・・・・・・!?」

解析していた電算室の一人が画面に釘付けになった。

「どうした?何か見つかった?」

主任であるエイミィの問いかけに彼は振り返って頷く。

「はい!データを送るので再確認願います」

データが送信され、エイミィがそれを一から解析し直す。そして導き出した結論は同じだった。

「なるほど・・・・・・これはイノベーション(技術革新)もいいとこだね・・・・・・」

「・・・・・・どうした?報告しろ」

まだ何にも知らないクロノがこちらに問うてくる。エイミィは自身すら信じがたいその結果を報告した。

「海鳴町全体を包む"結界"を確認!しかし魔法としてのプログラムを介していないようで、発覚が遅れました!」

「魔法を介さないだと!?そんなことができるのか?」

「今の技術じゃ無理です。おそらくデバイスなどに頼らなくてもいいほどの"科学"を持った者の仕業だと思われます。これより結界の突破方法の模索に入ります」

エイミィ達電算室メンバーは再びフル稼働体勢へと突入していった。


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結界内

はやてが目を覚ますとソファーの上にいた。壁の時計によれば眠ってしまった時間は10分かそこらのようだ。

「シグナム?・・・・・・シャマル?・・・・・・ヴィータ?・・・・・・ザフィーラ?」

誰も応えなかった。

「あれ?みんなどこ行ってしまったん・・・・・・」

先のアースラと今とで2度目の独りぼっちに寂しさが募った。

「まぁ、さっきまでにぎやかやったし、しゃーないか・・・・・・」

『祭りの後の独りは寂しいもの』と割り切ったはやては、みんなを探そうと立ち上がる。
だが、その目があるものを捉えた。

「えっと・・・・・・どちら様でしょうか?」

そこにいたのは浮世離れした恐ろしい外見をした女と、"二足歩行"するネコだった。

To be continue・・・・・・



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最終更新:2011年05月20日 03:10