3:コミケの世界死闘編
次元のオーロラを越えてナフコの世界を後にしたなのは達が次に辿り着いた場所…それは丁度コミケが行われている会場前の道路だった。
「ここがコミケの世界か…。」
「いや…世界とかそんなんじゃないと思うんだけど…。」
士が『コミケの世界』と形容しただけあって、そこではコミケが開催され大勢の人達によって賑わっていた。
数々のサークルが参加し、各々が作った同人誌を販売し、それを多くの人々が購入して行く。
しかし、賑やかではあるが平和だったコミケの世界にも百合ショッカーの魔の手が伸びていたのだった。
「百合ショッカーだー! 百合ショッカーが出たぞー!」
「ユリー! ユリー!」
コミケに参加していた人々がざわめき始め、コミケ会場に百合ショッカーの戦闘員が大勢雪崩れ込んで来た。
「百合以外のジャンルの同人誌を作っているサークルを叩き壊せ!」
「ユリー! ユリー!」
コミケに乱入した百合ショッカーがやる事はまず百合以外のジャンルの同人誌を出しているサークルの排除だった。
コミケ会場中に百合戦闘員達が展開し、非百合系同人誌を出しているサークルを襲撃し、同人誌を没収、焼き捨てて行く。
特にリリカルなのは系で非常に少数派ながらもなのは×ユーノ等の純愛等の非百合系を出している者達が真っ先に狙われ、
そういう者達はグロンギから百合ショッカーに参加している怪人のゲゲルの標的とされ、コミケ会場は早くも
阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。
それだけでは無い。非百合サークルを排除して空いたスペースで百合ショッカーが自作・持参した百合同人誌を売り出していたのだった。
「百合ショッカー製作のなのは×フェイトの百合同人誌だ! 蜂女×タックルもあるよ!」
「おおー! 買う買う! なのフェイ最高!」
既に多くの人々が百合ショッカーによって殺されてしまったと言うのに、百合ショッカーがなのは×フェイトの
同人誌を出した途端に彼らは目の色を変え、我先にと百合ショッカーのサークルスペースへ向けて殺到していた。
このままコミケの世界は百合ショッカーによって制圧されてしまうのか…そう思われた時だった。
そこへやっとなのは・ユーノ・士・光太郎が到着していたのだった。
「こっ…これは!!」
「なんて酷い…。」
コミケ会場中ひ転がる非百合系同人誌を出していた者達の死骸…そして焼き捨てられた非百合系同人誌を見て
なのは達は愕然としていた。しかし、ここでユーノはある事に気付いていた。
「待って! 一人まだ息がある人がいる!」
ユーノは自身となのはとを繋いでいるハーネスを外し、その息のある人の所へ駆けた。そこでさらなる事実に気付く。
「きっ君はユーノスレの世界の住人じゃないか!」
「あ……その声は…。」
『ユーノスレの世界』
ただでさえ百合の力が強いリリカルなのはにおいてユーノに対する風当たりは強い。それでも極少数派ではあるが
ユーノにもファンが付いていたのだが、そんな彼らが百合厨の弾圧・迫害から逃れ独自のコミュニティーを作り上げたのが
ユーノスレの世界であった。彼はその世界からコミケの世界にやって来た人間だと言うのであった。
しかしそれも百合ショッカーに参加していたグロンギのゲゲルの標的にされて…今や彼の命も風前の灯だった。
「うれしいな…念願のユーノ君に会えたんだ…。」
「そういう事言ってる場合じゃない! 今治療してあげるから…。」
ユーノはただでさえフェレット形態のままでい続けなければならない程にまで魔力を消耗していると言うのに
治療魔法を使って彼の傷を癒そうとする……しかし彼の傷は深すぎて…それでも間に合いそうに無かった。
その事は彼自身が良く知っていたのか、最後の力を振り絞ってユーノにある物を渡していたのだった。
「これは?」
「ぼ…自分が…作った同人誌…。他のは…皆…燃やされちゃったけど…これだけは…守って…。」
それは彼が作ったユーノ同人誌。その最後の一冊を彼は命を賭してでも守り通し、ユーノに託していたのだった。
「分かった。これは僕が受け取る事にする。」
「うれしいな…最後にユーノ君にそれを渡せて…………………。」
言葉はそれまでだった。彼はユーノに看取られながら安らかな表情でこの世を去って行った。しかし…
「ゲゲル! ゲゲル!」
「おいユーノ気を付けろ! グロンギが来たぞ!」
ユーノへ向けてグロンギが突撃して来ており、士達はとっさに戦闘態勢を取っていたのだったが…その直後だった。
グロンギの突撃が突如として現れた翠色に光る壁によって阻まれていたのである。だがそれだけでは無かった。
さらに現れた翠色に光る鎖がグロンギの全身に巻き付き、そのまま猛烈な勢いで降り飛ばされると共に地面に
強く叩き付けられていた。一体何が起こったのかと困惑するなのは達だったが……
「百合ショッカー……許さない! 僕はもう怒ったぞ!!」
「ユーノ…君…?」
そこにいたのはフェレットでは無く…人間としてのユーノ。それも全身から翠色の輝きを発していた。
つい先程までフェレットの姿にならねばならない程にまで疲弊していたと言うのにこの変わり様…
ユーノスレの世界の住人の死による悲しみと百合ショッカーへの怒りがそうさせていたと言うのか?
あえて言うならば、ユーノ=スクライア激情態と呼んでも過言では無かろう。
「ユリー! ユリー!」
ここで百合ショッカー戦闘員達が次々になのは達の前に殺到して来ていた。これはもう戦闘は避けられないと
なのははレイジングハートを起動させバリアジャケットを装着し、士はディケイドへ、光太郎はBLACKへ
変身し戦闘態勢を取っていた。
「来たな仮面ラーイダどもめ! このコミケの世界を貴様らの墓場にしてやる!」
百合戦闘員達が道を開け、まるで古代ローマか古代ギリシャ時代の戦士の様な格好をしたヒゲの男が現れていた。
どうやら彼が百合戦闘員達を指揮している者だと思われる。
「お前はデストロンのドクトルG(ゲー)だな?」
「勘違いしてもらっては困るな仮面ラーイダディケイドめ。私は百合ショッカー幹部の一人、ドクトルY(ユリー)だ。」
V3の世界で仮面ライダーV3と激闘を繰り広げたデストロン幹部にドクトルG(ゲー)と言う男がいた。
彼は仮面ライダーの事を『仮面ラーイダ』と呼ぶ事で有名だったのだが、彼は百合ショッカーに参加する事によって
ドクトルY(ユリー)と改名していたのだった。
「貴様ら仮面ラーイダどもが我ら百合ショッカーの百合世界征服を邪魔する事は既に想定済みだ。
ここで貴様らを叩き潰してやる。怪人どもやれい!!」
ドクトルYが率いていたのは百合戦闘員だけでは無かった。先程のグロンギを初めとして様々な勢力から
百合ショッカーに参加していた怪人達が現れていたのだった。しかもやたらと数が多い。
「これは数が多いな…。」
「数が多くてもやるしか無いよ…士さん…。」
なのははレイジングハートを強く握り締め、その先端を百合ショッカー怪人軍団へ向けていたのだったが、
そこでディケイドはふとユーノの背後に回り込んでいた。
「ん? 何をするの?」
「お前に戦う力を与えてやろうと思ってな。」
ユーノの背後に立ったディケイドは何かカードを取り出し、ディケイドライバーに差し込んでいた。
『ファイナルフォームライド! ユユユユーノォ!』
「ちょっとくすぐったいぞ。」
「え? ああっ!」
ディケイドがユーノの背中に触れた直後だった。突如としてユーノの体が変形し、フェレットの姿になっていたのだった。
と…言っても、通常ユーノが見せる『変身魔法による変身』では無かった。まるでトランスフォーマー・ビースト戦士の
トランスフォームの様にユーノの体が変形して行き、まるで大人のライオン以上の大きさはありそうな巨大フェレットに
姿を変えていたのだった。
「ええー!?」
「うわー!! 巨大淫獣だー!!」
ディケイドが他の仮面ライダーをファイナルフォームライドさせ、武器やら何やらに変形させる事は
知られているが、ユーノが巨大フェレットに変形した事実はなのはのみならず、離れた場所で様子を見守っていた
野次馬達をも大いに驚かせていたのだった。
「うろたえるな! やれー!」
「ユリー! ユリー!」
ドクトルYが右手に持つ斧を正面へ振りかざすと共に一斉に百合戦闘員や百合怪人達が突撃し襲い掛かった。
こうして戦いが始まった。大都市のど真ん中にあるコミケ会場で戦いが始まったはずなのに、何時の間にかに
戦場が特撮における戦場として昔から良く使われていた採石場へと移り、そこでなのは・ユーノ・ディケイド・BLACKと
百合ショッカー軍団との激闘が勃発したのであった。
「とぉ! たぁ!」
BLACKが一跳び30mの脚力で戦場を跳びまわり、必殺パンチを百合怪人目掛け決めて行く。
そしてさらには…
「バトルホッパー!」
BLACKの呼び声に応え何処からとも無く走り寄せて来たバトルホッパーに乗り、必殺のバイク轢き潰しアタックで
幾多の百合戦闘員や百合怪人達を蹴散らして行く。
ディケイドもまた近付く敵はライドブッカー・ソードモードで激しく斬り倒し、離れた敵に対してはライドブッカー・ガンモードで
撃ち倒して行く。さらには………
「一人一人相手するのが面倒くさくなった。これで一気に蹴散らすか。」
『カメンライド! カブトォ!』
カブトのカードをディケイドライバーに差し込み、カメンライドで仮面ライダーカブトへ変身し、さらにもう一枚カードを…
『アタックライド! クロックアップ!』
カブトの世界におけるライダー持つ能力の一つ、『クロックアップ』をカメンライドで発動させた。
直後にディケイドカブトが目にも留まらぬ速度で百合怪人と百合戦闘員を蹴散らして行く。
クロックアップは単純な高速移動能力では無く、時間の流れる速度自体を変え、その鈍った時間流の中で
行動する事によって通常の時間流の中にいる者から見ればあたかも超高速で動いている様に見えると言う物である。
しかもこれは必殺技でも何でも無く、『カブトの世界』におけるライダー及び怪人に当たるワームが当たり前に持つ
能力だと言うのだから恐ろしい。
「僕が援護するからなのはは攻撃に専念して!」
「うん!」
ディケイドのファイナルフォームライドによって巨大フェレットに変形したユーノがその背になのはを背負って
採石場を駆け回り、行く手の百合怪人及び百合戦闘員を蹴散らしていた。なのはの方まだまだ変身魔法で子供の姿を
取って消耗を抑えねばならない位に回復が完全とは言えず、まともに接近されては百合戦闘員にも後れを取りかねない。
そこをカバーするのが巨大フェレット形態のユーノであった。
「うわー! 巨大淫獣強ええー!」
「巨大淫獣だー! 母ちゃん怖いよー!」
フェレットは小さく可愛いペットと言うイメージが強いが、これは実は近年になってやっと作られた価値観。
歴史的に考えれば元々フェレットはウサギ狩り等に使用する狩猟用動物として飼われていた期間の方が遥かに長い。
そう、フェレットは立派な猛獣…ハンターだったのである。
そしてそれを証明するかの様に巨大フェレット形態のユーノの鋭い爪が百合戦闘員や百合怪人を次々に切り倒し、
口の鋭い牙で噛み砕いて行くと言う仮面ライダーアマゾンばりの大暴れを見せていた。
「ユーノ君一度距離を取って!」
「うん! わかった!」
なのはを背に乗せたユーノは一度敵から駆け離れた。そうすれば当然百合怪人及び百合戦闘員が後を追って
なのはとユーノの所へ一塊になって殺到するのだが…そこでなのははレイジングハートの先端を彼らへ向けていた。
「ユリー! ユリー!」
「行くよ! 全力全開! ディバイィィィンバスタァァァァァ!!」
出た。なのはの18番とも言える超高出力砲撃魔法ディバインバスター。レイジングハート先端から放たれた
極太かつ桃色の魔力光は射線上に存在する百合怪人及び百合戦闘員を次々に吹き飛ばして行くのだった。
「ユリィィィィィィ!!」
忽ちの内に上がる百合戦闘員・百合怪人の断末魔。巨大フェレット形態のユーノとその背に乗ったなのは…
その姿はまさに動く要塞であった!
こうしてディケイド・BLACK・なのは・ユーノは次々に迫り来る百合戦闘員・百合怪人を蹴散らしていたのだが
その光景を黙って見ている程ドクトルYも馬鹿では無かった。
「あの高町なーのはもユーノ=スークライアも仮面ラーイダに負けず劣らず中々やる…。しかしお前達の勢いもこれまでだ。
やれ! 大砲バッファロー!」
後方から戦闘の様子を見守っていたドクトルYの隣には、両肩に大砲を背負ったバッファロー型怪人の姿があった。
その名も大砲バッファロー。激しくそのまんまですね。そしてドクトルYは今なのは達が目の前の百合戦闘員・百合怪人の
相手に神経を集中させている隙にこの大砲バッファローの砲撃で一網打尽にしようとしていたのである。
「しかし、味方にも当たってしまいます。」
「構わん! 仮面ラーイダどもを倒せればそれで良いのだ! やれー!!」
味方の犠牲も構わない非情なドクトルYの命令により、大砲バッファローの背負う二門の大砲が火を吹いた。
激しい戦闘が繰り広げられる採石場の彼方此方で激しい爆発が巻き起こり、その爆風がなのは達、そして百合怪人・
百合戦闘員を無差別に飲み込んで行く。
「これで終わったな。」
爆煙に包まれる採石場を見下ろし、ドクトルYは勝利を確信した…が……
「何!?」
何と言う事であろうか。大砲バッファローの砲撃によって吹き飛ばされたと思われていたなのは達が
爆煙の中から何事も無かったかの様に現れていたのである。他の百合戦闘員や百合怪人は砲撃に巻き込まれ
吹き飛んでいたと言うのに…これは異常事態である。
「何故だ!? 何故あれだけの砲撃で平然としていられるのだ!? ええい! もう一度やれい!」
ドクトルYの命令により大砲バッファローの大砲が再び火を噴いた。しかしその直後だった。
『プリキュアラーイド! ミントー! アタックラーイド! エメラルドソーサー!』
ディケイドがプリキュアライドでキュアミントに変身し、さらにキュアミントの得意技である
エメラルドソーサーで砲撃を防いでいたであった。エメラルドソーサーは敵の攻撃を防ぐ強力な盾であると同時に
それを横向きにして投げ付ける事で敵を斬り裂く攻防一体の技であった。でもディケイドミントはそこまでする事無く
大砲バッファローの砲撃を防御したら防御したでさっさと変身を解除して元のディケイドに戻っていたのだった。
「くそー! こうなったらお前達もろとも自爆してやるー!」
自慢の砲撃を防がれ頭に血が上ったのか大砲バッファローが猛進を開始した。大砲を背負っていても
伊達にバッファロー型の怪人では無いと言わんばかりの勢いで猛烈な砂埃を巻き上げながら突進して行く。が…
「ライダーパーンチ!」
「ぐえぇ!」
出鼻を挫かれるも同然の形でBLACKのキングストーンエネルギーを拳に集中させて放つ技、ライダーパンチの
直撃を顔面に受けて大きく仰け反ってしまい…さらには…
「ライダーキィィック!」
「うああああ!」
同じくBLACKのキングストーンエネルギーを足先に集中させて放つ技、ライダーキックによって
大砲バッファローは大きく吹っ飛んで行き、そのまま大爆発を起こしてしまうのであった。
「ええいどいつもこいつも情けない奴らめ…。こうなったら私自らが仮面ラーイダどもを地獄に叩き落としてやる!」
ついにドクトルY自らが手に持つ斧を振り上げ直々に出陣した。その佇まいと内から放たれる気迫は
今までの百合怪人や百合戦闘員とは比べ物にならない強敵である事を予感させていた。
「とぉぉぉ!」
まずBLACKが跳びかかり拳をお見舞いしようとした。しかし…
「甘いわ!」
「うぉ!」
逆に右手に携える斧で斬り返されてしまった。BLACKの強化皮膚リプラスフォームに強烈な火花が散り倒れてしまう。
「光太郎さん! ならばアクセルシューター!」
『アタックライド! ブラスト!』
続いてなのはのアクセルシューターとディケイドのライドブッカー・ガンモードから放たれるディケイドブラストが
ドクトルYへ襲い掛かるが、今度は左手に携える盾でそれを防いでしまった。
「な!?」
「この程度の攻撃で倒せると思うな! 仮面ラーイダどもめ!」
やはりドクトルYは伊達に百合ショッカーの幹部をやってはいない。なのは達もまた多数の百合怪人・百合戦闘員を
相手にして疲労していると言う事を踏まえても、ドクトルYの力は桁が外れていた。
「個別に攻撃しては奴を倒せない。全員で力を合わせるんだ。」
「力を合わせると言っても…並の攻撃では奴の盾で防がれてしまうぞ。」
全員で力を合わせて戦う事を提案するユーノにディケイドが反論する。ドクトルYの盾はそう簡単に
突破出来る物では無い事は確実であり、如何にして力を合わせると言うのだろうか?
「だから盾で防ぎたくても防げない様に仕向けるんだよ。」
「一体どうやって?」
「こうするんだよ。で、その後は…。」
「ふむふむ。」
なのは・ディケイド・BLACKがそれぞれにユーノに顔を近付け、話を聞きつつ頷いて行く。
その間もユーノは巨大フェレット形態のままなのだから、ぱっと見はシュールである。
しかし一見ふざけている様に見えても彼等は真剣だった。
「何ごちゃごちゃ言っているんだ! 何か小細工を弄しようとしても無駄だぞ仮面ラーイダどもめ!」
ドクトルYは再び斧を振り上げ襲い掛かった。しかし、それと共にディケイド達もまた一斉に分散し、
それぞれがドクトルYに対し戦闘体勢を取った。
「何が力を合わせるだ。結局分かれて戦っているでは無いか!」
「果たしてそれはどうかな? キングストーンフラッシュ!!」
「うっまぶしっ!」
BLACKのキングストーンフラッシュがドクトルYの顔面目掛け放たれた。猛烈な輝きの前に
流石のドクトルYも盾で顔面を覆いながら顔を背けてしまう。
「よし今だ! チェーンバインド!!」
『プリキュアラーイド! レモネード! アタックライド! プリズムチェーン!』
ドクトルYがキングストーンフラッシュの輝きに怯んだ隙を突き、今度はユーノのチェーンバインド、
そしてプリキュアライドでキュアレモネードの姿になったディケイドのプリズムチェーンが
同時にドクトルYを雁字搦めにしてしまうのだった。
「ぬお! なめるなぁ!」
翠と黄、二色の鎖によってドクトルYを縛り上げ動きを止めようとするユーノとディケイドレモネード。
しかし、ドクトルYは物凄い怪力でそれを強引に引きちぎろうとし、ユーノとディケイドレモネードさえ
逆に引っ張ろうとする程の凄まじい勢いだった。
「おいなのはぁ! そっちはまだなのかぁ!?」
ディケイドレモネードが天へ向けて叫ぶ。姿はキュアレモネードでも声色は門矢士のままなのだから
やはり凄まじい違和感である。そしてその叫ぶ先にはなのはの姿があるわけだが、彼女の持つレイジングハートを
中心として猛烈な桃色の光が輝いていた。
「チャージ完了! 行くよ! これが私の全力全開! スターライト! ブレイカァァァァァァァ!!」
なのはがレイジングハートの先端をドクトルYに向けると共にディバインバスター以上に極太かつ
眩い桃色の魔力砲が放たれた。これもまた高町なのはを象徴する技の一つ、スターライトブレイカー。
周囲の魔力をかき集める事によってその威力は通常の魔力砲とは比べ物にならない。
「ぬおぉぉぉぉぉ!!」
巨大な魔力光の塊にドクトルYの目は大きく見開かれていた。そして忽ちの内に彼を飲み込んで行く。
しかもユーノのチェーンバインドとディケイドレモネードのプリズムチェーンで身動きの取れず盾で防御出来ない状況
だったのである。いや、ここまで来てしまったらもはや盾で防いでも無駄なのかもしれなかった。
「うおわぁぁぁぁぁ!!」
スターライトブレイカーの魔力光がドクトルYを飲み込むと同時に彼を縛っていたチェーンバインド・プリズムチェーンをも
消し飛ばし、彼を中心にして起こった大爆発と大爆風はディケイドレモネード・ユーノ・BLACKも吹き飛ばしてしまう程だった。
「あらら…やりすぎちゃった?」
「馬鹿野郎! こっちまで殺す気か!」
自分でもまさかここまでの爆発になるとは思っても見なかった様子で、困惑しながらなのはは降りて来ていたのだったが、
当然のごとくそこを咎められディケイドに怒られていた。だが、もう一つ確認しなければならない事があった。
「そんな事よりも、ドクトルG…いやドクトルYは倒せたのか?」
「……………。」
皆は未だ爆煙が立ち上り続けている爆心地を見つめていた。あれだけの爆発であるからドクトルYと言えども
一溜まりも無いはずであるが、もしかしたらと言う事もある。爆煙が晴れるまで四人は注意深く爆心地を直視していた。
すると、その爆煙を掻き分けてドクトルYがゆっくりと歩み出てきたでは無いか。
「何!? あれだけの攻撃で倒れないのか!?」
驚愕する四人であったが、ドクトルYのダメージも大きく全身が真っ黒焦げとなっていた。
「ふ…ふふ…。この戦いはお前達の勝ちと言う事にしておいてやろう…。しかし、この私に手こずっている様では
到底百合ショッカーには敵わんぞ…。私は先に地獄でお前達を待っているぞ…仮面ラーイダどもめ…。
はっはっはっはっはっはっはっはっはっ…………………。」
ドクトルYはそう言い残し、倒れると共に大爆発を起こすのだった。今度こそドクトルYの最期である。
「ふう…やっと終わったな。」
ディケイドはライドブッカー・ソードモードを地面に突き刺し、杖代わりにして疲れた身体を支えていたのだったが、
戦いはまだ完全に終わってはいなかった。
「本当、奴の言った通りだ。ドクトルY位で手こずってる様じゃ百合ショッカーには到底勝てないな。」
「え!?」
まだ誰かいるのか? 突然聞こえた謎の声の聞こえた方向へ一斉に皆が視線を向けた。
すると……そこには何とヴィータとシグナムの姿があったのだ。
「ヴィータちゃん!」
「シグナムさんまで! 無事だったんですか!?」
なのはは思わずヴィータとシグナムへ向け駆け出そうとしていたが、そこをBLACKに止められていた。
「待て! あの二人も百合ショッカーの洗脳を受けているかもしれないんだぞ!」
「安心しろ。洗脳なんてされてねーよ。もっとも、百合ショッカーに協力してはいるけどな。」
「え!?」
ヴィータの爆弾発言になのはとユーノは思わず絶句していた。そしてヴィータは続ける。
「あたし達は自分から百合ショッカーへの協力を申し出た。だが勘違いするな。あたし達は百合ショッカーの
世界征服とやらに協力してるわけじゃない。全ては『リリカルなのはシリーズ』を守る為なんだ。」
「え!? どういう事なの!?」
百合ショッカーに協力する事がリリカルなのはシリーズを守る結果になるとヴィータは言う。
これは一体どういう事なのか…
「考えても見ろ。アニメ放送が終わってリリカルなのはシリーズの人気にも陰りが見え始めて来ている。
このままじゃリリカルなのはシリーズ全体が近い内に破滅しちまう。だから百合ショッカーの力が必要なんだ。
逆に百合ショッカーを利用してやるんだよ。リリカルなのはシリーズの未来の為に…。」
「だからと言って別に百合が好きでなのはファンやってるわけじゃない奴を迫害するのは筋違いだと思うがな。」
「何!?」
ヴィータとシグナムの視線が口を挟んで来たディケイドへ向けられた。
「何が言いてぇんだ!」
「いくら百合が受けたからって言ってもなぁ…お前ら百合に頼りすぎなんだよ。それに百合以外の
要素が好きでファンになってる奴だって大勢いるのに…そいつ等を迫害して良いはずが無い。」
ヴィータの言う事は正論と思える部分もあるが、ディケイドの言う事も正論だった。
確かにリリカルなのはと言う作品はなのはとフェイトの百合が受けた事によって人気を博した。
しかし、その為に公式自らが百合厨に媚びる様になり、ユーノ等のなのはと親しい位置にいる男性キャラを
迫害し、百合以外を好む人々を弾圧して来た。これは立派な問題だと言いたいのである。
「百合のみに頼り続けなければリリカルなのはシリーズの人気が維持出来ないと言うのなら…
どの道長くは持たん。いっそ一思いに俺が破壊してやる!」
「私も士さんの意見に賛成だよ。ユーノ君を嫌われ役、憎まれ役にしてまで人気を取ろうなんて思わない!」
「お前等……。」
ディケイドのみならずなのはからも真っ向から否定され、ヴィータの表情は豹変し四人を睨み付けていた。
それに対しディケイドもファイティングポーズを取る。
「来るなら来い! 俺がお前等を破壊してやる!」
「いや、今はまだその時では無い。今回は我々の意志を示しに来ただけだ。決着は次の機会に付ける。
だがその時には容赦はせん!」
シグナムもまた静かな怒りを灯らせた瞳で睨み、そう宣言すると共に二人は去って行った。
「何だ…やらないのか…。とは言え、少し安心したな。流石に連戦はキツイからな。」
「だが我々が戦わねばならない敵はまだまだいくらでもいる事は事実。安心は出来んぞ。」
とりあえずこの戦いはなのは達の勝利に終わった。しかし勝利の喜びに浸る事は出来なかった。
百合ショッカーの底知れぬ恐ろしさ…そして洗脳では無く本心から敵に回ったヴィータ・シグナムの
脅威に四人は戦慄していたのだから…
「そんな…ヴィータちゃんとシグナムさんが自分から百合ショッカーに協力してるなんて…。」
「本人に洗脳されている自覚が無いだけかもしれないよ。」
「だと良いがな…。」
やはり問題はヴィータ・シグナムが洗脳されているのでは無く、正気で百合ショッカーに協力している
可能性が出て来ている事である。ユーノの考える通り、本人に洗脳されている自覚が無いだけとも思われるが
もしもそうでなかったら大変な事である。リンディ・リイン・アギトの様に洗脳を解けば良いと言うわけでは無いし
何よりも二人とも味方に付けると頼りないのに敵に回すと恐ろしいのだから。
とは言えここでグダグダと考えていても仕方が無い。四人はコミケの世界を後にし、再び百合ショッカー打倒の為の
旅を再開するのだった。
最終更新:2011年04月02日 09:24