戦場のStrikerS~第一話~ 遭遇
クルトとリエラが探索を開始し、まずは今クルトたちがいる部屋から出て廊下へと出た時だった。出会いがしらにいきなり大剣をつきつけられたクルト。
が、クルトにはその武器に見覚えがあった。その刀身は戦車砲弾を発射する大きな砲身と一体化しており、全体的に青いコーティングが施されていた。
この武器を使うのは…
「イムカ!無事だったか!」
「…なんだ、NO.7とNO.13か。驚かせてすまない」
濃紺の髪を持ち、それをリボンで後ろに縛った身長150cmほどの小柄な少女。彼女はNO.1(エース)ことイムカ。弱冠17歳にして422部隊最古参の隊員だった。
イムカは実力においてもNO.1であり、先ほどクルトたちに向けた専用武器『ヴァール』とともに数々の戦果を挙げてきた。
「NO.7、状況はどうなっている。自分たちは砂漠にいたのではないのか?」
「俺にもよくわからない。砲弾が間近で炸裂して閃光に包まれたと思ったらこの廃墟の中だ。イムカ、ほかの皆とは会っていないか?」
「あっていない。自分もつい5分ほど前に目覚めたばかりだ」
イムカもつい先刻目覚めたばかりでほかの隊員たちとは会っていなかった。ここが一体どこなのかを突き止める前にまずは隊員たち全員と合流することが
先決だとイムカに告げたクルト。
「問題ない」
と、ただ一言。イムカは隊員内でも1,2を争うほど無口で他の隊員たちとは必要最低限の会話しか行わずしかもそのほとんどが「必要ない」や
「いらない」、「興味ない」などといった否定的ニュアンスを含んだものだった。ただ、実力は随一であるため、隊員たちは彼女のことを信頼してはいる。
イムカが2人に合流したところで再び隊員たちの捜索を開始しようとした矢先だった。
「隊長!それにリエラにイムカ!無事だったか!」
3人の背後から声が聞こえた。驚いてクルトが振り返るとそこにいたのは、先ほどクルトにあきらめるのかと詰め寄ったNO.21、フェリクス・カウリー、
そしてそのフェリクスとともに隊員たちの世話役を買って出ているNO.32、ジュリオ・ロッソ、さらにNO.26、ジゼル・フレミングの姿があった。
フェリクスとジゼルは突撃兵、サブマシンガンを手に敵陣へと切り込み敵兵を駆逐する役割を担っている。
一方、ジュリオは対戦車兵。堅甲な装甲と大攻撃力を持ち、陸戦において圧倒的有利にある戦車に対して有効な対戦車槍を装備している。
先ほどの声はフェリクスのものだった。クルトら3人駆け寄り、合流する。
「フェリクス、ジュリオ、それにジゼル。無事で何よりだ。他の隊員たちとは会っていないか?」
「いや、会ってないな。それにここがどこなのかもわからないし」
ジュリオが額に手を当てながら答えた。だが、こうして3人と合流できたことはクルトたちにとって大きな前進だった。これで6人となり、
その内訳は偵察兵のリエラ、突撃兵のクルト、フェリクス、ジゼル、対戦車兵のイムカ、ジュリオ。屋内で対戦車砲をぶっ放す事態に出くわすとは
考えにくいが、何分ここは未知の場所。クルトたちの常識では推し量れないものに遭遇する可能性もある。慎重に行動するようにと指示し、
前衛をリエラとフェリクス、中核を対戦車兵のジュリオとイムカ、後衛をクルトとジゼルが務めることなった。リエラは偵察兵であるため視界が広く、
万一何者かが潜んでいた場合にもいち早く発見できるようにするためだ。そして、探索における武器はリエラの視界だけではなかった。
「ジゼル、君の嗅覚で何か異変に気付いた時はすぐに俺に報告してくれ」
「わかりました………隊長さん…………」
火薬や灯油・ガソリンをはじめとした燃焼促進剤の匂いに対してジゼルは異常ともいえる嗅覚をもっている。ジゼルによるとまだその気配はないようだが、
何者かが罠を仕掛けている可能性も否定はできない。そこで、そういった炎にかかわるトラップのエキスパートと言っていいジゼルがいれば
あらかじめ回避することも万一回避できなくとも、炎を知り尽くしているジゼルならばたやすく解除できることをクルトたちは知っていた。
そこからこのフロアを5分ほど探索したところで、再びジゼルが消えそうな声でつぶやいた。
「そういえば隊長さん………無線は通じないんですか……?」
その言葉にはっとする一同。突然の出来事に無線の存在を完全に失念していた。422部隊においてクルトが各隊員への指示と状況確認に使用する無線。
隊員全員が持っているもので、422部隊の戦車・ドレッドノートにも搭載されている。クルトは腰元に装着されているホルスターから無線を手にし、
戦車無線に周波数を合わせ、応答を求める。
「カリサ!カリサ!こちらはクルトだ!応答してくれ!カリサ!」
すると、ジージーというノイズが数秒流れたと思うと、無線からやわらかい女性の声が聞こえてきた。
「ああ隊長。今どちらですか?こっちはいま正体不明の部隊と交戦中です。なるべく早い合流をお願いします」
戦車長、カリサ・コンツェンの状況報告に愕然とするクルト。その報告を受けた直後、外から銃声が聞こえてきた。
廊下の窓から外を見渡すと、およそ500m先にて交戦中の422部隊戦車・ドレッドノートが主砲を発射しているところを目撃した。
「今状況を確認した!今すぐそちらに急行する!彼我戦力差はどうなっている?」
「隊長と、リエラさん、イムカさん、フェリクスさん、ジュリオさん、ジゼルさん以外の全員がこちらにいますから、不足ということはないです。
指揮もマルギットさんが代行してくれていますし」
マルギットが指揮をとってくれているのなら心強い。非常事態とはいえ、いくらか落ち着くことができた。マルギットとは、対戦車兵の
NO.33、マルギット・ラヴェリのことである。クルトと同じランシール王立士官学校を卒業し、階級は少尉を拝命。士官として部隊指揮を任命される。
しかし、帝国との戦いで作戦失敗を重ねたマルギットはその責任を取らされる形で422部隊に転属させられてしまう。その後紆余曲折を経て当初は
橇も合わなかった隊員たちの信頼を獲得。彼女がクルトの代わりに指揮を執った先頭においても勝利をおさめ、クルトにも認められる指揮官となった。
続いてクルトが無線で連絡を取ったのがそのマルギットだった。警戒態勢を維持しながらも全速力で現場へと急行するクルトたち。
走りながらクルトはマルギットと連絡を取り、更に詳しい状況を把握しようとした。ところが、マルギットから受けた報告によって再び愕然とする。
「隊長!それが敵勢力はどうやら人間では無いようで、楕円形をした機械が独立して行動しています。まるで意思を持っているかのように!」
「…そんな馬鹿な!とにかく、俺がそちらと合流するまで指揮は任せた。それと、これからはナンバーで隊員たちを呼称するように」
「了解!隊長たちの一刻も早い合流をお待ちしています!」
「ああ、NO.33も頑張ってくれ。では、現場で会おう」
そうマルギットを励まし、クルトは無線を切り再びホルスターへとしまう。そして、廃墟から飛び出しドレッドノート号へと向けて駆けていく。
同時刻、時空管理局・古代遺失管理部機動六課隊舎司令室にて。司令室の大画面モニターにガジェットドローンが出現したのを確認し、
出現した場所を把握したのち、通信主任のシャーリーことシャリオ・フィニーノが機動六課フォワード陣に出撃要請を行おうとしたところだった。
「え、なにこれ…?」
その直後、ガジェット群とは明らかに違う反応を示す光点が大画面に映し出されたかと思うと、一つまた一つとガジェットを示す光点がその数を減じていく。
何が起きているのかシャーリーはすぐには理解できなかった。今回ガジェット群が出現した地点は臨界第八空港近隣に位置する廃棄された都市群だ。
4年前に空港を襲った大火災の影響を受け、再起不能と判断され打ち捨てられたビルが並び今は完全に廃墟と化している街並みであった。
そんな場所になぜガジェット群が現れたのかは不明だが、モニターを見る限りガジェット群と何者かが戦闘を行っているのは明らかだった。
しかもその数は一人二人ではなく、一小隊規模の人数がガジェット群と今も戦っている。シャーリーはハッとしたように通信士のアルト・クラエッタと
ルキノ・リリエに指示を飛ばす。
「アルト、現場の状況を映像に映し出してもらえる?それからルキノは八神部隊長を呼んでくれるかな?」
そう指示を受け、アルトが手元のキーボードを操作し、現場の映像をモニターに表示する。
最後にエンターキーを叩き、映像が大画面モニターに映し出される。
「完了しました!映像、出ます!」
「…え…?なにこれ…?」
モニターに映し出された映像を見てまたも言葉を失うシャーリー。今回はシャーリーだけではなく、司令室内にいたアルト、ルキノ、それに
部隊長補佐を務めるグリフィス・ロウランも同様に言葉を失ってしまう。それもそのはず、眼前の映像では見たこともない軍服を着た部隊が
この世界では違法とされている質量兵器を手にガジェット群と戦っていたのだから。さらには、キャタピラで走行する巨大な砲塔が取り付けられた車。
シャーリーたちはそれを初めて目の当たりにするのだが戦車という質量兵器であった。その戦車の砲塔が20度ほど上に角度をつけたかと思うと、
バシュッと言う音とともに砲塔から砲弾が発射され放物線をえがくようにしてガジェット群に着弾。大爆発を起こし今のでモニターで確認する限り
5体のガジェットを撃破した。ドレッドノートは三種類の兵装を搭載している。主として敵戦車に対して発射する徹甲弾。これが主砲である。
続いて、草むらに匍匐していたり、土嚢に隠れている敵兵に対して有効な榴弾砲。先ほどガジェット群に対して用いたのがこれだ。
最後に、接近してくる敵兵に対する迎撃に用いられる機銃。突撃兵の装備するサブマシンガン並みの威力があり、敵兵に対しては申し分ない威力を持つが
敵戦車に対してはほとんど無力と言っていい装備でありまた、こちらから攻撃を行う際は先の徹甲弾・榴弾砲を用いればいいので、迎撃以外に
用いられることはあまりない。散布界が広く当たり難いという欠点があるためだ。更に、威力の高い兵装のみならず堅甲な装甲と十分な機動力を備え、
ガジェット群の攻撃を受けてもびくともしていない。そして、その戦車をガジェットの攻撃から身を隠す防壁として使う歩兵たち。
移動する戦車を盾にすることで敵の攻撃から身を守りつつ、サブマシンガンの射程に入ったところで一斉掃射を浴びせ、ガジェットを駆逐していく。
そのほかにも、トランシーバーを手に他の隊員たちと連絡を取り合い、建物の影に隠れながら接近してくるガジェットを各個撃破してゆく。
「…すごい、もうガジェットの8割が撃破されてる…」
シャーリーがつぶやく。ここまで練度の高い部隊は時空管理局にもどれくらいあるだろうか。そう思ったとき、司令室のドアが開き茶髪の少女が入ってきた。
「ごめん!遅くなってしもうて!」
彼女こそこの機動六課部隊長・八神はやて陸上二佐だった。そして同時にそれを待っていたかのように濃紺の髪を後ろに束ねた少女がその小さな身体に
似つかない大きな、ほかの隊員たちが持っている武器とは明らかに違う兵器を構えたかと思うと、砲身が赤く発光し、次の瞬間その砲口から数条の赤い光線が
解き放たれ、残りの2割のガジェットもそれによって撃破されてしまった。―武装解放。彼ら422部隊が持つ3つの切り札のうちの一つだ。
彼女、もといイムカの持つヴァールの真の力を呼び覚まし、イムカの視界にとらえられている敵影をすべてロックオン。そしてトリガーを引くと
先ほどのように赤い光線が榴弾砲のような軌道を描きつつ敵に着弾。爆発を起こし敵を撃破するという仕組みだった。
「ガジェットドローンⅠ型、全滅を確認しました」
アルトが422部隊の戦果をその場にいた全員に報告する。一方、422部隊の損害はというと…ほぼゼロと言っていい状況だった。
知能がそんなに高くないガジェットドローンⅠ型が相手とはいえ、この結果にははやても舌を巻いた。
「地上本部よりも前にあの人たちにコンタクトを取りたいな。ルキノ、なのはちゃんかフェイトちゃんに連絡して、動ける方どっちか、あるいは両方に
現場に向かってもらえるよう要請してくれへんかな。今もっとも早く現場に向かえるのがあの二人やろうし」
「了解しました。………八神部隊長、お二人とも動けるそうです。なので、現状を連絡し、現場に急行するよう要請しました」
「仕事が早くて助かるなルキノ。さて、じゃあ後はなのはちゃんとフェイトちゃんに任せよか」
そして、再び422部隊。ガジェットドローン群の襲撃を難なく退け、隊長のクルト以下、隊員21人は廃棄されたビル群の中でこれまでの状況を整理していた。
まず、ここはどこなのか。また、さきほどの襲撃者は何者なのか。そして、これからどうすべきか。当然というべきか、隊長のクルトがまず最初に議題を提示した。
「みんな、突然の事態にも動じずに冷静に俺の指示に従ってくれたことに感謝する。さて、まずはこれまでの流れを整理しようと思うのだが…」
「えっと、なぜか正規軍から攻撃を受けて、砲弾が私たちに着弾したと思ったら、体には傷一つついてなくて、気が付けばここにいたんですよね」
NO.24 アニカ・オルコットがすべての始まりを語る。よく言えば活発、悪く言えば落ち着きがない少女で年齢は17。突撃兵を務め、
性格は謙虚で他の隊員たちが自分よりも少しでも優れた部分を持っていればそれだけで尊敬の対象となる。
アニカの語るように、砲弾が着弾した際の強烈な閃光に包まれ、気が付けばこんな見知らぬ場所にいた。
それが彼らの置かれた境遇だった。ここでクルトは因果律で考えることにした。因果律とは原因と結果の関係のことであり、わかりやすく言えば
道を歩いていて何かに躓き転んだという原因と、膝を擦りむいたという結果、この関係が因果律である。
つまり、先ほどアニカが語った砲弾の着弾またはそれによる閃光を原因だと仮定するならば、その結果超科学的な力が働き、422部隊をこの未知の場所に
飛ばしたと考えられる。クルトはこの考えを隊員たちに話した。するとそれに反論するものがあった。NO.12 ヴァレリー・エインズレイである。
422部隊でも1、2を争う頭脳の持ち主で年齢は28。偵察兵を務め、持ち帰った情報をもとにクルトらと作戦立案を行う才女である。
「隊長、いくらなんでもそれは荒唐無稽すぎるのでは?」
「だけど、隊長の言うように現に僕達はこうして未知の場所にいる。ヴァレリーさんはそれ以外に僕達がこんなところにいる理由を説明できるんですか?」
ヴァレリーにさらに反論したのは、NO.45 セルジュ・リーベルトだった。422部隊で唯一少年と呼べる隊員で年齢は18。本来は支援兵だったのだが
クルトにその卓越した射撃の腕を見込まれ、狙撃兵へと転向した。確かにセルジュの言うように現時点でクルトの考えを妄説だと切り捨てられる根拠はなく、
ヴァレリーも反論することはできずに口をつぐんでしまった。すると、唐突に口を開く者があった。
「ここがどこか、なんで俺たちがここにいるのかなんて考えても仕方ないさ。それよりもさっき襲ってきたあいつら、ありゃ何モンなんだい?」
そう語るのは、NO.25 セドリック・ドレーク。悪知恵が非常によく働き、また銃器の扱いにも非常に長け、体力も非常に高いため頼りにされている突撃兵で
年齢は47になるが、その正体は窃盗、強盗、殺人までありとあらゆる犯罪を重ね、逮捕と同時に処刑台直行が確定している完全無欠の犯罪者である。
セドリックの言うようにここがどこかなど考えていても仕方ない、というか答えを出すにはあまりにも情報が不足していた。
先ほど襲ってきた襲撃者。あれは何者なのか。そこらじゅうに転がっている襲撃者の残骸を調べてみても、中は見たことのない部品がたくさん詰まっていて
人が入れるスペースがあるとはとても考えられない。となると、この機械が意思をもって422部隊を襲ったということになるのだが、問題なのはクルトたちの
世界にはこんなものを作る技術力は存在しないということだった。何せ航空機ですらまだ実用段階には至っていないのだ。
ということは、先ほどの議論の答えの一つとして導き出されるのは、ここはクルトたちの世界ではないということだった。
「にわかには信じられん話だが認めるしかないのだろうな。待て、問題はほかにもあるぞ。これらが機械だということは当然、作った側がいるということだろう?」
NO.16 エイダ・アンゾルゲの言葉にハッとした表情になる隊員たち。エイダはセドリックの422部隊入りを知り、あとを追うように422部隊に入隊した
筋金入りの刑事で、年齢は28になる。刑事だけあり射撃の腕は超一流で、セルジュに勝るとも劣らず、結果422部隊の狙撃班をセルジュとともに任されている。
エイダの言葉通り、機械は人の手によって作られるものであり、今回の襲撃者を作り出した何者かが、422部隊をイレギュラーとして排除しようと
差し向けたものと考えられる。しかも、数を考えるに量産化に成功しているのは確実で今後これらの改良版が出てこないとも限らず、これからの
行動に慎重さが求められることとなった。一様に不安げな表情を浮かべる隊員たちをよそに、常にマイペースなジゼル・フレミングが独り言をつぶやいた。
「これからどうしよう……」
そう、422部隊にとって今もっとも重要なのはこれからどうするかである。先ほどの襲撃者の調査によりここがクルトたちの世界ではないことが
判明したが、今後もこの襲撃者に襲われる可能性は高い。幸い、422部隊の拠点となる移動車両一式は先ほどの戦いでも傷一つつくことはなかった。
これを拠点としこの世界を調査しつつ元の世界、彼らの故郷ガリアへ帰る方法を模索することになるのだが…クルトがカリサにあることを尋ねた。
「カリサ、弾薬や燃料はあとどれだけ残っている?」
「救出任務に赴く前に補給を受けたばかりですからまだ十分な量が残っていますよ。ですが、無駄遣いは厳禁です」
NO.63 カリサ・コンツェンは戦車長のほかに軍の元兵站部所属として物資担当係を任されている。ちなみに422部隊で唯一年齢が明らかになっていない。
また、美人ではあるがかなりの毒舌家で、営業スマイルでえげつない発言を連発したりする。
物資の量は十分だが、弾薬・燃料には限りがあるため極力戦闘は避けたい。そのためにはこうして全員で行動するよりも、部隊を3つに分け分担して
調査する方が効率的かつ見つかるリスクも少なくなる。だがもし発見された場合、少数では対処しきれないかもしれない。
悩みどころであり、ここが隊長であるクルトの決断力によった。腕を組み、冷静に思考をまとめるクルト。
そんな時、呆然と空を見上げていたNO.56 ダイトが何かに気づき、隊員たちに話しかけた。
「おい、みんな…空から何か来るぜ…」
イムカと同じ濃紺の髪を持ち、皮肉屋で厭世的な27歳。422部隊一の長身で191cmを誇る。手先が器用であるため技甲兵を任され、地雷の撤去や土嚢の修復、
手にした軍用レンチで鉄扉や敵の守るコンテナを破壊する役目を担う。
ダイトから報告を受けたクルトは一時思考を中断し、隊員たちに指揮を飛ばす。
「突撃兵、技甲兵、機関銃兵は戦車を背にする形で戦闘配備、対戦車兵は戦車の両翼に展開、偵察兵はいざという時の退路を捜索、狙撃兵は
建物に上り見えない位置から狙撃体制に着いてくれ」
クルトの指示が飛ぶと、隊員たちは即座に配置に着いた。偵察兵はリエラ、ヴァレリーら6人を擁するため、一人でも退路を見つけてくれればというクルトの狙い。
突撃兵、機関銃兵で弾幕を展開しつつ、敵の反撃はダイトが展開する巨大な盾に隠れてやり過ごし、更に背にした戦車、対戦車兵による第2波攻撃。
さらに周りの建物に配置に着いたセルジュとエイダの援護狙撃。2人の征道射撃は標的を確実に打ち抜く。無駄のない作戦だった。
そして、ダイトが発見した『何か』がゆっくりとクルトたちの眼前へ降り立った。なんとそれは人であり、一人は全体的に白を基調とした服にところどころ
アクセントとして青が使われた服と、それに合わせた長いスカートを身にまとい手には何やら赤い宝石のようなものが付いた金色の槍のようなものを装備している
茶色の髪をツインテールにまとめた綺麗な顔立ちの女性だった。
もう一人は対照的に黒を基調としたスーツのような服に同じく黒のミニスカートを身にまとい、肩からは純白のマントを羽織っていた。
刀身そのものが光輝く大きな剣を装備し、金色の髪を黒いリボンでツインテールにまとめたやはり綺麗な顔立ちの女性だった。
2人とも年齢はクルトと変わらないように見えた。そして、茶色の髪の女性が口を開いた。包み込むような、優しい口調だった。
「私は時空管理局古代遺失管理部機動六課所属、高町なのは一等空尉です。あなたたちの名前と所属を聞かせてもらえますか?」
高町なのはという女性が語る時空管理局という組織に関してクルトは全く聞き覚えがなく、やはりここは自分たちの住んでいた世界とは違うのだということを確信した。
しかし、彼女の問いに答えることはできない。なぜなら
「悪いが、軍規により我々の所属と名前を名乗ることは一切禁じられている。残念だがあなたの問いに答えることはできない」
そう、ガリア軍において彼ら422部隊は存在しない部隊として扱われるため時には本来非合法である国外任務も任せられるため、
所属と名前を名乗らなければガリア当局は一切関与していないとシラを切れるというわけだ。
先ほどクルトがマルギットにナンバーで互いを呼称するようにと命じた理由はここにあるのだ。すると、ここで金色の髪の女性が話に割って入る。
「ですが、ここはあなたたちの住んでいた世界とは違います。ならばあなたの語る軍規もこの世界にまでは及びません。
それに、何もわからないとあなた方を元の世界に送り届けることもできませんよ」
「…あなたは?そしてなぜ我々がこの世界の住人ではないと断言できる?」
「…申し遅れました。私はなの…高町一等空尉と同じ所属の、フェイト・T・ハラオウン執務官です。どうぞよろしく。それと断言した根拠ですが」
そしてフェイトが語る根拠。フェイト達の世界、ミッドチルダではクルトたちの持つ武器は総じて質量兵器と呼ばれ違法とされているのだ。
つまり、それを軍が持っているはずがない。クルトは先ほど軍規と口にした。つまりその軍規とは、元の世界における軍規だと判断した、というのである。
「なるほど。確かにあなたの言うように我々はこの世界の人間ではない。さて、俺も自己紹介をしよう。ガリア公国正規軍第422部隊所属、NO.7だ。よろしく頼む」
「セブンさんというお名前なんですね。ガリア公国という国に聞き覚えはないですが、何とか無事元の世界に送り届けられるように努力しますね」
「いや、NO.7は名前ではなく…」
今度はクルトが語る番だった。自分たち422部隊は配属された瞬間から名前をはく奪され名を名乗ることを禁じられる。
だが、部隊内には相手を認めた場合に限り自らの名前を打ち明けるという習慣が出来上がっている。
クルトも422部隊に配属された直後は、認める認められない以前に隊員たちが彼の命令・指示に従わず戦闘に参加しないということすらあったが、
グスルグという一人の男の助力を得て隊員たちの信頼を獲得していき、今ではクルトはNO.56 ダイト以外全員の名前を把握している。
「…つまり、私たちのことを認めてはいないと?」
「ああ、会って間もない相手を認めろ、信頼しろという方が無理な話だろう。それで俺たちはこれからどうなる?」
クルトの答えになのはが悲しそうな表情を浮かべる。しかし、そこは不屈のエースオブエース。すぐに表情を切り替え、クルトの問いに答えを返した。
「あなたたちは私たち機動六課が保護します。あなた方の身の安全は保障しますので安心してください。それと、NO.7さん」
「なんだろうか」
「これからあなたたちと接していく中であなたたちが私たちを認めてくれた時には、名前を教えてくれますか?」
「もちろんだ。それが俺たち422部隊の流儀だ。さて、リエラたちを帰投させないと」
そしてクルトは無線を取り、リエラたち偵察班、セルジュたち狙撃班に合流するように命令する。だが、クルトはまだ知らなかった。
のちにJS事件と呼ばれるこのミッドチルダを揺るがす大事件に巻き込まれることを。
最終更新:2011年05月30日 19:51