二つの炎が燃え盛る戦場、静かに降り注ぐ雨に響き渡る剣と剣がぶつかり合う音。
雨に降られても燃え滾る熱き炎の音、それだけがこの空間を支配していた。
よく見れば彼らは服装こそ違いはしても、まったく同じ顔でまったく同じ炎でまったく同じ目的で闘っていた。
闘う理由はただ一つ、目の前にいるこの自分と同じ存在が心底気に入らない、ただそれだけである。
呆れるほど単純な理由で闘うこの二人。赤を基準とした黒で縁取ったジャケットを身にまとい少し変わった両刃の剣を使う男と、
白のマントに赤いインナーを身にまとい巨大な鉄の塊を振るう男。
二人の名前は同じ、“ソル=バッドガイ”。本来ならばぶつかり合うはずが無いこの二人、
不幸にも空間のゆがみに捕らえられ赤いジャケットの方のソルが未来から跳ばされてしまった。
それによって本来歴史には無いありえない闘いが生まれた。それがこの空間を生み出し
た原因である。
数え切れないほどぶつかり合った剣、相手を殴り飛ばした際に付いた、血が付いたガン
トレット、炎にこげたジーンズの裾。爆炎と衝撃でもっていかれた地面。それがこの戦い
の凄まじさを表現している。
どれだけの時間が過ぎたかはわからない、しかし今決着をつけようと己のみに人間とは
ないほどの法力を溜め込む二人、それを炎として解放し相手の身にたたきつけようと双方
構える。
時が止まる、降り続いていた雨の音も聞こえない、聞こえるのは己の鼓動、開放するた
めの術式もすでに完成している。お互いがお互いを見てニヤリと笑う。直後に開放される
力の渦、叫びにも聞こえるこのコエ、二人は同じ叫びを上げた。
「タイランレイブ!!!」
力はぶつかり合い空間を歪ませた。一人は正しき世界へ、もう一人はこの世界ではない
ところへと跳ばされていった。
こうしてソル=バットガイは2172年、聖戦の真只中にこの世界から消えてしまった。
気がついたらそこは街中のような場所。そこに自分ひとり倒れていた。(この時代にこん
な場所がまだあったのか?しかし誰もいねぇ。)と疑問に思いながら傷だらけの体と焼けて
すすけたマント姿で探索を始める。結局奴とは決着は着かなかったが久々に力を使ったの
で今はすっきりしている。しかし自分がなぜここにいるのかまったくわからない。
(さっきまで研究所の後付近で戦っていたはずだ。相手はおそらく未来から来た俺自身、
気に入らないから切りかかったら向こうも気に入らなかったのか切りかかってきやがっ
た。)
ふっ、と笑うソル。胸に入れていたタバコが雨で濡れてだめになっていたのにはイライ
ラした。「まったく、やれやれだぜ。」
そんな時、聞こえてきたのは悲鳴の様な、怒鳴り散らす様な女の声。
「人がいるのか、此処から割と近いな。此処が何処だか調べる手間が省けた。」
戦闘になるかもしれないと、先ほどその辺にある壊れたブロックを削ったものを肩に下げ
ソルは走りだした。
その頃
なのはは、ゴールに突っ込んできた二人をネットで無事キャッチ。スバルと再開を果たし
ていた。その時である、「何だ、此処には女子供しかいねぇのか?」
突如後ろから低い男の声がした。
「誰!?此処は私たち以外立ち入り禁止になってるはずだけど・・・」
いつでもデバイスを起動できるようにはしてあるが、ここにいる全員を守りながら闘える
だろうか・・・そう思いながら答えた。
「気がついたらここにいた、それだけだ。今はそんなめんどうなことをするつもりはない。」
ソルは、女の目から敵意を感じたので先に釘をさしておいた。後ろの二人はあまりの展開
についていけてない。リンフォースⅡのほうはいつでも大丈夫な様子だった。この男は何
いっているのかと思考をするうちに一つの結論が出た、(異世界から来た?そうすれば今ま
で会話とつじつまが合う。)そういきついたので、
「判ったわ、話を聞きましょう。」
「ちょ、なのはさん!?」
そこにいた人間は全員同じ声を上げなのはを見た。
「私は高町なのは一等空尉、貴方は?」
“この女、存外に出来るようだ”そう思うと少しおかしくなり思わずニヤリとしてしまう
が此処は答えておくべきだろうと思い、「俺はソル、ソル=バッドガイだ。」と答えた。
こうしてありえない出会いは再びありえない出会いを生み出した。「あの男」さえ予期し
なかった出来事だが、歯車はすでに動き出していた。
最終更新:2007年08月14日 17:44