「ふむ…」
自室のモニターを眺めていたスカリエッティがどこか楽しげな笑みを浮かべる。
「この世界を見つけるのは骨がかかっただろうね。ありがとうウーノ」
椅子を回して後ろを向き、直立不動の姿勢をとっているウーノに対して
スカリエッティは満更お世辞でもない労いの言葉をかける。

「ありがとうございますドクター」
スカリエッティのもとで情報分析を務めるウーノは心の底から嬉しそうに返事をした。
「しかし世界は特定できましたが情報収集用のポッドを送り込むのが精一杯でした、申し訳ありません」
「なに構わないよ、私が興味があったのはあの男のことだけだからね」
それにしても、とスカリエッティは興味深そうに話を続ける。

「こんな人物がいるものなんだねぇ。物語にだってここまであからさまに才能を与えられた登場人物はなかなか登場しないよ」
知っている人が聞けば「お前が言うな」と言いそうなものだが
スカリエッティは心底感心したようにその男、ジルグのいた世界であるクルゾン大陸での彼の経歴を改めて一瞥する。

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本名:ジルグ・ジ・レド・レ・アルヴァトロス
クリシュナ王国の名門アルヴァトロス家の一人息子として誕生
学業、その他あらゆる分野において他の追随を許さぬ成績を残し
彼の父親であるバルド将軍を含む『クリシュナの双璧』をはるかに凌駕する将軍になると期待された逸材。

彼の世界にあった戦闘の主力であるゴゥレム乗りとしての技量も突出しており
クリシュナ王国の王国中央特別兵軍養成学校において
毎年開催される「射撃」「遠距離射撃」「剣術」「槍術」「総合戦闘」の5部門で競われる
ゴゥレム実技大会に3回出場し2年連続で5部門優勝
3連覇は逃したものの最後の年は槍術以外の4部門で優勝、槍術で準優勝
学業の面においても全てにおいて他の生徒を圧倒していたという。

行軍訓練中突如味方を射殺し投獄されていたが
アテネス連邦王国における戦争中釈放され、鹵獲ゴゥレムであるエルテーミスを短期間で慣らして出撃し
初陣にもかかわらず単騎で凄まじい戦果を上げるが、敵軍に捕縛され処刑される。享年19歳。

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管理局においては20過ぎと称しているそうだが、おそらくこちらの世界の未成年では何かと不都合が多いと判断したためだろう。
本名や詳しい経歴なども明かしている様子はない。

敵に回すにせよ味方に引き込むにせよ、ここまでインチキくさい経歴を持つ男だったとは
さしもののスカリエッティの予想を超えていたようである。

「そういえば彼にやられたノーヴェの容態はどうかね?」
むしろ彼女の容態よりも直接刃を交えた(正確には一方的に蹂躙された)彼女からの様子を聞きたそうなスカリエッティ。

「はい、回復の方は順調です。近いうちに実戦に復帰できるでしょう」
「そうかね、それは良かった。彼女さえよければぜひ再戦して雪辱を晴らしてみて欲しいものだね」
単純に興味を持ったジルグの戦いぶりを見たいというのが本音なのだろう。
他に刃を交えた経験のあるゼストはスカリエッティを嫌っているため感想を話したりはしてくれない。
自分の配下が半殺しにされたというのにその相手に対して
まるで新しい玩具を与えられた子供のような目を向けるスカリエッティに
さすがのウーノも内心呆れとノーヴェに対する同情の念が湧くのであった。

「そういえば彼の世界に対する干渉手段については調査しなくても良いのですか?」
「私が興味を持っているのは彼であって彼が『かつて存在した』世界ではないからね。
それに文明のレベル的にも干渉するには値しないよ」
ウーノの提案を笑いながら一蹴するスカリエッティ。
並の人物であれば自分が元いた世界を取引材料等に使えるかもしれないが
少なくともジルグに対しては全く意味がないだろう、との感想をスカリエッティは抱いている。
ならばジルグの情報以外にクルゾン大陸に価値はない、と感じてもおかしくはない。
わかりました、と返事をして部屋を出て行くウーノを見送ると
再びモニターに向き直り、楽し気な表情を崩さぬまま次なる『遊び』の考案に入るスカリエッティであった。

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最終更新:2012年11月16日 12:58