あの人に出会ったのは、まだフェイトちゃんと友達じゃなかった頃の話。
ロストロギア『ジュエルシード』をめぐる、後にプレシア・テスタロッサ事件と呼ばれる事件での事。
あの人は傷だらけの体で突然現れ、そして全ての記憶を失っていた。
そう、自分が誰なのかさえも…。

魔法少女リリカルなのはA's -NOCTURNE-、はじまります。



第1話『かくて、少女は狩人と出会う。(前編)』



「東京の方で時空震…、ですか?」
その日なのはとユーノは、リンディに呼び出されていた。
「ええ、そうなの。ジュエルシードの反応は無いんだけど、念のため確認に行って欲しいの。
 本来なら他の局員に行ってもらってるんだけど、今ほとんどが出払っちゃてるの。」
リンディはそう言って、申し訳なさそうにしている。
なのはとユーノはそれを見ると互いの顔を見てうなずきあい、
「わかりました。お引き受けします。」
そう、答えた。
それを聞くとリンディは微笑み、
「ありがとう助かるわ。で、肝心の場所なんだけど…。」
そう言ってコンソールを操作し、モニターにマーキングの入った地図を表示させる。
「どうやら公園みたいね。公園の名前は、『井の頭公園』ね。」
リンディが告げたのは、とある世界で滅びの運命が始まるきっかけとなる事件が場所であった。


男は、森と思われる場所をさまよっていた。
(ここは…、どこだ?この傷は、一体?)
男の体は常人であれば動く事も出来ないほどの傷があった。
(ちっ、とりあえずここから出て傷の手当てが先か…。)
男はそう考え、この森から出るためにその傷だらけの体を引きずりながら移動を始めた。


男が移動を始めた頃、なのはとユーノは井の頭公園の入口に到着していた。
「ここが井の頭公園かぁ~。でも、夜だから誰もいないみたいだね。」
なのはは苦笑しながらフェレットモードで自分の肩に乗っているユーノに告げる。
「うん、誰かに見られる可能性が少ないのはありがたいけど、どんなことが起きるかわからないから気をつけて。」
ユーノはそう言いながら周囲を警戒している。
「わかったよ、ユーノ君。」
そう言ってなのはは、レイジングハートを構えなおし公園内へ進もうとするが…。
「あれ、何か事件でもあったのかな?」
公園の入口には、『KEEP OUT 立ち入り禁止』とプリントされた黄色いテープが張られていた。
「えーと、どうしようユーノ君…。」
なのはは困った顔でユーのに問いかける。
「う~ん、時空震の反応は公園の中から出てる以上中に入って調べるしかないよ。」
ユーノも困った顔でなのはにそう告げる。
「そっ、そうだよね。それじゃ、お邪魔しま~す。」
誰に断っているのかわからないがなのははそう言いながらテープをくぐろうとする。
だが、その瞬間…。
「ふむ、こんな時間に立ち入り禁止と書かれているところに子供が入ろうとするのは感心せんな。」
「ひゃぁーーっ!」
突然、背後から響いた老人の声になのはもユーノも心底驚かされた。
だが、それでも声を出さなかったユーノは男の子としての意地か、それとも声が出ないほど驚いたのか。
「ふぉっふぉっふぉっ。もう、夜も遅いのじゃからあまり大きい声はいかんぞ?」
声の主は、自身がその原因にもかかわらずそんなことを言っていた。
そして、なのはは、少し涙目になりながら老人のほうへ向き問いかけた。
「あっ、あの、どこから見ていました?」
そう、声をかけられるまでまったく気配のしなかった老人。
彼がどこから見ていたのか、もしかして魔法を使っているところを見られたのではないか。
その不安がなのはにはあった。そしてその不安は的中する。
「うむ、おぬしがその靴から奇妙な羽を広げて降りてきた辺りからじゃな。」
老人は、その長いあごひげを撫でながらそう告げる。
つまり、最初から見られていたということだ。
(どどどどっ、どうしよう!ユーノ君!!)
なのははとことんまで慌てていた。
それはそうだ、完全に言い訳できない状況を見られていたのだから。
(とととっ、とりあえず落ち着こうなのは!)
ユーノもユーノで慌てている。
だが、そんな二人に意外なところから救いの手が差し伸べられる。
「まさかこんなところで魔法を使う者に会うとはのぅ。」
「「へっ?」」
二人は同時にその声がしたほうへ向く。
その先にいたのは例の老人である。
「あの、その、おじいさん魔法の事知っているんですか?」
なのははおずおずと老人に向かって尋ねる。
老人のほうは飄々とした態度でこう答えた。
「知っとるも何も、わしも魔法を使うからの。」
「そっ、そうなんですか!?」
ユーノは驚いて声を上げる。
突然の驚きと夜であることも手伝ってよく見ていなかったが、見ると老人はあぐらをかいた状態で浮かんでいる。
何かで吊り上げていると言うことも無く、これでは魔法使いではないというほうがおかしいだろう。
「いかにも、わしの名はアガレス。おぬしらは?」
アガレスは自らそう名乗るとなのは達の名を聞いてきた。
「あっ、高町なのはです。」
「ユーノ・スクライアです。」
なのは達は姿勢をただし自分たちの名前を名乗る。
「ふむ、なのはにユーノか…。おぬしらは何故ここに来たのじゃ?」
アガレスは、なのは達の目的を問いかける。
「ハッ、ハイ。この辺りで起こった時空震の調査に来ました。」
「ちょっ、なのは!」
あっさりしゃべったなのはにユーノは慌てる。
それはそうだ、アガレスと名乗る老人の目的がわからない以上こちらの事を喋るのは危険だからだ。
「なるほどのぅ。じゃが、つい最近この公園で傷害事件が起こった聞くぞ?それでも行くのか?」
まるでなのは達を脅すようにアガレスは問いかける。
「行きます!それが今、私がやるべき事ですから。」
なのはは、その脅しとも取れる問いかけにもひるまず答える。
まったくおびえず答えたなのはに老人は目を丸くし、そして…。
「ふぉっふぉっふぉっ。いい目をしておるの、なのはよ。」
一本とられたとばかりに笑い出す。
アガレスは、ひとしきり笑った後こう告げた。
「ならば行くがよい。おぬしなら何があっても乗り越えそうじゃしの。老人の出る幕はなさそうじゃ。」
そして、アガレスは去ろうとする。
「ちょっと待って下さい。」
そう言って引き止めたのはなのはの肩に乗っているユーノだ。
引き止められたアガレスは、ユーノのほうに目を向けそしてなのはのほうに向きを変える。
「なんじゃ?何か他に用があるのか?イタチの使い魔よ。」
そう言いながらアガレスはなのはの肩に乗ったユーノに顔を近づける。
「ボクはユーノで、この姿はフェレットですっ!!…って、違った。あなたは『何者』ですか?」
イタチに間違われたことに激昂するが、すぐに思考を切り替えアガレスに問いかける。
「え?え?どういうこと?ユーノ君。」
なのはは、訳がわかっておらず?マークで頭がいっぱいになる。
「なのは、このアガレスさんは確かに魔法使いだ。こうやって宙に浮かんで移動もして見せた以上疑う余地は無いと思う。
 でも、こっちの目的は話したけどあっちの目的は聞いていない…。」
そう言って、ユーのは警戒心をあらわにする。
「ふむ、イタチ君はワシが敵ではないか?と、思っておるのか。」
アガレスは、なのはの肩のユーノに顔を近づけ、まるでからかうように問いかける。
「だからイタチじゃ…っと、話をはぐらかさないで下さい!」
「やれやれ、イタチにいちいち反応しとるのはおぬしじゃろうに…。」
怒りだしたユーノからアガレスは少し離れ話し始める。
「ワシの目的か…。まあ、おぬしらと同じじゃの。」
そう言って、まるでめんどうくさいと言わんばかりにあごひげを撫でる。
「つまり、時空震の調査ですか?」
アガレスの態度を意に介さずユーノは質問を続ける。
「ああ、そうじゃ。ひとつ付け加えると人探しもじゃな。」
「人探し?それは誰ですか?」
なのはが、アガレスのもうひとつの目的である人探しの部分に反応する。
「ん?ああ、ちょっとした知り合いの息子じゃよ。」
なのはの問いに、アガレスはやはりめんどくさそうに答える。
「?、なぜ人探しと時空震の調査が一緒になるんですか?」
ユーノは、アガレスの説明から感じた疑問を口にする。
「おぬしらにそこまで説明する義理はないのぅ。」
そう言って、アガレスは説明を拒否する。
「そんな…。もし人探しに時空震が関係しているなら、詳しく話してくれたら私も時空管理局の人もきょ……。」
協力してくれる。そう言おうとしたなのはをアガレスは手で制する。
「なのはお嬢ちゃんの優しさはありがたいが、その申し出は断らせてもらおうかの。」
アガレスは申し訳なさそうにそう言った。
「なぜです?その『知り合いの息子さん』が時空震によっていなくなったと言うのなら時空管理局はきっと協力してくれます。」
そう言いながらユーノは思った。
(この老人はまだ何かを隠してる。)
その瞬間、アガレスは突然空へ上昇し、なのはたちの元を離れる。
しまった、ユーノがそう考えた時にはすでに遅く、かなりの距離まで離れられてしまう。
「アガレスさん!待って!」
なのははそう叫ぶが、もちろんアガレスは止まらない。
だが、最後にアガレスの念話が聞こえる。
〈それじゃぁの、なのはお嬢ちゃんにイタチのユーノ坊や。そのやさしい心を大事にな。〉
そしてアガレスの姿は完全に見えなくなった。
「どうしよう、ユーノ君…。」
なのはは困った顔でユーノに問いかける。
「…どうしようもないよ。完全に逃げられちゃったし、それにこれは聞きそびれた事だけど実はアガレスさんから魔力反応が無かったんだ。」
その言葉に、なのはは驚く。
「え?何で?アガレスさんは魔法使いだって……。」
なのはのその言葉にユーノは首を横に振る。
「多分、魔力を隠していたんだと思う。もしかしたらアースラの方でも反応はしていないかもしれない。」
ユーノのその言葉になのはは言葉を失う。
「なのは、思い出してみて彼は僕らが来た時から居たと言ったんだ。彼はあぐらをかいて宙に浮いていた。
 僕らが来てからわざわざ宙に浮き始めたわけはないし、はじめから浮いていたなら少しでも魔力反応があるはずだ。」
そういわれてなのはは気づく。
「あ、そうか最初にきた時、私たち気づかなかったんだよね。」
そう言ってアガレスに驚かされた事を思い出す。
「…とりあえず、今は考えても仕方がないし公園の調査を始めよう。」
ユーノは、なのはに当初の目的を促す。
「うん、わかったよ。」
そう言ってなのはは公園内に入って行こうとするが……。
その瞬間、何者かが公園から出てくる。
いや、出てくるという表現は間違っていた。
公園から出ようとして立ち入り禁止のテープに引っかかって倒れたからだ。
「だっ、大丈夫ですか!?」
ユーノが止めるまもなくなのはは、その倒れた人影に慌てて駆け寄り、そして驚く。
「ユーノ君!どうしよう、この人ひどい怪我だよ!!」
なのはの言う通り男の怪我はひどかった。だが、救急車を呼ぶわけにも行かなかった。
それは男の持ち物のせいであった。
男はその背に大剣を背負っており、さらには着ている服に隠れているが腰の左右に拳銃のようなものまであったからだ。
「…アースラに連絡しよう。恐らくだけどこの人は時空遭難者だと思う。確認された時空震で飛ばされてきたんだよ。」
ユーノは、そう分析する。そしてそれは間違ってはいなかった。
こうして男は、アースラへと保護されることとなる。
そして、男がなのはに介抱される様子を遠くから見ているものが居る。アガレスである。
「ふむ、スパーダの息子め。やはりこの世界におったか。
 やれやれ、怪我もひどいようじゃし、なのはお嬢ちゃんにまかせて出直すかの。」
そう言って、アガレスはこの世界から去っていった。


男が目を覚ましたのは、なのはに救助されてから三日後のことである。
アースラの廊下を歩いているリンディに、
「リンディ提督。」
そう言って、困った表情のクロノと真剣な表情のエイミィが近づいてくる。
「あら、二人ともどうしたの?」
リンディは微笑みながら二人を迎える。
「はい、三日前に保護された男に関することでちょっと。」
「私もです。彼の持ち物等についての調査報告があがってきたので。」
「わかったわ。なら艦長室へ来てちょうだい。そこで聞くわ。」
そう言って、三人は艦長室へ移動する。

「それじゃ、クロノ執務官の報告から聞かせてもらえるかしら?」
リンディは、デスクにつきながらそう言った。
「はい、実は彼が目を覚ましたと報告があったので事情を聞こうとしたのですが…。」
クロノはそこで言いよどんでしまう。
「?、何か問題でもあったの?」
リンディは、歯切れの悪いクロノに違和感を覚える。
「はい、どうも彼は記憶障害を起こしているみたいなんです。」
「記憶障害?それはまたややこしいことになっているわね。」
それを聞いてため息をつきながらリンディは率直な意見を口にする。
「ええ、自分自身の名前すら覚えてないみたいで取調べどころじゃなくって……。」
そう言って困った表情で両手を上げ、降参のポーズをする。
そこへ待ってましたと言わんばかりにエイミィが喋り始める。
「彼の名前くらいなら何とかなるかもしれませんよ。」
「あら、本当?」
その報告はクロノにとってありがたかった。
正直、名前すらわからないのでは今後のコミュニケーションにも関わるからだ。
「はい、彼の所持品の拳銃に名前と思われるものが刻印されていたんです。」
「そうか、これで少しは思い出せるといいが…。で、彼の名前はなんていうんだ?」
クロノは、エイミィにそう催促する。
「うん、銃に刻印されていたのは『-BY .45 ART WARKS FOR TONY REDGRAVE-』
 つまり彼の名前は『トニー・レッドグレイブ』ってことになるわね。」
エイミィは右人差し指を立てながらそう言った。
だが、そのエイミィの説明にクロノは違和感を覚え、そしてすぐ答えにいたる。
「ちょっと待ってくれエイミィ。もしかして『WARKS』の部分は『WORKS』の間違いじゃないのか?」
「うん、多分ね。でも銃の刻印はこのスペルで間違ってないからたぶん刻印ミスだと思う。」
クロノの指摘にエイミィは冷静に返す。
「で?エイミィ他にわかった事は?」
そのやり取りを中断させ、リンディは報告の続きを促す。
「あっ、はい、あと銃についてわかったことは銃の名前が『Ebony(エボニー)』と『Ivory(アイボリー)』と言う事、
 この銃が双子の銃であるという事、そして、刻印の通り『45口径の芸術品』であるという事です。」
その報告を聞きクロノが疑問を率直に言う。
「双子の銃?45口径の芸術品?どういう事だ、ただの銃だろ?」
その言葉に対して、エイミィは少し困った口調でこう返した。
「え~と、それがこの銃を調べた人間がかなりのガンマニアみたいで結構ディープな所まで調べたみたいなの。
 で、その報告の内容なんだけど『詳しく』聞く?」
まるで、後悔するわよ。と言わんばかりに詳しくの部分を強調して告げる。
だが、その二人のやり取りを見ていたリンディが口を挟む。
「二人とも、今は私に報告しているんでしょう?仕事は最後まできっちりやりなさい。」
「「しっ、失礼しました!リンディ提督!」」
二人は、息ぴったりにリンディに敬礼をする。
「ふう、仲が良いのはいいけど公私の区別はしっかりね?で、エイミィ報告の続きなんだけど…。」
リンディの言葉にクロノは文句を言いたそうにしているがそれを無視してエイミィに報告を促す。
「はい、で、あの、どうします?」
どうしますとはもちろん『詳しく』説明するかどうかだろう。
「かいつまんでお願い。少し気になるのよ。彼が持っていた銃は明らかに大型拳銃…。
 例え成人男性でも扱いは難しいわ。でも彼はそれを二挺持っていた。それにあなたが言っていた『45口径の芸術品』の意味もね。」
リンディは真剣な表情でそう言った。
「わかりました。まず、ベースになった銃はコルト・ガバメントと思われます。でも、大きさはまったく別物ですし、
 パーツの全てが丁寧に改修され材質も吟味された物に変更されているそうです。もう、主だった外見以外は別物らしいです。
 そして『双子の銃』の意味ですけど、あの拳銃はまったく同じデザインの様でも実はそれぞれが役割を持たされているんです。
 右手で構えるように作られた物は速射性能が重視されていて、デッドウェイトを限りなくゼロに近づけてあり、
 左手で構えるように作られた物は精密射撃用の調整が施されていて、右手用の銃を補佐する役割を持たされているようです。
 この銃の調査をした人間が言うには、これを作ったガンスミスは、まさしく『45口径の芸術家』と呼ぶに相応しい人物だ、との事です。」
エイミィのその報告を聞いていたリンディとクロノの顔は驚きの表情を作っていた。
それはそうだ、エイミィの報告を聞く限り男が所持していた拳銃は二挺同時に構えるものだ、と言うのだから。
そしてクロノはその驚きをすぐに口にした。
「ちょっと待て、エイミィ!それじゃ、彼は45口径の大型拳銃を片手で使えるということか?」
「わからない、もしかしたら片方ずつかもしれないけどたぶんクロノ君の予想で当たってると思う。」
エイミィは少し困った表情でそう返した。
「大型拳銃を二挺、両手で扱う…か。だとしたらとんでもないわね。
 ところでエイミィ、彼の持ち物はもう一つあったわよね。かなりの魔力を秘めた大剣が…。」
リンディは真剣な表情でエイミィに話しかける。
その言葉を受け、エイミィも真剣な表情になる。
「はい、むしろ銃よりそちらの方が本命なんです。
 で、リンディ提督にお聞きしたいんですけど提督は知っていますか?魔剣士スパーダの伝説を…。」
リンディとクロノははその言葉に驚きを隠せなかった。
魔剣士スパーダ…、はるか昔、ミッドチルダを救った英雄として今もごく一部の人間に語られる存在である。
「スパーダ伝説…。時空管理局が出来る大昔のミッドチルダに突如現れ、
 その当時、世界を荒らしていた邪悪を滅ぼし去って行った…。大体、そんな内容だったわね。」
リンディは、なぜ伝説でしか出てこない魔剣士スパーダの名前がここで出てくるのか考えながら答える。
「はい、実は彼の持つ大剣がスパーダ伝説に出てくるものと形状がほぼ一致しているんです。」
その言葉にクロノは声を荒げる。
「それじゃあ、彼は伝説に語られる魔剣士スパーダその人だとでも言うのか?」
「クロノ君、落ち着いて。それはまずありえないから。魔剣士スパーダの伝説はいつの時代のものわからないけど
 いくらなんでも生きてるはず無いと思う。それに彼の名前は、トニー・レッドグレイブよ。」
エイミィはそう言ってクロノをたしなめる。
リンディはその様子を眺めながらしばらく考えた後、デスクから立ち上がりこういった。
「記憶障害の彼に聞いてどこまでわかるかわからないけど、直接聞いてみるしかないみたいね。
 名前を教えてあげれば彼も何か思い出すかもしれないし、とにかく彼に会ってみましょう。」


こうしてリンディ達は、男の名が『トニー・レッドグレイブ』だ、と思い込んだまま会う事になる。
確かに『彼』の名前に違い無かった。だがその名は、かつて捨てた名前。
そう、『彼』の少年時代の終わりに…、双子の銃『Ebony&Ivory』を手に入れた時に捨てられた名であった。

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最終更新:2007年08月14日 17:50