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「第87観測指定世界の遺跡発掘現場から、レリックの発見報告があったのが二十分前。
十分前に通信が途絶。途切れる直前の通信から、大量のガジェットが確認されています……気をつけて」
スターズ四名、ライトニング四名の合計八名。前線部隊のフル出動だ。遅れを取るような相手はそういない。
故に、最大の敵は時間。十分―――間に合うか。
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空中に跳び上がる/上昇/落下/刹那の無重力。右手に力を込める/蒼白い火花が散る―――『ブリューナクの槍』発射の前兆。
二次災害を起こさない為に出力を絞る。床の材質/厚み―――不可、最低出力の射撃であっても床を貫通し余波で崩落させてしまう。
舌打ち一つ/発射プロセスを中断。空中に向かって振るわれる鞭/放たれる光弾―――身を捻る/鞭を蹴り飛ばす/光弾を掻い潜る―――翻る深緑/軍用コート。
着地/落下の運動エネルギーを旋回運動に転化し右の掌/拡散を始めた荷電粒子を叩き付ける。超高温によって敵の外装/内臓機器が蒸発。
飛び退く。敵戦力、即ち数/配置を再確認。進入したのは八体/残り七体、確認されている武装は射撃、白兵それぞれ一種。
思考ルーチンは極めて単純―――進行し、敵性と判断したものに攻撃を仕掛ける/射線上に味方が居ない場合のみ。高度な連携戦術は現状確認されていない。
無数の光弾が迫る/右手を掲げる/稲妻が奔る/光弾が掻き消される―――ギャローズ・ベルにてジャバヴォックの砲弾を砕いた攻性防御。
反撃―――荷電粒子砲の射撃/やや上向きに/二体纏めて貫通/砂漠の空へと消えていく。周囲に満ちる生臭さ―――オゾン臭。
反撃―――荷電粒子砲の射撃/右から左へ薙ぎ払う/持続射撃―――残りの五体に加えて出口付近に群がっている敵を一掃。
その隙に一旦退却―――冷却。『ブリューナクの槍』の超高熱は自らをも灼く。連射は三発/持続射撃は一秒が限度。
更にこちらの戦力を整理―――自分/戦闘用ARMS一体と発掘員六名/『魔導師』達。
傍らで腰を抜かしていた髭面の男/彼らのリーダー格に声を掛ける。
「立てるな?」
「あ、ああ。アンタは一体……」
「教えてやる暇は無い。それより、この鉄屑どもについて知っていることを言え」
「……ガジェットドローン。『レリック』を狙う機械兵器だ。
AMFを展開して魔力結合を阻害、無力化するのが厄介でな。俺達に扱える魔法は一切効かん」
思考する―――攻撃能力を持つのは自分のみ/防御能力を持つのは全員。
背中に何かを護る戦い―――拠点防衛。制圧/殲滅戦に比べれば自分の経験は非常に浅い。
「ここ以外から侵入されている可能性は?」右腕を背後に回す/出口側に荷電粒子砲を放つ。
「隔壁がある。破られれば箇所に応じた警報が鳴るのでそれは無い」進入を試みていた『ガジェット』とやらを一掃。
防衛すべき箇所は一つ/正門のみ―――カリヨンタワーに比べれば随分と楽だ。
「六人の内、広く盾が張れる二人を下がらせろ。流れ弾が止められるだけで相当に戦い易くなる。
残り四人は交代で先頭のガジェットドローンに砲撃だ。指示を頼む」
「砲撃? 何故だ、奴らに効かんのはアンタも見ただろう?」
「防御に出力を回したのか知らんが、砲撃を受けている奴は動きが止まっていた。
途切れさせなければ足止めは出来る筈だ」左腕を変異させる/男が思い出したようにぎょっとする。
「そこをアンタの砲撃で仕留める……か?」
「そうだ……それなら何分持たせられる?」
「四十分は余裕だな……部下がアンタを誤射しなければ」にやりと笑った/余裕の表明。
「……厳重に伝えておいてくれ」インカムに向かって指示を出す男/こちらも笑う。
「そうだ、アンタの名前は?」髭面の男が聞く。
「―――マッドハッター」
一瞬だけ迷い、そう答えた。
『アレックス』―――ARMSを開放した自分がその名を答えるのは、誰かへの裏切りになるような気がしたから。
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眼下には、一面の砂漠が広がっている。
ぽつんと一つ箱型の施設があり、それに無数ガジェットドローンが取り付いていた。
東西と北は収容所さながらの強固な壁がそれを押し留めているが、南は正門から突破されている。
十や二十という数ではない。大型のものも複数確認できる。
それも見えているだけで、だ。施設内に進入した数は分からない。
加えて、空にも三角形の飛行機械、Ⅱ型が舞っている。それもまた無数。
「多いね……他にも未確認がいる可能性がある。空は私とヴィータ副隊長が抑えるから、二人は生存者の救出と誘導を最優先に。
西側にガジェットは殆どいないから、そちら側の防壁に孔を空けて外部への誘導を」
『了解!』
「ライトニングは分隊全員で地上のガジェットを掃討するよ。シグナム副隊長と私は大型、エリオとキャロは小型を各個撃破。
発掘員の避難先になる西側を優先的に。防衛ラインもそれに準拠」
『了解しました!』
桜、紅、蒼、橙、金、緋、黄、桃―――八つの輝きが砂漠を翔ける。
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スバルはウイングロードを展開して走る。足場が砂のみの環境でローラーブレードは使えない。
体重がラインに集中する為、地面にめり込んでしまうのだ。だが、魔力の足場であればそれは関係無い。
見据えるのは、隔壁に取り付いている中で一際目立つガジェットⅢ型。ただそれだけだ。周囲からの攻撃はその疾走を捉えられない。
併走するティアナは両手に構えた拳銃型デバイス『クロスミラージュ』を連射する。前方のⅠ型が次々と射抜かれ四散した。
左右、後方の敵はライトニング分隊が高速で駆逐。連結刃と大鎌が煌き、また一つⅢ型が細切れにされる。
スバルの疾走が、ティアナより二十メートル早く隔壁に到達。
「ロードカートリッジ!」
右手首のシリンダーが回転、カートリッジの圧縮魔力を解放する。
スピナーが風を纏って高速旋回し破壊力を蓄積、それに反応しⅢ型が振り向いた
射撃と鞭の複合攻撃―――だが遅い。スバルは魔力の足場を垂直に展開しその全てを潜り抜ける。
『Absorb Grip』
マッハキャリバーが自立稼働、そのマニューバを支える魔法を発動。魔力弾が髪を掠めるが、それだけだ。
拳を振り被り、打ち出す。
「はああああぁぁぁッッ!」
『ナックルダスター』発動。
上体と拳を強化する。それだけの単純な魔法だが、クロスレンジにおいては極めて効果的。
打撃が一時装甲版を貫徹した。更に一発ロード、スピナーが風に加えて火花を散らす。
「―――シュートッ!」
リボルバーシュート、密閉空間で開放された衝撃波が内部機構を滅茶苦茶に破壊する。
スバルの着地。追い付いたティアナの指示。
「スバル! ここの隔壁はかなり丈夫だから、アンタの全力でも倒壊はしない筈!
思いっきりぶん殴って穴開けなさい!」
「了解っ!」
カートリッジロード―――四連続。
足下に展開するベルカ式魔法陣。深い蒼の輝きがスバルを照らし上げた。
左腕を突き出し魔力塊を生成。捻るように構えられた右の拳に捲かれるように集束し、完全な球形となる。
「一撃、必倒……!」
ディバインスフィア形成完了。集束用の環状魔法陣を展開し、
『Divine』
拳を握り直す。鋼と革の軋む音を聞き、
「バスタァ―――!」
叩き込んだ。蒼い閃光が、その破壊力の全てを壁の一点に集束させ貫通する。
爆風が砂を舞い上げ視界を遮る。一瞬だけ、二人ともが眼を覆った。
眼を開ければ、直径二メートル、長さ三メートルのトンネルが生まれている。
「ティア、これで良い?」
「充分よスバル。あたしはここからフェイクシルエット使って避難誘導するから、あんたは進入したガジェットを倒しに行きなさい」
「オッケー!」
―――彼女らは、隔壁を破壊すれば警報が鳴るということを知らなかった。
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死は誰もに平等だ。あたし達が間に合って救える人がいるように、間に合わなくて死ぬ人もいる。
理想、努力、信念、力―――全てを持っていても、全てを救えるわけじゃない。
でも、そんなありふれた現実は、あたし達にとっては重過ぎた。
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最終更新:2007年08月14日 18:10